異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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126 コウモリ

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 目が覚めると両腕がまったく動かなかった。

 身じろぎをしたことに気が付いたのか、腕を抱きしめていた二人が朝の挨拶をしてくる。

 

「ご主人様。おはようございます。昨晩は本当にすごかったです。頭がおかしくなってしまうかと思いました」

「おはようございます。ご主人様、たくさんかわいがっていただき、ありがとうございました。あんなに気持ち良いことがあっただなんて、今でも信じられません」

 

 色魔は途轍もない欲望をもたらし、それを抑えきれず彼女たちを何度も求めてしまった。

 最後は二人ともグロッキー状態だったため、慌ててジョブを変更しなければならなかったほどだ。

 

 しかし、いくらなんでも精力増強の効果が高すぎる。

 他の色魔はよくあんな衝動を表に出さずにいられるな。

 

 ……もしかしたら、俺は我慢弱い男なのだろうか?

 それとも、他の人に比べて極端に性欲が強いのか?

 

 

 

 ……いやいや。今日も予定が詰まっている。妙なことを考えていないで朝の支度を始めよう。

 

 

 自室で着替えを済ませて廊下でしばらく待っていると、ロクサーヌとセリーが部屋から出てきた。

 

 うぉ!? 今日は二人とも随分胸元の開いた服を着ているぞ!

 

 ロクサーヌは頻繁にこういった格好をしていたが、セリーがこんなにきわどい服を着ているのは初めて見た。

 服を購入したときにこんなのも選んでいたんだな。

 

「お待たせしました」

「申し訳ありません。時間が掛かってしまいました」

「大丈夫だよ。それにしても二人とも今日は随分大胆な服だね」

 

 問いかけてみると彼女たちはくすくす笑いながら答える。

 

「今日はコハクのネックレスを買っていただけるということだったので、選ぶときに確認しやすい服にしました」

 

 ロクサーヌの言葉に付け加えるようにセリーも口を開く。

 

「コハクのネックレスのような高価なものを買っていただけるなんて、人生において何度もあることではないですからね。私たちも万全の態勢を整えたいのです」

 

 なるほどなぁ。似合うネックレスを選ぶためにデコルテが見える服を選んだということか。

 二人とも気合が入っているなぁ。

 

 

 

 歯磨きを済ませ朝の大切なルーティーンを行ってから髭を剃ってもらうことにする。

 寝っ転がっていると剃刀を携えた笑顔のセリーが近寄ってきた。

 

 おいおい。いくらかわいくて大切な娘だろうと、刃物を持ってそんな笑顔で近づいてくるのはちょっと怖いぞ。

 

「ご主人様。それでは髭を剃らせていただきますね」

 

 彼女の声は弾んでおり、本当に俺の髭を剃ることを楽しみにしている様子がうかがえた。

 

 ……一昨日もそうだったけど、そんなに嬉しいもんかね?

 

 

 

 セリーは泡立てネットで泡を作ると、それをもみあげから顎、そして口の周りへ塗っていく。

 

「ふふ。ザラザラの感触がとても気持ちいいです」

 

 そして、剃刀を手に取ってジョリジョリと剃り始めた。

 

 石鹸ができてからは剃刀が引っかかることもなくなり痛みがだいぶ軽減されている。

 剃刀負け防止で剃り終わった後には毎回手当てを使っているため何の問題も起きていない。

 ぶっちゃけ、自分で剃らなくて済むので日本にいたときよりも快適なくらいだ。

 

 嬉しそうに髭を剃っているセリーに、それを微笑みながら見守っているロクサーヌ。

 俺は本当に幸せ者だ。

 

 

 

 剃り終わって石鹸のヌルヌルを落としているとセリーが話しかけてくる。

 

「あの、ご主人様……。長い髭のお手入れが面倒でしたら無精髭はいかがでしょう? 清潔を保つのも難しくありませんし、私とロクサーヌさんで毎日お手入れをするので問題ないと思います」

