異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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120 大波

 

 

 

 

 

ボーデ

宮城

 

 

 

 

 

 その後、ターレとボーデの間を往復し続ける。

 ワープそのものにたいした負担はないものの、詠唱を呟くフリをするのと数をチェックされながらアイテムの出し入れを行うのが面倒だ。

 しかし、変な疑いを掛けられるわけにはいかないため、これらを行わないというわけにはいかない。

 

 

 

 

 

 七回目の運搬を終えたところで騎士の男が困ったように告げた。

 

「あなたの担当分はすべて運び終えてしまいました。この後の指示を仰ぐため、団長の下までご同行願えますか?」

 

 うそーん。こんなん原作ではなかったよな?

 早く終わらせすぎたせいで妙なことになってしまっているぞ。

 

 

 

 指揮所にいるゴスラーは騎士よりすべての作業が終わった旨を伝えられ、驚いたような表情でこちらを凝視する。

 

「やはり、噂通り……」

 

 さっきの言葉は気のせいじゃないな。こいつは間違いなく俺のことを知っている。

 

 ゴスラーは表情を引き締めて騎士へ新たな指示を出す。

 そして、彼がいなくなるとこちらを見つめ口を開いた。

 

「それでは、アユム殿はこちらへお願いします」

 

 本来ならハルツ公が通りかかるまで、その辺のベンチに腰を下ろしておきたいところだ。

 しかし、これだけ出来事がズレていれば、ここを訪れない可能性がある。

 それに、おそらくゴスラーはハルツ公の下へ案内しようとしているのではないだろうか?

 あらかじめ聞いていた人物を確認させるつもりだろう。

 

 城内へ入り暗い廊下をしばらく進み、奥まった部屋の前まで来ると彼はノックを行った。

 

「閣下。アユム殿をご案内しました」

「入れ」

 

 開いた扉の向こうには信じられないほどの美しい男が、デスクチェアーに座りこちらを見つめている。

 

ハルツ公爵ブロッケン・ノルトブラウン・アンハルト ♂ 35歳

聖騎士Lv14

装備 身代わりのミサンガ

 

 ハルツ公だ! 間違いない!

 

 それにしても、サラサラの金髪ロン毛に切れ長の青い瞳。そして神秘的な長い耳。

 もう嫉妬をするとかそういうレベルを超えている。

 今まで見た男の中で、ぶっちぎり一位のイケメンだ。

 いや、彼に対してイケメンという言葉は相応しくない。美形とか麗人という方がしっくりくる。

 

 実際に見たらヤベーわ。

 

「ほう。その方がアユム殿か。噂はかねがね」

 

 ハルツ公はこちらを見ると、ニヤッと笑い口を開く。

 

 ……ルークだな。

 あれだけ派手に買い注文を出しているのだ。そりゃ、警戒されるわな。

 おそらく、世話になっているハルツ公爵家に、おかしな奴がいると情報を流したのだろう。

 個人情報保護について思うところがないわけではないが、今回に限っては良いほうに転がっている。

 

「はっ。アユム・タガワと申します。私などをご存知いただいていたとは、誠に光栄です」

「余は堅苦しい言葉が嫌いな質でな。アユム殿もかしこまった言葉を使う必要はない。まあ、腰を下ろすがよい」

 

 勧められたソファーに腰かけながら頭の中にアラートが鳴り響く。

 嘘ですやん。そう言われたからってタメ口をきいたら絶対に不味いことになりますやん。

 

「ターレへの運搬をすでに終えたようだな」

「はい。アユム殿は一度の休憩も挟むことなく、七往復で運搬を終えてしまいました」

「なるほど……。噂に違わずということか」

 

 ハルツ公はそう呟くとこちらをじっと見つめ、体の前で手をクロスさせ左手の手のひらを右の二の腕へ当てる。

 

 帝国解放会のハンドサイン!

 ヤバい! 反応するな! すっ惚けろ!

 

「噂ですか?」

 

 私は何も知りませんよ? その仕草は一体? 中二病でも患っているのですか?

