異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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106 提案

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

「んっ……」

 

 目が覚めると左右の手が抱きかかえられており、心地良い感触が伝わってくる。

 

「おはようございます。ご主人様」

 

 かわいらしくも艶に満ちた声が耳に伝わってきた。

 

「おはよう、ロクサーヌ。今日も一日よろしく」

「はい。こちらこそよろしくお願いします」

 

 ロクサーヌと朝の挨拶を交わしていると、逆サイドからも特徴的な愛らしい声が聞こえてくる。

 

「ご主人様、おはようございます。あの、今日も一日よろしくお願いします」

「おはよう、セリー。俺の方こそよろしくね」

 

 さて、このままベッドの中で惰眠を貪っていたいが、そんなことをすると彼女たちに見限られてしまうかもしれない。

 さあ、朝の支度を始めよう。

 

 えいやと気合を入れて起き上がる。

 

 

 

「ご主人様、私たちは部屋へ戻って着替えてまいります」

 

 昨晩脱がせたメイド服をそのまま着るわけにはいかなかったのだろう。

 ロクサーヌはそう言い残し、セリーと連れ立ってそそくさと部屋を後にする。

 

 ……見えた。

 

 廊下の方は少し明るくなっていたため、ガーターベルトとストッキングのみという艶めかしい二人の姿が、俺の網膜へしっかり焼き付いた。

 

 

 

 洗ってもらったトランクスがちゃんと乾いていたので、晴れてかぼちゃパンツから卒業だ。

 さすがに日本から持ち込んだ物を履くわけにはいかない。

 パンツも含め、衣類はすべていざというときのために取っておこう。

 

 いざというとき……。あるのかねぇ?

 

 

 

 歯磨きを行うためキッチンで二人を待つが、だいぶ時間が掛かっている。

 まあいつもと違い、歯磨きと髭剃りの前に服を着替えているからな。

 それに、セリーへ色々教えているのかもしれない。

 

 

 

 ボーナスポイントの振り分けを行いながら時間を潰していると、パーティーを組んでいる効果で、彼女たちが近づいてくるのを感じる。

 

「ご主人様、お待たせいたしました」

「時間が掛かってしまい、申し訳ありません」

 

 振り返りながら、キッチンへ入ってきた二人へ答えた。

 

「そんなに待ってないから大じょ――なっ!」

 

 入口へ立っているセリーを見た途端、思わず大きな声が漏れる。

 少しウェーブがかかった艶やかな黒髪をサイドから編み、後頭部で一つにまとめており、彼女の清楚で可憐な容姿と相まって、まるで深窓のご令嬢のようだ。

 

 うわぁ。ハーフサイドアップだよ。めちゃくちゃかわいいわぁ。

 

 

 

 あまりの愛らしさに目を奪われていると、ロクサーヌが得意気に話し始める。

 

「昨晩のお手入れのおかげでセリーの髪がまとまるようになったため、形を整えてみました」

 

 ロクサーヌはん。あんたなんちゅうことをしてくれたんや。

 ほんま、グッジョブやで。

 

 そして、恥ずかしそうにしていたセリーがおずおずと口を開く。

 

「ご主人様にお手入れをしていただいたおかげで、髪の状態がとても良いです。あの……、どう、でしょうか……」

 

 そう言うと期待しているような視線でこちらを見つめている。

 

 おっと。見惚れてないで質問に答えなければ。

 

「セリー、信じられないくらいかわいくてビックリしたよ。まるで妖精のような愛らしさだ」

「えっ、あ、あの……、ご主人様、大袈裟です……。でも、その、ありがとうございます……」

 

 彼女はそれを聞くと恥ずかしそうにうつむき、小さな声で感謝の言葉を口にした。

 ……君、ちょっとかわいすぎやしないかい?

