異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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107 フィールドウォーク

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 買い物を終えて自宅へ戻り、食材をキッチンに運んだところで二人に声を掛ける。

 

「それじゃあ、予定通りペルマスクへの経路を確保しに行ってくる。悪いけど食事の支度はまかせるね」

 

 すると、二人は笑顔で答えた。

 

「おまかせください。セリーと一緒に、美味しい食事を召し上がっていただけるように頑張ります」

「はい。私たちにおまかせください」

 

 本当に良い娘たちだなぁ。俺はなんと幸せな男だろう。

 

 

 

「では、行ってくる」

「いってらっしゃいませ、ご主人様」

「いってらっしゃいませ」

 

 キッチンから出るときに外出の言葉を告げると、二人は揃って頭を下げ、見送りの挨拶を口にした。

 

 ……これ感動するなぁ。

 いつかメイド服でやってほしいもんだ。

 

 さて、いつまでも見惚れてないで出かけるとするか。

 原作では、ベイルの冒険者ギルドから開始してたよな?

 帝都の冒険者ギルドだと混雑しているだろうし、俺もそれに倣うとしよう。

 

 

 

 

 

ベイル

冒険者ギルド

 

 

 

 

 

 ベイルの冒険者ギルドへ移動した途端、喧騒が耳に入ってきた。

 帝都には及ばないが、ここも割と混んでいるな。

 まあとりあえず、ルートを確認してみよう。

 

 掲示板の前へ移動し、張り紙を見る。

 

 えーっと。なになに……。

 

『フィールドウォーク移動先』

 

 おお! これだこれだ。

 

 あー、でもこれ一律二百ナールで行ける近場しか書かれていないみたいだわ。

 それ以外は冒険者と要相談ってことか。

 

 ペルマスクへのルートは原作だと、ドホナ、シュポワール、ドブロー、サボージャ、アイエナ。そして、描写が飛んで帝国の最東部にあるザビルとなっていた。

 ザビルからペルマスクへは、一日三回の定期便があるはずだ。

 

 ミチオはいざというときのため、時間をかけて一つ一つの街にブクマをしていたが、別に今それをする必要はない。

 何かあればそのときでいいだろう。

 それに、値切り交渉でも時間を使っていたが、こっちとら百万ナール持ちなのだ。時間を金で買ってやるぞ。

 

 

 

 ちょうど空いたカウンターへ行き、ギルド職員の女性に尋ねる。

 

「すまない。ペルマスクまで移動したいのだが、一番近くまで移動できる冒険者をお願いできるか」

「ペルマスクですか? そうですね……」

 

 それを聞くと彼女は眉間に皺をよせ、少し考えると口を開いた。

 

「帰りもありますので、ベイルからだとドブローが精いっぱいだと思います。それに価格も冒険者との交渉次第となるでしょう」

 

 それもそうか。行った先でMPが足りなくなったら疲労回復薬を使わなくてはいけなくなり、儲けが減ってしまう。

 となると、MP回復なしに往復できる場所が最長距離となるわけか。

 交渉しないといけないのは面倒だなぁ。

 

 でもまあ、これしかない以上仕方がない。

 

「では、ドブローへ移動できる者を頼む」

「かしこまりました。少々お待ちください」

 

 返事をすると、彼女はハンドベルを鳴らさずに席を立ち、奥の部屋へ入っていく。

 

 おそらく、全員が全員ドブローへ行けるわけではないのだろう。

 そのため、可能な者に直接声を掛ける必要があるわけか。

 

 

 

 掲示板の張り紙を見ながら時間を潰していると、しばらくして冒険者を連れた女性職員が戻ってくる。

 

 ん? あれ? こいつ。

 

ケヴィン 男 28歳

冒険者Lv39

装備 強権のミセリコルデ ダマスカス鋼の盾 聖銀の額金 頑強の竜革鎧 剛腕の竜革手甲 竜革の靴 身代わりのミサンガ

 

 うっわ! なんだその装備は! ヤバすぎるだろ!

 

「あんたはあのときの!」

 

 俺に気が付いた男が大きな声を上げた。

 

「ああ。妙な所であったな」

「以前は元のパーティーメンバーが失礼をした」

「いや、前にも言ったがあんたたちのせいじゃないんだ。気にすることはない」

 

 あの男にはきっちりケジメをつけてもらってる。

 

「そう言ってもらえると助かる」

 

 しかし、こいつはパーティーを組んでいたはずだよな?

