異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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111 ボルシチ

 

 

 

 

 

ベイルの迷宮七階層

ボス部屋

 

 

 

 

 

 ボス部屋に入ると同時にオーバーホエルミングを念じる。

 スローモーションで動いているロクサーヌの先にはパーンが待ち構えており、周囲には装備品が散乱していた。

 

 やはりあいつらは全滅したようだな。

 

 大急ぎでキャラクター再設定を開いて武器六へポイントをつぎ込み、出現したデュランダルを手に取って一気に駆け出す。

 

 あっという間にセリーとロクサーヌを抜き去り、眼前に迫るパーン目掛けてスラッシュを載せた一撃を振り抜くと、その一撃で奴の体は霞のように消えていった。

 

 

 

 どうやら、この世界でもあいつらはパーンの体力をぎりぎりまで削っていたらしい。

 

「ふぅ」

 

 安心からか、思わず息が漏れてしまう。

 

 

 

「パーンを一撃で倒してしまうなんて、さすがご主人様です」

「装備品がこんなにたくさん。本当にすごいです!」

 

 オーバーホエルミングが切れると、二人が声を上げながら駆け寄ってくる。

 

「前の奴らがパーンの体力を減らしてくれたおかげだな。さあ、散らばっているものを回収して早くここを離れよう」

「そうですね。今から自宅へ戻れば普段の昼食の時間とそう変わらないでしょう」

 

 あっ。確かにロクサーヌの言う通りだわ。

 できる限りいつもの習慣は崩したくない。さっさと片付けて家に帰るべ。

 

 

 

 散らばっているものを集め、一つずつ鑑定を行う。

 

 妨害の銅剣が五本と、ワンドが一本でこちらはスロットなしか……。

 あと一本用意できるまで我慢できなかったのかね?

 

 あ、いや。奴らの中に僧侶がいたな。

 もしかしたら、回復量が減るのを嫌がって用意しなかったのかもしれない。

 

 パーンの状態から考えるに、あと一本あれば間違いなく倒せていただろう。何とも愚かな選択をしたものだ。

 俺たちはこれを教訓に、準備を怠らないように気を付けよう。

 

 防具は、皮の帽子が六個に皮の鎧が六個。皮のグローブが六個に皮の靴が六足。そしてすべてスロットなしだ。

 こんな装備でよくパーンに挑もうと思ったなぁ。

 とんでもないチャレンジャーだわ。

 

 他には紫魔結晶が四つに青魔結晶が二つ。

 まあ、この程度ならすぐにでも稼ぎだせる。こいつはロクサーヌとセリーのものにしよう。

 

 

 

 こんなところだな。

 

「それでは、八階層でMPの回復を済ませて自宅に戻ろう」

 

 二人に声を掛け、次の階層へ続く扉を潜る。

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 ハンバーガーを平らげて、歯磨きとセリーの製造を済ませた後は、リビングでのんびり過ごす。

 

「それにしても、竜人族ってのはあんなにデカいんだね。びっくりしたよ」

「そうですね。私も間近で見たのは初めてなので驚きました」

 

 へー。ロクサーヌも初めて見たのか。

 俺たちの会話を聞いていた、セリーが解説をしてくれる。

 

「竜人族は大柄で、その体躯に見合う力と体力に優れた種族です。そして、竜騎士にジョブ変更が出来ればパーティーに安定感をもたらすといわれています。希少価値のある種族なので、目にする機会はなかなかありません」

 

 確かに原作でも希少価値がどうのと言っていたな。

 そんな頼もしい竜人族であるベスタに会える日を楽しみにしていよう。

 

 

 

 一頻り話を終え、ロクサーヌの体を抱きしめながら考えを巡らせる。

 

 これで妨害の銅剣が五本揃った。

 入手したウサギのスキル結晶は二つとも使ってしまったため、もう一本は次の機会を待たなければならない。それに、セリーの話では良い装備品につけた方がいいとのことだったので、出物が見つかるまでは物置の肥やしになってしまうだろう。

 

 皮シリーズの防具に関しては使う機会もないはずだ。セリーが作ったものと一緒に売却だな。

 

 あっ。そういえば魔結晶があったわ。

 

