異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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154 魚貯金

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 物置へ移動してスロット付きのミサンガを回収し、ミリアの装備については彼女たちに任せて部屋を出た。

 そして、自室から黒魔結晶と芋虫のスキル結晶を回収してリビングに戻る。

 三人が準備をしている間にボーナスポイントの振り分けについて考えよう。

 

 今日はミリアがいるのに加え、階層上げに挑む。

 殲滅速度が重要になるため、賞金稼ぎの生死不問を試すのはやめておこう。なので、フィフスジョブにする必要はない。

 二十一階層のケトルマーメイドは土属性が弱点となるため、遊び人のスキルは初級土魔法にしておいた。

 

 さらにパーティージョブ設定と結晶化促進のチェックを外し、三十パーセント値引きと獲得経験値二十倍を入れ替える。

 そして、今は詠唱省略を詠唱短縮に落としておく。迷宮に行ったらワープを外して詠唱省略に戻せばいい。

 

 よし。これで残ポイントは8か。

 

 今回の探索において絶対に必要なのは高性能な防具だ。

 本当ならスキル結晶の融合をしたいところだが、コボルトのスキル結晶を切らしている。

 ボーナス装備品で凌いでおこう。

 とりあえず確認してみるか。

 

 まずは胴装備三にチェックを入れる。

 

頑丈のサーコート 胴装備

防御力上昇 体力上昇 物理ダメージ軽減

 

 ボーナス装備品の内、胴装備は物理防御力特化型だ。こいつを装備すれば物理ダメージをかなり減らせるだろう。

 そして、胴装備のチェックを外し、今度は盾三にポイントを振る。

 

強情の鋼鉄盾

精神上昇 魔法ダメージ軽減 水防御

 

 こちらは魔法の被ダメを減らしてくれるはず。

 さらに、盾二に落として胴装備二へチェックを入れた。

 

頑丈の硬革鎧 胴装備

防御力上昇 物理ダメージ軽減

 

強情の鉄盾 盾

精神上昇 魔法ダメージ軽減

 

 それぞれの効果は落ちるものの、物理ダメージと魔法ダメージを軽減してくれる組み合わせだ。

 割とありな気がするな。

 

 さて、どうしたものか……。

 

 

 

 腕を組んで頭を悩ませていると華やかな声が近づいてくる。

 

 そして、扉が開くとロクサーヌの綺麗で可愛い声が響いた。

 

「ご主人様、お待たせいたしました」

「大丈夫。全然待ってないよ」

 

 そちらに目を遣ると彼女の姿が変わっている。

 

ロクサーヌ ♀ 16歳

戦士Lv23

装備 強権のエストック 鋼鉄の盾 硬革のグローブ サンダル 身代わりのミサンガ

 

 頭装備と胴装備を身に着けていない。さすがにこれは駄目でしょ。

 身代わりのミサンガを身に着ける時のために、常にアイテムボックスに入れている硬革の帽子を取り出し彼女へ差し出す。

 

「今日のところはこれを装備して」

「ふふ。ありがとうございます」

 

 ロクサーヌはそれを受け取って嬉しそうにスンスン匂いを嗅いでから頭にかぶった。

 

 なんかスゲー恥ずかしいんですが……。いや、嬉しいことは確かだけどさ。

 

 それから、普段俺が使っているスロットなしのダマスカス鋼の盾を取り出し、鋼鉄の盾で問題ないという彼女を説き伏せ交換しておいた。

 

 

 

 そして、両手を腰に当て自信満々でこちらを見つめている娘さんに目を遣る。

 

ミリア ♀ 15歳

戦士Lv1

装備 強権のレイピア ダマスカス鋼の盾 耐風のダマスカス鋼額金 竜革のジャケット 竜革のグローブ サンダル

 

 彼女も相当な美人さんだからなぁ。ビシッときまっているぞ。

 

「うん。よく似合ってる。強そうで格好いいね」

 