 

 

 

 その様子を見ていたロクサーヌがセリーへ話しかける。

 

「ふふ。セリー、ご主人様はとてもお気に召したようです。良かったですね」

「はい。ありがとうございます。ご主人様に気に入っていただけたのはロクサーヌさんのおかげです」

 

 嬉しそうに会話をしている様子がとても微笑ましい。『いせはれ!』してんなぁ。

 

「こんなことが出来るなんてロクサーヌはすごいよ。それに、俺の髭と眉も整えてくれて本当に助かっている。いつもありがとう。今日もこの後でお願いね」

 

 彼女は満面の笑みを浮かべ、弾むような声で答えた。

 

「はい。ご主人様の身だしなみを整えるのは、私の大切な役割です。これからもおまかせください」

「ありがとう。それじゃあ、これからもよろしく」

「かしこまりました!」

 

 今後も彼女に任せたことで自尊心を刺激されたのか、答えた声に気合がこもっている。

 

 

 

 それにしても、ロクサーヌは自分自身の髪型について、どう思っているのだろう?

 イラストやコミックで見慣れた現在の髪型は、彼女に似合っていてとても美しい。

 しかし、この世界において、長い髪は金持ちにしか許されない贅沢だ。服や身だしなみにこだわりのあるロクサーヌなら、伸ばしてみたいと思っていても不思議はない。

 

「今の髪型も美しくてよく似合っているけど、もしロクサーヌが他の髪型にしてみたいなら、お金や手間を気にして遠慮する必要はないからね」

「えっ」

 

 それを聞いた彼女は面食らったように声を漏らす。

 

「あの、そんな贅沢をしてもいいのでしょうか」

 

 何を言う。セリーの髪も長いじゃないか。

 

「全然問題ないよ。それに、正直なことを言うと、色々な髪形をしたロクサーヌの姿を俺が見たいだけだから」

「ふふ。そうなのですか? それでは、ご主人様に喜んでいただけるよう色々な髪形を試してみますね。それに、実は長い髪に憧れていたのです」

 

 彼女は見惚れてしまうような笑みを浮かべ、そう言った。

 

 うんうん。今後はロクサーヌの髪型がどうなるのか、楽しみにしていよう。

 それに、もう少し伸びたら俺の髪も切ってもらうか。

 今はフサフサに戻っているのだ。ロクサーヌなら、きっと良い感じに仕上げてくれるだろう。

 

 

 

 歯磨きとうがいを終えたところで、彼女は再びセリーへ告げる。

 

「うちでは朝の歯磨きを終えると、一日の始まりとしてご主人様と口づけを交わします。今日からはセリーもしていただきましょう」

「私もですか?」

 

 ロクサーヌはいたずらっぽい笑みを浮かべながら、戸惑った様子のセリーへ問いかけた。

 

「はい。セリーはご主人様との口づけは嫌ですか?」

「そんなことありません! ご主人様と口づけを交わせるのは、その、とても嬉しいです……」

 

 それを聞いた途端、大きな否定の声が上がったものの、恥ずかしくなったのかドンドン声が小さくなっていく。

 その様子を見ていたロクサーヌは楽しそうに答える。

 

「ふふ。では問題ありませんね。今日から毎朝、我が家の大切な習慣を行っていきましょう」

 

 やっぱりこの娘さんはすごいなぁ。さすが一番奴隷さんだわ。

 

「では、ご主人様。お願いします」

 

 そう言って俺の前へ来ると、目を閉じて顔を上に向ける。

 その姿を見て愛おしさが溢れだし、ゆっくりと顔を近づけていった。

 

 

 

 大切なルーティーンが済んだところでリビングへ移動してミーティングを行う。

 

「それじゃあ、今日の予定を確認しよう」

「はい」

「よろしくお願いします」

 

 二人が頷いたのを見て頷きを返し、話を始める。

 

「この後は早朝の探索を行う。パン屋が開く時間になったらクーラタルに戻り朝食にしよう。昨日言った通り二人が朝食と昼食の準備をしている間、俺はペルマスクを目指すことにする。しばらくは君たちにまかせてもいい?」

