カンニングの濡れ衣を着せられた秀才が試召戦争で大暴れする   作:Kicks

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第13問

「落し物は持ち主に、っと」

 

 明久は空き教室に入り、姫路のラブレターを本人の鞄に入れておく。

 空き教室には、Fクラスの皆の鞄や中華喫茶に使う物などが置いてある。

 

「吉井君!」

 

「ふぇっ!?」

 

 背後からいきなり声をかけられて、明久は思わず間抜けな悲鳴をあげてしまった。

 

「な、なに?」

 

「吉井君……!」

 

 明久が慌てて振り向くと、姫路が目を潤んでいた。

 

「ど、どうかした?」

 

 明久は姫路の鞄を勝手にいじっている姿を本人に見られてしまったので慌てた。

 姫路は明久に正面から抱き着いてきた。

 

「ほわぁぁっっと!?」

 

「あ、ありがとう、ございます……!わ、私、ずっと、どうしていいか、わかんなくて……!」

 

 明久も姫路に抱き着かれてどうしていいか分からなくなった。

 自分を動揺させて召喚大会2回戦に集中させないようにする新たな作戦か疑い始めた。

 

「と、とにかく落ち着いて。泣かれると僕も困るよ」

 

「は、はい……」

 

 明久は自分の精神の安定を図るために姫路を引き離す。

 

「いきなりすいません……」

 

 姫路は涙目をこすっていた。。

 

「も、もう一度───」

 

「はい?」

 

「もう一度、メイド服を着たい!」

 

 明久がもう一度抱き着いてほしいと思ったことを言いそうになったので、慌てて台詞を変える。

 

「ホントですか!カメラを用意して写真を撮りたいので、着るのはもうちょっと待ってください!」

 

 姫路の台詞に思わず明久は凍り付いた。

 メイド服姿を撮影されて写真を広められたら、明久の社会的な地位は生ごみ同然になってしまう。

 

「冗談だから、冗談!皆の所へ行って中華喫茶を手伝おうか」

 

「あ、待ってください!」

 

 強引に話題を変えて逃げようとする明久を、姫路が袖を握って引き止める。

 

「な、なに?」

 

「あの……。手紙、ありがとうございました」

 

 姫路がうつむきがちに小さな声で言う。

 

「別に、ただ根本君の制服から姫路の手紙が出てきたから戻しただけだよ」

 

「それってウソ、ですよね?」

 

「いや、そんなことは……」

 

「やっぱり吉井君は優しいです。振り分け試験で途中退席した時だって『具合が悪くて退席するだけでFクラス行きになるのはおかしい』って、私の為にあんなに先生と言い合いをしてくれていたし……」 

 

「それに、召喚大会に参加したのって……私の為に参加してくれているですよね?」

 

「え!?あ、いや、設備が欲しいだけだよ!」

 

「ふふっ。適当なことを言ってもダメです。だって私、神野君から明久が姫路の為に頑張っているって教えてくれましたから」

 

「だ、大輝ぃぃいいいいっ!」

 

 余計な事をペラペラしゃべられた事実を知り、思わず明久は悲鳴と怨嗟交じりに神野の名前を叫ぶ。

 

「凄く嬉しかったです。吉井君は優しくて、小学生の時から変わってなくて……」

 

 妙な空気が空気が流れて、今までに経験したことのないむずがゆさを明久は感じた。

 

「そ、その手紙、うまくいくといいね!」

 

 このままだとおかしくなっちゃいそうなので、明久は話題を変えた。

 

「あ……。はいっ!頑張りますっ!」

 

 明久の言葉に姫路は満面の笑みで応える。

 明久はその笑顔を見て、姫路は本当に大輝のことが好きなことを改めて実感する。

 

「で、いつ告白するの?」

 

 明久は下世話な話を姫路に振ってみる。

 大事なラブレターを取り返したのだから、これくらいなら聞いても許されるだろうと明久は思ったのだ。

 

「え、ええと……清涼祭が終わったら……」

 

 姫路は真っ赤になりながらも答える。

 

「そっか。けど、それなら手紙より直接言った方がいいかもね」

 

「そ、そうですか?吉井君はその方が好きですか?」

 

