異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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134 足踏み

 

 

 

 

 

ボーデ

宮城

 

 

 

 

 

 買い物をしてから自宅へ戻り、鏡を回収したらそのままハルツ公の居城へ飛ぶ。

 ワープゲートから抜け出すと既に話が通っているのだろう。その場にいた騎士に公爵の執務室へ向かうよう告げられた。

 

 鏡を持っているため無理な体勢でノックを行うと、扉が開きゴスラーが姿を現す。

 

「アユム殿、お待ちしておりました」

 

 彼に促され中へ入り、ローテーブルに鏡を置いてソファーへ腰を下ろすとハルツ公が話し掛けてくる。

 

「昨晩、余の妻が鏡の確認をしたのだがペルマスクの鏡で間違いないと申しておった」

「はい。確認が取れましたので値段の方を詰めたいのですが」

 

 値段ねぇ。

 ミチオはカシアの色香に惑って金貨一枚としていたが、この場に彼女はいないため格好つける必要はない。

 依頼を受けたときに一万五千ナールまでと言われていたし、ここは上限いっぱいから交渉開始だ。

 

「そうですね……。仕入にコストもかかっていますので一枚あたり一万五千ナールではいかがでしょうか?」

 

 すると、彼らは顔を見合わせ頷き合っている。

 

「実は帝都で売られている鏡の価格を確認してみたのですが、それに比べるとだいぶ安いですね。アユム殿、ありがとうございます。では、それで購入させていただきたく」

 

 あれっ!? これもっといけたか!?

 

 ……駄目だ。帝都で売っている物は派手な装飾が施され値段が盛られている。変に欲をかいてもろくなことにならない。一万五千で十分だ。

 

「お取引いただき誠にありがとうございます」

 

 すると、公爵はニヤリと笑い口を開く。

 

「やはりアユム殿は見どころがある。これからもよろしく頼む」

 

 やばっ! 試されてたのか! あっぶねー!

 ぼったくってたら不味いことになっていたかもしれない。

 いや、逆に強かだと感心されていたのか?

 どっちが正解なんだかさっぱり分からん……。

 

 公爵閣下。私のような小物を試すなど感心いたしませぬ。

 

 

 

 金貨三枚を受け取り感謝を告げてボーデの宮城を後にする。

 

 ……今日もカシアを拝めなかったなぁ。

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 自宅へ戻り朝食と食休みを済ませたところで、ザビルの迷宮を経由しつつペルマスクを二往復して自分たちで使用する鏡を二枚、それから公爵家へ卸す分の二枚を受け取った。

 彼女たちの部屋とバスルームへ設置したところ、二人はいたく気に入ったようで鏡を見ながら大はしゃぎだ。

 本当に買ってよかった。

 

 よし。それじゃあ装備を整えたら迷宮探索を再開といこう。

 

 

 

 

 

クーラタルの迷宮

十八階層

 

 

 

 

 

「セリー、十八階層から出現するピッグホッグについて教えてくれ」

「はい。ピッグホッグは姿も大きさも子豚のような魔物で、攻撃方法は頭突きと土魔法を使用してきます。土属性に耐性を持ち弱点は水属性のためマーブリームとはまるっきり反対になっています。魔法を使用する際は注意が必要でしょう」

 

 注意が必要といってもどうすればいいんだろうなぁ。

 サンドストームとウォーターストームの組み合わせにするべきか、それとも弱点ではないが耐性もないファイヤーストームかブリーズストームを使うべきか……。

 

「ご主人様が魔法を放つ時間は私が作り出しますので問題ありません」

 

 悩んでいるとロクサーヌが笑顔で宣言した。

 

 この絶対的な安心感よ。すげー頼もしいわ。

 

 うん。彼女の言う通りだ。ここでグダグダ悩んでもしょうがない。両方試してみよう。

 とりあえず、遊び人に初級風魔法をセットしているのでブリーズストームとファイヤーストームの組み合わせからだな。

 

「ロクサーヌ、ありがとう。頼りにしてるぞ」

「はい! おまかせください!」

 