 

 そう言った彼女の瞳は期待に輝いていた。

 

 ……こやつ、どんだけ俺に髭を生やしてほしいんだ。

 

 しかし、その願いを聞き入れるわけにはいかない。

 無精髭なんてのはイケメンだから似合うのであって、俺が生やした日には不審者扱い待ったなしだろう。

 

「ごめんね。今のところ生やすつもりはないかな」

「では、いずれ生やすということですか?」

 

 食いつくねぇ。

 

「まあ、元の年齢を超え男としての貫禄が出てきたら考えるよ」

「はい……」

 

 その言葉を聞いたセリーはガッカリしたように返事を返す。

 彼女の望む答えではなかったようだ。まあ、二十七年以上先の話だもんな。

 

「四十五歳のご主人様は、きっと素敵に歳を重ねているのでしょうね」

 

 俺たちの会話を聞いていたロクサーヌがうっとりした表情で呟いた。

 

 期待を裏切るようで申し訳ないが、それはないんじゃないかなぁ。

 実際にその年齢だったころはメタボ検診で血糖値も血圧も高脂血症も引っ掛かりまくっていたし腹も出ていた。

 おまけに頭頂部は不毛地帯となっており、常時目の下に隈が張り付いていたような状態だ。

 

 ……いや、大丈夫。大丈夫だ。

 この世界に来てからは毎日ものすごい量の運動をしている上に、頭頂部には欠かさず手当てを使用している。

 以前の状態には戻らないはず。

 

 

 

 苦悩していた俺を不思議そうに眺めている二人に声を掛け、ミーティングを行う。

 昨晩の話し合いで今日の予定についても告げていたため、パパっと済ませて自室に戻り装備品を身に着ける。

 そして、玄関へ移動し彼女たちが来る間にボーナスポイントの振り分けを行うことにした。

 

 MP回復速度二十倍と鑑定を外し、詠唱省略を詠唱短縮に落としてポイントを確保。サードジョブからフォースジョブに上げ、サードジョブに遊び人。フォースジョブに魔法使いを設定しておく。

 さらに獲得経験値二十倍を付けて振り分け完了。

 

 最後に遊び人の効果とスキルの設定をしよう。

 効果については知力中上昇一択。他の効果を選ぶことは現実で縛りプレーをするようなものだ。効果設定を開きサクッと選んでおいた。

 

 スキルの設定か……。

 今日からは魔法二発で倒せる上限の階層を探っていくことになる。

 十四階層のハットバット、十五階層のグラスビー、十六階層のビッチバタフライはすべて風属性が弱点。ここは初級風魔法を選んでおくのが安牌だろう。

 

 

 

 うん。こんなところだな。

 

 スキル設定を終えたタイミングで装備品を身に着けた二人が二階から下りてきた。

 そして、彼女たちが靴を履き替えたところでワープゲートを展開する。

 

 

 

 

 

クーラタルの迷宮

十四階層

 

 

 

 

 

 迷宮に到着したところでキャラクター再設定を開きワープとジョブ設定のチェックを外すが、その二つでは2ポイントしか捻り出せない。

 

 詠唱短縮を詠唱省略に上げるべきか?

 それとも、結晶化促進と鑑定を付けるべきだろうか?

 

 うーん……。

 しばらくは階層上げに取り組むことになる。それなら少しでも殲滅速度が増す詠唱省略にしておこう。

 

 

 

 ボーナスポイントの振り分けを済ませて二人へ声を掛ける。

 

「今日からは二連続魔法で倒せる上限階層を探っていくので、待機部屋を目指して最短距離を進んでいこう。ロクサーヌ、地図を確認して案内を頼む」

 

 地図を取り出すためリュックを下ろそうとすると、彼女に止められた。

 

「ご主人様、大丈夫です。先日確認させていただいたので地図は頭に入っています」

 

 マジ?