「うん。少なくとも僕なら顔を合わせて言ってもらう方が嬉しいよ」

 

 手紙は根本のせいで嫌な記憶になっているだろうから、直接告白した方がいいだろうと明久は思ったのだ。

 

「本当ですか?今言ったこと、忘れないでくださいね?」

 

「え?あ、うん」

 

 明久の意見を聞いて、姫路はまるで金言を得たかのように嬉しそうだった。

 

「とにかく、頑張ってね」

 

「はいっ!ありがとうございます!」

 

 姫路は元気よく返事をして、頼まれた茶葉を持って軽やかな足取りで教室を出て行った。

 

 明久も中華喫茶のウェイターの一員として売り上げに貢献するために、姫路の後を追い、足を踏み出した。

 

 

 

 

「じゃあ、俺達は2回戦に向かう。大輝、会計は任せたぞ」

 

「りょーかい」

 

 召喚大会の2回戦に出場するために、雄二は明久を連れて特設ステージに向かう。

 

「で、2回戦の相手はどんな連中?」

 

 明久は特設ステージに向かいながら、隣を歩く雄二に聞く。

 

「対戦表を見た感じだと───まあ、順当だな」

 

 雄二の目線を追うと、その先には既に待ち構えている見覚えのない生徒の姿があった。

 

「へえ、意外だな」

 

「Bクラスの方が勝ち上がると思っていたんだが」

 

 そこには見かけない男の先輩が2人いた。

 明久が見覚えのないため、3年生だと判明した。

 

「まあ好都合だな、Fクラス相手なら貰ったも同然だ」

 

「ああ、さっさと片づけようぜ」

 

 Fクラス相手なので、先輩方は完全に明久達を舐めていた。

 

「では、試験召喚大会2回戦を始めてください」

 

「「「「試獣召喚(サモン)」」」」

 

 

『英語W

 Bクラス 高橋健  168点 &

 Bクラス 深水真  183点  』

 

 3年Bクラスの召喚獣は胴丸に刀と槍といった和風のオーソドックスな装備だった。

 しかし、明久と雄二の召喚獣は───

 

「あれ?お前らの召喚獣が召喚されないぞ?」

 

「ああ、すみません。後方に召喚しちゃいました」

 

 ───後方に召喚してしまったので、召喚獣を自分の前に行くように移動させた。相変わらずの改造制服と木刀&メリケンサックだった。

 

『英語W

 Fクラス 坂本雄二 153点 &

 Fクラス 吉井明久 92点   』

 

「本当に点数が上がったよな、明久。今までの点数だったら60点前後だったはずなのに」

 

「いやぁ。それ程でもあるよ」

 

 雄二に褒められて、明久は照れた顔をする。

 休日は神野に、直前には雄二に勉強を教えてくれたおかげで、数学程ではないが成績は伸びていた。

 

「雑談は結構なんだが……。どうしてお前達の召喚獣は真後ろに召喚したんだ?」

 

 3年生の高橋が驚いて指摘する。

 召喚獣の出現場所はある程度決めることができるのに、明久達の召喚獣は特設ステージ外の自分の真後ろに召喚させたことに違和感を覚えたのだ。

 

「まぁ気にすんなよセンパイ。俺達2年生は召喚に慣れていなくてな。間違えて後方に召喚しただけだよ」

 

 雄二がひらひらと手を振って答える。

 

「……まあいい、行くぞ深水」

 

「おう!」

 

「1回戦と同様に1対1で戦うぞ!作戦は前に話した通り、明久が先に1人倒して2対1に持ち込んで倒す!」

 

「了解、雄二!」 

 

 雄二は深水の前に立ち、明久は高橋の正面に立った。

 

「お前が俺を倒す……?やれるもんならやってみろ!」

 

 雄二の言葉を聞いて、苛立った高橋の召喚獣は刀を薙いだ。

 

「フッ!」

 

 明久の召喚獣は横に躱して、木刀を両手で叩きつける。

 

「ちっ!」

 

 高橋の召喚獣は木刀の攻撃を刀で受け止める。

 鍔競り合いにして力の差で押し込もうとしてきたので、明久の召喚獣はすぐ力を抜いて木刀を下ろしつつ、横にステップする。

 高橋の召喚獣は前に力を入れすぎていて、前に倒れそうになったので、木刀を右手に持って、左手でアッパーを大きく放った。

 

