異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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127 白金貨

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 早朝の迷宮探索を終え、朝食が済んだところでロクサーヌが口を開く。

 

「ご主人様。そろそろ約束の時間になります」

 

 食休みはなしか。まあ、しょうがない。

 

「ロクサーヌ、ありがとう。それじゃあ、商人ギルドに行ってアンドレアへ大盾を売却だね」

「五十万ナールとスキルスロットが四つも付いたダマスカス鋼のグリーヴが手に入るのですね」

 

 セリーは楽しそうに言葉を発した。

 もしかしたら、スキルの組み合わせを考えているのかもしれない。

 

「それが済んだらルークに会ってスキル結晶の注文を行うのと併せて、奴の行動に釘を刺す」

「はい。当然です」

「仲買人は自分の利益のことしか考えないため、それでも安心できません」

 

 ルークに対してこの娘たちの信頼が戻ることはないんだろうなぁ。

 ……というかセリーに関しては最初から疑いしか持ってなかったけどさ。

 

「その後はボーデのコハク商へ行き購入が済んだら、ザビルの迷宮を経由してペルマスクへ飛ぼう」

 

 二人が頷いたのを確認し、セリーへ伝えた。

 

「セリー。ペルマスクへ入るときに金を預けるので、アイテムボックスに空きを作っておいてね」

「かしこまりました。何枠か空けておきます」

 

 よし。これで金貨の持ち運びに不安がなくなる。

 

「それでは、歯磨きと洗い物を済ませたら、準備を整えて出発しよう」

 

 

 

 自室へ移動して鍵付きチェストから銀貨を全て取り出し、アイテムボックスへ入れておく。

 いい機会だからな。コハクのネックレスを購入するときに大放出してしまおう。

 

 

 

 玄関で靴を履き替え二人が来るのを待っていると、程なくして武器を携え戻ってきた。

 

 よし。行くか。

 

 商人ギルドを思い浮かべながらワープゲートを展開する。

 

 

 

 

 

クーラタル

商人ギルド

 

 

 

 

 

 商人ギルドの壁から出た途端に声を掛けられた。

 

「アユム! 来てくれたか!」

 

 そちらに目を遣ると赤みがかった黒髪に褐色の肌をした男が笑みを浮かべながらこちらへ近づいてくる。

 

 おっ。今日はフル装備じゃないのか。

 

 もしかしたら、ダマスカス鋼のグリーヴを引き渡す必要があるために装備品を身に着けていないのかもしれない。

 

「よう。待たせてしまったか?」

「いや、俺たちもちょっと前に来たばかりだから問題ない」

 

 アンドレアに続きゴンザレスとケヴィンも駆け寄ってきた。

 

「アユムさん! ありがとうございます! あなたのおかげで魔道士になることができました!」

「本当にありがとう! これで俺たちはまだまだ先へ進むことができる!」

 

 おお。魔道士になれたのか。鑑定っと。

 

ゴンザレス 男 28歳

魔道士Lv1

装備 ビットローファー 身代わりのミサンガ

 

 間違いない。ちゃんと魔道士になっている。

 

「俺はただジョブ変更を試した方がいいと言っただけだ。魔道士になれたのはあんたたちが迷宮で努力を重ねてきた結果だろう。感謝をする必要はないさ」

 

 

 

 お礼を言い続ける二人をなだめて本題に入る。

 

「アンドレア、馴染みの防具商人というのは?」

「ああ。呼び出しをするから少し待っていてくれ」

 

 彼はそう言うと受付へ歩いていった。

 

 

 

 おっと、ゴンザレスのレベルは1に戻っている。

 まったくの他人ならスルーするところだが彼らとは妙な縁ができてしまったため、何かあれば寝覚めが悪い。

 ベテランにとっては釈迦に説法だろうがお節介を焼いておこう。

 

「ゴンザレスが魔道士になれたことはめでたいが、心配なこともある。余計なことかもしれないが忠告をさせてくれ」

 

 話を切り出すと二人は真剣な表情でこちらを見つめている。

 

「あんたたちも聞いたことがあるだろうが、ジョブを変更したときは一時的にあらゆる能力が下がる。攻撃力や防御力、それから素早さ。それだけではなく攻撃を食らった際の打たれ強さなんかも大幅に低下している」

 

 その言葉に彼らは頷きを返す。

 

「今までと同じような階層で戦った場合、ゴンザレスが攻撃を受けると取り返しのつかないことが起こるかもしれない。また、使える魔法は強力になるが魔法攻撃力自体は落ちているため、しばらくは上層の魔物に対し思うようにダメージを与えられないだろう」

