災害救助の際に訪れた小屋へ移動したもののそこには誰もいなかった。
あのときは村の者が常時詰めていたが、あれは救援物資の運搬があるための緊急対応だったのだろう。
外へ出て辺りを見回してみると、地味な服を着ているのにそれを感じさせないほど顔の整ったおっさんの姿が目に入る。
この世界の人間は普通の村人でも顔が整っている奴が多いが、やはりエルフはレベルが違う。
劣等感を刺激されながら彼に近づき話し掛けるが、顔をしかめ理解できない言葉を残して去っていく。
「ブラヒム語を喋ることができないようですね」
それを見ていたセリーが呟いた。
あー。原作でもこんなことがあったな。確かこのあと横柄な態度の村長だかが来るんだっけ?
「お前たち。この村に何をしに来た」
考えているとすぐに先ほどの者が男を伴い戻ってきた。
鑑定でそいつを確認してみるとやはり村長となっている。
「この村の近くにある迷宮に入りたくて寄らせてもらった。場所を教えてもらえないか?」
尋ねたところ、彼は俺たちの姿を確認して鼻で笑う。
「ふん。狼人族とドワーフの女を侍らせて迷宮探索か。さすが人間族だな。迷宮内でもお盛んらしい」
えー。何こいつ。すげー感じ悪いんだけど。
内心でげんなりしていると後ろからとんでもない気配が漂ってくる。
恐る恐るそちらを確認したところ、笑顔なのに途轍もない圧力を放つ狼人族さんと侮蔑の表情を隠そうともしないドワーフさんの姿が……。
うわぁ……。ガチギレだぁ……。
ルークの一件のとき、ロクサーヌは俺が侮られることが何より我慢できないと言っていた。
セリーについては元々エルフに偏見がある上に馬鹿にされている。
ヤバい。どうしよう。早くなんとかしないと。
んーっと。えーっと。あっ! そうだ!
「これを見てもらおう」
リュックからハルツ公爵家のワッペンを取り出し突きつけた。
この紋所が目に入らぬか!
「そ、それは!」
それを確認した途端、村長の顔色が変わる。
「公爵閣下より直々に公爵領の迷宮探索をご依頼いただいたのだが、どうやらこの村にとって閣下のお心遣いは煩わしいものだったらしいな」
受け取ったときにゴスラーから不用意に見せびらかすと罪に問われると言われたが、ハルツ公の依頼をこなすために見せているのだ。全然不用意ではない。
俺は虎の威を借ることになんの後ろめたさも覚えない男。恐れ入ったか! コンコン!
言い訳を重ねる村長から迷宮の場所を聞き出し村を離れる。
迷宮があるという南西へ向かって歩いているとロクサーヌが笑顔で話し掛けてきた。
「最初はご主人様のことを侮っている様子でしたが、すぐにその偉大さに気が付き態度を改めましたね」
え? いや、完全にワッペンの威光にひれ伏しただけだと思うんですが……。
すると、冷笑を浮かべながらセリーも口を開く。
「所詮はエルフ。物の道理を弁えていない連中だということです」
この娘、すごいことを言うなぁ。
帝国解放会は種族差別が禁止されている。入会するまでにこの差別意識を改めてもらわないと……。
迷宮の入口にたどり着いたところでそこに立っている探索者に声を掛ける。
「最高到達階層はどこだ?」
「現在、十三階層までとなっています」
ふーん。この人はエルフなのに横柄な感じじゃないんだな。
それにしても十三階層か……。
原作でミチオパーティーはターレの十三階層で盗賊に襲われる。
セリー曰く、初心者を脱し中級者として装備を整えだした者たちを狙うため、盗賊は十二階層や十三階層で網を張っていることが多いらしい。
しかし、中級者といっても装備している物は革や鉄だ。
六人パーティーだったとして、全員分の装備品を売っても数千ナールにしかならない。
それに、魔結晶にもたいした魔力は貯まっていないだろうし、大金を持っている可能性も低いだろう。
正直、リスクに見合うアガリが得られるとは考えにくい。
それとも大金を持っている奴が来ることに賭けているんだろうか?
いずれにしても、よくこんなところで盗賊稼業を行おうなんて考えるよなぁ。
いや。もしかしたら俺の金銭感覚がぶっ壊れているのか?
