セリーが落ち着きを取り戻し、しんみりとした雰囲気が薄れたところで、今度はハルツ公領で起きた出来事について語ることにする。
「それじゃあ、俺の方で起こったことについて話していこうか」
「お願いします」
「どんなことが起こったのですか?」
すると、彼女たちは好奇心で瞳を輝かせながらこちらを見つめていた。
本当にかわいい娘たちだなぁ。
「セリーと別れて、クーラタルの冒険者ギルドからハルツ公の宮城があるボーデへ移動することになったんだけど、そこで騎士団長であるゴスラー殿と出会った」
「物語にも出てきましたね。確か決闘の立会人を務めていた方ですよね?」
ロクサーヌの言葉に頷きを返し、続きを話す。
「そう。その人だ。そして、彼は俺の名前を聞いて驚いており、明らかにこちらのことを知っている様子だったんだよ」
それを聞いたセリーが疑問を口にする。
「物語ではそのようなことはありませんでしたよね? 一体どういうことなのでしょう?」
「うん。俺も気になったんだけど、そのときはとりあえず依頼をこなすことにしてね。それで、割り当てられた運搬場所はターレというボーデから一番遠い場所だった」
彼女たちは瞳を輝かせワクワクしている様子で話に聞き入っている。
「そんな場所だったけど、アイテムボックスの整理をしていたおかげで、休憩を挟む必要もなく七往復で片付いたんだ。しかしそのせいで、随行の騎士も困ってしまい騎士団長であるゴスラー殿に判断を仰ぐことになる」
「短時間で依頼をこなしてしまうなんて、さすがご主人様です」
「はい。休憩することなく遠い場所を七往復なんて、普通では考えられません」
彼女たちの称賛をこそばゆく思いながら受け取り、話を続ける。
「それで、ゴスラー殿にハルツ公の執務室へ案内されることになったんだけど、やはり公爵も俺のことを知っていた。そして、彼は出会うなりこちらの様子を観察しながら帝国解放会のハンドサインをしたんだ」
「この段階でですか!?」
すると、セリーから大きな声が上がった。
彼女が驚くのも無理はない。チート能力は持っているものの、俺はまだ何の功績も上げておらず、注目される理由がない。
それにしても、ハルツ公は噂話とボーデ、ターレ間の七往復だけで、よくハンドサインを試す気になったよなぁ。
青田買い的に見込みのありそうなやつには片っ端から試しているのか?
もしそうなら、ミチオはどの段階で試されたんだろう?
考え込んでいるとロクサーヌが得意げな顔で口を開く。
「ご主人様なら当然のことです。公爵ともなれば人を見る目も備わっているのでしょう」
この娘さんすごいことを言うなぁ。
彼女の言葉に慄きながら話を続ける。
「帝国解放会は秘密結社のようなものだ。その構成員でもないのにハンドサインの意味を理解していたら、どんな疑いをかけられるか分かったものじゃない。だから、彼らに悟られないよう、必死で気が付かないフリをしたよ」
「そうですね。皇帝や高位貴族が加入している組織なのです。もし、それに気付かれたら大変なことになったでしょう」
マジでそれな。
情報を得るために尾行されたり、俺の存在が邪魔だと思われたら刺客を差し向けられた可能性もあっただろう。
「それをやり過ごしたところで、ルークから俺の噂を聞いたと告げられてね。奴は買いを出しているスキル結晶の情報に加え、まとめて支払いをさせることでこちらの懐事情を確認して、それらをハルツ公爵家に伝えていたとのことだった」
その言葉に彼女たちは目を吊り上げ、声を荒らげた。
「本当にご主人様の情報を漏らしていたなんて! そんな者を許すわけにはいきません! やはり、彼との付き合いは考えるべきです!」
「これだから仲買人は信用できないのです! 間違いなく他にもご主人様の情報を流しているでしょう!」
おおう……。完全にガチギレじゃないか。
怒るだろうと思ってはいたが、予想を遥かに上回るキレっぷりだ。
先ほどの、俺がハイコボルトのスキル結晶を購入した件について触れ回っている可能性があるというのはあくまでも推測だったが、これについては実際に情報を漏らしている。
彼女たちが怒号を上げるのも無理ないか。
二人はルークとの付き合いを改めるべしと息巻いているが、それでも仲買人の中ではマシな方だということだしなぁ。
「まあまあ。今回は俺たちの利益につながったわけだし大目に見よう」
二人をなだめすかしなんとか矛を収めてもらう。
「ご主人様がそうおっしゃるのなら仕方がありません。ですが、同じようなことを続けるようなら、そのときは関係を絶つことをお考え下さい」
「ロクサーヌさんの言う通りです。舐められてしまえばどこまでもつけ上がってくることでしょう。仲買人とはそういうものなのです」
ルークは今後も重要な役割があるため、付き合いをやめるわけにはいかない。
彼女たちには悪いが、彼については我慢してもらおう。
でもまあ、今回助かったことは確かだが、それとこれとは話が違う。
「大丈夫だよ。明日商人ギルドに行くとき、ルークに会って釘を刺すつもりだ」
