リコリス・リコイル Brilliant Memories 作:ヤニカス
まばゆいマズルフラッシュ。
手に伝わる反動。
周囲を彩るペイント弾が、まるで花火のように飛び散っている。
『千束、15分の休憩後もう一度模擬戦闘訓練を再開する』
「ーーーーはい」
無線越しに聞こえる、冷たい声音。
その声を耳にして、千束は小さくため息をつくと、銃を下ろした。
そしてそのままその場から離れると、部屋の隅で壁に背をつけながら体育座りをする。
天井を見上げながら、ふぅっと再び大きく息を吐く。
そんな時だった。
「千束、ほら水」
「ん、ありがとフキ」
水を乱暴に投げ渡したのはペイント弾で化粧した
「次の模擬戦、ファースト・リコリスの
「……」
「っておい聞いてるか?本当に大丈夫か?」
「あぁごめん。ちょっと考え事してて」
そう言いつつ、千束は慌てて水を口に含む。
「それで、何か用?」
「別に何もないけど………っち」
フキは舌打ちすると、千束の隣に座って壁に背中をつける。
何だかんだと、フキは面倒見の良い性格をしているのだ。
『時間だ。訓練を開始する』
「ほらさっさと行けよ、千束」
「はいはい」
千束は立ち上がると、自分の銃を拾い上げて腰に差し込む。
訓練場の設備はよくある屋内サバイバルゲームのステージを想像してもらえれば分かりやすいだろう。
広さとしてはそこそこ広く、障害物もそれなりに多い。
また、所々に監視カメラが設置されていて、こちらの動きは全てモニターされている。
この訓練場にはルールがある。
まず1つ目、武器の使用に制限はない。
ただし殺傷力の高い銃器や手榴弾などはもちろん使用禁止。
ペイント弾なので死人が出ることはないが、それでも相手を負傷させる危険性があるため油断禁物だ。
「せんぱーい、隠れてないで出て来て下さいよー」
さあ、どこにいる?
そんなことを考えていると
パンッ!
乾いた音が響くと同時に、千束は壁際から飛び出す。
音の出所は右斜め前にある木箱の上。
そこから飛び降りた人物に向かって銃口を向けると一気に引き金を引く。
放たれたのは2発のペイント弾。
相手はそれに気付くと、まるで弾丸が見えているかのように着地し、素早く身を屈めてそれをかわす。
だが千束はその動きを読んでおり、すぐさま横に飛び退きながら相手の方へと銃を向けた。
「…………そこっ!!」
相手の姿を捉え、即座に引き金を引こうとした瞬間、相手がニヤリと笑みを浮かべるのを見て、嫌な予感を覚える。
その直感に従い咄嵯に身を左右に傾けると、頭のあった場所にペイント弾が赤い花を咲かせた。
再び体勢を立て直す。
今度はーーーー近い!
パンッ! パンッ!
至近距離からのそれは流石に避けることができず、腕に命中する。
(私が見えなかった?)
痛みはあるがそれを無視して反撃に出る。
だがそれも虚しく、雑技団かのように距離をとる凪には千束の攻撃が当たらない。
「君も見えてるはずだよね、千束ちゃん」
「くっそ!」
千束も一気に距離を詰めようと走り出す。
だがそれを許すまいと再び相手の銃撃が飛んでくる。
それを避けながら接近しようとするが、なかなか距離が詰まらない。
相手の方が一枚上手なのか、それとも自分が焦っているせいなのか……どちらにせよこのままではジリ貧だ。
「そろそろ疲れてきたんじゃない?」
そんな挑発を受けつつ、千束は再び相手に攻撃を仕掛ける。
今度は死角から足元を狙っての射撃。
「ダメだって焦っちゃ」
しかしそれすらも読まれており、またもや避けられてしまった。
「あちゃー、これは相当焦ってるね」
「くそっ!」
千束は吐き捨てるように言うと、一旦、距離を取ろうとする。が……。
「狭い場所での戦闘では拳銃より、ナイフの方が有利な時があるよ」
「しまッーー!?」
その言葉を聞いた瞬間、千束の背筋に悪寒が走る。
本能的に危険を感じ取り、その場から飛び退こうとしたが間に合わない。
次の瞬間、鋭い痛みが腹部を襲うと、その部分がじんわりと熱を帯びていく。
(な……んで?)
