朝食後は十四階層の探索だ。
ロクサーヌに地図を確認してもらい、いつものように歩き出す。
程なくして、フライトラップが一匹と、頭上をひらひらと飛び回る複数の黒い物体が見えた。
「サンドストーム」
その途端、奴らの体を砂が包み込み、激しく動いている。
うわー。めちゃくちゃ汚れそうだなぁ。絶対にあの中には入りたくないぞ。
ロクサーヌとセリーがもぐらたたきのように、接近するコウモリへ得物を振るっているのを、スタッフを構えながらじっと見守る。
しばらくして砂嵐が収まると、ハットバットも一緒に消えていった。
だが、フライトラップは残っており、こちらに向かって移動を開始する。
ロクサーヌは一気に駆け出し、攻撃を入れて奴の注意を引き始めた。
「魔法を撃つぞ! ファイヤーボール」
フレンドリーファイアの危険性があるため、警告を発して火球を撃ち出す。
それはフライトラップ目掛け一直線に飛んでいき、音を立てて着弾したかと思うと、まるで増粘剤でも含まれているかのように奴の体へ纏わりついて燃え盛る。
その間もロクサーヌとセリーはフライトラップに攻撃を続けており、奴の動きが徐々に鈍くなっていた。
ワンパンとはいかなかったかぁ。
まあ、弱点属性が噛み合っていないんだ。しょうがないわな。
よし。予定通り十三階層に戻ってレベル上げといこう。
「さすがご主人様。ハットバットを一撃で倒してしまうため、戦闘がとてもスムーズに終わります」
「空を飛ぶハットバットがいないのなら、今後もそうそう苦戦することはないでしょう」
彼女たちは笑顔でそんなことを口にした。
こやつら……。さっき納得したはずなのに、隙あらば上の階層に進もうとしおってからに……。
だが俺も美浜のもっこす、じょっぱり、いごっそうと呼ばれた男。節は曲げんぞ。
「そうだな。ハットバット以外の魔物も一撃で倒れるようになれば、戦闘はもっとスムーズになるだろう。では、十三階層に戻ってレベル上げを行おう」
それを聞いた二人は、不満そうに頬を膨らませている。
君たち。なんだ、そのあざとかわいい表情は。俺を虜にする気か。
「さあ、ドロップアイテムを拾って十三階層に戻ろう」
「……はい」
「……分かりました」
不満の色を隠そうともせず、二人は渋々従っている。
……いや。これでいいんだ。
なんでも言うことを聞く、お人形さんのような奴隷を求めているわけではない。
ちゃんと自分の意見を持った彼女たちのことが好きなのだ。何の問題もない。
というか、これはこれでめちゃくちゃかわいいしな。
俺は結局のところ、彼女たちが自分らしくあればそれで満足なのだろう。
通路に落ちている小さな白い牙を摘まみ上げる。
これは一体何だ? とりあえず鑑定を使ってみるか。
ボーナスポイントの振り分けを行い、鑑定を使用する。
コウモリの牙
コウモリの牙? 何に使うんだろう?
それを見つめながら考えていると、セリーが解説を始めた。
「コウモリの牙は投げつけると、確率は低いですが相手を麻痺させることができます」
なるほど。毒針の麻痺版みたいな感じか。
でも状態異常といえば、次に加入するミリアの十八番だ。
麻痺添加や石化添加を付けた装備品を用いるだろうし、我がパーティーでは使うことはないな。売却してしまおう。
ドロップアイテムをしまい込み、通路の壁にワープゲートを展開する。
その後は十三階層に移動し、ただただ魔物を狩っていく。
MP回復のタイミングでレベルの確認を行うものの、その度に空振りを繰り返す。
商人はおろか、他のジョブも上がる気配はなく、ロクサーヌとセリーの方にも動きはない。
くそー。見ているやかんは沸かないってやつか。じれったいなぁ。
「ご主人様、そろそろお昼になります」
なんともやきもきした時間を過ごしていると、ロクサーヌの口からいつもの言葉が発せられた。
「ふぅ」
それを聞き、思わず息を吐きだしてしまう。
あー。午前中では無理だったかぁ。
しゃあない。午後に期待するとしよう。
「それでは、MP回復とドロップアイテムの売却を済ませたら、お昼に戻ろう」
「かしこまりました」
「はい」
パラメータの振り分けを行い、デュランダルを手に取った。
さあ、午後の部の始まりだ。
明日はハルツ公領の災害救助の予定になっている。出来れば今日のうちで遊び人を取得しておきたいものだが……。
よし。一匹でも多く狩るため、途中で鑑定を付けてレベルの確認をするのをやめておこう。結構なタイムロスになっているだろうからな。
田川歩はこれより修羅となる! 出会うた魔物の臓物を貪ってやるわ!