裏でコソコソ動いても問題ないと思われてしまえば、どんな不利益を被るか分かったもんじゃない。
今後も舐めた真似をするつもりなら覚悟してもらう。
その言葉を聞いて二人は安心したように笑みを浮かべた。
……今後、彼女たちがルークを信用することはないんだろうなぁ。
「それから、話の流れでペルマスクの鏡を売却することと、ハルツ公領のコハクをペルマスクで商う許可を得た」
ソファーの脇に置いていたリュックから委任状と紹介状を取り出し、ローテーブルの上に置く。
「なので、明日は商人ギルドに行った後、ボーデのコハク商とペルマスクへ行こう」
それを目にした彼女たちから歓声が上がる。
「さすがご主人様です! たった一日で委任状と紹介状を入手するなんて、本当にすごいです!」
「これほど簡単に高位貴族である公爵から商いを許されるとは、とても信じられません! やはりご主人様はすごいお方です!」
ハハハ。かわいいレディたちよ。そう褒めるでない。
すごいすごいとはしゃいでいる彼女たちを見ながら、さらにテンションが上がることを伝えるべく口を開く。
「明日コハク商へ行ったときに、二人のネックレスを購入しよう。お金のことは気にせず好きなものを選んでね」
「えー! コハクのネックレス!? そのように高価なものをよろしいのですか!?」
「奴隷にコハクのネックレスを購入していただけるなんて! そんな話は聞いたことがありません!」
原作知識を話したときにコハクを商うことは伝えたが、確実にその流れに持っていけるかがまったく分からなかったんだよなぁ。
そのため、彼女たちの分を購入することを告げることができず、図らずもサプライズのような形になってしまった。
「コハクを商うためには現物を身に着けていた方がいいってのもあるんだけど、一番の理由は君たちへ贈り物をしたかったんだ。ロクサーヌ、セリー。いつもありがとう。そして、これからもよろしく」
感謝の言葉を伝えると二人は感極まったのかソファーからすごい勢いで立ち上がり、こちらへ突進してそのまま抱き着く。
「ご主人様、ありがとうございます。私は本当に恵まれています」
「こんなに良くしてもらえるなんて思ってもいませんでした。ご主人様、本当にありがとうございます」
震える声で感謝を述べる彼女たちの背中をゆっくりと撫でる。
喜んでもらえて本当に良かった。俺は二人に助けてもらってばかりだからな。これからも彼女たちの喜ぶ顔を見るために色々なことをしよう。
とりあえずはドレスかな。
ハルツ公と面識を得たのだ。このまま進めば会食に招かれる機会が訪れる。
そのため、注文している服や下着を帝都の高級服屋へ受け取りに行く際、二人のドレスをオーダーしよう。
当日、服屋でそれを伝えたら彼女たちは喜んでくれるだろうか?
そうだといいなぁ……。
二人が落ち着いたところで話を続ける。
「俺の話はこんなところかな。一先ずハルツ公と面識を持つという目標は達成できた。しかも、帝国解放会のハンドサインの確認までされている。間違いなく彼のお眼鏡にかなったのだろう」
それを聞いたロクサーヌはドヤ顔をしながら口を開く。
「はい。ご主人様を目にすれば、その素晴らしさに気が付かないはずがありません。当然の結果でしょう」
絶対そんなわけない……。君の中の俺は超人すぎるぞ……。
「それにしても、今日一日でハルツ公爵に出会い、帝国解放会のハンドサインを試され、ペルマスクの鏡を購入するための委任状を受け取り、コハクを商う許可を得たのですか……。先のことが分かるとはいえ、本当にすごい成果です」
確かになぁ。セリーの言う通り、自分でもできすぎだと思うほどだ。
「今後、ルティナを仲間にするにあたっては、ゴスラー殿の前でバラダム家との決闘を行い、ロクサーヌの回避能力を彼に見せつける必要がある。ロクサーヌ、お願いね」
「おまかせください。かすらせるつもりもありません」
力強く頷きながら答える。まったく、この頼もしさよ。
彼女はオーバーホエルミングを用いた修行により、原作に比べ確実にパワーアップしているからな。後れを取ることはないだろう。
あっ、そうだ。
決闘といえば、奴らの装備品を根こそぎ奪うつもりだったんだ。
これについてセリーの意見を聞いていた方がいいだろう。
「セリー、決闘で勝利した際に奴らの装備品を根こそぎいただくつもりなんだけど、それは不味いかな?」
問いかけると彼女は少し考えてから答える。
「そうですね。装備品を奪った場合、それを取り戻すためにバラダム家が決闘を吹っ掛けてくる可能性があります。ですが、それは何の条件も付けなかった場合です。決闘を申し込まれた際に、ロクサーヌさんとご主人様で二戦するという条件を付けるのですよね?」
「うん。そのつもり」
「でしたら、そのときに装備品をすべて勝者に譲り渡すという条件を付ければいいのです」
セリーのアイデアを聞いたところで疑問を覚えた。
「それだと装備品目当てで決闘をする者と思われるんじゃないの?」
原作ではそういうことになっていたよな?
