異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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153 裏技

 

 

 

 

 

ベイル

冒険者ギルド

 

 

 

 

 

 くそー。四人分のフィールドウォーク代でまた八百ナールが飛んでった。

 しかも、冒険者ギルドへの移動しかできないと言われたため、ここからアランの商館まで歩く必要がある。

 ワープを用いた生活に慣れた今となっては面倒なことこの上ない。

 

 これまで四十五年生きてきて、それがないのが当然の暮らしをしていたはずなのに、たった五十日足らずですっかり堕落してしまった。

 ほんと、水は低きに流れ、人は易きに流れるってやつだわ。

 

 

 

 

 

ベイル

 

 

 

 

 

 冒険者ギルドから出るとベイル亭が目に入る。

 

 そういえばケヴィンたちのパーティーはどのあたりの階層を探索しているんだろう?

 竜騎士が加わり、魔法使いが魔道士になったのだ。忠告はしたが無茶なことを考えても不思議はない。

 気のいい奴だったし、妙な縁もできてしまった。大過なく過ごしているといいのだが……。

 そのうちベイル亭へ飯でも食いに行って近況を確認してみよう。

 

 思索を打ち切り歩き出す。

 

 

 

 

 

ベイル

アランの館

 

 

 

 

 

 奴隷商館へ着いたところでドアノッカーを鳴らすと、セリーの面会の際に何度も顔を合わせていた商人の男が出てきた。

 彼はこちらの姿を確認すると驚いたように尋ねる。

 

「アユム様ではありませんか。当家に何かご用でしょうか?」

「うむ。少々相談したいことがあるので、アラン殿に取り次いでもらいたい。アユムが来たと伝えてもらえるか?」

 

 彼は一瞬ミリアへ目を向けると一つ頷いた。

 おそらく、相談が彼女に関することだと気が付いたのだろう。

 

「かしこまりました。それでは、商談室へご案内いたします」

 

 

 

 男はソファーへ腰を下ろすように促し部屋を出ていく。

 

 座れったってなぁ……。

 三人掛けソファーだぞ? どうやって四人で座るんだ?

 まさか、勧められていない向かいのソファーへ座るわけにもいかないよなぁ。

 

 戸惑っているとロクサーヌが口を開く。

 

「私たちは後ろで控えていますので、ご主人様だけでお座りください」

 

 うーん……。まあ、それしかないか。

 

 ソファーへ腰を下ろすと背後からブラヒム語ではない言葉が聞こえてくる。

 おそらく警護についてだろうか? ミリアへ指示をしているようだ。

 

 アランを待ちながら思索に耽る。

 

 セリーの時は少しだがブラヒム語のやり取りが可能だったし、彼女は奴隷になる前から文字の読み書きが可能だった。ミリアはどうなのだろう?

 

「ロクサーヌ。ミリアに文字の読み書きができるか確認してくれ」

「かしこまりました」

 

 ロクサーヌが尋ねると彼女は首を横に振る。

 あー……。駄目っぽいな。

 

「ご主人様、文字は分からないそうです」

 

 だよなぁ……。

 うーん……。そうなるとセリーの時より期間が長くなるのか……。

 

 ……いや? 待てよ? この世界の文字は全ての言語で共通しており、しかも文字に対応する音が一切ズレていない。

 日本語における『え』と『へ』や『わ』と『は』それから『じ』と『ぢ』といったように別の文字なのに同音ということはないし、英語のようにスペルと読み方が乖離しているということもない。

 勉強が苦手な俺でも数日間、朝食の前に勉強するだけで何とかなったんだ。割とすんなりいきそうだよな?

 

 それに、セリーはブラヒム語以外に礼儀作法も学んでいた。

 それはなしにして言語学習一本に絞るのはどうだろう?

