異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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152 肝っ玉

 

 

 

 

 

クーラタル

 

 

 

 

 

 家具屋を出て通りを歩いていると、ロクサーヌがミリアに話しかけた。

 一頻り聞いたところでミリアから大きな声が上がる。

 

 バーナ語を理解できない俺とセリーに気が付くとロクサーヌが説明を行う。

 

「これから食材に買いに行くと伝えたところ、まだ朝食を食べていないのかと尋ねられましたので、うちでは朝、昼、晩の三回食事をすると言ったら驚いたようです」

 

 それを聞いてセリーが納得したように頷いた。

 

「そういうことですか。私も初めて聞いた時にはとても信じられませんでしたからね。当然の反応だと思います」

 

 まあ、驚くのも無理はないかもしれない。

 実際、他の人たちが昼食をとっている様子はないもんなぁ。

 

 ロクサーヌにあれこれ聞いているミリアを促し、再び歩き出す。

 

 

 

 パンを購入するため町の中心へ移動すると、ミリアがソワソワし始めた。

 彼女は隣の店舗にチラチラと目を遣っている。

 

 パン屋の隣は魚屋だ。気になるのはしょうがないけど、今日は仕込みが終わっている分があるから勘弁してもろて。

 

 それを見ていたロクサーヌが笑顔で話しかけると、ミリアの表情が涎を垂らさんばかりにうっとりとしたものに変わる。

 

 え? ロクサーヌさん? どんな話をしたの? この娘、スゲー期待しているみたいなんですけど……。

 

 いや。大丈夫だ。俺には心強い味方がいる。

 それでもマヨネーズなら……。マヨネーズならきっと何とかしてくれる……!!

 

 

 

 マヨネーズの神通力を頼りにしていると、彼女は俺の方に体を向けた。

 

「ごしゅじん、さま。魚、ありがとう、です」

 

 えー! 魚の発音だけ完璧やないか!

 原作でもこんなエピソードがあったが、おさかなパワーは絶大だなぁ。

 

「うむ。魚を使った料理を作るから楽しみにしていてくれ」

 

 ロクサーヌにその言葉を伝えられると彼女の表情がさらに輝く。

 

「はい、です!」

 

 あら、可愛い。

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 食材の購入を済ませ自宅に戻り、玄関を開けたところでセリーが口を開く。

 

「ミリアのサンダルを取ってきますね。ロクサーヌさん、彼女に我が家のルールを伝えてもらえますか」

「任せてください。サンダルをお願いしますね」

 

 あー。玄関にサンダルを用意してなかったわ。

 まさか今日購入できるとは思わなかったもんなぁ。

 

 

 

 ロクサーヌは表情を引き締め、靴箱として使用しているラックを指さしバーナ語でミリアに話しかけている。

 一頻りしゃべると玄関マットまで進み、自分のサンダルを取り出して駿馬の竜革靴と履き替え、それをラックにしまい込んだ。

 そして、再びミリアに話しかける。

 その言葉を聞きながら彼女は感心したように頷いていた。

 

 ほどなくしてセリーが戻りミリアへサンダルを差し出すと、それを受け取り緊張した様子で竜革の靴と履き替え、靴をしまう。

 そして、得意気な顔で俺たちの方を向いた。

 

 可愛いドヤ顔だなぁ。

 

「うん。ちゃんとできているね。大切な我が家のルールだからこれからも徹底してね」

 

 ロクサーヌがその言葉を伝えたところ、彼女はコクコク頷いた。

 

 

 

 購入した服や小物を部屋にしまった後は、昼食の準備に取り掛かる。

 ブラヒム語短期集中講座を受講するためミリアはベイルの商館へ預けることになるのだ。

 少しでも早く我が家へ戻りたいと思ってもらうためにも、気合を入れて作らないとな。

 

 彼女たちにも手伝ってもらい、ツナサンド、卵サンド、ハムチーズサンドに、白身のムニエルと生野菜のサラダをこさえる。

 

 うん。完璧。

 

 

 

 ダイニングに運び込み全員席に着くと、ミリアの体がもう待ちきれないという風に揺れていた。

 焦らすのも可哀そうだ。長く退屈なスピーチを聞かされる辛さは俺もよく分かる。

 しかも、スピーチには必ず説教を織り込んでテンションを下げるのだ。あのクソ社長は。

 

 おっと。あんな会社のことを思い出している場合じゃない。

 

「ミリア。我が家へようこそ。それじゃあ、ロクサーヌ。好きなものを食べていいと伝えて」

「かしこまりました」

 

 それを伝えられたミリアは『いただきます』と口にし、サンドイッチへ手を伸ばす。もちろん手に取ったのはツナサンドだ。

 