 

「その方も使っている仲買人のルークだが、我が公爵家とはあやつの父である先代からの付き合いだ。そのため色々な話が伝わっておる。随分と派手に動いているようだな?」

 

 こちらに向けられた笑みに一瞬で飲まれ、冷や汗が背中を伝う。

 

 くそっ。高位貴族って怖いぞ。

 なんとか取り繕わなければ。

 

「本気で迷宮攻略を志すには投資も必要になるかと」

「ほう」

「なんと……」

 

 苦し紛れに放った言葉を聞いて、二人の表情が変わる。

 

「聞いたか、ゴスラー。余の前で迷宮攻略を成し遂げると口にしたぞ」

「しかと。ルークより聞き及んだスキル結晶の数を考えるに、あながち大言壮語とは思えません」

「そうであろうな」

 

 あの? お二人さん?

 

「その方はヤギやはさみ式食虫植物のスキル結晶を買い漁っていたようだな? パーティーに魔法使いがいるのか?」

「いいえ。我がパーティーに魔法使いはおらず、現在その当てもありません。ですが、迷宮攻略のためにはいずれ必要になるため、今のうちから準備を行っております」

 

 公爵閣下。私は魔法使いを求めていますからね? セルマー伯の子女で十五歳。幼い頃に自爆玉を使っている女の子ですよ? 忘れないでくださいね?

 

「であるか」

 

 そう呟くと彼は何やら考え込んでいるようだった。

 

 

 

 

 

 しばらく雑談を行い、あれやこれやと詮索されるも、当たり障りのないことを言ってのらりくらりとかわし続ける。いい加減クーラタルへ帰りたくなってきたところで、ハルツ公から声が上がった。

 

「ゴスラー。良いことを思いついた。例の件なのだが、贈り物についてアユム殿の知恵を借りるのはどうだ?」

「なるほど。それは良いお考えかと」

 

 贈り物? もしかしてこれ……。

 

「実は第三皇子の婚姻が決まったのだが、その贈り物に頭を悩ませておった」

「通常、皇家の結婚式にはエリクシール。出産祝いはどなたであっても自爆玉を贈るのですが、今回は別家を立てるため何を贈るべきか迷っているのです」

 

 きた! このタイミングでくるのかよ!

 

「皇族の婚姻ですか……」

 

 贈り物について考えている振りをしながら、今後のルートについて必死で頭を回転させる。

 

「聞くところによるとハルツ公爵領にはタルエムでしたか? 良い木材があるという話。ペルマスクより鏡のみを仕入れ、枠はそちらを使用するというのはいかがでしょう? 領内の物を使用することで他にはない特色が出るかと」

「ほう。タルエムをか……」

 

 フィーッシュ! 食いついた!

 

 公爵が顎に手を当て考えていると、ゴスラーが口を開く。

 

「しかし、それでは試作も含めたくさんの鏡が必要になります。そう何度もペルマスクへ行くのはさすがに……」

 

 その言葉を待っていた!

 

「私はペルマスクへ行くことが可能です。差し支えなければ鏡の運搬をお引き受けいたしますが?」

「なに?」

「ペルマスクまでフィールドウォークで移動できるのですか?」

 

 驚いたような表情を浮かべ問いかけてきた二人に答える。

 

「ええ。可能です。ただ、以前訪れた際に鏡を手に入れるためには貴族の委任状が必要だと言われたため、値段がわかりません」

 

 いや、俺が言われたわけじゃないんだけど、このくらいは見逃しておくれ。

 

 

 

 二人はあれこれと話し合いを行い、それがまとまるとハルツ公が羽根ペンを取り、ゴスラーがこちらに向けて口を開く。

 

「それでは、アユム殿のご厚意に甘えさせていただきます。試作用も必要なため十枚ほど。また、サイズを確認したいため大小様々なサイズの物をお願いします」

「問題ありません」

 

 工業製品じゃないんだ。どうせ元から大きさなんてバラついているだろう。

 

「値段については、一枚当たり一万五千ナール以内でお願いします。さすがに二万ナールを超えるようなものは買い取ることができません」

 

 まあ、生産地で仕入れるからそんなにしないだろう。

 それに、セリーが鬼のように値切ってくれるはず。

 

 あ、いや。うちのマイルドセリーの場合はどうなんだ? ちゃんと値切ってくれるのか?

