リコリス・リコイル Brilliant Memories   作:ヤニカス

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12話

「ありがとうございます。ウォール・ナット。お陰でラジアータに気づかれず電波塔を占拠する事ができました」

 

「どういたしまして。こんな年寄りが出来ることならいくらでも協力するよ」

 

電波塔を占拠するにあたって、まず声を掛けたのはウォール・ナットだった。

 

ラジアータが都内のインフラや通信網を管理する権限を持っていることは事前に調べがついている。

 

ゆえに彼、ウォール・ナットがラジアータにハッキングし真島が率いるテロリスト達を一時的に透明人間化させれば、簡単に武器や物資を電波塔へ搬入する事ができた。

 

ウォール・ナットは今年で七十五を迎える高齢だが、その技術力の高さからいまだ現役で働いている。

 

彼は自身のことをただの老いぼれだと自虐するが、それでもなおハッカーとしての技術力は群を抜いている。

 

彼の協力なくしてはこの作戦の成功はないと凪は判断したのだ。

 

「クルミはいいの?」

 

「ああ、心配ない。倅は今頃もう北海道だろうさ」

 

「そっか」と凪はうなずき、そして改めてウォール・ナットに向き直る。

 

「本当にありがと」

 

「礼には及ばんよ。それじゃあ私はこれで失礼するね」

 

そう言ってウォール・ナットは部屋を出ていこうとするが、その途中で立ち止まり振り返った。

 

「そうだ。一つだけ年寄りからアドバイスしておく」

 

「なに?」

 

「あまり無茶をし過ぎないようにね。君はまだ若いんだから」

 

ウォール・ナットの言葉に凪は苦笑を浮かべた。

 

「そんなこと言われるなんて思ってもいなかったわ。私の人生において無茶なんて言葉は無縁だと思ってたしね」

 

「私だって若い頃はそう思っていたさ。だけど今はわかるんだよ。年を取ると色々とわかってくるものだってことがね。だから忠告だよ。君にはもっと自分を大事にしてもらいたい」

 

「わかった。肝に命じておく」

 

そう言い残し、ウォール・ナットは部屋から出て行った。

 

ーーーー

 

「なーに黄昏てんだよリコリス」

 

背後から声をかけられ、凪は反射的に銃を構える。

 

「おいおい、撃つなよ。まだパーティには早すぎる」

 

そう言ったのは真島だった。

真島は両手を上げながらゆっくりと近づいてくる。

 

「嫌な音だ。なんだよお前、心臓が悪いのかあ?」

 

「地獄耳が……。そうだよ、私の心臓はボロボロなんだ。これ以上悪くなることはないくらいにね」

 

凪の言葉を聞き、真島はニヤリと笑う。

 

「そりゃあ良かったぜえ! これから俺達はあのクソ野郎共を殺すわけだが、その前にあんたが死んじまったらつまんねえからなあ!」

 

「それはどーも」

 

凪は銃を納めて再び東京の夜景を見つめる。

 

「それで? 用件は何かな? まさかわざわざ雑談するために来たわけではないでしょう?」

 

「あぁ? 雑談しにきたに決まってるだろ。作戦は明日なんだからよ。少しはリラックスさせろよ」

 

「君が? 作戦前にリラックス? 面白いことを言うね」

 

凪はクスリと笑ってみせる。

そんな凪に真島は不満げな表情を浮かべたが、特に何も言うことなく彼女の隣に立った。

 

「なぁ、あんた。銃の撃ち方は誰に教わった?」

 

唐突に真島がそんなことを聞いてきた。

 

「覚えてないなぁ。私は孤児で、気づいた時にはもう銃を握っていたかな」

 

「なるほどな、ろくでもねぇ話だ。日本の平和大好き団体が聞いたら卒倒するぜ」

 

真島の言葉に凪は何も返さず、ただジッと東京の夜景を見つめている。

 

「お前、この国が好きか?」

 

「なに? 急に」

 

「いいから答えろよ」

 

真島の真剣な眼差しに、凪は数秒だけ思考を巡らせる。

 

「……嫌いではないよ。ただ、好きでもないかな」

 

「そうか、俺は嫌いだぜ。この国は腐ってる。だから俺達でぶっ壊さなきゃなんねえ」

 

「なるほど、それが君の行動原理か。わかりやすいね」

 

凪はどこか寂しげな表情を浮かべる。

 

「でも君は少し勘違いをしているようだ」

 

