異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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141 鬼

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 彼女たちに腕を抱えられたままだがこのまま話を続けることにする。

 

 ……それにしても、前にもこんなことがあった気がするんだけど君たちこれが好きだねぇ。

 

「どこまで話したかな。えーっと、ああ。そうだそうだ。公爵夫人に確認してもらったところで報酬をいただけることになったんだ」

「公爵からの報酬ですか!」

 

 セリーから大きな声が上がり、その目は爛々と輝いている。

 

 うわー。めちゃくちゃ期待しちゃってるよ。

 でも、その期待を軽く超えるだろうけどな。

 

「うん。宮城にある武器庫から装備品を自由に選んで持っていっていいとの許可をいただいた。タルエムの宝石入れの権利で二つ。そして、コハクのネックレスの分で一つ。合計三つ分だね」

「えー!」

「そのような報酬を!? 信じられません!」

 

 報酬を告げた途端、二人から驚きの声が上がる。

 

 ふふん。そうだろそうだろ。

 でも、まだまだここからだぞ。

 

「それで、武器庫へ案内されて装備品を選ぶことになったんだけど、二人も知っての通り俺にはアレがある」

 

 意識してニヤリと笑うと彼女たちも悪い笑みを浮かべた。あら、可愛らしい。

 

「鑑定ですね。さすがご主人様です」

「スキルスロットの有無を判別できる人は他にいませんからね。ハルツ公爵家も貴重な装備品を持っていかれたとは思わないでしょう」

 

 まあねぇ。彼らにしても残り物で済ませたという感覚なのだろうし誰も損をしていない。

 

 抱きしめられていた腕を離してもらい報酬を確認してもらうことにする。

 

「それじゃあ、まずはこれだ」

 

 アイテムボックスからミセリコルデを取り出しローテーブルの上に置くと、それを見たセリーから大きな声が上がった。

 

「これはミセリコルデですか!? とても高性能な片手剣ですよ!」

 

 知っているのか雷電!?

 

「製造するにはミスリルが必要だったはずです。こんな貴重な装備品を手に入れるなんて本当にすごいです!」

 

 ミスリル! マジか! 以前にもミスリルスレッドという言葉を聞いたが本当にあるんだな。

 

「片手剣なのですね……」

 

 そして、物欲しそうな顔でこちらを見つめるお嬢様が……。

 

「もちろんこれはロクサーヌに使ってもらおうと思っている。スロットが四つ付いているから長く使えるはずだ」

 

 そう言った瞬間、頬に温かく柔らかな感触を覚えた。

 

「ありがとうございます! これを使ってご主人様のことをお守りいたします!」

 

 チューされた! ロクサーヌにチューされたよ! 超嬉しい!

 

 ん? あっ。

 

 

 

 はしゃいでいる彼女とジトッとした目でこちらを見つめているセリーをなだめて話を続ける。

 

「とりあえず扱えるかを確認してみよう。ロクサーヌ、それを持ってみて」

 

 ローテーブルに載っているミセリコルデを右手で持ち上げたものの、かなりの重量が掛かっているのか腕がプルプルと震えていた。

 

「申し訳ありません……。修練が足りていないようです……」

 

 彼女は剣を置き悔しそうに呟く。

 

「大丈夫。ロクサーヌならそのうち絶対に扱えるようになるから」

「そうです。ロクサーヌさんならきっとすぐに使いこなせるようになるでしょう」

 

 二人がかりで慰めると彼女の顔に笑みが戻る。

 

「ありがとうございます。これを使いこなせるように迷宮で鍛えなければいけませんね」

 

 あ。変なスイッチを押したかもしれん。

 しばらくは二十階層だよ? 分かってるよね?

 

 

 

 念のためセリーにも試してもらったがやはり彼女も扱うことができず、片手で持つことすら不可能だった。

 今のレベルはロクサーヌの戦士が21でセリーの鍛冶師は17。

 腕力のパラメーターは現時点で既にセリーの方が上回っているだろう。それなのに、彼女は片手で持ち上げることができなかった。

 このことから推察するに装備品の制限は、単純な腕力のパラメーターによるものではないということだ。

 もしかしたら、種族やジョブ、それにレベルや各種パラメーターといった複合的な要因か、あるいはそれらを用いた何らかの計算が行われているのかもしれない。

 

 

 

 ミセリコルデは物置送りとなったがロクサーヌは毎日試すと鼻息荒く宣言していた。

 なんかこの娘さんならすぐにでも扱えるようになる気がするなぁ……。

 

 さて、報酬の確認を続けよう。

 

 アイテムボックスから今度はオリハルコンの剣を取り出しローテーブルの上に置く。

 

「オリハルコンの剣ではないですか! ハルツ公爵家はこのような物まで渡したのですか!?」

 

 またまた、セリーから驚きの声が上がる。

 すると、ロクサーヌがドヤ顔で口を開いた。

 

「ご主人様のことを見込んでいるからでしょう。さすがに公爵ともなれば物の道理を知っていますね」

 

 こら。そんなことを思っても表で言っては駄目だぞ?

