異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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133 魚、です

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 あの恐ろしい感覚の影響があったのか昨晩は二人を何度も求めてしまった。

 しかし、それを受け入れるだけでなく彼女たちの方も激しく求めてくれた。

 本当に俺は信じられないくらい幸せ者だ。

 

 身だしなみを整え大切なルーティーンを行ったところでいつものようにミーティングを開始する。

 

「昨日に引き続き今日も早朝から階層上げに挑もう」

「はい。望むところです」

 

 ロクサーヌが気力充実といった表情で返事をするとセリーも同じくキリッとした顔で頷いていた。

 

 それにしても階層はどのくらいまで上げることができるんだろうな?

 十四階層から十六階層にかけては弱点属性が同じだったため、効率的にダメージを与えることが可能でサクサク進むことができた。

 しかし、今日からは弱点属性が異なる魔物の混成部隊となる。

 おそらくダブルスペルを用いたとしても魔法の威力が足りなくなり、足踏みを強いられることになるだろう。

 

 もっとも、魔法が三発必要だったとしても他の者に比べればだいぶ恵まれているのだが……。

 

 

 

「それから、パン屋が開く時間になったら二人が朝食の支度をしている間に俺は鏡の納品に行ってくるよ」

「はい。朝食の用意は私たちにおまかせください」

 

 ロクサーヌの言葉に頷き話を続ける。

 

「しかし、公爵家には鏡を毎日一枚ずつ納品すると伝えているので明日の分がない。なので、朝食が済んだら今日はペルマスクを二往復しようと思う。一回目は自宅で使う二枚。そして、二回目は明日と明後日に納品する分だね」

 

 すると、セリーは眉間に皺を寄せて呟いた。

 

「デュランダルと毘盧帽があればこんな無茶が出来るのですね……」

 

 まあねぇ。この二つがなければ俺もこんなことをしようとは思わなかっただろうし。

 

「その後は迷宮探索を再開して、お昼になったら蜂蜜をかけたホットケーキを食べよう」

「とても楽しみです……」

「美味しいのでしょうね……」

 

 二人はうっとりとした笑みを浮かべてそう呟いた。

 

 めちゃめちゃ期待されているぞ。気合を入れなければ。

 

「夕方に迷宮探索を終えたら昨日できなかった魔法を用いた修行だね」

 

 昨日は二人が心配してあの後すぐに修行を打ち切ったからな。

 

 その言葉にロクサーヌが笑みを浮かべながら答える。

 

「遂にですね。本当に楽しみです」

 

 まったく。このバトルジャンキーさんめ。めちゃくちゃ可愛いじゃないのさ。

 

 それ以降は普段と変わらないのでパパっと予定を伝えて迷宮へ出勤だ。

 

 

 

 

 

クーラタルの迷宮

十七階層

 

 

 

 

 

「マーブリームの情報を頼む」

 

 迷宮へ移動しセリーへ尋ねると例によってメモを確認することもなくスパッと答える。

 

「はい。マーブリームは魚人の魔物で攻撃方法は体当たりと水魔法による遠距離攻撃です。そのため、距離があっても注意をしなければなりません。それから、弱点は土魔法で水属性に耐性を持ちます」

 

 うーん……。ビッチバタフライ、グラスビー、ハットバットへの対策として、遊び人のスキル設定は初級風魔法のままにしておくか。

 遭遇する魔物次第だが、ひとまずブリーズストームとサンドストームをセットで試してみよう。

 

 ……でも、次の階層からが問題なんだよなぁ。

 十八階層のピッグホッグは水魔法が弱点で土魔法に耐性があったはずで、マーブリームとはまるっきり反対になっている。

 うーん……。弱点を考えながら魔法を撃つのは面倒だ。

 しかし、今後はこれがデフォになるのだろう。一体どうすればいいのかねぇ。

 ミチオが雷魔法を多用していた気持ちがよく分かるわ。

 

 

 

 ……いかん、いかん。

 そんなことは十八階層に上がってから考えればいいことだ。

 まずは目の前の十七階層へ挑むとしよう。

 

 地図を確認してもらいロクサーヌの案内で歩き出す。

 

 

 

 彼女の鼻は今日も絶好調で無人の野を行くが如く歩を進めていたが、かなりの距離を移動したところで声が上がる。

 

「ご主人様! 敵です!」

 

 杖を構えながら通路の先に目を遣ると、ひらひらと舞う蝶にブーンという音を響かせている蜂。そして、細長い脚で立っている魚が三匹。

 

 手がないヌンサじゃん! こっわ! あいつら絶対『さあ、卵を産め』とか言うぞ。さっさと片付けなければ!

