異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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108 安らぎ

 

 

 

 

 

ペルマスク

冒険者ギルド

 

 

 

 

 

「ペルマスクは初めてですか?」

 

 ワープを使用するため人気のない場所を探していると、トガというのだろうか? 古代ローマっぽい服を着た男が、にこやかな表情を浮かべて話し掛けてきた。

 

「うむ」

「それはそれは。ようこそペルマスクへ。この町は誰でも自由に歩くことが可能で、物品の売買も自由です。しかし、いくつかのルールが存在しているため、初めて訪れた方にはご説明申し上げることとなっております」

 

 こわっ。なに? いきなりまくし立ててくるんだけど……。

 

「この島は冒険者ギルドを除くすべての建物に遮蔽セメントが使用されており、さらにすべての木を伐採しているため、フィールドウォークを使用できるのはこちらだけとなります」

 

 え? あ、はい。

 ……こいつ、同意なく説明を始めたぞ。

 

「そして、この町の住人を島外へ連れ出すことは固く禁じられており、違反した場合は厳しい処罰が科せられます。また、その幇助を行った場合でも処罰の対象となりますので、お気を付けください」

 

 ワープを用いた完全犯罪も可能だろうが、そんなことをする理由もないしな。

 

「町へ入るときには、参事委員会麾下の騎士によるインテリジェンスカードのチェックを受けた上で、銀貨一枚の入市税をお納めください。それから、こちらでは帝国銅貨が使用できないため両替が必要となります」

 

 喋り終えた男を呆然と眺めていると、彼は再び口を開く。

 

「もう一度最初からご説明いたしましょうか?」

 

 RPGかよ。

 

 

 

 理解できた旨を告げ、男から離れて考える。

 

 原作でもそうだったが、ペルマスクでは帝国の銅貨を使えないんだな。

 銀貨、金貨、白金貨は迷宮のドロップアイテムなので各国共通なのだろう。

 しかし、銅貨はそうではない。確かウェブ版だと銅貨はコボルトのレアドロップであるジャックナイフから作られていた。

 この世界では書籍版以降と同じく、コボルトのレアドロップはコボルトナイフだが、おそらく銅貨はそれからできているはずだ。

 となると、貨幣鋳造権を他国に握られるわけにはいかないだろうし、国が変わると両替が必要になるのも当然か。

 

 

 

 人気のない場所を探しながら、さらに考えを巡らせる。

 

 ミチオは今の俺とそうレベルが変わらない状態でロクサーヌとセリーを連れ、自宅からザビルへ移動していた。

 ということは毘盧帽を使えば、三人でもまったく問題ないはずだ。

 

 それじゃあ、ザビルへ移動して近くにあるはずの迷宮から自宅へ戻ろう。

 ブクマ登録をしておけば、次回からはそこを経由すればいいからな。

 

 

 

 

 

ザビル

冒険者ギルド

 

 

 

 

 

 ゲートを抜けて辺りを見回すと、先ほど見かけたドワーフっぽい女性がジョッキを傾けていた。

 所謂パイナップルヘアーというんだろうか? 髪が上部でまとめられている。

 眠たげな眼をしているが、結構な美人さんだ。

 しかも、そんな美人さんの上半身はビキニのようなトップスで覆われているだけなので、目のやり場に困るぞ。

 

 ……よし。彼女に聞いてみよう。

 いや、他にも人はいるが、彼女は、ほら、あれじゃん。なんか地元の人っぽくて近くの迷宮とかに詳しそうじゃん。美人だからとかそういうんじゃないから。俺にはロクサーヌとセリーがいるわけだし。

 

 

 近寄って話し掛けようとした瞬間、アルコールの臭いが鼻をつく。

 

 これ酒か?

 

 あ、もしかしたら原作でセリーが図書館で飲んでいた水ってやつ?

