異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

145 / 300
144 鴨葱

 

 

 

 

 

帝都

 

 

 

 

 

 クーラタルとベイル、それから帝都の武器屋、防具屋を回ってみたが今日も空振りに終わってしまった。

 セリーのこさえた装備品の売却だけを済ませて店を出る。

 

 うーん……。やっぱ良い装備品はそうそう見つかるものじゃないなぁ。

 

 気を取り直して彼女たちに声を掛けた。

 

「今日も買い物はなしでいいということだったが、俺の用事に付き合ってもらえるか?」

「もちろんです」

「かしこまりました」

 

 ロクサーヌとセリーは笑顔で頷いてくれる。

 

「よし。それじゃあ行こう」

 

 絶世の美女二人を伴い華やかな帝都の街並みを歩く。

 

 彼女たちがもっと笑顔になってくれるといいのだが……。

 

 

 

 

 

帝都

高級服屋

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませ」

 

 店に入ると慇懃な挨拶で出迎えられる。

 

 一着最低二十万ナール。二人で四十万ナール……。

 足がすくみそうになるものの、意を決して紳士風の店員のところへ向かう。

 

「すまない。いいだろうか? 先日相談させてもらった件についてなのだが注文をさせてもらいたい」

 

 そう告げると彼は少しだけ目を見開く。

 しかし、すぐに表情を改めて頭を下げた。

 

「ありがとうございます。私どももお客様のお力になれるよう、全力でお手伝いさせていただきます」

 

 先ほどネックレス二つで百四十八万ナールもの大金を稼いでいるため感覚が狂ってしまっているが、四十万ナールは大商いだろう。彼に気合が入るのも当然だ。

 

 その様子にロクサーヌとセリーは戸惑っていた。

 

「女性のドレスとなれば、私が対応するわけにはいきません。すぐに担当する者を呼んでまいりますので、少々お待ちください」

 

 その言葉を聞いた二人は戸惑いに少しだけ期待が混ざったような表情でこちらを見つめている。

 

「ロクサーヌとセリーにはいつも助けられてばかりだろう? 閣下の夕食会に招かれる予定もあるし、感謝の気持ちを込めてドレスを贈ろうと思ったのだ。まあ、美しい二人が着飾ったところを見たいというのが一番の理由だけ――」

「ご主人様!」

「ありがとうございます!」

 

 おっと。

 話し終わる前に体をぎゅっと抱きしめられてしまった。

 

「いつも助けられているのは私の方です。これからもご主人様のおそばにおいてください」

「こんなに良くしていただけるなんて……。本当にご主人様の下へ来ることができてよかった……」

 

 店内の注目を浴びながら、あやすように二人の体をポンポンと叩いていく。

 

 

 

 程なくして紳士店員が下着の注文の対応をしてくれた女性店員を伴い戻ってくる。

 こちらの様子を見て一瞬驚いたようだが、華麗にスルーして口を開いた。

 

「お待たせいたしました。この者が対応いたします」

「肌着の件では大変お世話になりました。ご恩のあるお客様のオーダーをお受けします。私どもも全力で取り組んでまいります」

 

 彼らの声を聞いてロクサーヌとセリーは恥ずかしそうに体を離す。

 恥ずかしがってる女の子ってなんでこんなに可愛いんだろう……。

 

 

 

 もうすっかりお馴染みとなった部屋へ通され確認を受ける。

 夕食会の規模や主催者の身分について尋ねられたので、ざっくばらんな会であることと主催者が公爵であることを告げると彼女の目が見開かれた。

 

「公爵主催の夕食会ですか……」

 

 公爵ってことはこの封建社会において上位数人の権力者のうちの一人。そりゃ驚くのも無理はない。

 というかいずれその頂点である皇帝とも馴染みになる予定だけどな。

 

「まあ、本決まりではないので流れてしまう可能性もあるが、衣装の用意ができておらず礼を欠いてしまっては不味い。今のうちから準備しておく必要があるだろう」

「なるほど。確かにそうですね」

 

 彼女は納得したように頷くと今度はドレスを実際に身に着けるロクサーヌとセリーの身分を確認してきた。

 

「彼女たちは奴隷身分となる。ただし、この世で最も大切な女性で、俺は彼女たちを粗雑に扱われることが何より我慢ならない」

 