ゴムナイフを投げた?
お腹を切られた痛み自体は耐えられるものだった。だが問題はそこじゃない。
何故自分は斬られたのか?
それを理解するまでに数秒を要したのだ。
理由は簡単だった。
相手の投擲速度が速すぎて見えなかったのだ。
いや、正確には見えていたのかもしれないが反応できなかったのだ。
「はい、おわり」
「ま……だ……っ!!」
千束は最後の力を振り絞り、銃を相手に向けると引き金を引く。
放たれたペイント弾は真っ直ぐ相手の額に向かっていき、そしてーーーーーー
「あー、負けた負けた負けたー!」
模擬戦が終わり訓練場を出た瞬間、千束は悔しげに叫び声をあげる。
「いんにゃ、でも惜しかったよ千束ちゃん。普通はあの場面で避けれる人間なんていないよ。私以外はね」
「うっるせぇ! ぜってぇ勝つと思ってたのに……」
伊集院 凪。17歳。
歴代最年少の8歳でファースト・リコリスに認めらた殺しの天才児。
赤毛の癖っ毛を短めのポニーテールでまとめ、人畜無害な人懐っこい顔でボコスカ敵を屠るリコリスのジョーカー的存在。
千束がライバルと認める唯一の相手だ。
「怒ってる千束ちゃんも可愛いね」
彼女が苦笑いを浮かべながら千束のことを
それから頭を撫でようとした凪の手を避け、千束は舌をだす。
「次は絶対負けねぇかんな!」
「うん、楽しみにしてるよ」
「あーもう腹立つぅ!」
「お菓子あげるから、さ。許して?」
どこから取り出したのか、ロリーポップが千束の口に押し込まれた。
苺味だった。千束の大好きな味。
「うっし! 許す!!」
そんなやり取りをしながら、2人は廊下を歩いていく。
千束は凪のことが嫌いではない。
むしろ好きな方なのだが、どうしても子供扱いされているのが気に食わなかった。
(どうしたらあの綺麗な顔に一発ぶち込めるかな)
ロリーポップを口内で転がしながらそんなことを考えていると、ふと気になることがあったのか千束が口を開く。
「そう言えばさー、今回の模擬戦ってなんか意味あったの?」
「ん? あぁそれはね……」
そして彼女はその理由を語り始めた。
「ええっー! 私と凪パイセンで組むんすか!?」
「厳密に言えば教育係かな。大人の事情があってね、早急に千束ちゃんをファースト・リコリスにしてほしいんだってさ。あ、ちなみに拒否権はないよ」
「はああぁぁぁぁぁぁ!?」
千束は驚きのあまり、思わず大きな声を出してしまった。
それも無理はない。
今までずっと単独行動が基本だったのに、急にペアを組めと言われたら誰だって驚くだろう。
しかも相手はあの伊集院 凪である。
どんな過酷な任務でも達成し。
生存困難と思われた現場から一人で帰ってきたり。
テロリストや傭兵、はたまた暗殺者でも恐れるという赤の死神。
(なんで私がこんな目に……)
千束は頭を抱えると大きくため息をつくのだった。
幼少期の千束ってどんな感じだったのだろう。
冷酷な殺戮マシーンか。
あるいは明るくて元気に走り回る子犬のような存在か。
自分は後者寄りの考えで、他人にあんまり本心を見せない
まさにDAの道具って感じの子をイメージ。
けど色んな人と、様々な体験をしてあの千束が産まれたんじゃねーのっていう妄想で、その見本が伊集院 凪。
基本的に幼少期の千束は凪先輩以外のリコリスには塩対応です。
長々と訳分からん事言ってスミマセン。明日もお楽しみに。