ひとまず、転がっているスキル結晶へ鑑定を掛けてみる。
スキル結晶 つぼ式食虫植物
おっしゃ! オッケーオッケー!
自引きでのスキル結晶は二つ目だ!
原作の書籍版では自引きは一つだけだった。ウェブ版のモンスターカードは複数ドロップしていたが、それに比べてもだいぶ早い。
俺のリアルラックは高いんだろうか?
あ、いや。単純に倒した魔物の数が違うもんな。そんなわけないわ。
「間違いない。つぼ式食虫植物のスキル結晶だ」
それを伝えたところ、彼女たちから歓声が上がった。
一頻り喜びを分かちあったところでセリーへ尋ねる。
「このスキル結晶でどんなスキルが付くか分かるか?」
すると、彼女は自信ありげな笑みを浮かべ答えた。
「はい。つぼ式食虫植物のスキル結晶は武器のみに融合することが可能で、単体で融合した場合はHP切削となります。これは本当に微々たる量しか回復しないため、ダメージを負った場合、結局は傷薬か僧侶などの回復スキルが必要になってしまいます。なので、気休め程度の効果しか望めません」
なるほど。原作で出てきたMP切削と似たようなものか。
しかし、あちらと違ってこちらは生死に直結する。単体での使用はありえないな。
「そして、コボルトのスキル結晶と一緒に融合した場合はHP吸収となります。これはある程度の体力を回復することが可能ですが、それでも回復量は滋養丸にすら及びません。なので、動きに支障がない程度の怪我を癒すために使用されているようです。また、回復量は武器の強さによって変動するとされ、融合するのなら良い武器に付けた方がいいと言われています」
ふむ。デュランダルのあの回復量は、基礎攻撃力の高さと攻撃力五倍によるものだろう。
パーティーメンバーの武器に付けようと思ったら、腕力上昇や攻撃力上昇のスキルと組み合わせる必要がある。
できれば防御力無視も付けたいところだが、これのスキル結晶は存在するのかねぇ。
まあ、実用のために融合することは当面ないだろうし、いずれ使用するときのために死蔵しておこう。
「セリー、ありがとう。参考になった」
感謝を述べると、彼女ははにかんだような笑みを浮かべ口を開く。
「どういたしまして。ご主人様のお役に立てて嬉しいです」
あまりのいじらしさに思わず抱きしめたくなるわ。
本当にこの娘たちはかわいすぎて困る。
「ご主人様、そろそろ夕方になりますが、もう一度挑みますか?」
ロクサーヌが附子を差し出しながら尋ねてきた。
もうそんな時間か。
……滋養剤は今日のうちで揃えておきたい。あと一度くらいなら大した時間もかからないだろう。
「そうだな。もう一度ネペンテスを倒そう」
「かしこまりました」
「はい」
そうと決まれば、さっさとボス部屋を出よう。
俺のMPはボス戦の黒字で満タンだったため、セリーのMP回復を済ませて、ネペンテスを撃破し、クーラタルの冒険者ギルドへと移動する。
午後はほとんど移動に費やし、ドロップアイテムもほとんど装備品の素材と生薬生成に回したため、売却額が振るわない。
まあ、そんな日もあるか。
対応をしたギルド員の女性には何も言われなかったが、念のために貼り出されている依頼を確認してみる。
……ないな。
原作では春の三十六日にギルドへ緊急要請があったとのことだった。
やはり、明日声を掛けられるのだろう。
「では、買い物に行こう」
二人に声を掛け、ギルドを後にする。
翌日は十三階層からスタートだ。
ワンパン出来る上限まで階層を上げていこう。
「セリー。フライトラップについて教えてもらえるか?」
人間、楽を覚えるとだめだな。セリーのことをあてにして、ついつい予習を疎かにしてしまった。
ある程度覚えているもののこれはいかんよな。
「はい。フライトラップはサラセニアと姿や攻撃方法に大きな違いはありませんが、水属性の単体攻撃魔法を使用するほか、通常攻撃でも毒を受ける可能性があります。そして、水属性に耐性を持ちますが、火属性が弱点なのでいつものように焼き払うのがいいでしょう」
オッケー。とりあえずいつものようにファイヤーストームの連発で問題なしだ。
あと、攻撃を受けないように気をつけないとな。
ロクサーヌの案内で通路を進むと、程なくして魔物の群れと遭遇する。
サラセニアとほぼ同じ見た目をしているが、つぼがあった位置にハエトリグサのような葉っぱが備え付けられていた。
これもかなり不気味なフォルムをしているが、我ながら昨日に比べてだいぶ余裕があるな。
サラセニアとネペンテスの相手を繰り返したおかげか、耐性がついていたようだ。
はさみ式モンスター二匹とつぼ式モンスター二匹へ向かって駆け出すロクサーヌとセリーを見ながら呟く。
「ファイヤーストーム」
慣れ親しんだエフェクトが散り、奴らの体が一気に燃え上がった。
そして、燃焼が終わると何事もなかったかの如く、迷宮に静けさが戻る。
「オッケー!」
あ、やばっ。思わず帽子を投げるところだった。
手に持った身代わりの硬革帽子をかぶりなおすと、その様子を不思議そうに見ていた二人が声を上げる。
「十三階層の魔物まで一撃だなんて、さすがご主人様です!」
「本当に信じられません。こんなに強力な魔法が放てる者はそれほど多くないでしょう!」
え? このレベルの魔法を使える奴が他にもいるの?