それからは、ロクサーヌが発見した魔物の場所に早足で移動し、見かけるなりファイヤーストームで焼き払っていく。
二人は常と違う俺の様子を見て、最初にあった不満そうな様子がなくなり、嬉々としてサーチアンドデストロイに加わっている。
ひたすら戦い続け、三度目のMP回復を迎えてキャラクター再設定を開いたときにそれが現れた。
ポイントが1余ってる! 探索者のレベルが上がったのか!
大急ぎでそれを鑑定に振り、自分に使用してみる。
田川 歩 男 18歳
探索者Lv39 英雄Lv34 魔法使いLv38 商人Lv29
装備 ひもろぎのスタッフ ダマスカス鋼の盾 身代わりの硬革帽子 頑強の竜革鎧 倹約の硬革グローブ 硬革の靴 よりしろのイアリング
探索者と魔法使いが上がってる!
よっしゃー! これはいいぞ!
あー。でも、商人は上がっていないかぁ。
いやいや。この調子なら間違いなく今日中に上がるはずだ。焦ることなく狩りを続けよう。
ロクサーヌとセリーのレベルも確認するが、こちらに変化はない。
まあ、効率が違うしな。
レベルが上がったことを二人に伝え、一頻り喜び合い、キャラクター再設定の続きを行う。
さて、この1ポイントは何に振るべきかなぁ……。
このまま鑑定を付けっぱなしにするか、それとも結晶化促進を外して詠唱短縮を詠唱省略に上げるかべきか……。
うーん……。よし。詠唱省略にしておこう。
いま鑑定を付けたら、魔物を倒すたび気になってチラチラ見てしまうはず。
そうなれば注意力散漫になり、思わぬ不覚を取ってしまいかねない。
もういっそ割り切って、今日の午後はレベル上げに励むとしよう。
その後もゾーンに入っているかのように効率的な狩りを繰りかえしていると、ロクサーヌが終了の言葉を告げる。
「ご主人様。そろそろ夕方になります」
……十分な経験値を稼いだはずだ。
激しく打ち鳴らされる心臓の鼓動を感じながら、フォースジョブをサードジョブに落としてジョブ設定を付け、それを開いた。
探索者Lv39 英雄Lv34 魔法使いLv38 村人Lv5 農夫Lv1 薬草採取士Lv1 盗賊Lv4 戦士Lv30 商人Lv30 僧侶Lv15 剣士Lv6 錬金術師Lv3 神官Lv1 武器商人Lv1 防具商人Lv1 奴隷商人Lv1 料理人Lv1 騎士Lv1 賞金稼ぎLv1 暗殺者Lv1 色魔Lv1 遊び人Lv1
「きたーーー!!! 遊び人きた! おっしゃーー!!」
俺の上げた声にロクサーヌとセリーはビクッと体を震わせるが、すぐに意味を理解したのか彼女たちからも歓声が上がる。
「さすがご主人様! 遂に遊び人を獲得したのですね! いよいよ本格的な迷宮攻略の始まりです!」
「これで魔法攻撃力が強化された上に、二発同時に放つことができるのですか! 本当に信じられないようなお力です!」
こらこら。そう褒めるな。そんなに褒められたら調子に乗ってしまうじゃないか。
いつまでも迷宮内ではしゃいでいるわけにはいかないため、MP回復の準備を行うことにする。
ひとまず、サードジョブは遊び人に替えておこう。レベル1ならMP回復のついでにレベル上げもできるはず。
フォースジョブを外した際、自動的に控えに回った商人さんよ。本当にお疲れ様。しばらく君の出番はないだろうが、ゆっくりと休んでくれたまえ。
遊び人
効果 空き
スキル 効果設定 スキル設定 空き
……さて、いよいよお待ちかね。遊び人の効果設定とスキル設定を行ってみよう。
効果設定と念じてみると、頭の中に所有しているジョブの効果がズラッと並ぶ。
おー。こんな風になるのか。結構な数があるなぁ。
よし。それじゃあ、選んでいこう。
この後は魔法戦闘を行わないので知力中上昇は必要ない。となると、風呂を沸かすためにMP中上昇を選択するか。
遊び人Lv1
効果 MP中上昇
スキル 効果設定 スキル設定 空き
オッケーオッケー。いいじゃないの、いいじゃないの。
まだ、遊び人のレベルが低いため効果は低いだろうが、レベルが上がればどんどん凶悪な性能を発揮してくれるだろう。今後に期待だな。
よし。それじゃあ、次はスキル設定だ。
原作では探索者のアイテムボックスを選んだ場合、遊び人のレベル依存で枠とスタック数が決定していたため、レベル1では使い物にならなかった。
その後、アイテムボックスの枠とスタックが三十で固定されている料理人のアイテムボックスを設定しようとしたが、クールタイムが明けていなかったため再設定ができず、その後は試した描写がない。
これはどうなんだろう? 可能なのか?