 

ブリーズストーム

サンドストーム

 

 二つの魔法を念じた途端、ゴウゴウと音を立て砂煙が奴らの体に纏わりつく。

 

 おお! 単発で放つよりこっちの方がサンドストームって名前にふさわしい! まるで砂かけばばあがガチったときみたいだ!

 

 

 

 そのまま様子をうかがっていると魔法のエフェクトと共に奴らの体も消えていった。

 

 よし。とりあえず十七階層は問題なく進めそうだな。

 

 彼女たちと喜びを分かち合い、通路に散らばっている蜜蝋とファンデーションをアイテムボックスへ放り込み、頭と尾が落とされている魚を手に取った。

 ポイントの都合で鑑定を付けていないが、間違いなく尾頭付きではないだろう。

 

「魚、です」

「はい?」

「何ですか?」

 

 思わずミリアの十八番が口から出てしまったせいで、二人が訝しげにこちらを見つめている。

 

 えーっと。別に何か意味がある言葉ではないんだけど……。

 

「いや。白身だなと思ってな」

 

 すると、セリーは納得したような表情で説明を行う。

 

「そうですね。尾頭付きはなかなか残らないと聞きます。手に入れるのは難しいでしょう」

 

 あっ。そうだ! 尾頭付きはレア食材だ!

 料理人のレア食材ドロップ率アップとドラウプニルのレアドロップ率二倍の効果が重複するのか試すことができる!

 しばらくしたらお魚大好きお嬢様が加わるからな。これは是非試しておかなければ。

 

「ロクサーヌ、セリー。実験を行うので少し待ってくれ」

「実験ですか?」

 

 不思議そうに尋ねたロクサーヌと、実験という言葉を聞いて目を輝かせているセリーへ説明を行う。

 

「以前に説明したと思うがドラウプニルにはレアドロップ率二倍のスキルが付いている」

「はい。それを使ってコボルトナイフを集めましたね」

 

 そのときのことを思い出したのかロクサーヌは微笑んで答えた。

 

「うむ。そして、料理人のジョブにはレア食材ドロップ率アップというスキ――」

「あ! そのスキルが重複するかもしれないということですか!」

 

 説明の途中でセリーから大きな声が上がり、瞳をキラキラさせながらこちらを見つめている。

 相変わらず好奇心旺盛な娘さんだわ。

 

「その通り。とりあえず十匹ほど狩って試してみよう」

「かしこまりました」

「一体どうなるのでしょう? 楽しみです!」

 

 そこの小っちゃくて可愛いお嬢さん。少し落ち着きたまえ。

 

 

 

 キャラクター再設定を開き詠唱省略を詠唱短縮に落として鑑定とジョブ設定をつける。

 料理人をつける以上、ダブルスペルは使用できないからな。詠唱短縮で十分だろう。

 

 ……遊び人レベル16の知力中上昇と魔法使いレベル38の知力小上昇ではどちらの方が有用なんだ?

 

 うーん……。とりあえず魔法使いにしておくか。レベルが倍以上違うしこっちの方が強いはず。

 それに、この場面で遊び人のスキル設定を初級風魔法から初級土魔法へ変えてクールタイムが発生するのは避けたい。

 

 サードジョブに魔法使い、フォースジョブに料理人を選択し、よりしろのイアリングを外してアイテムボックスへしまう。

 そして、獲得経験値二十倍とアクセサリー六を入れ替え、出現したドラウプニルを身に着けた。

 

 よし。準備完了。

 

 こいつには魔法攻撃力五倍というぶっ壊れスキルも付いている。おそらく、マーブリームだけなら一撃で片付くだろう。

 

「では、ロクサーヌ。マーブリームだけの場所へ案内してくれ。マーブリームだけの場所だぞ」

 

 大事なことなので二度言いましたよ。

 マジでフリじゃないからね?

