リコリス・リコイル Brilliant Memories 作:ヤニカス
「お出けけ、しようぜ」
「へ?」
突然のお誘いに、思わず間抜けな声が出てしまった。
休日のことだった。
千束は自室で趣味の映画を見ていたのだが、突如として現れた来訪者によってそれは遮られる。
「ほら早く準備。
「ちょ、ちょっと待ってください! なんで急にお出かけなんですか!?」
「この前言ったでしょ? 教育係になったって」
「それは聞きましたけど、それがどうしてお出かけに繋がるんです!?」
「そりゃあ街に出て遊ーーーー訓練がてらに親睦を深めるためだよ。ほら早く準備して!」
「わ、分かりましたから急かさないでくださいよ……」
千束は渋々頷くとクローゼットを開け始める。
リコリスは上下関係に厳しいのだ。
(そう言えば私、まともな服持ってないな)
そう思いながらも、テキパキと準備を進めていく。
数分後ーーーーーー
「……これでいいですか?」
「ダメです。私服に着替えなさい」
「ええー、なんでですかぁ?」
「なんでもです! ほら早く!」
「えぇ~……」
(めんどくさいなぁ……)
と思いながらも、千束は再びクローゼットを開ける。
そして数分後……。
「……これでいいですか?」
「えーっと、ジャージかあ。うーん、まあ予想はしてた」
ギリギリ及第点かな、と凪は呟いた。
千束はジト目で凪のことを見るが、本人は誤魔化すように笑うと車のキーをくるくると回し始めた。
「んじゃ行くか」
「はあ」
2人は駐車場に向かい、車に乗りこむ。
そしてエンジン音と共に車は動き出した。
「それでどこに行くんですか?」
「まずはショッピングかな。千束ちゃんに色々買ってあげたいし」
「……なんか子供扱いされてる気分なんですけど」
「っははは! 7歳なら全然子供だよ!」
「そう言う凪は幾つなんですかね」
「んー、幾つにみえる?」
「あーはいはい、そういうこと言う人は皆んなおばさんですよー」
「ん? 今何か言った?」
「……なんでもないです」
「そっかそっか。ならいいけど」
そう言い、他愛のない会話をしながら車を走らせた。
街中を走ること数十分後ーーーーーー
2人はショッピングモールの駐車場に車を停めると中へと入った。
すると、そこには色とりどりの商品が並んでいた。
洋服や小物類など多種多様なものがあるようだ。
そしてそんな中で千束の目を引いたものがあった。
「あ、これ可愛い」
それは白いワンピースタイプの洋服だった。
胸元に大きなリボンが付いているのが特徴的だ。
だが千束は値段を見て少しガッカリしてしまう。
(これ絶対高いやつだゼロがたくさんある……)
「ん? どうした?」
「いや、なんでもないです」
すると凪は「こう言うのが好みかー」と呟き、千束の腕を掴んで強引にレジまで連れていった。
「ちょ、凪先輩!?」
「いいからいいから」
そして会計を済ませると、そのまま更衣室に入って着替えるよう指示される。
「……絶対高いやつだったよあれ」
「まあ気にしないの。ファースト・リコリスの財布に敵なし。ほらさっさとしないと置いてくよ?」
「わ、分かってますよ!」
2人はモール内にあるフードコートで昼食を取った後、再びショッピングを続けた。服や靴など、1時間ほど歩き回っただろうか。
「ちょっと休憩しようか」
「あ、はい」
近くにあったベンチに腰を下ろすと、2人は一息ついた。
(なんか……めっちゃ疲れた)
千束は心の中でそう呟くと、大きく伸びをする。
すると、隣からクスクスと笑う声が聞こえてきた。
「なに笑ってるんですか?」
「いやさ、こうしてると本当に妹みたいだなって思ってさ」
「……私は凪先輩みたいな姉なんて嫌ですけどね」
「えー、酷いなぁ」
「だっていっつも私のこと子供扱いしてくるじゃないですか! そんな人が姉だなんて絶対に嫌です!」