 

 若造に忠告されているというのに、彼らは侮ることなくそれを真面目に聞いていた。

 まあ、本当は俺の方が年上で、彼らを若造と呼べる年齢なんだけどさ。

 

「俺は上位ジョブになったことで慢心し、調子に乗って高階層へ挑み全滅したパーティーを山ほど見てきた」

 

 本当だぞ。ゲームでさんざん経験してきたんだ。嘘じゃない。

 

「あんたたちにはそうなってほしくないんでな。お節介かとも思ったが忠告させてもらった」

「お節介なんて、そんなことを思うはずがない。アユムさん、忠告感謝する」

「私の身を気遣っていただきありがとうございます。本当にアユムさんには感謝しかありません」

 

 こいつら本当に気の良い奴らだよなぁ。なんだってあんな男とパーティーを組んでたんだか。

 

 

 

 戻ってきたアンドレアも交えて忠告を続ける。

 

 全員分の滋養錠を揃えて大怪我を負ったら躊躇なく使用すること。

 身代わりのミサンガの予備を複数用意しておき、常に事故に備えること。

 当面は三十四階層以上へは進まず、それ以下であってもファイヤーバードとランドドラゴンには挑まないこと。

 

 自分でもかなり鬱陶しいことを言っている自覚があるのだが、彼らは真摯に受け止めてくれていた。

 

 その話をしている間、ロクサーヌがこちらをドヤ顔で見ていたのと、セリーがうんうん頷き納得の表情を浮かべているのが気になったんですが……。

 

 

 

 それが終わり雑談をしていると背後から声が聞こえてくる。

 

「お待たせいたしました。アンドレア様、本日はどのようなご用件でしょうか?」

 

 振り返ってそちらを確認したところ、見知った男が立っていた。

 

「アユム様!? どうしてこちらへ!?」

 

 馴染みの防具商人ってルークかよォォォ!!!

 

 

 

 少しばかり動揺してしまったが商談室へ移動して三人掛けソファーに俺とアンドレが腰を下ろす。

 そして、商談に直接関わらない他の者は背後で立つことになったため、俺の後ろで護衛のように立っている彼女たちの様子を確認してみると、ルークに鋭い視線を向けていた。

 

 おおぅ……。ルーク、お前さんうちの娘たちから完全に敵だと思われているぞ……。

 

 

 

 その視線に気づいていないのか、それとも気づいているのにスルーしているのかは分からないが、ベレー帽のイケメンが口を開く。

 

「お二人はお知り合いなのですか?」

「ああ。親しくさせてもらっている。今回こちらを訪ねた用件というのが、アユムから頑強のダマスカス鋼大盾を譲り受けることになってな。それで、ルークに防具鑑定を行ってもらいたいのだ」

 

 親しくというほどの付き合いではないと思うが。まあ、彼がそう言うんならそれでいいや。

 

 すると、ルークから大きな声が上がる。

 

「頑強のダマスカス鋼大盾!? 融合に成功したのですか!?」

 

 なんでお前にそんなこと言わなあかんねん。どうせその情報もすぐ他へ流すんやろがい。

 

 ……と言いたいところだけど、どうせすぐに分かることだしなぁ。

 

「うむ。うちのセリーが見事成功させた」

 

 それを聞いたルークは感心したように頷き、視線をセリーへ送っていた。

 その娘の中でお前への好感度は地に落ちている。何の反応も返さないと思うぞ。

 

「そうでしたか。では、確認させていただきます」

 

 

 

 アンドレアが手数料を支払っている間にボーナスポイントを操作して詠唱省略と詠唱短縮のチェックを外す。

 

「八百千五百のお宝を、収めし蔵の掛け金の、アイテムボックス、オープン」

 

 呪文を唱えてアイテムボックスを開き、頑強のダマスカス鋼大盾を取り出した。

 

「では、確認を行います」

 

 ローテーブルに置かれたそれを見ながら、ルークは詠唱を開始する。

 

「我は尋ね力を見る、守りの魂立ち出でよ、防具鑑定」

 

 しばらく大盾を観察してから口を開く。

 

「間違いありません。頑強のダマスカス鋼大盾です」

 

 その瞬間大声が上がった。

 

「うおー! やった! 頑強のダマスカス鋼大盾を手に入れた! アユム、本当にありがとう!」

「アンドレア、おめでとう。このあと早速試してみようぜ」

「そうですね。私の中級魔法と共に試してみましょう」

 