 

「なんでも貴重な武器なので機会があるたびに入手しているみたいなんだけど、扱える人が少ないため武器庫で死蔵されているらしい。それで、俺が持っていっても問題なかったようだね」

「なるほど。そういうことですか。オリハルコンの剣ともなれば使いこなせる人はそうそういないでしょうからね」

 

 俺の説明を聞いてセリーは納得したように頷いている。

 

「そして、これにはスロットが三つ付いており、今後加入する予定のベスタに使ってもらおうと思っている」

「そうですね。両手剣なら竜人族である彼女が相応しいでしょう」

「確かにセリーの言う通りですが、ダマスカス鋼のプレートメイルにダマスカス鋼のガントレット。それから、オラクルダマスカス鋼グリーヴに今度はオリハルコンの剣ですか……。ベスタの装備品だけ飛び抜けている気がします……」

 

 そんな顔で見んとって。俺のせいじゃないんよ……。

 それに、ミセリコルデを渡したでしょ?  それで、ごめんして?

 

「たまたま巡り合わせがそうなっただけで、ロクサーヌとセリーの装備品も充実させていくつもりだからね」

「はい。でも、装備品はご主人様の物から優先してください」

 

 その言葉を聞いたロクサーヌは真剣な表情で俺の身を案じてくれた。

 可愛い嫉妬もするけど基本的に優しい娘さんなんだよなぁ。

 そして、セリーもそれに続く。

 

「そうです。ご主人様のお体が一番大切なのですから当然のことです」

 

 ほんと、いい娘たちだわ。

 

 

 

 ほっこりした雰囲気に包まれたままアイテムボックスからもう一本のオリハルコンの剣を取り出し隣に置く。

 

「えっ!?」

「オリハルコンの剣がもう一本!?」

 

 彼女たちは驚いた様子でキョロキョロとそれぞれを交互に確認している。

 

「そう。他にめぼしいものがなかったから同じものを選んできたよ」

「せっかくの機会だったのに残念ですね……」

 

 ロクサーヌはガッカリしたような表情でそう呟く。

 一方セリーは冷たい目で俺を見つめていた。

 

 え? なんで? なんでそんな目で見るの!?

 

「竜騎士には二刀流のスキルがありますからね。また、ベスタの装備品を強化したのですね」

 

 それを聞いたロクサーヌも頬を膨らませ不機嫌そうな表情でこちらに視線を向ける。

 

 いやいやいや! 違う違う!

 

「そうじゃないから! これにはスキルスロットが五つ付いていて俺が使うつもりだから!」

「ご主人様が使うのですか?」

「デュランダルの方が高性能だと思いますよ?」

 

 すると、困惑したような様子で問いかけてきた。

 

 彼女たちの中で俺が使うということに対する疑問の方が大きかったためか、スロットが五つも付いているという重大な情報が霞んでしまっている。

 

 とりあえずハルツ公の居城で考えていたことを相談してみよう。

 

 

 

「なるほど……。それは良い考えかもしれません」

 

 計画を聞いたセリーは少し考え賛成してくれる。

 

 一応デメリットも伝えておかないとな。

 

「ただ、デュランダルに比べて大幅に威力が落ちるため、ボス戦が長引いてしまいパーティーの安全が疎かになってしまうかもしれない」

 

 俺の言葉にロクサーヌは表情を引き締めて口を開いた。

 

「今までのボス戦にかかっている時間が短すぎるのです。多少延びたところでたいした問題はありません。どんなことがあろうともご主人様のことは私がお守りいたしますので、どうかご安心ください」

 

 確かに彼女の言う通りだ。現在のボス戦はオーバーホエルミング二回分の時間で片付いている。

 たとえこれが倍になったとしてもそれほど問題にはならないだろう。

 あとはMP吸収でどのくらい回復できるかによるな。

 現在、デュランダルを用いたボス戦ではオーバーホエルミングとダブルアタックの連発をしてもMPは黒字になっている。

 これは、武器攻撃力の高さと攻撃力五倍、それから防御力無視のおかげで与ダメが大きくそれに比例して吸収量も多いからだろう。

 一方、簡易版デュランダルではとてもそんな吸収量にはならないため、ジリジリとMPが減っていくはずだ。

 時間が掛かり過ぎてしまえば疲労回復薬の出番が訪れてしまう。

 