 確か、三度しか蒸留しておらず酒精が弱いため、ドワーフの間で水代わりに飲まれている酒で、通称水。

 

 ……三度も蒸留したものを弱いって、どんだけやねん。

 

 やはり、彼女はドワーフなのだろうか?

 まあいいや。とりあえず聞いてみよう。

 口からジョッキが離れたタイミングで声を掛ける。

 

「すまない。この近くに迷宮はあるだろうか?」

 

 すると、その女性はもう一度ジョッキを口につけ、ゴクリと喉を鳴らしてから答えた。

 

「どんな迷宮をお探しです?」

 

 おいおい。話しかけても飲むのをやめないぞ。

 

「一番近くにあるものだな」

「でしたら、ここを出てまっすぐ進み、東門を出たすぐのところにありますよぉ。でも、管理はされてないので担当の探索者はいないんです。ただ、人が歩いた跡がはっきりついているので、東門を出たらすぐにわかると思いますよぉ」

 

 うん。正確には覚えていないが、概ね今言ったような場所だったはず。

 

「ありがとう。助かった」

「どういたしましてぇ」

 

 彼女はそう言うと再び口元にジョッキを持っていき、ひらひらと手を振った。

 

 すげーノリが軽いな。ギルド職員ではないのか?

 ……気にしてもしょうがない。さっさと自宅へ戻ろう。

 

 

 

 

 

ザビル

 

 

 

 

 

 外へ出ると、太陽の位置がかなり高い。それに、クーラタルに比べてだいぶ日差しが強い。

 あちらを出たときはまだ明け方くらいだったが、それから一時間も経っていないのにこの日の高さということは、原作と同じく時差は二時間くらいなのだろう。

 

 というか、クーラタルとベイルでも結構時差があるんだよなぁ。

 だが、ロクサーヌ大先生のおかげで、普段はそれを意識することなく生活を送れている。

 美人でかわいくスタイル抜群で、そのうえ正確な体内時計まで持つ。本当にすごい娘さんだわ。

 

 

 

 通りを歩きながら辺りを確認してみると、赤いレンガ造りの建物が立ち並び、道のわきに植えられている街路樹が、道行く人を日差しから守っていた。

 見える範囲で最も印象的なのは、切り立った崖の上で町を睥睨するかのようにそびえている、赤茶色のレンガで作られた城壁と、そこから突き出した塔だろう。

 もしかしたら、あそこに領主がいるのかもしれない。

 

 それにしても、歩いていて目につく人たちは、種族に関わらず褐色の肌が多いようだ。

 全員薄着だし、この日差しの強さと関係しているのだろうか?

 

 

 

 周囲を確認しながら散歩気分で東門に向かって歩いていると、鐘楼を備えた建物が見えた。おそらく、騎士団の詰め所だろう。

 

 うーん……。騎士団があり、領主のお膝元だと思われる町のすぐ近くに発生した迷宮……。

 そんなものが、管理されることなく放置されているなんて、あり得るのだろうか?

 

 ベイルの迷宮は発生してすぐに騎士団が出張っていたし、入口にも探索者が常駐していた。

 原作のハルツ公爵領でも、発生したばかりで一階層さえ攻略されていないうちから、入口に探索者が立っていた。

 

 何か事情があるのかね?

 

 ……まあ、考えても答えなんか出ないわな。

 

 

 

 ベイルの門と比べ、だいぶ小さな門を通り抜けて町の外へ出ると、辺りは木々に覆われていた。

 木々の間にある程度のスペースが取られていることから、管理されている林だろうということがうかがえる。

 

 冒険者ギルドで教えてもらった通りだな。

 地面が踏み固められていて、人の往来があることが一目でわかる。

 

 んじゃ、進みまっしょい。

 

 

 

 

 

ザビルの迷宮

一階層

 

 

 

 

 