「あはは、ごめんごめん。お詫びに好きなもの買ってあげるからさ」
「いりません!」
千束はぷいっと顔を背けるが、凪は特に気にする様子もなく笑っていた。
(この笑顔を見ていると調子狂うんだよなぁ……)
千束を照らす太陽のように明るい笑みに思わず見惚れてしまうことがあるのを自覚する千束だったが、それは絶対に口には出さない。
「じゃあ次どこ行く?」
「……ゲームセンター行きたいです」
「お、いいね。行こう!」
2人は立ち上がり、再び歩き出す。
そして数分後、目的地に到着した。
「千束ちゃんはゲームとかやるの?」
「まぁ人並みには」
千束がそう言うと、凪は興味深そうに頷く。
「そっか。んじゃまずはUFOキャッチャーでもやろうか!」
「あ、はい」
2人は店内に入ると、最初に目に付いたUFOキャッチャーに向かう。
そして中に入っているぬいぐるみやフィギュアを見た。
「どれが欲しい?」
「えーっと……じゃあこの猫ちゃんのやつで」
千束が指さしたのは真っ白な猫のぬいぐるみだ。
どこか眠そうな表情が可愛らしい。
「おっけー任せて! 絶対取ってみせるよ!」
そう言うと凪は財布を取り出し、100円玉を投入する。
「おっ、意外とすんなり入った」
アームを操作してぬいぐるみを掴むと、そのまま出口へと持っていく。そしてーー
「よし!取れた!」
「えぇっ!?もう!?」
驚く千束だったが、凪は嬉しそうに笑うだけで何も言わなかった。
その後も色々なゲームで遊んだ2人。
気がつけば日が沈みかけていた。
(なんかあっという間だったな……)
2人で帰路につきながらそんなことを考えているとーーーーーー
「少し寄り道してもいいかな?」
突然凪がそんなことを言ってきた。
「え? あ、はい」
断る理由もなかったので千束は頷く。
そして車で移動すること数分後ーーー
辿り着いた場所は錦糸町にある、とある場所。
「私さ、将来ここで喫茶店やりたいんだよね」
「え?」
突然の告白に、千束は驚きの声を上げる。
閑静な住宅街の中、目の前にあるのは時代に取り残されたお世辞にも綺麗とは言えない古い喫茶店。
「こんなところに?」
「うん、そう」
「なんでまた急に……」
千束が尋ねると、凪は少し照れくさそうに答えた。
「私ね。ここが、この町が好きなんだ」
「ここが?」
「そう。静かで落ち着くし、人もあんまり来ないからゆっくりできるしね」
「へぇー……」
「その時は千束ちゃんにも手伝ってもらうからね、絶対に」
どうせそんな未来はやってこない。
正直、千束にとってみればどうでもいい話だった。
だが凪にとっては大事な場所なのだろう。
だからこうして、わざわざ車でここまで連れてきてくれたのだ。
しかし何故いきなりこんなことを言い出すのだろう?
何か意味があるのか……?
そんなことを考え始めたところで、不意に凪が口を開く。
「……ねえ千束ちゃん。人間ってさ、もっと自由に、無責任に生きてもいいと想うんだよね、私」
「え? いきなりどうしたんですか?」
凪の言葉の意味がわからず、千束は首を傾げる。
だが彼女は構わず続ける。
「だってさ、毎日窮屈な規則に縛られて生活するのって楽しくないでしょ?」
「まあそれは……」
確かにDAでの生活を不便に感じる事はあるが、千束達リコリスはその生き方しか知らない。
だって、その方が楽じゃないか。
誰かが敷いてくれたレールの上を走って何が悪い?
途方もなく歩くなんてそんなの……馬鹿みたいだ。
「なーんてね、冗談。ちょっと言ってみただけ」
そう言って千束の頭を撫でる凪の顔は少しだけ悲しそうに見えた。
「さりげなく頭撫でないで下さい」
「あはは、ごめんごめん」
「はぁ……、まあいいですけど」
千束がため息をつくと、凪はニッコリと笑いかけた。
「さて、DA帰ろっか。あんまり遅いと楠木指令に怒られる」
「あ、はい」
2人は車に乗り込み、その場を後にした。