 ロクサーヌを見ると力こぶを作るポーズをとり、得意げに笑っている。

 

 ……やっぱりこの娘さんの迷宮探索に関わる能力はとんでもないわ。

 

 セリーも驚いているだろうと思い目を遣るが、彼女に驚いている様子は見られなかった。

 まるで、『このくらい当然できますけど何か?』って感じだ。

 

 本当にすごいお嬢様たちだなぁ……。

 

 

 

 二人の表情に心強さを覚えながらロクサーヌへ案内を乞う。

 

「さすがロクサーヌ。本当に頼りになるな。では、待機部屋まで頼む」

「はい! おまかせください!」

 

 頼りにされたのが嬉しかったのだろう。輝くような笑みを浮かべながら答えた。

 

 

 

 ロクサーヌの案内に従い、まるで無人の野を行くかの如く通路を進み続けながら思索に耽る。

 

 遊び人を得たことで知力中上昇のパーティー効果をもう一つ付けられるようになり、そしてレベルも15に到達した。

 おそらく、それに伴いパーティー効果も大きく上昇しているはずだ。

 

 さらに俺は魔法攻撃力二倍のスキルを持っている。きっと、魔法の威力は一昨日とは比べものにならないだろう。

 

 なるべく早めに試しておきたいんだけどなぁ。

 

 しかし、ロクサーヌは一刻も早く上の階層へ行きたいのか、いつもより念入りに魔物を避けているようだ。

 

 

 

 その後もスムーズに進み、前を歩いていたロクサーヌが小部屋に入ると声を上げる。

 

「ご主人様!」

 

 なんだ! 魔物部屋か!?

 

 すわ一大事と杖を構えたところ、彼女は笑顔でこちらへ振り向き小部屋の奥を指し示した。

 

「やりましたね! 宝箱です!」

 

 え? 宝箱?

 そういえば、今まで一度も見たことがなかったな。

 

 そちらに目を遣ると床がこんもり盛り上がっている。

 

 おお。コミックやアニメで見たのと同じやつだ。結構感動するぞ。

 

 ……いや、この世界の宝物は迷宮で死んだ人が身に着けていた装備品か、もしくはアイテムボックスに入れていた物を、迷宮が人を誘き寄せる餌として設置するという仕組みだ。

 ということは、これに入っている物も迷宮でやられた誰かの持ち物だったのだろう。

 そう考えると少しだけ切ない気持ちにならないでもない。

 しかし、それ以上に期待の方がだいぶ大きい。

 

 ……我ながら本当にドライな人間だよなぁ。

 

 

 

 思索に耽っている俺にロクサーヌが声を掛けてきた。

 

「本当に運が良いですね。さすがご主人様です」

 

 いや、偶然の出来事に対して、さすがとか言われても……。

 

「十二階層以上の宝箱はその階層のボスが擬態している可能性があります。もし、これがそうだった場合、出現するのはパットバットですね」

 

 セリーの説明を聞いて思い出す。

 そういえば、十二階層からはボスが擬態している可能性があるんだよなぁ。

 

 原作では何度も宝箱を発見する場面が出てきたが、ミチオはそれに対して一度も鑑定を行っていない。

 魔物やアイテムが入っているのだ。鑑定を使えば確認できるのではないだろうか?

 試す価値はあるよな。

 

 

 

 二人に断りを入れてキャラクター再設定を開き、詠唱省略を詠唱短縮に下げて余ったポイントで鑑定を設定する。

 

 さて、試してみよう。

 盛り上がった床を見ながら呟く。

 

「鑑定」

 

木の盾 盾

 

 なんじゃこりゃ! いらねー!

 

 宝箱に対して鑑定が有効だったのは喜ばしいが、中身は期待外れにもほどがあるぞ。

 

 露骨にテンションが落ちた俺を見て、ロクサーヌはワクワクしたように尋ねてきた。

 

「ボスだったのですか!」

 

 ロクサーヌ……。君はいま、俺がボスとの戦闘を嫌がっていると思ったね?