 

 

 彼らは一頻り喜ぶと商談を再開する。

 

「すまん。あまりの喜びに我を忘れてしまった。支払いを行いたいのだがいいか?」

「ああ。頼む」

 

 返事をすると、それを聞いていたケヴィンがアイテムボックスを開きダマスカス鋼のグリーヴをアンドレアに手渡した。

 なるほど。アイテムボックスに入れておけば、持ち運びに困らないもんな。

 

ダマスカス鋼のグリーヴ 足装備

スキル 空き 空き 空き 空き

 

 詠唱省略を付けて鑑定を掛けてみると、空きスロットが四つでかなりのインパクトだ。見ているだけでニヤけそうになるわぁ。

 

 そして、アンドレアは上着を捲り、そこに縫い付けられていた硬貨を取り出した。

 

「悪い。金貨が五十枚もなくてな。白金貨になるのだが問題ないか? もし無理なら受付へ行って両替を頼んでくる」

 

 マジ!? これが白金貨!?

 

 大急ぎでこちらにも鑑定を行う。

 

白金貨

 

 うわー。本当に白金貨だ。初めて見た……。

 

 しばらくその輝きに魅入られているとアンドレアに声を掛けられる。

 

「アユム?」

「あ、ああ。白金貨で問題ない」

「おお。それはありがたい。手数料を取られずに済んだぞ」

 

 そう言って白金貨を無造作にこちらへ差し出してきた。

 手が震えないよう必死に自制をしながらそれを受け取る。

 

「おつりを出すから少し待っていてくれ」

 

 

 何とか動揺を抑え込んで再びボーナスポイントをいじり、詠唱を行なってからアイテムボックスを開き金貨五十枚をローテーブルに置いていく。

 

「では、確認を頼む」

「おう」

 

 返事をすると彼は一枚一枚数えていった。

 

 

 

「問題ないな。じゃあ、最後にダマスカス鋼のグリーヴを確認してもらってくれ」

 

 えー。これがダマスカス鋼のグリーヴだってのは分かっているし、百ナール払うのはもったいないんですけどー。

 

 ……とはいっても、今回は確認しないわけにはいかないんだよなぁ。

 せめてもの抵抗としてルークには銅貨で支払ってやろう。

 

 

 

 難しい顔をして大盾を凝視しているルークへ声を掛ける。

 

「ルーク、頼めるか?」

 

 奴はハッとしたように顔を上げこちらを見た。

 

「かしこまりました。手数料は百ナールとなります」

 

 リュックから巾着袋を取り出して銅貨を数える。

 

 

 

 枚数を確認後、ルークは防具鑑定を行いその結果を告げた。

 

「確かにダマスカス鋼のグリーヴです」

 

 その言葉を聞いたアンドレアが話し掛けてくる。

 

「これで取引完了だな。アユム、本当にありがとう」

 

 そう言って右手を差し出してきたのでそれを握り返して口を開く。

 

「こちらこそ良い取引だった。感謝する」

 

 

 

 握手を終えると再びボーナスポイントをいじり、白金貨とダマスカス鋼のグリーヴをアイテムボックスへしまい込んだ。

 あちらの方は頑強のダマスカス鋼大盾をケヴィンのアイテムボックスにしまっている。

 そして、それが済むと再び俺に向き直って口を開いた。

 

「それでは俺たちはこれで失礼する。今回は本当に世話になった。もし、今後も融合に成功するようなことがあれば俺たちに声を掛けてもらえないか?」

「おお。確かにそうしてもらえると助かるな。アユムさん、是非ともお願いしたい」

「迷宮探索を続けていくためにはスキルの付いた装備品を集めることが大切ですからね。よろしくお願いいたします」

 

 うーん……。まあ、俺たちが使わないようなものなら売っても構わないか。

 

「ああ。機会があれば声を掛けさせてもらおう」

 

 そう言うと彼らは口々に感謝の言葉を述べて部屋から出て行った。

 

 

 

 ……さて、今度は俺たちの用件といこう。

 

「このまま商談を続けたいのだが問題ないか?」

「ええ。よろしくお願いいたします」

 

 まずは釘を刺しておかないとな。

 

「実は昨日ハルツ公爵領での災害救助に参加してきたんだが、そこで公爵閣下とお話しする機会に恵まれてな」

「……それはそれは。滅多にない幸運に恵まれたようで」

 

 俺の言葉を聞き、奴の顔が一瞬強張った。

 

「うむ。初対面だったのだが何故か閣下は俺の名をご存じで、おまけに購入しているスキル結晶やこちらの事情についても把握しておられた」

 

 どこのどいつが伝えたんですかねぇ?