「問題ありません。私たちにおまかせください」

「はい。ご主人様に美味しいと思っていただけるよう、ロクサーヌさんと一緒に頑張ります」

 

 めちゃくちゃ良い娘たちだよなぁ。

 本当に俺は恵まれている。

 

「朝食と食休みが終わったら、午前中に家具が届くから掃除をしながらそれを待つ。家具の設置が済んだら迷宮探索の続きだね」

「自分専用の鍵がかかるチェストを持てるなんて、信じられないくらいの贅沢です」

「そうですね。商館で聞いていた奴隷の扱いとは全然違います」

 

 しみじみと呟く二人がとても愛おしい。

 

「昼食と食休みを挟んで探索を続ける。そして、午後の探索が終わったら夕食の買い出しだけど、予定通り今夜はカレーにしよう」

「はい! とても良いことだと思います! きっとセリーも喜ぶことでしょう」

 

 セリーより君の方が喜んどるやないかい。

 

「えっと、はい。あの、楽しみにしています」

 

 セリーはロクサーヌの興奮しているところを見て、戸惑いを隠せない様子だ。

 

「その後は修行、装備品の手入れ、食事、お風呂。そして、就寝かな」

「はい。今日も素敵な一日になりそうです」

 

 朝一番にロクサーヌの輝くような笑顔を目にすることが出来たのだ。既に素敵な一日になっているぞ。

 

「じゃあ、そろそろ迷宮へ行こうか」

 

 彼女と笑い合ったあとに出発の声を掛けると、セリーが逡巡したように声を発する。

 

「お待ちください。ご主人様……。提案したいことがあるのですが……」

 

 提案? なんだろう?

 

「大丈夫だよ。どんなこと?」

 

 委縮してしまわないよう、笑いながら問いかけたところ、彼女は安心したように話し出した。

 

「一晩寝たことでMPが回復しているようで、装備品の製造が可能になっています。それから、今後探索を終えるときには私もMPを回復して、装備品の製造を行った方がいいと思うのですが……。いかがでしょうか?」

 

 おお! それはありがたい!

 素材は物置に山ほどあるし、たとえなくなったとしてもすぐに補充できる。

 

「セリー、ありがとう。とても助かるよ。それじゃあ、さっそく取り掛かろうか」

「ありがとうございます! ご主人様のお役に立てるよう、頑張ります!」

 

 提案が受け入れられ、セリーは笑みを浮かべながら大きな声で感謝の言葉を口にした。

 

 

 

 物置部屋へ移動すると、セリーは立て続けに装備品を作り出す。

 そして、五つ作ったところでMP不足に陥った。

 

 やはり、通常だと二・五回だったか。

 まあ、早朝と朝昼晩で一日二十五個の装備品を作り出せるのだ。十分な数だろう。

 

 

 

 よし、それじゃあボチボチ出勤の時間だな。

 毘盧帽を返してもらい、獲得経験値二十倍と入れ替え二人に声を掛ける。

 

「では、迷宮へ行こうか」

「お待ちください」

 

 しかし、今度はロクサーヌから、ちょっと待ったコールが掛かった。

 

「どうしたの?」

「昨日セリーは鍛冶師のレベルが10へ到達しています」

「うん。そうだね」

「それなら後ろで見ているだけではなく、戦いに参加してもいいのではないでしょうか?」

 

 うーん……。確かに九階層の魔物相手ならレベル補正が働くため、問題ないといえば問題ない。

 ただ、レベル差が1だと補正値もそこまで大きいわけではないだろう。

 まだ早いんじゃないかなぁ……。

 

「あの、お役に立てるように頑張りますので、私も戦闘に参加させてはもらえませんか?」

 

 悩んでいると、意を決したようにセリーが告げた。

 

 俺なら楽できるとなれば際限なく甘えてしまうだろう。

 ロクサーヌもそうだが、彼女も相当真面目だよなぁ。

 

「ご主人様、セリーの気持ちを汲んでいただけませんか?」

「よろしくお願いします」

 

 それを聞いたロクサーヌもアシストをして、セリーがもう一度許可を求める。

 

 オーケー! おめーらの気持ちはよーく分かった!