……そうかもしれない。一回あたり数千ナールの儲けが得られるのであればこんなことをやらかす馬鹿がいてもおかしくないのかもしれない。
それに、獲物を吟味して弱そうな者のみを狙えば、それほど危険を冒すことはないのだろう。
ん? いやいや。盗賊目線で考察してどうする。
思索を打ち切り、彼にワッペンを提示して十三階層へ案内してもらうことにする。
探索者の男をパーティーから外し、彼が迷宮から出て行ったのを確認してロクサーヌに声を掛けた。
「先ほどと同じように不審なものがいないか探ってもらえるか」
「かしこまりました」
返事をすると彼女はスンスンと鼻を鳴らし確認を始める。
ほどなくして彼女の表情が鋭いものへと変わった。
そして、俺の方へ近づきセリーを呼び寄せると耳元で囁く。
「このすぐ先の小部屋から動かない者たちがいます」
それを聞いたセリーの体がピクリと動いた。
これはどっちだ? 盗賊か? それともたまたま休憩しているだけなのか?
「人数は?」
問いかけてみるとすぐに答えが返ってくる。
「六人です」
六人? 原作と人数が違うな……。盗賊じゃないのか?
……いや。とりあえず盗賊だと想定して動こう。
「少し待ってくれ」
二人に告げてボーナスポイントの振り分けを行うことにする。
MP回復速度二十倍のチェックを外し、武器六に振って出現したデュランダルをアイテムボックスに入れておく。
もし盗賊じゃなかった場合、デュランダルを見られるわけにはいかないため、あらかじめ手に持っておくことができない。
それなら、ボーナスポイントを振るよりアイテムボックスから取り出す方が早いので、こうしておいた方がいいだろう。
ポイントの振り分けを済ませ二人に声を掛ける。
「ロクサーヌ、そいつらのところへ案内してくれ。鑑定で確認してみる。盗賊ではなかった場合は何事もなく通り過ぎるが、盗賊だった場合はオーバーホエルミングを使い強襲する」
それを聞いた二人は同時に頷く。
「それから、他に仲間がいないか常に確認をしていてくれ」
「はい。お任せください」
「よし。では行こう」
入り口の小部屋から出て通路を歩き、次の小部屋が見えてくる。
入る前に彼女たちとアイコンタクトを交わし、頷き合ったところで小部屋へ踏み込む。
中に入ると男たちがこちらへ顔を向けた。
即座に鑑定を使用するとレベル40を筆頭に五人の盗賊と探索者が一人。
ファイヤーウォール
それを確認した瞬間、奴らの後ろに火の壁を張る。
「ヤバい! 魔法使いがいるぞ!」
「慌てるな! 一人ずつ片付ければ済む!」
すると、奴らは一斉に背後を振り返った。
ここ!
泡を食っている間に続けて念じる。
オーバーホエルミング
時の流れを堰き止め、アイテムボックスからデュランダルを取り出し奴らの首を次々に落としていく。
盗賊を狩るのはこれで何度目だろう。
自分でも気が付かないうちに対人戦に慣れてしまっていたようで、もう血を浴びるようなこともなくなっていた。
効果時間が切れるとこちらに駆け寄ってくる二人へ指示を出す。
「ロクサーヌは隠れている者がいないかと、奴らが隠し持っているものがないかを確認してくれ」
「お任せください」
彼女は返事をするとスンスンと匂いを確認し始めた。
「左手を切り離すからセリーはその回収を頼む」
「かしこまりました」
死体から剥いだ装備品。そして、ロクサーヌが回収したアイテムと硬貨をアイテムボックスへしまい込む。
そして、セリーが探索者の持っていたリュックに全ての左手を押し込んだところで、奴らの体が次々と迷宮の床に沈んでいった。
……あんな風に吸収されるんだな。
俺たちも気をつけなければ……。
「よし。それでは一旦、自宅へ戻ろう」
彼女たちへ声を掛けワープゲートを開く。
足装備が血で汚れていたためバスルームへ移動した。
服や他の装備品は大丈夫だったが、床に広がったものを踏んでいたためこれだけは汚さないことは不可能だったからな。
「ご主人様もロクサーヌさんも手際が良くて驚きました! 本当にすごかったです!」
え、あ、うん。
「ふふ。私とご主人様は何度も盗賊を片付けていますからね。慣れたものです」
可愛らしい笑顔でとんでもないことを口走ってんなぁ。
二人が落ち着いたところで、回収した左手からインテリジェンスカードが出現するまで、足装備の手入れを行うことにした。
俺は水がめにお湯を沸かすことにして、その間に彼女たちはそれぞれタオルとサンダルを取りに行く。
準備が整ったところでお湯に受けたタオルを絞り、スツールに腰かけて作業開始だ。
ロクサーヌは手入れをしながら、俺の武勇伝を得意げにセリーへ語っているが、それを聞き流しとりとめのない思索に耽る。
何度も盗賊を片付けた、か……。
実際、俺が盗賊を始末したのは何度目なんだろう?
