異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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102 しごき

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

「ロクサーヌ、今日からセリーが加わるけど、修行の内容はどうしたらいいと思う?」

 

 庭へ出たところで問いかけると、彼女は少し考え口を開いた。

 

「そうですね……。修行内容の前に、まずはセリーの実力を確認した方がいいでしょう。私たちで模擬戦を行いますので少々お待ちいただけますか?」

 

 それもそうか。どうせ、俺たち二人をロクサーヌがしごくという形になるんだ。なら、その方がいいな。

 

「えっ? あの?」

「では、始めましょう。セリー構えてください」

「二人とも怪我をしないようにね」

 

 向かい合っている二人から少し離れ、声を掛ける。

 

 構えたのを確認すると、ロクサーヌはものすごい速さで距離を詰め、木剣を振るう。

 セリーは全く反応することが出来ず、それをまともにくらってしまった。

 

 うわぁ……。めちゃくちゃ痛そうだぞ。

 普段の俺も傍からは、ああ見えているんだろうなぁ。

 

 そして、ロクサーヌはそのまま容赦なく追撃を加えている。

 

 それにしても、彼女の動きがいつもに比べてだいぶ速い。

 おそらく、移動力増強の効果によるものなのだろう。

 原作ではエンカウント時のみという設定だったが、やはり対人戦でも有効なのか。

 歩雲履やタラリアには敏捷二倍や敏捷五倍も付いていたため確証は持てなかったが、これではっきりしたな。

 

 

 

 考えを巡らせている間にダメージが蓄積されていたのか、ロクサーヌの強烈な一撃をお腹に受け、セリーが倒れてしまう。

 大急ぎで駆け寄り、彼女へ向けて手当てを念じる。

 

 

 

「ご主人様……。体力の回復をしていただきありがとうございます……」

 

 何度か手当てを使用すると、セリーは立ち上がって礼を述べた。

 しかし、その表情は曇っており、自分の不甲斐なさに悔しさを覚えている様子がうかがえる。

 

 いやいやいや。ロクサーヌと比較してへこむ必要なんてないから。

 彼女はバグキャラ中のバグキャラで、ガチで世界一かもしれない娘さんだから。

 

「セリー。落ち込むことはないよ。俺も毎日同じようにロクサーヌからしごきを受けているんだ。これから一緒に頑張っていこう」

「あんなにすごい動きをしていた、ご主人様もなのですか!?」

 

 その言葉を聞いて相当驚いたのだろう、セリーから大きな声が上がる。

 

「いや、あれはスキルを使っているだけなんだ。午前中にも言った通り、俺は三十日ほど前まで喧嘩の経験すらなかったからね」

「そうだったのですか……」

 

 彼女は少し考え、再び口を開く。

 

「私もご主人様と同じように、ロクサーヌさんにしごいていただき、迷宮で戦えるよう力をつけたいと思います!」

 

 前向きで実によろしい。

 後ろの方で、『しごくって……』とか言っている声が聞こえてくるが、今はスルーさせてもらおう。

 

「うん。凡人は凡人なりに頑張っていこう」

「はい!」

 

 

 

「ロクサーヌ。セリーの実力がわかったと思うんだけど、修行内容はどうしよう?」

 

 問いかけると、少し考え口を開く。

 

「そうですね……。私がご主人様とセリー二人を同時に相手したいと思います」

 

 くっ。余裕ありすぎじゃないですか。

 

 わかっていたことだが、俺とロクサーヌとの間に横たわる差は途方もなくでかい。

 いや、その差自体がどのくらいなのか見当もつかないのだ。まさに次元が違うといっていいだろう。

 彼女に一泡吹かせられるよう、セリーと共に挑んでいくぞ。

 

 

 

 

 

 いや……。無理だって……。

 

 俺たちは果敢に挑むも、そのすべてが彼女に通用せず、二人で攻撃しているのに、いつもと同じように地面に転がされてしまった。

 手当ての使用回数が二倍になっているため、そろそろMPの残量に不安が出てきたほどだ。

 

