マナは四年生として転校する。新学期と同時の入学で、今期の新入生と共に
組み分けをされるのだ。
「初めまして、マナ。私はヒマリア・ヴァーミリオン、新しいお母さんよ。
でも好きなように呼んで頂戴。おばさん、どんなふうに呼ばれても構わないから」
ヴァーミリオン邸に入るとジークの母、ヒマリアが出迎えてくれた。部屋の奥から
食欲をそそる良い香りがする。その香りに釘付けになっていると分かったらしく
ヒマリアはマナの為に家族内でパーティーを開くと言った。
「もう少しで完成するから、楽しみにしていてね。ウィリアムも、もうすぐ
帰って来るみたい」
ヒマリアとウィリアムがマナの新しい両親になる。ヒマリアもウィリアムも
魔法使い。ヒマリアはイルヴァーモーニー魔法学校に通っていたらしい。
ウィリアムはホグワーツ魔法学校の卒業生。ホグワーツの戦いの後、血筋の差別が
顕著だったホグワーツ内ではその差別が非常に少なくなって来た。差別する者が
阿保らしく見える程に。予知された黒髪の魔女。
ウィリアム・ヴァーミリオンが帰って来た。
「やぁ、我が娘!ようこそ、ヴァーミリオン家へ。私たちは君を心の底から
歓迎するよ。堅苦しい態度も無しにしよう。それにもうすぐ入学するんだ。
ワクワクするだろう?否、ドキドキかな。ハッハッハッ、どっちでも
構わんがな」
「こういう人なんだ。これぐらいお気楽なのが丁度良いだろ」
ジークの言葉に肩の荷が下りたような微笑を顔に浮かべながら頷く。ここが
新しい家族。ここでは彼女の過去を知るような人間がいない。新天地で彼女が
過ごすのは平和だけでは済まされない波乱の学生生活。そして学生には
とても厳しい戦いだった。
入学当日、彼女は騒動に巻き込まれることになってしまった。彼女だけではない。
そう、予言された二人はこの事件で出会うことになる。引き裂こうと画策して
起こした事件は皮肉にも二人を引き合わせるキッカケになったのだ。
「これは、どうなってるんだ」
予定の時間になっても列車の姿が無い。9と3/4番線から発車するホグワーツ特急で
他の生徒同様に学校へ向かうはずだったが、彼らの姿も無いのだ。マナも困惑
しているが、それ以上に案内役を任されているジークが混乱していた。
「駅員さん、ホグワーツ特急は行ってしまったのかな」
近くにいた駅員に声を掛けた。
「えぇ。ほら見てください、時計を」
見上げると時計がある。
「もう出発の時間は過ぎていますよ」
「何?」
ジークは自分の腕時計に視線を落とした。
「時間、間違ってるんじゃないのか」
「そんなまさか。どの生徒も遅刻などしておりませんし、時間の間違いなんて
ありませんよ。次に来るのは明日になってしまうんじゃないですかねぇ」
「そうか…ありがとう」
ここで駅員に八つ当たりをしても仕方ない。別の方法を探す必要がありそうだ。
「あ、待ってください。良ければ動かしますよ。特別にね。他にもいたんです。
ホグワーツ特急の始発に送れてしまった人が」
「良いのか?」
駅員の機転によってどうにか行くことが出来そうだ。列車の中には他に
人がいるようだ。ジークはその人物を見た。彼もジークに気付き、微笑を浮かべ
手を振ってくれた。ジークも振り返そうと思ったが、隣にいるマナに
名前を呼ばれて視線を落とす。
「どうしたんですか?」
「いいや、何でも…」
ジークは件の駅員に目を向ける。来た時から直感が告げている。何か可笑しい、
怪しいぞ、と。列車に乗り込み、マナは扉越しにジークに大きく手を振った。
彼女は学校生活を楽しみにしている様子。水を差すことが出来なかった。本当は
言うべきだろうが…既に列車は動き出していた。彼も手を振り返す。
「…さて、あの列車は本当にホグワーツに行くんだろうな?」
「はい?」
駅員が首を傾げた。明らかに彼の目が泳いでいる。
「そうに決まってるじゃないですか!私は駅員ですぞ!?」
「何かをポートキーにしていたな?それは何だ。どうやらアンタは嘘が吐けない
らしいな。それとも俺を舐めているのか。純粋無垢で危機感のない人間だと」
二人の間に流れる空気は重い、暗い。駅。だが何処に彼らは隠れていたのだろうか。
駅員たちがゾロゾロと現れた。先ほどまでの穏やかな表情は消え、戦闘者としての
顔を見せる。瞬間、駅で魔法が飛び交う。
列車の中には全く人気が無いのだが、たった二人だけいた。そして二人は
出会い、向かい合って座っていた。相手は今年からホグワーツで闇の魔術に対する
防衛術の教授として就任するアルフォンス・ポッターと言う男。聞けば
彼はホグワーツの戦いで功績を残したハリー・ポッターの曾孫に当たる人物。
「自分の曽祖父の事は自慢だよ。僕は彼ほどの功績は無いけどね」
アルフォンス…アルスは一年前まで闇祓いとして活躍していた。それだけの
経歴、そして実力があるのは事実。
「君の事も珍しいよ。転校生は滅多にいないからね」
「そうですよね。あの、アルフォンスさんは学生時代はどの寮だったんですか」
「長いから僕の事はアルスで良いよ。僕はハッフルパフだった。でも正直、
何処の寮になっても良い生活が出来るはずさ。そういえば、君の名前を
聞いても良いかな」
「マナ・シャーロックです」
それが彼女の名前だ。シャーロックと言うのは父方の姓。父親はイギリス人の
ハーフで母親は日本人。クォーターだが彼女はずっと日本で暮らして来た。
アルスはシャーロックと言う名前に何か思うところがあるようだ。