 なんで、ギルドのフィールドウォーク係なんてやってんだ?

 もしかして、あの後パーティーを解散していたりするのか?

 

 

 

 俺たちの様子を不思議そうに眺めていたギルド職員が、そのケヴィンという男に話しかけている。

 

「お知り合いですか?」

「知り合いというほどではないんだが、以前ちょっとした縁があってな」

「そうでしたか。それならギルドの仲介ではなく、直接交渉された方がいいでしょう。私はこれで失礼いたします」

 

 そう言うと彼女は軽く会釈をして、その場を去っていった。

 

 ……こんな緩くていいもんなの?

 いや、原作ではミチオも直接交渉していたし、おそらく問題ないのだろう。

 

 

 

 ドブローまでの料金を確認しようとしたところ、男は機先を制して口を開く。

 

「すまない、少し話せないか?」

 

 なんだ? まさか今になって恨み言を言われるなんてことはないだろうが、一体どんな用件だ?

 

 ……とりあえず話を聞いてみるか。

 

「ああ。かまわない」

「ありがとう。では、一旦ここを離れよう」

 

 

 

 

 

ベイル

 

 

 

 

 

 冒険者ギルドを出て歩き出したケヴィンの後に続くと、彼はベイル亭の一つ手前の路地へ入っていく。

 

 狭く薄暗い道を進んでいるうち、心に不安が湧き上がってくる。

 これついて行って大丈夫か? この先に仲間が待ち構えてて襲われたりしないだろうな?

 

 こっちとらオーバーホエルミングを持っているんだぞ。不意打ちは絶対にくらわないんだぞ。何かするつもりならデュランダルが黙ってないぞ。

 

 

 

 表通りの喧騒がすっかり聞こえなくなったところで、奴は足を止め、こちらへ一歩近づいてきた。

 

 やめろ! くるな! チュー魔人! 来たら刺すぞ! 本気だぞ!

 

 ケヴィンは真剣な表情を浮かべ、口を開く。

 

「俺たちの仲間だった狼人族。ナギィというんだが、奴はとんでもなく執念深い男だ」

 

 えっと、なんかシリアスな雰囲気が漂っていますね?

 あ、あの、襲うとか襲われるとか、そういう感じじゃない?

 

「ふむ」

 

 とりあえず、なんとなく頷いておく。

 

「それに、あんたの奥方にかなり執着していた。あいつは人の妻だろうが恋人だろうがお構いなしに手を出し、飽きたらゴミのように捨ててしまう」

 

 とんでもないクソ野郎だな。おい。

 ……しかし、なんでそんな奴とパーティーを組んでいたんですかねぇ。

 

「おそらく、奴はあんたたちを狙っているだろう。悪いことは言わない。ベイルを離れた方がいい」

 

 なるほど。こいつは忠告をするつもりで、こんなところまで来たわけか。

 だが、どうしたもんか……。

 

 あの男は既に始末している。これを伝えて良いものなのか?

 仲間としての情が残っていて、恨まれたりしたら不味いぞ。

 それに、こいつの口から盗賊を倒したことが広まってしまうかもしれない。

 

 いや、でもなぁ……。

 別のところから伝わったら、それはそれで面倒なことになりそうなんだよなぁ。

 

 

 

 うーん……。いいや。仮に恨まれて襲われるようなことがあっても、返り討ちにすればいいだけだ。

 ロクサーヌがいる限り不意打ちをくらうことはないだろうし、オーバーホエルミングを念じる時間さえあればどうとでもなる。

 盗賊退治についても、こいつらだって盗賊の仲間だったと思われるのは嫌なはず。触れ回ることはないだろう。

 

「その件についてなのだが、俺の方からも伝えておきたいことがある」

 

 話を切り出すと、彼は面食らったような表情を浮かべた。

 

「伝えたいこと?」

「ああ。その狼人族の男だが、二日前に盗賊を引き連れて俺たちを襲撃している」

「なんだと!?」

 

 思ってもいない言葉だったのだろう。ケヴィンは目を大きく見開き声を上げる。

 

「そいつらは俺のロクサーヌを全員で辱めるとぬかしやがった」

 