 

「はい。お任せください」

 

 彼女は美しい笑みを浮かべて通路を歩き出した。

 

 

 

 程なくして魚人五匹の集団と遭遇する。

 

「サンドストーム」

 

 姿を確認し即座に魔法名を唱えたところ、先ほどとは比べ物にならない量の砂が奴らの体に纏わりつき次第に全身を覆っていく。

 

 うっわ。とんでもない威力だ。

 一発なのに間違いなく先ほどのブリーズストームとサンドストームのダブルスペルより強力だろう。さすがは魔法攻撃力五倍の効果。

 

 

 

 強力な魔法を受けた魔物は大量の砂と一緒に消えていく。

 

 おっ! さっきとは違うっぽい!

 

「鑑定」

 

白身

尾頭付き

白身

尾頭付き

尾頭付き

 

「すげー!」

 

 五個中三個! 三枚抜きだ! これはヤバい! 間違いなく効果は重複している!

 

 彼女たちはドロップアイテムを拾っている間も呆然とした様子でこちらを見つめていたが、アイテムボックスにしまったところでハッとしたように近づいてきた。

 そして、左右それぞれから俺の手を取りブンブン振って声を上げる。

 

「このようなことがおできになるなんて! さすがご主人様です!」

「すごいです! 尾頭付きが一度に三個も! とても信じられません!」

 

 ハハハ。フロイラインよ。少々はしたないぞ?

 

 

 

 確認のためもう一度マーブリームの場所へ案内してもらう。

 ロクサーヌは迷いなく進み、程なくして再び五匹の集団と鉢合わせた。

 

 サンドストームでサクッと片付け、床に転がっているドロップアイテムを確認する。

 

白身

白身

白身

白身

白身

 

 あれー!? これはどういうことだ!?

 さっきのは上振れしていただけなのか? それとも今回が下振れしたのか?

 

 ……しゃーない。もう少し続けよう。

 

 

 

 

 

 結局、二十匹のマーブリームを倒して尾頭付きは七個。

 サンプル数が少ないため確実とは言い切れないが、レア食材ドロップ率アップとレアドロップ率二倍の効果は重複すると考えてよさそうだ。

 

「有意義な実験だったな。では、今回はここまでにして探索に戻ろう」

 

 探索の再開を告げるとロクサーヌが頷きながら答えた。

 

「本当にすごい結果でしたね」

 

 そして、驚いた表情でセリーも口を開く。

 

「尾頭付きが残るのは極めて稀という話なのに、こんな短時間で七個も残るなんて驚きです」

 

 まあなぁ。これがあればレア食材をいくらでも集めることが可能だ。今後、我が家の食卓は豊かになるだろう。

 

 ボーナスポイントを振り分け、ロクサーヌの案内で歩き出す。

 

 

 

 

 

クーラタルの迷宮十七階層

ボス待機部屋

 

 

 

 

 

 少しでも早く上の階層に行きたいのか、彼女は魔物との遭遇を最小限に抑えているようだ。

 数回の戦闘を経た後にボス部屋へたどり着いた。

 ボーナスポイントを対ボス用へ振り分けていると英雄と遊び人のレベルが上がっていることに気が付く。

 普段に比べると数は少ないが十七階層の魔物を四百倍で倒しているからな。

 しかも、英雄と遊び人なので魔法の威力が上がるのもありがたい。

 

 

 

 ボーナスポイントの振り分けを終えボスについてセリーへ尋ねる。

 

「十七階層のボスはブラックダイヤツナです。攻撃方法はマーブリームとほとんど変わらず体当たりと水魔法なのですが、ものすごい速さで空を泳いで突撃してくる上に体も大きいため、まともに食らうと大きなダメージを受けてしまいます。そして、残すアイテムは赤身で極稀にトロという高級食材を残すようです」

 