 一人で迷宮に入ったのがまだ二度目なせいか、いきなり心細さに襲われる。

 一度目は人でごった返していたクーラタルの一階層だったため、こんな風にガチで一人きりなのは初めてだ。

 たとえ魔物に鉢合わせたとしても、たった一匹な上にレベルも1なため、全然余裕だということを理解しているのに、どんどん恐怖心が湧き上がり、まるでこの世に俺しかいないような気さえしてしまう。

 

 いや。事実、この世界に価値観を共有できる人はいないし、ロクサーヌとセリーがいなければ、心を許せる人さえ存在しない。

 

 ……一人は嫌だ。とっとと帰ろう。

 

 キャラクター再設定を開いてMP回復速度二十倍と頭装備六を入れ替え、出現した毘盧帽をかぶり、自宅の玄関を思い浮かべながら小部屋の壁へ念じる。

 

ワープ

 

 そして、展開されたゲートへ向かい足を踏み出す。

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 ゲートを通り抜け自宅の玄関から出ると、ロクサーヌとセリーがエントランスの掃除を行っていた。

 

 彼女たちを目にしたことで、嘘のように恐怖心がスーッと晴れていく。

 うん。やっぱり我が家が一番だ。

 

 二人は俺が戻ってきたことに気が付き、嬉しそうに笑みを浮かべた。

 本当にかわいい娘たちだなぁ。

 

「おかえりなさいませ、ご主人様」

「ただいま。ロクサーヌ」

「ご主人様、おかえりなさいませ」

「セリーもただいま」

 

 すぐさま二人にパーティー申請を送ったところ、即行で承諾される。

 その途端、彼女たちの存在が感じられるようになり、自分の精神が安定していくのが分かった。

 

 この娘たちの存在自体が、俺にとってトランキライザーのようなものだな。

 ロクサーヌとセリーがいなければ、この世界でまともに生きていくことも出来ないだろう。

 本当に二人と出会えてよかった。

 

 

 

「ご主人様、今日はどこまで移動できたのですか?」

 

 幸せをかみしめていると、ロクサーヌが問いかけてくる。

 

「いやー。めちゃくちゃ運が良くてさ。ペルマスクまで行くことができたよ」

「この短時間でペルマスクまで!?」

 

 すると、セリーから大きな声が上がり、ロクサーヌも驚いたように尋ねてきた。

 

「何かあったのですか?」

 

 話すと長くなるんだよなぁ。

 

「詳しいことは食休みのときに話すから、まず二人の作ってくれた朝食をとろう」

「かしこまりました。それでは準備をしてまいります。セリー、行きましょう」

「はい。ご主人様、失礼します」

 

 俺も靴を履き替え、彼女たちの後へ続く。

 

 

 

 朝食は昨日の残りのポトフとベーコンエッグ。それから葉野菜のサラダにパンだった。

 一晩寝かせたポトフも絶品だし、ベーコンエッグもかなり美味い。

 素材の良さもあるのだろうが、彼女たちが作ってくれたというだけで、星三つ間違いなしだ。

 

 

 

 食事と歯磨きを済ませると、セリーが話し掛けてきた。

 

「食休みの前に装備品の製造をしてきます」

 

 おっと。そうだった。毘盧帽を渡しておかなければ。

 ボーナスポイントを振り分け、出現したそれを受け取ってキッチンを出る彼女に声を掛ける。

 

「じゃあ、よろしくね」

「セリー、頑張ってください」

 

 

 

 ロクサーヌと二人でリビングへ移動し、おしゃべりをしながら待っていると、程なくして彼女が部屋へ戻ってきた。

 

「セリー、お疲れ様。製造は問題なかった?」

 

 毘盧帽を受け取り労いの言葉を掛けたところ、はにかんだような笑みを浮かべて答える。

 

「ありがとうございます。失敗することなく装備品を作ることができました」

 

 うんうん。よきかなよきかな。

 その様子を見ていたロクサーヌが、彼女を促す。

 

「さあ、今日はあなたの番ですよ。ご主人様に抱きしめてもらってください」

「えっと、あの……。よろしくお願いします……」

 