「あ?」と真島が首を傾げると、凪はゆっくりとした口調で話し始める。

 

「私は別にこの国になんの思い入れもないんだよ。ただ、隣で泣いている子に手を差し伸べられればそれでいいの。だから……」

 

凪はそこで言葉を切り、真島の方を振り返る。

 

「私は君とは考え方が違う。私の行動原理はシンプルで、泣いている子供を救うこと。それだけだ」

 

真島はポカンと口を開けていたが、やがてゲラゲラと笑い始めた。

 

「ハッ! 泣かせるじゃねえか。気に入ったぜ!」

 

そう言って真島は凪の肩に手を回し、抱き寄せるような仕草をするが、その手は虚しく空を切った。

 

「あぁ?」と真島が驚いている隙に凪は彼の腕から逃れていた。

 

凪は真島に向かって悪戯っぽく笑う。

 

「悪いけど私は男に興味がないんだ」

 

「あぁ、そうかよ」

 

そう言って真島は舌打ちをする。凪はそんな真島を見てクスリと笑った。

 

「そろそろ戻ろうか。明日の作戦に向けて準備をしないとね」

 

凪がそう言うと、真島も渋々といった様子で歩き始めた。

 

ーーーー

 

千束達リコリスはDAの所持する専用バスの中でブリーフィングを聞いていた。

 

参加するリコリスは総勢60名。

先発隊のリリベルを含めれば100人を優に超える。

 

リコリスは4人1組のグループを作り、それぞれのグループが無線で情報を共有し合うことになっている。

 

今回の作戦には、東京にいるほぼ全てのリコリスが動員されていた。

 

『今回の任務は電波塔を占拠したテロリスト達の排除が目的だ』

 

千束達は無線で流れてくる指示を聞きながら、銃のメンテナンスを行っている。

 

『電波塔にはテロリスト達が持ち込んだ武器や弾薬が大量に保管されている。敵の数は不明だ』

 

「不明って……」

 

と誰かが言ったが、その横に座る黒髪の少女が肘打ちで黙らせる。

 

『現状では敵の数は未知数だ。しかし少なくとも我々の数を超えることが予想されるため、君たちには決死の戦いをしてもらう必要がある』

 

千束達はそれを聞いて重苦しい気持ちに陥る。この仕事をしていればそういう場面に出会うことは珍しくないが、慣れることも到底できない。

 

『更には裏切り者のファースト・リコリス。伊集院 凪の存在も確認されている。注意するように』

 

その名前が出た瞬間、千束の表情が強ばった。

 

凪はテロリスト側に寝返ったと聞いているが、それが事実かどうかは自分の目で確かめるまで信じていない。

 

『見敵必殺だ。日本の敵を殲滅せよ』

 

無線から流れる音声がノイズで遮られ、やがて完全に聞こえなくなった。

 

電波塔に辿りついたリコリスは別れて電波塔内に侵入する。千束達は東にある階段を使い上へと登り始めた。

 

電波塔の内部は驚くほどに静かだった。まるで人が誰もいないような静けさだ。

 

「不気味だな……」

 

そう呟いたのは千束のすぐ後ろを歩くフキだった。

彼女の言葉に対し、千束は何も答えずただ足を進める。

それからしばらく歩いていると、上に続く階段が見えてきた。その階段を登りきったところで再び無線が入る。

 

『最上階からテロリスト達が降りてくる。先発隊のリリベルは全滅した』とのことだ。

 

それを聞いたリコリス達は息を潜め身をひそめる。間もなくして階段からテロリスト達が降りてきた。

 

その数は10人にも満たないが、彼らは全員アサルトライフルで武装していた。

 

「撃て!」

 

と誰かの声が聞こえた瞬間、一斉に弾丸が放たれた。銃弾はテロリスト達に命中し、その場に倒れる者、膝をつく者が現れた。

 

だが、まだ生きている者もいるようだ。生き残った彼らは再び立ち上がりこちらに銃口を向けてくる。

 

それからしばらくの間銃撃戦が続いたが、5分もすると状況は変わった。

 

「あの赤い制服! リリベルを全滅させた奴だ!!」

 

誰かが叫ぶ。

テロリストの1人が赤い制服を身に纏っていたのだ。

 

赤い制服はファースト・リコリスを表すものだ。それはつまり。

 

「ほんとうに、凪なの?」 

 

千束は呆然としながらその赤い制服を見つめる。

 

