カンニングの濡れ衣を着せられた秀才が試召戦争で大暴れする   作:Kicks

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第18問

「勝ったよ、明久」

 

「うん、準決勝進出おめでとう」

 

「ま、お前らなら負けるとは思っていなかったんだがな」

 

 神野は明久達に向けてVサインをしている。

 Aクラスに勝って誇りたいのだろう。

 

「次は、明久と雄二の番だよ。……次の準々決勝大丈夫?キツイ戦いになるだろうけど」

 

「わかってる。この試合は特に負けられないからな」

 

 雄二の目の色が今までで見たことが無いくらい真剣だった。

 なぜなら、次の対戦相手は2年生の学年主席の霧島と同クラスの木下優子だ。

 この2人には弱点科目が無いので、勝つのは至難の業だろう。

 

「大丈夫だよ。雄二に作戦があるみたいだし」

 

「まぁな。あんな化け物コンビとまともに勝負する程バカじゃない。上手くやってみせるさ」

 

「そうか、それならいいんだが……」

 

「お兄ちゃんファイトですっ」

 

「あいよっ」

 

 クラスメイトの声援を背に受け、明久と雄二は会場に向かって歩き出した。

 

「で、雄二。作戦ってどんなの?」

 

 歩きながら、隣の雄二に尋ねる。明久も雄二の作戦を知らないので、どんな行動を取ったらいいのか分からないのだ。

 

「今回は俺達だけじゃなくて、秀吉とムッツリーニにも協力してもらう。明久はそれに合わせるだけでいい」

 

「秀吉とムッツリーニ?」

 

「ああ。あの2人には弱点は無いが、付け入る隙はある」

 

「付け入る隙?霧島さんを誑かすの?」

 

「違う。狙いは秀吉の姉、木下優子だ。ヤツを利用して一気に形勢を傾ける」

 

「秀吉のお姉さん?そんなことをしなくても、雄二が霧島さんを説得すればいいと思うんだけどな~」

 

「うるさい黙れ」

 

 雄二は不機嫌そうに会話を打ち切る。

 雄二の性格上、たとえAクラスに負けてなし崩しに付き合うことになったとしても、本気で嫌なら嫌ときっぱり答えるだろう。

 雄二がそんなことをしないことから、明久は手応えありと確信した。

 

「明久、そのニヤついた目つきが非常に不愉快なんだが」

 

「え、何のこと?」

 

 雄二が明久を思いっきり睨み付ける。

 姫路の想いに全く気付いていない明久にそんな目で見られるのは不愉快なんだろう。

 

「とにかく気合を入れろ。この戦いに負ければ、お前は大好きな姫路を失うし、俺は今後の人生を失う。命が懸かっていると思え!」

 

 特設ステージが近づいているのもあり、否が応にも雄二のテンションが上がっている。

 

「その『大好きな』ってのはやめて欲しいけど、了解!絶対に負けるものか!」

 

「吉井君と坂本君。意気込むことはいいことですが、入場してください」

 

 係員の先生は明久達の姿に苦笑いしながら、手招きをして送り出す。

 

『お待たせいたしました!これより準決勝を開始したいと思います!選手の皆さん、出場してください!』

 

 明久達がステージに出場すると、アナウンスは神野の時と同じくプロを雇っていたようだ。

 

『2年Fクラス所属・坂本雄二君と、同じくFクラス所属・吉井明久君です!皆様拍手でお迎え下さい!』

 

 拍手が斑のように降る中、明久達は客達の前に立つ。明久達の向かいからは対戦相手の霧島と木下優子がやって来た。

 

『そして対する選手は、2年Aクラス所属・霧島翔子さんと、同じくAクラス所属・木下優子さんです!皆様、こちらも拍手でお迎え下さい!』

 

「……雄二。邪魔しないで」

 

「そうはいくか。俺はもっと気楽に人生を謳歌したいんだ!」

 

 雄二は、如月ハイランドに行けば結婚、行かなくても結婚という事態を避けるために、必死である。

 

「……雄二、そんなに私と行くのが嫌?」

 

 翔子は雄二を絆すために、上目遣いをする。

 クールな女の子がやると威力は絶大である。

 

「ああ。嫌だ」

 

「……やっぱり、一緒に暮らして分かり合う必要がある」

 

 しかし、霧島は雄二の拒絶にもめげない。

 

「ハッ!残念だったな!そんな寝言は俺達に勝ってから言うことだ!」

 