 満面の笑みが本当に可愛いわぁ。

 

 

 

「それから、ピッグホッグの残すアイテムは豚バラ肉です」

 

 白身や尾頭付き、赤身なんかもそうだが、食材系のアイテムは売らずに取っておこう。

 アイテムボックスにそれぞれ一スタック分を常に確保しておき、収まらなかった分を売却に回すってことで。

 

 ただしコウモリの肉、テメーはダメだ。

 

 申し訳ないがあれはハードルが高すぎる。

 

 セリーに感謝を伝え、ロクサーヌに地図を確認してもらい、いつものように案内してもらう。

 

 

 

 少しでも早く上に進みたいのか、彼女は念入りに魔物を避けているようでなかなか遭遇しなかったが、三十分ほど経過したところで声が上がった。

 

「ご主人様! 敵が来ます!」

 

 ベルトに差していた杖を抜き通路の先を見つめていると、子豚三匹と魚人二匹の混成部隊が姿を現す。

 

 えー……。さっそく弱点と耐性が逆の組み合わせかよ。

 

ブリーズストーム

ファイヤーストーム

 

 内心でぼやきながら念じたところ、炎を伴った風の渦が発生した。

 

 ヤバっ! まるで火炎旋風だ!

 

 そして、それはゴウゴウと音を立て魔物の体を舐めるように纏わりつく。

 その間もロクサーヌは怯むことなく攻撃を入れており、セリーは俺の前に立ち槍を構えている。

 

 

 

 程なくして風と炎が収まるが魔物の姿は健在で、戒めから解き放たれたように一斉にロクサーヌへ襲い掛かった。

 だが、そこは回避の鬼であるロクサーヌ。囲まれながらも華麗な体捌きに加えエストックと盾を駆使しながら攻撃をいなす。

 しかし、さすがに全ての魔物のヘイトを取ることは出来ず、二匹のピッグホッグがターゲットを変え、こちらに向かって突進してきた。

 

 俺を護るためセリーも何とか応戦するがやはり同時に二匹の相手は厳しく、一匹は彼女の脇を駆け抜けこちらへ突っ込んでくる。

 

「ぐっ」

 

 太ももに頭突きを食らい思わず声が漏れてしまう。

 

 くっそ! リキャストタイムはまだ終わらないのか!

 

 スタッフで奴のど頭を殴りつけようとしたが、体高が低く叶わなかったため思いっきり顔を蹴りあげてやった。

 

 こっちとら毎日ステゴロやってんだよ! 舐めんじゃねー!

 

 ピッグホッグが体勢を立て直すべく後ろに下がったタイミングでリキャストタイムが明ける。

 

ブリーズストーム

ファイヤーストーム

 

 魔法名を念じると再び発生した火炎旋風が魔物達を飲み込む。

 そして、それが収まると今度は魔物の体も一緒に空気へ溶けるように消えていった。

 

 

 

「ご主人様、申し訳ありません。魔物を引き付けることができませんでした」

「私が抑えることができなかったせいでご主人様が攻撃を受けてしまいました。本当に申し訳ありません」

 

 戦闘が終わると彼女たちは俺のところへきて謝罪の言葉を口にする。

 

「これは二人のせいじゃないから謝る必要はない。今までが順調すぎただけで迷宮探索を行うなら当然起こりうることだろう。それに、普段の修行に比べれば全然ダメージはないし動きにも影響はない」

 

 ロクサーヌ師匠はスパルタですから。スパルタンXですから。

 

「ありがとうございます。それでは、今後は連続魔法で倒れる魔物を狙うのではなく、どんどん階層を上げて歯ごたえのある魔物との戦闘を行うのですね」

 

 すると、ロクサーヌが輝くような笑みを浮かべ、とんでもないことを口にする。

 

「いや、そういう意味ではない。先ほどの言葉はあくまでも迷宮探索に挑む心構えを述べただけであり、方針を転換するということではない。三人パーティーな上に俺は迷宮探索を始めたばかりのド素人。それは時期尚早だ」

 

 俺の言葉を聞いた彼女は頬をプクッと膨らませた。

 