その間にもリコリスが一人、また一人と倒れていった。

 

「撃て! 撃ち続けろ!」

 

と叫ぶ声が聞こえるが、もはや誰の耳にも届いていない。

 

テロリストはマガジンを交換しようとしたようだが、その隙を千束は見逃さなかった。

 

一瞬で距離を詰めるとそのまま銃弾を放つ。

 

「早かったね千束ちゃん」

 

「……っ!?」

 

凪の声を聞き、千束は動揺を隠せなかった。

 

何故彼女がテロリスト側にいるのか、様々な疑問が頭に浮かんで消えを繰り返していく。

 

やがて動揺をかき消すように千束は再度凪に銃口を向ける。

 

しかし彼女は逃げることなくその場で立ち尽くし不敵な笑みを浮かべた。

 

「撃て! 千束っ!!」

 

「当たらないって。知ってるでしょ? こりゃ先輩が最後の教育をしなきゃだねぇ」

 

凪はクスクスと笑いながら千束の方へ近づいてくる。

 

「そのふざけた口を今すぐ閉じろ! さもなきゃ……!」

 

千束は銃を撃とうとしたが、それより早く凪の拳が腹部にめり込む。

 

あまりの威力に千束はその場に崩れ落ち、胃液を吐き出した。

 

そんな千束の姿を見ても凪の表情は変わらない。つまらなそうな表情のまま彼女は他のリコリスの元へ向かっていった。

 

「おいっ千束! 大丈夫か!?」

 

「まずい、すぐに後退するぞ!」

 

とリコリス達が叫ぶ。

 

しかし既に手遅れだった。凪は容赦なく彼女達に向かって発砲し、次々と倒していく。

 

「あ、ああ。辞めて、辞めてよ……ねぇ!」

 

千束が恐怖に染まった声をあげる。しかし凪はお構いなしに他のリコリスを蹂躙し続ける。

 

「おい、立てるか千束!?」

 

いつのまにかフキが隣に来ていた。

 

「……」

 

「しっかりしろ、馬鹿!」

 

千束は立ち上がり、銃を構えるが、手が震えて上手く構えられない。

 

その間にも凪の蹂躙は続いている。

 

千束の心が完全に折れてしまった。

彼女の目から大粒の涙が流れるが、それを拭うこともできない。

 

「凪さん! もうやめて!」

 

千束は必死に叫ぶ。

だが、凪にその言葉が届くことはない。凪はただ淡々と確実にリコリスに銃弾を撃ち込んでいく。

 

「いやああ!!」

 

千束の絶叫があたりに響き渡った。

 

しかしそれでもなお彼女の殺戮に終わりは見えない。

 

やがて最後の一人を仕留め終えると、ようやく銃を下ろした。その足元には大量の遺体があり血の海となっていた。

 

そんな地獄絵図の中で悠々と佇むその姿はまるで死神のようだった。

 

彼女は自らの手で同胞を殺したというのに表情一つ変えていない。

 

それが余計に恐ろしく感じられた。

 

「あと二人」

 

「ちいっ!」

 

フキが素早く銃を構え乱射する。

しかしその弾丸は全て凪に避けられてしまう。

 

「残念。もう一度養成所からやり直してきな」

 

そう言って凪はフキに銃弾を打ち込む。至近距離で撃たれたフキは小さな身体から派手に血を吹き出してその場に崩れ落ちる。

 

「あとは、千束。あんただけ」

 

そう言って凪は千束を見る。

千束は恐怖に染まりきった表情のまま固まっていた。もはや抵抗する気力すら残っていない様子だ。

 

「じゃあね千束」

 

「うわぁああ!!」

 

千束は悲鳴にも似た絶叫で己を鼓舞する。そして銃を構え発砲する。

 

「お、ようやくやる気になったかな?」

 

「うるさいっ! もうこれ以上誰も殺させない!」

 

身体が熱い。千束は今までにないほどの怒りを感じていた。

 

凪に対してではない、自分の無力さに対してだ。

 

「はぁああ!!」

 

千束は一気に距離を詰めるが、凪は涼しい顔でそれを避けてしまう。

 

だが問題ない。

千束は銃を構え直し、引き金を引く。

 

凪は銃弾を避けながら距離を詰めてくる。そしてそのまま拳を繰り出したが、それはすれすれで回避できた。

 

「っち。こんな時に……」

 

凪が胸を抑えてそう呟く。

 

それが引き金になったかのように、千束の攻撃は激しさを増していった。

 

凪はギリギリのところで躱していたが徐々に避けきれなくなっていた。

 

それを見た千束はさらに速度を上げ続ける。

 

(いける!)

