こうして楽しく話していても、学校生活が始まればアルフォンス・ポッターとの
関係は教師と生徒になる。それでも今は談笑していたい。
「…妙だな」
不意に窓の外に目を向けたアルスは呟いた。
「曇っているようにしか見えないのですが…確かに嫌な感じ…本当に
この先に進んで大丈夫なのでしょうか」
「大丈夫なわけが無い。この列車、多分ホグワーツ特急では無いね」
「えぇ!?」
そう感じつつも乗ったアルスは腰を上げる。何か危険な事が待ち構えている
かもしれない。
「君はここにいてね。物音は立てないように」
彼はマナにマントを被せた。
「これは…?」
「透明マント…の、贋作。使い続ければ効力は薄れてしまうけどね。一度も
使って無かったから」
このマントを被っていると周りから姿が見えなくなるのだ。物音さえ出さなければ
他人が認識することは無い。
「僕が様子を見て来るよ」
「そんな、危険です!」
勢いのあまり立ち上がったのと同時に扉を開き、待ち構えていた敵を即座に
武装解除させたアルス。一瞬の出来事でマナは開いた口が塞がらない。
謙遜しているのではないか。彼の実力は本物。だが彼は突如として戦線から
身を退いた。その理由を聞く、彼の心に踏み込むのは無粋な真似。
彼が出て行ってからも大人しく待っている。というのも頻りに人が行ったり来たり
しており、戦ったことのないマナはただ恐怖に耐えながら、待つしか無かった。
彼女がそうすることを確信していたアルスは先頭車両へやって来た。
「君が、全てを仕組んだ魔法使いかな」
アルスは運転席に居座る人物に確認する。相手はあっさり認めた。
「噂になっていますよ。稲妻の傷の男と黒髪の魔女。思い当たる節は片付けるべき
かと思いましてね。これも主の為、どのような方法を用いて隠しているか
分かりませんが、私にとってはアンタたちの命など何も意味がない」
「ッ、そうは行かない!」
「―コンフリンゴ」
「―プロテゴ!」
二つの魔法が同時に発動した。この事件は後に大々的に魔法界に広められる。
闇の復活、その序章として。爆破された列車は元々運行できない、使われていない
列車だったはずだ。何故動かすに至ったのか。アルスが対峙した男が忠誠を誓う
人間がそれだけの権力を持っているのだ。
「うわぁぁぁぁぁぁッ!?」
破壊されたことで透明マントで隠れていたマナも衝撃を受けていた。場所が場所で
高所から二人は落下することになってしまったのだ。
「マナ!手を伸ばして!」
アルスは伸ばされた手を掴み、自分の方へ引き寄せる。
「―レビコーパス(身体浮遊)」
杖を振り、魔法を使う。二人の体は地面に叩き付けられることなく、ふわりと
着地する。着地したのはいいが、ここは何処なのだろうか。
「かつての戦いで少しばかりホグワーツの敷地に変化があるんだ。多分、ここは
既にホグワーツの敷地内」
「嘘…!?ここが学校って」
学校の敷地にある森。禁じられた森では無い、誰でも自由に出入りが出来るらしい。
二人がどうにか、否、奇跡的にホグワーツの敷地に入ることが出来た頃。
駅では悪党を全員捕まえたジークは、遅れてやって来た上司と顔を合わせた。
「とんでもないことに巻き込まれたな、ジーク」
「俺よりも妹の方が心配ですけどね…ヒューゴさん」
ヒューゴと呼ばれた男は苦笑いをする。
「一応ホグワーツへ連絡は入れてあるんだろう。それに聞いた話じゃあ、アルスも
同じ列車に乗っているんだ。何も無いとは言わないが、妹は安全だと思うぞ」
このヒューゴと言う男、フルネームはヒューゴ・マルフォイ。不思議と人が
揃い始めている。かつてホグワーツの戦いに深く関わった魔法使い…その子孫たちが
一所に集まるかもしれない。元々純血思想を掲げていたマルフォイ家はその
戦いを機に思想を取り消し始めたのだ。彼らと同様の行動に出る家は多くなった。
今の時代、血筋による優劣は無い、ナンセンスで愚かな行為とされている。
「ですけど、彼らは…」
「あぁ。同じかどうか彼らに吐かせた方が良い」
意識がある一人に顔を向けるも相手は二人に蔑んだ目を向けていた。
「あの方を裏切るつもりか、マルフォイ家の人間め!」
「ヴォルデモートか?俺たちにはもう関係のない人間だ。お前たちは彼の復活を
願っているのか」
「違うな」
「だろうな」
至って冷静なヒューゴは己の推測を口にした。
「魔法界の浄化。ホグワーツの戦い以前の姿を取り戻すつもりか。馬鹿げている。
血統だのなんだのって、そんな思想はもう時代遅れだ。伝統を重んじること自体は
悪くないが、やり方を間違っている」
彼の家はかつて純血思想を重んじており、曽祖父の父は闇の帝王に服従していた。
随分狡猾な人間だったらしい。祖父は曽祖父の事、ホグワーツの戦いの事もあって
ヴォルデモートの息子と勘違いされ、憎まれていたようだ。ヒューゴの事も
闇側の人間として卑下する者が少数ながらいる。
今も尚、差別があるようだ。完全に消すには至っていない。
「学校から連絡が来た。どうやら二名が中々クレイジーな方法で学校に
到着したようだよ」
「そうですか。無事なら、良かった」