……あ、そうか。
高レベルの魔道士が、強力な杖に知力二倍や知力五倍を付けていれば可能だわ。
うわー……。恥ずかしー。いまこの男、自分のことを最強のスペルキャスターだと思っていたぞ。
上には上がいるというのに、貰いもんの力で完全に調子に乗っていた。
自制しないと今に酷い目にあってしまう。
彼女たちの称賛の声を聞きながら、内心で反省を繰り返す。
勝たんと打つべからず。負けじと打つべきなりだ。
調子に乗って相手をねじ伏せてやるなんて考えず、常に安全を確保した上で迷宮探索を行おう。
ボーナスポイントをいじり、通路に転がっている遠志を強壮丸に変える。
よし。無問題。
「では、ロクサーヌ。待機部屋まで頼む」
「はい。おまかせください」
待機部屋にたどり着いたところで、セリー先生の授業を受ける。
「アニマルトラップはフライトラップとほとんど変わりませんが、一回り大きくなっており、攻撃力や魔法の威力が強化されています。また、時折はさみを用いた特殊攻撃を行うことがあります。それをくらってしまうと手足を切断されたり、捕らえられると抜け出すのに苦労するということなので、気を付けるべきでしょう」
手足を切断!? マジで!? こっわ!
これ一旦出直してレベル上げをした方がよくないか?
それを告げようとした瞬間、ロクサーヌが口を開く。
「でもその程度では、ご主人様の相手にもなりません」
「そうですね。オーバーホエルミングを用いたご主人様を止めることなど不可能でしょう」
え? 君たち?
「ふふ。ご主人様、ワクワクしてきますね」
いやいやいや。俺は戦闘民族ではないんだ。全然ワクワクしないから。
喉まで出掛かった言葉を飲み込み、確認を行う。
「二人とも、滋養錠は持ってるな? もしもの時は躊躇せずにそれを使ってくれ。いいな?」
「かしこまりました」
「はい」
その言葉を聞いた彼女たちは真剣な表情を浮かべ返事をする。
万が一、手足を切り落とされるようなことがあっても、滋養錠を使えば治療が可能だ。金額を気にして躊躇されては困る。
……ん? そういえば、原作ではそんな大怪我を負う場面がないため、滋養錠は使用されていない。
一体どんな感じに治るんだろう? 切り離された手足を合わせたまま滋養錠を飲んだらそこがくっつくのか?
「手足を切断されてから滋養錠を飲むとどうなるんだ?」
問いかけると二人は顔を見合わせて頷き合い、セリーが口を開く。
「その場合、切断された断面から再生します」
マジで!? もうそれ仙豆じゃねーか! スゲー!
さすがファンタジー世界は一味違う。こと医療に関しては地球の水準を遥かに上回っているぞ。
あれ? でもそれだと同じ手足があることにならないか?
「切り離された方の手足はどうなるんだ?」
「そのまま残るので迷宮だとすぐに吸収されてしまうでしょう。また、装備品が無事だったとしてもそちらに付いたままなので回収する必要があります」
なんかもう想像を絶するわ。
「そして、左手を切断されたあと滋養錠で再生して、さらにその状態で死亡した場合なのですが、インテリジェンスカードは再生した腕からしか出ません。また、死体から左腕を再度切り離した場合でも同じで、新しい腕からしか出ないようです。昔の偉い学者さんが何人もの盗賊で確かめたのだとか」
偉い学者さんヤベー! とんでもないマッド野郎がいたもんだな!