 

千束は勝利を確信した。

完璧なタイミング、ゼロ距離からの射撃ならたとえ凪でも躱すことはできない。

 

千束は凪に向かって引き金を引いた。

 

「お見事」

 

凪はそう言って笑みを浮かべる。

その瞬間、凪の身体にゴム弾がめり込んだ。

 

「うっわ、こりぁあ効くね。痛すぎて涙出てくる」

 

バックステップで千束から距離をとった凪はヘラヘラと笑いながら腹部を抑えている。

 

「もう時間切れかな。はぁ、残念」

 

凪は千束に背を向けるとそのまま階段を登り始めた。

 

「ま、待て! どこに行くつもりなの!?」

 

千束は慌てて追いかけようとするが

 

「いってえ……クソがっ……」

 

「え、フキ? 死んだはずじゃ」

 

ゾンビ映画よろしく。血まみれのフキがむくりと上体を起こす。

 

「勝手に殺すな! 血糊のペイント弾かよ……舐めやがって……クソ!」

 

周囲を改めて見ると倒れていたリコリスが続々と起き上がる。

 

どうやら全員生きていたようだ。

 

「とりあえず私は指令に報告する。っ千束! どこにいくんだ!?」

 

千束はフキの声を無視し、凪の後を追いかけた。

 

「凪さん!」

 

千束は叫ぶが、彼女は振り返らずに階段を登り続ける。

 

やがて階段の先に出口が見えてきた。その先は屋外であり、電波塔の頂上にあたる場所だ。

 

「待って! もう逃げれないよ!」

 

千束が必死に呼びかけるとようやく凪の足が止まった。そしてゆっくりと千束の方を振り向く。

 

「まさかここまで追いかけてくるとは思わなかったよ」

 

凪はそう言って笑みを浮かべた。だが、その笑顔はどこか寂しげだった。

 

「さあ、最後の仕上げをしよう」

 

凪はそう言って千束に向かって歩いてくる。

 

「もう逃がさないから」

 

千束は銃を向けながらそう言う。しかし、凪は動揺した様子もなく淡々と口を開いた。

 

「撃ってよ」

 

それでも撃たずにいると、凪は困ったような顔で続ける

 

「私はもうどの道長くはない。それならせめて千束の手によって終わらせて」

 

凪がそう言った瞬間、彼女の身体がぐらりと傾いた。

 

「っ!」

 

千束は慌てて駆け寄り彼女を支える。その身体からは体温を感じられないほど冷え切っていた。まるで死人のように冷たい身体に思わずゾッとしてしまう。

 

「千束はあったかいねぇ」

 

そんな千束の姿を見て、凪は何も言わずにただ微笑むだけだった。しかしその表情はすぐに消え去り真剣な表情になる。そしてゆっくりと口を開いた。

 

「……最後のお願いだよ千束」

 

凪はそう言いながら両手を広げる。

 

まるで抱きしめてくれと言っているかのように。

 

「私を殺して」

 

凪はそう言った。

 

その表情からは何も読み取ることができない。ただ真っ直ぐに千束を見つめているだけだ。

 

「そんなの、出来るわけないじゃん……」

 

千束はそう言って目を伏せる。

そんな千束の頭を優しく撫でながら凪は呟くように語り出した。

 

「大丈夫、千束ならできるよ。私が保証するーーーー」

 

パンッ!

 

凪の言葉を遮って銃声が響く。

千束を庇うように凪は覆い被さり、銃弾を受け止めた。

 

凪の腹部から血が流れ出していた。

赤い制服が赤黒く染まっていく。

 

その光景を見て千束はただ呆然とするしかなかった。

 

今いったい何が起きたのか、理解がまだ追いついていないようだった。

 

あらん限りの後悔が千束を苛む中、再び銃声が響く。

 

今度は先程よりも近い位置でだ。

しかしそれでもなお凪に動揺はない。

 

「下にいる緑髪でサングラスを掛けた男がこの電波塔に仕掛けた爆弾の起爆スイッチを持ってる」

 

凪は千束に向かって淡々と語る。

だがその言葉は千束の頭には入ってこない。

 

「そいつを倒せば爆弾の起爆を止められる」

 

凪はそう言って笑った。

とても優しい笑みだった。

 