 すると、セリーは頬を朱に染めて呟き、俺の脚の間に腰を下ろした。

 

 ……めちゃくちゃかわいいなぁ。

 

 緊張からか、直角に座っているその小さな体をぎゅっと抱きしめ、こちらへもたれさせる。

 

「あっ……」

 

 彼女の口から言葉が漏れた。

 

「ふふ。どうですか?」

 

 いたずらっぽい笑みを浮かべたロクサーヌが尋ねると、セリーは恥ずかしそうに答える。

 

「あの、力強くて、温かくて、とても安心できます……」

 

 本当にかわいいことを言うなぁ。

 

 

 

 しばらくのんびりしていると、ロクサーヌが口を開く。

 

「ところで、ご主人様。先ほどおっしゃっていた、ペルマスクへたどり着いた件について、教えていただけますか?」

 

 ああ。食休みのときに話すって言ったんだったな。

 

「それじゃあ、一通り話していこうか」

「よろしくお願いします」

 

 俺たちの会話を聞いていたセリーは腕の中で身じろぎをして、好奇心に輝く顔をこちらへ向けた。

 なんだ、このかわいい生き物は。

 

 でも、この体勢だとなんか話しにくいわ。

 

「ちょっと待ってね」

 

 ロクサーヌに声を掛け、セリーの体を抱えて膝の上に座らせる。

 よし。これで、だいぶ話しやすくなった。

 

「えっ、あ、あの……」

 

 戸惑っているセリーに笑顔で頷き、話を始めることにする。

 

「まず、自宅からベイルの冒険者ギルドへ移動したんだけ――」

「お待ちください」

 

 だが、ロクサーヌに制止されてしまう。

 

 どうしたんだ?

 

 彼女の方をうかがうと、真剣な表情で俺を見つめていた。

 

「ご主人様」

「は、はい」

「午後の食休みでは、私にもそれをお願いします」

 

 ああ。そういうことか。びっくりしたなぁ、もう。

 

「もちろん大丈夫だよ。というか、ロクサーヌが望むならどんな体勢でも問題ないから」

「では、このあとソファーが増えるので、寝そべって正面から抱きしめていただけますか?」

 

 それは良い! ナイスアイデアだ!

 

「じゃあ、お昼はそうしよう」

「よろしくお願いしますね」

 

 お昼の食休みに思いを馳せロクサーヌと笑い合っていると、体に腕が回されぎゅっと抱きつかれる。

 

 しまった! セリーを蔑ろにしたと思われたか!

 

 俺の胸に顔を埋めているセリーの背中を、慰めるようにポンポンと叩く。

 

「明日の食休みではセリーともやってみたいんだけど、いいかな?」

 

 すると、顔をこちらに向け上目遣いで口を開いた。

 

「よろしいのですか?」

「もちろん」

「はい。お願いします」

 

 そのまま、背中をさすりながら考える。

 

 ……ハーレムってめちゃくちゃ大変なんだなぁ。

 まだ二人なのにこんな状態で、この先大丈夫なんだろうか?

 ミチオもそうだけど、今まで観たり読んだりしたハーレム物の主人公を尊敬してしまうわ。

 

 

 

 落ち着いたところで、ペルマスクへたどり着けた経緯を話す。

 ケヴィンと再会したことにロクサーヌが驚き、彼や狼人族のナギィとの因縁を聞いたセリーはそれに輪をかけて驚いていた。

 

 

 

「それでペルマスクからザビルへ移動して、その近くにある迷宮から自宅へ戻ったんだ。毘盧帽のおかげでMPには何の問題もなかったし、あの感じだと三人でも大丈夫そうだったよ」

「本当にご主人様のボーナス装備はすごいですね」

 

 ロクサーヌが感心したように呟くと、セリーも口を開く。

 

「ペルマスクから疲労回復薬も使わずに、クーラタルまで移動できるなんて信じられません」

 

 ペルマスクからではなくザビルからの移動になるのだが、確かにMPの回復はしていない。

 チート野郎の面目躍如だな。

 

 とりあえず、これでペルマスクへのブクマが済んだ。

 彼女たちの部屋とバスルームに置く分の鏡を買いたいところだが、貴族の紹介状がないため、今はゴテゴテ装飾が施された成金趣味丸出しのクソ高い鏡しか買うことができないはず。

 いずれ、ハルツ公に渡りが付いたら買いに行こう。

 もちろん、彼に売却する分もな。

 大儲けしてやるぜー。目指せ売上百万ナール!

