近頃の俺たちの生活はこれまで通り迷宮でのレベル上げと鏡の納品。
それに、英雄を外した修行とオーバーホエルミングを用いた修行。さらに、オリハルコンの剣を用いた素振りがルーティーンに加わった。
そして、探索の終わりにはロクサーヌによって待機部屋近くへ誘導され、ラフシュラブとの戦闘で締めくくることになっている。
まったく。困った娘さんだ。そんなところも可愛いと感じさせてしまうところが本当に困ったもんだ。
そして、二日に一度ペルマスクへ仕入に通っていたところ、経由地であるザビルの迷宮の階層が一つ上がる。
だが、この迷宮は二階層がグリーンキャタピラーだった。
奴の糸吐き攻撃で動きを止めてニートアントが毒を狙うという、最序盤の階層がいやらしさ全開な超害悪迷宮。
初心者が二階層へ乗り込めば地獄を見るだろう。
この組み合わせが出現する可能性が十一階層以降だったクーラタルの迷宮は本当に有情だ。
……いや、ニートアントとグリーンキャタピラーの階層が離れていて、ほとんど一緒に出てこない迷宮がベストなんだけどさ。
また、鏡職人の奥さんからネックレスを購入したい者がいると伝えられ、次回の受け取りの際に紹介してもらえることになった。
原作と同じく彼女の友人と参事委員会の代表を務めたことのある人物の妻。
友人には同じ額で販売してほしいが、元参事官の奥さんにはどれだけ吹っ掛けてもいいらしい。
ドロドロとした世界だ……。
そして、春の四十五日目には金物屋へ注文していた氷冷蔵庫が完成し自宅に届けられた。
しかし、魔道士のジョブを得ていないため、キッチンに設置したものの今はただの物入れとなっている。
だが、近いうちに稼働することになるだろう。たぶん、きっと、そうだといいなぁ……。
今日もロクサーヌの夕方を告げる声を聞き待機部屋に移動する。
ボーナスポイントの振り分けとジョブの変更を行おうとしたところで探索者のレベルが上がっていることに気が付いた。
とりあえずそれを済ませて鑑定をかけてみる。
田川 歩 男 18歳
探索者Lv45 英雄Lv40 遊び人Lv33 魔法使いLv44
装備 身代わりの硬革帽子 頑強の竜革鎧 倹約の硬革グローブ 竜革の靴 よりしろのイアリング
探索者のレベルが45。
これで明日からはフィフスジョブの解禁だな。賞金稼ぎのレベル上げを開始しよう。
そして、冒険者まであと5。魔道士までがあと6か……。
これは、もうしばらくかかりそうだ。
ついでに彼女たちの確認もしてみよう。
ロクサーヌ ♀ 16歳
戦士Lv23
装備 強権のエストック ダマスカス鋼の盾 耐風のダマスカス鋼額金 竜革のジャケット 竜革のグローブ 駿馬の竜革靴 身代わりのミサンガ
23かぁ……。
原作だとこの時期は獣戦士だったが、レベルにそれほど違いがない。
魔法の威力が高いおかげでミチオパーティーより上の階層の魔物を大量に狩っているにもかかわらずだ。
気を取り直して今度はセリーを見てみる。
セリー ♀ 16歳
鍛冶師Lv19
装備 強権のダマスカス鋼槍 竜革の帽子 硬革のジャケット ダマスカス鋼のガントレット オラクルダマスカス鋼グリーヴ 身代わりのミサンガ
彼女のレベルも原作の同時期とほとんど変わりがない。
うーん……。でも、俺のレベルは同時期の彼のそれを上回っているんだよなぁ。
これはどういうことなんだ?
……こちらは早い段階で必要経験値二十分の一を付けて経験値効率四百倍にしている。
加えて魔法の威力が高いため何発も撃ち込む必要がなく、その上倹約の硬革グローブの消費MP削減の効果でデュランダルを出す回数が少ないはず。
そのため獲得経験値二十倍を付けている時間が彼に比べて長いのだろう。それが関係している?
いや、それなら彼女たちのレベルも原作より高くないとおかしい。
うーん……。どうしてこんなことが起こるんだろう? 何らかの要因が介在しているのか?
……まあ、考えても分かるはずがない。いつものように棚上げだ。
その後、ボス部屋に乗り込みサクッと片づける。
ラフシュラブの動きに慣れたのか、それとも重力トレーニングもどきの成果が出ているのか、もう奴の攻撃を食らうことはない。
……すぐ近くにバグキャラがいるせいで感覚がおかしくなってるが、キャラクター再設定込みだと俺って結構強いよな?