 

「それは――」

「俺の事情を方々に吹聴するような真似を許すわけにはいかない。今後も同じようなことが続くのなら、何らかの損害を被る前にそいつを叩き潰しておく必要がある」

 

 口を開きかけたのを遮って話を続けると、奴の顔色がどんどん悪くなっていく。

 

「ルーク。その不届き者は同じことを繰り返すと思うか?」

 

 尋ねてみると生唾を飲み込んでから答えた。

 

「……今後このようなことはいたしません」

 

 いたしませんって自白してるがな。

 

「それはよかった。それでは、次に同じことをしたら決闘を申し込むとその不届き者に伝えてくれ」

「かしこまりました……」

 

 その言葉に青白い顔で頷いた。

 

 

 

 ……はぁー。緊張したー。

 頭さえ下げておけば、とりあえずなんとかなるって感じで生きてきた俺だ。こんなのキャラじゃないんだよなぁ。

 でも、この世界でそんな生き方をしてしまえば、意気地なしだと舐められるに違いない。そうなってしまえば、ロクサーヌやセリーを危険にさらしてしまうだろう。

 今後も自宅以外では虚勢を張り続けるしかない。

 

 

 

 ルークに釘を刺したところで商談に移る。

 

「では、次にスキル結晶の買い注文を追加しておきたい」

「まだ追加なさるのですか!?」

 

 それを聞いた彼は大きな声を上げた。

 驚くのも無理はない。今現在十一ものスキル結晶に買いを出しているのだ。

 その状況でさらに追加をかけるなんて、正気を疑われてもおかしくない。

 

「うむ。まずは亀と鯉、それからハーブとゴーレム。そして竜のスキル結晶だ」

「五つもですか!?」

 

 驚いているルークに頷き、相場よりだいぶ上乗せして依頼を出しておく。

 

「それから、種類を問わず最上位種のスキル結晶に買いを出しておきたい。これについては相場の一・五倍まで出そう」

「一・五倍ですか!? 高額な物もあるのですよ!?」

 

 あっ、この言い方は不味いか?

 仮に相場が十万ナールだとすればこいつは確実に十五万まで上げてくる。早まったかもしれない。

 

「ちなみに直近で出品された最上位種のスキル結晶はどんな感じだ?」

 

 問いかけてみるとルークは悩むそぶりも見せず即座に答えた。

 

「ここ半年以内ですとハイコボルトのスキル結晶が三万五千ナール。螺旋蜘蛛のスキル結晶が五万二千ナール。讃美歌サンゴのスキル結晶が六万八千ナールとなっております」

 

 螺旋蜘蛛に讃美歌サンゴ……。

 螺旋蜘蛛というのは、以前聞いたスパイラルスパイダーのことに違いない。きっと、敏捷五倍のスキルが付くのだろう。

 一方、讃美歌サンゴのスキル結晶を残すのは何という魔物なんだ?

 魔物については分からないが、付与されるのは石化に関わるスキルのはず。

 

 

 

 ……いやいや。今考えることじゃない。

 

「なるほど。そのくらいの額なら一・五倍でも問題ないので注文しておこう」

 

 その言葉を聞いたルークは驚きに顔を引きつらせながら口を開く。

 

「……さすがアユム様です。このように剛毅な買い注文を出したお方は今までいないでしょう」

 

 確かにこの世界の常識で考えると、とんでもないクレイジー野郎だわ。

 

 

 

 購入するスキル結晶の確認が終わったところでルークが声を掛けてくる。

 

「これからは落札するたびにお知らせした方がよろしいでしょうか?」

 

 ん? ああ。今後は俺の経済状況を調べて誰かへ報告するわけにはいかないもんな。

 だからといって、量が量だし落札の度に自宅へ来られても困る。

 

「落札したものがあれば次は春の四十一日目にまとめて知らせてくれ。そして、その後は五日ごとに頼む」

 

 武器屋や防具屋を回る前日に連絡が来れば買い物のついでに受け取りを行えるため効率的だろう。

 

 あっ。そうだ。これも聞いておかないと。

 

「ちなみに、今日までに落札した分はあるのか?」

「はい。ございます」

 

 あるんかーい! はよ言わんかーい!

