異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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101 製造

 

 

 

 

 

ベイル

探索者ギルド

 

 

 

 

 

 いつものように閑古鳥が鳴いているベイルの探索者ギルドで、午後の分の売却を済ませる。

 そして、いざというときのため、セリーのアイテムボックスへ入れておいてもらう用に、滋養丸十個、滋養錠一個、強壮丸十個、柔化丸十個、そして抗麻痺丸十個を購入した。

 そして、この後ミートスパで使用する竜の皮も併せて購入しておく。

 毒消し丸は俺のアイテムボックスに二十個以上あるので、それを分ければいいだろう。

 

 

 

 支払いを終え、カウンターから離れたところでセリーに声を掛けた。

 

「今購入した薬を渡しておくので、アイテムボックスにしまっておいてくれ。これの使用についてはセリーの判断に任せる」

「あの、滋養錠を購入されていましたよね? こんな高価な物を私の判断で使用していいのですか?」

 

 セリーはこれを得るために奴隷落ちをしているはずだ。

 まあ、兄の怪我だけではなく、家の経済状況を立て直すという意味もあったのだろうが、彼女の事情を考えると、使用することに躊躇してしまう気持ちも理解できる。

 しかし、一秒を争う場面ではその躊躇が命取りとなってしまう。

 

「金なんてまた稼げばいいんだ。しかし仲間の命は何にも代えることが出来ない。絶対に躊躇することがないようにな」

「セリー、大丈夫です。私も迷宮ではご主人様から薬をお預かりしていますが、いざというときには迷わず使用するつもりです。あなたも迷ってはいけません」

 

 セリーがロクサーヌの顔を見ると、彼女は微笑みながら力強く頷いた。

 そして、セリーも決意を固めたように頷きを返す。

 

 我がパーティーの作戦は常に、いのちだいじにだ。

 ぶっちゃけ六千ナール程度ならすぐに稼ぎ出せる。

 それを惜しんで命を失うなんてことになれば、悔やんでも悔やみきれない。

 セリーにも早いところ、この環境に慣れてもらわないと。

 

 

 

 滋養丸十個、滋養錠一個、強壮丸十個、柔化丸十個、抗麻痺丸十個、毒消し丸十個を渡し、セリーがアイテムボックスに収めたのを確認して、二人に声を掛ける。

 

「では、クーラタルに戻って夕食の買い物をしよう」

「ふふ。今日は唐揚げとハンバーグとミートスパですからね。今から楽しみです」

 

 ロクサーヌさん、めちゃめちゃ嬉しそうじゃないですか。

 でも、大好きな娘に料理を期待されるのって、幸せなことだよなぁ。

 

「あの……、それは一体?」

 

 聞き馴染みがないであろう単語に、セリーからは戸惑ったような声が漏れる。

 

「唐揚げもハンバーグも、それからミートスパもご主人様が作ってくださる、とても美味しい料理です。きっとセリーも気に入ることでしょう」

「そうなのですか?」

「ええ。間違いありません」

 

 ロクサーヌの言葉を聞いてセリーの表情も緩み、どういった料理なのか二人で話し出す。

 かわいくて微笑ましい娘たちだわぁ。

 

 でもまあ、いつまでもここに居るわけにはいかない。

 

「さあ、戻ろう」

 

 二人に声を掛け、ワープゲートを展開する。

 

 

 

 

 

クーラタル

 

 

 

 

 

 買い物をしつつ町の中心地までたどり着くと、そこで営業している金物屋を見て思いついた。

 

「今後色々付き合いもあるだろう。世話役にセリーのことを紹介しておくか」

「はい。良いお考えだと思います」

 

 俺たちの会話を聞いて、キョトンとした表情を浮かべているセリーへ説明する。

 

「家がある地区は六区になるのだが、その世話役があそこの金物屋を切り盛りしているオネスタさんなのだ。今後様々なことで世話になるはずだからな」

「なるほど、そういうことでしたか。それでは是非ご挨拶をさせてください」

「うむ。では行こう」

 