 

 ……うん。ありだな。

 ミリアには厳しくも優しいお姉様方がいらっしゃる。

 礼儀作法は彼女たちに任せておけば問題ないはず。

 

 よし。アランに確認してみよう。

 

 

 

 結論を出して待っていると程なくして扉が開く。

 

「お待たせいたしました。アユム様」

 

 ソファーから立ち上がり言葉を交わす。

 

「急に訪ねてしまいすまないな」

「いえいえ。アユム様はとても大切なお客様。当家はいつでも歓迎いたします」

 

 大切なお客様ねぇ。

 でも、ミリアの言語学習が終われば直接的な取引はなくなるだろうなぁ。

 

 

 

 お互いソファーへ腰を下ろし雑談を行っていると二人分のハーブティーが運ばれてくる。

 二人分か……。あの商人は俺一人がソファーへ座るとあたりをつけていたのだろう。

 なかなかやりおるわい。

 

 勧められてハーブティーに口をつけたところでアランが切り出した。

 

「それで、本日はどのようなご用向きでしょうか?」

「うむ。先ほどアラン殿より紹介いただいた帝都の奴隷商を訪ねた。すると、俺たちの目の前で彼女、猫人族のミリアというのだが、彼女が売却されてな。売却した者の話では過失により海賊のジョブに就いてしまったものの、気立ても良く至って真面目な働き者だということだったのでその場で購入させてもらった」

 

 俺の言葉を聞くと彼は品定めをするような目でミリアを見つめる。

 

「ほう。その状況ですとこれだけの器量でも値段をだいぶ抑えられたことでしょう。本当にアユム様は幸運に恵まれたようで」

 

 だしょー? 超可愛いっしょ? それなのにすげーお買い得だったんだぜ?

 

「ただ、売却されたばかりでブラヒム語を話すことができない。それで、以前セリーにしてもらったように、アラン殿の所で文字の読み書きも含めブラヒム語の教育を施してもらえないかと思ってな」

「なるほど……。そうだったのですか……」

 

 アランは顎のヒゲを触りながら考え始めた。

 

「それから、一刻も早く戦力の拡充を図りたい。礼儀作法については我が家で教育するので、ブラヒム語のみに絞って期間を短縮してもらえないか?」

 

 その言葉で彼は目を閉じさらに考え込み、しばらくして口を開く。

 

「私ではどの程度の期間が必要なのか判断できないため、教育を行う者から直接確認させていただきたく存じます」

「うむ。問題ない」

 

 俺の許可を得るとソファーから立ち上がり扉の向こうで控えていた男に声をかけた。

 

 

 

 近況について雑談をしていると部屋にノックの音が響き渡る。

 

「失礼いたします」

 

 彼が入室を促すとシスターのような頭巾をかぶった、ロクサーヌとセリーが世話になった女性が入ってきた。

 彼女はロクサーヌとセリーを見ると笑顔を浮かべて目礼を行う。

 そして、アランと顔を見合わせミリアのブラヒム語教育について話し出す。

 

 

 

 その間に背後をうかがうと二人は嬉しそうに笑みを浮かべていた。

 色々世話になったということだし、彼女たちがそうなるのも無理はないか。

 

 彼女とのやり取りを終えアランがこちらへ向き直る。

 

「彼女と少し話してみたいとのことなのですが、よろしいでしょうか?」

 

 まあ、別に問題ないよな?

 

「ああ。頼む」

 

 頷いてそう告げたところ女性はこちらへお辞儀をしてからミリアへ話しかけた。

 

 彼女が話しかけるとミリアはにこやかに笑ったり、真剣に見つめたり、幸せそうに頬を緩めたり、クルクル表情を変えている。

 

 何を話しているんだろう?

 

 気になってロクサーヌの方をうかがうと、笑顔で二人の様子を見守っていた。

 

 いや。本当に何を話しているんだ? めちゃくちゃ気になるじゃないか。

 

 

 

 そして、理解できないやり取りを終えると女性が口を開く。

 

「お待たせいたしました。確認させていただいたところ、彼女は聡明でやる気に満ちておりますので、ブラヒム語だけを徹底して教え込めば十五日ほどでものにできるかと思います」

 

 おお! セリーの時に比べて五日も短くなっている!

