異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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112 伝言

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 目が覚めて身だしなみを整え、歯磨きを済ませたら大切な朝の習慣だ。

 一日の始まりに、とてつもない美女である二人と唇を重ねることが出来る俺は、なんと幸せな男だろう。

 

 いつものように寝っ転がってロクサーヌに髭を剃ってもらっていると、その様子をセリーが凝視していた。

 この娘、毎回こんな風に見つめてくるんだよなぁ。やってみたいのかね?

 

 

 

 髭剃りが終わったところで、問いかけてみる。

 

「セリー、じっと見ていたけど、どうしたの?」

 

 すると、何故かいきなり焦り出し、しばらくワタワタしてから、落ち着かない様子で口を開く。

 

「えっと、あの、ご主人様は髭を剃るのだなと思って、その、見てしまいました」

 

 彼女の顔は羞恥の念からか真っ赤に染まっている。

 

 ……これいいな。恥ずかしがっている女の子って、なんでこんなにかわいいんだろう。

 

 いやいや。そうじゃない。

 

「別に見ていても問題ないよ」

「いえ、そうではなく……。ドワーフの男性のほとんどは髭を伸ばしていて、手入れは行いますが剃ることはほとんどありません。それに、髭は、その、性的な魅力でもあって……。なので、剃っているのを見るのも初めてで、こんな風にするのだなと……」

 

 ん? もしかして、俺の髭剃りを見てエロい気持ちになってたってこと?

 この娘、割とむっつりさんだよなぁ。

 

「あー。なんというか、見苦しいものを見せてしまって申し訳ない」

「そんなことありません! ご主人様の濃い髭が丁寧に剃られていく様子はとても魅力的でした! それに、髭を伸ばしたご主人様も素敵だと思います! そうしてみてはいかがでしょうか!?」

 

 こら。どさくさ紛れになんっちゅう性癖を打ち明けてんだ。

 しかも、俺のコンプレックスを思いっきり抉ってるし。

 

「いや。長い髭はすぐに汚れて手入れも面倒だから、伸ばすのはちょっと……」

「そうですか……」

 

 おいおい。そこまで露骨に残念がることないじゃないか。

 

 返事を聞いたセリーのテンションが大きく下がり、その様子を見ていたロクサーヌが彼女に声を掛ける。

 

「セリー。では、あなたもご主人様のお髭を剃ってみますか?」

「いいのですか!?」

 

 その言葉に、目を見開き大きな声を上げた。

 見る見るうちに顔には笑みが浮かび、紅潮していく。

 

 テンションがいきなり、ローからトップに変わっちまったぞ。

 そんなに俺の髭が剃りたいのか?

 嬉しいというより戸惑いの方が大きいんだが……。

 

「はい。大切な私の役割ですが、セリーになら任せられます。これについても交互に行いましょう」

「ロクサーヌさん! ありがとうございます!」

 

 君たち、本人の許可を得ていないようですけど……。

 いやまあ、いいけどね。

 

 

 

 作中でドワーフの男は顔中ひげもじゃとの話があったが、それが性的魅力にも結びついていたのかは描写がなかったのでよくわからない。

 ファンタジー系の物語ではよくある設定だが、実際のところどうだったのだろう?

 原作でもそういう設定だったのか、それともこの世界だけがそうなのか……。

 

 

 

 考え込んでいる間に、彼女たちは楽しそうに会話を交わしていた。

 

「お髭が濃いのも男性らしくて素敵ですよね」

「本当にその通りだと思います」

「それに、私もご主人様の匂いを嗅いでいるだけでドキドキしてしまいます」

「そうなのですか?」

「はい。セリーのお髭の話ではないですが、狼人族は異性の匂いに性的な魅力を感じるのです。今まで生きてきて、こんなに男性の匂いを好ましいと思ったのは初めてかもしれません」

「ロクサーヌさんも私も、本当に恵まれていますね」

「ふふ。そうですね」

 

 おいおい。ロクサーヌまでとんでもないカミングアウトをしてるんだが……。

 もしかして、今まで知らない間に匂いを嗅がれてたりしたのか?

 めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど……。

 

 

 

 髭を剃り終えたところでリビングに移動して、この後の予定を確認だ。

 今日は特に重要なことはないため、レベル上げと普段のルーティーンをこなす旨を伝える。

 早々に打ち合わせが終わってしまったが、ちょうどいい機会だ。明日以降の予定についても確認しておこう。

 

「明日の夕方にクーラタルの冒険者ギルドでハルツ公領の災害救助を依頼され、明後日の午前中に救助活動を行うことになると思う」

「遂に貴族との繋がりができ、叙爵への道筋が付くのですね」

 

 確かにその通りなんだけどさぁ。いくらなんでも気が早すぎますって。ロクサーヌさん。

 

「それにしても、今回の災害救助ではインテリジェンスカードの確認は行われないのですよね? あの他種族を見下している傲慢なエルフがそんなことをするなんて、珍しいこともあるものです」

 

 セリーは皮肉気な表情を浮かべながらそう言った。

 

 俺のマイルドセリーもエルフへの偏見はバリバリなのか。

 まあ、仲買人に対してもそうだったし、この辺りは早めに購入されたことと無関係だもんな。

 これについてはルティナが来るまでに改めてもらわないと。

 

 原作のハルツ公には他種族を見下している様子が感じられなかった。それに所属している帝国解放会では他種族に対する差別が禁じられている。

 なんならセリーの方がエルフに対する差別意識で規則に引っ掛かりかねないくらいだ。

 

 それに彼はハインツ一味が領内を荒らし回っていたとき、奴らを倒したものが懸賞金を受け取る際のインテリジェンスカードチェックをなくしていた。

 もしかしたら、彼はこういった手段を頻繁に取っているのかもしれないな。

 

 

 

「それで、早朝の探索と食事を終えたらその日は休みにしよう。給金を渡すから、二人とも好きなことをして過ごしてね」

 

「はい。ご主人様、ありがとうございます」

 

 その言葉を聞き、輝くような笑顔でロクサーヌが感謝の言葉を口にする。

 

「あの、ご主人様。以前、図書館で調べものをさせていただけるというお話でしたが……」

 

 そして、セリーが遠慮がちに話しかけてきた。

 

「俺の方から頼みたいくらいだったんだ。セリー、ありがとう。本当に助かる」

「そんな、憧れていた帝都の図書館に行くことが出来るのです。こちらこそ、ありがとうございます」

「入館料と預託金はもちろん俺が持つからね。あと、調べものに使う筆記用具の代金についても、パーティーに関わることなんだから俺が購入しよう。当日は図書館に行く前に買い物に寄ろうか」

「はい! よろしくお願いします!」

 

 おお。本当にかわいらしい笑顔だなぁ。

 

 

 

「セリーだけご主人様と買い物に……」

 

 話をしていたら、ふくれっ面になっているお嬢さんが……。

 色々セリーに譲るようなことをしたり、キスや抱擁を促したりするのに、こういう風に嫉妬もするんだよなぁ。ロクサーヌの地雷ポイントがよく分からない。

 

「ロクサーヌ。その日はベイルに市の立つ日だよね。災害救助が終わったらいつものように武器屋と防具屋を回って、その後は君の買い物に行かない?」

「はい! それは良いお考えですね! ご主人様と二人きりの買い物なんて、とても楽しみです!」

 

 ……ハーレムって本当に大変だわ。

 今後は気遣い上手を目指していこう。

 でも、デリカシーのなさには定評がある俺だからなぁ……。

 

 

 

 ロクサーヌのテンションが落ち着くと、セリーが問いかけてくる。

 

「ご主人様、図書館では何を調べればよいでしょうか?」

 

 何をか……。

 