 二人と共に金物屋へ足を進めた。

 

 

 

 

 

クーラタル

金物屋

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませ」

 

 店に入ると、いつものように快活な声が出迎える。

 彼女は俺たちの姿を確認すると、言葉を続けた。

 

「あら? 何かお探しですか?」

「申し訳ない。買い物ではないのだ。今日からうちに新しく加わった者がいてな。その挨拶だ」

 

 後ろに控えていたセリーを促すと、彼女は前へ出て口を開く。

 

「は、はじめまして。今日からご主人様のところでお世話になることになりました、セリーと申します。ご迷惑をおかけすることもあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします」

 

 そう言うとぺこりと頭を下げた。

 

「まあ。ロクサーヌさんもそうですが、セリーさんもとてもかわいらしいこと。本当にアユムさんは隅に置けない方ですねぇ」

 

 オネスタはニヤニヤ笑いながらこちらに顔を向ける。

 若者をからかうつもりなのだろうが、こっちとら中身は四十五のおっさんだ。動揺などせんぞ。

 

「うむ。二人は俺が今まで目にした中で一、二を争うほど愛らしい女性たちだ。それに迷宮へ入っても有能で、本当に俺は幸運に恵まれている」

 

 キッパリそう告げると、声が聞こえてきた。

 

「ご主人様……。幸運に恵まれているのは私の方です……」

 

 振り向くと、瞳を潤ませ、はにかんだような笑みを浮かべているロクサーヌの姿が。

 

「ありがとうございます……。そう言っていただけて、とても嬉しいです……」

 

 再び前を向くと、セリーが感激したようにこちらを見つめている。

 

「……本当に隅に置けない方ですねぇ」

 

 呆れたようなオネスタの言葉が、俺たち三人の間を通り抜けていった。

 

 い、いかん。話題を変えなければ。

 

「セリー、朝食を作るときにグルグル回した器具があっただろう? あれを作ったのが彼女の旦那さんだ。ものすごい腕を持つ鍛冶職人で、今も別の器具の製作を依頼している」

「そうだったのですか! あんなにすごいものを作るなんて、とても腕の良い鍛冶職人なのですね!」

 

 セリーは俺の言葉を聞くと、キラキラした目でオネスタを見つめる。

 

「ありがとうございます。ご依頼いただいたものに手を焼いている亭主も、それを伝えたらきっと励みになることでしょう」

 

 すまない。無茶な注文をしてしまい、本当にすまない。

 でもほら、フープロの権利を譲ったし、そこは持ちつ持たれつってことで、ひとつ。

 

「ところで、みじん切り器の調子はどうですか?」

「うむ。本当に素晴らしい出来栄えで重宝している。彼にもその旨を伝えていてもらえるか」

「承知いたしました。それにしても、納品した物に不具合がないようで一安心です」

 

 マジでケチの付けようのない程の逸品だったからな。

 今後も何か思いついたら依頼することになるだろう。

 このまま良い関係を築いておかなければならない。

 

 

 

 その後、女性三人は楽しそうにおしゃべりを続けていたが、今日はこのあと歓迎会だってあるのだ。いつまでもここにいるわけにはいかない。

 

 様子をうかがい、会話が途切れたタイミングで強引に声を掛ける。

 

「では、今後ともよろしく頼む」

 

 その言葉を聞いて、オネスタはセリーの方を向き口を開く。

 

「これから地域活動等をお願いすることもあるでしょう。セリーさん、よろしくお願いしますね」

「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 二人が言葉を交わしたところで告げる。

 

「では、そろそろ失礼しよう」

「はい。わざわざありがとうございました」

 

 世話役に見送られながら、店を後にした。

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 自宅へ戻ると装備品をアイテムボックスへしまい、キッチンへ移動する。

 そして、買ってきたものをしまい込み、唐揚げの下準備をしておく。

 ロクサーヌの方もポトフの準備を行っており、セリーは俺たちの手伝いをしてくれていた。

 

 

 

 それが済むと、今度は修行だ。

 物置からそれぞれの得物を取ったところで、アイテムボックスに入ってある強権のレイピアのことを思い出し、それをしまい込んだ。

 

 そういえば、ロクサーヌの竜革の靴にスキル結晶を融合していなかった。

 玄関で靴を履き替えるときにやっておかないと。

 

 ……ここまでめちゃくちゃスムーズにきているんだ。ワンチャン、ダガーや皮装備も作れないか?