「徐々に連携を意識して攻撃を行うようになっていたのは悪くありませんでした。戦うときは常に考えを巡らせることが重要となります。その調子で立ち回りに気を付けると、成長も早いでしょう」

 

 そんなことを言っても、全然通じなかったじゃないですか。

 でも、彼女がオーバーホエルミングへ段々アジャストしてきていることを考えると、言っていることは正しいのかもしれない。

 とはいっても、俺たちが実践できるかは、また別なのだが……。

 

 

 

「では、今日はここまでにしましょう」

 

 その言葉に思わず口から息が漏れる。すると、向かい側からも同じ音が聞こえてくる。

 顔を上げるとこちらを見ていたセリーと目が合った。

 

『初日からお疲れさん』

『ご主人様こそ、毎日お疲れ様です』

 

 アイコンタクトで交わした会話に、間違いはないだろう。

 まあ、これからも一緒に頑張っていこうぜ。

 

 

 

「この後はオーバーホエルミングを用いた修行ですね。今度は私とセリーでご主人様に挑むので、よろしくお願いします」

 

 はぁ!? ロクサーヌだけでも、いっぱいいっぱいだってのに!? 絶対無理だわ!

 

「二人同時に相手取るのは厳しいと思うんだけど……」

「オーバーホエルミングを使う場面は、ボス戦か盗賊などの対人戦となるはずです。今後ボスにはお伴が付くようになりますし、盗賊は群れるものと相場が決まっています。きっとこれもご主人様の良い修行となるでしょう」

 

 ……確かに言われてみればその通りだ。

 戦闘における安全性を高めるための修行なのだから、確実にその方が身になるだろう。

 ぐうの音も出ねぇ。

 

 それに、自分の楽しみを優先するのではなく、俺の実力を上げることを優先してくれている。

 その気持ちはとてもありがたい。

 

「わかった。やってみる」

 

 首肯すると、彼女は嬉しそうに頷きを返した。

 

 

 

「あの……。オーバーホエルミングとは何でしょうか?」

 

 俺たちの様子を見ていたセリーから、質問を投げかけられる。

 

 ああ、そういえば英雄については説明していないか。

 

「さっきすごい動きができるスキルがあるって言ったでしょ?」

「はい」

「それが、オーバーホエルミングというスキルなんだ」

「なるほど……。それはボーナススキルなのですか?」

 

 彼女は納得したように頷くと、さらに問いかけてきた。

 

「いや、これはボーナススキルじゃない。ジョブについているスキルだよ」

「そうなのですか?」

「うん。セリーは英雄というジョブがあることは知っているよね?」

「まさか、ご主人様……」

 

 彼女は驚きに目を見開き、思わずといったように声を発する。

 

「そう。英雄のジョブを持っている」

 

 セリーは口元に手を遣り、大声が出そうになるのを抑えている様子だ。

 

「英雄のパーティー効果は、すべてのパラメーターが上がるという凄まじいものになる」

 

 セリーは口元を押さえながらも、好奇心に輝く瞳で俺を凝視している。

 

「そして、英雄の持つオーバーホエルミングというスキルは、使用した者の体感時間の引き延ばしであり、他の者からは使用者が信じられないようなスピードで動いているように見えるというものだ」

「なるほど! そういうことですか! そのパーティー効果とスキルを持っていたからこそ、初代皇帝はクーラタルの迷宮で九十一階層まで到達することができたのですね!」

 

 彼女の顔には、歴史的な謎を解き明かして喜ぶ考古学者のような表情が浮かんでいた。

 

 

 

「ですが、そのことは誰にも知られるわけにはいきません」

 

 その様子を見て、ロクサーヌが注意を促す。

 

「あっ……。皇位簒奪を疑われてしまうのですね」

「はい。無用な諍いはご主人様の望むところではありません。あなたも気を付けてください」

「ロクサーヌさんの言う通りだと思います。今後気をつけなければいけないですね」

 

 二人は顔を見合わせて頷き合っていた。

 