「まずはスキル結晶について調べてもらえる?」

「かしこまりました。この前わからなかったものについては念入りに探してみます」

「うん。よろしくね」

 

 それを聞いていたロクサーヌが口を開く。

 

「空中跳躍のスキル結晶が見つかるといいのですが……」

 

 君は本当にそれが好きだよねぇ。

 でもまあ、迷宮で縦横無尽に暴れまくるロクサーヌなんて、頼りになるどころの話じゃない。

 もしあった場合は最優先で作らないとな。

 

「そうだね。見つかったらロクサーヌ用の装備を用意しよう」

「ありがとうございます!」

 

 彼女はローテーブルに手を付いて、こちらに身を乗り出しながらキラキラ輝く笑顔で感謝を述べた。

 

 強い強い。圧が強い。

 

 

 

「他には、各装備品を製造するために必要な素材の確認かな」

「かしこまりました。鍛冶関係の本をあたってみます」

 

 確か実家にドワーフの言葉で書かれた鍛冶関係の本があったんだよな? それには初歩的なことしか載ってなかったんだろうか?

 

「あとは魔物の情報についてもお願い。弱点や耐性。ドロップアイテムあたりを調べてほしい」

「はい。おまかせください」

「ただ、今後も図書館に行ってもらうことになるんだから、無理はしないでね」

「お気遣いありがとうございます、ご主人様」

 

 

 

 打ち合わせを終えたところで、装備品を整えて迷宮へ出勤だ。

 

 

 

 

 

 朝食を挟みつつ、流れ作業こなすかのように魔法と、デュランダルで、ただただ魔物を狩っていく。

 このままじゃ、殺戮者(スローター)なんて称号が付いてしまうのではないだろうか。

 まあ、この世界に称号システムは実装されていないのだが。

 

 しかし、午前中では英雄のレベルしか上がらず、商人については足止めをくらっている。

 必要経験値も増えているだろうし、経験値効率四百倍でも今日中に30に到達して遊び人獲得とはいかないか。

 

 そして、彼女たちのレベルにも動きはない。

 ロクサーヌの方はここ数日足踏み状態だし、セリーについてもレベルアップの速度が鈍化してきている。

 俺もそうだが、今後は一層上がり難くなっていくのだろう。

 

 まあ、他の人と比べれば相当恵まれているんだろうし、贅沢な悩みなんだけどさ。

 

 

 

 昼食をとり、歯磨きと装備品の製造を終えたら、リビングでゆっくりと過ごす。

 ソファーに寝そべった俺にロクサーヌが正面から抱きつき、胸元に顔を埋めている。

 

 朝の話を聞いた後だと、この体勢は匂いを嗅がれている気がして恥ずかしくなってしまうな。

 

 

 

 体にあたる柔らかな感触を味わっていると、突然ロクサーヌが顔を上げ、険しい顔で匂いを確認しだす。

 

 なんだ? 何があった?

 

 驚いているセリーと共にその様子を見守っていると、一頻り確認を終えた彼女は表情を緩めた。

 

「ご主人様、ルーク氏の使いの方が来たようです」

 

 あん? ルークの使い?

 

「ごめんください! 仲買人ルークの使いの者です!」

 

 はぁ。穏やかな昼下がりだったんだがなぁ。

 ロクサーヌにどいてもらい、ソファーから立ち上がって玄関へ向かうことにする。

 

 

 

 扉を開くといつもの男が立っていた。

 

「待たせたな」

「お気になさらず」

 

 そう言って彼はパピルスを差し出す。

 

「まず、こちらが落札したスキル結晶となります」

「うむ。ありがとう」

 

 ざっと見たところ今回も大量に落札している。

 しかし、これだけの量だ。前回受け取りに行った春の三十一日目から、今日までの間に落札したものだとは考えにくい。

 

 だとすれば、スキル結晶を受け取りに行った際と、追加依頼をしに行ったときに出さなかった理由はなんだ?

 本当に何か企んでいるのか?