 ロクサーヌがその言葉を伝えるとミリアの顔が嬉しそうに緩む。

 あら、可愛い。

 

 次はこれだな。

 

 アイテムボックスからミサンガと芋虫のスキル結晶を取り出しセリーへ渡す。

 

「それじゃあ、スキル結晶の融合をお願い」

「かしこまりました」

 

 彼女がそれを受け取ると事情を説明されたミリアが何かを言っている。

 

「スキル結晶の融合を見るのは初めてなので楽しみだそうです」

 

 そうそうあることじゃないだろうしな。

 ……まあ、我が家で暮らしているとすごい頻度で目にすることになるんだが。

 

 好奇心で輝いている目で見つめられながらもセリーはサクッと融合を終わらせた。

 

身代わりのミサンガ アクセサリー

スキル 身代わり

 

 うん。問題ナッシング。

 

「おー!」

 

 確認をしているとミリアから大きな声が上がる。

 融合が成功したことに気が付いて興奮しているみたいだ。

 

 セリーから出来立てほやほやの身代わりのミサンガを受け取りロクサーヌに声をかける。

 

「こいつを着けるから好きな方の足をソファーに乗せるように伝えてくれる?」

「かしこまりました」

 

 ミリアはロクサーヌの言葉を聞いて笑みを浮かべ、ソファーに左足を乗せて俺の方を見た。

 

「ごしゅじんさま。ありがとう、です」

 

 あまりの可愛さに思わずこちらも笑顔になってしまう。

 頷きを返し、足を乗せているソファーに近づいてしゃがみ込むとミリアはズボンの裾を捲り上げた。

 

 改めて見ると手脚が長く本当にスタイルが良い。

 その肌は太陽の下で漁をしていたとは思えないほど白くて可憐だ。

 それでいてしなやかな筋肉が付いており健康的な美しさも併せ持っている。

 

 うちの娘たちは本当に綺麗で可愛いよなぁ。

 世界でも五本の指に入る美女の内、三人がこの場に揃っている。俺はなんと幸せな男だろう。

 

 このまま撫で擦りたいところだが、言葉が通じない主人にそんなことをされるなんて恐怖でしかないはず。

 欲望をグッと堪え、粛々と身代わりのミサンガを結ぶ。

 

「ごしゅじんさま。ありがとう、です」

 

 それが済むと彼女は再び感謝の言葉を口にした。

 

「どういたしまして。それが発動することがないよう俺たちもフォローをするから、ミリアも気を付けてね」

 

 ロクサーヌがその言葉を伝えると嬉しそうにコクコク頷いている。

 

 

 

 さて、あとはどのボーナス装備を使うかだな。

 胴装備三か盾装備三。もしくは、胴装備二と盾装備二の組み合わせ。それぞれの性能を伝えた上で、どれを選ぶべきか相談するとロクサーヌとセリーが考え始めた。

 

 すると、その様子を見たミリアは腕を組み、彼女たちと同じように考える素振りを行う。

 

 いやいや。ロクサーヌが通訳していないんだから、君は理解してないでしょうに。

 でも、コミカルな仕草がめちゃくちゃキュートだわぁ。

 

「うーん。です」

 

 発した言葉にハートを撃ち抜かれてしまう。

 

 あざと可愛すぎだろ!

 

 

 

 その愛らしい様子を眺めているとセリーが口を開いた。

 

「……頑丈のサーコートがいいと思います」

 

 ふむ。胴装備三か。

 

「どうしてそう思うの?」

 

 俺たち三人に見つめられながら彼女は説明を始める。

 

「まず、ロクサーヌさんが装備可能なものがなかったため、胴装備を身に着けていません。なので、強情の鋼鉄盾を選ぶべきではないでしょう」

 

 そういえばそうだ。在庫のある胴装備は硬革の鎧とダマスカス鋼のプレートメイルだけだった。

 盾装備三を選ぶとロクサーヌの胴装備が用意できない。これは駄目だな。

 