 なんか俺の出る幕はない感じだ……。

 一番奴隷としての矜持があるのだろう。ロクサーヌは積極的にセリーの教育を行ってくれている。

 こういったことは彼女に任せた方がいいのかもしれないな。

 

 

 

「それで、ご主人様にオーバーホエルミングを使用してもらい、毎日修行に励んでいたのです」

「ですが、そのような修行に私がついていけるのでしょうか……」

 

 ロクサーヌは、不安そうにしているセリーの肩に手を置くと、言葉を続ける。

 

「いきなり対応できるはずはありません。でも、この修行に慣れると、魔物や盗賊のどんな動きにでもついていけるようになります。少しずつ慣れるように頑張ってください」

「そうですね。ありがとうございます。慣れるように頑張ります」

 

 いやぁ。初見である程度対応した上に、歩雲履や魔法でのフェイント、それから組み技も、一度くらったあとは二度と通用しなかった人が言ってもなぁ……。

 

 

 

 そして、セリーの様子に満足げに頷くと、ロクサーヌはこちらへ顔を向けて口を開く。

 

「ご主人様。では、お願いします」

 

 いや、嬉しそうにしているところ申し訳ないんだが、湯水のごとく回復スキルを使いまくったせいで、すぐというわけにはいかないんだわ。

 

 くっ!! ガッツがたりない!!

 

 ってやつだ。

 

 

 

 

 

 

 迷宮でMPの回復を行い、自宅へ戻ってボーナスポイントを振り分けている途中で、不味いことに気が付く。

 

 これ、魔法ダメージ軽減の付いた装備品を、二つ出すのは不可能だぞ……。

 もし、それを装備していない方に魔法が直撃したら大変なことになる……。

 

 

 

 ……しょうがない。しばらく魔法攻撃はなしにしておこう。

 貝のスキル結晶を入手できれば、装備品に魔法ダメージ削減のスキルを付けることができる。

 二人分の魔法ダメージ耐性装備を用意できれば問題ないはずだからな。

 

 サードジョブを魔法使いから僧侶に戻し、その旨をロクサーヌに伝えると、案の定難色を示した。

 

「しかし、それでは本格的な修行にならないのでは……」

「でも、仮に今のレベルが低い状態のセリーへ魔法が当たった場合、大怪我を負ってしまうはずだ。これについては絶対認めるわけにはいかない」

 

 俺たちの会話を聞いていたセリーが口を開く。

 

「あの、ドワーフは頑丈ですし、私なら問題ないと思います」

 

 彼女の方を向くと、気合が入った表情でこちらを見つめている。

 

「いや。やっぱりやめておこう。取り返しのつかないことになっても困る」

 

 しかし、今度はロクサーヌが提案してきた。

 

「では、魔法ダメージ軽減装備をセリーへ渡すのはいかがでしょう? いくら魔法攻撃とはいえ、当たらなければどうということはありません。私が回避すればいいだけです」

 

 ダメダメ。それだけは何があっても絶対にダメ。

 ロクサーヌに万が一があれば、俺は生きていけない。

 

「物理攻撃と魔法攻撃では威力がまったく異なる。魔法が当たったときのことを考えると、絶対に認めるわけにはいかない」

 

 ロクサーヌはその言葉に、フッと表情を緩めると言葉を発した。

 

「ふふ。ご主人様はどんなときでも、私たちの安全が第一なのですね。わかりました。魔法を用いた修行は装備品が揃ってからにしましょう」

 

 よかった。納得してもらえた。

 

「セリーもそれでいいですか?」

「はい。ご主人様の決定に従います」

 

 彼女が問いかけると、セリーは頷きながら答えた。

 

 ……それにしても『当たらなければどうということはない』とか言いおったぞ。

 君はどこの赤い彗星なんだ。

 

 

 

 木剣を放り出して二人の正面に移動し、いつものようにファイティングポーズを取る。

 

「えっ? 木剣は使わないのですか?」

 

 俺の様子を見てセリーは不思議そうに尋ねてきた。

 

