異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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142 サンドイッチ

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 迷宮へ移動するためワープゲートを開こうとしたところで、ロクサーヌから早朝の続きから始めるべきだと言われてしまう。

 特に反対する理由もないので彼女の言う通り探索を終えた小部屋へ移動する。

 

 ボーデの宮城とペルマスクで時間を使ったため、すぐにタイムアップとなったが遊び人のレベルが上がっていた。

 また少し魔法の威力が上がったことだろう。

 迷宮を出てドロップ品の売却と食材の買い物を済ませて帰宅する。

 

 

 

 それじゃあ今日の昼食は予定通り俺が作ろう。

 といってもめちゃくちゃ簡単な料理だけどな。

 オイル漬けにしておいた赤身を解し玉ねぎと共にマヨネーズで和え、バターを塗ったパンに挟んでツナサンドの完成だ。

 

 彼女たちが作ったサラダと豚バラの野菜炒めと一緒にダイニングへ運び込み、いざ実食。

 

 サンドイッチに齧り付くと濃厚な魚の旨味が脳をガツンと刺激する。

 これめちゃくちゃ美味いぞ。やっぱり迷宮産は違うなぁ。

 

「んー! ご主人様! とても美味しいです! 魚の旨味とソースの酸味が絶妙でいくらでも食べられそうです!」

 

 ツナサンドを一口食べたロクサーヌから大きな声が上がり、セリーもそれに続く。

 

「このソースは何ですか!? 信じられないくらい赤身のオイル漬けによく合います! こんなの聞いたことがありません!」

 

 相変わらずナイスなリアクションをする娘たちだ。本当に可愛らしいわ。

 

 サンドイッチを食しながら彼女たちと楽しくカードゲームにでも興じたいところだ。

 もっともサンドイッチ伯爵のエピソードは俗説らしいが。

 

 夕食にはマヨネーズを使った別のメニューを出すと告げたところ、彼女たちは興奮したようにはしゃいでいた。

 こんなに期待してもらえるなんて……。

 可愛いロクサーヌとセリーのためにタルタルソースたっぷりのフィッシュバーガーを作ってやろうじゃないの。

 

 

 

 

 

クーラタルの迷宮

二十階層

 

 

 

 

 

 食休みを終え迷宮探索午後の部を開始する。

 今回もロクサーヌの意見を取り入れ探索を終えたところから再開だ。

 

 午前中と同じようにサーチアンドデストロイで魔物を狩っていく。

 やはりラブシュラブの遠距離攻撃はかなり厄介だ。

 スキル攻撃ではないため魔法陣の展開がなく、予備動作も存在しないため避けようがない。

 枝を飛ばされたら確実に当たってしまう。

 ……誰かさん以外。

 

 どうしてあれをかわすことができるんだ?

 見てからでは避けられないし、そもそも目で追える速さじゃない。

 

 いや、彼女は目で追えているのか? それとも、ニュータイプ的な勘でも働いている?

 オーバーホエルミングの重ね掛けを試した時も俺の動きに反応してたよな?

 本当に鬼神のような娘さんだなぁ。

 

 俺とセリーは度々被弾し手当ての世話になったが、それでも修行に比べれば遥かにマシだったため、問題なく戦い続けることができた。

 修行は確実に俺たちの血肉となっている。彼女の言う通り痛みを伴いながら獲得したものだ。

 だけど、やるせない気持ちになるのはどうしてだろう……。

 

 

 

「ご主人様、そろそろ夕方になります」

 

 そのまま探索を続けているといつもの言葉が発せられた。

 

 んじゃ今日はここまでだな。

 午後の探索で俺の四つのジョブは全てレベルが上がったし、ロクサーヌの戦士も22になっている。

 二十階層ともなると魔物から得られる経験値もだいぶ増えているのだろう。

 本当に今日は物事が前に進みまくった一日だった。

 

「では、次の小部屋で今日の探索は終わりにしよう」

「ご主人様、お待ちください」

 

 そう伝えるとロクサーヌからちょっと待ったコールが。

 

 どうしたんだ?

 

「偶然なのですがこの先に待機部屋があります。探索を終える前に一戦した方がいいのではないでしょうか」

 

 ……絶対に偶然じゃない。

 こやつ、魔物を狩りながら待機部屋まで誘導しおったな?