 また、そんなあざとかわいい顔をして。

 あまりの愛らしさに我慢ができず、グローブを外して頬を突いて空気を吐き出させてやるとロクサーヌは驚きの表情を浮かべる。

 

「迷宮探索に慣れパーティーメンバーも増えたときには、無理なく戦える範囲で階層を上げることになるだろう。もう少しだけそれを待ってくれないか?」

 

 気持ちを伝えたところ彼女は表情を驚きから笑みに変える。

 

「ふふ。本当に心配性で悪戯好きな困ったご主人様ですね。分かりました。今は我慢をします」

 

 我慢をしますって言いおったぞ……。

 それに、前にも同じようなこと言って納得したはずなのになぁ。

 きっかけがあるとすぐに先へ進もうと持ち掛けてくる。本当に困ったロクサーヌだ。

 

 

 

 ん? なんだ?

 俺たちの間にはほのぼのとした空気が流れていたが横から猛烈な視線を感じる。

 そちらを向くと呆れたような、それでいて少し拗ねているような目でこちらを見つめているセリーが……。

 

 やきもちを焼いてくれているのが本当に嬉しいよなぁ。

 

 彼女の頬に手を添えて話しかけた。

 

「セリーにも迷惑をかけるが、俺が迷宮探索に慣れるまでしばらく待ってもらえないか?」

 

 彼女は頬が朱に染まり落ち着きを欠いた様子で口を開く。

 

「え、あ、はい。大丈夫です。問題ありません」

 

 おそらくセリーがあんな表情をしていたのは迷宮探索についてではないのだろう。

 だが、それは言わぬが花というやつだ。

 

 

 

 豚バラ肉と白身をアイテムボックスに放り込み、遊び人のスキルを初級水魔法に変更して再び先を目指す。

 そして、出会ったピッグホッグとマーブリームの群れにウォーターストームとサンドストームを叩き込むと、こちらも魔法二発で倒すことは出来なかった。

 

 今のところ十八階層の魔物に対してはダブルスペルを用いたとしてもワンターンキルは無理か。

 もしかしたら、魔物を一種類だけにして弱点を突けばそれも可能かもしれないが、それだけを選んで戦い続けるなんて不可能だし狩りの効率も落ちる。

 

 探索者のレベルを上げればポイントが増え有効な手段を取れるようになるかもしれない。

 それに、英雄、遊び人、魔法使いのレベルアップに伴い魔法の威力は上がっていく。そうなれば火力によるゴリ押しも可能だろう。

 

「ロクサーヌ、セリー。十八階層は連続魔法ですぐに撃破とはいかないようだ。しばらくは十七階層で経験を積むことにしよう」

「残念ですがしばらくの我慢ですね」

 

 しばらくの我慢って……。

 

「そうですね。仕方がありません」

 

 仕方がありませんって……。この娘たちの言い方よ……。

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 それから数日間は朝に鏡の納品を行い、それ以外はクーラタルの迷宮十七階層に籠りひたすら魔物を倒し続けた。

 マーブリームの乱獲を行ったことで、アイテムボックスの枠が一つずつ白身と尾頭付きで埋まっている。

 そして、まだ見ぬメンバーのためにブラックダイヤツナも何匹か狩ってみたのだが、こちらはトロを手に入れることが出来なかった。

 おそらく尾頭付きよりドロップ率が低いのだろう。

 ボーナスポイントに余裕ができ、魚好きな娘が加入したら挑んでみるのもいいかもしれない。

 

 

 

 

 

 いつものように朝の支度を済ませミーティングを行う。

 

「早朝の探索を終えたら鏡の納品と、昨日落札の連絡があったスキル結晶を受け取ってくる」

 

 それを聞いたロクサーヌから大きな声が上がる。

 

「カエルのスキル結晶ですね! 跳躍力がどのくらい上がるのか楽しみです!」

 

 ロクサーヌさんや。嬉しいのは分かるけど君の防具には空きスロットの余裕がないので、今は融合するわけにいかないんですが……。

 

