リコリス・リコイル Brilliant Memories   作:ヤニカス

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6話

DAの地下にある射撃場は、普段からリコリスの出入りが激しい。

それだけこの場所は重要であり、ある意味で神聖な場所なのだが。

 

「あーっ! もう!なんで当たらないの!」

 

そんな場所に似つかわしくない声を上げて、千束は地団太を踏む。

 

「絶対、的が私の弾を避けてるって!」

 

んなわけない。

と凪は千束の隣で銃を構える。

 

一発、二発ーーーーそしてマガジンが空になるまで撃ち続けた後、再び銃を構えて同じ動作を繰り返す。

 

「ふふん。私、天才だからね」

 

そう言って凪はくるりと銃を回してホルスターに仕舞う。

どうだ?と言わんばかりの表情で凪は千束を見る。

 

「うっわ、残弾ど真ん中とかマジきっしょい」

 

「失礼な。ファースト・リコリスならこのぐらいできて当然だよ?」

 

きっぱり言い切った凪に「んなわけあるか!」と千束は反論する。

 

事実その通りで、拳銃で50メートル先の的を寸分違わず射抜くリコリスなんて凪以外に存在しない。

 

それだけ伊集院 凪という人物は特別であり、自他ともに認める天才の所以だった。

 

「そこは練習だよ。私だって最初からできたわけじゃないんだし……とは言っても千束と同じ年の頃にはできてたかな?」

 

「……うぐっ。この天才め」

 

「でもまぁ、千束はまだ成長期だし。これからもっと上手くなるよ」

 

「そ、そうかな?」

 

「うん、私が保証する。私の目に間違いはない」

 

「えへへ~」

 

そう言って千束は照れくさそうにはにかんでみせる。

 

その様子を見ていた凪は一瞬だけ寂しげな表情を見せたが、すぐにいつも通りの表情に戻る。

 

「とりあえず、今日は一発だけでもいいから真ん中に当てようね?」

 

「うぃーす」

 

返事だけは良いのだが、果たして本当に当てられるのか。と凪は内心不安になる。

 

「コツは、あんまり力まずに銃を体の一部だと考える。左手は優しく添えて右手は引き金を引くだけ」

 

千束が言われた通りに構えて撃つ。

弾は見事に的の中心を撃ち抜いた。

 

「おお!やったぜ!」

 

「おめでとう。さすが私の教え子」

 

凪はそう言って頭を撫でるが、当の本人は不服そうな顔をしている。

 

「なんか子供扱いされてるみたい……」

 

「実際まだ子供なんだし、別にいいんじゃない?」

 

「むぅ……。でもやっぱり私は先生みたいな、ハードボイルドな大人になりたいっていうか……」

 

先生ーーーーああ、ミカのことか。

元民間警備会社のオペレーターで最近DAの訓練教官にスカウトされた。

 

一度だけ遠目に見た事があるが筋肉質、大柄、無性髭の三拍子揃ったアフリカ系のハードボイルド中年男性。

 

「ええー、千束ってああいうのがタイプなの?」

 

「いやそういう訳じゃなくて、憧れというか目標というか……とにかくカッコイイじゃん」

 

あーそういえば千束の好きな映画にも

似たような役者がいたっけ。

確か最近見た『ダーク・タワー』だったか? リボルバーで悪魔をギッタンバッタン倒していくホラーアクションの。

 

「まあ、目標があることは良いことだ。応援するよ」

 

「うん!」

 

千束が元気に返事をする。

 

「それじゃあ、訓練を続けようか」

 

「うん!」

 

こうして2人の訓練は夕方まで続いた。

 

そして翌日ーーーーリコリスの訓練場に、千束の姿は無かった。

 

(そういえば千束は今日、検査の日だったっけ)

 

そんな事を考えていると。

 

「指令っ! 楠木指令! だからリコリスを囮にするような作戦なんて……」

 

「いい加減にしろミズキ。これは上層部の決定だ」

 

楠木指令とDAの職員が何やら言い争っていた。

 

(リコリスを囮にするような作戦……?)

