リコリス・リコイル Brilliant Memories 作:ヤニカス
千束達サード・リコリスはDAの用意したバスに乗り、廃墟へと向かっていた。
「いやー、楽しみですな!」
千束の隣に座っていた京都DA支部のリコリスがため息をつく。
「遊びじゃないのですよ?」
「もー、わかってますって〜」
彼女は隣に座る千束をじとっと睨みつける。
(この娘、絶対わかってない)
そんな冷たい視線にも構わず、千束は楽しげに窓の外を眺めていた。
しばらくして目的地に到着したのかバスが停車する。
ドアが開き、リコリスたちは一斉に降りたった。
そこは鬱蒼とした森林の中にある廃墟だった。
人の気配はなく、静まり返っている。
「さて諸君」
楠木司令が前に立ち、話し始める。
「事前に決めた班に分かれて行動をすること。テロリストは全員武装しているから、くれぐれも油断しないように」
その言葉に全員が頷いた。
「ではーーーー状況開始だ」
その言葉と同時に千束たちは一斉に行動を開始する。
事前に決めた班に分かれ、廃墟の中へ続々と足を踏み入れた。
(さてと)
千束は周囲を見渡す。
薄暗い室内だが、窓から差し込む光のおかげで視界はそれほど悪くない。
「あまり先行しないでください」
そう言ったのは先程横に座っていたリコリスだった。
綺麗な黒髪が印象的な子で、一見すると大人しそうな印象を受けるが、その瞳には強い意志を感じさせるものがある。
「あ、ごめんごめん」
千束は素直に謝ると、彼女の横に並ぶ。
(あの子の名前は……)
千束は頭の中で名前を思い出す。
確か『井ノ上』と呼ばれていたはずだが。
(ま、いっか)
どうせすぐにわかることだと思い直すことにした。
それよりも今は任務に集中しなければならないのだから。
しばらく進むと中二階のある広い空間に出た。
そこには既に先客がいたようで、テロリストが待ち構えていた。
「来ましたか」
楓は呟くと同時に日本刀を引き抜き、周囲に展開していたテロリストも一斉に銃を構える。
千束たちも慌てて身構えた。
(まずは敵の数を把握しないと)
千束は素早く視線を巡らせる。
装備と人数を把握し、敵との間合いを計る。
「私は左から行くので敵の注意を引きつけて下さい」
井ノ上がそう言うと、彼女は一気に駆け出した。
「ちょ、ちょ、ちょっ!?」
千束は慌てて後を追う。
後方のリコリスは事前に建てていた作戦通り援護射撃を開始した。
(一人で突っ込むなって言ったくせに!)
千束は心の中で悪態をつく。
しかし、井ノ上の動きは決して無謀なものではなかった。
彼女は敵の射線上に入らないように移動しつつ、銃で相手を牽制し続けている。その動きには一切の無駄がないように見えた。
(やるじゃん)
千束は思わず感心した。
彼女の実力を見るのは初めてだが、なかなかのものらしい。
「私も負けてらんないね」
そう呟くと千束も銃を構えた。
そして引き金を引くと同時に走り出す。
「よっと」
「!?」
テロリスト達は予想外の場所からの攻撃に動揺した様子を見せた。
千束は一気に距離を詰めると、手近な敵から無力化していく。
(まずは一人!)
倒れたテロリストを横目で確認しながら次の相手へと狙いを定める。
しかしーーーー
「きゃっ!」
千束と井ノ上を援護していたリコリスの悲鳴が聞こえた瞬間、千束は思わず動きを止めた。
その隙を狙って敵が発砲してくるが、ギリギリで回避することに成功する。
(しまった!)
千束は心の中で舌打ちをした。
いつの間にか楓が目の前まで迫っていて日本刀を振りかぶっていたのだ。
「くっ!」
千束は楓の攻撃を避けようとするが、間に合わない。
不意打ちを不意打ちで返された。
最悪、腕を犠牲にするかーーーー
次の瞬間、鋭い金属音が響いた。
「!?」
それは井ノ上のナイフだった。
楓の持つ日本刀と井上のナイフが激しくぶつかり合う。
(あの子……すごい!)
千束は思わず見惚れてしまう。
それほどまでに見事な立ち回りだった。
お互い一歩も譲らない攻防が繰り広げられている中、銃声が鳴り響くと同時に二人は距離を取るように離れる。
「行ってください錦木さん。この人は私が相手をしますので、他の皆さんの援護をお願いします」
「わかった!」
千束は頷くと井ノ上に背を向けて走り出す。
(あの子なら大丈夫)
そう判断したからだ。
それよりも今は他のテロリストを倒す方が優先である。
千束は銃を構えながら周囲を見渡した。
(まだ誰もやられてないみたいだね)
他のリコリスたちも善戦しているようだ。
しかし、テロリストは少数ながらも腕があるようで苦戦しているように見える。
(急がないと!)