「メイン武器がデュランダルだから両手剣の練習を行っているけど、俺自身にその適性はあまりないみたいなんだ。素手の方がロクサーヌの修行になるからね」

「なるほど。そういうこともあるのですか」

 

 理解したように頷いているのを確認し、二人へ声を掛ける。

 

「それじゃあ、そろそろ始めよう」

「はい。お願いします」

「よろしくお願いいたします」

 

 

 

オーバーホエルミング

 

 念じた途端、自分以外のすべてがスローモーションになり、二人に向かい一気に駆け出す。

 こういう場合のセオリーとしては、まだこの動きに慣れていないセリーを狙うべきだろう。

 距離を詰め彼女へ向けて拳を振るうと、そこへゆっくりと盾が差し込まれた。

 

 くっ。先読みハンパねぇ。

 

 このままセリーを狙っても、ロクサーヌが防ぎ続けるだろう。

 二人を引き離すべきか。

 

 ロクサーヌへ向けジャブを浴びせ続け、セリーのフォローへ行けないよう釘付けにする。

 当然のようにすべてのパンチを捌かれてしまうが、今はダメージを与えることを狙っているわけではないため問題ない。

 

 見様見真似で、ジャブのなかにストレートやフックを織り交ぜていき、なんとかタイミングを計り、回し蹴りを放った。

 だが、そこは流石のロクサーヌ。自ら後方へ飛び、衝撃を受け流す。

 

 それを待っていた!

 

 二人の距離が空いたところで、方向転換をしてセリーへ向けて一気に距離を詰める。

 こちらへ向けられていた得物が牽制のためか、まだ距離があるにもかかわらず、スローモーションで突き出されてきた。

 左右どちらにもかわすことは容易だが、思い切って地を蹴りこちらに迫る木槍に着地をし、それを足場にもう一度ジャンプを行う。

 歩雲履のおかげで増した脚力が掛かったせいなのか、セリーは得物を取り落とす。

 

 彼女の背後に跳んだところで今度は空中を蹴り、そのガラ空きの背中に思いっきり拳を叩きつけた。

 弾かれたように吹っ飛んでいく彼女を確認すると、すぐに迫ってくるであろうロクサーヌに備え距離を取る。

 

 そのタイミングでオーバーホエルミングが切れ、時の流れが元に戻るとロクサーヌがセリーへ駆け寄っていくのが見えた。

 

 させるかよ!

 

オーバーホエルミング

 

 再び作り出したボーナスタイムに、今度はロクサーヌの背後へ向けて飛び上がり、走っている背中を目指して空中を蹴る。

 体が一気に加速し、彼女の腰を右手で抱えることに成功した。

 左手も腰に回してそのまま裏投げを行い、ロクサーヌの体を地面に叩きつける。

 そして、素早く起き上がり、竜革のジャケットで守られている背中を思いっきり蹴りあげた。

 

 

 

 オーバーホエルミングが切れても、二人が立ち上がる様子がない。

 

 ヤバい! やり過ぎたか!

 

 大急ぎで二人へ向け手当てを連発する。

 これでダメなら滋養錠だ!

 

 

 

「ありがとうございます。もう大丈夫です」

 

 手当てを使い続けていると、ロクサーヌが立ちあがり口を開く。

 

「はい。お気遣いありがとうございます」

 

 同じようにセリーも立ち上がる。

 

「ふぅ」

 

 思わず口から息がこぼれてしまう。

 大事に至らなくて本当に良かった。

 

「痛みがあるなら回復を続けるから、無理はしないようにね」

「ありがとうございます。でも、本当に大丈夫です」

「私も問題ありません」

 

 しかし、久しぶりにロクサーヌへダメージが通ったが、やっぱりこれは心臓に悪いよなぁ。

 やめるわけにはいかないが、どうしたもんか……。

 

 ……竜革のジャケットにスライムとコボルトのスキル結晶を融合して、物理ダメージ削減のスキルを付けるか?