 製造可能になる条件がレベルやパラメーターなら、それを満たしていそうだよな。

 MP枯渇にさえならなければ、安い素材を失うだけでたいした問題にはならない。

 試すだけ試してみよう。

 

「あ、あの、ご主人様? 何かありましたか?」

 

 セリーをじっと見ながら考え込んでいると、彼女は恥ずかしそうに問いかけてきた。

 

「玄関でロクサーヌの竜革の靴に、牛とコボルトのスキル結晶を融合しようと思っていたんだ」

「はい。おまかせください」

 

 俺の言葉を聞いて、彼女は余裕のある表情で頷き答える。

 

「それが終わったら、ダガーの製造をしてみよう」

「えっ!」

 

 しかし、次の言葉に絶句し固まってしまった。

 

「もちろん無理をさせるつもりはないけど、おそらく問題ないと思う」

「そうなのですか?」

 

 話を聞いていたロクサーヌが尋ねる。

 

「うん。獲得経験値二十倍をつけ、九階層の魔物を魔法一発で、次から次へと倒していったからね。おそらく、普通の人が数年かけて得る経験が入っているはずだ」

「はい」

「通常ダガーを製造できるようになるまでには、半年から一年くらいかかるということだけど、その分の経験は間違いなく得ているはず。なので問題ないと思う」

「なるほど。確かにそうかもしれませんね」

 

 ロクサーヌは納得したように頷いた。

 

「で、でも、ダガーを作れるようになるまでには、ミサンガを大量に作り続けなくてはならないはずです……」

 

 しかし、セリーは納得できなかったのだろう。否定の声を上げた。

 

「その説は間違いだとまでは言えないけど、正確ではないんじゃないかな」

「そうなのですか?」

 

 セリーの言葉に頷きを返し、話を続ける。

 

「おそらく、製造できる装備品はレベルかパラメーターによって、決定されていると思う」

「レベルかパラメーター……」

 

 彼女の口から、思わずといったように言葉が漏れた。

 

「ダガーを作れるようになる条件は、ミサンガを大量に作る修行をする必要があるのではなく、レベルを上げるため、もしくはレベルを上げてパラメーターを強化するため、大量のミサンガを製造して経験を獲得する必要があるのではないかな」

 

 日々の行動でも経験値を取得しているらしいし、迷宮探索と合わせて装備品の製造でも経験値を稼ぐことでレベルが上がり、次の装備品が製造できるようになるのではないだろうか。

 

「そんなことが……」

 

 眉間にしわを寄せて考えているセリーへ問いかける。

 

「おそらく問題ないと思うけど、失敗したところでたくさんある素材のうち一、二個なくなるだけだしね。どうかな? 挑戦してもらえないかな?」

 

 彼女は決意のこもった瞳でこちらを見つめると、静かに答えた。

 

「……ご主人様が信用してくださるのです。ダガーの製造に挑んでみようと思います」

「ありがとう、セリー。でも無理をさせるつもりはないから心配しないでね」

「セリーは本当に偉いです。ご主人様の期待に応えられるよう頑張ってください」

「はい、ありがとうございます」

 

 ぴょこんと頭を下げたセリーを見ながら考える。

 

 ダガーの後は皮シリーズの製造をお願いするつもりだってことは、今は言わない方がいいんだろうなぁ。

 

 コボルトナイフを二つとブランチを一つ、それから皮二枚をアイテムボックスへ放り込んでおく。

 

「じゃあ、玄関へ行こう」

「はい」

「かしこまりました」

 