 なるほど。だから地図を見たがったり、前回の続きから再開することにこだわったりしていたのか。

 

 彼女の顔をじっと見つめると微笑みを浮かべて目を合わせる。

 くそー。笑って誤魔化しおってからに。めちゃくちゃ可愛いじゃないのさ。

 この笑顔で見つめられたら大抵のことは許してしまうぞ。

 

 でもまあ、そうだな。それほど問題はないだろう。

 

「よし。それではボス戦を行ってから探索を終わろう」

「はい! ありがとうございます!」

 

 めちゃくちゃ喜んでいるが釘は刺しておかないと。

 

「ただし、二十一階層での戦いは当面やるつもりはない」

 

 それを聞いた彼女の頬がプクッと膨らむ。

 あの手この手でなだめているとセリーが呆れたように俺たちの様子を見つめていた。

 

 なんで他人事やねん。君も説得に加わらんかい。

 

 ……いや。この娘もあちら側か。

 

 

 

 

 

クーラタルの迷宮二十階層

ボス待機部屋

 

 

 

 

 

 明日以降の方針についてロクサーヌに何とか納得してもらえたところで、二十階層のボスについてセリーに尋ねる。

 

「ラフシュラブはラブシュラブに比べて枝が大きくなっているため、それを振り回す範囲攻撃を仕掛けてきます。また、ラブシュラブと同じように枝を飛ばす遠距離攻撃やスキルにより鋭く尖った杭のような枝を飛ばしてきますが、どちらもかなり強化されているので注意してください」

 

 注意するったってなぁ……。

 対策はオーバーホエルミングを使いそれより速く動くって感じか?

 まあ、デバフを用いたからめ手ではなく正攻法でくるため、俺にとっては戦いやすい相手だ。

 

「それから、残すアイテムは通常ドロップが抗麻痺丸の材料である削り掛け。そして、レアドロップが装備品の素材になる霊木の板です」

 

 霊木の板……。

 

「どんな装備品が作れるんだ?」

「武器なら杖のケーンやタクト、それに槌のマレット。防具なら霊木の鎧に霊木の額当て、そして霊木の手甲に一本歯下駄などです」

「下駄!?」

 

 この世界観で下駄なんてあんの!?

 

 あ。でも、警策があるんだ。下駄があってもおかしくはないのか。

 

「はい。一本歯下駄は僧侶や神官の修行をしている者たちが身に着けていることが多く、自由に動けるようになるには慣れが必要ですが、装備すると魔法の威力や回復スキルの回復量が増加します」

 

 マジか。有用な装備品じゃないか。

 いや、でもなぁ……。一本歯の下駄はハードルが高すぎるって。

 これについてはスルーしておこう。

 

 内心で下駄の出番を却下したところでセリーが説明を続ける。

 

「ただ、製造するためにはハチノスのレアドロップである膠やサイクロプスのレアドロップのヤスリ、それからゼリースライムが稀に残すニスが必要な上に、どれも消耗素材なので失敗するとなくなってしまいます。あ。でも、一本歯下駄なら霊木の板と糸がそれぞれ二個ずつで製造できますよ」

 

 いえ。大丈夫です。下駄は間に合ってますんで。

 

 それにしても、サイクロプスとゼリースライムのレアドロップ品が必要なのか……。

 高性能とは言い難い装備品なのに材料を集めるだけでも苦労しそうだ。

 それに、ハチノスにレアドロップがあったなんてなぁ。

 

 

 

 

 

クーラタルの迷宮二十階層

ボス部屋

 

 

 

 

 

 いつものように開幕ダッシュで魔物の背後を狙い走っていると、フロア中央に出現したのは広めの枝を持つ低木と可愛い子豚ちゃん。

 

 ボーナスタイムを作り出しダブルアタックで子豚を仕留めた。

 そして、間髪容れずロクサーヌにあしらわれているラフシュラブへ攻撃を開始する。

 

 何度もダブルアタックを叩き込むが倒しきることができず、オーバーホエルミングの効果時間が終了した瞬間、枝が振り回され脇腹を強かに打ち据えられた。

 

「がはっ」

 

 口から息が漏れ、動きが止まってしまう。

 木の形をしているため正面が分かり難いが、奴が方向転換をしているのが見えた。

 

 ヤバい! 俺を狙っている!

