異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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146 おかわり

 ゴキブリとの激しい戦いを繰り広げた翌日はシュラブの葉を購入し、セリーに毒餌を作ってもらって家中に設置した。

 これで奴らがいなくなってくれるといいんだが。

 

 その後も俺たちのやることは基本的には変わらない。

 迷宮探索に鏡の納品。夕方の修行と筋トレだ。

 変わったことといえば白身や赤身がアイテムボックスにたくさんあるため魚料理の頻度が増えたくらいか。

 もうすぐ加入する魚大好き娘にも、きっと満足してもらえるだろう。

 

 そう。今日は春の五十日目。原作でミリアが加入した春の五十五日まで、あと五日なのだ。

 近いうちに彼女たちと打ち合わせをしないとな。

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 朝食の買い物を済ませ自宅に戻る。

 

「それじゃあ朝食の準備はお願いね。昼食はマヨネーズと赤身のオイル漬けを仕込んでいるからサンドイッチにしよう」

 

 そう言うと二人は顔を輝かせた。

 

「ツナサンドですね! とても楽しみです!」

 

 ロクサーヌの言葉に頷きながらセリーも口を開く。

 

「あれは本当に美味しかったです」

 

 ふふん。今日はそれだけではありませぬぞ。

 

「お嬢様方。他にも卵サンドやハムチーズサンドなんてのもございます」

「卵サンド!」

「ハムチーズサンド!」

 

 彼女たちは大きな声を上げると瞳を期待で輝かせこちらを見つめている。

 

 ほんと、可愛い娘たちだわ。

 

 

 

 鏡を取りに物置へ移動しながら思索に耽る。

 

 今朝の探索で賞金稼ぎのレベルは29に到達した。

 30が見えてきたことだし、そろそろ生死不問が成功してほしいんだけどなぁ。

 

 それに、昨日の探索で探索者のレベルも47になっている。

 フィフスジョブを設定し料理人を付けたボス狩りも可能になったということだ。

 近いうちにトロと豚肩ロースを狙ってみなければ。

 

 そして何よりも冒険者まであと3、魔道士まであと4だ。完全に射程圏内に入っている。中級ジョブの解禁も近い。

 

 この世界に転移して五十日目。原作知識のおかげでここまでは順調といえるだろう。

 

 物置から鏡を回収し玄関からボーデの宮城へジャンプした。

 

 

 

 

 

ボーデ

宮城

 

 

 

 

 

 ワープゲートを通り抜けると普段とは違い、城の中が何やら慌ただしい。

 エンブレムの前に詰めフィールドウォークで移動してくる者を確認している騎士たちもどこか落ち着かない様子だ。

 

 とりあえず、馴染みの男に挨拶をして公爵の執務室へ向かう。

 

 

 

 このくらいの時期に何かあったかなぁ……。

 

 

 

 ……ああ。そういうことか。

 

 考えながら歩いていると答えにたどり着いた。

 

 おそらくボーデに迷宮が見つかったのだろう。

 ハルツ公爵領の迷宮はこれで三つ目。早急に討伐しなければいけない。

 なるほどな。騎士たちの様子にも納得がいく。

 

 となると、今日はこのまま迷宮を案内されるのだろうか?

 

 確かターレの迷宮で盗賊に出くわしていたよな? えーっと、あれは何階層だったっけ?

 それに、ハルバーの、えーっと、十二だか十三階層でハインツ一味を始末するはず。

 さらに、ボーデの迷宮ではバラダム家と遭遇することになる。

 

 今日、迷宮を案内されるかは分からないが、スケジュールの確認は朝食後にすることにしよう。

 他にも相談しなければならないこともあるしな。

 

 

 

 執務室へたどり着き、ノックをするとゴスラーが扉を開き中に招き入れられる。

 彼らの表情は普段に比べ険しくなっており、間違いなくトラブルがあったことがうかがえた。

 とりあえず、いつもの通り鏡を確認してもらい、金貨一枚と銀貨五十枚を受け取ってアイテムボックスへしまい込む。

 

 それが済むとハルツ公が重々しく口を開いた。

 

「実は昨日、我が領に三つ目となる迷宮の入口が開いてな」

 

 やっぱりか。

 

「本日は城内の雰囲気が物々しく何事かと思っておりました」

「気が付いておったか。騎士団員の数にも限りがある。三つの迷宮の対処となると団員に大きな負担をかけてしまうだろう。そこで、アユム殿に頼みがある。我が領の迷宮探索を手伝ってはもらえぬか?」