 

「よし。それじゃあ、今日からはセリーも戦闘に参加してもらうことにしよう」

 

 許可を出すと、セリーが嬉しそうに感謝の言葉を口にした。

 

「ご主人様、ありがとうございます!」

「セリー、良かったですね」

「はい。ロクサーヌさんもありがとうございます」

 

 戦闘に参加できるのがそんなに嬉しいのか……。

 まあ、俺たちは迷宮探索を稼業としながらも、楽しみを見出すタイプのエンジョイ勢。

 安全を確保した上で、レジャーと運動を兼ねて楽しむとするさ。

 

 

 

「ロクサーヌ、そうなると立ち回りはどうしたらいいかな?」

 

 問いかけると、彼女は少し考えてから口を開く。

 

「そうですね。今後セリーの主な役割は、ご主人様が魔法を使う間の護衛となります。私が引き付けることに失敗した場合、その魔物からご主人様をお守りしてください」

「はい」

 

 ロクサーヌが怖いくらいに引き締まった表情で告げると、セリーも同じように真剣な面持ちで頷いた。

 

「それから、魔法ではなくデュランダルで近接戦を行う場合、近くにいるとご主人様の邪魔になってしまいます。あなたは積極的に動いて魔物のスキル攻撃を潰すことに専念し、ご主人様からなるべく距離を取ってください」

「分かりました。そのように動くことにします」

 

 まあそうだなぁ。もしデュランダルが当たったら、とんでもないことになってしまうだろう。

 ロクサーヌが引き付けている魔物を後ろから狙うのなら、彼女に当たることがないように気を付けることもできるが、知らない間にセリーが隣で戦っていた場合、それに気づかずバッサリやってしまいかねない。

 

「セリー、お願いね」

「かしこまりました。ご迷惑をおかけするでしょうが、よろしくお願いします」

「ロクサーヌも出来る範囲でフォローをお願い」

「はい。おまかせください」

 

 三人で頷き合い、玄関へ移動する。

 

 

 

 

 

ベイルの迷宮

九階層

 

 

 

 

 

 迷宮へ移動したところで詠唱省略を詠唱短縮に落とし、鑑定とワープのチェックを外し、捻出したポイントでサードジョブからフォースジョブに上げて、探索者、英雄、魔法使い、商人の布陣に替えておく。

 

「ロクサーヌ、魔物のところへ頼む」

「かしこまりました」

 

 彼女の案内で通路を進み、程なくして出会った魔物と戦闘を開始した。

 

 スローラビット三匹にエスケープゴートか。

 

 ロクサーヌが魔物に攻撃を入れ、セリーが俺の左斜め前で槍を構えているのを目の端で捉えながら、魔法名を口にする。

 

「ファイヤーストーム」

 

 炎が魔物の体を舐めているのを確認していると、程なくして炎と共に奴らの体も消えていった。

 

 よっしゃ。今日も問題ナッシング。

 

 彼女たちが拾ってくれたドロップアイテムを受け取りながら告げる。

 

「では、この調子でドンドン狩っていこう」

「かしこまりました」

「昨日も思いましたが、やはりとんでもないです……」

 

 セリーがドン引きしているものの、それは一旦置いといてガンガンいこうぜ!

 

 

 

 

 

 そのまま魔法を放ち続けているとMPが心許なくなってきたため、次へ行こうとしている二人を制止する。

 

「MPの回復を行うのでちょっと待ってくれ」

 

 メギンギョルズがないせいで魔法攻撃を行える時間は確実に短くなっているなぁ。

 それに、ボーナスポイントがギリギリなため、腕力上昇の腕装備を出すことができず、デュランダルで魔物を倒す時間も長くなっている。

 

 うーん……。硬革のグローブに腕力二倍を付けるか?

