リコリス・リコイル Brilliant Memories   作:ヤニカス

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3話 

東京DA支部の横に付属する屋外訓練場には様々な設備が揃っている。グランドは勿論のこと、アスレチック施設もあるし、射撃場やプールもある。

 

挙げ句の果てには露天風呂まであるのだが、これは富士山の麓ということもあり「贅沢な眺め」だとリコリス達の間で評判高い。

 

そんなちょっとしたテーマパークのような場所の早朝のグランドで今日も彼女達リコリスは汗を流していた。

 

「……よし、少し休憩にするか」

 

「はぁっ、はぁっ。ちょっ、もうムリ!」

 

「まだそんな走ってねーだろ」

 

地面に大の字になって寝転がる千束の横でフキは水分を補給する。

フキの言う「まだ」とはグランド五周を指す。

まだ五周程度。されど五周。

 

DA東京支部にあるグランドは一周あたり1.2Km。

 

全国のグランド平均の3倍はあたるこれは、果たしてグランドであるのか。千束は本気で疑問に思っていた。

 

「私にも水ちょーだい」

 

「はあ?」

 

千束は無防備な姿勢で手を伸ばす。

「忘れてきたし仕方ないじゃん」とでも言いたげな顔だ。

その姿に舌打ちしたフキはペットボトルを差し出した。

 

「うんめー! フキの味するー!!」

 

「しねーよっ」

 

ごくごくと飲み込む姿を見ながらフキは呟く。

 

「千束、お前なんか変わったな」

 

空のボトルを置いた千束はその場でぐっと伸びをした。

 

「んー?そうかな。別になんにも変わってないよー」

 

そう言うが、出会ったころの千束はこんなアホな事をするような子ではなかったはずだ。

 

出会ったときの第一印象は『幽霊』みたいな奴だとフキは思っていた。表情は暗いし、いつも一人で行動していたし、誰かに頼ろうともしなかった。

 

ぜんぶ自分でできる。

とでも言いたげな態度が嫌いだった。

 

けど、この数ヶ月で彼女の性格が大きく変化していることにフキは気がついていた。

 

(まぁいいけどよ)

 

フキは体をほぐすようにストレッチをする。

 

「えー、まだ走るのー?」

 

「体力づくりはリコリスの基本だ」

 

千束の言葉にきっぱりと答えるフキ。

リコリスとして任務を遂行する以上、当然のことだったが。

 

「……いやー、でもお医者さんにあんまり激しい運動するなって言われてるしー」

 

確かに千束は心臓に病を抱えているらしいが、それを差し引いても彼女は体が弱いというわけではない。

 

むしろ、その逆だろう。

 

悔しいことに、基礎能力からしてフキよりも上だったりするのだ。

いわゆる天才というやつで、本当に神様がいるのなら適当な仕事してるなと思う。

 

「じゃあ休んでろ。少しでも変だと思ったら医者に相談しろよ」

 

「えへへー。フキってば心配性だねー」

 

「うぜぇ」

 

軽くヤンキー蹴りを入れてやった。

 

「あっぶな! 病人に対する扱いじゃないと思うんですけど!?」

 

「っち」

 

抗議の声を上げた千束を無視してフキは走り始めた。

 

 

 

「おん? 見ない顔だな‥‥‥」

 

午前のトレーニングを終えた二人は食事を終え、次の訓練まで噴水前にあるベンチで暇を持て余しているところだった。

 

「あれは京都DA支部の連中だな」

 

目の前を通り過ぎる集団を横目にフキが呟く。

千束はぴょこっと反応を見せた。

 

「さてはカチコミだな!?」

 

「んなわけあるかよ」

 

「馬鹿馬鹿しい」とぼやきながら、コーヒーを飲む。

しかし、その言葉とは裏腹にフキは顔をしかめる。

 

他の支部のリコリスが東京にやってくるのは別に珍しくはない。

珍しくないのだが、何というか違和感のようなものが腹の底でとぐろを巻いていた。

 

「なーにしてんの君たち」

 

いつの間にか背後にいたリコリスに声をかけられ、フキたちは振り返った。

 