「……そうか。ありがとう、参考になった」
「どういたしまして。ご主人様のお役に立てて良かったです」
感謝の言葉を告げるとセリーは嬉しそうに微笑む。
こんなグロい話でかわいい笑みを浮かべられても……。
待機部屋には俺たちしかいなかったため、ボーナスポイントの振り分けの際にデュランダルまで出しておく。
鑑定を付けたので念のためレベルを確認してみると、セリーのレベルが13になっていた。
よしよし。ボス戦への弾みがつくってもんだ。
「それでは、アニマルトラップに挑もう」
「はい! 望むところです!」
「かしこまりました!」
本当に好戦的なお嬢さんたちだ。
ボス部屋に入り、ロクサーヌが動き出したのを合図に三人でフロア中央へ向かって走り出す。
俺はもちろん、必勝パターンにハメるため、いつものように迂回しながらだ。
すると、フロア中央に集まっていた煙が晴れて、魔物が姿を現した。
アニマルトラップLv13
グリーンキャタピラーLv13
アニマルトラップの頭についているはさみを確認した瞬間、怖気に襲われる。
いやいやいや。おかしい! おかしい!
トラバサミじゃん! 食虫植物ってレベルじゃねーぞ! そりゃ手足も切断されるわ!
まるで鉄のように黒光りする凶悪な歯が付いたはさみは、とても植物由来のものには見えず、超常の存在であることを嫌でも実感させられる。
しかし案の定、我がパーティーが誇る戦女神は、凶悪極まりない外見の魔物に対し嬉々として攻撃を加え始めた。
そして、もう一人の戦乙女も臆することなく槍を突き入れている。
二人ともメンタル強すぎる! くそっ! こんな状況で俺だけビビってられるか!
オーバーホエルミング
ボーナスタイムを作り出し、スラッシュを乗せた攻撃でグリーンキャタピラーを早々に沈め、アニマルトラップの背後を取る。
そのままスラッシュ攻撃を続け、程ほどのところで奴の攻撃範囲から離脱した。
深追いしてはさみ攻撃をくらったらヤバいからな。まだはもうなりだ。
再びオーバーホエルミングを使用し、その効果中に無事アニマルトラップを倒すことに成功する。
そして、ドロップした陳皮へ生薬生成を使ってみると、強壮剤を三つ作り出すことに成功した。
「では、昨日と同じように強壮丸と強壮剤を入れ替えよう」
「かしこまりました」
「はい。それがいいと思います」
ボス戦を繰り返し、強壮剤への更新が終わったところでロクサーヌが告げる。
「ご主人様。そろそろパン屋の開く時間です」
……タイミングが良すぎる。こやつまさか切りのいいところまで待ったのか?
いや、それに何の問題もないけどな。この程度のことは各自の裁量に任せて問題ないし、彼女についても気の利く良い娘さんだと思うだけだ。
さて、ジョブを戻して、ボーナスポイントを振り分けたら迷宮を出るとしますかね。
おっ。剣士のレベルが上がってる。
低レベルのうちは本当にポコポコ上がるなぁ。
朝食と歯磨き、それから装備品の製造を済ませて食休みをとる。
ソファーへ寝そべり、体の上にセリーを乗せたまま尋ねた。
「この後戦うことになるハットバットの特徴を教えてくれる?」
いや、反省してないわけじゃない。でも、ほら、適材適所って言葉もあるしね。
中途半端に覚えるより、正確な知識を持った人に頼る方がベストなわけだしね。
もちろん俺だってある程度の情報は持っているから問題ないといえば問題ないわけだしね。ね。
理論武装完了。
内心で言い訳をしていると、俺の胸に埋めていた顔を上げ、セリーが解説を始めた。
「ハットバットは迷宮内を素早く飛び回り、また体も小さいので思うように攻撃することが出来ません。しかも、上空から襲い掛かるため前衛で足止めをするというのも難しいです」
ロクサーヌという圧倒的な回避タンクがいたからこそ、我がパーティーは十四階層までたどり着くことができたのだ。
それが機能しない場合、かなり厳しいことになるぞ。
しかも、それだとデュランダルによるMP回復も難しいだろう。
それに、この先はグラスビー、ビッチバタフライと飛行できる魔物が続くんだよなぁ。
「しかし、弱点属性は水、風、土と多いので魔法攻撃が有効です」
とはいっても、フライトラップやサラセニアと一緒に出てきたときが問題だ。
奴らの弱点は火のため、両方の弱点を突くことができない。
とりあえず、一度ワンパンできるか試してみるか。
それが可能だったら、一気に突き進んで階層を上げてしまおう。
ダメだったら十三階層でレベル上げをすればいいしな。
それを伝えると、二人の表情が変化した。
一つため息をつき、ロクサーヌが駄々をこねる子供を見るような顔で口を開く。
「ご主人様。そんなに一撃で倒すことにこだわる必要はないと思います」
ロ、ロクサーヌさん? 愛するご主人様に何故そんな呆れたような表情を?
