午後の探索を開始する時間はとっくに過ぎているが、商人ギルドで起こった出来事について二人へ説明することにした。
さすがに寝っ転がって話し合いというわけにもいかないため、脚の間に座っているロクサーヌを抱きしめながら正面のセリーと目を合わせる。
……冷静に考えればこの体勢も話し合いにふさわしいとはいえないよなぁ。
急いで出かけたため落札したスキル結晶について伝えていなかったので、まずは幸運にも頼んだばかりの鳥のスキル結晶を手に入れることができたことを伝える。
すると、二人は興奮した様子で声を上げた。
「こんなに早く鳥のスキル結晶を手に入れてしまうとは。さすがご主人様です。大幅な魔法の威力向上に期待が持てそうですね」
「本当にそうです。今でもとんでもない威力なのにどこまで強化されるのでしょうか?」
確かにものすごいパワーアップだろうな。
いうなれば初めて来たオラクルベリーのカジノでメタルキングの剣を四本手に入れたようなもんだ。
そして、次に呼び出しを受けて訪れた、商人ギルドでの出来事について話す。
「それで、呼び出しを行う原因となった人物も、商談室で同席することになったんだ」
「なるほど。ルーク氏ではなく、別の方が理由だったのですか……」
ロクサーヌが少し考えながら呟きを漏らす。
そして、セリーは鼻に皺を寄せながら尋ねた。
「その人物も仲買人なのですか?」
君は本当に仲買人が嫌いだねぇ。
「そう。その男は武器商人の仲買人だったんだけど、ただの仲買人じゃなかった」
その言葉にロクサーヌは腕の中で身じろぎをして、続きをねだるように顔をこちらに向けた。
……これ本当にかわいいよなぁ。
「どういった者なのですか?」
待ちきれないのだろう。好奇心に瞳を輝かせながらセリーが重ねて尋ねる。
「以前、『異世界迷宮でハーレムを』について話したけど、長くなるから物語の本筋に関係ない場面は省いていたんだ。その仲買人は省いたエピソードの中に出てくる人物となる」
端折っていたことに気が付いていたのだろう。二人は好奇心に瞳を輝かせながら続きを促すように頷く。
本当に聞き上手なお嬢さんたちだわ。
「バラダム家はサボーの力を頼りにかなり無茶な取引をしていたため、いざそのサボーがいなくなると他の商家から一斉に取り立てを受けてしまい、とうとう借金を返すめどが立たなくなる」
「狼人族の間ではかなり強引な取引をしていると噂になっていましたからね。当然の末路でしょう」
ロクサーヌが険のある言葉を口にする。
まあ、そう言うのも無理はない。なにせ彼女はその被害者なのだ。
気持ちが落ち着くよう、お腹に回した手で優しくポンポンと叩きながら話を続ける。
「それで、彼らは現金を用意するために身内の魔法使いを奴隷として売り払ったり、貴重な装備品を放出したりすることになるんだ。そして、その中の一つに聖槍があり、それにはスロットが五つも付いている」
「スロットが五つですか!? 聖槍のような貴重な武器に!?」
驚きに目を見開いたセリーから大きな声が上がった。
そうだろ、そうだろ。ボーナス装備を除けば作中で出てきた最強の武器だ。
もちろん基礎性能ではオリハルコンの剣の方が強いのだろうが、スロット数を加味するとこちらに軍配が上がるはず。
「そう。バラダム家は当初仲買人に聖槍を持ち込むんだけど、価格の折り合いがつかずオークションに出品することにした。しかし、それに逆恨みをした仲買人が仲間と共謀し、ある人物以外入札を行わないよう根回しをして、最低落札価格で入手してしまう。その入手した人物こそが先程の男だ」
それを聞いたセリーは冷たい表情で、吐き捨てるように言葉を発する。
「いかにも仲買人らしい汚いやり口です」
まあねぇ。日本なら完全アウトだわ。
ぶっちゃけこの件に関してはバラダム家より仲買人たちの方が悪質だし、やっていることが完全に反社のそれだ。
「その仲買人は本家の嫡男が公女を娶るためにMP吸収の武器を欲しており、ミチオは吸精のスタッフを用意して物々交換を成功させる」
「それほどの逸品なら絶対にご主人様が手にするべきです。負けてはいられませんね」
いや、まあ、手に入れるつもりだけどさ。
「物語ではヤギとはさみ式食虫植物、それからコボルトのスキル結晶の買い占めが発生するんだけど、俺は上限額を高めに設定してそれらを入手できるようにしていた。そのせいで、彼は相場を遥かに超える金額を出す羽目になったり、入手に失敗していたらしい。そのため、ルークを仲介した上でいくつかのスキル結晶を譲る代わりに、あちらが融合を成功させるまで入札を控えるよう頼んできたというわけなんだ」