 

 何とか追撃を逃れようとしたところ、ロクサーヌとセリーがラブシュラブの気を引くため果敢に攻撃を入れていた。

 

 その間にリキャストタイムが明けたため再びオーバーホエルミングを念じ、周囲がスローモーションになったところでダブルアタックにより威力を増したデュランダルを叩き込む。

 一発目の攻撃で体力が満タンになったのか、あっという間に痛みが引いていく。

 

 そして、程なくして魔物の体は空気に溶けるように消えていった。

 

 

 

 心配している二人に問題ないと伝えながら考える。

 

 それにしても、枝でブッ叩かれたものの苦戦というほどではなかったな。

 痛みだって普段の修行の方が数段上だ。あの程度は何でもない。

 我慢強くなっているのはいいが、その他の能力が向上している実感が全くないんだよなぁ……。

 

 ……いや、修行を開始してからまだ四十日。すぐに成果が出るはずがないじゃないか。焦りは禁物だ。

 

 

 

 さて、ドロップアイテムを拾って町へ戻ろう。

 

 床に転がっているアイテムへ鑑定をかける。

 

削り掛け

豚バラ肉

 

 うん。まあ、そうだよな。レアアイテムが簡単に入手できるはずない。

 

 豚バラ肉をアイテムボックスへ放り込み、剣士を薬草採取士に変えて生薬生成を試みた。

 すると、あっさり成功し手の中には十個の黄色い丸薬が出現する。

 鑑定っと。

 

抗麻痺丸

 

 オッケーオッケー。薬草採取士のレベルはまだ1なのに問題なく作れたな。

 原作でもミチオは薬草採取士のレベル上げをしていなかったのに、手に入れた素材では万能丸の上位である万金丹以外、全て作ることに成功していた。

 おそらく万金丹以上の薬を作るためにはレベルアップや何らかの条件を達成する必要があるのだろう。

 もしくは、薬草採取士ではなくその上位ジョブである薬師になる必要があるのかもしれない。

 

 よし。それじゃあ迷宮を出るとしますかね。

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 修行のために庭へ出たところで昨日考えた修行法、重力トレーニングもどきについて説明をする。

 すると、ロクサーヌが表情を輝かせながら声を上げた。

 

「ご自分を不自由な状態に追い込んで修行を行うなんて、さすがご主人様。素晴らしいアイデアです」

 

 え? あの、いや、すいません。俺のアイデアじゃないです……。

 

「早速、今日からそれを取り入れていきましょう!」

 

 彼女の勢いに押されボーナスポイントの振り分けを行うことになった。

 

 

 

田川 歩 男 18歳

村人Lv5 僧侶Lv15 料理人Lv1

装備 ダマスカス鋼の盾 硬革の帽子 頑強の竜革鎧 倹約の硬革グローブ 竜革の靴 身代わりのミサンガ

 

 キャラクター再設定とジョブ設定を終えて確認をしていると、本当に重力が増したのかと思うほど体が重い。

 

 これ、ヤバいぞ……。

 こんなに違うものなのか……。

 

 すると、ロクサーヌが口を開く。

 

「確かに体の調子が少し鈍ったようですね。意識していたら気が付きました」

「え? そうですか? あまり変わったようには感じないのですが……」

「戦闘を行うとセリーにもハッキリ感じられると思いますよ」

 

 嘘だろ? 明らかに体のパフォーマンスが落ちているというのに、彼女たちはそこまでの影響はないのか?

 

 ……そういえば、今までだって彼女たちをパーティーに入れたり外したりしていたが違和感を覚えた様子はなかったな。

 それに、フィールドウォークで移動させてもらうためにパーティーを組んだ冒険者たちや、災害救助のときの騎士にも特に何も言われていない。

 つまり、自分以外に対してはそこまで極端な影響はないということだ。

 

 なんでそうなるんだ?

 

 うーん……。パラメーターはレベルアップによって上昇していくのだろう。

 おそらく、ジョブや種族、それから個人の資質によって何がどのくらい上がるのかは違うのだろうが、それは間違いないはず。

 さらに、複数ジョブを設定していた場合、その値は合算される。

 そして、パーティー効果もレベルアップにより上昇値が異なることは、原作の描写的にも、俺の体感的にも明らかだ。

 

 ということは探索者、英雄、魔法使いのレベルアップにより、とんでもなく上昇したパラメーターと、さらにそれを引き上げていたパーティー効果の全てを失ったということになる。

 そのせいで、ここまで極端な弱体化を招いたのか……。

 

 まいったなぁ……。

 知らず知らずのうちにシステムのアシストを受けて感覚がそれに馴染んでいたのだろう。

 転移直後はこれが普通だったはずなのに、今となってはこの状態で戦える気がしない。

 

 うん。これは駄目だ。無理せずいつもの修行に戻そう。

 