「んー!」

 

 その途端、彼女の口から大きな声が上がった。

 そして、すごい勢いでバクバクと口に運び、ムニエルを口にしたところで再び声を上げ、ロクサーヌに何やら捲し立てている。

 

 ……なんかすごいな。

 いやまあ、喜んでもらえているようで何よりだけどさ。

 

「えっと、あの、こんなに美味しいものを食べたのは生まれて初めてだと言っています」

 

 ロクサーヌが困り顔で通訳してくれたが、彼女の様子を見ているだけでそれは伝わっている。

 

「ごしゅじん、さま。魚、ありがとう、です」

 

 キラキラ輝いているような表情でミリアが感謝を述べた。

 見ているこちらまで幸せになりそうな笑顔だ。本当に作った甲斐があるわ。

 

 すると、ロクサーヌが彼女に話しかける。

 少し言葉を交わしてコクコク頷き、笑みを浮かべながら再び口を開く。

 

「魚、おいし、です」

 

 可愛いー! めちゃくちゃ可愛いな、おい!

 

「喜んでもらえてよかった。遠慮することなく食べてね」

 

 その言葉を伝えられ、さらに笑みの色を濃くしながら答えた。

 

「はい! です!」

 

 

 

 ミリアが食べている様子を見ながら二人に声をかける。

 

「それじゃあ、俺達も食べようか」

「はい! 朝にご主人様がおっしゃっていた、卵サンドというものが気になっていたのです」

 

 ロクサーヌが嬉しそうに言うと、セリーもそれに続く。

 

「私はハムチーズサンドを食べてみたいです」

 

 三人とも本当に可愛いわぁ。ロクサーヌとセリーにも喜んでもらえるといいんだが。

 

 

 

 卵サンドに手を伸ばし口に入れると、卵の濃厚な美味さが口内を刺激する。

 

 品種改良もされていないだろうし、配合飼料を与えられているわけではないだろうに、なんでこんなに美味いんだろう?

 いや、卵だけではなく牛乳も日本で飲んでいたものより美味しいんだよなぁ。実に不思議だ。

 

「ご主人様! これはすごいです! ゆで卵にマヨネーズの酸味がよく合ってとても美味しいです!」

「ロクサーヌさん! ハムチーズサンドもすごいですよ! ハムとチーズ、それからレタスとマヨネーズの味が混然一体となりえも言われぬ美味しさとなっています!」

 

 ミリアもそうだが、実にナイスなリアクションをする娘さんたちである。

 

「お嬢様方。今日は揚げ物をする時間がなかったけど、カツサンドなんてものもあります」

 

 それを聞いてセリーが驚いたような声を上げた。

 

「カツサンド! それはあれですか! カツカレーのカツですか!?」

 

 あっ。そういえばトンカツを単体で出したことはなかったな。いつもカツカレーにしてたわ。

 

「カツサンド……。美味しいのでしょうね……」

 

 ロクサーヌは顔にうっとりした表情を浮かべている。

 

 こんなに期待されているんだ。近いうちにカツサンドを作ってやろうじゃないか。

 それに、揚げ物をするなら、またフィッシュバーガーも作ってみよう。

 

 

 

 次は何にしようか。

 

 ん? あ、えっと。ハムチーズサンドにしとこう……。

 

 二人をうかがうと彼女たちもミリアの様子を見て、ロクサーヌはハムチーズサンド、セリーは卵サンドを取っている。

 

 まあ、そうだよなぁ。瞳を潤ませながらあんなに幸せそうにツナサンドを頬張っているのを見せられたら、それに手を伸ばすなんてできない。

 しばらくはアランの商館で世話になるのだし、今回は存分に堪能してもらおう。

 

 

 

 食事を終えた俺たち三人が見守っている中、ミリアは一心不乱に食べていたが量も量だったためお腹がいっぱいになってしまったようだ。

 彼女は皿の上に載っているツナサンドを残念そうに見つめていた。

 ここまで喜んでもらえると本当に作った甲斐があるわ。

 

 

 

 食事を終えて歯磨きと洗い物を済ませたところでリビングへ移動する。

 俺とロクサーヌが座った向かいのソファーにセリーとミリアも腰を下ろした。

 

 さて、今後について話し合いをしないとな。

 

「ロクサーヌ、通訳をお願いね」

 

 声をかけると彼女は頷きながら返事をする。

 

「はい。お任せください」

 

 よし。それじゃあ、始めよう。

 

「改めて、我が家へようこそ。俺もロクサーヌもセリーもミリアのことを歓迎しているよ」

 

 それを伝えられた彼女は嬉しそうに笑っている。

 