ん? いかん、いかん。思い上がってはいけない。世の中には彼女のように常識では考えられないような強者がいるはずだ。
そんな奴らと対峙しなくてはいけなくなったとき、慢心していたら大変なことになる。
そういう意味では決してそれを許さない彼女の存在は本当にありがたい。
師匠、今後ともご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。
ドロップアイテムを拾いアイテムボックスへ放り込む。
今日も削り掛けかぁ。なかなかお目にかかれないが霊木の板のドロップ率はどんなもんなんだろう?
世間の鍛冶師たちはギルドから購入したり、自分で狩りをしているのだろうか?
めちゃくちゃ大変そうだよなぁ……。
ドロップアイテムの売却と夕食の買い出しを終え、自宅に戻ったところで扉に何かが挟まっていることに気が付いた。
おっ。パピルス。そういえば今日は春の四十六日目。ルークから連絡がくる日だ。
それを取ろうと手を伸ばしたところでロクサーヌに制止される。
「お待ちください。危険な物の可能性があるため私が確認いたします」
え? あ、はい。
それはないと思うが彼女の矜持なのだろうし野暮なことは言わないでおこう。
「それじゃあ、お願い」
「はい。お任せください」
彼女は片手に持っていた荷物をセリーに預け、それを手に取った。
そして、二つに折られていたパピルスを開く。
「ルーク氏よりスキル結晶落札の連絡です」
ええ。そうでしょうね。
「コボルトのスキル結晶が二つでどちらも五千五百ナール、ウサギのスキル結晶が四千九百ナール、豚のスキル結晶二千七百ナール、スライムのスキル結晶九千さんびゃ――、えっ!?」
読み上げていたロクサーヌから大きな声が上がる。
何だ? 何があった?
「あ。申し訳ありません」
彼女は恥ずかしそうに謝ると続きを読み上げた。
「スライムのスキル結晶九千三百ナール。そして、鯉のスキル結晶六千九百ナール。スキル結晶については以上です」
あのー。理由が分かっちゃったんですけどー。
ロクサーヌを見ると少し照れながらも大輪の花のような笑みを浮かべている。
可愛すぎるだろ、おい。
「それじゃあ早めに複数スロットが付いた装備品を手に入れないといけないね」
「ありがとうございます! ご主人様!」
こうなってみるとハルツ公からの報酬はオリハルコンの剣を二本選ばず、もう一つは竜燐の靴にしておくべきだったか?
いやでも……。うーん……。
「まだ、続きがあります」
悩んでいるとロクサーヌが再びパピルスに目を通しながら読み上げる。
「相談したいことがあるため至急来られたしとのことです」
相談したいこと? 何だ?
ハルツ公とは鏡の納品で顔を合わせるため、そっちの線はないよな?
まあ、考えたところで分かるはずもない。至急だということだしこの時間だとまだギルドにいるだろう。スキル結晶を受け取りがてら、ちょっと行ってみるか。
「ルークのところに行ってくるから今日の修行はなしにしよう。夕食の支度をお願いできる?」
「はい。いってらっしゃいませ、ご主人様」
「ご主人様、仲買人には気を付けてください」
まったく、このお嬢さんは……。
持っていた食材を二人に渡しワープゲートを展開する。
商人ギルドへ移動していつものようにルークを呼び出してもらう。
すると、程なくしてベレー帽をかぶった男が現れた。
「お呼び立てして申し訳ありません」
「いや。問題ない」
お詫びの言葉を口にする彼にそう伝えるとホッとした様子でいつもの商談室に案内される。
そして、ソファーに腰を下ろしたところで先にスキル結晶の受け渡しを行いたいと告げられたため、支払いを済ませてスキル結晶をアイテムボックスへしまい込んだ。
もちろんギルド神殿なんて使わないぞ。俺はルークを信用しているからな。
商談が済んだところで尋ねてみる。
「それで、至急だという用件はどのような事なのだ?」
「はい。ご依頼いただいている竜のスキル結晶についてなのですが、実は帝都の商人ギルドに所属している仲買人が少し前に落札しているという噂を耳にしていました」
ほう?
「彼は依頼ではなく相場より安かったために入手していましたので、こちらに回してもらえないか確認したところ問題ないとの返事をもらっています」
よっしゃ! ナイスルーク! グッジョブルーク! お前はできる男だと思ってたんだよ!
セリーにも認識を改めるよう言っておかないと。
「さすがルーク。やるではないか」
「ありがとうございます。ですが、アユム様よりご提示いただいた金額を伝えたところ難色を示しまして……」
ん? 相場よりかなり高めに設定したんだぞ? それを蹴られたのか?
「彼に確認したところ二万二千五百ナールなら手放してもいいとのことでした」
あん? 二万二千五百ナール? なんだ、その中途半端な数字は。
竜のスキル結晶を依頼したときに俺が伝えた上限が一万五千ナール。それの五割増しだと?