 俺たちが納得したところで彼女は説明を再開する。

 

「それから、胴装備二と盾二の組み合わせですが、頑丈の硬革鎧は女性が装備できないため、これも選べません」

 

 あっ。確かにそうだ。

 それが可能なら俺の頑強の竜革鎧を渡せばいいだけだもんな。完全に見落としていた。

 

「消去法で頑丈のサーコートとなるのですが、案外これは悪くないと思います」

「そうなのですか?」

 

 その言葉を聞いてロクサーヌが尋ねると、セリーは頷きながら答えた。

 

「はい。魔法ダメージ軽減のスキルほどではないですが、サーコートには魔法ダメージを減らす効果が付いています。なので、性能面でもこれが最適となるでしょう」

 

 へー。素で魔法ダメージ軽減の効果が付いているのか。

 ということは、実質それ一択だったわけね。

 

「セリー、ありがとう。それじゃあ、頑丈のサーコートはミリアに渡すから、ロクサーヌは竜革のジャケットを装備して」

「かしこまりました」

 

 その言葉にロクサーヌは笑顔で頷いた。

 

 ……良かった。自分が使ったことがないボーナス装備品を他の娘が先に使うことに対し、彼女は不満を漏らさなかった。

 一番奴隷としてこのくらいでは揺らぐことのない余裕を持ったのか、それともデュランダルや毘盧帽のように最上位装備ではなかったからだろうか。

 どっちだとしても本当に助かった。

 この後、迷宮へ移動してロクサーヌ、セリーと順番に装備させて試すなんてやってられない。

 

 

 

 胴装備三にポイントを振り、出現した頑丈のサーコートをミリアへ手渡す。

 彼女は竜革のジャケットを脱いでそれをロクサーヌに回した。

 

 二人が装備を終えたところで改めて鑑定をかけてみる。

 

ロクサーヌ ♀ 16歳

戦士Lv23

装備 強権のエストック ダマスカス鋼の盾 硬革の帽子 竜革のジャケット 硬革のグローブ サンダル 身代わりのミサンガ

 

ミリア ♀ 15歳

戦士Lv1

装備 強権のレイピア ダマスカス鋼の盾 耐風のダマスカス鋼額金 頑丈のサーコート 竜革のグローブ サンダル 身代わりのミサンガ

 

 オッケー。二人とも問題なしだ。

 それじゃあ、最後に……。

 

 アイテムボックスから黒魔結晶を取り出し、ミリアに差し出しながら告げる。

 

「はい。ミリアの黒魔結晶だよ。これは俺に戻す必要はないからね」

 

 ロクサーヌからそれを伝えられると彼女はポカンと口を開けたまま、こちらを見つめていた。

 

 今日、彼女が魔物を倒すことはないため魔結晶を渡す意味はない。

 しかし、これでモチベーションが上がるかもしれないし、渡しておいた方がいいだろう。

 

 呆然としていたミリアは再起動するとすごい勢いでロクサーヌに話し掛けた。

 そして、彼女の言葉を聞いているうちに表情がドンドン輝きだし、満面の笑みを浮かべて口を開く。

 

「ごしゅじんさま。ありがとう、です」

 

 その微笑ましい様子に俺たち三人も笑顔になってしまう。

 

 どういたしまして、ミリア。改めてこれからよろしく。

 

 

 

 彼女が落ち着きを取り戻したところで迷宮に出発だ。

 

「それじゃあ、迷宮へ行こう」

 

 彼女たちの返事に頷きを返し、玄関へ移動する。

 

 

 

 

 

クーラタルの迷宮

二十一階層

 

 

 

 

 

 玄関から迷宮へ移動するとミリアが声を上げた。

 しかし、ロクサーヌが声を掛けたところ、彼女は表情を引き締め頷いている。

 

 たぶん迷宮へ直接移動可能なことが他人に知られると魚料理のレシピが失われるって言われたんだろうなぁ……。

 それの付随品としてではなく、いずれ俺本人のことを好きになってもらえるように頑張ろう……。

 