 そういえば彼女は礼儀作法を教わりながらだったのに十五日目にはブラヒム語が完璧だったな。

 それならこの期間も当然か。

 

「なるほど。十五日……。アユム様、それでよろしいでしょうか?」

 

 アランがこちらに顔を向け尋ねてきた。

 

「うむ。よろしく頼む。あとは以前作ってもらった侍女服を彼女の分も注文したい」

 

 それを聞くとわかっているという風に頷く。

 

「それほどまでにお楽しみいただけましたか。分かりました。今回も確かなものをご用意いたしましょう」

 

 待て待て待て。何か誤解がある。今の感じだとエロアイテムの一種としてほしがっているみたいじゃないか。

 俺はただ、あの可愛らしい衣装がミリアにも似合うだろうなと思っただけだ。

 メイドプレイを楽しみたいとか思ってないから。田川家メイド隊を作りたいとか思ってないから。

 

 反論するべきか迷っているとアランが続きを口にする。

 

「それでは、お預かりする前にアユム様と彼女のインテリジェンスカードを確認させていただきたく存じます」

 

 ああ……。言い返すチャンスを失ってしまった。

 ロクサーヌやセリーにもエロガッパだと誤解されてしまったかもしれない……。

 あとで誤解を解かなければ。

 

 

 

「ほう。海女ですか」

 

 ミリアのインテリジェンスカードを確認したアランが呟きを漏らす。

 

「うむ。本当は戦士のジョブに変えたいところだが、十年間は海女でいないといけないそうなの――」

 

 やばっ。不味いことを言ってしまったかもしれない。

 十年間、海女でい続けなければならないことを口にしたのは失敗だ。

 

 自分の迂闊さに思わず舌打ちが出そうになった。

 

 今後、ミリアは暗殺者のジョブについてもらうことになる。それをアランに知られては不味いことになってしまう。

 帝都の奴隷商から聞く機会があるかもしれないが、わざわざ自分から伝える必要はなかった。余計なことを言ってしまったな……。

 

 内心で焦り散らかしていると彼は頷きながら答える。

 

「十年間となると契約解除の違約金は新しい奴隷が買えるほどの額となるでしょう。それなら海女として育て、戦士は別で用意する方が経済的です」

 

 嘘!? 契約解除なんてできんの!?

 

「契約解除が可能なのか?」

 

 質問してみたところ、一瞬『おや?』というような表情を浮かべるものの、すぐに納得したように説明を始めた。

 

「ええ。一般的にはほとんど知られていないことですが、ジョブ変更に制限がかけられている場合であっても、盗賊系のジョブに落とされることなく村人に戻る方法があるのです」

 

 うそー!? マジで!?

 

「それはどのような方法だろうか?」

 

 興奮を抑え込み問いかける。

 

「通常、所属ギルドを脱退する際には村人に戻されてしまいます」

 

 うん。それは分かる。確かソマーラ村のティリヒの旦那もそうだったはずだ。

 探索者や冒険者の場合、取得アイテムはギルドにのみ売却する等、ギルドに所属すると何らかの面倒な義務が課せられる。そんなことがなければ全員、ギルドなんてとっととやめてしまうだろう。

 

「しかし、盗賊系のジョブに就いていた者がギルドでジョブ変更を行う場合はそういうわけにはいきません」

 

 まあ、それを許すと盗賊が好き放題、身分ロンダリングをするだろうからな。当然の話だ。

 

「そもそも盗賊から別のジョブへ変更するには奴隷身分である必要があり、また十年間は同じジョブに就き続けなければならないという契約が結ばれます。しかし、その場合でも救済措置があり、違約金として残り年数の人頭税と同額、今回の場合は三十万ナールを支払えば盗賊に落ちることなく村人へ戻すことが可能となるのです」