千束は走り出した。
ーーーーその頃、楓と井ノ上の戦いもまた佳境を迎えていた。
日本刀を持つ楓に対し、井ノ上は小型ナイフで応戦する。
しかし徐々に追い詰められているのは明らかだった。
「はぁ……はぁ……」
井ノ上は肩で息をしている。
その表情には疲労の色が浮かんでいた。
「成長したね、たきな」
「ええ。あなたのおかげです」
楓は心の中で感嘆する。
自分で育てたのだが、まさかここまで粘るのは予想外だったから。
しかし、それも限界が近いだろうことは容易に想像できた。
「怪我をする前にそろそろ終わらせましょうか」
楓がそう思った瞬間だったーーーー
「!?」
突然、楓の表情が変わった。
そして次の瞬間にはその場から飛び退くようにして距離を取ると、刀を構えペイント弾を叩き斬る。
「うっわー、銃弾斬る人初めてみたよ」
「錦木さん!?」
「あっちは片付けたし、二人で倒そうよ。その方が効率的だと思うよ」
井ノ上は千束の指した方を見る。
するとそこにはわざとらしく死んだ振りをするテロリストの死屍累々。
「あの短時間で……一体どんな手品ですか」
「知りたい? ねえ知りたい!?」
そう言って笑う千束に、井ノ上はため息をつく。
「分かりました。二人で倒しましょう」
「それじゃあ作戦名はミック・ジャガーね!」
何ですかそれ、と言いたげな顔の井ノ上をよそに千束は突っ込む。
日本刀の名手にそれは無謀である。
普通のリコリスでは楓の斬撃は避けられない。
避けられないはずなのだが。
「……すごいですね」
楓は思わず賞賛の声を上げてしまった。
千束はそれをまるで見えていたかのように、避けてしまったのだ。
「すごいでしょ、次は私の番だね」
そう言い放つ千束は胸元で構えた銃を至近距離で撃つ。
刹那、楓は銃口を蹴り上げるようにして弾き日本刀で一閃する。
それを身を屈める事によって回避した千束は再び引き金を絞った。
まるで日本刀と拳銃の鍔迫り合いのように火花が飛び散る。
お互いに射線を避けながら武器をぶつけ合う。
それはもう、殺し合いではなく舞踏のような美しさがあった。
楓の攻撃は全て銃弾に相殺され、そればかりか隙を突いて一撃を食らわせようとしてくる。
千束の戦い方は接近戦に特化された物なのだと今更気付く。
楓が距離を取ろうとすると追いかけるように彼女は一気に距離を詰めてきた。
そして再び銃撃を繰り返す。
だがそれも楓には届かない。
そもそも日本刀というリーチの長い刀を使っている時点で圧倒的に有利だと言えよう。
それにまだ、楓には隠し球が残っているのだ。
しかしどうしたものかと考えているうちに千束は次の手段を用意していたようで、掴みかかってきた。
楓はそれに対応しつつ距離を取るべく横に移動するが、そこには隠れていた井ノ上の銃口が待っていたわけである。
(なるほど……そういうことですか。そろそろ潮時ですね)
千束は囮で本命は井ノ上。
あの一瞬で自分の役割を理解し行動に移した。
とても素晴らしいコンビだ。
楓は武器を地面に置いて両手を上げる。
「お見事です。降参します」
すると二人は顔を見合わせてキョトンとしてから同時に笑みを浮かべてハイタッチをした。
「やったね!!」
「ええ、本当に。素晴らしい動きでしたよ」
「ありがとっ!あー嬉しいっ!」
二人の喜ぶ姿を見ながら楓は
「ふふ、まだもう一人厄介なのがいるでしょ。喜ぶのはまだ早いわ」
と言うと二人はハッとして慌てて走り出す。走りながら井ノ上は疑問に思っていた事を千束に告げる。
「ところでミック・ジャガーってどのような意味だったのですか?」
「ええっ知らないの!? 有名なミュージシャンなのに? ワイスピも見た事ないの?」
「はい」
「今度東京に遊びに来た時に見せてあげる。ワイスピは外伝がオススメだよ!」
「まあ機会があれば……」
そんな他愛もない会話をしながら二人は奥へ進んで行った。
ーーーーその後、別働隊のフキ達リコリスが爆弾を解除しテロリストは全員取り押さえられ訓練は終了した。
東京支部代表の伊集院 凪は……
一番奥の部屋で寝ていた所を千束に拘束されたらしい。
「言い訳をさせて」
明らかに今回の戦犯はご活躍したテロリスト役の皆様に土下座をした。
「ふふふ、介錯はこの一条 楓にお任せ下さい」
本人曰く。
一週間にも及ぶ、超長期任務でまともな睡眠を取ることができておらず少し横になるつもりが寝てしまったとのこと。
最終的になんやかんや逆ギレして「リコリスに労働基準法はないのかー!」と司令室へ直談判に向かった後日。楠木指令にこっぴどく嫌味を言われ、2日の謹慎処分を言い渡されていた。
「それでは。お世話になりました錦木さん」
「うん。私も楽しかった」
そう言って千束は手を差し出す。
短い間だったけど一緒に訓練した仲間として何か感じ入るものがあったのだろう。
「なんだか、君とはまたどこかで会えるような気がするよ」
「ええ……私もです」
井ノ上も笑顔で握手に応じた。
その後、井ノ上は軽く頭を下げるとバスに乗り込む。
そしてそのまま京都へと帰って行った。
(そういえば、下の名前聞いてなかったな)
千束は去っていくバスの後ろ姿を見ながら心の中で呟くのだった。
思ったよりたくさんの方々に読んで貰って感謝感激です。
次のお話は本編とは関係ない息抜きの閑話となります。
まだまだ続くので引き続きよろしくお願いします。