 気を取り直してキャラクター再設定を開き、ワープのチェックを外して詠唱省略を付けた。

 そして、セリーに二十一階層の魔物について尋ねる。

 

「二十一階層から出現する魔物はケトルマーメイドです。攻撃方法は主に水魔法と体当たりで、体当たりを食らった場合、毒を受けることがあります。また、稀に威力が強化された水魔法による攻撃を行うことがありますので、詠唱を開始したら攻撃を入れて発動を潰しましょう」

 

 そうだな。今回はレベル1のミリアがいるんだ。威力の高い攻撃は絶対に防がなければならない。

 

「そして、残すアイテムは人魚の泡です」

 

 あー。以前、説明された染色前の布の脱色に用いるアイテムか。

 

 リュックから地図を出し、ブリーフィングの内容をミリアに伝え終えたロクサーヌに差し出し確認してもらう。

 彼女はサラッと目を通すとそれをすぐにこちらへ戻す。

 

 ほんと、とんでもない娘さんやで……。

 

 

 

 階層上げとなると彼女は魔物との遭遇を避けてくれるのでひたすら通路を進むことになる。

 俺とセリーはロクサーヌ師匠の教えに倣い、戦闘時以外はスイッチをオフにして緊張の糸を緩めている。

 しかし、初参加のミリアは集中力を持続させたまま、周囲を見回しながら歩いていた。

 

 モチベーション高いなぁ。これはこれでたいしたもんだわ。

 

 彼女の様子に感心していると通路にロクサーヌの声が響く。

 

「ご主人様! 魔物です!」

 

 その言葉を耳にした瞬間、腰のベルトからスタッフを引き抜いて構えていた。

 セリーの方も背負っていたはずの槍をいつの間にか手に持ち前方へ突き出している。

 

 お互い、動きが体に染みついているようだ。

 

 そのまま先へ進むと通路の奥から魔物が姿を現す。

 

ケトルマーメイドLv21

ラブシュラブLv21

 

 ケトルマーメイドは人魚といっても魚の体から首が伸び、そこに頭が付いている形だ。

 そして、その顔もマーメイドという言葉から連想されるような美しさはなく、やかんのように長い口が伸びていた。

 

 原作でミチオが残念な人魚と言っていた気持ちがよく分かる。

 というか、これを人魚といっていいのかね?

 

 二対のヒレでヒタヒタとこちらに近づいてくる様子を見て思索を打ち切り魔法を放とうとしたところで、一瞬だけ使用する魔法の組み合わせに迷う。

 

 ええい! とりあえず土だ!

 

サンドストーム

サンドストーム

 

 砂嵐が舞い上がると俺の背後にいたミリアから大きな声が上がった。

 砂は奴らの体に纏わりつき徐々に動きが鈍くなっていったため、その隙を突いてロクサーヌとセリーは攻撃を入れ続けている。

 

 スタッフを向けたまま様子をうかがっていると、程なくして砂の塊が消えていき、それと共に奴らの体も空気に溶けるように消えていった。

 

「ふぅ」

 

 土魔法のダブルスペルでラブシュラブが片付いたことへの安堵感から、思わず口から息が漏れる。

 よし。土魔法に耐性があるピッグホッグが出現しなければダブルスペルで片付きそうだし、三階層下の魔物の出現率はだいぶ低い。とりあえず、問題なさそうだ。

 

 二十階層でレベル上げを開始したときに比べ、魔法使いに英雄、それから遊び人のレベルは大幅に上がっている。知力の上昇値はかなりのものとなるだろう。

 しかも、それが二倍になって引き上げられた魔法攻撃力が、魔法攻撃力二倍のスキルによって、さらに倍になるのだ。

 この結果も当然かもしれない。

 

 考え事をしているとミリアが早口でロクサーヌに話しかけた。

 バーナ語で説明を聞いたのだろう。彼女は目と口を大きく開き俺の方へ顔を向けている。

 