「ロクサーヌ、ちょっとごめんね」

 

 彼女に声を掛けて体の上からどいてもらい、身を起こす。

 そして、アイテムボックスを開き、手に入れた魔結晶をローテーブルの上に並べていった。

 

「この魔結晶については、頑張ってくれている二人のものにしよう。分け方はまかせるから」

 

 その言葉を聞いて、セリーが大きな声を上げる。

 

「そんな! パーティーに加入して少ししか経っていないのにいただけません!」

 

 すると、微笑みながらロクサーヌが諭すように話しかけた。

 

「私は以前も魔結晶をいただいていますので心配なくても大丈夫ですよ。セリー、せっかくのご主人様のご厚意なのです。遠慮することはありません」

「……本当によろしいのですか?」

 

 その言葉を聞いて、彼女はおずおずと問いかけてくる。

 

「もちろん。ロクサーヌの言う通り全然遠慮する必要はないからね」

「……はい。ありがとうございます」

 

 セリーは感極まったかのように瞳を潤ませ、震えた声で感謝の言葉を述べた。

 

 

 

 彼女が落ち着いたところで、ロクサーヌがさらに言葉を続ける。

 

「先ほど言った通り、私は以前にもいただいています。今回はすべてセリーのものにしてください」

「えっ!? ロクサーヌさん、それはダメです! 一番奴隷を差し置いてそんなことをするわけにはいきません!」

「少し待ってくださいね」

 

 大声を上げるセリーに笑みを浮かべ、彼女はソファーの脇に置いていたリュックから緑魔結晶を取り出す。

 

「えー! 緑魔結晶!?」

 

 目を見開いてそれを凝視している彼女へ告げた。

 

「この通り、私の魔結晶は緑になっていますので、問題ありません」

 

 ロクサーヌの手のひらに乗っている緑魔結晶を呆然と見つめていたセリーの口から、声が漏れる。

 

「奴隷が持っている緑魔結晶を取り上げられないなんて。そんなの聞いたことがありません……」

「ふふ。とても強く、頭がよく、そして信じられないほど優しいご主人様ですから」

 

 ……何も言うまい。めちゃくちゃ照れくさいけど何も言うまい。

 

「さあ、セリー。魔結晶の融合をしてみてください」

「はい……。あの、ご主人様。ロクサーヌさん。本当にありがとうございます」

 

 まあまあ。いいってことよ。

 

 

 

 セリーは次々と融合していったが、色は青のままで緑に変わることはなかった。

 

 うーん……。奴らは妨害の銅剣を五本も持っていたからなぁ。

 それを揃えるために魔結晶を売却したばかりだったのかもしれない。

 

 今後もこういうことがあったら彼女たちに渡すとしよう。

 手の中の青魔結晶を嬉しそうに眺めているセリーを見て、そう思った。

 

 

 

 

 

ベイルの迷宮

九階層

 

 

 

 

 

 無事予定を消化したし、ここからは全力でレベル上げといこう。

 探索者のレベルが上がったことで、ボーナスポイントが1増えている。

 詠唱省略に振るには1ポイント足りないし、ワンパン出来る九階層では鑑定もワープもいらない。

 ここは、結晶化促進の出番だな。

 

 振り分けを終え、ロクサーヌに告げた。

 

「では、魔物のところへ頼む」

「はい。おまかせください」

 

 

 

 いつものように決まった手順をこなす機械のように、魔法で魔物を殲滅していく。

 魔法攻撃にはまったく問題なく、MP回復の際もロクサーヌからヘイトが剥がれた魔物をセリーが受け持ってくれるようになったため、デュランダルによるバックスタブが安定して決まっている。

 段々自分たちの形というものが出来てきたのではないだろうか?

 

 まあ、チート能力頼りの形なわけなのだが……。

 

 

 

「ご主人様。そろそろ夕方になります」

 

 いつものように、ロクサーヌから終了の言葉が告げられる。

 

「よし。では、MP回復を済ませてクーラタルへ戻ろう」

 

 彼女たちの返事を聞きながらキャラクター再設定を開く。

 鑑定を付けて確認すると、商人のレベルが28になっていた。

 

 どっひゃー。やっぱ四百べぇはすげーな。オラおどれぇたぞ。

 

 いや、冗談じゃなくマジですごいわ。これワンチャン明日で商人のレベルが30になって、遊び人が取得できたりしないかね?