可能なら、明日の災害救助のときに役に立つんだが。
クールタイムは一時間ほどということなのだ。
MP回復やドロップアイテムの売却。それから、食材の買い出しに修行とお湯を沸かすまでは一時間以上ある。
魔法はそのときに選べばいいだろう。
というわけで、スキル設定と念じ表示された中から、料理人のアイテムボックスを選択した。
遊び人Lv1
効果 MP中上昇
スキル 効果設定 スキル設定 アイテムボックス
よし。オッケー。それじゃあ試してみよう。
早速アイテムボックスを開いてみると、探索者の三十九枠とは別に三十枠が追加されている。
ビンゴ! レベル依存ではないアイテムボックスなら、そのままの枠で使用できる!
普段使うことはないだろうが、明日の災害救助ではめちゃくちゃ有用だ。
しかし、やり過ぎには注意しないとな。
冒険者のアイテムボックスを超える数を運んだら怪しまれてしまう。
冒険者のアイテムボックスは、五十枠の五十スタックで最大二千五百個のアイテムが入る。
それに対して現在の俺は、えーっと……。
ダメだ。暗算じゃ無理だわ。
キャラクター再設定を開き、獲得経験値二十倍を外してフォースジョブを付け、そこに商人を設定する。
……やあ。商人さん。また会ったね。これからもカルクが必要になったら頼らせてもらうよ。
えーっと。探索者が三十九枠の三十九スタックで合計千五百二十一個。料理人が三十枠の三十スタックで合計九百個。二つ合わせて二千四百二十一個。
ってあれ!? こっちの方が少ないのか!
我ながら経理を見ていたとは思えないくらいに数字に弱いわ。
いや、だって。電卓があるしエクセルもあるし、細々としたところは会計ソフトや給与計算ソフトがやってくれるし。
内心で言い訳をしながら、ボーナスポイントの振り分けを済ませる。
「では、MP回復を行おう」
「はい。ご案内します」
ロクサーヌの後ろを歩き、魔物の居る場所へと向かう。
MP回復を済ませると、クーラタルの冒険者ギルドへ移動し、人気のない掲示板の前に立ち、三人で確認を行う。
いつもなら空いている受付へ一直線だが、今日はもっと大切なことがあるからな。
「あっ。ご主人様。これではありませんか?」
セリーが指さした貼り紙に目を通す。
急募
依頼者:ハルツ公爵騎士団
募集対象者:冒険者(ギルド所属員以外も含む)
作業期間:春の三十七日 日の出から日没まで
報酬:一日千ナール
依頼内容
ハルツ公爵領にて大規模な水害が発生。これにより陸路が途絶したため、冒険者による食料物資の輸送を行う。
冒険者の安全については、騎士団がこれを保障する。
また、今回は緊急事態につき、インテリジェンスカードの確認を行わない。
詳しくはギルド職員まで。
よし! あった!
間違いなく災害救助の募集が行われている。
二人と頷き合い、受付へと足を進めた。
受付にいたギルド職員の女性が、回復薬でこんもり盛られたトレーを持って、奥へ行くのを見送りながら考える。
今日は午前と午後でとんでもない数の滋養丸と強壮丸の売却を行った。
午前中はベイルの探索者ギルド。午後はクーラタルの冒険者ギルドと、別の町、別のギルドで売却を行っているため、目を付けられることはないだろう。
しかし、これを続ければそのうち絶対に不審感を抱かれる。
ほとぼりが冷めるまでは控えておかなければならない。
しばらくは死蔵しておこう。
ギルド職員が戻ってくるのを待ちながら、さらに考えを巡らせる。
俺とセリーのMP回復のために倒した魔物の経験値で遊び人のレベルは3になっているが、まだまだ実用的とは言い難いだろう。
だが、こちらには経験値効率四百べぇが付いているのだ。あっという間に戦力となってくれるはず。
明日は災害救助に参加するので、上の階層を目指して突っ走るという訳にはいかない。
早朝の探索は遊び人のレベル上げに勤しむとしよう。
……災害救助か。
この後、ギルド職員に声を掛け、参加する旨を伝えよう。
これに参加しなければ、ハルツ公と顔を合わせることができない。
彼と面識を持つことは、ルティナに出会うための重要なファクターだ。
しかし、俺はちゃんと出会った上で、彼の関心を引くことが出来るのだろうか?