ソマーラの村で一回目。ベイルのスラムで二回目。そのまま盗賊のアジトへ押し入って三回目。
それから、アランの館の防衛で四回目。その足で盗賊のアジトを襲撃した五回目に、もぬけの殻だったものの根こそぎ金品を奪った六回目。
ベイルの迷宮でナギィという獣戦士含む盗賊たちで七回目。そして、今回が八回目。
めちゃくちゃ盗賊を狩っている……。我ながらドン引きだ……。
もう完全にどこぞのインバースさんやないか……。
間違いなくリィナ=サンバースは超えてるだろう……。
作業を終えたところで思索を打ち切り、足装備を履き替えて戦利品の確認を行う。
うーん……。やっぱこんなもんか……。
硬貨は六人合わせて金貨五枚に銀貨二百三十八枚。銅貨は結構あるが、全部合わせても八万ナールに届かず、魔結晶の色は全て青。
装備品は一番良いものが鉄装備な上に、スロットが付いたものは一つもない。
しょっぱいなぁ。
ん? いやいやいや。ヤバいヤバい。さっき思った通り完全に感覚が狂ってる!
七万ナールは大金だろ!
ロクサーヌは三万ナールが払えずに奴隷落ちをし、セリーは六千ナールの滋養錠を買うために自分を奴隷として売るよう家族に告げた。
これまで安月給ながら散財することもなくコツコツ貯金をしながら生活してきたが、ゲーム内通貨のような感じで楽に金が稼げているせいで、この世界に来てたった五十日しか経っていないというのにいつの間にか金銭感覚をぶっ壊されている。
人ってこんな簡単に変わるもんなんだなぁ……。
反省をしつつ金貨と銀貨をアイテムボックスに収め、魔結晶は全て彼女たちへ渡すことにした。
二人は感謝の言葉を述べると、取り分について相談を始める。
「まず、セリーの魔結晶が緑になるまで融合して、色が変わったら残りを半分ずつ分けましょう」
「それは申し訳ないです。色が変わったら残りは全てロクサーヌさんの分にしてください」
「いいのですか?」
「はい。いつも助けてもらっているので当然のことです」
「ふふ。セリー、ありがとうございます」
「私の方こそ本当にありがとうございます」
この娘たち『いせはれ!』してるぞ。本当に仲が良いなぁ。
その後、二つの魔結晶を融合したところでセリーの魔結晶が緑に変わる。
彼女も換金はせずに黄色を目指すとのことだった。
そして、残りの四つはロクサーヌの方に融合されたが色の変動はなかった。
まあ、それはそうか。
回収した盗賊共の左腕からインテリジェンスカードが出てくるまで装備品の手入れを済ませる。
どうせ売っぱらう物なんだから、手入れはしなくてもいいんじゃないかなぁとか思ってしまったが、ロクサーヌがやると言うのだ。俺に否やはない。
三人で手分けをしてメンテナンスを終えた頃にはインテリジェンスカードが飛び出していた。
それをリュックに収めながら彼女たちに声を掛ける。
「それじゃあボチボチ戻ろうか。ターレの迷宮を出たら帝都だね」
「すぐに帝都に行くのではなく、ターレの迷宮に戻るのですか?」
ロクサーヌが不思議そうに尋ねるとセリーが口を開く。
「いえ。その方がいいかもしれません。公爵からの依頼により領内の迷宮に入るのです。それなら出入りをする姿を見せておいた方がいいでしょう」
「なるほど。確かにそうかもしれません」
彼女が納得したところで盗賊の手が入ったリュックを手に取りワープゲートを展開した。
無事に盗賊の手の始末を終えて迷宮を脱出し、そのまま帝都の冒険者ギルドへ移動する。
込み合っているギルドから出て通りを歩いていると、はたと気付いた。
帝都の奴隷商館ってどこにあるんだ?