「ロクサーヌ。やっぱりいつ――」

「強くなるため、ここまで真剣に取り組む人はなかなかいないでしょう。本当に私のご主人様は素敵なお方です」

「さあ! やろうか! ロクサーヌ!」

「はい! お相手いたします!」

 

 木刀を持って修行を開始しようとしたところ、いつもは並んで構えるセリーが来ないためそちらへ目を遣った。

 すると、呆れたような表情を浮かべ冷たい視線で俺を見つめている彼女の姿が……。

 

「ほ、ほら。セリーも早く」

「はぁ……。分かりました」

 

 そんなデカいため息を吐かなくてもいいだろうよ……。

 それに、そんな目で人を見るんじゃありません。

 もしMに目覚めてしまったらどう責任を取るつもりだ?

 

 言葉責めをしてくれたり、足コキをしてくれたり、顔面騎乗をしてくださったり、脇や足を舐めさせていただけたり、唾液を賜ったり、顔を踏んでいただける名誉にあずかることが可能なのですか? どうなのですか?

 

 いや、俺にMっ気はないからやりたいとは思ってないけどね。うん。Mっ気はないからね。

 

 

 

 さて、そんじゃ始めていこう。

 

 鈍い体でセリーと共にロクサーヌ目掛けて駆け出した。

 彼女相手に正面から挑むのは愚の骨頂。二手に分かれ左右同時に襲い掛かる。

 

 しかし、いつものようにミリ単位でかわされカウンターを叩き込まれた。

 

「いっでー!」

 

 いやいやいや。ヤバいヤバい。防御力が紙だし、レベル補正も効いてないからダメージがハンパない。

 これは無理だろ。さすがに無理だろ。

 

「ロクサーヌ! ちょっと待って!」

「魔物との戦闘に待ったはありません」

 

 嘘っ! ちょっと! 痛いって!

 

 

 

 マジか……。ここまで違うものなのか……。

 

 すると、セリーから声が漏れる。

 

「確かにロクサーヌさんの言う通りでした……。いつもと比べて明らかに身体の調子が悪かったです……。ご主人様のジョブの影響はこれほどまでに大きかったのですね……」

 

 それを聞いたロクサーヌは頷きながら口を開く。

 

「そうですね。でも、この状態で戦闘を行うことで感覚が研ぎ澄まされ、普段の動きも鋭敏になっていくでしょう」

 

 スパルタ! スパルタがすぎる!

 

 それにしても、俺たちはパラメーターが下がったことにより、動きに精彩を欠いていた。

 なのに、なんで彼女は普段通りの動きが出来ているんだ?

 いくらなんでも理不尽すぎるだろ。

 

 セリーに手当てをかけながら彼女へ問いかけてみる。

 

「それは無駄な動きをしていないからです。攻撃をかわすために大きく動く必要はありません。相手の攻撃が当たらないように動くだけでいいのです。それなら最小限の動作で済むため体が重いとか動きが遅いといったことは関係なくなります」

 

 だから、それは特殊能力であって誰にでも出来ることではないんだよなぁ。

 俺が他の人にオーバーホエルミングを使ってかわせというのと同じくらい理不尽なことを言ってるって理解してる?

 

 だが、ロクサーヌ師匠は聞く耳を持たず、そのまま修業が再開された。

 

 

 

「今日はここまでにしておきましょう。この状態で鍛えればご主人様もセリーもどんどん強くなっていくはずです。明日からも頑張りましょう」

 

 嘘だろ……。明日からもこれが続くのか……。

 俺はなんと迂闊なことを口にしてしまったんだ……。雉も鳴かずば撃たれまいに……。

 

 

 

 気を取り直し、この状態でオリハルコンの剣が持てるのかを試してみよう。

 

 アイテムボックスを開き中からそれを取り出した瞬間、手にとんでもない重さが掛かり取り落としてしまった。

 

 マジか!? まさかここまで重く感じるなんてなぁ。まるでレイアースの風ちゃんの剣だわ。

 持ち上げることさえ難しいし、ましてやこれで素振りなんて不可能だ。

 

 とりあえず今はアイテムボックスに戻さないと。

 ファーストジョブを村人から探索者に変更し剣に手を伸ばす。

 両手にずっしりとした重さが掛かるが持ち上げられないほどではなかった。

 

 

 

 そして、修行を続けるために再度ボーナスポイントを振り分けて、セカンドジョブを英雄に入れ替えた。

 その途端、体の状態が劇的に変わる。

 

 なんという力だ……!!!