それを聞いていた彼女たちの表情が見る見るうちに険しくなる。
「ご主人様に工作を持ちかけるなんて……。不埒な者たちです」
「本当に仲買人は腐っています」
君らすごいことを言うなぁ。
「大丈夫、大丈夫。ヤギとはさみ式食虫植物は十分な数を手に入れているし、コボルトについては今後も入手できるように調整を行った。思うところがないわけじゃないけど、別に損をするわけではないから気にすることはないよ」
二人の表情が和らいだのを確認して話を続ける。
「交渉が終わったところで、物語ではその仲買人から装備品とスキル結晶を購入していたことを思い出してね。余っているものがあったら売ってもらえないかと持ち掛けてみたんだ」
「なるほど。公女を娶るような家の仲買人ということでしたら、有用な物を持っていてもおかしくないですね」
セリーの言葉に頷きを返す。
「それで、スロットが三つ付いたダマスカス鋼のガントレットと、同じくスロット三つのイアリング。それからハイコボルトのスキル結晶を手に入れることができた」
「素晴らしい交渉を行ったのですね。さすがご主人様です」
「ハイコボルト! 隻眼にならなければ扱えない貴重なスキル結晶です!」
二人ともナイスなリアクションをしてくれるなぁ。
本当に気持ちよく話すことができるわ。
「だから、午後の探索はスキル結晶の融合から行おう。まず、イアリングに鳥とコボルトのスキル結晶を融合する」
「はい。現時点では、これ以上ない組み合わせだと思います」
セリーの言う通り、今はこれがベストだろう。
そして、一枠はヤギを付けるために残しておかないといけないから、残りは一枠だ。
ミチオのように身代わりを付けるのはなしだ。発動してしまえば貴重な装備品がお釈迦になる。
トロールで腕力を上げるか、それとも油脂植物で消費MPを減らすか……。
うーん……。相談してみるか。
彼女たちに尋ねてみると、真剣な表情を浮かべ考え始めた。
程なくしてこちらへ視線を合わせ、セリーが口を開く。
「トロールを付けた方が良いのではないでしょうか」
トロール。腕力二倍の方か。
「理由を聞いてもいい?」
尋ねたところ、彼女は一つ頷き答えた。
「はい。トロールのスキル結晶は、武器か腕装備、もしくはアクセサリーにしか付けることができません。ご主人様の場合、デュランダルの威力を上げるために付けることになるので、武器に付ける意味はありません。なので、付けるなら腕装備かアクセサリーになります」
「うん。そうだね」
「今装備しているのは硬革のグローブなので、高価なトロールのスキル結晶を付けるには釣り合いが取れていません。また、今後腕装備を更新した場合、再度トロールのスキル結晶を融合する必要が出てきます」
「ふむ」
確かにそうだな。
ロクサーヌと共に頷き、続きを促す。
「一方、油脂植物のスキル結晶はすべての防具に融合することができる上に、価格も安く入手し易いため、防具を更新した際に改めて融合を行うことも容易でしょう。なので、長く使うことになるイアリングにはトロールを付けた方が良いと思います」
なるほど。彼女の言う通りだ。
さすがセリー。ロジカルだなぁ。
「ありがとう。じゃあ、イアリングには鳥とトロール。油脂植物は腕装備に融合しよう」
「かしこまりました」
セリーが返事をすると、ロクサーヌが質問をしてきた。
「あの、そうなると身代わりのミサンガはどうなるのでしょう?」
「今後、身代わりスキルは頭装備に付けようと思う」
「では、外出する際も硬革の帽子をかぶるということですか?」
今の俺は外出するときに帽子をかぶるような生活から解放されている。
またそんな生活に戻るのは嫌だぞ。
「迷宮以外の外出では今まで通り装備品を身に着けないかな」
それを聞いたロクサーヌは、険しい表情を浮かべ声を上げた。
「いけません。万が一があるかもしれないのです。ご主人様の身を護るためにも、身代わりスキルの付いた装備品は常に装備するようにしてください」
「ロクサーヌさんの言う通りです。ご自身の安全を第一に考えてください」
こんなにも真剣に俺の身を案じてくれている……。
心の奥から喜びの感情が湧き上がり、ロクサーヌを抱きしめていた手にさらに力が入った。
「ロクサーヌ、セリー。心配してくれてありがとう。それじゃあ、迷宮以外では身代わりのミサンガを着けることにするよ」
「大切なご主人様のことなのです。心配するのは当然です」