「それは決闘を申し込む側の話です。申し込まれた側が条件を付けて、相手がそれをのめば何の問題もありません。その場合、取り返そうとして再度バラダム家が決闘を申し込んだら後ろ指をさされることになるでしょう」
ああ、なるほど。確かにそれだと装備品目当てに決闘を吹っ掛けているとは思われないか。
それに、バラダム家が装備品を取り戻すために決闘を挑んでくる心配もなくなるってわけだな。
「セリー、ありがとう。参考になった」
感謝を述べたところ、彼女はニヤリと笑って口を開く。
「どういたしまして。あと、付け加えるなら勝者が譲り受けるのは装備品だけではなく、持ち物すべてとした方がいいのではないでしょうか?」
あっ! その通りだ!
金も持っているだろうし、なによりあの女は自爆玉を持っている。
これはめちゃくちゃ美味しいぞ!
「ふふ。では、彼女を倒して持ち物をすべて手に入れなくてはいけませんね」
ロクサーヌはそう言って不敵な笑みを浮かべ、悪い笑顔を浮かべたセリーと笑い合っていた。
本当に頼もしいお嬢さんたちだこと。
「俺もサボーを倒して奴の持ち物を根こそぎ奪わないとね」
「ご主人様ならサボーごとき、相手にもなりません」
「はい。オーバーホエルミングを使ったご主人様に対抗できる者などいないでしょう」
いや、すぐそばにいるんですが……。
それにエクストリームドロップデッドで片付けるつもりですしおすし。
奴らの持ち物を奪うことについて、問題がないことを確認したところで話を続ける。
「ロクサーヌの戦うところを確認したゴスラー殿は、その様子をハルツ公へと伝える。そして、自分の目で確認するため食事に招待し、その際に騎士団で最も腕の立つ聖騎士とロクサーヌの模擬戦を提案してくるはずだ。ロクサーヌ、相手の攻撃をかわしまくってね」
「ご主人様のオーバーホエルミングを用いた修行によって、どれほどの力を得たのか確かめたいと思います」
ハルツ公爵家の人々は間違いなく度肝を抜かれるんだろうなぁ。
そして、それと同時進行で、ハルツ公領に現れるハインツ一味の討伐を行い、決意の指輪を入手してそれをハルツ公に返却し、セルマー伯と会っておかなくてはならない。
やらなければならないことがたくさんある上に、一つでも取りこぼすと即アウトでリカバリーも難しい。
ルティナにたどり着くまでの道のりは本当に険しいわ。
「それじゃあ、とりあえず明日からは商売に精を出すとしよう」
「はい。たくさん稼ぎましょう」
ロクサーヌが笑顔で返事をすると、セリーも続ける。
「明日からは忙しくなりますね」
確かにそうだなぁ。
「ペルマスクへ入るためにはインテリジェンスカードの確認がいるため、俺は入ることができない。二人には負担をかけるけど、鏡の購入とコハクの売却を頼むね」
「私たちにおまかせください! セリーと一緒に頑張ります!」
「はい。ロクサーヌさんと私で、鏡を限界まで値切り、コハクを高く売りつけてきます!」
すげーこと言うなぁ。
だがまあ、俺のマイルドセリーも鬼のように値切り倒してくれそうだし一安心だ。
それに、ロクサーヌもそういったことについてはかなりシビアだから、心配する必要はないか。
一先ず俺とセリーの報告を終えたところで、食事会のときに気になったことを尋ねてみる。
「ロクサーヌとセリーはガストンが就いている武者というジョブのことを知っている?」
それを聞いた二人は顔を合わせロクサーヌが頷く。
そして、セリーも頷きを返して口を開いた。
「武者は戦士の上位ジョブとなります。なんでも、ものすごい威力のスキル攻撃を放つことができるのだとか」
なるほど。ラッシュの攻撃倍率を引き上げたようなスキルなのかもしれない。
体感だとラッシュの攻撃倍率は二倍から二・五倍といったところだ。
ということは、武者のスキル攻撃は三倍以上の可能性が高いはず。
攻撃倍率が高いスキル攻撃は、デュランダルを持っている上に詠唱が要らない俺とすこぶる相性がいい。
とんでもないシナジーをもたらしてくれるだろう。