「さぁ、行って千束。ここは私が片付けるから」

 

凪は起き上がるともう一丁の銃を取り出してテロリストに撃ち返す。

 

「また戻って来てくれるよね?」

 

千束は震える声でそう問いかける。

だが、凪は何も答えずにただ微笑むだけだった。

 

「凪……お姉ちゃん」

 

「行って。私のことは心配しないで……千束」

 

そう言って凪は傷だらけの姿でテロリスト達に対峙する。

 

もう覚悟は決まっているのだろう。

千束が何を言っても無駄であることは明白だった。

 

(嫌だ)

 

そう思いながらも千束はゆっくりと歩き出す。

 

振り返ることはできなかった。

私のお姉ちゃんは最強だから。

負けるはずない。絶対に帰ってくると信じて。

 

千束は走り出した。

残された時間はあと僅かだ。

 

千束は全力で駆け下りると、頂上から真下に向かって飛び降りた。

 

(どうか間に合って!)

 

祈るような気持ちで周囲を見渡すがそれらしい人物は見当たらない。

 

(どこに……)

 

「ん?」

 

その時、視界の隅で何かが光った気がした。視線をやるとそこはホールのようになっていて、数人のテロリストがリコリス達の手によって足止めされていた。

 

(あいつか!)

 

凪が言うように、テロリストに守られるようにその緑髪の男はいた。手には起爆スイッチを持っており、今まさに押そうとしている。

 

「させるかぁ!!」

 

千束は叫びながら突っ込んでいく。

その動きはまるで凪のように、弾丸の嵐をものともせずに突き進む。

 

「なんだこいつ!?」

 

緑髪の男は驚愕の表情を浮かべながらも手に持つリボルバーを構える。

だが、その弾丸は千束には当たらない。

 

「遅いよ」

 

千束は一瞬で距離を詰めると、男の顔面に蹴りを叩き込む。

 

「ぐあっ!!」

 

そして倒れ込んだ男に容赦なくゴム弾を撃ち込んでいく。

 

「ちく、しょうっ!!」

 

男はボロボロになりながらも必死に反撃を試みるが、その攻撃は全て避けられてしまう。

 

千束はゴム弾を装填し直すと再び距離を詰める。そしてそのまま回し蹴りを放つ。

 

「ぐぇっ!!」

 

その身体は数メートル吹き飛び、壁に激突する。

 

「ちくしょう……化け物め」

 

男は、最後の抵抗。

自分を倒したリコリスを睨みつけながら起爆スイッチを押した。

 

ーーーーー

 

「もしもー、これで良かったですか? 吉松さん」

 

真島が起爆スイッチを押す数分前。

おおかたテロリストを殲滅した凪が電話ごしに吉松に問いかける。

 

『ああ、素晴らしい。想定以上の働きをしてくれたね』

 

吉松は満足そうに笑いながら凪へ拍手を送る。

 

「やっぱあんたが黒幕かー。武器の密入もテロリストも。全部あんたらが仕込んだんだろ」

 

『ご名答ーーーーすべては千束の才能を世界に届けるためだ』

 

凪はそのための舞台装置にすぎない。

吉松はそう言う。

 

「そっか、そうかー。まあでも結果的に千束が生きてるならそれでいいか」

 

きっとこれから、千束には様々な困難が待ち受けているだろう。

 

だけど新たな仲間と出会い、笑い合って、時には喧嘩して。

 

それでも最後は共に笑い合える未来を信じて。

 

「吉松さん、最後に一つ聞いてもいい?」

 

『なんだい?』

 

「私はいいお姉ちゃんだったかな」

 

しばらくの静寂。

吉松は記憶を辿りながらゆっくりと言葉を伝える。

 

『もちろんだよ、凪。君は完璧にその役割を果たした』

 

「そっか……ならよかった」

 

その言葉を聞くと凪は嬉しそうに微笑んだ。そしてそのまま通話を切るとその場に倒れこむ。

 

(あーあ、疲れた……)

 

今までずっと張り詰めていた緊張の糸が切れたのだろう。

 

もう指一本動かせない程身体が重かったが不思議と悪い気分ではなかった。

 

優しく頬を撫でる風が心地よく、雲の間から差し込む陽光が凪の冷え切った身体を暖かく包み込んだ。

 

(千束、ありがとう)

 

薄れゆく意識の中で凪は心の中でそう呟いたのだった。




次、最終回です。たぶん夜中に投稿します。
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