 

 きた。

 原作によると人里が近かったり人の出入りがある迷宮は活動が和らぐらしい。魔物を外へ出すことが少なくなり、出しても一階層の弱い魔物だけ。

 しかし、人が入らないと迷宮は活動が激しくなっていき十二階層。つまり第二ランクの魔物が放出されるようになる。

 これがさらに進むと二十三階層。第三ランクの魔物が出現してしまう。

 

 グミスライムですら村人総出で挑んだ上に犠牲を覚悟する必要があるのだ。

 これが、ドライブドラゴンやロックバード、レムゴーレムだと絶望しかないだろう。

 

 うちのお嬢様は幼い頃に遊び半分でノンレムゴーレムを狩っていたわけだが……。

 本当にバグキャラがすぎるぞ……。

 

 彼の言葉に頷きながら答える。

 

「はい。私でお力になれるなら喜んで」

「おお。受けてもらえるか」

 

 公爵が喜びの声を上げるとゴスラーが問いかけてきた。

 

「別の騎士団に所属していたり、委託契約を結んでいるということはありませんか?」

 

 きっと二重契約を結んでしまうと不味いことになるのかもしれない。

 それ以外にも、帝国解放会に勧誘するにあたって、俺が紐付きかどうかが気になるのだろう。

 

「今まで騎士団に関わったことはありませんので、ご心配には及びません」

 

 それを聞くと彼らは顔を見合わせ頷いた。

 何についてのアイコンタクトだったんですかねぇ……。

 

「現在の探索状況は発生した順に、ハルバーが四十一階層、ターレは十三階層、そしてボーデは昨日発生したばかりのため一階層も突破していません。ご自分に合った迷宮の探索をお願いいたします。また、お渡ししているワッペンを迷宮の入り口にいる探索者に見せると、騎士団員に準拠した扱いとなり最高到達階層へは無料で案内してもらえるでしょう」

「ありがとうございます」

 

 最高到達階層だけが無料なのはちょっとあれだよなぁ。

 まあ、迷宮討伐を目指している騎士団の特典なんだから、当然といえば当然だけどさ。

 

 ゴスラーにボーデの迷宮はギルドで、ターレの迷宮は災害救助の際に訪れた村で場所を教えてもらうよう告げられる。

 そして、ハルバーの迷宮はこの後で冒険者に案内させると言われたところでハルツ公が口を開いた。

 

「いや。今日は余も早めに出るとしよう。それならアユム殿も同行できるであろう。準備を整えてくるゆえ、しばらくここで待たれよ。ゴスラー、アユム殿の話し相手を頼む」

「はっ」

 

 ほんと、身分にあった重みというものがないお人やで。

 とてもこの国で上位数人の権力者とは思えん。

 でも、だからこそ俺のようなどこの馬の骨だか分らんような奴に対しても、あんな風に気さくに接してくれるのだろう。

 

 ……あのクソブラック企業の役員どもと比べれば人間性に天と地ほどの差があるわ。

 あ。人間じゃなくてエルフか。

 

 

 

 公爵が部屋から出て行くとゴスラーが困った顔で口を開く。

 

「申し訳ありません」

「いえ。お気になさらず」

 

 好ましい人物ではあるものの、部下は苦労してそうだなぁ。

 

 執務室に残ったゴスラーと雑談をしながら時間を潰す。

 あれこれ探られるものの、いつものようにのらりくらりとやり過ごした。

 まあ、地球のことを説明するわけにはいかないし、言ったところで信じるはずがない。

 俺は生涯こういったやり取りを続けることになるんだろうなぁ。

 

 

 

 中身のない不毛な会話を続けていると、しばらくして扉が開く。

 

「アユム殿。待たせたな」

 

 おいおい。なんだ、その恰好!? ツノが生えてるぞ!?