 

凪はそれに耳を傾ける。

 

「……まだ10才にも満たない子供だっているのに」

 

「それがどうした。そもそもこの国が成り立っているのは歴代リコリスがその命を掛けて紡いだものだ。それを否定する気か?」

 

「……っ! それはっ」

 

「それに、知っているとは思うがリコリスには戸籍がない。つまり死んでも誰も悲しまないし、誰も探さない」

 

「はあ? だからってそんな捨て駒みたいにっ」

 

「なんら問題はない」

 

「っ! あんたって人はっ!!」

 

これはやばい。

ミズキが手を振り上げた瞬間、凪は動いた。

 

「やめなさい」

 

凪がミズキの腕を掴む。

 

「あんたもリコリスなら文句の一つでも言いなさいよ!!」

 

「いいの」

 

そう言って凪は首を振ると、ミズキは渋々手を下ろした。そして楠木指令と視線を合わせる。

 

「楠木指令……失礼します」

 

「ああ」

 

凪は楠木指令の前までやってくると、小さく頭を下げた。ミズキは歯痒そうに楠木を睨み付けている。

 

「ミズキ、お前のような半端者にDAは向いてないよ」

 

楠木指令はそう言い放つと、コートを翻しその場を後にする。

 

「手、放しなさいよ。もう暴れないから」

 

ミズキが涙目でじっと凪を睨みつける。

 

「うん。大丈夫、もう大丈夫だから」

 

ミズキの手を離した。

そして気まずそうに視線を逸らすと、ぽつりと呟くように口を開く。

 

「あんたも……その、ごめん」

 

「ん? なんで?」

 

「だってあんたもリコリスじゃん……」

 

「……ああ、その事」

 

凪は少し考えるような仕草を見せると、すぐに笑顔を向ける。

 

「私は幸せだよ。孤児だった私を拾ってくれたDAが好きだし、私に銃を教えてくれた教官も。それに……」

 

凪はふと遠くを見つめるように、視線を上げる。

 

「ミズキさんみたいな、優しい人がいるって知ってるから」

 

そう言うとミズキの腕が背中に回る。

 

抱きしめられた事に凪は驚いたが、ミズキの温もりを感じるようにそっと背中に手を回した。

 

「あんた、幾つなのよ……もう」

 

「17ですけど」

 

「まさかの同い年! てっきり年下かと思ってたわ」

 

「よく言われます」

 

凪はそう言って苦笑いした。

そしてミズキが体を離すと、今度は深々と頭を下げた。

 

「ごめん! 私ってばついカッとなって。確かに指令の言う通り向いてない

わこの仕事」

 

「そんなこと……」

 

「あるのよ! あーあ、ここに来ればいい男と巡り合えるような気がしたんだけどなあ!」

 

凪は首を傾げる。

 

確かにリコリスには男性職員も多少なりともいるのだが、平均年齢は高めだし、そもそも大半が既婚者か堅物のどちらかだ。

 

「リリベルなら若い男の人、たくさんいますよ?」

 

「え、なにそれ」

 

「男版のリコリスです」

 

唖然とした顔でミズキは凪を見る。

 

「それ本当? ハーレムじゃん」

 

「はい?」

 

「あんたも私の気持ちわかるでしょ?」

 

「いえ全然」

 

「即答かよ! もうやだこの子!!」

 

ミズキが頭を抱えて天を仰ぐ。

凪は首を傾げるばかりだった。

 

「まあいいや。とにかくありがとね。私、あんたらのこと誤解してたわ」

 

「誤解?」

 

「うん、てっきり冷たい殺戮マシーンみたいな人間なのかと思ってたし……」

 

「あながち間違ってはないですけどね」

 

凪が苦笑いすると、ミズキも似たような顔で笑う。

 

「でも、あんたって本当は優しいんだね」

 

「え?」

 

「だってさ……さっき、私を慰めてくれたでしょ? 『大丈夫』って言ってくれて嬉しかったわ」

 

そう言ってミズキは照れるように笑った。その笑顔があまりにも綺麗で、凪は少しだけ見惚れてしまう。

 

ミズキはすぐに仕事に戻って行ったが、凪にはどうしても気になることがあった。

 

(リコリスを囮にする作戦……か)

 

何やら嫌な予感がした凪は指令室へむかった。

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