 ロクサーヌやセリーもそうだったが、今日一日で彼女の中の常識がぶっ壊れているんだろうなぁ。

 

 ロクサーヌが再び彼女に話しかけると徐々に表情が引き締まっていき、コクコク頷いて何やら声を上げている。

 

 その様子を見守っていた俺たちに困った顔でミリアの言葉を伝えてくれた。

 

「貴重な魚料理のレシピを守るため、ご主人様の秘密は絶対に誰にも漏らさないそうです」

 

 え、あ、うん……。

 

 ミリアの方へ目を遣ると決意に満ちた表情をしている。

 

 ちょっと引っかかるけど、内密にするのなら問題ない。何も問題ないのだ……。

 

 

 

 確認のため床に転がっていた薄い皮に包まれた液体に鑑定を掛けたところ、人魚の泡と表示される。

 

 ほう。泡といってもその状態ではないんだな。

 まあ、そりゃそうだ。

 

 人魚の泡と板の回収を済ませ、再び通路を進む。

 

 

 

 その後も出現する魔物をワンターンキルで仕留め先を急ぐ。

 

「あっ!」

 

 すると、突然声を上げミリアが駆け出し、先頭を歩いていたロクサーヌを追い越した。

 

 おいおい。いったいどうしたんだ?

 

 彼女は少し先の方でしゃがみ込み何かを拾うと、近づいてきた俺たちへ手の中のそれを見せながら嬉しそうに何かを告げた。

 

黒魔結晶

 

 あー。なるほど。そういうことね。

 確か原作でもこんなエピソードがあったな。

 

 普通の人では薄暗い迷宮の中に落ちている黒魔結晶を見つけることは難しい。

 鑑定が使える俺にしても、四六時中それをかけ続けるというわけにもいかないため、今まで見つけたことはなかった。

 しかし、真っ暗な中でも物を見ることができる特殊な目を持つ猫人族ならこんなことも可能というわけだ。

 

 納得しているとミリアはロクサーヌに雷を落とされていた。

 

 フォーメーションを無視して勝手にオーバーラップを行なったのだ。そこはちゃんと反省してもらわなければ。

 

 

 

 説教を食らいシュンとしているミリアに反省の色を感じたのか、彼女は俺たちの方を向いて話し始めた。

 

「勝手な行動をとらないようたしなめたところ、彼女も自分の迂闊さに気がついて反省していました。これからは気を付けるそうです」

 

 まあ、今後気を付けてくれるのならそれでいいさ。

 黒魔結晶を見つけたときに一声掛ければいいだけだから、彼女もそんなに落ち込む必要はない。

 

「ミリア。今の君の行動は迂闊だったが、反省して今後は改めるなら何の問題もない。落ち込むことはないぞ」

 

 それを伝えると彼女はニッコリ笑い、俺に黒魔結晶を差し出し何かを告げた。

 

「魚貯金だそうです」

 

 ん? あー。そうそう。魚貯金だ。

 

「ミリアは迷宮で黒魔結晶を集めて親に渡し、魚を食べさせてもらっていたのだそうです。そのため彼女は黒魔結晶のことを魚貯金と呼んでいたようですね。これからも頑張って見つけると言っています」

 

 いや。別に黒魔結晶を差し出さなくても、ある程度の頻度で魚は食べるつもりだけどね。

 

「ロクサーヌ、ミリアに伝えてもらえるか。魚貯金を渡さなくてもちゃんと魚を食べさせるから安心してくれ」

 

 それを聞くと彼女は嬉しそうにコクコク頷いている。

 うん。実に愛らしい。

 

 

 

 今後ミリアが見つけた黒魔結晶については彼女たちへの報酬にしようか。

 

 その思い付きを伝えたところ、ロクサーヌとセリーはお礼を言って相談を始める。

 

