リコリス・リコイル Brilliant Memories 作:ヤニカス
「今日の
8月13日。
時計の針は15時30分を指している。
まだ夏の暑さも残る中、お昼のピーク時間を過ぎた喫茶リコリコでは、ゆったりとした時間が流れていた。
「千束が変なのはいつもじゃないのー?」
カウンターの奥の席に座るミズキが気だるげに言った。
「いえ、確かに変なのはいつものことなのですが。
今日は一段と……落ち込んでいたような」
「んまっ、花も恥じらう乙女じゃあるまいし!」
このトシマーーーーーーーー
この酔っぱらいは元DAの情報部員のはずなのだが、今となってはその面影はなく結婚を焦る残念美人へと成り果てていた。
「何か言いたげね」と言った顔でたきなを睨みつけると、ミズキはまたグラスを傾けた。
「クルミはどう思いましたか」
座敷でパフェを頬張る小動物のような少女に目をやる。
黄金色の髪に色白の肌。
瞳はブルーで欧州系の血が混じっているのか、日本人離れした整った容姿をしている。
「んー、そうだなあ。特に変わった感じはなかったと思うけど」
そう言って、また一口。
パフェにはバニラアイスや生クリームの他に、チョコチップや砕いたナッツが入っているらしく、食べるたびにカリッという音が聞こえてくる。
「思い違いじゃねーの? そりゃ千束だって人間だし、そんな日だってあるだろ」
「……そうですかね」
「あー、そういえば今日ってお盆じゃなかったけ」
ふとミズキが思い出したように大声で言った。
お盆。
その意味するところは死者の魂があの世から帰ってくる日のことであり、死者を想う日でもある。
それと同時に、一般的に墓参りをする日でもあったりするのだ。
「あの子、この時期なるとどうも暗くなるのよねー。忘れてたわ」
そんなことを言いつつ、ミズキは納得したようで婚活雑誌を手に取る。
「あれ、でも私達って孤児ですよね。偲ぶ相手なんて……」
「いないですよね」と言う前にミズキがため息と共に言葉を吐き出す。
「たきなは居なかったの? 殉職した仲間とか友達とか」
その質問に思わず声が詰まる。
まるで喉の奥に大きな石が詰まったかのように息苦しくなった。
思い返せばたきなはリコリスになってから、一度も故人を偲んだことがなかったのだ。
「ごめん、ごめん。ちょっと言い過ぎた」
「いえ、こちらこそすみません」
リコリスは死を恐れない。
己の命なんてDAという殺戮装置のちっぽけな歯車の一つであり、無くなれば補充するだけ。
故人を思う暇もなく、摩耗し、朽ち果てるだけの存在なのだから。
「私、そういうの嫌でDA辞めたんだった。呑まなきゃやってらんねー」
ミズキはそう言うと、一気にお酒を飲み干した。
「そういえばミカと千束、遅いな」
クルミの言葉通り、ミカと千束は買い物に行くと言って出て行ったきり戻ってこないのだが。
ーーーーカランコロン。
「千束が帰って来ましたー!!」
勢いよく扉を開ける音とともに千束の弾けるような声が店中に響いた。
何事かと思って店の入口を見ると、そこには両手いっぱいの荷物を持ったミカと千束が立っていた。
「すまない、遅くなってしまった」
降ろした荷物の中には蝋燭や線香などが入っていた。
「えっと、それって……」
「ああ、お墓参りだよ。今日はお盆だからね」
ミカは当たり前のようにそう言った。
「千束。なんですかその荷物」
「えへへー。これはですねー、私の大好きなお菓子たちですよ!」
そう言ってとびっきりの笑顔で紙袋を掲げて見せた。
「お供え物にですか?」
たきなが訝しげに尋ねる。だとしてもこの量は異常である。
「そうだよお供え物!」
千束は当たり前のように答えた。
まるで、お供え物が何か知らないの? とでも言う風に。
「たきなも早く準備しよー!」
まだ状況を把握してないたきなにそう言うと、手を取りカウターの奥へ。リコリコの和服からリコリスの制服へに着替えるためだ。
「あの、千束?」
「んー? どったのー?」
千束はいつも通りの笑顔で言う。
「いや、なんでもないです」
たきなは言いようのない不安に襲われていた。
まるで千束がどこか遠くに行ってしまうような気がして。
その不安を振り切るように手早く着替えると、たきなは千束の後を追った。
ーーーーーー
ミカの運転する車の中。
たきなは窓の外を流れる壊れた旧電波塔と延空木を眺めていた。
「意外だったか?」
不意にミカが口を開いた。
「何がですか?」
「墓参りだ」
たきなは素直に頷く。
お祈りや供養をする意味なら知識として知っているし、お盆の時期にそういった風習があるのも知っていた。
ただ、これまで自身で体験したことはなかったのだ。
「お墓参りって、楽しいものなんですか」
楽しそうにお菓子を頬張る千束をみてたきなは疑問に思う。
その質問にミカは困ったように笑った。
「どうだろうな」
たきなはそれ以上何も聞かなかったし、ミカも答えようとはしなかった。
「ねえ、たきなー。横浜までまだ時間かかるし、少しだけ昔話しよっか」
千束はそう言うと、お菓子を食べる手をとめて横に座るたきなの方へ向き直った。
「昔話ですか?」
「そう、私がまだDAに入ったばかりの時の話」
そう言って千束は少し遠くを見るように目を細めた。
それは懐かしむようでいて、どこか寂しげな表情だった。
「あれはね、今から10年くらい前のことかなーーー」
お初になります。
リコリス・リコイルの二期楽しみですね!
出来ればリコリス・リコイルが大好きな皆様が不足しているであろうリコリス成分を少しでも補充出来れば幸いと思います。
すでに全話書き終えているので1日1話を投稿する予定です。
解釈違いやキャラ崩壊があると思いますが、どうか優しい目で見てほしいです。よろしくお願い致します。