 いや、でもなぁ。硬革のグローブだともったいないよなぁ。

 ロクサーヌが装備している竜革のグローブにはスロットがないため、交換するというわけにもいかない。

 

 ……今後もっと良い装備が手に入るかもしれない。魔物を倒すのに多少時間はかかるが、一旦保留にしておこう。

 

 ボーナスポイントの振り分けを行い、デュランダルを手に取ったところで狩りの再開だ。

 

 

 

 通路を進み、ロクサーヌと戯れている魔物を背後から突き刺していく。

 一撃で倒れることがないため、やはり以前に比べ時間が掛かってしまっている……。

 まあ、これは贅沢な悩みなんだろうけどさ。

 

 MP回復を終えたところで、再びボーナスポイントの振り分けを行っていると、セリーから声が漏れた。

 

「それにしても、ご主人様の魔法は圧倒的ですし、ロクサーヌさんも全ての魔物を引き付けるため、私は全然出番がありませんね」

 

 確かになぁ。本格的にセリーが戦闘を行うのは、魔物がワンパンできなくなってからかもしれない。

 それまでは、研修期間だと思って仕事を学んでくれたまえ。

 

「しばらくの間は戦闘の様子を確認しながら、俺たちの動きに慣れるように観察をしていてくれ」

「はい。お二人の動きについていけるように頑張ります」

 

 うん。新人らしく素直で実にかわいらしい。

 

 あの会社の奴らは何を吹き込まれていたんだか、新人でもすぐに総務を見下すようになっていたからな。

 セリーはこのまま大切に育てていこう。

 

 ……あっ。戦闘において、俺が教えられるようなことなんてなかったわ。

 

 

 

 んじゃ、お次はMP回復だな。

 セリーに向けていた視線をロクサーヌへ移すと、鋭い眼光でこちらを見つめていた。

 

 え? なに? なんで睨んでんの?

 

「ロクサーヌ? どうしたんだ?」

 

 内心動揺しながら彼女へ声を掛けると、ハッとしたように表情を変えて口を開く。

 

「いえ。何でもありません。それでは、準備も整ったようなので魔物のいる場所へ案内いたします」

 

 あの……。何でもないって表情じゃなかったんですが……。

 

 もしかして、セリーとの距離が近かった?

 それとも、イチャついていたと思われた?

 

 俺の一番大切な人はロクサーヌだ。セリーのことを優先するということはないんだが。

 

「そ、そうだな。頼む」

 

 返事をすると、彼女は一つ頷き通路を歩き出した。

 

 なんか雰囲気が硬い。本当にそんなつもりじゃなかったのに……。

 

 

 

 

 

 その後も魔法攻撃とMP回復を繰り返す。

 そして、MPが心許なくなったタイミングで、ロクサーヌからいつもの言葉が聞こえてくる。

 

「ご主人様、そろそろパン屋が開く時間です」

「よし。それでは、MPの回復を行ってからクーラタルへ戻ろう」

 

 ボーナスポイントの振り分けを終え、ロクサーヌに続いて通路を歩いていると、すぐにその先から魔物が姿を現す。

 スローラビットが二匹にコラーゲンコーラルか。

 

 駆け出した彼女に続き、その後を追う。

 すると、スローラビットがロクサーヌの脇を抜け、ぴょんぴょん跳ねながらセリーの方へ向かっていく。

 

 えっ!? 三匹なのにロクサーヌがヘイトを取れなかった!?

 

 二体の魔物を引き付けてはいるものの、スローラビットはそのまま移動を続け、動揺しているセリーへ体当たりをぶちかました。

 

 ヤバい! 早いところこっちを片付けてフォローしなければ!