 愛するご主人様のことをチキンだと思っているのかね? どうなんだね? んん?

 

 

 

 ……でもまあ、その通り。俺は一本筋の通ったビビり野郎。

 君たちを守るためならチキンの称号だって受け入れるぞ。

 きっと、二百五十四回逃げれば最強になれるはずさ。

 

 

 

 ロクサーヌだけではなく、セリーまでもが楽しそうにしているので、気分が萎えた理由を告げる。

 

「この宝箱の中身はミミックではなく木の盾だ。安物の装備品だったため、つい意欲が失せたような態度をとってしまった」

 

 それを聞いたロクサーヌはがっかりしたような表情で呟きを漏らす。

 

「そうですか……。残念です……」

「上に行くほど宝箱に出会う可能性が高くなるので今後発見する機会も増えます。良い装備品やアイテム、それにボスが入っていることもあるはずです。次に期待しましょう」

 

 冷静に考えると、その発言は良い装備品を持ったまま死ぬ奴がいることを願っているんだよなぁ。

 ロクサーヌもセリーも本当に良い娘だが、こういった部分では実にシビアだ。

 俺もそっち側なため、とてもありがたい。

 

 

 

 床を切り裂きサクッと木の盾の回収をして二人に声を掛ける。

 

「それでは、白金貨やオリハルコン装備が入った宝箱があることを期待しながら先へ進もう」

「そうですね。もしかしたら、そういったものも入っているかもしれませんね」

 

 かなり無茶な希望を述べたのだが、ロクサーヌは笑顔で頷いてくれた。

 本当にかわいい娘だわぁ。

 

「可能性はゼロではないでしょうが、限りなくゼロに近いと思います」

 

 一方セリーには冷静な言葉で否定されてしまう。

 そして、彼女は呆れたようなまなざしでこちらを見つめていた。

 

 おお! 俺のマイルドセリーがこんな態度をとるなんて!

 きっと、こんなことを言っても問題にならないと思ってくれているのだろう。

 

 俺のことを好きなことは分かっているんだぞ。このデレ多めのツンデレさんめ。

 思わずチューしたくなるじゃないか。

 

 

 

 ロクサーヌの案内で歩き始めたところ、程なくして再び彼女から声が上がる。

 

「ご主人様、敵が来ます!」

 

 杖を構えながら通路の奥を見つめていると、ハットバットが三匹、フライトラップ一体の群れが現れた。

 それを目にして即座に念じる。

 

ブリーズストーム

 

 すると、迷宮内に風鳴りが響き、ハットバットの体が揺れ出す。その様子はまるで見えない手に振り回されているかのようだ。

 そして、フライトラップの方はといえば、風に襲われながらもゆっくりとこちらへ向かってくる。

 それを見たロクサーヌは一気に駆け出し奴に攻撃を叩き込む。

 

 ハットバットがまったく身動きの取れない状態のため、セリーは俺の前で槍を構えながらフライトラップの様子をうかがっている。

 

 

 

 いつでも魔法を放てるように準備をしながらそれを見守っていたところ、程なくして風が止み辺りに静けさが戻った。

 そして、魔物の体は霧状になり、空気へ溶けるように消えていく。

 

 よっしゃ! 風が弱点じゃないフライトラップもワンパンだ!

 遊び人のレベルが15も上がっているからな。これも当然の結果だろう。

 このまま連続魔法ワンセットで倒せる上限階層まで突っ走るぞ。

 

「フライトラップまで一発で倒してしまうなんて、さすがご主人様です!」

「遊び人を獲得したことでここまで魔法の威力が上がるのですね! 本当にすごいです!」

「ありがとう。これもすべてロクサーヌとセリーのおかげだな。では、先を急ごう」

「はい! ご案内いたします!」

「かしこまりました!」

 

 二人はめちゃくちゃ嬉しそうな顔で気合の入った返事をした。

 ロクサーヌなんて尻尾がちぎれんばかりに揺れている。

 