「……わかった。そうする」

 

 雄二と霧島の言い争いが終わり、準決勝が始まる。

 

「雄二、作戦はどう?」

 

「任せておけ!抜かりはない。───頼むぞ秀吉っ!」

 

 雄二は、目の前の対戦相手に呼びかける。秀吉と木下優子の姿が瓜二つということを利用した入れ替わり作戦である。

 

「秀吉?秀吉って、あのバカのこと?」

 

 木下優子がステージ枠の一角を指す。そこには、

 

「ひ、秀吉!?どうしてそんな姿に!」

 

 ボロボロにされた挙句手足を縛られた秀吉の姿だった。

 

「バ、バカな!」

 

 雄二が目を大きく開いて叫ぶ。雄二の作戦は失敗した。

 

「……雄二の考えていることくらい、私にはお見通し」

 

 霧島は雄二を見て笑みを浮かべた。試召戦争では幼馴染という立場が有利に働いたけど、今回は仇になった。

 

「ま、匿名の情報提供もあったんだけどね」

 

 木下優子が肩をすくめて言った。

 どうやって、味方でも知らなかった作戦を知ったのか明久は不思議に思った。

 

「く……すまぬ、雄二。ドジを踏んだ……」

 

 縛られていた秀吉が起き上がり、申し訳なさそうに唇を噛む。

 

「………………!!(バシャバシャバシャバシャ!)」

 

「ムッツリーニ!いつの間に!?」

 

 カメラを構えたムッツリーニが一瞬で秀吉の傍に出現していた。

 

「縄をほどいたら、その写真を売って!」

 

「明久、欲望が出ているぞ」

 

「……了解」

 

 ムッツリーニは小さく頷くと、素早く秀吉に駆け寄って縄を解いていた。

 

「大人しくギブアップしてくれると嬉しいな。弱いものいじめは好きじゃないし」

 

「くぅっ……!」

 

 木下優子の降伏勧告に雄二が顔を歪める。

 雄二の作戦は失敗したので、正面から戦うしかなくなってしまう。そんなことをしたら、明久達の負けは確実だ。

 

(雄二。僕に考えがあるから、指示通りの台詞を言って欲しい)

 

(考え?一体何を───)

 

(今は迷っている余裕なんて無いよ。とにかくよろしく!)

 

(お、おう)

 

 明久は自分の指示だとバレないように雄二の陰にそれとなく身を隠す。

 そして。念の為ジェスチャーで秀吉にこっちに来るように指示を出す。

 

(それじゃ行くよ。僕の言ったことをそのまま言うんだ。棒読みにならないようにね?)

 

(わかった。今回はお前に任せよう)

 

 雄二が明久の指示に小さく頷く。

 

<翔子、俺の話を聞いてくれ>

 

「翔子、俺の話を聞いてくれ」

 

 雄二が明久の台詞をそのまま告げる。

 

<お前の気持ちは嬉しいが、俺には俺の考えがあるんだ>

 

「お前の気持ちは嬉しいが、俺には俺の考えがあるんだ」

 

「……雄二の考え?」

 

<俺は自分の力でペアチケットを手に入れたい。胸を張ってお前と幸せになりたいんだ!>

 

「俺は自分の力でペアチケットを手に入れたい。胸を張ってお前と幸せになりたい───って、ちょっと待て!」

 

 明久が自分を翔子に売って勝つことに気付き、雄二は慌てて明久の方向を向こうとする。

 しかし、明久は後ろから強引に雄二の頭を押さえつけてやる。

 

「……雄二」

 

 霧島はうっとりとした表情で雄二を見ている。

 

『おおっと、坂本君が恋人の霧島さんに猛アタックしたぞ!そういえば、坂本さんと霧島さんは交際していました!この大会で恋人の関係を進展させる気か!』

 

 しかも、アナウンサーも雄二の発言を盛り上げようとしている。

 このアナウンサー、乗り乗りである。

 

<だからここは譲ってくれ。そして、優勝したら結婚しよう>

 

「だっ、誰がそんなことを言うかボケェッ!」

 

 雄二が激しく抵抗してきた。

 しかし、明久は雄二の抵抗はお見通しだった。

 

「くたばれ」

 

「くぺっ!?」

 

 明久は後ろから頸動脈を押さえた。結果、雄二が大人しくなった。

 

「……雄二?」

 

 霧島は雄二の続きの言葉を待っている。

 急に雄二の言葉が途絶えたので、不思議に思ったのだろう。

 