 

 ロクサーヌにあしらわれている魔物へ何度もバックスタブを叩き込む。

 一撃で倒れず時間が掛かってしまったため、焦りながらセリーを確認すると、彼女は懸命に槍を振るっていた。

 良かった。体には問題なさそうだな。このまま後ろから片付けよう。

 

 

 

 魔物を始末すると、ドロップアイテムを持ったロクサーヌがこちらへ近づいてきた。

 

「セリー。私も常に魔物を引き付けることができるわけではありません。あのように逃がしてしまうこともあるのです。たとえ自分のところへ魔物が来なかったとしても、決して油断をしてはいけません」

 

 絶対嘘だ。こやつわざと魔物をセリーへ誘導したな?

 

 そうか。さっきの鋭い視線は嫉妬などではなく、気を抜いていたセリーに対してのものだったのか。

 そして、彼女にそれを自覚させるため、この状況を作り上げたってわけだ。

 これを思いつくのもヤバいが、魔物を誘導できるのもガチでヤバい。

 本当にこのお嬢さんはバグキャラだわ。

 

「はい……。知らず知らずのうちに油断していたようです……。申し訳ありませんでした……」

 

 ロクサーヌの言葉を聞いて、セリーは反省の言葉を口にする。

 かわいそうなほど落ち込んでんなぁ。

 聡明なセリーならロクサーヌの意図に気が付きそうなものだが、昨日加入したばかりなのに加え、動揺しているため、気が付く様子がない。

 いや、この場合、気が付かない方がいいのか。

 

 ロクサーヌの方に視線を移すと、意図を察していることに気が付いたのだろう。

 こちらを向いた彼女の顔には笑みが浮かんでいた。

 それに頷きを返してセリーへ声を掛ける。

 

「落ち込むことはない。この失敗を教訓として、次へ活かせばいいのだ。それに、俺なんか調子に乗って数えきれないほど失敗をしている。この程度のことでそこまで落ち込まれたら、立つ瀬がなくなってしまうぞ」

「ご主人様のおっしゃる通りです。同じ過ちを繰り返さなければよいのです。反省をするのはいいですが、落ち込む必要はありません」

 

 俺たちの言葉に彼女は顔を上げた。そこには決意が宿っているかのようだ。

 

「ご主人様、ロクサーヌさん。本当に申し訳ありませんでした。これからはこのようなことがないようにします」

 

 うんうん。失敗は若者の特権なのだ。それを糧にすればいいのさ。

 若人よ、頑張りたまえ。

 

「それから、励ましていただきありがとうございます。とても嬉しかったです」

 

 彼女はそう言うと柔らかな笑みを浮かべた。

 

 あら、可愛い笑顔だこと。

 

 

 

 その後も魔物をデュランダルで屠り、MPを満タンにしたところでセリーに声を掛ける。

 

「さあ、今度はセリーの番だ」

「ありがとうございます。それでは、よろしくお願いします」

 

 

 

 セリーの回復を済ませ、キャラクター再設定を開きながら告げた。

 

「ボーナスポイントの振り分けを行うので少し待っていてくれ」

「かしこまりました」

「はい」

 

 デュランダルを消し、三割引をつけておく。

 そして、フォースジョブをサードジョブへ落とし、詠唱省略と鑑定、それからワープへポイントを振り、レベルの確認を行う。

 

 おっ。英雄のレベルが上がってる。

 よしよし。また少し、すべてのパラメータが引き上げられたな。

 

 んで、ロクサーヌの戦士とセリーの鍛冶師に動きはなしっと。

 英雄のレベルが上がったことを彼女たちに伝え、ワープゲートを展開する。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

探索者Lv37 英雄Lv33 魔法使いLv36

装備 硬革の帽子 頑強の竜革鎧 硬革のグローブ 硬革の靴 身代わりのミサンガ

 

BP振分 残BP:0

キャラクター再設定:1

サードジョブ:3

必要経験値二十分の一:63

詠唱省略:3

鑑定:1

ワープ:1

三十パーセント値引:63

 

所持金:1,211,116ナール

 

春の33日目

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