そこにいたのは伊集院 凪。

 

任務帰りなのか、はたまたこれから任務なのか。

リコリス御用達のバックパックを背負っている。

 

「お疲れ様です。伊集院先輩」

 

「凪じゃーん! 最近見ないと思ったら何してたの?」

 

「最近テロリストが元気でねー、春だからかな」

 

別に春だからと言って山菜のようにテロリストが芽吹くなんて事は統計学的にもない。

 

「テロリスト?」とフキが首を傾げる。

凪はやれやれといった様子で頷いた。

 

「そ、京都支部の連中も大変だよ。最近は東京のテロ対策に駆り出されてるしさ。一条家のお嬢様まで来てる有様だよ」

 

彼女はそう言うと千束の隣に腰掛けた。

そしてエナジードリンクを開けて口をつける。

 

「うんめー! 仕事帰りの身体に効くわーっ」

 

「……おっさんかよ」

 

思わず突っ込む千束だったが、凪は千束にヘッドロックを掛けて笑うだけだった。

 

「んで? なんでこんなところで休憩してるのさ」

 

「次の訓練まで時間があるので休憩してます」

 

フキがそう答えると納得したかのように

 

「なるほどー、リコリスはこの場所好きだもんね」

 

凪は周囲を見渡す。

ここは噴水とベンチがあるだけのシンプルな場所だけど静かな所だった。

 

「ま、たまにはゆっくりするのも悪くないか。連中を相手にするまでまだ時間あるし」

 

凪の言葉に千束が目を輝かせて反応する。

 

「やっぱカチコミなの!?」

 

「違うよ、楠木指令からのオーダーでちょっと教育をね」

 

「教育ですか?」

 

フキが聞き返すと凪は頷いた。

 

「サード・リコリスに喝を入れてくれって頼まれたわけよ。今の東京はそういう状況だってことさ」

 

「なるほどー」

 

「ん、もちろん君らもだよ?」

 

他人事のように言う千束を見て、凪はニヤリと笑う。

 

「え!? なんで!?」

 

「当たり前でしょ? 君たちもまだサード・リコリスなんだからさ」

 

「いやいやいやいや! ええ!?」

 

慌てて否定する千束だったが、凪は構わず続けた。

 

「大丈夫だって、手加減するからさ」

 

そう言ってウインクをする。

 

(相変わらず軽い人だな)

 

とフキは思ったが口には出さなかった。

どうせ何を言っても無駄だということはわかっているからだ。

 

 

 

京都DA支部との共同大規模訓練を前にして、作戦室ではまだ実戦経験のないサード・リコリスたちが集められていた。

 

どのリコリスも不安そうな顔で周囲を見回している。

それも無理はない。

集められたのは10代前半から7歳程度の、外の世界で言えば小学生リコリスなのだから。

 

加えておそらくこの訓練は実戦に出る前の最終試験であり、失敗すればマーダー・ライセンスを剥奪されるからだ。

 

「全員集まったな」

 

そんな空気の中、壇上に立ったのはDA東京支部の楠木司令だ。

 

「今回の訓練では実戦に近い形での訓練を行う。君たちにはテロリスト役のリコリスを無力化してもらうことになる」

 

楠木はそこで言葉を切り、リコリスたちを見回す。

 

「テロリストは全員DA京都支部と東京支部の選りすぐったリコリスだ。彼らを倒すことが出来れば君たちも一人前と言えるだろう」

 

その言葉にざわめきが起こる。

 

東京支部は言わずもがな、京都支部も実戦に出ているリコリスは精鋭揃い。その彼らを相手にして倒すというのは簡単なことではないからだ。

 

「では、作戦内容を説明する」

 

楠木はそう言うとプロジェクターを起動させ、壁に映像を映し出した。

 

「まず、東京支部のテロリストは伊集院 凪が率いる部隊だ」

 

映し出されたのは凪が率いる部隊だ。

一人一人の顔がピックアップされていく。

人数はそれほど多くないが、一人一人の実力が高いことは目を見れば一目瞭然だった。

 