 明久のアッパーを受けて、思いっきり高橋の召喚獣が吹き飛んだ。

 

「なっ!」

 

 予想以上の明久のパンチの攻撃力で高橋の顔が引きつった。

 

「どうなっている!どうして点数の低い召喚獣があんなに攻撃力が高いんだ!?おかしいだろう!」

 

 雄二と戦っている深水が遠藤先生に問いかける。

 その頃の雄二の召喚獣は身軽であることを活かし、素早く動き回ることで、相手を牽制させていた。

 

「明久、理由を教えてやれ」

 

「あまり知られてないけど、僕は───左利きなんだ」

 

「いや、いくら何でも利き手どうこうのレベルじゃないだろう!?」

 

「明久!動揺している内に止めを刺せ!」

 

「わかったよ!雄二!」

 

 明久の召喚獣は止めを刺すために、高橋の召喚獣を追いかけて、左手で顔面に向けて拳を叩きこもうとした。

 高橋の召喚獣は刀を両手に持って顔面を守ろうとした。左手の拳の威力を警戒したのだろう。

 

「なんて、ウソですよ」

 

 明久の召喚獣は右手で木刀を振るい、腿を叩きこんだ。

 体勢を崩した敵の召喚獣の喉笛を木刀で刺し、そのまま床に叩きつけた。

 これで高橋の召喚獣は戦死した。

 

「明久、予定通り2対1で倒すぞ!」

 

「おうよ!」

 

 明久と雄二の召喚獣は深水の召喚獣を挟む位置を取って、同時に攻撃を仕掛けるために突進した。

 深水の召喚獣がどちらかを迎撃しても、攻撃が当たるようにそのような位置を取ったのだ。

 深水の召喚獣は明久の召喚獣に向けて、突きを放ったが、アッサリと躱され、雄二の召喚獣が右手の拳を敵の胸に深々と突き刺さった。

 これで決着が着いた。

 

「坂本君と吉井君の勝利です!」

 

 遠藤先生の勝ち名乗りを受けて、雄二と明久は拳を突き合わせた。

 

「反則だ!吉井は反則をしている!」

 

 高橋は、明久を指さして糾弾し始めた。

 

「おいおい。妙な言いがかりを止せよ。どんな反則をしているんだ?」

 

「拳の威力だ!木刀使うよりも素手の威力の方が高いなんておかしいだろう!」

 

 確かに、武器使うよりも素手の方が威力があるのはおかしい。

 高橋の言い分はもっともだ。

 

「確かに、武器よりも素手の方が威力があるのはおかしいな」

 

「だったら───」

 

「明久の召喚獣の左手をよく見ろ」

 

 高橋が目を凝らしてみると、明久の召喚獣の左手には雄二のメリケンサックが装備してあった。

 

 雄二の装備の左手のメリケンサックを明久の召喚獣が借りて戦って倒して2対1で倒すというのが雄二の作戦だ。

 

 点数の高い召喚獣の装備を他の点数の低い召喚獣が使えば、自分の装備よりも強い威力を出すことができるのだ。

 もっとも、本来の持ち主程の威力は出せないが。

 

 また、雄二の装備であるメリケンサックは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というのが一番の特徴である。

 事実、明久は初見では雄二の装備が何なのか分からなかったのだから、何も知らない対戦相手は気付かないのは仕方ない。

 そして、その気付かなかった相手に明久は不意打ちとしての一撃の拳を放ち、見事大ダメージを与えたのだ。

 

「……いつ、装備したんだ?」

 

「真後ろに召喚した時だな。ちなみに、明久のマッチアップする相手は武器のリーチが短い方って予め決めていた」

 

 雄二の作戦を聞いて、高橋は自分達の敗北を受け入れて項垂れた。




点数で持つ武器の威力が変わるというのはオリ設定です。

ただ、文学少女とバカテスのコラボ小説では、天野遠子の召喚獣の武器が科目で変わっていることから、概ね間違っていないと思います。

得意科目(保体): 身の丈を超えるランス
苦手科目(数学): 先割れスプーン
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