 ……あれこれ悩んでもしょうがない。これが可能なら素材集めが捗るしワンチャンスキル結晶のドロップも狙えるかもしれない。竜のスキル結晶が手に入ったら一度試してみよう。

 まあ、使えなかったとしても、最悪ベスタへお下がりに出せばいいしな。

 ……彼女たちに不満を抱かせてしまうかもしれないが。

 

「ロクサーヌ、ありがとう。頼りにしてるよ。それじゃあ準備が整ったら試してみよう」

「はい! 私にお任せください!」

 

 彼女は輝くような笑みを浮かべ俺の腕をぎゅっと抱きしめた。

 本当に可愛い娘だなぁ。

 

「レアドロップ率が二倍になるのですよね! いずれダマスカス鋼や竜革だってバンバン入手できますね!」

 

 セリーは瞳をキラキラさせながらニンマリ笑っている。

 めちゃくちゃ嬉しそうにしてるぞ。鍛冶師としてモチベーションが高まっているのだろうか?

 まあ、やる気があるのは良いことだ。

 

 

 

「他にもプレートアーマーや竜燐の靴といった物もあったんだけど、これらに比べるとどうしてもね」

「そうですね。良い装備品なのですがこの二つに比べると見劣りします」

 

 セリーは俺の言葉に頷きながら同意する。

 

「ちなみにプレートアーマーとダマスカス鋼のプレートメイルでは、どちらが高性能なの?」

「プレートアーマーですね。ですが、オリハルコンの剣を諦めるほどではありません。竜燐の靴もそうです」

 

 まあ、そりゃそうだ。

 

 

 

 後は何かあったかなぁ……。

 

 ああ。そうだそうだ。ラブシュラブから板を入手したんだ。これについて確認しておかないと。

 

「セリー、早朝の探索で板を手に入れたけど、これで作れる装備品はどんなのがあるの?」

「板を使った装備品ですか? そうですね……。武器だとワンドやウッドステッキといった杖。それから、槌である棍棒です」

 

 へー。ワンドも板で製造可能なのか。

 

「防具だと木の盾や木の帽子、それから木の靴に木の鎧などですね」

 

 うーん……。探索に役立ちそうなものはないな。

 それ以上の装備品を身に着けているし。それに、売却額も低そうだ。

 

 すると、ロクサーヌが戸惑ったように声を漏らす。

 

「少し前までは皮の装備品でも十分だと思っていたはずなのに、木の装備品と聞いてイマイチだと思ってしまいました……。私はいつの間にか贅沢になっていたようです」

「私も同じです。この待遇が当然だと思うことがないようにしなければいけません」

「そうですね。セリーの言う通りです。ご主人様への感謝の気持ちを忘れないようにしなければいけません」

 

 二人は顔を見合わせ頷き合っている。

 

 この娘たちが木の装備品をしょぼいと思うのも無理はない。

 なにせ、装備しているのは武器がエストックとダマスカス鋼の槍で、防具はセリーの硬革のジャケットの他はダマスカス鋼製か竜革製だ。おまけに身代わりのミサンガまで完備ときた。

 そりゃあ感覚も狂いますわ。

 

 でもまあ、安全には代えられない。これからも装備品には金をかけよう。

 

 

 

 彼女たちが落ち着いたところでセリーに告げる。

 

「何を作るかは君の判断に任せるから、MPに余裕があるときは売却する物を製造してみて」

「かしこまりました。同じものを大量に売却すると買い叩かれてしまう可能性があるので、売却額が高い物をいくつか選んで偏りがないように製造することにします」

 

 それじゃあ、そろそろペルマスクへ行く用意をするか。

 

「あ。そういえば!」

 

 二人へ声を掛けようとしたところで先にセリーが口を開く。

 

「ご主人様、板で作れる物が他にもありました。仲間が眠り攻撃を受けたときに目を覚まさせる警策という装備品です」

 

 ああ。確かにそれがあったわ。

 戦闘中に眠ってしまい魔物の攻撃をかわせず大ダメージを受けてしまえば、全滅の可能性だってなくはない。

 今のうちに作っておき、常にアイテムボックスへ入れておいた方がいいだろう。

 

「セリー、警策は今のうちに用意しておきたいんだけどMPは大丈夫?」

 

 問いかけたところ彼女は一つ頷いて答える。

 

「戻ってから製造を行っていないので問題ありません」

 

 オッケー。それじゃあ物置へ移動して作ってもらうとしよう。

 

 

 

 頭装備六にポイントを振り毘盧帽をセリーへ渡し、それをかぶると慣れた様子で詠唱を行う。

 

「今ぞ来ませる御心の、言祝ぐ蔭の天地の、武器製造」

 

 へー。やっぱり武器なんだな。

 

 彼女の手のひらから発せられていた光が収まったところで鑑定をかけてみる。

 

警策 杖

 

 杖!? これ杖だったのか!?

