カンニングの濡れ衣を着せられた秀才が試召戦争で大暴れする 作:Kicks
「じゃあ、そろそろ準々決勝なんで姫路さんと行ってくるわ」
「大輝、姫路さん頑張って」
「ありがとうございます!吉井君!」
午後2時になってしまって準々決勝が近づいたので、神野と姫路は喫茶店を出て特設ステージを向かう。
「姫路さん、体調とか大丈夫?」
神野が姫路の体調を慮る。喫茶店で頑張っていたので、姫路のコンディションを把握しておきたかったのだ。
「大丈夫です!任せてください!」
姫路の顔を見ていると、かなり気合いが入っているようだ。
神野は姫路が疲れて本調子で無い事を心配していたが、杞憂に終わって安心した。
「それよりも、神野君は大丈夫ですか?準々決勝の科目は保健体育であまり神野君の得意科目ではないようですが……」
姫路の指摘通り、準々決勝の科目は保健体育で神野はそんなに高くない。
受験で必要無い為、平均で十分と思って真面目に勉強していないのだ。
本来の試召戦争だったら、保健体育を使われてもムッツリーニの独壇場になるため、全く問題にならないのだが、召喚大会ではそうもいかない。しかも、準々決勝で勝ち上がっている以上対戦相手は好成績を収めている可能性が高い。
「そうだね。今回は姫路さんのフォローに徹するよ。相手の動き方次第だけど」
神野は淡々と事前に考えた作戦を姫路に話しながら、特設ステージに向かった。
☆
『さて皆さま。お待たせ致しました!これより試験召喚システムによる召喚大会の準々決勝を行います!解説は私文月学園のOBでもある小暮春秋と文月学園教師である福原慎先生が行います』
『よろしくお願いします』
聞こえてくるアナウンスは元担任である福原先生だけでなく神野達が聞いたことのない方だった。
準々決勝以降に一般公開を行うため、一般公開に合わせてプロを雇った方が宣伝として効果があるだろうという学園側の考えである。
『出場選手の入場です!』
「さ、入場してください」
係員の先生が声をかけたので、神野と姫路はステージに入っていった。
『2年Fクラス所属・神野大輝君と、同じくFクラス所属・姫路瑞希さんです!皆様拍手でお迎え下さい!』
パチパチパチと斑な拍手の音がした。
見学している人を把握するために神野が見渡すと座席には5割くらいの客が埋まっていた。
「姫路さんの両親ってこの準々決勝を観に来てる?」
神野は姫路に両親が観に来ているか確認した。どんな作戦を使うかどうか考えているのだ。
「え?はい、一般公開している準々決勝から観に来るって言ってましたけど……」
「そうか……。じゃあ囮作戦は行わないでおこう」
「そうですね、あんまり褒められる方法じゃないですし……」
神野は状況次第では自分の召喚獣を囮にしてもろとも葬る作戦も考えていたが、断念した。
ここでダーティな作戦を立てて勝ったとしても、姫路の両親が観ていたら転校を決断してしまう可能性があるからだ。優勝しても姫路が転校してしまったら、意味がない。
『そして対する選手は、2年Aクラス所属・栗本雷太君と、同じくAクラス所属・横田奈々さんです!皆様、こちらも拍手でお迎え下さい!』
コールを受けて姿を現したのは、2年Aクラスの生徒だった。言うまでもなく強敵である。
『2年Aクラスもまた負けじと準々決勝戦に食い込んできました。さてさて最上位クラスの意地を見せることができるのでしょうか!今回の召喚大会のルールは座席の近くにルールブックが無料で配布されてますので、それで確認してください!』
ルールがよくわからない人たちに配慮して、客の座席の近くには簡単なルールブックが置いてある。
召喚大会がスムーズに進めるようにするためという配慮も兼ねている。
『それでは試合に入りましょう!選手の皆さん、どうぞ!』
アナウンサーの宣言を聞いた審判役の先生が神野達と対戦相手の間に立つ。
「「「「
掛け声をあげ、それぞれが分身を喚び出した。
向こうの召喚獣の武器は西洋の両手剣とトンファーだった。
Aクラスの召喚獣らしく、質がよさそうである。
『保健体育
Aクラス 栗本雷太 286点 &
Aクラス 横田奈々 254点』
点数はAクラスに所属しているだけのことはある。点数はかなりのもので、召喚獣はかなりの強さであるだろう。
『保健体育
Fクラス 姫路瑞希 343点 &
Fクラス 神野大輝 148点』
一方で神野と姫路の点数が表示された。
「姫路を2人がかりで倒すわよ!栗本君!」
「おう!」
対戦相手の2人は、神野の召喚獣を無視して姫路の召喚獣に向けて並行して突撃させる。
姫路の召喚獣を速攻で戦死、無理ならば消耗させることで戦況を有利にさせる狙いだ。
「行きますっ!」
姫路の召喚獣が大剣を一文字に振るう。
栗本の召喚獣が武器で防御したが、大きくのけぞって横田の召喚獣にぶつかった。
「うっ……」