 

 ハルツ公とカシアが部屋に入ってくるが彼の身に着けている装備品に度肝を抜かれた。

 

 まるで蛮族かバイキングがかぶってそうなツノの生えた兜に武骨なマント。そして、手甲と具足を身に着けている。

 金髪ロン毛の麗人とは思えないワイルドな装いだ。

 

 書籍版では装備品を身に着けた場面が描かれていることはなかったし、コミック版はそこまで話が進んでいなかった。

 正直、かなり予想外だわ。

 しかし、これはどんな装備品なんだ? 鑑定っと。

 

ハルツ公爵ブロッケン・ノルトブラウン・アンハルト ♂ 35歳

聖騎士Lv14

装備 激情のオリハルコン剣 頑強の猛牛兜 オラクル竜燐鎧 耐火の竜燐手甲 耐風の竜燐具足 身代わりのミサンガ

 

 なんかどれもすごそうだぞ。猛牛兜に竜燐の装備品か。マントは装備品じゃないっぽい。

 あと、武器が普段腰に差している物とは違うな。

 こいつは貴重なもので迷宮探索時にしか使っていないのかもしれない。

 

 でも、それに付いているスキルは攻撃力二倍が一つだけ。

 ふふん。公爵? 私のオリハルコンの剣には防御力貫通とMP吸収、それに腕力二倍が付いているんですよ?

 

「いえ。問題ありません」

 

 内心の優越感を押し殺して答えると、カシアが話し掛けてきた。

 

「アユム様。先日はまことにありがとうございました。あの宝石入れは我が公爵家に素晴らしい影響をもたらすことでしょう」

 

 うわー。めちゃくちゃ綺麗な笑顔だ。

 ロクサーヌやセリーと共に過ごしている俺ほどではないが、公爵も幸せ者だわ。

 

 一応、鑑定っと。

 

カシア・ノルトブラウン・アンセルム ♀ 29歳

魔法使いLv41

装備 ひもろぎのスタッフ 耐水のティアラ 耐火のローブ 耐風のアームロング 耐土のビットローファー 身代わりのミサンガ

 

 うん。原作でも確かこんな感じだったはず。

 

 彼女の言葉に返事をする。

 

「そう言っていただけるとアイデアをお譲りした甲斐があるというもの。宝石入れと鏡の枠が公爵領を盛り立てる一助となれば幸いです」

「えっ」

 

 カシアの言葉に返事をした瞬間、部屋の空気が凍り付いた。

 

 え? なんなの? 俺は何の地雷を踏んだんだ?

 

 彼女はこちらをジッと見つめながら口を開く。

 

「鏡の枠……、ですか?」

 

 え? マジ? カシアは知らなかったの?

 

 慌てて公爵とゴスラーを見ると、あちゃーと言いたげな表情をしていた。

 

 嘘だろ、おい。

 

 そして、彼女はさらに質問を重ねる。

 

「まさか、ペルマスクの鏡を持ち込んだのもアユム様なのでしょうか?」

 

 言えよ! 鏡の確認をしてもらったときに説明しとけよ!

 確かに原作と違って持ち込んだ日に彼女はいなかったけど、確認したときか、前回顔を合わせたときにでも言えただろ!

 

「はい。私が毎日納品させていただいております」

「えっ。毎日? ペルマスクの鏡を毎日持ち込んでいるのですか?」

 

 それもかよ! 鏡が毎日届いていることも知らないのかよ! いい加減にしろ! なんで原作とここまでズレてんだ!

 

 彼女は鋭い視線で公爵を睨み問いかけた。

 

「これはどういうことですか?」

 

 彼は一つ息を吐き出してから告げる。

 

「まあ、待て。説明をするので座るがよい」

 

 ゴスラーがソファーから立ち上がりその後ろに控えたところで、俺の正面にハルツ公が、その隣にカシアが腰を下ろす。

 彼は兜を脱いでローテーブルに置くと話し始めた。

 

「事は第三皇子の婚姻に関わる物。外部に漏れるとアイデアを掠め取られる懸念があったのだ。身内であろうとも知られるわけにはいかぬ」

 

 すると、彼女は不満げな表情を浮かべて反論をする。

 

「妻であるわたくしにさえ秘密にする必要があるとおっしゃるのですか?」

 

 今、こんなことを思う場面ではないことは百も承知だが、可愛い二十九歳だなぁ。

 

「い、いや。もちろんカシアのことは信用しておる」

「でしたら――」

「待つがよい。他にも理由があるのだ。贈り物をした後はそれを見ていた者たちから多数の問い合わせがあろう。あらかじめ大量に在庫を用意しておき、欲しがる者へ行き渡らせることで商品価値を高め、真似されたとしても木枠付きの鏡ならハルツ公爵領であるというイメージを確立する。そのためにも、やはり人に知られるわけにはいかぬ。それにアユム殿のこともある」

 

 俺? なんで俺のことが出るんだ?