 いや、現時点ではセリーの方が受けるダメージが大きいんだ。ここでロクサーヌを優先するのはいかんだろ。

 それとも、ロクサーヌのダマスカス鋼の額金に物理ダメージ削減をつけて、セリーの竜皮の帽子と交換した方がいいか……。

 

 

 

 思考を巡らせていると、ロクサーヌが嬉しそうに話し掛けてくる。

 

「与し易い相手から確実に始末し、またその相手を助けようとしたところを狙う冷静な立ち回り。さすがはご主人様です」

「はい。情に流されない、とても素晴らしい作戦です」

 

 え? ちょっと待って。何その感想……。

 それだけ聞くと、とんでもないクズ野郎じゃないか?

 

 いやでも、複数のプレイヤーによるオンライン対戦ゲームだと基本中の基本だったし……。

 

「修行では、今みたいなことはやらない方がいいかな?」

「いえ、とても参考になる動きです。盗賊に襲われた際の良い訓練になります」

 

 問いかけてみると、ロクサーヌがワクワクしたような表情で答える。

 

 盗賊が使うようなド汚い戦法ってことか……。

 

 

 

 内心へこんでいると、ロクサーヌは話をさらに続けた。

 

「ご主人様、セリーの槍に乗ったのはとてもすごかったです! しかも、それを足場に背後を取り、さらに空中を蹴って強襲するなんて、信じられません!」

 

 いや、だから、なんで完全に見切ってんのよ。

 

「そんなことをなさっていたのですか!? 訳が分からないうちに攻撃を受けて、まったく気が付きませんでした!」

 

 ロクサーヌの言葉を聞いて、セリーからも声が上がる。

 

「まあ、オーバーホエルミングと歩雲履がないと不可能な動きだけどさ」

「いえ。それを思いついて実行したことがすごいのです。さすがはご主人様です」

 

 いつもながら、さすごしゅありがとうさん。

 でも、これって漫画やアニメでよくあるシーンだから、別に俺が思いついた訳じゃない。それに、チートスキルとチート装備がなければ絶対に無理だ。

 本当に俺がすごいわけじゃないんだよなぁ。

 それに、これはセリー相手だからできたことで、ロクサーヌにやった場合は隙にしかならないだろう。

 

 まあ、そんなことを口に出せば、またロクサーヌに不満を抱かせてしまう。自重しておこう。

 

「さあ、じゃあ続きといこう」

「はい! お願いします!」

「ロクサーヌさんとの訓練でもそうでしたが、私はまず自分の身を守れるようにならなければいけませんね」

 

 二人がやる気満々で本気で取り組んでいることがよくわかる。

 この調子でガンバンベーヤ。

 

 

 

 

 

 それから修行を続けるが、ロクサーヌはセリーが倒れても冷静さを失わないようになり、攻撃を受けることがなくなった。

 毎度のことだが、一度くらった攻撃へすぐに対応して、二度と通じなくなるんだよなぁ。

 まったく。聖闘士みたいな娘さんだわ。

 

 しかし、距離を離すように立ち回ったり、一瞬の隙をついて攻撃を加えることで、セリーからダウンを奪うことはできている。

 この辺が今後の課題となるだろう。

 

 

 

 さて、ボチボチ時間かな。

 

「それじゃあ、今日はここまでにしておこう」

 

 地面に座ったままのセリーの隣にしゃがみ込み、手当てを使いながら終了を告げる。

 

「私が足を引っ張っているせいで……。申し訳ありません……」

 

 悔しそうな表情を浮かべたセリーが呟く。

 

「セリー、大丈夫ですよ。ご主人様のあれは特別です。あのような動きが出来る人は他にいないでしょう。先ほども言ったように、オーバーホエルミングに慣れればどんな攻撃にも対処できるようになります。そんな修行をつけていただける幸運に感謝し、これからも頑張りましょう」

 

 君は完璧に対処してるじゃないですか。ってことはどんな攻撃でも回避できるって言ってるようなものじゃん。

 

 ……なんかもう、すごい言葉だよなぁ。励まそうとしているんだろうけど、才能の差に打ちのめされるんじゃないか?