こいつには最上位種のスキル結晶を一・五倍まで出すとも言ってある。
これは偶然か? いや、それは考えられない。
中抜きをするつもりか、もしくは相手に俺が出すであろう額を伝えてそのキックバックを受け取る算段でもつけたのか。
いずれにしても、やってやがるな?
セリーの言う通りだった。仲買人に気を許すべきじゃないわ。
舐めやがって。上等だよ。そっちがその気ならこっちだってやってやる。
「まあ、そのくらいなら問題ないだろう。ただし、購入にはいくつか条件を付けさせてもらいたい」
「条件ですか?」
訝しげにしているルークへ条件を告げる。
「うむ。まず、今回の取引はオークションでの代理購入ではないため手数料の対象ではなく、通常の売買だということ」
「はい。当然のことかと存じます。一旦私がその者から買い取り、その後アユム様に販売いたします」
そいつは二万二千五百ナールじゃないと売らないと言っているはずなのに、同額で俺に売ったらお前に儲けなんか出ないだろう。
一体、いくらで買い取るつもりなんですかねぇ……。
まあ、いいけどさ。とりあえず話を続けよう。
「また、どんなものでもいいので、他のスキル結晶もいくつか一緒に購入してさせてくれ。これについては相場の一割増で購入させてもらおう」
その言葉にルークの表情が輝いた。
「一割増!? よろしいのですか!?」
やっぱり乗ってきやがった。
安く買い叩いた物を相場より高く売りつけるチャンスだとでも思っているのだろう。
「問題ない。俺としては高額なスキル結晶の方が望ましいのでそうしてもらえると助かる。あと、これについても代理購入ではなく通常の売買だ」
「もちろんです」
無表情を装おうとしているものの、鴨を見つけたような雰囲気が丸分かりだ。
まあ、精々喜んでいるといいさ。お前が持ってきたスキル結晶を根こそぎ三割引でいってやるよ。
「これから帝都の仲買人に会い竜のスキル結晶を購入してまいります。他のスキル結晶についても急ぎご用意いたしますので、取引は明日の正午でいかがでしょう?」
おいおい。そんなに急で大丈夫なのか?
それにしてもこの男、めちゃくちゃ浮かれてんなぁ。ウキウキしている様子が全然隠せてないぞ。
「うむ。では、それで頼む。最後に買い取るスキル結晶は竜を除き最大十個までだ。さすがに無制限というわけにはいかないのでな」
「……かしこまりました」
その言葉で奴のテンションが少し落ちる。
こいつどんだけの数を売りつける気だったんだよ。本当に仲買人って奴は……。
握手を交わしロビーへ戻るとルークはすぐに冒険者を捉まえ大急ぎで移動していった。
まあ、俺のために頑張ってくれたまえ。
自宅に戻り大急ぎで風呂を沸かして食事にする。
彼女たちはルークの用件に興味津々だったため、食べながら説明を行ったところプリプリ怒り出した。
「なんて卑怯な! ご主人様を騙そうとするなんて!」
「これだから仲買人は! 彼らを信用するべきではありません!」
この状況で思うことではないんだろうけど、こんな表情もめちゃくちゃ可愛いわぁ。
「大丈夫だよ。きっちり反撃をしておいたからね」
「反撃ですか?」
笑いながら伝えると頭の上に大きなハテナが浮かんでいるような表情でロクサーヌが尋ねた。
そして、セリーもキョトンとした顔でこちらを見つめている。
彼女たちにルークとの取引内容を伝えると表情が段々輝いていく。
「それで、明日の正午に受け取りに行くことになったってわけ」
「さすがご主人様! あの者もこんな反撃を受けるとは想像もしていなかったでしょう!」
ロクサーヌからさすごしゅをいただいていると、悪い笑みを浮かべながらセリーが口を開く。
「それだけではありません。少しでも利鞘を稼ぐため、三割引の餌食になるとも知らず高額なスキル結晶を用意することでしょう。被害を大きくするだけなのにいいざまです」
君は本当に仲買人が嫌いだねぇ。
まあ、今回の件については俺も同じ気持ちだけどさ。
「それじゃあ、あいつがどんなスキル結晶を用意するのか楽しみにしていよう」
「ふふ。ワクワクしますね」
「彼がどんな無様を晒すのか今から楽しみです」
俺のマイルドセリーも結構性格が悪いよなぁ。
でも、可愛いんだなぁ、これが。
翌日も早朝から二十階層で探索を行う。
今日からは賞金稼ぎのレベルを上げながら生死不問を試していく。
そのせいでMPの消費が激しくなっているが許容範囲だ。
また、詠唱短縮になっているためダブルスペルとダブルアタックの挙動を確認したところ、魔法については特に問題はなかった。