 

 

 

 

クーラタルの迷宮十四階層

ボス待機部屋

 

 

 

 

 

 その後もほとんど魔物と遭遇することなく進み、出会った魔物も一撃で沈むため恙なく待機部屋へ到着した。

 中へ入ると順番待ちはなく、すぐにでもボス戦を開始できそうだ。

 

「セリー、パットバットの情報を教えてもらえるか」

「かしこまりました。パットバットはハットバットをそのまま強くしたような魔物ですが、そう極端に強くなっているわけではありません。ですが、麻痺のスキル攻撃を使用することがあるので、それには注意が必要です。私たちのような少人数のパーティーでは自然回復を待つのは難しいため、もし誰かが麻痺してしまった場合は薬を使った方がいいでしょう」

 

 確認をすると彼女はスラスラと答えてくれる。

 めちゃくちゃ頼もしいわぁ。

 

「問題ありません。全員詠唱中断の付いた武器を持っているのです。魔法陣を展開したら即座に潰せばいいだけです」

 

 ロクサーヌの言う通りだな。危険なスキルをつかわせないことが基本となる。

 ボス戦では常時オーバーホエルミングを使用するため、それが可能だろう。

 

「それから、もうそろそろパン屋の開く時間となります」

 

 そんじゃまあ、切りのいいところまで進んでおくか。

 

「では、ボスを倒して十五階層に進んだら魔法一発で倒れるのかを確認するために一戦する。その後はMPを回復してクーラタルへ戻ろう」

 

 二人の返事を確認し、ボーナスポイントを対ボス用に振り分けていく。

 そして、待機部屋に誰もいないためデュランダルはここで出しておいた。

 

「よし。それでは行こう」

「かしこまりました!」

「はい!」

 

 ボス部屋への扉に向かって歩き出す。

 

 

 

 

 

クーラタルの迷宮十四階層

ボス部屋

 

 

 

 

 

 ボス部屋へ入るとフロア中央に煙が集まっていく。

 

 いつものようにロクサーヌが駆け出し、セリーもその後を追う。

 そして、俺も魔物の背後を取るため迂回しながら走った。

 

 程なくして煙が晴れると魔物が姿を現す。

 

パットバットLv14

サラセニアLv14

 

 よっしゃ! お伴がハットバットじゃない! ラッキーだ!

 

オーバーホエルミング

 

 引き延ばされた時間の中、サラセニアとの距離を一気に詰め、奴の体にスラッシュを乗せた攻撃を叩き込んだ。

 その一撃でHPが全損したのだろう。体がゆっくり霧状になっていく。

 

 オーバーホエルミングの効果が継続している間にパットバットへ近づくと、幸いなことにデュランダルが届く位置にいたため、そのまま攻撃を開始する。

 

 しかし、スラッシュを乗せ何度も斬りつけるが、奴を倒すことは出来ずにボーナスタイムが終了してしまった。

 その瞬間を見逃さず、パットバットは攻撃の届かない位置へと上がっていく。

 

 くそっ。飛べる魔物は面倒だな。

 

 すると、上空にいる奴の体から魔法陣が展開される。

 

 不味い! 武器が届かないため発動が潰せない!

 

オーバーホエルミング

 

 世界がスローモーションになったところで詠唱が終わったのだろう。

 パットバットがゆっくりと俺に向かい降下してくる。

 

 

 あっぶねー! 俺を狙ってたのか!