 

「なるほど……。探られますか」

 

 カシアは納得したように頷きながら呟いた。

 

「うむ。ペルマスクからボーデまで毎日鏡を運ぶことができる者だ。どの家であっても手に入れたいと考えるだろう」

 

 毎日運んでいるわけじゃないけどね。いや、やろうと思えばできる上に一日何度だって可能だけどさ。

 

「そうですね。間違いなく囲い込もうとすることでしょう」

 

 公爵はその言葉を聞き、我が意を得たりとばかりに笑顔で告げた。

 

「そのような事情があったため、この件については極力知る者を増やすわけにはいかなかったのだ。分かってもらえたであろう」

 

 しかし、彼女は再びキッと公爵を睨みながら口を開く。

 

「ですが、いくつか問題があります」

「う、うむ」

 

 ハルツ公は先ほどの笑顔はどこへやら、焦ったように頷いている。

 

 この人、めちゃくちゃ尻に敷かれてんなー。

 原作の描写だとこんなことはなかったはずだが、夫婦間の力関係はこんな感じだったのか。

 すげー親近感が湧くわ。

 

 それに、カシアも女神のような描かれ方をしていたがこんな言動もするんだな。

 ぷんすか怒っている表情も可愛いし、これだけの美人さんに怒ってもらえるなんてご褒美以外の何物でもない。

 

「タルエムの枠を付けたペルマスクの鏡ですよ? 間違いなく注文が殺到するでしょう。それなのに鏡の仕入をアユム様に依存していた場合、すぐに対応していただくことが難しく需要に応えることができません」

 

 あー。まあ、俺だってそれに掛かり切りってわけにはいかない。

 迷宮探索や修行といった自分の生活があるもんな。

 

「そ、そうだな」

 

 返事をすると俺の方を向き、アイコンタクトで頼むと訴えかけてきた。

 公爵、情けないっす。美形なだけに残念さがハンパないっす。

 

「いつまでも続くものではないと思っておりましたので私なら問題ありません。お約束の納品が済みましたら終了とさせていただきます」

 

 それを聞いた彼女がこちらに顔を向けると、そのタイミングで窓から光が差し込みその輝くような金髪と美しいかんばせを照らし出す。

 

「ありがとうございます。アユム様のお心遣いに感謝を」

 

 本当にとんでもない美人さんだなぁ。きっと、帝国では六番目の美しさだろう。

 もちろん一番は我が最愛の妻たちで間違いない。

 

 そして、カシアはさらに話を続ける。

 

「ですが、現在我が公爵家にはペルマスクへ行ったことのある冒険者がいないのです……」

 

 そう口にして顔をそっと伏せた。

 

 へー。そうなん? 原作ではどうだったっけ?

 

 ウェブ版では鏡の仕入を公爵家で行うためにルート構築をするみたいな話があったよな?

 それで、最後に持ってきた分を全て買い取るから好きなだけ持ち込むように言われていたはず。

 

 あれ? 書籍版ではその辺どうなったんだ? 十二巻終了時点でもまだ断られてはいない。その後もミチオが運搬しているんだろうか?

 

 考え込んでいるとカシアは上目遣いでこちらに視線を向けた。

 

「ペルマスクへ行ったことのある冒険者がいないのです……」

 

 そして、同じ言葉を繰り返す。

 

 あざとっ! 超あざと可愛いな、おい!

 

 でも、あれ? これって俺に連れて行けって言ってる?

 

「私でよろしければ公爵家で抱えている冒険者をペルマスクへご案内いたしましょうか?」

「本当ですか! アイデアをお譲りいただいた上にこのような事まで。本当にありがとうございます」

 

 おいおい。あんたが言わせたんやないかい。

 

「それではそのお言葉に甘えさせていただきます。アユム様の都合の付く日はいつになりましょう」

 

 都合のいい日? 今日はこの後迷宮に行くし、明日は仕入に行くがそれに同行させると、自分はペルマスクに入らずロクサーヌとセリーだけで行かせることに不信感を抱くだろう。

 

 うーん……。しゃーない。明後日で予定を組んだ上で他の用事があるから急いでいるとか適当に言って、往復するだけの弾丸ツアーを敢行するか。

 

 他にも、部外者がいるなら毘盧帽は使えず倹約の硬革グローブで挑むことになる。

 一気にペルマスクへ行くわけではなく、念のためケヴィンに連れて行ってもらったルートをたどるつもりだが、人数の制限をしておかないと。

 

「では、最後の納品となる明後日、春の五十二日目ではいかがでしょうか? あいにくその日には他の予定もあるため、行って帰ってくるだけの行程になってしまいますが……」

「ありがとうございます。春の五十二日目で異存はございません」

 

 セーフ。助かったー。

 

「それから、同行する人数は二人までにしていただきたく」

「まあ。二人も同行してよろしいのですか?」

 

 彼女は驚いた表情を浮かべていた。

 

 あ。やばっ。一人で十分だったのか。

 ……いや。今更、違うとは言えない。

 

「はい。問題ありません」

 

 頷きながら答えるとハルツ公が口を開く。

 

「うむ。さすが余が見込んだ男であるな」

 

 マジで彼は俺なんかのどこを見込んだんだろう?