 今までの接客を見ていると絶対にそんなことはしないだろうが念のため釘を刺しておく。

 

「えっ!? 奴隷ですか!?」

 

 女性店員は声を上げ二人を凝視している。

 

「輝くような髪の色つやに血色がよくシミ一つない美しい肌。当店で購入していただいている品質の良い服。まさかこんなに大切にされている奴隷がいるなんて……」

「ふふ。私たちは世界一のご主人様の下で生活していますから」

 

 こらこら。そのドヤ顔はやめときなさい。

 それとセリーも頷かないでいいから。

 あと、世界一は言い過ぎ。

 

 その後、俺の身分を確認され彼女たちが身に纏うことが許されるドレスの種類と色を告げられる。

 あまりよく分からなかったがフリルたっぷりで華美なものはアウト。シンプルなデザインのみが許されるようだ。

 色についても原色に近い鮮やかなもの、それから金や銀といった光り輝く物はダメで、さらに複数の色を組み合わせるのもいけないらしい。

 結局、彼女たちが身に着けていいドレスは飾りが少なく、単色で淡い色ということか。

 

 仕事中は安物のスーツ、プライベートはポロシャツとジーパンだった俺からすればよく分からない世界だ。

 

 この後は採寸とデザインの打ち合わせとなったため退出することにした。

 

「ロクサーヌ、セリー。値段のことは気にせず君たちが着たいと思うものをオーダーするようにな。俺はそれが見てみたい」

「ありがとうございます! 私とセリーのドレス姿にご期待くださいね!」

「主人様に気に入っていただけるよう全力で注文します!」

 

 可愛いことを言う二人に思わず笑顔になってしまう。

 もう一度店員の女性に二人のことを頼み部屋を後にした。

 

 店内に設置されている椅子に腰を下ろし注文が終わるのを待つ。

 

 そういえば、俺の服はどうするべきだろう。

 彼女たちと釣り合いが取れるような服なんてあるんだろうか?

 大衆用の既製服なんてないだろうし、あったとしてもスラッと手足の長いこの世界の人用に作られたものだと胴長短足の身には……。

 それに、高級なものを仕立ててもらったところで着るのが俺なんだよなぁ……

 

 

 

 

 

 ……んっ。 んぁ? ああ……。帝都の服屋か……。

 えーっと……。まだ終わってないみたいだな……。

 

 感覚的にはめちゃくちゃ寝た気がするんだけど……。

 

 長くない? 長すぎない?

 いや、分かるよ? ドレスのオーダーだもん。今までとは訳が違うってのは理解できる。

 でも、それにしても長すぎるでしょうよ。

 

 

 

 その後もうつらうつらしながら待っているとようやく奥の部屋の扉が開く。

 輝くような笑みを浮かべているうちの娘たちに対し、女性店員の表情は疲労困憊といった様子だ。

 すんません。うちの娘たちが無理を言ったようでほんとすんません。

 

「ご主人様、お待たせいたしました」

「満足いく注文は出来たか?」

 

 ロクサーヌに問いかけてみるとセリーと顔を見合わせ笑い合う。

 

「はい! きっとご主人様にもお喜びいただけると思います!」

 

 それは楽しみだなぁ。

 

「二人が望み通りの注文が出来たのなら良かった」

 

 そう言うと彼女たちは深々と頭を下げ感謝の言葉を告げた。

 

「ご主人様、ありがとうございます」

「私たちは本当に幸せ者です」

 

 なあに。いいってことよ。

 

 

 

 俺たちのやり取りが落ち着くと紳士風店員に声を掛けられカウンターで精算を行う。

 

「この度はご注文いただき誠にありがとうございます。それでは確認いたします。そちらのお客様がオーダーしたドレスが三十六万ナール」

 

 彼がロクサーヌを示しながら告げた言葉に度肝を抜かれる。

 

 三十六万ナール!?

 

 いやいや! 動揺を表に出すな! ロクサーヌが傷つくだろ!

 

 平静を装いながら重々しく頷く。

 

「うむ」

「そして、こちらのお客様がご注文のドレスが三十万ナールとなります」

 

 ついさっき百四十八万ナールを手に入れている!