 

 セリーの顔を確認してみると、口をキュッと結び何かをこらえているような表情をしていた。

 スペシャルなロクサーヌやチート持ちの俺と比べてしまい、不甲斐ない思いをしているのだろう。

 気持ちはわからんでもないが、いくら何でも比べる対象が特殊すぎる。

 

「あっ」

 

 その小さな体をそっと抱きしめると、彼女の口から声が漏れた。

 

「君が自分のできることに精一杯取り組んでいることは、ちゃんと俺たちに伝わっている。大丈夫、焦る必要なんてないよ。ゆっくり進んでいけばいいんだ。それに、セリーは加入初日なのにもかかわらず、スキル結晶の融合や装備品の製造をしてくれたし、色々なことを教えてくれた。本当に頼もしかったよ。これからも君のことを頼りにしていい?」

 

 セリーの背中を撫でながら、そう告げる。

 

「……はい。ご主人様に頼りにしていただけるなんて、とても嬉しいです。それに、励ましていただきありがとうございます」

 

 こちらを見つめる彼女の表情には、はにかんだような笑みが浮かんでいた。

 

 うん。問題なさそうだな。

 抱きしめていた手を解き、立ち上がって二人に声を掛ける。

 

「それじゃあ、MPの回復を済ませて、装備品の手入れをしようか」

「……はい」

「かしこまりました」

 

 力のない返事に驚きそちらを向くと、今度はロクサーヌが微妙な表情を浮かべていた。

 落ち込んでいるような、怒っているような、悲しんでいるような、何ともネガティブな感情が混ざり合ったような表情だ。

 

 ……そうだよなぁ。

 今日一日セリーをフォローしてくれていたが、昨晩吐露したように本心では二人だけの生活を望んでいた。

 しかし、その気持ちを押し殺して俺のために尽くしてくれていたのだろう。

 そこまでしてくれた彼女のことを蔑ろにするわけにはいかない。

 

「俺の大切なロクサーヌ。いつも修行をつけてくれてありがとう。それから、どんな時でも支えてくれて本当に助かっている。君のおかげで俺は毎日幸せだよ。これからもずっと隣にいてくれる?」

 

 それを聞いた途端に彼女の表情が輝き、口を開いた。

 

「当然です。大切なご主人様から離れることなどあり得ません。それに、私の方こそご主人様のおかげで幸せな毎日を過ごせています」

 

 おっと。

 感極まったのか、抱きついてきた彼女の体を受け止める。

 

「ご主人様……」

 

 顔を上げて目を閉じたロクサーヌと唇を重ねた。

 

 

 

 どちらともなく、絡め合っていた舌を解いて唇を離すと、視線の端に呆然とした様子でこちらを見つめているセリーの姿が映る。

 

 しまった! 彼女への配慮が足りなかった。

 疎外感を覚えていなければいいんだが……。

 

 ロクサーヌもそれに気がついたのだろう。笑顔で彼女へ話しかける。

 

「今度はセリーの番です。ご主人様にたくさんかわいがってもらってください」

「えっ!」

 

 セリーから驚いたような声が上がるが、俺の方も戸惑ってしまう。

 彼女を優先したことで余裕が出来てそんなことを言ったのだろうか? それとも、自分の心に蓋をしているのか?

 ロクサーヌの心の動きが全然わからない……。

 

「さあ、ご主人様」

 

 ロクサーヌに促されセリーの方を見ると、彼女は恥ずかしそうでありながらも期待しているような表情を浮かべ、上目遣いでこちらを見つめていた。

 

 いやいや。かわいすぎるでしょうよ。

 うちの娘たちはヤバすぎる。ガチで世界一、二のかわいさだ。

 

 セリーに近づき、そっと抱きしめる。

 彼女の身長は俺の胸ほどしかなく、瞳を潤ませ緊張したように見上げている様子がとても愛らしい。

 怖がらせないよう、ゆっくりと頭を撫でる。

 少し表情が緩んだのを確認し、両手を頬に添えて目を合わせた。

 