 

「これを装備すると魔法の威力が上がったりする?」

「え? 警策で魔法の威力が? そんな話は聞いたことがありません。それに、これで攻撃をしてもほとんどダメージを与えることは出来ません。おそらく、魔法についても同じだと思います」

 

 なるほど。そういえばそうか。もしかしたら与ダメージに何らかのマイナス補正が掛かった武器なのかもしれない。

 

 ん? あ! ダメージを与えられないなら、警策を使って修行をするのはどうだろう! お互いに思う存分攻撃が出来るんじゃないか!

 これはものすごいグッドアイデアだぞ!

 

「ロクサーヌ、セリー。良いことを思いついた。今日の修行から木剣ではなく警策を使おう。そうしたら安全に戦闘訓練が出来るはずだ」

 

 俺の妙案を聞いたロクサーヌはこちらへ鋭い視線を向ける。

 

「いけません。そのようなことをすれば戦闘の緊張感がなくなってしまいます。それに、人の体は痛みがなければ最適な動作を学ぶことができません」

 

 あ、はい。

 

「ご主人様もセリーもまだまだ痛みを伴いながら体の動きを学ぶ段階です。楽をしようとしてはいけません」

 

 とんでもないことを言われてるんだが……。

 

 セリーの方を見ると口をポカンと開きロクサーヌを見つめていた。

 

 分かる。君の気持ちはよーく分かる。

 今、俺たちは同じことを考えているはずだ。

 

 あなたの回避能力は痛みを伴う訓練で習得したものじゃないですよね?

 

 本当に理不尽の化身みたいな娘だなぁ。

 

 

 

 一応、将来のために六本作ってもらいアイテムボックスへ入れておく。

 これで睡眠攻撃を行ってくる魔物への備えが出来たな。

 

 そして、これを使うときには間違っても自分のことを愚禿とは言わんぞ。

 なにせ俺はフサフサなのだ。一人称は愚僧か拙僧だ。

 

 

 

 それが終わるとミセリコルデをクローゼットにしまい込む。

 オリハルコンの剣は威嚇用として使うかもしれないため、そのままアイテムボックスへ入れておこう。

 

「ロクサーヌ。ここに置いておくから好きなときに試してみてね」

「ありがとうございます。一日でも早く使いこなせるよう頑張ります」

 

 とはいっても戦士のレベルが30になれば巫女にジョブ変更をするため、まだまだ先の話だろうけどさ。

 

 うーん……。ロクサーヌが扱えるようになるのが先か、ベスタの加入が先か。それとも、竜のスキル結晶を入手して俺用にチューンするのが先か。

 

 ミセリコルデとオリハルコンの剣の旅は、始まったばかりでこの始末。はてさて、この先どうなりますことやら……。

 

 

 

 さあ、やるべきことも済んだし鏡職人の奥さんに売却するネックレスとコハクの原石を取ってこよう。

 彼女たちにそれを告げるとセリーに声を掛けられた。

 

「お待ちください。ご主人様、ネックレスなのですが三つ全てをお借りしてもいいですか?」

 

 ん? どうしてだ? 一番高かった物を持っていけばいいんじゃないのか?

 

「いいけど、何か意味があるの?」

 

 問いかけたところ彼女は悪い笑みを浮かべながら答える。

 

「価格差のある三つの商品を見せ、奥さんにはとても良い品が手に入ったので予算をオーバーしてしまったと謝ります。その上で約束は約束なので安い方なら特別に二十五万ナールで譲ると伝えるのです。すると、絶対に高い方が欲しくなるに違いありません。そこからはどれだけ値段を吊り上げられるかの戦いですね」

 

 おいおい。この娘、悪っるいことを言ってるぞ。

 

 内心ドン引きしている俺に気付くことなく楽しそうに続きを口にする。

 

「商談がまとまったら残り二つの売り先を紹介してもらうよう頼みます。きっと、自分が出した以上の額で購入する人を探してくれるでしょう。三つ合計で百五十万ナールくらいを狙いたいですね」

 

 彼女はそう言ってニヤリと笑った。

 

 鬼じゃ……。鬼がおる……。村の衆! ここに鬼がおるぞー!