 このくらいなんともない! 自分に言い聞かせろ!

 

「なるほど」

 

 俺が頷くと彼も頷きを返し言葉を続けた。

 

「合計六十六万ナールとなりますが先日はひとかたならぬご恩を賜りました。そして、本日もこれほどのご注文をいただいたのです。今回は四十六万二千ナールといたします」

 

 動揺を抑え込みながら支払いを済ませる。

 マジか……。今日稼いだ百四十八万ナールのうち四十六万ナールが一瞬にして溶けたのか……。

 

 少しばかりへこんでしまったが、笑顔のロクサーヌとセリーを見てそれも消える。

 

 そうだよな。彼女たちがこれだけ喜んでくれているんだ。

 四十六万ナールなんてなんでもない。

 金ならまた稼げばいいさ。

 それに、まだ白金貨が二枚もあるんだ。十分十分。

 

 店員たちに見送られ晴れやかな気持ちで店を後にする。

 

 

 

 

 

帝都

 

 

 

 

 

「それじゃあ自宅で装備を整えて迷宮に行くか」

 

 店を出たところでそう告げるとロクサーヌが気まずそうに口を開く。

 

「あの……、ご主人様……。もうそろそろお昼になりますので迷宮は……」

 

 あー。ペルマスクでの商談に武器屋防具屋巡り。そして、ドレスのオーダーだ。

 まあ、しゃあない。

 

「では、家の鍵と買い物代を渡してクーラタルの冒険者ギルドへ送るから二人は昼食の支度を頼む。俺は商人ギルドへ行ってくる」

 

 ロクサーヌの案内で路地裏に入りワープゲートを展開した。

 

 

 

 

 

クーラタル

商人ギルド

 

 

 

 

 

 彼女たちを送り届けて商人ギルドへ移動し、受付でルークを呼び出すと浮かれ気分でロックンロールな男がやってくる。

 

「お待たせいたしました! それでは商談室へご案内いたします!」

 

 めちゃくちゃテンションたけーな、おい。

 声も今までにない程のボリュームだ。

 もう全身から鴨が葱を背負ってきやがったという気持ちがにじみ出ている。

 

 ……でも、どっちが鴨なんでしょうかねぇ。

 

 

 

 ソファーに腰を下ろすと挨拶もそこそこに奴はすぐに商談に取り掛かる。

 

「まずは竜のスキル結晶です」

 

 そう言ってアイテムボックスを開きスキル結晶を取り出しローテーブルの上へ置く。

 

スキル結晶 竜

 

 間違いない。竜のスキル結晶だ。

 よっしゃ! これで防御力貫通のスキルを試すことができる!

 

 価格についてはともかく、物自体は間違いないものなのでテンションが上がりまくっているとルークが口を開く。

 

「竜以外のスキル結晶についてなのですが、相場は前回落札価格ということでよろしいでしょうか?」

 

 うん? まあ、別にいいか。

 

「ああ。それで構わない」

 

 その返事を聞くと奴は一瞬だけニヤリと笑みを浮かべた。

 ……何を企んでるんだか。

 

「それでは、まずはこちら」

 

 そう言ってスキル結晶を取り出しローテーブルの上に載せたので鑑定をかける。

 

スキル結晶 鳥

 

 そういうことか。こいつ、ほんま……。

 

「こちらは鳥のスキル結晶。前回の落札価格は一万三千五百ナールのため、一割増で一万四千八百五十ナールとなります」

 

 前回、鳥のスキル結晶を落札しているのは俺で、そのときは相場の価格を大幅に上げて買いを出していた。

 つまり、自分で自分の首を絞めたと言いたいわけだな?

 もしかしたら以前詰められたことへの意趣返しもあるのかもしれない。

 

 でもね? ルーク君? 私にその攻撃は効かないのだよ?

 

「うむ。大丈夫だ」

 

 こちらの返事に一瞬驚いた表情を浮かべたものの、すぐにアルカイックスマイルに戻る。

 

「さすがアユム様です。それでは続いてはこちらです」

 

スキル結晶 慈母ヤギ

 

 はぁーーー!!!

 なんだこれ! 何のスキル結晶だこれ!

