リコリス・リコイル Brilliant Memories   作:ヤニカス

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11話

数ヶ月後、凪は電波塔を見上げていた。この日も、相変わらずの晴天だった。

 

「おーい、こっちだ」

 

声がした方に顔を向けると、そこには手を振る男が一人。

凪のいる場所から少し離れた所にあるベンチに腰掛けている男。

 

「待たせたか?」

 

「待たせすぎだ」

 

「そうか。なら良かった」

 

男はベンチから立ち上がり、こちらへと歩いてくる。

その足取りはとても軽く、とても上機嫌なように見えた。

 

「お前が真島か」

 

短めの髪に鋭い目つき。

長身で、鍛え上げられた身体をしている。どこかで見た覚えが有るような気がしたが、気のせいだろう。

 

「ああ、俺が真島だ」

 

真島は凪を上から下まで眺める。そして納得したようにうなずいた。

 

「あんたが噂のリコリスか。なるほどね……確かに普通じゃなさそうだ」

 

「そんなことより、早く本題に入って」

 

「まあ待てって。折角だからちょっとくらい話させろよ」

 

肩に手を乗せられ、強引に座らされる。真島は満足げに笑って隣に腰掛けた。

 

「この電波塔、気に食わねえよな。バランスが悪い」

 

いきなり何を言っているのかと思ったが、真島の視線を追ってみると、彼の言うことも分かるような気がしてきた。

 

この電波塔は、この国の造られた偽りの平和の象徴であり、同時に最大の障害でもある。

 

この国の人間にとって、それはあまりにも大きすぎた。

 

「俺はここをぶっ壊してやりたいんだよ。クソったれな神話を殺すためにな」

 

「……」

 

「おいおい、黙り込むなって。まだ話は終わってないぞ」

 

凪は無言のまま、先を促す。

 

「俺はここに来てからずっと考えてきた。どうやったらこの国に蔓延る害虫どもを駆除できるかをな」

 

「……それで?」

 

「まず手始めにこの電波塔を占領する。そして世界に真実を知らしめる。『神』なんてものは存在しなくて、『英雄』なんてものも存在しないということを」

 

そこまで言って、真島は言葉を止める。

 

何かを言い淀んでいるようだった。

しばしの間を置いて、彼はようやく口を開いた。

 

「もちろん、協力してくれるよな。

あいつらと戦うっていうんなら利害も一致するはずだぜ」

 

真島の言葉には妙に説得力があった。嘘ではないだろう。きっとこいつは本気でやるつもりなんだと直感的に思った。

 

「ああーーーーーー勿論だ」

 

千束を救う。そのためならなんでもやってやると覚悟を決めたのだ。断る理由がない。

 

「よし決まりだ。よろしくな」

 

真島は言いながらこちらを見つめてくる。おそらく答えは既に分かっているのだろう。わざわざ訊くまでもないという顔をしている。それでもあえて尋ねてきているんだと思う。

 

「……私は何をしたらいい?」

 

すると真島はニヤリとした笑みを浮かべた。

 

ーーーーーー

 

「楠木指令! ラジアータがレベル5の異常を検知!! これは……電波塔がテロリストに占拠されたと思われます!」

 

DA基地司令部は混乱に包まれていた。

 

「そんな馬鹿な……」

 

楠木は歯嚙みする。

いくらなんでも早すぎる。

まるで突然、電波塔内に現れたかのような。

 

本来なら占領される前にラジアータが不穏分子を検知するはずなのだ。

 

それなのに、なぜ……

 

「電波塔の状況は?」

 

楠木は努めて冷静に問う。

ここで取り乱すわけにはいかないからだ。

 

「不明です。妨害されているようで、詳細を観測できません」

 

「ではリコリスを派遣しろ。敵テロリストを制圧するんだ」

 

「了解しました!」

 

通信が切れると同時に、楠木はデスクに拳を打ち付ける。

 

「くそ……何が起きているんだ……」

 

電波塔への突入作戦の決行を目前に控えた千束たちリコリスは、準備に追われて慌ただしく動いていた。

 

「おい千束、本当に大丈夫なのか?」

 

そう問い質したのは、春川 フキ。彼女は不安げな表情を浮かべていた。

 

無理もない。つい数ヶ月前まで、千束は病院で死にかけていたはずなのに。

 

そんな人間が急に現れて作戦に参加するなんて言い出したら誰だって困惑するだろう。

 

「大丈夫だよー。今の千束は無敵だから」

 

だが当の本人はどこ吹く風といった様子で答える。

まるでいつもの調子と変わらない彼女の姿を見て、フキは大きく嘆息した。

 

「ったく……お前はいつもそうだよな」

 

呆れたような口調とは裏腹に、その声音にはどこか優しさを感じさせるものがある。

 

「だから心配すんなよ、相棒」

 

そう言って千束はニッと笑った。

 

「ふん、よく言うぜ」

 

フキはそう言って踵を返す。

そしてそのまま振り返らずに言って去っていく。

 

千束は小さく息を吐いて呟いた。

 

「先生。私、頑張るから」

 

先生から貰った不殺の銃を手に取り、ぎゅっと握りしめる。

 

大丈夫、きっとやれるはずだ。

 

千束は覚悟を決めて歩き出した。

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