 

 それじゃあ、続けてロクサーヌとセリーを確認だ。

 

 よっしゃ。セリーの鍛冶師も上がっている。

 経験値効率二十倍でも、低レベルのうちはポコポコ上がるな。

 オッケーオッケー。順調順調。

 

 

 

 

 

クーラタル

 

 

 

 

 

 ドロップアイテムの売却を済ませ、ギルドから出たところでセリーが話し掛けてきた。

 

「夕食のスープは私が作ってもいいでしょうか?」

 

 おっ。これはもしかしてあれか?

 

 ロクサーヌの方を見ると目が合い、彼女は笑顔で頷いた。

 

「ありがとう。じゃあ、今日はセリーにまかせるな」

「はい! おまかせください! ご主人様はドワーフ料理のボルシチをご存じですか? 是非召し上がっていただきたいです!」

 

 ロクサーヌのポトフのときと同じようなことを言ってるぞ。この娘も本当にかわいいよなぁ。

 それにしても、やはりボルシチか。

 

「ずっと憧れていたロクサーヌのポトフやセリーのボルシチを実際に食べることができるなんて、本当に俺は幸せ者だ。期待しているぞ」

「ありがとうございます! ご期待に添えるよう頑張ります!」

 

 ロクサーヌは俺たちの会話を微笑ましげに見守っていた。

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 食材をキッチンにしまい、庭へ出て修行を行う。

 ロクサーヌ先生は俺たちの体を足場にピョンピョン跳ね回り、また一つ進化の階段を上っていた。

 

 足場にされる度、体に猛烈な負荷が掛かりダメージを負ってしまう。しかも、その際に木剣まで叩き込むというスパルタ具合だ。

 

 こんなもん、どう対処すればいいんですか!

 お願いですから常人でも対処可能な動きをしてください!

 

 

 

 その後、オーバーホエルミングを用いた修行を行うものの、やはりセリーへの攻撃をすべて防がれてしまう。

 決め手を欠いた上に、二人分の攻撃を捌かなければならないため、ヒヤリとする場面が増えてきた。

 

 オーバーホエルミング中に攻撃を食らう日も近いのかもしれん……。

 

 

 

 ダイニングに料理を運び、ボルシチを取り分ける。

 おー。めちゃめちゃ良い匂いがしてるぞ。

 

「では、食べよう。いただきます」

 

 俺に続き、彼女たちも食事前の挨拶を口にした。

 それにしても、セリーの顔が強張っているな。ものすごく美味しそうなんだから、そんなに緊張することないのに。

 

 さて、早速ボルシチからいってみよう。

 

 赤いスープからゴロゴロと大きく切られた具材をスプーンですくい、口へ運ぶ。

 赤ワインやトマト、それから添えられているサワークリームの酸味と風味。様々な野菜と牛肉から溶け出した旨味。そしてビーツの若干癖のある甘味が混じり合い、味覚を刺激する。

 じゃがいもとニンジンのホクホク具合。それから、キャベツとビーツの歯応えも最高だ。

 原作では翻訳の都合で、似たような料理がそう訳されているのではないかと推察されていたが、日本で食べたボルシチとよく似ている。

 地球にあった野菜が普通に存在するし、この世界はやはり原作そのまんまの世界というわけではないのだろう。

 

「セリー。とても美味しいよ。物語を読んでいたときに想像していた以上の味だ」

 

 その言葉を聞いて、彼女はまるで花が綻ぶように笑みを浮かべた。

 

「ありがとうございます。喜んでいただけたようで安心しました」

 

 ロクサーヌも一口食べると、満足気な表情を浮かべているセリーに告げる。

 

「セリー、とても美味しいですよ。これからもご主人様に喜んでいただけるよう、一緒に頑張りましょうね」

「はい。ロクサーヌさん、よろしくお願いします」

 

 

 

 

 