 

「ヤギ系最上位種であるアマルテイアの残す慈母ヤギのスキル結晶です。とても貴重な逸品で前回落札価格は十二万六千ナールでしたので十三万八千六百ナールとなります。最上位種のスキル結晶でも問題ありませんよね?」

 

 少しでも儲けを増やすためにこんなもんを引っ張り出してきたのか!

 こいつの欲の皮が突っ張っていたおかげでとんでもないことになった!

 もう値段なんかどうでもいい! おそらくこれで知力五倍が付くのだろう。セリーが隻眼になる日に向けて大切に保管しておこう。

 

 ナイスルーク! グッジョブルーク! お前はやる男だと思ってたんだよ!

 

「ああ。もちろん問題ない」

「ありがとうございます。もしかしたら最上位種のスキル結晶は拒否されてしまうかと心配しておりました」

 

 高ければ高いほどこちらは得をする。そんなことはありえないんだな、これが。

 

 そして、次に出してきたのがハイコボルトのスキル結晶。

 ルークパイセン、あざーす! マジリスペクトっす!

 

 それにしても、最上位種のスキル結晶には一・五倍まで出すと言ってあるのに、よく今回の取引に出してきたよなぁ。

 

 おそらく、オークションで五割増しに吊り上げることで出品者から受け取るキックバックより、相場やそれより少し安いくらいで買い取って一割増で俺に売りつける利益の方が大きいのだろう。

 本当にこいつが欲張れば欲張るほどお得になっていく。三段逆スライド方式だ。

 

 

 

 それからはサイクロプス、スライム、ハーブ、貝、コボルトと続く。

 

 うーん……。最上位種は二つだけか。それに値段も徐々に下がっているなぁ。

 

「そして、こちらです」

 

スキル結晶 ハチ

 

 ハチ……。ハチかぁ……。

 

「ハチのスキル結晶となります。これは融合して付くスキルの効果が今一つであまり人気がないのですが、その割に高値で落札されることが多く、前回落札価格は五千四百ナール。なので、五千九百四十ナールになります」

 

 へー。高い上に運用に難があるんですか。それなら、どうして君はそんなスキル結晶を持ってきたんですかねぇ。

 

 でもまあ、帝国解放会では需要がある。

 スロットが二つあるアクセサリーへ身代わりスキルと一緒に付けてロッジの販売店に流せばいいだろう。

 

 ……いや。作中では身代わりとダメージ逓増のスキルを両方つけることに成功した例はないといわれていた。

 ミチオが推察していた通り、最大スロット数が一つのミサンガで試しているため成功していないんだろうが、もしそんなものを持ち込んだら融合に成功したセリーの腕がいいと思われてしまう。

 帝国開放会は権力者たちの巣窟だ。原作で登場した人物たちは良い人が多かったが、融合したセリーの身柄をよこせという話になってもおかしくはない。

 

 ……うん。絶対駄目だな。

 

 

 

 思索を打ち切り返事をする。

 

「ああ」

「これが最後のスキル結晶です」

 

 ルークが取り出したそれに鑑定をかける。

 

スキル結晶 竜

 

 こいつ……。舐めやがって……。

 

「竜のスキル結晶です。アユム様に売却するためのスキル結晶を探していたときに、偶然これを持っていた仲買人仲間が譲ってもいいと言ってくれたのです」

 

 バカタレ。そんな偶然があるかよ。

 というか、これが一割増で手に入るなら今回の取引の意味が失われるじゃねーか。

 

 こんな真似をされても俺が怒り出すことはないと踏んでいるのだろう。

 

 あれだけ詰めたのに完全に舐められてるなぁ……。

 少し前まで事なかれ主義のサラリーマンをやっていたのだ。どれだけ虚勢を張っていても気弱な本性を見透かされているのかもしれない。

 

 でもまあ、絶対に俺は損をしない取引。今回は大目に見てやるさ。

 

「そうか。予備も欲しかったところだ。助かる」

「アユム様のお役に立てて幸いです」

 

 どの口で言うんだ、おい。

 

 いやもう、なんというかこの男の図太さに怒ればいいのか、感心すればいいのか、それとも呆れるべきなのかさっぱり分からん。

 

 複雑な思いを持て余しているとルークが立ち上がる。

 