(秀吉、よろしく)

 

(うむ。了解じゃ)

 

 雄二は頸動脈を押さえられて会話できない状態なので、明久は近くに呼んでおいた秀吉に声真似を頼む。

 

「だからここは譲ってくれ。そして、優勝したら結婚しよう。愛している、翔子」

 

 秀吉が雄二と区別のつかない物まねで最後のセリフが紡がれる。秀吉もこういったセリフが好きだったようでオリジナルな台詞を追加していた。

 

「……雄二。私も愛してる……」

 

「ま、待て……。俺は、愛してなど……こぺっ!?」

 

 素直になれない雄二のために、反論できないよう明久は首を捻ってあげた。

 

『坂本君がプロポーズをして、霧島さんが受け入れたぞ!!これで坂本君達が優勝して結ばれたら、文月学園の伝説になるでしょう!!もしそうなったら、皆様ぜひ祝福してあげてくださいね!』

 

 アナウンサーがさらに盛り上げる。この状況で雄二が撤回したら、霧島だけでなくアナウンサーや文月学園の面子を潰すことになる。もはや訂正するのは不可能だ。

 

「ふははははは!これで最強の敵は封じ込めた!残るは君だけだ、木下優子さん!」

 

「ひ、卑怯な……!」

 

 霧島は雄二の亡骸に抱き着いて、胸元に顔を埋めて居る。……ただ、雄二の手足が力なく垂れ下がっていた。

 

「でも、アタシ1人でも吉井君には負けないはずっ!行くよ───試獣召喚(サモン)っ!」

 

「ふふっ。それはどうかな?この勝負の科目が保健体育だったことを恨むんだね!」

 

 明久は雄二が元々考えていた秘策を使うために、ムッツリーニに目配せをする。

 

「いくよっ!新巻鮭(サーモン)

 

「…………試獣召喚(サモン)

 

 喚び声に応え、召喚獣が出現した。ただし、それは明久の召喚獣ではなく───

 

「え!?それ、土屋君の……!」

 

 ムッツリーニの召喚獣だ。これが雄二の秘策『代理召喚(バレない反則は高等技術)』だ!

 

「…………加速」

 

「ほ、本当に卑怯───きゃあっ!」

 

 反則がバレないように速攻で腕輪を発動させて木下の召喚獣を戦死させる。保健体育であればムッツリーニに勝てる召喚獣はいない。

 

『保険体育

 Aクラス 木下優子 321点 &

 Aクラス 霧島翔子 UNKNOWN』

 

『保健体育

 Fクラス 土屋康太 511点 &

 Fクラス 坂本雄二 UNKNOWN』

 

「先生、反則です!」

 

「あ、わ、」

 

 木下からの反則を訴えられ、明久が慌てふためる。

 

「霧島よ、明久達の勝ちで良いかの?」

 

「……それは」

 

「翔子、譲ってくれ(※秀吉)」

 

「……私たちの負け」

 

「代表!!」

 

 秀吉のフォローもあり、霧島が自分の敗北を認めた。

 

『……勝者、坂本・吉井ペアの勝利です!』

 

 勝ち名乗りを受けたけど、神野・姫路ペアと違って拍手はほとんどなかった。

 召喚獣勝負を見に来たのに、ほとんど召喚獣が出てきていないからだ。

 姫路の親が来ていないのが唯一の救いである。

 

「それじゃ、僕らはこれで!」

 

 明久は一礼して、教室へと引き返すことにした。

 

「明久。なかなかの機転であったな」

 

「秀吉もナイスフォローだよ」

 

 秀吉が明久の隣を歩いて話しかけてくる。

 

「…………作戦勝ち」

 

「ありがとう。ムッツリーニの協力があってこそだよ」

 

 これで、明久達の準決勝進出が決定した。後1勝して優勝・準優勝を2年Fクラスで独占すれば目的が達成される。

 

「とこれで、雄二をあのままにしておいて良いのかのぅ?」

 

「え?別にいいんじゃない?」

 

「そうか。明久がそういうのであればいいのじゃが」

 

「あはは、雄二もたまには素直になるべきかと───」

 

「霧島が雄二に一服盛って持ち帰ろうとしてあったので心配になっての」

 

「き、霧島さん!清涼祭が終わるまでは薬は許して!」

 

 引き返した明久が見たのは、虚ろな目をしてタキシードに着替えている雄二の姿だった。




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