そして、俺の上に乗っている愛らしい娘さんも、至近距離から冷たい視線を浴びせてきた。
「このパーティーの殲滅速度は異常です。魔法二発になったところで大した違いはありません」
俺のマイルドセリーも呆れているようだ。
これは不味い。俺の胸の内を正しく伝えなければ。
「でもほら、俺たちは三人パーティーで何かあったときの立て直しが難しいよね? それに、俺は未だに戦闘がおぼつかず、まだまだ素人だ。今は無理をするような時期じゃない」
すると、ますます呆れたような表情を浮かべ、彼女たちが反論の言葉を口にする。
「ご主人様。十三階層の魔物を一撃で倒し、そのボスを難なく撃破するような人を、普通は素人と呼びません」
「ロクサーヌさんの言う通りです。それに、全員が滋養錠を含めた薬を持っているのです。何かあった場合でも立て直しは容易でしょう」
そんなことを言っても、本当に何かあってからじゃ遅いじゃないか。後悔先に立たずだぞ。
冷静な性格のはずのセリーですらこれだもんなぁ。本当に君らは好戦的過ぎる。
俺がパーティーのストッパーにならなければ。
「ロクサーヌ、セリー。聞いてくれ。ロクサーヌには何度も同じことを言っているけど、俺は君たちを決して失いたくないんだ。だから、絶対にギリギリの戦闘をするつもりはない」
俺の言葉を聞いたロクサーヌが不満を口にした。
「ですが、私たちは他のパーティーに比べ、手応えのない戦闘しかしていません。まだまだ余裕が有り余っているではありませんか」
手応えがないって……。なんっちゅうことを言うんだ、この娘さんは。それは素晴らしいことじゃないか。
そして、ブリザードのような瞳をこちらに向け、セリーも反論する。
「このまま作業のような戦闘に慣れてしまうと、高階層に上がったときに苦労するのではないですか?」
セリーさんや。その目は本当にやめておくれ。君の愛するご主人様にMっ気はないのですよ。
うーん……。でもどうするかなぁ。
彼女たちの言うことに一理ないわけではない。
過剰すぎる安全マージンを取っていることは自分でも分かっているし、戦闘に対して妙な癖がついてしまう懸念も分かる。
しかし、安全なルートがあるにもかかわらず、わざわざ危険な道を行く必要があるのか?
それに、殲滅速度が落ちてしまえばそれに比例して、経験値や資金稼ぎの効率も落ちてしまう。
ほんと、どうしたもんかなぁ……。
……よし。決めた。
「やっぱり、一旦レベル上げをしよう」
それを聞いた二人の表情が、ガッカリしたものに変わる。
「待って待って! 続きがあるから!」
俺のことを嫌いにならないで!
もう一度こちらを見ている彼女たちへ続きを話す。
「もうすぐ商人のレベルが30に到達する。そうなれば晴れて遊び人の解禁だ。英雄の知力中上昇をもう一つ付けることができるから、単純に魔法の威力が上がるし、魔法を二発連続で放てるようにもなる。そしたら、本格的な階層上げに挑もう」
ロクサーヌとセリーの表情がみるみるうちに輝き、大きな声を上げた。
「素晴らしいお考えだと思います! 遂に本格的な迷宮攻略に着手するのですね!」
「ご主人様のお力を以てすれば、そう難しいことではないでしょう」
「セリー。私たちもそのお手伝いができるよう全力で取り組まなければなりません」
「はい! 足を引っ張らないように頑張ります!」
待て待て待て! いきなりフルマックスのテンションで君らは何を言ってんだ!
「無理をせず、出来る範囲のことをゆっくりこなしていこう」
慌てて言葉を追加すると、ロクサーヌはわかっているという風に頷きながら言葉を発する。
「そうですね。出来ることと出来ないことを見極め、能力の範囲内で可能な探索を行わないと全滅する危険性がありますからね」
ロクサーヌ? それは限界ギリギリを攻めるという意味ではないよね? 違うよね?
さすがにそれは拒否するからね? 理解しているよね?
田川 歩 男 18歳
探索者Lv38 英雄Lv34 魔法使いLv37
装備 サンダル 身代わりのミサンガ
BP振分 残BP:0
キャラクター再設定:1
サードジョブ:3
必要経験値二十分の一:63
詠唱省略:3
結晶化促進二倍:1
ワープ:1
鑑定:1
MP回復速度二十倍:63
所持金:1,105,688ナール
春の36日目