「セリー、私たちの魔結晶は緑になっているので、ミリアの物が緑になるまで彼女の分としてもいいですか?」

「はい。もちろんです。それにしても、今日ミリアが加入すると分かっていたら、午前中に入手した魔結晶は彼女の分として残しておいたのですが……」

 

 まあ、帝都の奴隷商に行くつもりではあったものの、空振りだろうと思っていたからなぁ。

 

「そうですね。残念ですが次の機会があればミリアを優先しましょう」

「それは良い考えです。緑になるまではそうした方がいいと思います」

 

 二人はそう言って笑い合っている。

 

 本当に良い娘たちだよなぁ。

 ちゃんとミリアのことを仲間として受け入れているのをみると、心が温かくなるわ。

 

 ロクサーヌはバーナ語で話しかけてそのことを伝えると、ミリアは驚いたように俺たちの顔をキョロキョロと確認し、彼女に何かを伝えている。

 

 すると、ロクサーヌは笑いながらリュックを下ろし、セリーに声を掛ける。

 

「あなたの魔結晶もミリアに見せてあげてください」

「ふふ。分かりました」

 

 セリーも笑いながらリュックを下ろすと、中から魔結晶を取り出しロクサーヌと共にミリアの前に差し出す。

 

「あー!」

 

 二つの緑魔結晶を見た彼女は驚きの声を上げ、それを指差した。

 

 驚くのも無理はない。緑魔結晶は売却すると一万ナール。つまり金貨一枚分だ。

 貴族の子女であったルティナの服へ、緊急時に備えて縫い付けられてあったのが金貨一枚。

 そして、奴隷の人頭税も金貨一枚。

 一万ナールとはそういう額なのだろう。

 

 

 

 ミリアはロクサーヌの説明を受けると俺の方を見て口を開く。

 

「ごしゅじんさま。ありがとう、です」

 

 笑いながら頷くと彼女も笑みを浮かべて頷き返した。

 いい、笑顔です。

 

 彼女はワクワクした様子でリュックから黒魔結晶を取り出し、持っていたそれに押し付ける。

 

 片方の魔結晶がヌルンと沈み込み、残った方の色が黒から赤に変わった。

 

「おー!」

 

 すると、ミリアから声が上がる。

 

「赤くなりましたね」

「どうやら、両方の黒魔結晶に魔力が残っていたようです。それが合わさって十匹分を超えたのでしょう」

 

 セリーの言葉に疑問を覚えたので尋ねてみる。

 

「そんなことがあるのか?」

「はい。ギルド神殿で使用した魔結晶は黒くなった段階で取り出すため、魔力が残っていることがあるのです」

 

 へー。そういう仕組みなのか。融合させるわけじゃないんだな。

 

 ……ああ。そういえば、原作のロクサーヌがギルドで売っている黒魔結晶は使用済みの物だと言っていた気がする。

 

「それから、迷宮で見つかる魔結晶はそこで生み出される以外にも、探索の途中で死んでしまったり、落としてしまった物の可能性があります。その場合は魔力が残っていることがあるのです」

 

 なるほど。それは魔力が残っていても不思議じゃない。

 

 セリーの話を聞いているとミリアは嬉しそうに手の中の赤魔結晶を俺たちに見せ始めた。

 

 めちゃくちゃ可愛いな、おい。

 

 三人でおめでとうと声を掛け、彼女がいそいそとそれをしまいリュックを背負ったところで探索を再開する。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

探索者Lv47 英雄Lv41 遊び人Lv35 魔法使いLv46

装備 ひもろぎのスタッフ 鋼鉄の盾 身代わりの硬革帽子 頑強の竜革鎧 倹約の硬革グローブ 竜燐の靴 よりしろのイアリング

 

BP振分 残BP:0

キャラクター再設定:1

フォースジョブ:7

必要経験値二十分の一:63

詠唱省略:3

鑑定:1

胴装備三:7

獲得経験値二十倍:63

 

所持金:2,443,201ナール

 

春の50日目

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