スキルについて考えを巡らせていると、セリーが説明を続ける。
「ですが、武者へのジョブ変更は一般的に十年以上の経験が必要で、二十年を超えることも珍しくないといわれています」
しかし、それを聞いたロクサーヌはドヤ顔で言い放つ。
「心配いりません。ご主人様ならすぐにでも武者のジョブを獲得することでしょう」
いや、まあ、取得しようと思えばワンシーズンでゲットできそうではあるんだけど、そのドヤ顔は……。
超かわいいから問題ないな。うん。
「今後のことを考えると、切り札として強力な武器によるスキル攻撃は是非持っておきたい。いずれ戦士のレベルを上げるべきだろうね」
「そうですね。それがあればボス戦でも役に立つはずです」
セリーの言う通りだ。
ボス戦は何が起こるかわからない怖さがある。
しかし、これがあれば攻撃回数を減らし、戦闘時間の短縮を図ることが出来るだろう。事故の確率が激減するはずだ。
博徒を得るために盗賊と賞金稼ぎのレベルを上げる必要があるが、その後は戦士のレベルを上げてみよう。
……その次は色魔だな。
「もう一つ聞きたいことがあるんだけど、ケヴィンたちのパーティーもアンドレアも、奴隷の購入を考えている様子がなかった。どうして彼らはそれを検討しなかったんだろう?」
それを聞いた二人は少し驚いたような表情を浮かべるが、俺がこの世界の常識を持ち合わせていないことに気が付いたのか、納得したような顔で説明を始めた。
「彼らは四十六階層や四十八階層で探索を行っていたとのこと。そんな所で戦うことのできる奴隷が売りに出されることはまずありません。そして、仮にあったとしても高額となるため、貴族や富豪といった者しか購入することはできないでしょう」
ロクサーヌの言葉に続きセリーも口を開く。
「迷宮に入った経験が少ない奴隷の場合、強くなるまでに相当な時間を要します。四十六階層ともなれば二十年以上はかかるでしょう。なので、高階層で戦っているパーティーは戦闘奴隷をメンバーに加えようとは考えません」
言われてみればそうか。
高階層で戦えるような奴隷が手に入るなら、パワーレベリングが捗るはずだ。
そんなことを金持ち連中が見逃すとは思えないので、一般人に回ってくることはないのだろう。
スキル結晶や装備品、そして魔物についても報告を受けたし、ハルツ公領での出来事についても話した。
そろそろ、いい頃合いだな。
「それじゃあ、話し合いはここまでにして寝室へ移動しようか?」
「はい」
問いかけると、ロクサーヌが嬉しそうに頷いた。
そして、セリーは情欲に染まった瞳をこちらに向けながら呟く。
「私のこともたくさんかわいがっていただけますか?」
日中、限界までロクサーヌと愛し合い、その直後はエンプティ状態だった。
時間が経ったことで回復はしているが、この状態では何度もというのは厳しいだろう。
遂に色魔が初陣を迎えることになるのか……。
「もちろん。セリーこそ俺のことを受け止めてくれる?」
「当然です。ご主人様が望んでくださるのなら、何度だってかわいがっていただきたいです」
その言葉に心臓が射抜かれたような衝撃を受ける。
まったく。どうしてこの娘たちはこんなにも俺の心を虜にするのだ。
君たちがいなければ生きていけなくなってしまったじゃないか。責任を取ってもらわなければ。
ジョブを付け替え、彼女たちに腕を抱えられたままソファーから立ち上がり、寝室へと移動する。
田川 歩 男 18歳
探索者Lv39 英雄Lv34 色魔Lv1
装備 サンダル 身代わりのミサンガ
ロクサーヌ ♀ 16歳
戦士Lv20
装備 サンダル 身代わりのミサンガ
セリー ♀ 16歳
鍛冶師Lv14
装備 サンダル 身代わりのミサンガ
BP振分 残BP:1
キャラクター再設定:1
サードジョブ:3
必要経験値二十分の一:63
詠唱省略:3
ワープ:1
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春の37日目