 

 十年分で三十万ってことは奴隷の人頭税である一万ナールではなく、庶民の三万ナールになっているわけか。

 普通の人ではこれだけの金額を稼ぐのは厳しいだろう。

 それに、たとえそんな金があったとしても、先ほど言っていたようにその金で別の奴隷を購入したほうがいい。

 

 

 

 しかし、俺はあぶく銭を持っている上に、パーティーメンバーが既に確定している。

 当初は変更できないはずのジョブを変更できることを知られないよう、ミリアは海女のまま預けようと考えていた。

 だが、そんな制度があるのなら少しでも早く暗殺者のジョブを獲得するために彼女のジョブを戦士にしておきたい。

 

 新たに別の問題も発生してしまうが、ここはいったん仕切り直しだ。

 

「アラン殿。申し訳ないが、預けるのは彼女のジョブを変更してからにさせてもらいたい」

 

 俺の言葉を聞いた彼の顔が驚きの表情に染まった。

 

「違約金を支払って契約解除を行うのですか?」

 

 目は口ほどに物を言うか……。彼の目には『お前正気か?』と書いてある。

 まあ、違約金は三十万ナールでセリーの値段より高いんだ。アランがそんな表情になるのも無理はない。

 

「うむ。時は金なりというからな。ここに預けている間もパーティーに入れて経験を共有しておきたい。どうせジョブを変更するのなら少しでも早い方がいいだろう」

「時は金なり、ですか。大変素晴らしいお言葉ですね」

 

 アランは感心したように何度も呟いている。

 

 ベンジャミン・アユム・フランクリンの金言だ。よく噛み締めてくれたまえ。

 

 彼らにジョブ変更をしてくる旨を告げ、館を後にした。

 

 

 

 

 

ベイル

 

 

 

 

 

 通りを歩きながら新たに発生した問題について頭を悩ませる。

 

 俺の秘密を守りつつそれを行うには、海女ギルド、おそらく漁師ギルドと兼用なのだろうが、そこへ行って契約解除をするために三十万ナールもの大金を支払う必要がある。

 しかも、戦士にジョブ変更するためには戦士ギルドに登録するか、エレーヌの神殿でジョブ変更をしなくてはならない。

 エレーヌの神殿は他のギルドと違い、決められたジョブに就けるわけではなく、所持しているジョブの中から勝手に選ばれてしまう。

 ミリアの場合は海女、村人、商人、探索者、戦士、海賊だ。

 手数料がいくらなのか分からない上に再チャレンジが可能なのかも不明。

 リセマラ不可で海賊なんか引いた日には目も当てられない。

 

 一方、彼女に秘密を打ち明けてパーティージョブ設定を使って戦士にすれば、お金もかからずサクっと済んでしまう。

 だが、こちらはアランの館にいるときに情報漏洩のリスクが発生する。

 

 うーん……。どっちもそれなりにリスクがあるんだよなぁ……。どうしたもんか……。

 

 

 

 すると、商館から離れたところでロクサーヌが話しかけてきた。

 

「ジョブの変更を制限されていても盗賊に落ちることなく変更する手段があるとは思いもよりませんでした」

「はい。私もそんな話は初めて聞きました。金額が金額なので庶民には伝わってこないのでしょうか?」

 

 物知りなセリーでも知らなかったのか……。

 これについては原作でもそんな話はなかったし、もしかしたらこの世界だけの要素なのかもしれない。

 

 まあそれはそれとして、二人にも相談してみよう。

 

「ロクサーヌ、近くに人は?」

 

 彼女はすぐに俺の意図を察し答える。

 

「大丈夫です。誰かに聞かれる心配はありません」

 

 オッケー。

 

「ミリアのジョブ変更についてなのだが、海女ギルドで違約金の支払いを行った上で戦士にするのと、君たちにしたように俺が変更するのではどちらの方がいいと思う?」

 

 すると、二人は勢い込んで答える。

 

「ご主人様が変更するべきです! ミリアには私が言って聞かせますので、三十万ナールを無駄にする必要はありません!」

「ロクサーヌさんの言う通りです! ただで出来ることに三十万ナールなんて大金を使うのはもったいないです!」

 

 うおっ! 圧つよっ!