 

 

 

 ゴスラーに頷きを返すと、続きを口にする。

 

「それから、ペルマスクに行くのでしたら、我が領の特産品であるコハクを商ってはいかがでしょうか?」

「コハク……」

「小さくて持ち運びやすい上に高価なので、ペルマスクで売却するのにうってつけです」

 

 すると、書き物をしていた公爵が顔を上げた。

 

「それはよいな。では、鏡の委任状と合わせてコハクを扱っている業者の紹介状も書いておこう」

 

 よっしゃ! ナイス! なんか完全に流されている感満載だが、いい波に乗っているんだ。このままいくぞ!

 乗るしかない。このビッグウェーブに!

 

 

 

 その後、ゴスラーと打ち合わせを行う。

 ボーデの宮城へ入るための通行許可証となるワッペンを預かり、コハクを扱っている店の場所を聞き、どのくらいの期間で揃えることが可能かを伝えた。

 

 そして、ハルツ公が書き終えた紹介状と委任状を受け取ったところで、災害救助の報酬をクーラタルの冒険者ギルドで受け取るように言われ、ボーデを後にする。

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

「ご主人様!」

 

 報酬を受け取り自宅に戻ったところ、大きな声と共に体に衝撃を受けた。

 彼女は嬉しそうに抱き着き、俺の顔を見ながら告げる。

 

「おかえりなさいませ。ご主人様」

「ただいま。ロクサーヌ」

 

 こんなに帰宅を喜んでもらえるなんて、本当に幸せだわ。

 

 

 

「予定よりだいぶお早いお帰りですが、もう終わったのですか?」

「うん。作業は無事済んだし、ハルツ公と知り合うことにも成功したよ」

「ふふ。さすが私のご主人様です」

 

 そう言うと回されている腕へ、さらに力が入った。

 抱きしめられながら、気になったことを問いかけてみる。

 

「ところで、どうしてロクサーヌは家に居たの?」

「一人で町を歩いてみたのですが、ご主人様と一緒ではなかったので、あまり楽しくなかったのです。それなら、なるべく早くお迎えできるよう、家で待つことにしました」

 

 好き! ロクサーヌ超好き!

 

 思わず強く抱きしめ、唇を寄せていく。

 

 

 

 激しく重ねていた唇をどちらともなく離して見つめ合う。

 

「それじゃあ、このあとはどうしようか? ベイル亭で昼食には早いよね?」

「あの……。提案があるのですが……」

 

 予定の相談をすると、ロクサーヌが恥ずかしそうに提案を口にする。

 

「ベイル亭に行く前に武器屋と防具屋を巡り、昼食を済ませたら夕方まで二人だけで過ごすのはいかがでしょう……」

 

 そう口にした彼女の顔は赤く染まっていた。

 

 これはそういうことだよな? そういうことで間違いないんだよな?

 

「俺もそう思っていた。用事を済ませたら、君をたくさんかわいがってもいい?」

「はい。お願いします。夕方までは私だけのご主人様です」

 

 再び抱きしめ合い唇を重ねた。

 

 

 

 

 

ベイル

市場通り

 

 

 

 

 

 クーラタル、帝都の武器屋と防具屋を回るものの、例によって空振りに終わる。

 ベイルの武器屋にも入ったが、やはりこちらでも出物は見つからない。

 セリーの作った装備品を売却しただけで、成果らしい成果は得られなかった。

 

 でもまあ、お楽しみが控えているため、たいして気にならない。

 この後は愛欲の宴だからな!

 何なら色魔にスクランブルがかかっちゃうかもしれないぞ?