 信じられんほどのすさまじい力が……!!!

 こっ、これが英雄のポテンシャルだったのか……!!!

 勝てる!!! あいてがどんなヤツであろうと負けるはずがない!!!

 オレはいま究極のパワーを手に入れたのだーーーっ!!!

 

 いや、冗談ではなくこれを十全に扱うことができれば絶対に負けることはないはずだ。

 今日は本当の意味で自分の能力に気が付いた日となったのだろう。

 

「さあ、始めよう」

 

 ポイントの振り分けを終えて彼女たちに声を掛けると、にこやかにこちらを見ていたロクサーヌと目が合った。

 

 悪いな、ロクサーヌ。勝てんぜ、おまえは……。

 

 オーバーホエルミングを念じ、時の流れを置き去りにして俺だけの時間を作り出す。

 

 これからも田川歩の人生には様々なトラブルが起こるだろう。

 だが、きっとそれを乗り越えていけるはず。

 大丈夫。俺にはチート能力がついているのだから……!

 

 

 

 

 

「先ほどの修行で何かを掴まれましたね。さすがご主人様です。危うく攻撃を食らうところでした」

 

 嘘じゃん! 完全に自分の力に気が付いた流れだったじゃん! 覚醒の流れだったじゃん!

 なんでいとも簡単に対処してんだよ! おかしいだろ!

 

「やはりあの修行法は有効です。明日からも続けていきましょう」

 

 彼女は楽しげにそう告げる。

 その瞬間、心がバッキリ折れる音が聞こえたような気がした。

 

 修行中は毎日、鼻と心を折られまくっているが今日は違ったと思ったんだけどなぁ……。

 真の実力に目覚めた日だと思っちゃったんだよなぁ……。

 

 そして、セリーの方へ目を遣ると彼女も絶望の表情でロクサーヌを見つめている。

 

 ごめんなぁ……。俺がパーティー効果なしで修行しようと言ったばかりに……。本当にごめんなぁ……。

 

 

 

 気持ちを切り替えて彼女たちへ歩雲履を渡し、それで遊んでいる間に素振りを行うことにした。

 再び英雄を外すと体から一気に力が抜ける。

 そういえば、ロクサーヌだって英雄のパーティー効果を受けていたんだ。

 上がり幅に違いはあれど俺だけが強化されたわけじゃない。あの結果も当然か。

 

 劇的な変化を味わったことで調子に乗ってたんだなぁ……。

 

 内心へこみながらオリハルコンの剣を取り出す。

 さあ、落ち込んでないで素振りを開始だ。

 

 

 

 装備品の手入れを済ませ、風呂を沸かしてキッチンへ移動した。

 

 マヨネーズに固ゆで卵とみじん切りにした玉ねぎ、同じくみじん切りのピクルスを合わせてタルタルソースを作る。

 それを白身のフライとチーズと一緒にパンではさみフィッシュバーガーの完成だ。

 揚げ物をしたついでにフライドポテトも作っておいた。

 彼女たちの作ったサラダやミネストローネと共にダイニングへ運び込む。

 

 ミネストローネを取り分けたところで食事の挨拶を済ませ、早速フィッシュバーガーに齧り付いた。

 

 おお! これは美味いなぁ。我ながらいい仕事をしている。

 迷宮産の白身も抜群に美味いがタルタルソースも濃厚な味わいで最高だ。

 

 咀嚼していた物を飲み込んだロクサーヌからも声が上がる。

 

「ご主人様! とても美味しいです。以前おっしゃっていましたがフィッシュバーガーとはこんなに美味しいものだったのですね。特にこのソースが最高です」

「そうですね。白身の旨味がソースの旨味や酸味と混ざりあい芳醇な味わいへと昇華されています。これほど上等な料理を食べられるなんて私は本当に幸せです」

 

 二人は美食倶楽部で出された料理を食べたくらいのテンションで喜んでいる。

 こんなに美味しそうに食べてもらえると作った甲斐があるよなぁ。

 彼女たちがこれほど喜んでくれたんだ。ミリアだってきっと喜んでくれるはず。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

探索者Lv43: 英雄Lv38 魔法使いLv42 僧侶Lv15

装備 サンダル 身代わりのミサンガ

 

BP振分 残BP:0

キャラクター再設定:1

フォースジョブ:7

必要経験値二十分の一:63

詠唱省略:3

鑑定:1

結晶化促進四倍:3

MP回復速度二十倍:63

 

所持金:1,704,319ナール

 

春の43日目

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