ぶつかった横田の召喚獣の体勢が崩れたので、神野の召喚獣がその隙を突いて刀を振るい横田の召喚獣の左肩に一撃を加えた。
「おりゃあっ!」
「……くっ」
神野が横田の召喚獣に注意を向けている隙に、栗本の召喚獣が神野の召喚獣に突きを放ち、ダメージを入れる。
慌てて神野の召喚獣は回避したが、完全に避けきれずに脇腹をかすめた。
『保健体育
Aクラス 横田奈々 163点 VS
Fクラス 神野大輝 121点』
先程の攻防の結果が表示された。神野の召喚獣は一撃を加えた為、横田の召喚獣が消耗されているのに対し、栗本の召喚獣はかすめた程度であった為、ほとんど神野の点数は消耗されてなかった。
『なんと!合計の点数では上なのに、AクラスがFクラスに押されている!どういうことだ!』
『Aクラスコンビは片方が姫路さんの攻撃を受け止めて、もう片方が姫路に大ダメージを与える作戦でしたが、姫路さんの攻撃力が予想以上に高くて抑えきれませんでしたね。作戦自体は良かったですが、並行して突撃させることが失敗でしたね』
福原先生の指摘通り、並行して突撃するのではなく、違う方向・タイミングで攻めれば、防御で体勢が崩れても邪魔すること無く姫路の召喚獣に攻撃できた可能性は充分あった。
「距離を置いて1対1同士にするわ!」
「わかった!」
Aクラスの横田と栗本は、お互いの距離を取るために、後ろ向きで走るよう召喚獣に指示した。
1対1にすることで、個人戦に持ち込もうとする作戦だ。
「……好都合だ」
しかし、神野は横田の召喚獣を無視して、栗本の召喚獣に背後を回らせて、姫路と同時に攻撃をしかける。
「うわっ!」
栗本は大慌てで召喚獣に横跳びで回避させたが、左肩に一撃を入れられた。
『保健体育
Aクラス 栗本雷太 225点』
『おっと!Fクラスコンビは片方を無視して集中攻撃をして、またもやヒット!』
『Fクラスはあくまで連携して倒すという作戦ですね。』
「くっ!嫌らしいことするわね」
「自分の得意分野で攻めるのは戦いの常道だぞ」
きっと睨み付ける横田の視線を、神野は受け流して答える。
「横田さん!なら背中は預ける!」
「わかったわ!」
前後からの攻撃を防ぐために、お互いの背中を預ける位置を取らせた。
これで前後からの同時攻撃を防ぐことができる。
即興の作戦にしては、上出来な作戦である。
「姫路さん、挟み込むよ!」
「わかりました!」
神野と姫路は召喚獣にAクラスコンビを挟みこむように動かした。
「前後に挟む作戦を取っても、無駄よ!」
「それはどうかな?姫路さん突撃!」
「わかりました!」
姫路さんの召喚獣に突撃させ、その一拍後に神野は突撃させた。
栗本は姫路からの攻撃を躱そうと指示を送ろうとするが、あることに気付いた。
(避けたら、横田さんに当たる……!)
栗本の召喚獣は回避できない。
回避してしまったら最後、姫路の一撃は横田の召喚獣に直撃して戦死してしまうからだ。
「くそっ!」
栗本は仕方なく防御させたが、姫路の強力な一撃で踏ん張りが利かずに栗本の召喚獣が吹き飛ぶ。
防御したから戦死は免れているが、吹き飛んだ先には相方に当たって横田の召喚獣は前のめりに倒れる。
「せやっ!」
その隙を神野は見逃すはずなく、横田の召喚獣に止めを刺した。
「………………俺の負けだ」
2対1──しかもほとんど点数も消費されていない状況で、勝ち目が無いと悟った栗本は降参した。
『勝者、神野・姫路ペア!』
パチパチパチと試合前よりも大きな拍手が2組のコンビに送られた。
『神野・姫路ペアが終始栗本・横田ペアを翻弄していましたね。福原さん、点数差がそこまで無いのに、圧倒的に勝てた要因は何だったと思いますか?』
『集団戦の経験の差と作戦勝ちですね』
『というと?』
『2年FクラスはDクラスとBクラスと戦ったのに対し、Aクラスは一騎打ち位でちゃんとした試召戦争を経験していないですよ』
姫路と神野はDクラス・Bクラスとの試召戦争終了後、補充試験前に操作技術を上げるために召喚獣で組手をしていたのだ。
召喚大会では3回戦までの相手は上位クラスで鎬を削って勝利している。
これらの経験で2人の操作技術は2年生の中でも上位といってもいいだろう。
『なるほど、では作戦勝ちとはどういうことですか?』
『事前に作戦を考えていたのでしょうね。姫路さんが一撃を入れて相手を崩して、神野君が追撃を加えて消耗させる。その作戦を徹底させたことが今回の勝因になったかと思います』
『実力が近ければ作戦等で決まるということですね……!点数だけが全てじゃないという事がわかる勝負でした!これで準々決勝の第1試合は終わります!第2試合は10分後に始まるので皆さん少々お待ちください!』
「じゃあ、戻って明久達を呼ぼう」
「そうですね、戻りましょう!」
アナウンスで自分の試合が終わったので、神野は姫路を連れて戻ることにした。
名勝負だったので、きっと姫路の親もFクラスを見直すだろう。