 

 すると、ロクサーヌが近寄ってくる。

 

「私も楽しみです」

 

 俺の内心を見透かしているのか耳元でそう囁いた。

 

 このいたずらっ子め。こんなところで理性がぶっつりいったらどうしてくれるんだ。

 

 TPOを弁えない困ったお嬢さんと共に防具屋へ入る。

 

 

 

 

 

ベイル

防具屋

 

 

 

 

 

 店内に入ると、今まさにカウンターの奥に装備品を展示しようとしている店主の姿が目に入った。

 

 仕入れたばかりなのかな? とりあえず鑑定っと。

 

ダマスカス鋼の大盾 盾

スキル 空き

 

 うおー! マジか!?

 きたー! ダマスカス鋼の大盾きた!

 滅多に出回ることのない逸品だぞ!

 というか、大盾自体がなかなか店売りされてないって話だったよな。

 こいつはヤベー。スロットは一個だが、そんなの関係ねぇ。これは絶対手に入れる!

 値札がないせいで、いくらなのかわからないが躊躇するわけにはいかない。

 

 えーっと。他に展示しようとしているものは……。ああ、ダメだ。スロットなしばっかりだ。

 

「すまない、店主。それはダマスカス鋼の大盾か? 見せてもらいたいのだが」

「おお! 以前ダマスカス鋼のプレートメイルをお求めになったお客様ではないですか。なんというタイミング。是非ご覧ください」

 

 おいおい。覚えられちゃってるよ。

 まあ、黒髪の人間族なんてそうそういないんだ。しょうがない。

 

 

 

 一頻り確認をしたフリを済ませてから告げる。

 

「うむ。良い品だ。これを購入しよう。他にも購入する物があるので少し待っていてもらえるか」

「はい。よろしくお願いいたします」

 

 こちらを見ていたロクサーヌに頷くと事情を理解したのだろう。表情を輝かせて頷きを返す。

 

 

 

 店内を見回してみるが、他に出物は見つからない。

 うーん……。まあ、今回はミリア用のサンダルでも買っておくか。

 絶対にスキル結晶を融合することはないだろうが、とりあえずスロット付きを選んでおいた。

 

 カウンターへ戻り、サンダルを大盾の横に置いて店主に声を掛ける。

 

「では、この二点を頼む」

「ありがとうございます。それでは確認いたします。ダマスカス鋼の大盾が一点で十六万ナール。サンダルが一点で四十ナール。合計十六万四十ナールとなりますが、こんなにも早くご購入いただけたのです。今回は十一万二千二十八ナールでいかがでしょうか」

 

 いやいやいや。えぐいえぐい。また十万ナール以上の金が飛ぶじゃねーか!

 

 くっ。だが、これほどの逸品が手に入ることは滅多にないだろう。

 ベスタに持たせてもいいし、スキル結晶の融合を行えば大金が手に入る。

 ここは、いっとくべきだ!

 

 

 

 動揺する心を必死に抑え、アイテムボックスを開いて支払いを行おうとしたところで、後ろから大きな声が聞こえてくる。

 

「ちょっと待ってくれ! それはダマスカス鋼の大盾だろう!」

 

 

 振り替えると、そこには途轍もない大男が立っていた。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

探索者Lv39 英雄Lv34 魔法使いLv38

装備 硬革の靴 身代わりのミサンガ

 

ロクサーヌ ♀ 16歳

メイン

戦士Lv20

装備 強権のエストック 駿馬の竜革靴 身代わりのミサンガ

 

セリー ♀ 16歳

鍛冶師Lv14

装備 竜革の靴 身代わりのミサンガ

 

BP振分 残BP:1

キャラクター再設定:1

サードジョブ:3

必要経験値二十分の一:63

詠唱省略:3

ワープ:1

鑑定:1

ジョブ設定:1

三十パーセント値引:63

 

所持金:1,147,303ナール




今話で投稿を開始して一年となりました。

ここまで続けてこれたのも、お読みいただいている皆様と、素敵な物語を生み出してくださった原作者様のおかげです。

皆様のUA、お気に入り、感想、評価、ここすきのおかげでモチベーションを保って執筆を行えています。本当にありがとうございます。

今回の連続投稿はここまでとなりますが、これからもお楽しみいただければ幸いです。



かなり余裕を持って執筆をしていたのに、まさかインフルエンザに罹ってしまうとは思いませんでした。
人生、何が起こるかわからないものです。
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