 

 

 

 ルークはアイテムボックスを開きスキル結晶を次々と取り出す。

 

スキル結晶 コボルト

スキル結晶 ウサギ

スキル結晶 芋虫

スキル結晶 貝

 

 貝! 貝のスキル結晶だ! こいつこんなものを落札していたのに黙ってやがった!

 いや、そんなことより今は手に入ったことを喜んでおこう。これで魔法ダメージを減らすことができる!

 それに、ウサギが手に入ったことはでかい! 詠唱遅延の付いた武器が六本揃うぞ!

 

 スキル結晶をローテーブルに並べるとルークは説明を始める。

 

「右からコボルトのスキル結晶、ウサギのスキル結晶、芋虫のスキル結晶、貝のスキル結晶となります。それでは、ギルド神殿へまいりましょう」

 

 行くわけないだろ。四百ナールの手数料がかかるんだぞ? お金がもったいない。

 

「大丈夫だ。俺はルークのことを信用している。馬鹿なことを考えるはずないよな?」

「え、ええ。当然です」

 

 ルークは慌てて何度も頷いた。

 

 なんか俺チンピラみたいなムーブをしてんなぁ……。

 四十五年間、真面目だけが取り柄で生きてきたのに、この世界へ来てから高圧的な振る舞いをすることにすっかり慣れてしまった。

 

 汚れつちまつた悲しみにってやつかぁ。

 

 

 

 少しばかりセンチメンタリズムに浸っていると、ルークが商談を再開する。

 

「右からコボルトのスキル結晶四千九百ナール。ウサギのスキル結晶四千七百ナール。芋虫のスキル結晶三千九百ナール。貝のスキル結晶七千九百ナールで合計二万千四百ナール。そして手数料が超過分三件と次回依頼分の一件で合わせて二千ナールとなりますが、ご迷惑をおかけしたのです。今回は合計二万二千八百ナールで結構です」

 

 今の俺は白金貨持ち。動揺することなく銅貨と銀貨を優先で支払いを済ませた。

 気分はまさにセレブといった感じだ。

 いや、貴族だったルティナですら白金貨を目にしたことがないと言っていた。

 気分ではなくセレブそのものかもしれない。

 

 でもまあ、貴重なスキル結晶や装備品があればあっという間に溶けていくのだが……。

 

 

 

 思索を打ち切り、暇を告げようとしたところで機先を制してルークが話し掛けてくる。

 

「アユム様。先ほどの頑強のダマスカス鋼大盾についてなのですが、五十万ナールとダマスカス鋼のグリーヴではどんなに多く見積もっても合計で五十五万ナールほどにしかならず、まったく釣り合いが取れていません。失礼ながらだいぶ損をしているように見受けられます」

 

 ルーク君それは承知の上なんですよ。私の真の目的はスロ四のグリーヴを手に入れることだったのです。

 まあ、それを言うわけにはいかないのだが。

 

 彼はそのまま話を続ける。

 

「私にお声掛けいただければ、五十六万ナール以上で買い取ることも可能でしたし、オークションへの代理出品をおまかせいただいた場合、確実に六十万ナール以上の値が付いたことでしょう」

 

 こいつ……。スキルの付いた装備品は自分に回せってか。

 あれだけ詰められたのに全然こたえてねーぞ。

 仲買人ってのは想像以上に度し難い人種のようだ。

 

 つか、五十六万ナールって、一万しか上がってないじゃないか。

 それに、アンドレアへ五十万とダマスカス鋼のグリーヴで売却してなければ、お前は絶対にそんな額を提示しなかったはずだ。

 しかも、五十六万で買い取っていくらで売るつもりなんだ? おん?

 

 ……まあ、そんなことを言っても角が立つので黙ってるけどさ。

 

「いや。今回に関しては行きがかり上、どうしてもアンドレアに融通しなければならなかったのでな。今後はルークに声を掛けることもあるだろう」

「そうでしたか。では、機会がありましたらよろしくお願いいたします」

 

 彼はそう言ってにこやかな笑みを浮かべ右手を差し出してくる。

 

 こいつ、ほんま……。

 

 

 

 今度こそ暇を告げて商人ギルドを後にした。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

探索者Lv39 英雄Lv34 魔法使いLv38

装備 硬革の靴 身代わりのミサンガ

 

BP振分 残BP:1

キャラクター再設定:1

サードジョブ:3

必要経験値二十分の一:63

詠唱省略:3

鑑定:1

ワープ:1

ジョブ設定:1

三十パーセント値引:63

 

所持金:1,543,793ナール

 

春の38日目

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