 それを伝えると彼女はしょげてしまった。

 スロットはダマスカス鋼の盾、ダマスカス鋼の額金、竜革のジャケットにそれぞれ一つしかない。今回は諦めてもらおう。

 

 俺たちのやり取りを見ていたセリーが口を開く。

 

「カエルに加えてコボルト、芋虫、蝶、トロールのスキル結晶ですね」

「うん。どれもすぐに融合する必要はないので今回落札分は保管しておこう」

 

 二人が納得したように頷くのを確認し話を続ける。

 

「その後だけど、今日はベイルの市が立つ日なので給金を渡してからクーラタル、ベイル、帝都の順番で武器屋と防具屋を回る。鏡の受け取りについては一日おきだから今日はなしだね」

 

 食後の予定を告げるとセリーが躊躇いながら発言をした。

 

「あの……。ご主人様……。明日の鏡の受け取りについてお願いしたいことがあるのですが……」

 

 ん? お願いしたいこと?

 

「大丈夫だよ。どうしたの?」

 

 尋ねてみると彼女はホッとしたように表情になり話し出した。

 

「昨日、鏡を受け取りに行った際に奥さんからネックレスはまだかと言われてしまいまして……。随分楽しみにしているようなのです。コハク商のところでネックレスを仕入れていただけませんか?」

 

 昨日の時点ではネックレスの営業をかけてから三日しか経っていなかったのに随分せっかちな人だなぁ。

 

「問題ないよ。それじゃあ、まずはコハク商のところから回ってみよう」

「ありがとうございます」

 

 俺の言葉に彼女は笑みを浮かべて頭を下げた。

 ロクサーヌもこちらを見ながら楽しげに口を開く。

 

「ペルマスクではめったに手に入らないので楽しみだと言っていました。なんでもお友達に自慢するのだそうです」

 

 是非自慢して下さいな。そして、原作と同じように仲介をしてくれるとありがたい。

 

「なら良い物を選ばないとね」

「おまかせください! 良い物を安く仕入れてみせます!」

 

 おお。セリーの気合は十分だ。きっと鬼のように値切ってくれるだろう。

 

 

 

「その後は帝都の服屋で注文していた二人の下着とセリーのエプロンを受け取ろう」

「ありがとうございます。着け心地のいい肌着が増えるのは本当に助かります」

 

 ロクサーヌの嬉しそうな言葉にセリーも続く。

 

「今日から私もロクサーヌさんが絶賛している肌着を身に着けることが出来るのですね」

「ふふ。セリー、楽しみにしていてください」

「はい。今から期待してしまいます」

 

 女の子が下着のことでキャッキャウフフと笑い合っているのは、何というか尊いものがあるぞ。

 それに、今日は帝都の高級服屋でドレスを仕立てる予定だ。喜んでもらえるといいなぁ……。

 

 

 

 思索を打ち切りその後の予定を確認する。

 

「二人の買い物はどうしよう? 寄りたいところはある?」

 

 問いかけると彼女たちは顔を見合わせた。

 

 

 

 少しだけ言葉を交わしロクサーヌが返事をする。

 

「ご主人様、私もセリーも今日は帝都の服屋を確認するだけで結構です。お気遣いいただきありがとうございます」

 

 貯金でもしたいのかな?

 まあ、無理に店を回る必要もないし全然問題ない。

 

 その後の流れはいつもと同じなのでササっと確認をして早朝の探索だ。

 

 よし。それじゃあ、出発おしんこー。きゅうりのぬか漬けー。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

探索者Lv42 英雄Lv37 遊び人Lv27 魔法使いLv41

装備 ひもろぎのスタッフ ダマスカス鋼の盾 身代わりの硬革帽子 頑強の竜革鎧 倹約の硬革グローブ 竜革の靴 よりしろのイアリング

 

BP振分 残BP:30

キャラクター再設定:1

フォースジョブ:7

必要経験値二十分の一:63

詠唱省略:3

ワープ:1

鑑定:1

結晶化促進四倍:3

獲得経験値十倍:31

 

所持金:1,628,852ナール

 

春の42日目

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