 オーバーホエルミングが間に合わなければ間違いなく麻痺を食らってたぞ。

 

 こちらへ落ちてくるパットバットへ、何度もスラッシュ攻撃を叩き込んでいると、ようやく奴は実体を失った。

 そして、オーバーホエルミングが切れると風に流されるように消えていく。

 

 

 

「ふぅ」

 

 思わず口からため息がこぼれる。

 

 あー、怖かった。

 麻痺を食らっていたらヤバかっただろうなぁ。

 スキルによる麻痺攻撃が直接攻撃によるもので助かった。

 遠距離攻撃だとくらっていたかもしれない。

 

 

 

「十四階層のボスなど相手にもなりませんでした。さすがご主人様です」

 

 考えていると、ロクサーヌが嬉しそうに話し掛けてきた。

 その言葉にセリーも続く。

 

「飛行系の魔物は武器による攻撃だけだとかなり厄介な相手なのですが、こんなにあっさり片付けてしまうなんて。ご主人様は本当にすごいです」

 

 確かに厄介だった。上空に逃げられてしまうと武器では攻撃手段がなくなってしまう。

 ボス戦でも魔法による戦闘を行うべきだろうか?

 

 いや。でもなぁ。ボス戦はなるべく短時間で済ませたい。

 デュランダルなら攻撃力五倍と腕力二倍にラッシュやスラッシュを乗せた攻撃が防御力無視で入る。

 それに比べて魔法による攻撃だと確実に時間が掛かってしまうだろう。

 どうするべきかなぁ……。

 

 ……いや、今悩むことじゃない。後で相談してみよう。

 

 

 

 パットバットが倒れた場所に目を遣ると何かが床に転がっている。

 

コウモリの肉

 

「コウモリの肉!?」

 

 予想外の代物に、思わず声が漏れてしまった。

 

 いや、でも、コウモリの肉って……。

 もちろん、地球でも食べている地域があることは知っているが、日本人にはハードルが高すぎるぞ。

 

 近寄って確認したところ、手足が切り離された形で床に転がっている。

 しかし、頭は付いており大きく口を開けているところが断末魔の叫びを上げているようで不気味極まりない。

 いくらなんでもグロすぎる。これに触れるのも嫌なんだが……。

 

 

 

 それの前で立ち尽くしているとロクサーヌが声を掛けてくる。

 

「滅多に口にする機会はありませんが、美味しいですよ」

 

 そして、セリーも追加情報を付け加えた。

 

「はい。美味しいのですが、十二階層以降のボスが残す食材な上、サイズも小さいため値段が高めです」

 

 なら売却するのがいいよね! お金は大事だもんね! ね!

 

 

 

 気合を入れて附子と共に何とかコウモリの肉を拾い上げ、アイテムボックスへ放り込む。そして、ボーナスポイントとジョブの変更を済ませ二人に声を掛けた。

 

「では、十五階層へ行こう」

「かしこまりました」

「はい」

 

 

 

 

 

クーラタルの迷宮

十五階層

 

 

 

 

 

 セリーの説明を聞いてから、ロクサーヌにグラスビーとハットバットの集団がいる場所へ案内してもらい、ブリーズストームを放ったところ一発で倒すことに成功する。

 遊び人を獲得する前でも十四階層のハットバットも弱点を突けばワンパンだった。

 それを得たとなれば十五階層の魔物であってもご覧の通りってわけだ。

 

 だが、そのせいで新たな問題も発生した。

 この調子で進むと十五階層もあっさり突破してしまうだろう。

 しかし、そうなると十六階層へ上がることになり、最大五匹の魔物に対応しなくてはならなくなる。

 ミチオが十六階層に進んだのはミリア加入後だ。

 三対五はさすがに数的不利が過ぎるのではないだろうか?

 

 ……これも後で相談してみよう。

 

 俺とセリーのMP回復を済ませ、迷宮を後にする。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

探索者Lv39 英雄Lv34 魔法使いLv38

装備 聖剣デュランダル 身代わりの硬革帽子 頑強の竜革鎧 倹約の硬革グローブ 硬革の靴 よりしろのイアリング

 

BP振分 残BP:1

キャラクター再設定:1

サードジョブ:3

必要経験値二十分の一:63

詠唱省略:3

鑑定:1

ワープ:1

ジョブ設定:1

MP回復速度二十倍:63

 

所持金:1,066,659ナール

 

春の38日目

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