ミチオと違い、二十七年間中小企業の総務として生きてきたため全身から小物感が漂っているはずだ。
公爵閣下ともあろう者がそんな奴に目を向けるとは考えにくい……。
もし、注目されることがなければ、その後に起こるエルフの騒動に関わることが出来ず、ルティナとの出会いもなくなってしまう。
……強権のエストックを作らず、詠唱遅延の付いた武器を六本揃えておけばよかった。
明日それを売却すれば目を掛けられた可能性があったよなぁ。
くそー。失敗した。
焦燥感を覚えながらまんじりともせず待っていると、硬貨を載せたトレーを持ちギルド職員が戻ってきた。
硬貨をしまい込み、意を決して話しかけようとしたところ、彼女の方が先に口を開き出鼻をくじかれる。
「いつもフィールドウォークで移動しているところをお見掛けしていました。冒険者の方ですよね?」
きたっ!
内心の緊張を抑え込み、鷹揚な人に見えるように振舞う。
「うむ」
「先ほど掲示板をご覧になっていたようですが、ハルツ公爵領での災害救助については……」
「ああ。それなら、確認させてもらった。集まりが悪いようなら参加するのもやぶさかではないと考えていたところだったのだ」
「ありがとうございます。急なことで必要な人数を揃えることが出来ず難儀しておりました。ご協力をいただけるのでしたら、是非ともお願いいたします」
俺の言葉を聞いた、ギルド職員の女性はホッとした表情を浮かべ、感謝の言葉を口にした。
張り紙に書いてあった内容を改めて説明している女性の声を聴きながら、俺の方も胸を撫で下ろす。
無事災害救助に参加することが出来たな。とりあえず、これで第一関門突破だ。
……明日は、なんとかハルツ公の関心を買わなければ。
修行を終えたところで、お湯を沸かすことにする。
いよいよダブルスペルのお披露目だ。
「ご主人様。いよいよ魔法を二発同時に放てるようになるのですね」
「今までそんな現象を目にした者はいないでしょう。本当に楽しみです」
ロクサーヌとセリーもワクワクした表情で見守っている。
せっかくのお披露目だからな、彼女たちにも見守っていてもらおう。
原作でミチオがやっていたように、バスタブの上でウォーターウォールとファイヤーウォールを重ね合わせるように発生させ、一気にお湯を作ってやるぞ!
もっとも、ミチオはバーンウォールとアクアウォール、それからウォーターウォールの三発同時だったわけだが……。
まあいい。早速やってみよう。
スキル設定と念じると、予想通りクールタイムは終わっていたようで、頭の中にスキル一覧が浮かんでくる。
そして、その中から魔法使いの初級火魔法を選ぶ。
遊び人Lv3
効果 MP中上昇
スキル 効果設定 スキル設定 初級火魔法
おおっ! ちゃんと設定できた! これで俺もダブルスペルの使い手か!
きっとRPGなら終盤に解放される能力だろう。
それを転移してから三十六日目で手に入れているってのはヤベーな。
原作知識は本当にチートだ。
さて、悦に入るのは程々にして、とっととお湯を沸かそう。
バスタブの上に展開されるようイメージをしながら、立て続けに念じる。
ファイヤーウォール
ウォーターウォール
ほぼ同時に発生した火の壁と水の壁が重なり合い、ジュウジュウと音を立てて湯気が上がる。
そして、しばらくすると火が消え、残った水は重力を思い出したかのようにバスタブへと落ちていった。
すげー! これは大幅な時短ができそうだ!
「ご主人様、すごいです! 魔法を同時に使用するなんて、本当にとんでもないです!」
「別々の人が同時に魔法を放とうとしても、通常なら詠唱共鳴が発生し絶対に不可能なはずなのに、お一人でこんなことを成し遂げてしまうなんて、すごすぎます!」
いやマジでそう思うわ。英雄もそうだけど、遊び人も相当なバランスブレイカーだ。
「こんなに早く遊び人を手に入れることができたのは、ロクサーヌとセリーのおかげだ。これからもよろしくね」
感謝の言葉を述べると感極まったのか、二人はこちらへ近寄り俺の体にぎゅっと抱き着いた。
「こちらこそよろしくお願いします」
「あの、これからもかわいがってください」
あーもう。かわいすぎるんだよー。
田川 歩 男 18歳
探索者Lv39 英雄Lv34 遊び人Lv3 魔法使いLv38
装備 ひもろぎのスタッフ 毘盧帽 よりしろのイアリング
BP振分 残BP:0
キャラクター再設定:1
フォースジョブ:7
必要経験値二十分の一:63
詠唱省略:3
頭装備六:63
所持金:1,120,407ナール
春の36日目