 

 ……いや。それは無理だわ。

 

 

 

 のんびり食休みをとった後は、掃除をしながら家具が届くのを待つ。

 しばらくして、荷馬車でやってきたのは前回と同じ二人組だった。

 今回もお願いして家具を中に入れてもらい、彼らが引き上げる際に、これまでと同じように心付けを渡しておく。

 そして、ワープとセリーのパワーのおかげで、あっという間に設置が済んだ。

 

 二人はそれぞれ自分のチェストへ向かい、嬉しそうに何度も鍵の開け閉めを試している。

 めちゃくちゃかわいい娘たちだなぁ。

 これだけ喜んでもらえるなんて、本当に買ってよかったわ。

 

 

 

 一頻りそれを見守ったところで声を掛ける。

 

「それじゃあ、そろそろ迷宮へ行こうか」

「かしこまりました」

「よろしくお願いします」

 

 

 

 

 

クーラタル

 

 

 

 

 

 午前の探索を終え、ドロップアイテムの売却を済ませて食材の買い出しを行う。

 そして、家具屋へ寄ってセリーのスツールも忘れずに購入しておいた。

 彼女の髪を洗う際、絶対必要になるからな。

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 朝食と昼食はしばらく二人にまかせるつもりだったが、ペルマスクのブクマ登録は既に済んでいる。俺も台所に立つとしよう。

 ふっふっふー。レーズンを見かけたので購入しておいたのだ。これは絶対美味いぞー。

 

 

 

 二人の横で蒸しパンを作っていると、ロクサーヌは満面の笑みで問いかけてきた。

 

「ご主人様! 蒸しパンですね!?」

 

 めちゃくちゃ嬉しそうにしてるなぁ。

 

「ピンポンピンポーン。食後のデザートとして出すから楽しみにしてて」

「ピンポン……? えっと、はい。楽しみにしています!」

 

 一瞬不思議そうな表情を浮かべたものの、すぐに笑顔へ戻り大きな声で返事をした。

 

「とても甘くて良い香りです。これは蒸しパンというのですね」

 

 一方セリーは好奇心に火がついたような瞳でこちらの様子をうかがっている。

 

「セリーにも喜んでもらえると思うから、期待しててね」

「ありがとうございます。昨日のハンバーグや唐揚げ、それにミートスパ。どれも本当に美味しかったので楽しみです」

 

 気に入ってくれるといいなぁ。

 

 

 

 二人の視線はせいろに釘付けで、楽しそうに蒸しパンについておしゃべりをしながら、料理を行っている。

 

 ほらほら、頑是ないお嬢さんたちよ。

 この手作りのぶどうパンに興味津々なのは理解できるが、まずは昼食の用意に集中したまえ。

 まったく。愛らしくて困ったものだ。

 

 

 

 昼食を食べている間も、彼女たちの目はせいろに向いており、ワクワクしている様子がうかがえる。

 

 彼女たちの作ってくれた昼食を平らげた後は、せいろに載ったそれを手に取る。

 前回が少し大きめだったため、今回は三分の二ほどのサイズで六個作った。

 蒸しパンを二つ取り、せいろをロクサーヌへ回す。間違ってもセリーを先にするわけにはいかない。これはフリではないのだ。

 面白半分にそんなことをしたらロクサーヌの心を傷つけてしまう。

 

 彼女は二つ選ぶと、せいろをセリーへ回す。

 