「はい、です。ごしゅじん、さま。おねえちゃん。セリー、さん。ありがとう、です」

 

 そして、たどたどしくはあるものの精いっぱい感謝の気持ちを言葉にしてくれた。

 ロクサーヌとセリーもそんなミリアの様子を笑顔で見守っている。

 

 うん。大丈夫だ。俺たちは間違いなく上手くやっていけるだろう。

 

 彼女と目を合わせながら話を続ける。

 

「俺たちは迷宮探索で生計を立てている。魔物との戦闘は一秒が生死を分けるような世界だ」

 

 ミリアは表情を引き締めロクサーヌから伝えられる言葉に聞き入っていた。

 

「そのためにはお互いのコミュニケーションが重要となる。なので、ミリアには一刻も早くブラヒム語を習得してもらいたい」

 

 彼女はそれを聞くとバーナ語で話し始める。

 ロクサーヌは一頻りそれを聞くと、困った表情で彼女の言葉をこちらへ伝えてくれた。

 

「あの、ご主人様のお役に立てるよう、ブラヒム語の勉強を頑張るそうです……」

 

 あー……。そうだよなぁ。このままここで過ごすと思っているんだからそう言うわなぁ。

 

 ミリアの方を見遣ると決意に満ちた表情を浮かべていた。

 正直、あの顔を見るとアランの所へ行ってもらうのが申し訳なくなってくる。

 

 いや。でも、迷宮でのコミュニケーション不全は命に関わる可能性がある以上、ベイルの商館に預けないという選択肢はあり得ない。

 

 それを彼女へ伝えるため、意を決して口を開く。

 

「うん。そのため、ミリアをベイルの商館へ預けようと思う。そこにはブラヒム語を習得させるノウハウのようなものがあり、ロクサーヌとセリーもそこで学んだんだ。きっと君もすぐに話せるようになることだろう」

 

 なんか、真剣な表情で見つめられていたせいで、説明しながら少し言い訳がましくなっちまった。

 

 

 

 俺の言葉をロクサーヌから伝えられると、ミリアは目を見開き口を半開きにして呆然としている。

 漫画なら顔の横に『ガーン』という文字が表示されていそうだ。

 

 可哀そうではあるものの、そのコミカルな表情に思わず笑いそうになり、どうにかそれを抑え込む。

 二人の様子をうかがうと彼女たちも肩を震わせ同じように笑いをこらえていた。

 

 ミリアには悪いのだが、本当にめちゃくちゃ愛らしい表情だぞ。

 

 

 

 彼女はしばらく呆然としていたものの、我を取り戻すとロクサーヌに話しかける。

 しかし、それを聞いたロクサーヌは表情を引き締め何やらお小言を口にしているようだ。

 

 なんだ? ミリアは何を言ったんだ?

 

 話し終えるとロクサーヌはこちらを向いた。

 

「商館に預けられた場合、魚を食べることができなくなるのではないかと心配していました」

 

 本当にブレない娘さんだなぁ。

 いやでも、それが可愛いんだけどさ。

 

「なので、そんなことを心配するより一刻も早くブラヒム語を覚え、ご主人様のお役に立てるよう努力すべきだと伝えておきました」

 

 説教を受けたミリアへ目を遣ると、顔を伏せシュンとしていた。

 

 ロクサーヌの気持ちはありがたいが、ここはフォローを入れておくべきだろう。

 

「ミリア。俺たちは定期的にベイルへ買い物に訪れている。その際に魚料理の差し入れを持って面会に行くよ。それに、ブラヒム語を早く覚えればその分、早くこの家に戻ってこられるから頑張ってね」

 

 それを伝えられた彼女の表情が輝きだす。

 

「ごしゅじん、さま! 魚、ありがとう、です!」

 

 魚に関しての感謝かよ!

 ……いやまあ、いいけどね。

 

 再びロクサーヌの説教を食らっているが、魚を食べられる目途が立ったためか、先ほどのように落ち込んでいる様子は見えない。

 

 本当にブレない娘さんだなぁ……。

 

 

 

 シリアスなやり取りを終えたところでロクサーヌが俺の右腕を抱きしめ、肩に頭を乗せてきた。

 こちらも彼女の腰に手を回す。

 優雅な午後のひと時を過ごすことにしよう。

 

 

 

 のんびりと過ごしていると大切なことに気が付いた。

 ミリアの身代わりのミサンガをどうしよう?

 

 蠟燭を作る際に製造したミサンガのうち、スロット付きは手元に残している。

 そして、芋虫のスキル結晶もあるため、今すぐにでも身代わりのミサンガを作ることが可能だ。

 

 しかし、奴隷商館に預けるミリアがそんなものを身に着けていた場合、不自然ではないだろうか?