 

 

 玄関へ移動し、セリーが毘盧帽を装備すると、ロクサーヌは靴箱から竜革の靴を取り、彼女へ差し出した。

 

「お願いしますね」

「はい。頑張ります」

 

 俺の方もアイテムボックスから牛とコボルトのスキル結晶を取り出し、彼女へ手渡す。

 

「よろしくね」

「はい。おまかせください」

 

 おっ、これまでの成功体験のおかげか、融合に関しては割りと自信があるようだ。

 

 セリーは受け取ったスキル結晶を竜革の靴に押し当てると、すぐさま詠唱を開始し、あっという間に融合を終えてしまう。

 

駿馬の竜革靴 足装備

スキル 移動力増強

 

 うん。問題なし。

 それにしても、何の気負いもなくテキパキと融合してしまったぞ。

 

「さすがセリーです。今日鍛冶師になったばかりなのに、もう慣れたものですね」

「いえ、そんなことは……」

 

 彼女はロクサーヌの言葉に照れたような表情を浮かべ、言葉を返している。

 

 まあ、今日だけでスキル結晶の融合に五回も成功しているしな。

 スロットの付いた装備品の数を考えると、普通ならそれだけ成功するためには、ものすごい数の失敗をするはずだ。

 だとすれば、セリーが自信を持ったり、慣れたように融合をこなすのも当然か。

 

「じゃあ今度は製造をやってみよう」

「は、はい」

 

 声を掛けるとセリーの顔が強張った。

 それでも、こっちについては緊張するんだな。

 

 毘盧帽を受け取り、キャラクター再設定を開いてヤールングレイプルと入れ替える。

 セリーが装備している間に、アイテムボックスからコボルトナイフ二つとブランチ、それから皮を取り出しておく。

 

「気負う必要はないからね。さっき言った通り、失敗したら失敗したで全然問題ないよ」

「お気遣いありがとうございます」

 

 セリーは俺の言葉に笑みを返すと、素材を受け取る。

 

「いきます」

 

 彼女は、一声発し詠唱を開始した。

 

「今ぞ来ませる御心の、言祝ぐ蔭の天地の、武器製造」

 

 へー。武器製造の方も詠唱は同じなんだな。

 今日一日で何度も耳にした詠唱に続き、彼女の手のひらからまぶしい光が放たれる。

 そして、その光が収まるとセリーの手の上に、鞘に収まった短剣が載っていた。

 

ダガー 片手剣

スキル 空き

 

「ご主人様、やりました!」

 

 彼女は満面の笑みを浮かべながら顔を上げ、キラキラした瞳でこちらを見つめてくる。

 おいおい。めちゃくちゃかわいいな、君。

 

 それにしても、武器製造でも最初に作ったものがスロット付きか。

 

「おめでとう。見事に成功させたね。しかもこれにはスキルスロットが付いている。ミサンガだけではなく、ダガーの方もスロット付きなんて、セリーは間違いなく大成するよ」

「いえ、そんな……。この結果はご主人様のおかげです……」

 

 恥ずかしそうにモジモジしている様子が、とんでもなく愛らしい。

 こんな娘たちと暮らせるなんて、俺は信じられないほどの幸せ者だわ。

 

「おめでとうございます。これにもスロットが付いているなんて本当にセリーはすごいです。今後もご主人様のお役に立てることでしょう」

「はい、私も鍛冶師としてお役に立てそうで、安心しました」

「ふふ。今日一日でたくさんの装備品を作り、いくつものスキル結晶の融合に成功したあなたなら、間違いありません」

「ロクサーヌさん。何度も励ましていただき、ありがとうございました。とても嬉しかったです」

 

 楽しそうに話しているとこ悪いんだけど、もう一個あるんだよなぁ。

 

「セリー、MPはどう?」

「MPですか? ミサンガより消費した量は多かった気がしますが、特に問題はなさそうです」

 

 問いかけてみると、不思議そうにしながらも答えてくれた。

 やはり製造難易度によって、消費MPに差は出るのか。

 まあ、そりゃそうだわな。

 