しくったなぁ。あらかじめアランに聞いとくべきだった。
とりあえず馴染みになっている高級服屋へ立ち寄り奴隷商館の場所を尋ねる。
その際、ロクサーヌとセリーはドレスの進捗状況を確認しないかと言われていたが、めちゃくちゃ葛藤しながら予定がある旨を伝えて断っていた。
まあ、長くなるだろうし今日は堪えてもろて。
教わった場所へ近付くと塀で囲まれたデカい屋敷が見えてくる。
門は開け放たれているため中が見えるが、庭も手入れが行き届いており金をかけていることがうかがえた。
さすが帝都で奴隷を商っているだけあって羽振りがよさそうだ。
「当家に何かご用でしょうか?」
中を見ていると近づいてきた男に用件を尋ねられる。
「うむ。ベイルの奴隷商人のアラン殿よりこちらを紹介いただいてな。店主へ取り次いでもらいたい」
リュックから取り出した紹介状を差し出しながら告げると、彼はそれを受け取り口を開く。
「アラン様の……。かしこまりました。それではご案内いたします」
男の後に続いて屋敷の中に入ると、入ってすぐ横の部屋へ案内される。
「主を呼んでまいりますので少々お待ちください」
彼が立ち去ったところで周囲を見回すが、デスクチェアーが一セットあるだけの殺風景な部屋だ。
客を座らせるような椅子やソファーもないし、ここは商談室ではないのだろう。
おそらく部屋の奥にある扉の向こうがそうなのかもしれない。
この部屋の会話を聞かれている可能性もあるため、三人とも黙ったまま待ち続ける。
すると、しばらくして男が入ってきた。
白いシャツにおしゃれなベスト。首にはネクタイだかスカーフだか分からないが、何かの布をつけている。
顔は例によってイケメンで口ひげを生やした紳士といった感じだ。
鑑定をかけてみたところ、奴隷商人でレベルは6。この貫禄なのに駆出しだったりするのか?
「当商会へようこそ。それにしてもアランの紹介とは驚きました」
「うむ。アラン殿とは何かと懇意にしていてな。相談をしたらこちらを紹介していただいた」
「そうですか。それはありがたいことです。では、こちらへどうぞ」
俺の言葉に頷くと奴隷商人は奥の部屋へ案内する。
中に入ると、壁には高そうな絵画にぎっしり本が詰まった本棚。部屋の隅には台が置かれその上に綺麗な壺。そして、棚には胸像が据えられていた。
高級そうな三人掛けの革張りのソファーが向かい合っており、その間にはこれまた高級そうなローテーブルが設置されている。
さらに、その下には白い虎だろうか? 迫力たっぷりの動物の毛皮が敷かれていた。
これはインパクトあるなぁ。
訪れた人にこの部屋で一発かますのだろう。
ソファーへ腰を下ろすよう勧められると、すぐさま人数分のハーブティーが運ばれてきた。
うちの娘たちはかまされてしまった様子がうかがえる。
ロクサーヌは呆然としている様子が隠せていない。
そして、セリーの目は本棚に釘付けだ。
読みたくてしょうがないのだろう。この本好きさんめ。下剋上はせんとってね?
まあ、アランのところとはだいぶ様子が異なる。彼女たちがこうなるのも無理はない。
俺たちがカップに口をつけたところで彼は話を切り出した。
「紹介状を拝見いたしました。鍛冶師を探しておられるとか」
「そちらについては解決した。今回はそれ以外の者を求めている」
そう言うと男は納得したように頷いている。まあ、セリーを連れているんだ。当然の反応か。
「なるほど。紹介状によるとお客様は探索者とのこと。戦闘奴隷をお求めですか?」
おいおい。アランは俺の個人情報を書いたんかい。
「うむ。迷宮で戦える女性を紹介してもらいたい」
「女性の戦闘奴隷……。そのほかに条件はございますか?」
ある! 猫人族で! 神域を侵したことによって奴隷落ちをした娘で! もっと言うとミリアで!
……なんて口にするわけにはいかないんだよなぁ。
「その他に特別な条件はない」
ブラヒム語が話せるとか関係ないですしおすし。
「そうですか。ご存じの通り帝都では需要の大半が冒険者向けの戦闘奴隷か有力者様向けの見目麗しい奴隷となります」
ご存じのとおりとか言われてもしらんがな。いや、原作知識で知ってはいるけどそれはノーカンだろ。
「お客様のように美しい者を連れた方であっても、お気に召す者がいるでしょう」
まあ、ミリアがいるならその通りなんだけど、どうなんだろうねぇ。
「うむ」
「それでは、早速女性奴隷が控えている部屋をご確認願えますか。気に入った者がいればお声掛けいただき、後程面談を行います。それでは、まいりましょう」
立ち上がった彼に続き、部屋を後にする。
三階へ上がり一番手前の部屋へ入ると、一部屋に十人ほどの女性たちが控えていた。
「探索者のお客様が戦闘奴隷をお探しだ。こちらに来て一列に並べ」
ブラヒム語という条件を付けていないため、全員が近寄ってくる。
普通に全員美人さんだ。それに、中には興味を示したのか俺たちを見ている者もいた。
でもまあ、スルーだな。
彼へかぶりを振ると部屋を出て次へ案内される。
その後も部屋を回るがミリアの姿は見当たらない。
やはり、まだここへ来る前なのだろうか?