 トロかぁ。刺身はやめといた方がいいよなぁ。

 まあ、醬油もワサビもないんだ。諦めはつく。

 

 それにしても、空を飛ぶ巨大なマグロ……。正直あんまり想像がつかないがオーバーホエルミングを切らさず立ち回るってことで。

 

 二人と最終確認を行いボス部屋へ続く扉に向かい足を進めた。

 

 

 

 

 

クーラタルの迷宮十七階層

ボス部屋

 

 

 

 

 

 ボス部屋へ飛び込みいつものようにミッションをスタートする。

 程なくしてフロア中央に集まった煙の中から巨大な魚と魚人が姿を現した。

 

 でっか! 体長は間違いなく一メートルを超えておりとんでもない質量だ。

 そんなものが空中を泳いで突撃してくるなんてヤバすぎるだろ。

 

オーバーホエルミング

 

 世界がスローモーションになったところでマーブリームに駆け寄り、ラッシュとスラッシュを乗せたデュランダルの一振りで斬り捨てる。

 そして、ターゲットをブラックダイヤツナに変え、ダブルアタックを連発した。

 

 しかし、さすがは十七階層のボス。ボーナスタイムの間では仕留めきれず離脱を許してしまう。

 奴は俺たちの下を離れるとフロアを高速でぐるりと回り、ロクサーヌ目掛けて突撃を開始する。

 

オーバーホエルミング

 

 やらせるかっての!

 

 彼女へ向かってゆっくりと進む奴の土手っ腹にダブルアタックを叩き込み、そのまま攻撃を繰り返した。

 やがて、ブラックダイヤツナの体が実体を失い時の流れが元の速さを取り戻す。

 

 

 

 よし。オーバーホエルミング一回とはいかなかったが完封勝利だ。

 

「十七階層のボスに対しこれほど余裕を残したまま勝利するなんて、さすがご主人様です。これならまだまだ先へ進んでも問題ありませんね」

 

 こやつ、止めなければ階層をどこまで上げていくつもりなんだ……。ロクサーヌさんや。いつも言っているように安全第一ですぞ。

 すると、セリーもロクサーヌの言葉に続く。

 

「そうです。ご主人様の強さと現在の階層は釣り合いが取れていません。普通に考えたならもっと上の階層へ挑むべきです」

 

 その普通はこの世界の普通であって、俺の普通ではないんだよなぁ。

 

「うむ。自分たちの実力を確認しつつ、安全に気を配りながら一歩一歩先を目指していこう」

 

 地に足のついた素晴らしい言葉を聞いたはずなのに彼女たちはふくれっ面を作る。

 

 なんだ。そのあざと可愛い顔は。頬っぺたをツンツンしたくなるじゃないか。

 

 安全確保の重要性を説き、今後も無理のない範囲で階層上げを続けるという妥協案に彼女たちが納得してくれたところで、ブラックダイヤツナのドロップアイテムである赤身を拾い十八階層へ進むことにした。

 

「ご主人様。そろそろパン屋が開く時間です」

 

 んー。じゃあ早朝の探索はここまでだな。

 十八階層まで進んだらMP回復を行い町へ戻ろう。

 

 ボーナスポイントの振り分けを済ませ、次の階層へと続くゲートに身を埋めていく。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

探索者Lv39 英雄Lv35 魔法使いLv38

装備 身代わりの硬革帽子 頑強の竜革鎧 倹約の硬革グローブ 竜革の靴 よりしろのイアリング

 

BP振分 残BP:63

キャラクター再設定:1

サードジョブ:3

必要経験値二十分の一:63

詠唱省略:3

ジョブ設定:1

ワープ:1

鑑定:1

結晶化促進二倍:1

 

所持金:1,567,686ナール

 

春の39日目




いつも拙作をお読みいただき本当にありがとうございます。

今年も更新を続けられたのは、お読みいただいた皆様と素晴らしい作品を生み出した原作者様のおかげです。
また、UA、お気に入り、感想、評価、ここすきといった反応が本当にモチベーションになっています。

そこで、今回から年末年始にかけて連続更新を行いたいと思います。
お楽しみいただければ幸いです。
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