 

 いや、でも、確かにそうなんだよなぁ。さすがに三十万ナールはデカすぎる。

 それに、戦士ギルドに所属することでなにがしかの義務を負った場合や、エレーヌの神殿でリセマラを行うにしてもリスクは発生する。

 それなら、三十万ナールを節約する方がいいだろう。

 

 よし。家に戻ってミリアに言い聞かせるとしよう。

 

 こうなってしまっては彼女にワープを秘匿する意味もない。

 念のため路地裏に入り、ワープゲートを展開した。

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 自宅へ戻ると頭の上に大きなハテナマークが浮かんでいるような表情でミリアがこちらを見つめている。

 

 まあ、探索者がフィールドウォークを使ったと思っているんだ。不思議に思うのも無理はない。

 ロクサーヌが彼女に声を掛け、靴を履き替えてからリビングへ移動する。

 俺とロクサーヌが同じソファーに。そして、その向かいにセリーとミリアが腰を下ろす。

 

「それじゃあ、ロクサーヌ。説得をお願いね」

「はい。お任せください」

 

 彼女は表情を引き締めて頷くとバーナ語でミリアに話し始めた。

 

 

 

 さて、こっちはジョブの変更を済ませるか。

 

 ミリアのジョブ設定画面を開いて海女から戦士に変更し、鑑定を掛けてみる。

 

ミリア ♀ 15歳

海賊Lv1

装備 サンダル

 

 やっぱこうなるよな。

 

 十年間海女のジョブでいなければならないという契約に違反したため、強制ジョブチェンジの対象となったということだ。

 普通ならかなりのペナルティーだろう。

 

 盗賊系のジョブに就いている者の金や命を奪っても罪に問われることはないため、常に怯えて過ごすことになる。

 それに、宿泊施設の利用や不動産関係、それに奴隷の購入等、様々な場面でインテリジェンスカードの提示を求められた。

 ぶっちゃけ、詰み状態といっても過言ではなく、こうなってしまえば後は転落していくだけだろう。

 

 だが……。

 

 もう一度ミリアのジョブ設定画面を開き、海賊と戦士を入れ替える。

 

ミリア ♀ 15歳

戦士Lv1

装備 サンダル

 

 オッケー! 無事、戦士にすることが出来た!

 

 しかし、改めてこのスキルのヤバさに気付かされるな。

 このことはパーティーメンバー以外に知られるわけにはいかない。

 

 

 

 ジョブ設定を終えて彼女たちの様子を見ると、真剣に話しているロクサーヌに対し、ミリアはのほほんとした表情だった。

 

 なんかスゲー温度差があるぞ……。

 

 セリーの方をうかがうと彼女も困惑したように二人の様子を見守っていたが、こちらの視線に気が付き口を開く。

 

「ロクサーヌさんは本気で注意をしている様子なのですが、ミリアには響いていないようですね……」

「確かにそんな感じだね……」

 

 まだワープしか見ていないため、キャラクター再設定のヤバさに気が付いていないのかもしれない。

 

 

 

 しばらく見ているとロクサーヌは小さなため息を漏らして話を終える。

 しかし、ミリアの顔に緊張感は見られない。

 

「ご主人様の秘密を知られてしまえば命を狙われてしまうかもしれないと伝えているのですが……」

 

 うーん……。どうしたもんかなぁ。

 

 まあ、とりあえずジョブが変わったことを確認してもらうか。

 