「こちらが最後の部屋となります」
奴隷商人の男が扉を開くとそこにも猫人族の女性はいなかった。
くそー。空振りかぁ。
しゃあない。日を改めてまた来よう。
今までの部屋と同じように彼が並ぶように告げるが、その中の一人が立ち上がろうとしない。
うん? ブラヒム語が分からないのかね?
「早く並べ」
奴隷商人がもう一度告げたところ、その女性は嫌そうな顔を隠しもせず腰を上げた。
タチアナ ♀ 18歳
村人Lv6
輝くような金髪に整った相貌。そして、細く尖った神秘的な耳。エルフか……。
原作ではこんな女性はいなかったよな? これから五日の間に売れるのかもしれない。
彼女はこちらに目を遣ると不愉快そうに顔をしかめる。
探索者なんかに購入されたくないのだろう。
いや。俺のような不細工に買われるのが嫌ということも考えられるか。
あるいは、その両方かもしれない。
美人だという自覚があり、絶対に俺が自分のことを求めると思っているのだ。
でも、悪いなタチアナ。このパーティーは六人用なんだ。
おめーの席ねぇから!
「この者などいかがでしょう? これほどの美貌で処女。病気の心配は一切なく、お客様の色に染めることが可能。それに加えて九十万ナールと大変お求めになりやすい価格となっております」
要らんなぁ。
とてもロクサーヌの五割増しとは思えないもん。
それを伝えようとしたところで声が上がる。
「お待ちください。そのような者の下へ行くなど耐えられません」
え? うそーん。これありなの?
いや、要らないよ? 要らないけど傷つくわぁ。
「黙れ! 誰が口を開いていいと言った!」
その瞬間、奴隷商人の怒声が飛んだ。
そして、背後からは途轍もない怒りの気配が漂ってくる。
「申し訳ありません。私の教育が行き届いていないばかりに不愉快な思いを」
彼はこちらを向いて頭を下げる。
しかし、後ろから漂ってくる怒りが収まる様子はない。
「いや。かまわない。彼女の方も嫌がっているようだし、これでは迷宮で戦うことも難しいだろう」
ぶっちゃけ、金ならある。購入して分からせてやりたいという気持ちがないでもないが、そんなことのためにこの女性の人生を背負う気にはなれない。
「それに、俺にはこんなに素晴らしい二人がいるのだ。彼女たちに匹敵するような者でなければ購入するつもりはない」
その言葉でようやく怒りの気配が霧散した。
よかったー。お嬢様たちの機嫌がなおったようだ。
平謝りする男に頭を上げてもらい、部屋を出る。
その際、彼女の様子をうかがうと憎々しげにこちらを睨みつけていた。
……不細工にあんなことを言われてプライドに障ったのかな?
まあ、彼女を購入するつもりはないし、どう思われようといいけどさ。
先ほどの部屋に戻ると奴隷商人が口を開く。
「いかがでしょうか。お気に召したものはおりますか?」
「悪くないと思える者はいたが決め手に欠けるな。じっくり考えてからもう一度来ることにしよう」
「はい。それではご検討のほどよろしくお願いいたします」
ミリアが来るまで何度も同じやり取りをするつもりなんだ。すまんね。
彼は屋敷の外まで見送りにくるとアランがやっていたのと同じように、手を前に出して九十度曲げ腹部に当てて頭を下げる仕草を行う。
「本日はご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。今後このようなことがないよう、教育に取り組んでいきますので、またのお越しをお待ちしております」
「うむ。また寄らせてもらおう。それではこれで失礼する」
別れを告げて門の方へ歩いていると外から入ってくる者たちが。
へー。ネコミミの二人組か。
ん?
「あっ!」
田川 歩 男 18歳
探索者Lv47 英雄Lv41 遊び人Lv35 魔法使いLv46
装備 竜燐の靴 身代わりのミサンガ
BP振分 残BP:2
キャラクター再設定:1
フォースジョブ:7
必要経験値二十分の一:63
詠唱省略:3
鑑定:1
ワープ:1
ジョブ設定:1
結晶化促進四倍:3
三十パーセント値引:63
所持金:2,686,446ナール
春の50日目