 一日の終わりは、寝室でこの世のものとは思えない美女たちと共に過ごす。

 自分でも驚くほど性欲が滾り、二人の体に溺れずにはいられない。

 何度も彼女たちを求め続けたため、三度目の精を受け止めたところで、セリーは意識を飛ばし、荒い息を吐いていた。

 激しくならないように気をつけたものの、彼女はまだまだ経験が浅いのだ。思いやりが足りなかったか……。

 

 反省しながら手当を使い、俺の体液で汚れた体を拭き清め、横向きになってセリーを腕の中に納め、背中をゆっくり撫でていく。

 

 こんなに小さく華奢な体で俺のことを受け止めてくれたんだな。

 

 彼女のいじらしさに胸がいっぱいになってしまう。

 

「セリーは何事にも一生懸命で、本当に良い娘ですね」

 

 すると、こちらを向いて横たわっていたロクサーヌが、セリーの頭を撫でながら話しかけてくる。

 

「そうだね。ロクサーヌもそうだけど、実際に会ったら想像していたより何倍も素敵な娘で、もっともっと好きになったよ」

「ありがとうございます。私も商館にいた頃は、どんな方の下に行くのだろうと色々想像していたものです。ですが、そんな予想を遥かに上回る素晴らしいご主人様に出会うことが出来ました。ご主人様、私を購入していただき本当にありがとうございます」

 

 何という殺し文句だ。

 彼女の言葉を聞き、まるで心臓を射抜かれたような衝撃を受けた。

 そんなことを言われたら、あまりの喜びで頭がおかしくなってしまうぞ。

 

「本当に君に出会うことが出来て良かった。愛してるよ、ロクサーヌ」

「はい。私も愛しています。ご主人様」

 

 ロクサーヌと話していると、俺の体に腕が回されぎゅっと力が込められる。

 

「私もご主人様のことを心からお慕いしているのです……。忘れたら嫌です……」

 

 いつの間にか、セリーが意識を取り戻していた。

 

 ……そうだよな。

 俺はもう彼女たちと共に過ごす人生を選んでいるのだ。ロクサーヌだけを一途に想うということは許されない。

 

「もちろんだよ。自分でも不誠実だと思うけど、セリーのことも本当に大切で、大好きだから」

「愛してはくださらないのですか?」

 

 その言葉に一瞬動きが止まってしまう。

 動揺したまま彼女の顔をうかがうと、そこにはいたずらっぽい笑みが浮かんでいた。

 

 こ、こやつ。こんなシリアスな場面でからかいおったな。

 

 やられっぱなしでは主人としての沽券にかかわる。

 背中を撫でていた手をセリーの顔に移動させ、そのもちもちとした触り心地の良い頬を力加減に気を付けながらつまむ。

 

「なんれふか?」

 

 彼女の戸惑った顔から漏れる不明瞭な言葉を無視して、そのままムニムニと弄り回した。

 

「やめへふらはい」

 

 抗議の声を聞き流し、それを続ける。

 それにしても、これだけかわいいと変顔をしてもかわいいままなのか。すげーな。

 

 

 

 セリーの変顔を見ていくらか溜飲も下がったため手を放すと、彼女は摘ままれていた頬を擦りながら呆れたような眼差しを向けてきた。

 

「こんな大人げないことをするなんて……。困ったご主人様です」

 

 二人でじゃれている間に、反対側へ移動していたロクサーヌが俺の背中に体を寄せ、肩越しにセリーへ告げた。

 

「そうです。私たちのご主人様は、強くて頭がよく、その上とてもお優しいのに、時々すごく意地悪なお方です」

 

 いやいや。それを言うならロクサーヌの方がいたずらっ子だから。

 意地悪をされている回数は俺の方が多いからね?

 

 三人で体を寄せ合い、おしゃべりをしながら眠気が訪れるまでの時間を過ごす。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

探索者Lv38 英雄Lv33 僧侶Lv15

装備 身代わりのミサンガ

 

BP振分 残BP:0

キャラクター再設定:1

サードジョブ:3

必要経験値二十分の一:63

詠唱省略:3

鑑定:1

ワープ:1

ジョブ設定:1

MP回復速度二十倍:63

 

所持金:1,217,715ナール

 

春の34日目




コミック版11巻の限定版が通販サイトで予約開始していますね。
発売される2月が今から待ち遠しいです。
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