しかし、ダブルアタックについては両方のスキルの効果を乗せながら攻撃するのは至難の業だ。こちらは詠唱省略がないと使用できないと考えたほうがいい。
サーチアンドデストロイでひたすら魔物を倒しているうちに、ロクサーヌからいつもの言葉が出て探索を終える。
早朝の探索を終えた時点で賞金稼ぎのレベルは17。尋常ではない効率に頭がおかしくなりそうだ。
そして、彼女たちが朝食を作っている間に鏡の納品を済ませた。
二人が作ってくれた美味しい朝食をとり、リビングでくつろいだ後は給金を渡してペルマスクへ出発する。
ネックレスの売却があったためかなり待つことになったが、ロクサーヌとセリーは満足気な笑みを浮かべ、荷物を抱えて無事に戻ってきた。
商売は上手くいったようだな。
どういう取引だったのか気になるためザビルの迷宮を経由して一気に自宅へ飛ぶ。
物置に鏡を保管したところでリビングに移動し話を聞くことにする。
「それじゃあ、ペルマスクでのことを教えてくれる?」
尋ねてみるといつものようにセリーが口を開いた。
「はい。鏡職人の工房を訪ねると奥さんの友人が待っていたためすぐに商談に入りました。とはいっても彼女には同額で譲るという約束になっていたため、二つのネックレスを見せて好きな方を選んでもらい四十八万ナールで販売です」
マジかー。四十八万ナールのおかわりだよ。ほんとすげーわ。
「そして、奥さんに案内され元参事委員会代表のところにうかがったのですが、とても綺麗で立派なお屋敷でした」
「ええ。あまりにも大きくて気後れするほどでした」
へー。どんな感じだろう? ペルマスクの建物だからやはり白いんだろうか?
「邸宅や調度品の様子を見たところかなりの富豪であることが確認できたので、一先ず吹っ掛けてみました」
この鬼娘はいくらと言ったんだ?
……関係ないけど、鬼娘ってなんか『だっちゃ』とか言いそうだな。
「ハルツ公爵家が差配した事業であり、ゆくゆくはお墨付きを受けて販売されることになる予定の商品。その最初に作られた数セットのうちの一つという貴重な品であるため、百二十万ナールと伝えました」
百二十万!? そんな金を出すはずがないだろ!? 何を言ってるんだ君は!?
というか、予定とは言っているがこれは大丈夫なのか?
その奥さんが方々で触れ回ってハルツ公の不評を買うとかないだろうな?
この娘も割とルークと変わらんレベルで商売人としては質が悪いぞ。
いやまあ、三割引や三割アップを使いまくってる、さらに質の悪い悪徳商人がいるんだけどさ……。
「さすがにそんな額は出せないとのことで、そこから交渉を開始したのですが、彼女が大きく下げようとするところをのらりくらりとかわし、じわじわと下げながら最終的には鏡工房の奥さんの顔を立てて、百万ナールピッタリでこちらが折れたことにしてあります」
嘘だろ!? 百万ナール!? マジで言ってんの!?
「ご主人様、セリーは今日もすごかったのですよ。相手はとても貫禄のある方だったのに一切怯むことなく交渉を重ね、信じられないような額で販売してしまいました」
この娘たちはそれぞれ違う方向にとんでもない能力を持っていて、凡人の俺では計り知れないわ。
「それではご主人様。こちらが売却金です」
セリーはそう言うとアイテムボックスを開きローテーブルに硬貨を並べていく。
えっぐ。白金貨だよ。マジで白金貨があるよ……。本当に百万ナールで売ったんだな……。
動揺しながらそれを受け取りアイテムボックスへ収める。
今、俺は三百万ナール以上の資産を持っているのか……。
まだ春の五十日目にもなっていないというのにとても信じられん。
二人へのお礼もかねて今日こそはドレスの注文をしなければ。
「それじゃあ、そろそろ買い物に出ようか」
彼女たちに声を掛けソファーから立ち上がる。
田川 歩 男 18歳
探索者Lv45 英雄Lv40 遊び人Lv33 魔法使いLv44
装備 サンダル 身代わりのミサンガ
BP振分 残BP:3
キャラクター再設定:1
フォースジョブ:7
必要経験値二十分の一:63
詠唱省略:3
鑑定:1
ワープ:1
ジョブ設定:1
MP回復速度二十倍:63
所持金:3,199,724ナール
春の47日目
いつも拙作をお読みいただき本当にありがとうございます。
今年も更新を続けられたのは素晴らしい原作と、お読みいただいた皆様のおかげです。
また、UA、お気に入り、感想、評価、ここすきといった反応のおかげで創作意欲の後押しをしていただいています。
連続更新はもう少し続きますので、令和7年もお楽しみいただければ幸いです。