 フォースジョブを奴隷商人に入れ替え、ロクサーヌに声を掛ける。

 

「インテリジェンスカードの確認をするからミリアに左手を出すように伝えてくれる?」

「かしこまりました」

 

 その言葉を伝えられたミリアはキョトンとしながら左手を差し出す。

 そして、インテリジェンスカード操作と念じたところ彼女の左手からカードが飛び出した。

 

 すると、ミリアの口から大きな声が上がり、早口でロクサーヌへなにやら尋ねている。

 とりあえず自分のジョブを確認するように言ったところ、それを見つめ今度は目を見開き絶句していた。

 

 少しはこの能力のヤバさに気が付いただろうか?

 

 

 

 三人でその様子を見守っていると、再起動したミリアはインテリジェンスカードを手に納めて表情を緩める。

 

 ……あー。これは危険性に気付いてないっぽいなぁ。

 

 その様子を見てセリーが口を開く。

 

「ロクサーヌさん、今から私が言うことを伝えてもらえますか?」

「え? はい。大丈夫です」

 

 ロクサーヌが承諾すると彼女は話し出した。

 

「お昼に食べたツナサンドは美味しかったですか?」

 

 その質問にミリアは興奮した様子でコクコク頷き、すごい勢いでロクサーヌに話しかけている。

 

 

 

 しばらくそれを聞いていたロクサーヌは戸惑いながら、俺たちへ彼女の言葉を伝えてくれた。

 

「色々な表現で伝えていましたが、要約するととても美味しかったのだそうです」

 

 すげー長いこと喋っていたのに、随分ギュッとされたもんだ。

 まあ、美味しさの表現にこだわっている場合じゃないからいいんだけどさ。

 

 セリーは頷くと続きを口にする。

 

「ご主人様はそれ以外にも、私たちが聞いたことがないような魚料理のレシピをたくさんご存じです」

 

 その言葉を伝えられた瞬間、ミリアの顔がこちらへ向けられた。

 彼女の表情は輝きに満ちており、そこには尊敬の色も混ざっている。

 

 なんか今日イチで尊敬されてない? 俺の価値って魚料理のレシピ?

 

 いや。でも、出会ったばかりなんだからそれも当然か。

 

 そして、ロクサーヌがミリアの言葉を伝えてくれる。

 

「あの……。二人といない素晴らしいご主人様に購入していただけて本当に幸せだと言っています……」

 

 ……まあ、いいけどね。

 

 

 

 雰囲気を変えるためかセリーが咳払いをして話を続けた。

 

「ですが、もしご主人様の秘密が公になった場合、権力者たちが囲い込むために私たちから引き離そうとすることでしょう」

「そんなことを許すわけにはいきません! ご主人様と私を引き離そうとする者はだれであろうと始末してやります!」

 

 すると、それを聞いたロクサーヌから怒声が上がる。

 

 君が怒ってどうすると思う気持ちもあるが、それ以上に心の奥から喜びがあふれ出した。

 

 ロクサーヌ、ありがとう! 好きだ! 愛してる!

 

 

 

 セリーと二人がかりで彼女のことをなだめていると、ミリアは呆然とした様子でこちらを見つめている。

 

 すまぬ。訳の分からないやり取りを見せて本当にすまぬ。

 

 

 

 ロクサーヌが落ち着きを取り戻したところでセリーは話を元に戻す。

 

「権力者に身柄を抑えられてしまえば、ご主人様しか知らない魚料理のレシピは私たちに伝わることはなく、永遠にそれを知る機会は失われるでしょう」

 

 それを聞いたミリアの目がつり上がり、何やら捲し立て始めた。

 だが、それを聞いているうちにロクサーヌが呆れ顔になっていく。

 

 なんだ? 何を聞かされているんだ?