 だが、本人が問題ないと言っているのだ。

 このまま次にいってしまおう。

 

 アイテムボックスから皮を取り出し、セリーに差し出しながら告げる。

 

「じゃあ、次は皮のミトンか皮の帽子、もしくは皮の靴に挑戦してみよう」

「えっ!」

 

 もうワンステップ上がるとは思ってもいなかったのだろう。それを聞いて彼女は絶句してしまった。

 

「同じことを何度も言うけど、失敗しても全然問題ないから、軽い気持ちでチャレンジしてみて」

「えっと、あの……」

 

 セリーは助けを求めるように、ロクサーヌの顔を見る。

 

「ご主人様がそうおっしゃるのなら、何も問題ないでしょう。安心して挑んでください」

 

 助けてほしかったのだろうが、その娘さんは俺よりスパルタだぞ。

 

 俺たちの様子を見て、観念したように皮へ手を伸ばす。

 

「挑戦してみます……」

 

 自分の言葉で小さくてかわいらしい娘が暗い顔をするのって、めちゃめちゃ罪悪感が湧くぞ……。

 

 セリーなら、今日した説明で問題ないと理解しそうなものだが、これまでの常識が思考の邪魔をしているのかもしれない。

 でもまあ、そのうち慣れるだろう。

 

「本当に失敗してもいいから、気負わないでね」

「あの、三つのうちどれを作ればいいですか?」

 

 うーん……。ぶっちゃけどれでも大差ないんだが、これから製造へ挑む彼女へ、そんなことを言うわけにはいかない。

 

「それじゃあ、皮のミトンを作ってもらえる?」

 

 物置にある装備品の中に腕装備はないからな。

 使うことはないだろうが、まあ念のためだ。

 

「かしこまりました」

 

 セリーは覚悟を決めたのか、表情を引き締め頷く。

 大きく息を吐きだし、そして深く空気を吸うと詠唱を開始する。

 

「今ぞ来ませる御心の、言祝ぐ蔭の天地の、防具製造」

 

 彼女の手のひらから今日何度も目にした光が放たれ、それが徐々に治まるとそこには先ほどまではなかった、ミトンが出現していた。

 

皮のミトン 腕装備

 

 スロットはなしか。まあ、そう上手くはいかないわな。

 

「セリー、お疲れ様。やっぱり問題なかったね。自分たちで板が手に入れられるようになるまでは、ミサンガとダガー、それから皮装備を作っていこう」

「はい。失敗しなくて安心しました。それに、これから装備品の売却でご主人様のお役に立てるのがとても嬉しいです」

 

 彼女ははにかんだような笑みを浮かべながら、俺の心を射抜くような言葉を発する。

 本当にかわいらしく、いじらしい良い娘だよなぁ。

 どうしてもロクサーヌと差をつけてしまうだろうが、セリーのことも大切にしなければ。

 

「ふふ。良かったですね、セリー。これからも二人でご主人様を支えていきましょう」

「はい。ありがとうございます、ロクサーヌさん」

 

 二人の様子を眺めながら、考えを巡らせる。

 

 これ、皮の鎧や皮のジャケットもいけるんじゃないのか?

 

 確か棍棒の次は、再び皮だけで作れる装備品だったはずだ。

 装備品の製造がレベルやパラメーター依存なら、おそらく棍棒をスキップすることは可能だろう。

 ダガーのように、失敗したらなくなってしまう燃料となる素材を使用しないため、たいしたリスクはない。

 

 

 

 よし。まずはMPの残量と必要な素材を確認してみるか。

 

「セリー、MPの残りはどんな感じ?」

「申し訳ありません。これ以上は厳しいかもしれません」

 

 あちゃー。まあ、しゃーない。

 修行のあと風呂を沸かすためのMP回復をするときに、セリーにもデュランダルを振るってもらおう。

 

「大丈夫。無理をすることはないからね」

「はい。ありがとうございます」

 

 笑顔で返事をする彼女へ、さらに質問を重ねた。

 

「じゃあ次に試す、皮の鎧と皮のジャケットの製造に必要な素材と、製造難易度はどんなもんかな?」

「えっ……」

 

 問いかけたところ、彼女の表情が固まり絶句した様子が見て取れる。

 

 あっ、ヤバっ。無理難題をふっかけるつもりだと思われたか!?