 たとえ、目立たないよう足に着けていたとしても、共同生活をするのなら絶対目につくはず。

 

 うーん……。二人に相談してみるか。

 

 彼女たちに尋ねたところ、それぞれ考え始め、ほどなくしてセリーが口を開いた。

 

「ミリアが商館で身に着けるのは新品で高額な服です。その上、帝都で発売されたばかりの高価な肌着まで身に着けています。そのせいで注目を集めるはずなのに、さらに身代わりのミサンガまで装備しているとなれば、ご主人様のことを探られてしまうかもしれません。たとえ普通のミサンガだったとしても疑念を持たれるので身に着けさせない方がいいでしょう」

 

 その言葉にロクサーヌも続く。

 

「そうですね。服とスキル付きの装備品では値段が比較になりませんし、ましてや命に直結する身代わりのミサンガです。普通はそんな物を奴隷に与えることはありませんからね」

 

 なるほど。そう簡単にスキル結晶の融合に成功することはないし、スキル付きを買うとなると数万ナールが溶けるだろう。

 普通の主人なら余っていたとしても自分の予備として取っておくはずだ。

 

「それに、商館で過ごすだけなので命の危険はないでしょう。身代わりのミサンガはブラヒム語を覚えてこの家で暮らすようになってからでいいと思います」

 

 そうだな。ロクサーヌの言う通りだ。

 

 彼女の言葉に納得しているとセリーが告げる。

 

「竜革の靴も高価なので装備するのはやめておいた方がいいですね。家を出る前に皮の靴を製造しておきます」

 

 あっ。言われてみれば確かにそうだわ。

 

「ロクサーヌ、セリー。相談に乗ってくれてありがとう」

 

 感謝を述べると二人は嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

「ふふ。どういたしまして」

「お役に立ててよかったです」

 

 あら、可愛い。

 

 

 

 相談を終え、その主題だった人物に目を向けると、満腹感からか幸せそうに蕩けた顔で全身の力を抜いてソファーへ体を預けている。

 

 すげーなこの娘。

 奴隷として購入された初日だというのに、めちゃくちゃくつろいでいるぞ……。

 本当に肝っ玉が据わっているわ。

 村の住民に愛されていたというのもよく分かる。

 

 三人でその様子を眺めながらのんびり過ごす。

 

 

 

 食休みを終えたところで午後の探索の支度を整え玄関へ移動する。

 そして、ラックからミリアの竜革の靴を取り出し、アイテムボックスへしまっておいた。

 

 キャラクター再設定を見直していると、装備品を身に着けたロクサーヌとセリー。そして、パンパンに膨らんだリュックを背負ったミリアが二階から下りてくる。

 

 そして、ロクサーヌが口を開く。

 

「あの、ご主人様。昼食の残りのツナサンドなのですが、ミリアに持たせてもいいでしょうか……」

 

 ん? ああ。そうだよな。あれだけ喜んでいたのだ。その方がいいだろう。

 

「問題ないよ。ミリアに持たせてあげて」

「ありがとうございます! それでは、用意してきます」

 

 そう言うと彼女はキッチンの方へ歩いていった。

 

 本当に良い娘だよなぁ。

 彼女のことを知るたびにどんどん好きになっていく。

 これ以上、俺の心を虜にしてどうするつもりなんだ。

 

 

 

 ロクサーヌは葉っぱに包まれたものを持って戻ってくると、それをミリアに差し出し何かを告げる。

 

「ツナサンド!」

 

 すると、ミリアから声が上がった。

 

 いつの間にツナサンドって単語を覚えたんだ? それに発音も完璧やないか。

 

 そして、俺の方を向いて口を開く。

 

「ごしゅじん、さま! ツナサンド、ありがとう、です!」

 

 その顔には太陽のように輝く笑みが浮かび、尻尾がクネクネと動いている。

 うむ。実に愛らしい。

 

「どういたしまして。それじゃあ、出発しよう」

 

 彼女たちの返事を聞きながら家を出る。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

探索者Lv47 英雄Lv41 遊び人Lv35 魔法使いLv46

装備 身代わりの硬革帽子 頑強の竜革鎧 倹約の硬革グローブ 竜燐の靴 よりしろのイアリング

 

BP振分 残BP:0

キャラクター再設定:1

フォースジョブ:7

必要経験値二十分の一:63

詠唱省略:3

鑑定:1

ワープ:1

パーティージョブ設定:3

結晶化促進四倍:3

三十パーセント値引:63

 

所持金:2,444,001ナール

 

春の50日目

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