カンニングの濡れ衣を着せられた秀才が試召戦争で大暴れする   作:Kicks

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第8問

「やる気を出した雄二の統率力は凄いよね」

 

「いつもはただのバカなんだけどね」

 

 清涼祭初日の朝、Fクラスの教室はいつもの小汚い様相を一新して、中華風の喫茶店に姿を変えていた。

 

「大輝が鉄人を説得してくれたおかげで、テーブルを調達できて助かったよ」

 

「Fクラスの設備向上の為だからね、それより秀吉が凄いよ。

 調達できたのは古いテーブルしかなかったのに、綺麗なクロスをかけて立派なテーブルに見えるようにしたし」

 

 明久の発言に神野は照れくさそうに鼻を掻きながら、秀吉を尊敬な眼差しで見る。

 神野は清涼祭で使わないテーブルを調達し、秀吉が演劇部で使っているテーブルクロスをかけて、立派なテーブルに仕立て上げたのだ。

 

「室内の装飾も綺麗だし、大輝の秘策があるからこれなら売上に期待できるよね?」

 

「うん、売上は期待できると思うよ」

 

 学園祭のレベルとしては充分過ぎる程の完成度で、喫茶店目的だけでも客は沢山来てくれる可能性は高いだろう。

 

「……飲茶も完璧」

 

「おわっ」

 

 後ろからムッツリーニの声が聞こえたので、明久は思わず横に避けた。

 ムッツリーニは存在感を消すのが巧いので、たびたびこういうことは起こる。

 

「ムッツリーニもありがとうね。厨房以外にも、準備で色々と負担をかけてしまったし」

 

「……問題ない。俺も神野の提案には感謝している。」

 

「ムッツリーニ、厨房の方もオーケー?」

 

「……味見用」

 

 そう言ってムッツリーニが差し出したのは、木製のお盆である。お盆の上には陶器のティーセットと胡麻団子が載っていた。

 

「わぁ……。美味しそう……」

 

「土屋、これウチらが食べちゃっていいの?」

 

「……(コクリ)」

 

「では、遠慮なく頂こうかの」

 

 姫路、美波、秀吉の3人が手を伸ばし、作りたてで温かい胡麻団子を勢いよく頬張る。

 

「お、美味しいです!」

 

「本当!表面はカリカリで中はモチモチで食感も良いし!」

 

「甘すぎないところも良いのう」

 

 甘い物が好きな3人は大絶賛した。

 

「お茶も美味しいです。幸せ……」

 

「本当ね~……」

 

 姫路と美波の目がトロンと垂れて、トリップ状態になっていった。

 

「それじゃ、俺も貰おうかな」

 

「……(コクコク)」

 

 ムッツリーニが残った1つを神野に差し出す。

 爪楊枝が無いので、神野は手でつまんで軽く一口だけ頬張ってみた。

 

「ふむふむ。外はゴリゴリで中はネバネバ。甘すぎず、辛すぎる味わいがとっても—んゴバっ」

 

 神野の口からありえない音が出て、腹痛のあまりトイレに駆け込んだ。

 

「あ、それはさっき姫路が作ったものじゃな」

 

「……!!(グイグイ!)」

 

「む、ムッツリーニ!どうしてそんなに怯えた様子で胡麻団子を僕の口に押し込もうとするの!?無理だよ!食べられないよ!」

 

 ムッツリーニが団子の残り半分を明久の口に押し付けてくる。

 確かに橘の言う通り、一撃KOから腹痛で済んだのだから、姫路の料理は向上していた。

 しかし、それでもまだまだだった。

 

「うーっす。戻ってきたぞー」

 

 そんな所に雄二が戻ってきた。

 

「あ、雄二。おかえり」

 

「ん?なんだ、美味しそうじゃないか。どれどれ?」

 

 そして、躊躇いなく神野の食べかけのバイオ兵器を口に運ぶ。

 

「……たいした男じゃ」

 

「雄二。君は今、最高に輝いているよ」

 

「?お前らが何を言っているのか分からんが……。

 ふむふむ。外はゴリゴリで中はネバネバ。甘すぎず、辛すぎる味わいがとっても—んゴバっ」

 

 明久は神野と全く同じリアクションをした雄二を見て既視感を覚えた。

 

「あー、雄二。大丈夫?」

 

「あ、ああ。一体何だこれは?」

 

「…………姫路さん特製だよ。雄二が召喚大会での暗殺用に頼んでいたアレ」

 