「それではギルド神殿で確認を行いましょう」

 

 十一個で千百ナールだぞ? 行くわけねー。

 

「大丈夫だ。ルークが馬鹿な真似をするはずがないと信じているからな」

 

 今まで一度もスキル結晶のすり替えをしようとする素振りはなかった。

 おそらくこいつの中でアウトセーフの基準があり、それを踏み越えるつもりはないのだろう。

 入札妨害や不正入札、価格操作にカルテルといった行為は彼の中でセーフ判定。

 そして、物のすり替えのようなことはアウトという判定だ。

 

 システムによる判定でも盗賊になっていないことから推察するに、仲買人の間でそのあたりの基準は共有されているのかもしれない。

 

 

 

 ルークは顔を引きつらせながら翻意を促そうとする。

 

「ですが、高額なスキル結晶がこれだけの数ですので……」

「くどい。何も問題ない」

 

 彼は一つため息を漏らして口を開く。

 

「かしこまりました。それではお支払いいただく金額の確認を行います。まずは、竜のスキル結晶が二万二千五百ナール」

 

 そう言うと視線で問いかけてきたため頷きを返す。

 

「それから、鳥が一万四千八百五十ナール、慈母ヤギが十三万八千六百ナール、ハイコボルトが三万八千五百ナール」

 

 ルークは嬉しさが隠し切れないといった表情で三つのスキル結晶の値段を告げる。

 

 ぼったくってやったと思ってるんだろうなぁ……。

 鳥はともかく、その最上位種のスキル結晶のせいで、お前さんかなり損をすることになるぞ。

 

「そして、サイクロプスが一万一千七百七十ナール、スライムが一万二百三十ナール、ハーブが九千七百九十ナール、貝が八千六百九十ナール、コボルトが六千五十ナール、ハチが五千九百四十ナール。そして、最後に竜のスキル結晶が一万四千三百ナールです」

 

 一旦言葉を切り、笑顔でこちらの様子を確認している。

 この竜のスキル結晶で完全に出し抜いてやったという雰囲気だ。

 

 でもね? そうはいかんのよ。

 

 罠カード発動!!

 

「以上、十一点で合計二十八万一千二百二十ナールとなりますが、これほど大量にご購入いただいたのです。今回は十九万六千八百五十四ナールで結構です」

 

 はいよー。アリが父さん、ミミズが母さん。

 

「うむ。ルークの心遣いに感謝する」

 

 さっさと支払いを済ませ、にこやかに握手を交わして部屋を出た。

 

 嬉しそうにしていたがどのタイミングで損をしたことに気が付くんだろう?

 本当に三割アップや三割引は不思議なスキルやで。

 

 でもまあ、こんな不自然なことを繰り返すわけにはいかないし、今回限りにしておくべきだろうな。

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 自宅に戻ると昼食の支度が整っていたため、食事をとりながらルークとのやり取りを話すことにする。

 

 

 

「それでルークは、竜のスキル結晶を出した後に相場についてのすり合わせを行ってきた」

「相場についてですか?」

 

 ロクサーヌが不思議そうに尋ねてきたのでその説明を行う。

 

「うん。一言で相場といっても変動するものだからね。何らかの基準が必要になるでしょ? 今回の場合は直近の落札価格を相場としたいと言ってきた。まあ、特に反対する理由もないから了承したよ」

「なるほど」

 

 彼女は納得したようにコクコク頷いている。

 何それ。めちゃくちゃ可愛いじゃないのさ。

 

「そして、奴が最初に出してきたスキル結晶は鳥だった」

 

 その瞬間、セリーの目が鋭く細められる。

 

「もしかしてご主人様が上限をかなり上げて落札したものが相場ということになったのですか?」

「うん。一瞬だけど、してやったりという表情を浮かべていたからね。おそらく意趣返しの意味も込めて狙ったんだろう」

 

 それを聞いた二人は瞬時に怒りゲージがマックスへ達したようだった。

 

「ご主人様を謀ろうとするなんて! 本当に許しがたい男です!」

「やはり仲買人などという輩は信用なりません!」

 

 以前と同じようにルークとの付き合いを断つべしと息巻いている。

 

 うわぁ……。ガチギレだぁ……。

 