 誰だろうと、それだけは絶対に許すわけにはいかない。

 そんなことをしようとする奴は、すべてあの世へ送ってやる。

 

「ま、待ってくれ。確かにあんたたちを襲おうとしたのかもしれないが、盗賊と手を組むなんて、まさかそんな……。そんな馬鹿なことをするはず……」

 

 やはり、仲間としての情が残っていたのだろう。かなり動揺している様子でブツブツと呟く。

 

「そいつらを始末してインテリジェンスカードを騎士団に持ち込んだんだが、六人中四人は間違いなくベイルのスラムを根城にしている盗賊で、懸賞金も懸かっていた」

 

 彼はその言葉を聞くと、何かを堪えるように歯を食いしばり、顔には苦悶の色を滲ませている。

 

 

 

「馬鹿野郎が……」

 

 しばらくして、小さな声が漏れた。

 

「すまん。酷なことを伝えてしまったようだ」

 

 あんな奴でも仲間として共に過ごして、それなりの想いもあったのかもしれない。

 

「……いや。いいんだ。あいつはいつもいつも好き勝手に振る舞い、俺たちがどんなに忠告しても言動を改めることはなかった。心のどこかでは、いつかこういう日が来ると思っていたのかもしれない……」

 

 そう言ってため息をこぼす。

 

 俺たちと出会わなければ、こいつらはそのまま一緒にパーティーを組み続けていたんだろうか?

 いやまあ、だからといって罪悪感は欠片もないんだけどな。

 ロクサーヌに手を出そうとしたあいつが悪いし、俺の対応だって何一つ間違っちゃいない。

 

 

 

「すまない。時間を取らせてしまったな。それじゃあ、フィールドウォークの方をこなすとしよう」

 

 ケヴィンは気持ちの整理をつけたのか、依頼について口にした。

 

「ああ。頼む」

「ギルド職員から聞いたところによると、えーっと、すまない。お互い名前も知らなかったな。俺はケヴィンという。あんたの名前を聞いてもいいだろうか?」

 

 俺の方は知ってんだけどね。

 

「俺はアユム・タガワだ」

「なるほど。別に疑っていたわけではないが、やはり自由民なのか」

 

 彼は納得したように頷いている。苗字を名乗れば丸分かりだもんなぁ。

 

「それで、アユムさんはドブローに行きたいってことでいいのか?」

「ドブローというかペルマスクへ行きたいのだが、ギルド職員にベイルからだとドブローまでになると言われたのだ」

「そうか……」

 

 ケヴィンはそれを聞くとしばらく考え、程なくして口を開く。

 

「実は以前、ペルマスクへ行ったことがある。あんたたちには迷惑をかけてしまったし、強壮剤の実費さえ負担してもらえれば、連れていってもいいぞ」

 

 マジで!? よっしゃー!

 

 あ、いやいや。強壮剤をどのくらい使うかわからないんだ。喜ぶのはまだ早い。

 

「強壮剤はどのくらい必要になる?」

「二人で移動となると片道三個は使う。往復だと六個だな」

 

 くっ。めちゃくちゃ要るじゃないか。デュランダルさえ使えれば一個も必要ないのに!

 しかし、パーティーメンバー以外にボーナス装備を晒すわけにはいかん。

 

 強壮剤は一個六百ナールだから、合計三千六百ナール。

 原作での時間や金額を考えると、何とか飲み込める。

 

「そちらの提案に甘えることにしよう。すまんがよろしく頼む」

「ああ、まかせてくれ。それじゃあ、パーティーを組むか」

 

 おっと。こっちのパーティーを解散しておかなければ。

 急いでパーティー編成を開き、それを解除する。

 

 ……この喪失感には慣れないなぁ。

 前とは違い、二人分の存在を感じられなくなってしまったため、軽くメンタルがやられそうだ。

 

 悶々としているとケヴィンの詠唱が終わり、パーティー申請が届く。

 それを了承したところで、彼が口を開いた。

 

「それではこれからドブローの冒険者ギルドへ移動するから、そこで強壮剤の購入を頼む」

「分かった」

 

 俺の返事を確認すると、彼は路地の壁にフィールドウォークのゲートを開き、それに身を埋める。

 そして、俺もその後に続く。

 

 

 

 

 

ザビル

冒険者ギルド

 

 

 

 

 

 ドブローの冒険者ギルドで強壮剤を購入し、サボージャにアイエナ。それからいくつかの街を経由したところで、彼が話し掛けてきた。

 

「ここが帝国最東端のザビルだ。そして、次がペルマスクとなる」

 

 たぶんまだ三十分も経ってないのに、めちゃくちゃ順調だなぁ。

 あたりを見回してみると、クーラタルや帝都、それからベイルなどではあまり見かけないような、薄着で褐色の肌をした人たちが目に入る。

 

 おっ。あの女性はドワーフだろうか?