 

 考えていると男は話を続ける。

 

「それから、ルークの伝言があるのですが」

「ルークの伝言?」

 

 ルークの伝言……。なんか魔女宅みたいだな。

 

 彼はパピルスを差し出しながら、話を続ける。

 

「急ぎお伝えしたいことが発生したため、商人ギルドへお越しいただきたいとのことです」

 

 はあ!? なんだそれは!?

 原作ではこの時期に、そんなことは起こってなかったよな?

 本当に何が起こっているんだ?

 

 メモを手渡すと悩んでいる俺を残し、フィールドウォークで去っていった。

 

 ……いや。悩んでも埒が明かない。とりあえず行ってみるか。

 

 っと。その前に。

 落札したスキル結晶がかかれている方のパピルスを確認する。

 

 えーっと、コボルトのスキル結晶五千四百ナール、コボルトのスキル結晶五千五百ナール、コボルトのスキル結晶五千五百ナール。

 コボルト三つって……。これマジかよ。

 

 他には、油脂植物のスキル結晶三千九百、芋虫のスキル結晶四千四百ナール、ヤギのスキル結晶五千五百ナール、はさみ式食虫植物のスキル結晶六千五百ナール、鳥の――、え!? 鳥!?

 

 鳥のスキル結晶が手に入ったのか!?

 

 鳥のスキル結晶一万三千五百ナール……。

 

 って、上限ギリギリやんけ!

 くそ。ルークの野郎、確実に価格操作してやがる。

 

 ……まあいい。それも織り込み済みだ。

 今は鳥のスキル結晶が手に入ったことを喜ぼう。

 魔法攻撃力二倍のスキルが手に入るし、近日中に遊び人を獲得できるはずだ。本格的に上の階層へ進むことを検討しなくては。

 

 

 

「ごめん。ルークから呼び出しを受けて、急遽商人ギルドへ行かなくてはいけなくなった。俺が戻るまで二人はのんびり過ごしててね」

 

 リビングに戻り二人へ事情を説明したところ、ロクサーヌの表情が見る見るうちに不満そうなものへ変わっていく。

 

 ごめんて。でも、俺のせいじゃないんだよ。

 

「私の番でしたのに……」

 

 そう呟いた彼女へ近づき抱きしめる。

 

「ごめんね、ロクサーヌ。この埋め合わせは絶対にするから。何かしてほしいことはない?」

 

 声を掛けると彼女の手もこちらの体に回された。

 

「ご主人様は何も悪くないのに私はまた……。申し訳ありません……」

 

 ロクサーヌから後悔の滲む声がこぼれる。

 いやいや。そこまでへこむ必要はないから。

 

「大丈夫。以前にも言ったけど、そんなのはかわいさのうちだ」

「はい。ありがとうございます」

 

 機嫌の直った彼女を話すと、どこか物欲しそうな顔でこちらを見ているセリーと目が合った。

 彼女にも迷惑をかけているなぁ。

 

 近寄ってその小さな体を抱きしめる。

 

「あっ」

「セリーも本当にごめんね」

「いえ。ご主人様が謝ることではありません」

 

 耳に入った言葉は穏やかな色に満ちていた。

 

 

 

 どちらともなく体を離し、ワープゲートを通るまで見送るという二人と共に、玄関へ移動する。

 

「それじゃあ、ルークのところへ行ってくる」

「はい。いってらっしゃいませ」

「いってらっしゃいませ、ご主人様」

 

 彼女たちに見守られながら、商人ギルドの壁を思い浮かべワープを念じた。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

探索者Lv38 英雄Lv34 魔法使いLv37

装備 硬革の靴 身代わりのミサンガ

 

BP振分 残BP:0

キャラクター再設定:1

サードジョブ:3

必要経験値二十分の一:63

詠唱省略:3

結晶化促進二倍:1

鑑定:1

ワープ:1

MP回復速度二十倍:63

 

所持金:1,220,287ナール

 

春の35日目

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