「まあまあ。そのおかげで労せずして鳥のスキル結晶を手に入れることが出来たんだよ? しかも、こちらを出し抜いたつもりなんだろうけど、実際には相場より安く手に入れることが出来た。それに気づきもせず間抜けに踊っていると思えば腹も立たないでしょ?」

 

 ロクサーヌはそれを聞いて渋々頷く。

 

「腹立たしさはありますがご主人様がそうおっしゃるのでしたら……。結果的に役に立ったことですしなんとか収めます……」

 

 うわぁ。この娘全然納得してねー。

 

 一方、セリーは造形の整った可愛らしい顔に邪悪な笑みを浮かべながら口を開く。

 

「欲をかき、相手を出し抜いてやろうなどと考えるからこうなるのです。まったく、愚かな男ですね」

 

 元参事委員会代表の奥さんにネックレスを売りつけた時の君と、たいして変わらない気がするんですが……。

 

 

 

 二人が落ち着いたところで話を続ける。

 

「その次は慈母ヤギとハイコボルトのスキル結晶を出してきた。どちらも最上位種からしかドロップしない貴重な品だ」

 

 それを聞いたロクサーヌは口をあんぐりと開き、セリーは嘲るような笑みを浮かべていた。

 

「大損をするとも知らず最上位種のスキル結晶を持ち出してくるとは。なんという愚か者でしょう」

 

 おいおい。めちゃくちゃ感じ悪いな、これ。

 ドワーフと仲買人の溝ってこんなにも深いものなのか?

 というか、ドワーフに仲買人はいないのかね?

 

 

 

 気を取り直してサイクロプス、スライム、ハーブ、貝、コボルト、ハチのスキル結晶を提示された旨を告げると、そのたびにナイスなリアクションをしてくれる。

 ハチはともかく、他はどれも有用なものだからな。

 

 ……いよいよ最後の一つだ。これを聞いたら怒るんだろうなぁ。

 

「そして、ルークが最後に取り出したスキル結晶は竜だった」

「えっ?」

「竜ですか?」

 

 二人は一瞬何を言われたのか理解できなかったようでこちらを呆然と見つめていた。

 しかし、徐々に表情が怒りの色へ染まっていき、遂には大爆発してしまう。

 

 俺が舐められていることに対し、ロクサーヌはルークを討つべしと怒り狂っている。

 そして、セリーはというとあらん限りの罵詈雑言を並べ立てていた。

 

「ご主人様! このまま舐められたままではいられません! 決闘を申し込み始末すべきです!」

「ロクサーヌさんの言う通りです! 舐められたままではさらに増長していくことでしょう!」

 

 とはいってもなぁ……。

 明確にこちらへ害意を持っていたり、盗賊だったりすれば始末するのもありなんだろうけど、ただ舐められたからといって殺してしまうのは現代日本人としてはちょっと……。

 いやまあ、盗賊を殺りまくってるから今更だけどさ。

 

「二人とも落ち着いて。昨日の今日で貴重なスキル結晶を大量に用意できたあたり、ルークはかなり優秀な男だ。迷宮討伐を成し遂げて貴族を目指すならこういった者を使いこなす度量も必要なんじゃないかな? これからも俺たちのために働いてもらおう」

 

 なんで俺がルークのフォローをしないといけないんだろう……。

 

「そう、ですね……。迷宮討伐を成し遂げ領主となれば様々な人材を使いこなす必要があるでしょう……。分かりました。ご主人様の言葉に従います」

 

 セリーは渋々、矛を収めてくれた。

 そして、ロクサーヌもその言葉に続く。

 

「はい。許しがたいですが今回だけは収めておきます。ですが、私はご主人様を侮られることが何より我慢なりません! 次にこのようなことがあれば目に物を見せてやります!」

 

 ……一体、何をする気なんですかねぇ。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

探索者Lv45 英雄Lv40 遊び人Lv33 魔法使いLv44

装備 サンダル 身代わりのミサンガ

 

BP振分 残BP:3

キャラクター再設定:1

フォースジョブ:7

必要経験値二十分の一:63

詠唱省略:3

鑑定:1

ワープ:1

ジョブ設定:1

MP回復速度二十倍:63

 

所持金:2,561,551ナール

 

春の47日目

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。