 

 

 

 ミリアが最後に叩きつけるように話し終えると、小さなため息を吐いてロクサーヌが口を開く。

 

「えっと、そんなことを許すわけにはいかないそうです……。貴重な魚料理のレシピを狙う者は誰であろうとミリアが始末すると……」

 

 え? あっ、うん。そうか……。

 似たようなことを言われているのにこっちは全然嬉しくない……。

 

 フンスと決意の表情を浮かべているミリアに、呆れ顔のロクサーヌ。そして、俺は微妙な気持ちになっている中、セリーはというと狙い通りだったのだろう。ニヤリと笑っていた。

 

 ミリアの中では主人より魚のウェイトが大きいと判断して、こんな話をしたのだろう。彼女の狙い通りだとはいえなんだか釈然としない……。

 

 

 

 情報管理の重要性をパーティー内で共有したところで、この後の予定について相談する。

 

「アラン殿の商館へすぐに戻るのは不味いよね?」

「そうですね。アラン様は漁師ギルドで契約解除をして、戦士ギルドでジョブ変更を行うものと思っているはずです。それなのにすぐに戻った場合、不審感を与えてしまいます」

 

 ロクサーヌの言葉に続きセリーも告げる。

 

「帝都まで移動して両方のギルドで手続きをするとなると、ベイルの商館へ戻るのは夕方以降となるはずです。なので、訪れるのは明日にした方がよいでしょう」

 

 変に疑われても面倒だ。その方がいいか。

 

「あと、ミリアのレベルは1だから予定していたクーラタルの迷宮の階層上げという訳にはいかないよね? 今日はレベル上げをするとして、何階層にするべきだと思う?」

 

 さすがに二十一階層を連れまわす訳にはいかないからな。

 

 だが、ロクサーヌがかぶりを振って答える。

 

「いえ。ミリアには後ろで控えて戦闘を見学してもらうので、階層上げで問題ないでしょう」

「はい。それに、身代わりのミサンガを装備すれば最悪の事態は起こりません」

 

 マジか、この娘ら……。

 遠距離攻撃だってあるんだぞ? それがミリアに集中すればアウトじゃん。

 いくら何でもバーサーカーすぎるだろ……。

 

 いくら説得しても問題ないと言われてしまい、ロクサーヌに何を吹き込まれたのかミリアもやる気満々の表情でこちらを見つめている。

 

 そして、ロクサーヌがドヤ顔で告げた。

 

「ご主人様、ミリアには私の装備品を使ってもらうことにします。それなら何の問題もありませんよね」

 

 大ありだわ。君に何かあったらどうするんだ。

 もしそうなったら俺は生きていけないぞ。

 

 

 

 話し合いを続けるが彼女たちが折れることはなく、議論は平行線をたどる。

 だが、いくつかの条件を付けることに成功した。

 

 ロクサーヌの装備品をミリアに使わせた上で、どちらかが攻撃を食らったら撤退すること。

 ダブルスペルに加えてストーム系の魔法を一発。合計三発の魔法で二十一階層の魔物が倒れなかった時も撤退すること。

 

 これだけは守ってもらわないといけない。

 

 

 

 条件付きとはいえ階層上げを認められ、三人は楽しそうに笑い合っている。

 

 何でこうも先へ先へと進もうとするかなぁ。のんびりゆっくりでいいじゃないのさ……。

 命知らずすぎるぞ……。

 

 彼女たちの様子を見ながら内心で呟いた。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

探索者Lv47 英雄Lv41 遊び人Lv35 奴隷商人Lv1

装備 身代わりの硬革帽子 頑強の竜革鎧 倹約の硬革グローブ サンダル よりしろのイアリング

 

BP振分 残BP:0

キャラクター再設定:1

フォースジョブ:7

必要経験値二十分の一:63

詠唱省略:3

鑑定:1

ワープ:1

パーティージョブ設定:3

結晶化促進四倍:3

三十パーセント値引:63

 

所持金:2,443,201ナール

 

春の50日目

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