 

 ……いやでも、本当に商才にあふれた娘だなぁ。

 

 

 

 

 

 鏡を抱えながら得意げな表情を浮かべている二人と共にペルマスクから自宅へ戻る。

 ……表情を見るに首尾よくいったんだろうなぁ。

 

 それを物置にしまいリビングで彼女たちの話を聞いてみた。

 

「まず、宝石入れを見せてハルツ公爵領で考案されたばかりで公爵のお墨付きの予定があると伝えたところ、奥さんは大変驚いていました」

 

 セリーの言葉にロクサーヌも続く。

 

「はい。信じられない様子でしたが私たちが公爵の委任状を持ってきたことを思い出し納得したようです」

 

 うん。まあ、嘘は言ってない。予定は予定でしかないからな。

 それに、実際のお墨付きとなった際に証明書や焼き印などによる認証が付いたとしても、売ったジュエリーボックスはその前段階の品。かえってプレミアがつくかもしれん。

 

「それから箱を開けコハクのネックレスを見せたところ彼女の目は高いコハクに釘付けでした」

 

 奥さんもコハクの価値が分かる側の人らしい。

 

「そこで、予算をオーバーしたことに対してお詫びを告げた上で、安い方なら特別に二十五万ナールで譲ると伝えたのですが、狙い通り奥さんは何が何でも高い方を購入するつもりになっていました。そこからが交渉開始ですね」

 

 すると、ロクサーヌが興奮したように話し出す。

 

「ご主人様、セリーはすごかったのですよ。奥さんと丁々発止のやり取りを重ね、なんと四十八万ナールもの大金で売ることに成功したのです。しかも、鏡の購入でお世話になったから安くするという話にもっていったため、あちらの方も満足している様子でした」

 

 四十八万ナール!? マジかよ!? とんでもないことになってるぞ!?

 

「残念ながら五十万ナールには届きませんでしたが、このくらいで満足しておくべきでしょう」

 

 そう言ってセリーは酷薄な笑みを浮かべる。

 こら。感じ悪いからその笑い方はやめなさい。

 ……まあ、可愛いけどね。

 

 

 

 それにしても、これだけの商才があるのなら奴隷落ちすることもなかったんじゃないのかなぁ。

 自分を売る前に商売をしてみようとは思わなかったんだろうか?

 

 ……いや、無理か。

 この才能を活かすためには、確かな品質の商品を扱っている店へのコネ。

 それから、需要のある場所へ商売に行くための移動手段。

 そしてなにより、高額商品を仕入れることが可能な資金が必要となる。

 どれも奴隷落ちをしたときの彼女には望むべくもない。

 

 今後はうちでその才覚を発揮してもらおう。

 

「本当にセリーはたいしたものだよ」

 

 あまりのすごさに称賛の言葉をかけるとかぶりを振って答えた。

 

「いえ。このくらいなんでもありません」

 

 なんでもないことないんだよなぁ……。

 

 そして、彼女はそのまま報告を続ける。

 

「それから、前回買い取ったコハクの原石は品質がとても良く、これからも定期的に持ってきてほしいと言われたのですが、今回の十個で在庫がなくなってしまったため当面は難しいと伝えておきました」

「原石については目途が立たないからそう言うしかないね。セリー、ありがとう」

「どういたしまして。それから、こちらが代金となります」

 

 そう言うとアイテムボックスを開き金貨をローテーブルに並べていく。

 そして、巾着袋から銀貨を取り出しその隣に並べる。

 

 すげー……。金貨が五十一枚に銀貨が五十枚。

 完全に献上品のコハクの代金を回収してしまった。

 さすがセリー。さすセリだ。

 

「ロクサーヌ、セリー。君たちのおかげでだいぶ資金に余裕が出来た。本当にありがとう」

「これはご主人様が私たちのことを信用して下さり、貴重な品物を任せていただいたからこその結果です」

「ロクサーヌさんの言う通りです。ご主人様、私たちのことを信じていただきありがとうございます」

 

 ……本当にめちゃくちゃ良い娘たちだよなぁ。

 

 優しい雰囲気に包まれながら硬貨をアイテムボックスにしまい込む。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

探索者Lv42 英雄Lv37 遊び人Lv27 魔法使いLv41

装備 サンダル 身代わりのミサンガ

 

BP振分 残BP:0

キャラクター再設定:1

フォースジョブ:7

必要経験値二十分の一:63

詠唱省略:3

ワープ:1

鑑定:1

結晶化促進二倍:1

頭装備六:63

 

所持金:1,702,409ナール

 

春の43日目

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