 

 マジで無理をさせるつもりはないから!

 パーティーメンバーには心穏やかに過ごしてもらえるよう努めるつもりだから!

 

「いや、あくまでも一度試してみるだけで、失敗したら怒るとか、成功するまで繰り返させるとか、そういったつもりはまったくないから! 安心して!」

 

 慌てて言葉を付け足すと、困ったようにこちらを見ているロクサーヌと目が合う。

 

 すみません。フォローをしてもらえないでしょうか……。

 

 アイコンタクトを理解したのか、彼女は一つ息を吐きだして頷きを返し、セリーへ声を掛けた。

 

「セリー。ご主人様はあなたがどこまでできるのかを確認しておきたいだけで、本当に無理をさせるつもりはないのです。絶対に私たちの信頼を損ねるようなことをなさるお方ではないので、心配することはありません」

「あっ……」

 

 ロクサーヌの言葉を聞いた彼女は声を漏らす。

 そして、俺の方に顔を向けたので、柔らかい表情を心掛けながら頷いておく。

 

「また、ご主人様のことを疑ってしまいました……。本当に申し訳ありません……」

 

 落ち込んだようにそう言ったセリーへ、言葉を掛ける。

 

「俺の言い方に問題があったんだから、全然気にすることはないよ。ごめんね、セリー」

「そんな! ご主人様のことを信用していなかった私の方が悪いのです!」

 

 悲しげな顔でそう口にした彼女を見て、申し訳なさが湧き上がってきた。

 

 なまじ原作での皮肉屋でやさぐれているセリーを知っているため、無意識のうちにこのくらいなら大丈夫だろうと、思いやりに欠けた行動をとってはいないだろうか?

 ロクサーヌに対しては、原作とは違う俺だけのロクサーヌという意識を、常に持ち続けている。

 セリーに対しても好きなキャラではなく、大切な女性として扱っていかなければならない。それを肝に銘じておこう。

 

 ソファーから立ち上がりセリーへ近づいて、その小さな体を抱きしめる。

 

「いや。俺の配慮が足りなかったんだ。本当に申し訳なかった。でも、絶対に無理なことをさせるつもりはないし、君のことを無下に扱うつもりもない。とても大切な女性だからね」

 

 すると、俺の体に腕が回され、彼女がぎゅっと抱きしめてきた。

 

「私の方こそ信用することが出来なくて、申し訳ありませんでした。そして、大切だと言っていただけて本当に嬉しいです。今日一緒に過ごしたご主人様は、商館に預けられているときに想像していたよりも、ずっとずっと素敵な男性でした。私はとても幸せです」

 

 ロクサーヌに見守られながら、そのままセリーを抱きしめ続ける。

 

 

 

 どちらともなく体を離すと、朱に染まったセリーの顔には笑みが浮かんでおり、不安も解消されている様子だった。

 

 よし。皮の鎧と皮のジャケットについては後回しにして、ボチボチ修行を開始しよう。

 

「それじゃあ、庭へ出て修行を始めようか」

「かしこまりました」

「よろしくお願いします」

 

 返事をした二人へ頷きを返し、外へ出る。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

探索者Lv37 英雄Lv32 僧侶Lv15

装備 硬革の帽子 頑強の竜革鎧 硬革のグローブ 硬革の靴 身代わりのミサンガ

 

BP振分 残BP:0

キャラクター再設定:1

サードジョブ:3

必要経験値二十分の一:63

詠唱省略:3

鑑定:1

ワープ:1

MP回復速度二十倍:63

 

所持金:1,211,116ナール

 

春の32日目

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