 銀色の髪に褐色の肌だが、背が低く耳が尖っている。

 しかし、その耳はセリーと違い結構な太さだ。

 

 確かめてみるか。鑑定っと。

 

 なるほど。十五歳……。

 彼女がドワーフだった場合、年齢相応の耳なのかもしれないな。

 

 おのぼりさんのように、キョロキョロとあたり見回していると、再びケヴィンが声を掛けてきた。

 

「では、ペルマスクへ行こう」

「うむ。よろしく頼む」

 

 彼に続き、展開されたフィールドウォークのゲートへ飛び込む。

 

 

 

 

 

ペルマスク

冒険者ギルド

 

 

 

 

 

 ゲートを通り抜けるとケヴィンがこちらへ振り振り向いて告げた。

 

「アユムさん。ここがペルマスクだ」

 

 マジで来れちゃったよ。

 まさか、朝食前にペルマスクにたどり着くとはなぁ。お釈迦様でも想像できなかっただろう。

 

 彼はパーティーを解散して、言葉を続ける。

 

「あんたたちには迷惑をかけてしまったな。本当に申し訳ない」

「いや、そんなことはない。こちらこそ世話になった。ありがとう」

 

 ケヴィンはその言葉に笑みを浮かべ、話し始めた。

 

「俺たちは今、ベイル亭という宿に泊まっているんだが、もし何かあれば訪ねてきてくれ」

 

 ベイル亭? マジ? なんか縁があるなぁ。

 

「俺たちも以前宿泊していたが、あそこはサービスが行き届いていて本当に良い宿だ。たまに食堂を利用することもあるので、見かけたら声を掛けてくれ。これだけ世話になったんだ、飯代くらい出させてもらいたい」

 

 まあ、朝食は宿泊代に含まれていたし、夕食付きのプランを利用しているかもしれないけどさ。

 

「はは。ありがとうな。それじゃあ、見かけたら声を掛けるとしよう」

 

 笑いながら答えた彼に、さっきから気になっていたことを聞いてみる。

 

「ところで、パーティーを組んでいるはずのあんたが、どうしてギルドでフィールドウォークの仕事をしていたんだ?」

「ん? ああ。実はあいつの代わりのパーティーメンバーが見つからなくてな。五人で試してみたんだが、以前なら安定して戦うことができたはずの階層でもなかなか厳しい」

 

 六人から五人になってしまったのだ。そりゃ、戦力低下もするだろう。

 

「それで、いま他の奴らはそれぞれの知り合いをあたっていて、その間に俺はパーティーの資金稼ぎってわけさ」

 

 こいつは知り合いのあてがないのか……。

 こう見えてボッチだったりする? パーティーの中で浮いていたり、喋ると微妙な空気になったり?

 

 もしかしたら、君は私の良き理解者となる男なのかもしれない。

 

「午後からは俺の方の知り合いにあたることになっているから、早いところベイルに戻らないとな。それじゃあ、アユムさん。また会おう」

 

 そう言い残し、奴はフィールドウォークで消えていった。

 

 裏切ったな! 僕の気持ちを裏切ったな! 父さんと同じに裏切ったんだ!

 

 まあ、別に親父には裏切られていないんだが。

 というか、俺の方が裏切った形になるのかもしれない。

 

 ……さて、自宅へ戻るか。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

探索者Lv37 英雄Lv33 魔法使いLv36

装備 硬革の靴 身代わりのミサンガ

 

BP振分 残BP:0

キャラクター再設定:1

サードジョブ:3

必要経験値二十分の一:63

詠唱省略:3

鑑定:1

ワープ:1

MP回復速度二十倍:63

 

所持金:1,207,485ナール

 

春の33日目

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