「そうです。ご主人様やロクサーヌさんと、この先もずっと一緒に過ごしていきたいですからね」
三人の間になんとも気恥ずかしく、だが暖かく穏やかな雰囲気が漂う。
それはとても嬉しく、とても幸せで、とても大切なものなのだと心が訴えてくる。
これからもこんな風に暮らしていけるよう、彼女たちのことを今以上に大切にしなければならない。
話し合いを終えたところで、いつもより遅れて午後の探索を行うことにする。
ダマスカス鋼のガントレットを物置部屋に収め、自室のチェストへヤギとはさみ式食虫植物、ハイコボルトのスキル結晶をしまい込む。
そして、トロールのスキル結晶を取り出しアイテムボックスへ入れておいた。
準備完了。それじゃあ、午後も頑張りマッスル。
サクサクっとセリーのMPを回復したところで、二人に声を掛ける。
「これからスキル結晶の融合を行うので、ロクサーヌは周囲の警戒をしてもらえるか?」
「はい。おまかせください」
よし。彼女が警戒していれば問題ないだろう。
セリーに毘盧帽を装備してもらい、アイテムボックスから鳥とコボルトのスキル結晶、そしてイアリングを取り出す。
「では、頼む」
「かしこまりました」
彼女は差し出されたそれらを受け取ると、慣れた様子で詠唱を行い、あっさり成功させた。
スキルスロットについて実感を得たことで、失敗する可能性についてあれこれ思い悩むことなく融合を行っているのだろう。
うん。良い傾向だ。
同じようにトロールとコボルトのスキル結晶も融合すると、完成したものをこちらへ戻す。
「ご主人様、どうぞ」
「さすがセリー。本当にたいしたものだ」
念のために受け取ったイアリングへ鑑定を掛けてみる。
よりしろのイアリング アクセサリー
スキル 魔法攻撃力二倍 腕力二倍 空き
よっしゃ! 問題ナッシング!
身代わりのミサンガを外してアイテムボックスへ収め、出来立てホヤホヤのイアリングを耳に付けた。
何気に人生初の耳飾りだ。なんともいえない気恥ずかしさに襲われる。
いやいや。この世界では普通のことだし、同じように思っていたミチオだってすぐに慣れていた。
そもそも、俺のことなんて誰も気にするはずがない。自意識過剰はいかんよな。
続いてかぶっていた硬革の帽子を脱ぎ、アイテムボックスから取り出した芋虫のスキル結晶をセリーへ預ける。
彼女はそれを受け取るとあっというまに融合を終え、そのまま返却してきた。
もう、完全に余裕のよっちゃんって感じだなぁ。
身代わりの硬革帽子 頭装備
スキル 身代わり
よっしゃ! 順調順調。
受け取ったそれをかぶり、念のため問いかけてみる。
「セリー、MPはどうだ?」
すると、彼女は笑みを浮かべながら答えた。
「お気遣いありがとうございます。あと数回は問題なく融合できるでしょう」
このまま続けても大丈夫そうだな。
今度は油脂植物とコボルトのスキル結晶を取り出し、硬革のグローブと共に差し出す。
光が収まったところで、彼女が持っているグローブに鑑定を行う。
倹約の硬革グローブ
スキル 消費MP削減 空き
よし。問題ない。んじゃ、今日の融合はここまでだ。
恙無く済んでホッとしたわ。
受けとったグローブを身に着けて、セリーに感謝を伝える。
「これで戦力が大幅に強化された。セリー、本当にありがとう」
「お役に立てて良かったです。このように鍛冶師としての働きが出来るのもご主人様のおかげですね。私の方こそありがとうございます」
そう言った彼女の顔には幸せそうな笑みが浮かんでいた。
そして、周囲を警戒しながら俺たちの様子をうかがっていたロクサーヌにも、感謝をしなければ。
「ロクサーヌ。人や魔物が来ないか確認してくれてありがとう。君にはいつも助けられているな。これからもよろしく頼む」
「はい。ご主人様のことは私がお守りします。これからもおまかせください」
返事をしたその顔には輝くような笑みがあふれていた。
本当にかわいらしい娘たちだわ。一生大切にしていこう。
装備を整え、ボーナスポイントを振り分けてから、彼女たちへ声を掛ける。
「では、午後の探索を行おう」
田川 歩 男 18歳
探索者Lv38 英雄Lv34 魔法使いLv37 商人Lv28
装備 ひもろぎのスタッフ ダマスカス鋼の盾 身代わりの硬革帽子 頑強の竜革鎧 倹約の硬革グローブ 硬革の靴 よりしろのイアリング
BP振分 残BP:0
キャラクター再設定:1
フォースジョブ:7
必要経験値二十分の一:63
詠唱短縮:1
結晶化促進二倍:1
獲得経験値二十倍:63
所持金:1,103,947ナール
春の35日目