「あの……。初めての口づけがご主人様で、その……、嬉しいです……」

 

 そう言うと目を閉じ、餌をねだる雛鳥のように背伸びをして顔をこちらに向ける。

 

 セリー……。いくらなんでもその殺し文句は反則だ。ハートを射抜かれてしまったじゃないか。

 

 矢も楯もたまらず、かがみながら顔を寄せ、セリーの可憐な唇に俺のそれを重ねる。

 緊張からか、彼女は息をすることも忘れたように固まってしまった。

 ファーストキスが俺で嬉しいと言ってくれたのだ。こちらもまだまだ不慣れではあるが、ちゃんとリードをして良い思い出になるよう努めなければ。

 

 彼女の唇をハムハムと食んでいく。

 火照ったような熱さにしっとりとした潤い、そして柔らかいのに弾力のある絶妙な感触。

 触れている場所から、快感が全身に伝わっていくかのようだ。

 

 ずっと息を止めていたせいなのだろう。しばらくするとセリーが唇を離し、荒い呼吸を始めた。

 抱きしめた彼女の背中を撫でながら、息が整うのを待つ。

 

 

 

 落ち着きを取り戻したところで、声を掛けた。

 

「セリー。今度はもっと激しいキスをしよう」

「激しいキス……」

 

 恥ずかしそうにつぶやく彼女へ頷きを返し、言葉を続ける。

 

「うん。舌を絡め合うキスだ。口を開けてくれる?」

「えっと、あの、はい。お願いします……」

 

 戸惑っている様子だったが、少しだけ口を開いて顔を上に向け、受け入れてくれた。

 

 再び唇を重ね、舌を伸ばし彼女の唇を通過して、隠れるように縮こまっているセリーの舌へ触れる。

 その瞬間、彼女の体がビクンと跳ねた。

 安心してもらえるように優しく背中を撫で、緊張がほぐれるまで動きを止めておく。

 

 

 

 セリーの硬直が解け、落ち着きを取り戻したところで少しずつ舌を触れ合わせていると、彼女の好奇心を刺激したのか躊躇いがちではあるものの、自らの舌でこちらに触れてくる。

 徐々に触れ合う面積が大きくなり、遂には舌を絡め合うに至った。

 

 

 

 どのくらい時間が経っただろう。名残惜しさを覚えながら触れ合っていた唇を離すと、お互いの口から銀色の橋が架かる。

 

「あっ……」

 

 セリーの口からは残念そうな声がこぼれた。

 

「ふふ。大丈夫ですよ、セリー。夜にもっともっとかわいがっていただけます」

「え、あ、その……」

 

 ロクサーヌのいたずらっぽい表情で放たれた言葉に、セリーは狼狽している。

 そして、真っ赤な顔でこちらを見つめると、意を決したように告げた。

 

「たくさん、かわいがってください……」

 

 いやもう、どれだけかわいさを振りまくつもりなんだ。君は。

 

「もちろん。セリー、よろしくね」

「はい!」

 

 俺の言葉に、はにかんだような笑みを浮かべつつ、はっきりと返事をする。

 こうして彼女と触れ合い、自分の中で完全に決意が固まっていることに気が付いた。

 ロクサーヌだけではなく、絶対にセリーのことも幸せにしよう。

 

 

 

 微笑みながら俺たちを見守っていたロクサーヌだが、ススッとこちらへ近寄り耳元に顔を寄せ呟く。

 

「でも、私のことを一番かわいがってくださいね」

 

 思わず顔を向けると、そこには見惚れずにはいられないような表情を浮かべる女神の姿があった。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

探索者Lv37 英雄Lv32 僧侶Lv15

装備 硬革の帽子 頑強の竜革鎧 硬革のグローブ 藕絲歩雲履 身代わりのミサンガ

 

BP振分 残BP:0

キャラクター再設定:1

サードジョブ:3

必要経験値二十分の一:63

詠唱省略:3

鑑定:1

ワープ:1

足装備六:63

 

所持金:1,211,116ナール

 

春の32日目

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