 ルークからの情報が盛られたりしてない?

 

「ありがとうございます。では、同行者の選定を行いますので、春の五十二日目によろしくお願いいたします」

「かしこまりました」

 

 一枚一万五千ナールの売上がなくなるのは残念だが仕方がない。

 まあ、原作に比べればだいぶ儲けさせてもらったんだ。ここいらが潮時だろう。

 

 

 

 そして、彼女は再び公爵の方を向くとさらに続ける。

 

「公爵、アユム様に報酬はお渡ししたのですか? これだけの事をしていただいて何もないはずありませんよね?」

「うむ。鏡一枚に付き一万五千ナールを支払っておる」

 

 その言葉を聞いた彼女の目が鋭くなった。

 

「それは鏡の購入代金であって報酬ではありません」

「い、いや、分かっておる。もちろん別の報酬も考えておる」

 

 ほんとにー? 原作では何も渡していなかったし、何も言われなかったらバックレてたんじゃないのー?

 

 彼は表情を引き締め口を開く。

 

「アユム殿をアレに勧誘しようかと考えておる」

 

 すると、カシアが目を見開き言葉を漏らした。

 

「そうなのですか?」

「まだ、見定める必要はあるがな。事が上手く運び、達成した暁には手助けを行うつもりだ。そうなれば我らにも益がある」

 

 俺には分からない会話をしているつもりなんだろうけど丸わかりなんだよなぁ……。

 だが、疑問を抱かないのは不自然すぎる。

 

「勧誘ですか?」

 

 なんのことだか分かりませんという風に尋ねてみると、公爵は頷きながら答えた。

 

「うむ。まだ先のことでどうなるのか余にも分からんのだ。今は気にすることはない」

 

 いやー。それは無理でしょ。知らなければ、めっちゃ気になると思うんですがねぇ。

 

「ですが、公爵。そんな、あるのかないのか分からないようなものを報酬と言われてもアユム様も戸惑うでしょう。直接的な物も必要となります」

「確かにそうか……。では、二番煎じとなるが武器庫の装備品を二つ選んで持っていくがよい。それを報酬としよう」

 

 えー! マジ!? おかわりがきちゃったぞ!

 

 その言葉にカシアは納得したように頷いていた。

 

「ゴスラー」

「はっ」

 

 そして、ハルツ公はゴスラーに呼び掛ける。

 どうでもいいが、こいつも現場にいた共犯者だろうに完全に気配を消して我関せずを貫いていたな。

 原作でもカッサンドラ婆さんとの面会を回避していたし、割とちゃっかりさんなのか?

 

「アユム殿と共に武器庫へ行き、報酬の受け渡しを行うのだ」

「かしこまりました」

 

 そして、公爵はこちらを向いて告げる。

 

「我らはここで待っているゆえ、選んでくるとよい」

「ありがとうございます。公爵閣下と公爵夫人、お二人のお心遣いに感謝申し上げます」

 

 お礼を告げて頭を下げるとカシアが立ち上がり美しい礼をとった。

 

「アユム様のアイデアはとても素晴らしいものです。ハルツ公爵領の名を大いに高めてくれるでしょう。こちらの方こそありがとうございました」

「カシアの申した通りだ。そのように貴重なアイデアを我らへ譲り渡したことに感謝する」

 

 すると、ハルツ公も立ち上がり礼を述べる。

 

 もう一度頭を下げ、二人に見守られながら部屋を出た。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

探索者Lv47 英雄Lv41 遊び人Lv35 魔法使いLv46

装備 竜革の靴 身代わりのミサンガ

 

BP振分 残BP:5

キャラクター再設定:1

フォースジョブ:7

必要経験値二十分の一:63

詠唱省略:3

鑑定:1

ワープ:1

ジョブ設定:1

MP回復速度二十倍:63

 

所持金:2,611,887ナール

 

春の50日目

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