 ……残った中で一番大きいものと一番小さいものを取ったな。

 本当に優しい娘だわ。

 

「ありがとうございます」

「ふふ。とても美味しいですよ。絶対にセリーも気に入ります」

 

 セリーもそれに気が付いたのだろう。感謝の言葉を述べ、二人で顔を見合わせて笑い合っている。

 

 良い娘たちだなぁ。一生大切にしなくては。

 

 

 

「さあ、それじゃあ食べよう」

 

 二人に声を掛け、一口サイズに千切って口へ運ぶ。

 

 うん。美味い。

 バニラの風味が加わったおかげで、正統派な美味さになっている。

 それに、レーズンの甘さと食感も良いアクセントだ。

 次はラムレーズンにするのもありだな。

 デーツみたいなドライフルーツもあったし、それを試してみるのもいいかもしれない。

 

 咀嚼しながら考えていると、大きな声が上がった。

 

「んー! やはりご主人様の蒸しパンは最高です!」

「ふわふわなのにこんなにしっとりしているなんてすごいです! それに、上品でくどさのない甘味と豊かな風味。そこに干し葡萄の甘さと香りが加わり、信じられないくらい美味しいです!」

 

 そして、再びモシャモシャと食べ出す。

 こんなに喜んでもらえるなんて、本当に幸せだわ。

 

 夕食のカレーも頑張ろう。

 それに、以前ロクサーヌへ期待させるようなことを言ったし、ハンバーグカレーにするか。

 

 

 

「ご主人様、ありがとうございます。とても美味しかったです」

「はい。こんなに美味しいものをいただけるなんて、私は本当に恵まれています。ご主人様、ありがとうございます」

 

 食べ終わると、二人は口々にお礼の言葉を述べる。

 毎度のことながら、作ったものを美味しそうに食べてもらえると、幸せな気持ちになるよなぁ。

 

「気に入ってもらえてよかった。それじゃあ、歯磨きと片付けを終えたら食休みをとろうか」

 

 返事をする彼女たちと共に椅子から立ち上がり、食器を持ってダイニングを後にした。

 

 

 

 歯磨きと洗い物を済ませてリビングへ移動し、セリーの装備品製造を見守る。

 それが終わったところで、ロクサーヌから乞われるままにソファーへ体を横たえると、彼女は満足気な笑みを浮かべ正面から抱き着いてきた。

 

「全身でご主人様を感じられます。これはとても素晴らしいですね」

「そうだね。俺もロクサーヌを全身で感じることができて、本当に気持ちいいよ」

「ふふ。これから食休みはこの体勢でとることにしましょう」

 

 良いな、それ。めちゃくちゃ幸せな日常の風景だわ。

 是非実行しなければ。

 

「そうだね。明日からもよろしく」

「はい。こちらこそよろしくお願いします」

 

 そして、向かいのソファーに腰を下ろし、こちらをジトっとした目で見つめているセリーに声を掛ける。

 

「今後はセリーにもお願いしていい?」

 

 すると、彼女は動揺したようにワタワタとしてから声を出す。

 

「……よろしいのですか?」

「もちろん。セリーにしてもらえたならとても嬉しいよ」

「ではよろしくお願いします」

 

 そう言って、はにかんだような笑みを浮かべた。

 

 

 

 ロクサーヌの体温と重さに安らぎを覚えていると、窓から心地良い風が入ってくる。

 そして、周りにある木々が奏でている葉擦れの音が耳に届いた。

 

 あー。癒される。こんな日常がずっと続くと良いなぁ。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

探索者Lv37 英雄Lv33 魔法使いLv36

装備 サンダル 身代わりのミサンガ

 

BP振分 残BP:0

キャラクター再設定:1

サードジョブ:3

必要経験値二十分の一:63

詠唱省略:3

鑑定:1

ワープ:1

MP回復速度二十倍:63

 

所持金:1,207,485ナール

 

春の33日目

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