「次に京都支部のテロリスト役だが一条 楓が率いる部隊だ」

 

次に映し出されたのは楓が率いる部隊。

こちらも人数は少ないが、全員かなりの手練れであることが窺える。

 

特にファースト・リコリスである『弾丸斬りの楓』の噂はこの東京支部にも届いていた。

 

「現場は東京の某所にある廃墟だ。そこでテロリストが立てこもって君たちを待ち受けている。テロリストは全員武装しており、建物内には爆弾が仕掛けられている。君たちはテロリストを無力化し、爆弾を解除することが任務となる」

 

楠木の説明に千束が手を上げる。

 

「質問でーす!」

 

と元気よく言った彼女に、楠木は小さく頷いた。

 

「なんだ?」

 

「一番多く倒した人にはご褒美とかないんですかー?」

 

「おい千束っ」

 

千束の言葉にフキはキモを冷やす。

こいつは上下関係というモノを養成所時代に学ばなかったのか。

 

恐る恐る楠木指令を見ると、怒ってはいなさそうだ。

 

「もちろんあるぞ。優秀な成績を残した者にはな」

 

その一言にざわつく室内。

千束は目を輝かせると、拳を握りしめた。

 

「よっしゃ! 絶対勝つ!!」

 

意気込む彼女をフキが呆れた様子で見ていた。

しかし、他のリコリスたちもやる気に満ちた表情になっていることからも、いい質問だったと思わざるを得ない。

 

(ったく)

 

フキはため息をつくと、千束の頭に手を置いた。

 

「落ち着けっての」

 

「いだだっ! フキ力強いって!」

 

そんな二人のやりとりを見て楠木司令は小さく笑う。

 

「では健闘を祈る」

 

 

 

廃墟で待機しているテロリスト役の面々は、これから来るであろう後輩リコリスたちを迎え撃つために準備をしている最中だった。

 

「大丈夫でしょうか……」

 

一条 楓が不安げに呟くと、ボロソファーに寝転んでロリーポップを咥えている凪が笑った。

 

「大丈夫だって、私達がこの日のために鍛えたリコリスだよ? 合格できるって」

 

「でも、とても心配でございます」

 

「だからこそさ。自信をつけてあげないとね」

 

凪はそう言うと、楓の頭を優しく撫でた。

彼女は少し恥ずかしそうにしながらもされるがままになっている。

 

 

「私はあの子たちに傷ついてほしくないです。出来れば何もせず降伏したいです」

 

そう言う楓に凪は「アホか」と鼻を鳴らす。

 

「手を抜く方が失礼でしょ? 全力でぶつからなきゃ実戦訓練の意味ないだろ」

 

確かに凪の言うことは道理であるが。

 

「いや……あなたみたいな凶悪テロリストは滅多にいませんから、お手頃な普通のを演じて下さいね?」

 

そう呟く楓の表情は真剣そのものだった。

心外だったのか凪も頬を膨らませて言い返す。

 

「そう言う楓もだぞ? 模造刀とはいえお前なら一刀両断しそうだ」

 

「わかっております。あくまでも訓練ですから、ね」

 

楓はそう言って微笑む。

しかし、その瞳には闘志が宿っていた。

 

(いちゃついてないで少しは働けよ……)

 

集められた他のリコリスは皆そう思っていたが口に出すことはない。

 

だって怖いから。

 

触らぬ神に祟りなし。

口は災いの元。

南無阿弥陀。

 

かわいそうな後輩リコリスは、ゲームで例えるならレベル10ぐらいでボスと裏ボスの相手をするようなものだろう。

 

(せめて私達だけはまともにやろう)

 

不思議と凪と楓を除くリコリスが同じことを心に誓った。

腕時計のアラームが鳴る。

 

「さーて、そろそろ来る時間だな」

 

凪は立ち上がると大きく手を叩く。

 

その瞬間、室内の空気が一変した。

たとえ所属する場所は違えど、ここに集められたリコリスは数多の死線を潜り抜けてきた生き残りでありプロである。

 

緊張感が漂い始める中、凪はニヤリと笑う。

 

「さぁて、行こうか」

 

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