 実は雄二は姫路に胡麻団子を作るように頼んでいたのだ。

 召喚大会のトーナメント次第では、雄二・明久ペアでは勝てない相手と戦うことになる。

 そうなった対策として、備えていたのだ。

 最もそんな作戦は何度も使ったらバレるので、一度きりしか使えない作戦だが。

 

「え?あれ?坂本君はどうかしたんですか?」

 

 美味しい方の胡麻団子で夢見心地になっていた姫路が雄二の様子に気付いたのだ。

 

「あ~、雄二は足が攣ってね」

 

「ああ、最近運動不足だからな」

 

 明久と雄二が即座に答える。

 毒殺用を作らされたと気付いたら、姫路が傷つくだろうという配慮だった。

 

「ところで、雄二はどこに行っておったのじゃ?」

 

 秀吉がそれとなく話題を逸らす。

 

「ああ、ちょっと話し合いにな」

 

 雄二は学園長室に行って召喚大会の科目の指定をしてきたのだ。

 フェアなことではないので、正直に話せずに歯切れの悪い返事をした。

 

「そうですか~。それはお疲れさまでした」

 

 人を全く疑わない姫路がその言葉を信じて笑みを送った。

 

「いやいや、気にするな。それより、喫茶店と神野提案のアレはいつでもいけるな?」

 

「バッチリじゃ」

 

「……お茶と飲茶も大丈夫」

 

「うん、アレの準備はできている」

 

 トイレから戻った神野は厨房班のムッツリーニに確認を取る。

 

(ムッツリーニ、姫路さん製の飲茶は混ざっていない?)

 

(……安心しろ、姫路製の飲茶は別の場所に保管してあるし、2人分しか用意していないから)

 

(そうか、それはよかった)

 

 ムッツリーニの返答を聞いて、神野は安堵した。

 喫茶店に食中毒は致命的になるからだ。

 

「じゃあ、少しの間、喫茶店は橘さんと雄二達に任せるよ。俺は姫路さんと召喚大会の1回戦を済ませてくる。

 終わったら、明久と雄二の役割は交代で引き受けるよ」

 

「「了解」」

 

「あれ?アキ達も召喚大会に出るの?」

 

 美波は確認するように明久達を見る。

 

「え?あ、うん。清涼祭で手に入れた利益で設備を変えたかったら、学園長に召喚大会で優勝しろと言われたからね」

 

 明久は少々曖昧に返す。

 学園長から『チケットの裏事情については誰にも話すな』と言われているので、下手なことは言えないからだ。

 

「そっか。……じゃあ誰と行くつもり?」

 

「ほぇ?」

 

「吉井君。私も知りたいです。誰と行こうと思っていたんですか?」

 

 美波と姫路の目がスッと細くなった。

 

「だ、誰と行くって言われても……」

 

 明久は困った顔をした。

 そもそも、チケットは学園長に渡すことになっているので、明久は全く決めていなかったのだ。

 

「明久は俺と行くつもりなんだ」

 

 明久が答えに詰まっていると、雄二がすかさずフォローを入れた。

 それを聞いて、美波は目を丸くする。

 

「え?坂本とペアチケットで幸せになりに行くの……?」

 

 明久は新事実に思わず驚いて、雄二を見る。

 

(明久、堪えるんだ。事情を知られたら、ババアに約束を反故にされるぞ)

 

 雄二が目で語りかけて、明久を大人しくさせる。

 

「神野君は、チケット手に入れたらどうするの?」

 

 橘は神野に聞く。誰を誘うか気になったのだ。

 

「ん?妹でも誘うかなと考えているけど」

 

「シスコンだね~」

 

「他に誘える相手がいないからね」

 

 神野の真面目な発言に橘がちょっと寂しそうな顔をした。

 誘ってくれることを少しだけ期待していたのだ。

 

「待つのじゃ、2人とも。チケットを使える条件は『血縁者を除く異性のカップル』じゃから、不可能じゃ」

 

「何でそんな条件が付くのか気になるな。

 とりあえず、優勝してチケットが手に入ったら考えるよ。行こう、姫路さん」

 

 チケットの事情を知らない神野は保留という事にして姫路に声をかけていると、姫路は明久を問い詰めていた。

 

「吉井君、男の子なんですからできれば女の子に興味を持った方がいいですよ……。

 あ、神野君。今から行きます!」

 

「アキ、やっぱり坂本とデキていたのね……」

 

「ちょっと待って美波!その『やっぱり』って言葉は凄く引っかかる!」

 

 神野と姫路が後にした中華喫茶は、まだ開店していないのに騒がしかった。

 

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