リコリス・リコイル Brilliant Memories   作:ヤニカス

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7話

「君も楠木指令に用があるのかな」

 

指令室へ入ろうとした矢先に背後から声をかけられた。

 

振り返ると、そこにいたのはミカと呼ばれる訓練教官だった。

 

「ええ……まあ。はい」

 

「ワタシも同席して構わないかね」

 

逡巡してみたけれど、断る理由はない。凪はミカを司令室に招き入れた。

司令室の扉を開くと、楠木が書類を見ながら難しい顔をしていた。

 

「ノックをしてから入れ。伊集院 凪」

 

楠木が書類から目を上げずに言う。凪は謝罪する事なく楠木の目の前に立つ。

 

「例のリコリス囮作戦の詳細をお聞かせ願えますか」

 

「何だお前は。そんな事のためにわざわざ来たのか」

 

あまり寝ていないのかその顔は青白く、目の下には隈が出来ていた。

 

「はい」

 

凪が頷くと楠木は読んでいた書類を机に置き、椅子にもたれかかった。

そして目を瞑り腕を組む。

 

どうやら少し考えをまとめているようだった。

しばらくすると楠木はゆっくりと目を開けて言った。

 

「ラジアータの情報によれば数日後、国際テロリストと武器を積んだ貨物船が東京の江東区にある港に入港するらしい」

 

「テロリストの数と武装は?」

 

ミカが口を開く。すると楠木は首を横に振る。

 

「不明だ。故に小隊規模のリコリスを囮にし、敵の戦力を分散させる。その後、最大戦力を持って敵を殲滅する」

 

「なっ…………まるで捨て駒じゃないか」

 

「『まるで』ではない。捨て駒だよ」

 

ミカの言葉に対し楠木は眉一つ動かさずに言い放った。

 

その言葉を聞いたミカは歯軋りする。

 

「これは上層部からピックアップされた小隊のリストだ」

 

楠木はそう言って机に置いてあった紙を手に取り、それをミカと凪に渡す。

 

「千束も、ですか」

 

そこに載っていたのは、千束を含めまだリコリスとしては未熟な者ばかりだった。

 

「たとえ病人であろうとも上層部にしてみればただの駒でしかないのだよ」

 

楠木は溜息をつく。

 

「これで満足いく答えは得られたかね?」

 

話は以上だと言うように凪とミカを見る楠木。

 

「ダメですね。こんなの絶対失敗します」

 

しかし凪は納得がいかないようだった。声を上げて反論する。

 

「ほう、それなら代案があるのかね。伊集院 凪」

 

楠木が冷たい視線で訊ねる。

 

「私がそのテロリストをリコリスが到着する前に殲滅します」

 

凪は真剣な眼差しで言う。

 

ミカはその発言を聞き、呆れ半分驚き半分と言った表情をした。

 

「馬鹿をいうな。相手は数もわからない国際テロリストだぞ。いくらファースト・リコリスでも……」

 

「無理、ではないですよね。楠木指令」

 

ミカの意見を無視し、楠木の方を向いて答える。楠木は至って真剣な顔で考える素振りを見せ、ゆっくりと口を開いた。

 

「いいだろう。猶予は三時間だ」

 

楠木は低い声で淡々と話す。凪は静かに次の言葉を待った。

 

「たまたま誰かにテロリストが殲滅されていました。そんな夢物語が叶うといいな凪」

 

「ありがとうございます」

 

凪は楠木に向かって頭を下げた。それを見ていたミカが頭を押さえながら口を開く。

 

「ちょっと待ってくれ司令。そんな無茶な……」

 

「ミカ。5年前に起きたシージャック事件を覚えているかね」

 

「ああ、勿論。テロリスト36人が豪華客船をシージャックし、乗客乗員合わせて266人を人質に取った事件だろ」

 

「そうだ。そしてそれを解決したのは一人のリコリスだ」

 

楠木が言うとミカは目を見開いた。

 

「まさか……」

 

「そのリコリスは、伊集院 凪だよ」

 

「……まじかよ……」

 

そうこぼしたミカを見て、楠木の表情は和らいだ。

 

しかし、楠木はすぐに顔色を変え、

 

「いいか、絶対に生きて帰ってくるんだ。お前を失うわけにはいかないからな」

 

そう言って凪を見る楠木の目は優しいものだった。

 

「了解しました」

 

凪は頷き、司令室を出た。

ミカもその後に続く。

 

「まさか一人でテロリストを殲滅するなんて……それこそお伽話みたいだ……」

 

廊下を歩きながらミカが言う。

その表情は懐疑的だった。まるで信じられないと言っているようだった。

 

「あの時はボールペンしか無かったですし、それに比べたら楽勝ですよ」

 

凪は何てことないように言った。

「はははっ」っと受け流したミカが凪の頭に手を乗せくしゃくしゃと撫で回した。

 

「この通り、足は悪いが狙撃の腕はたしかだ。お前の夢物語、見届けてやるよ」

 

ミカはにかっと笑う。

 

「ありがとうございます」

 

凪もつられて笑顔になる。

 

二人は司令室を離れ、談話室に向かった。そこで今回の作戦の具体的な内容を話し合ったのだった。

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