異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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156 闘争心

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 自宅へ戻って購入してきたものをキッチンにしまい、物置から木剣を取って修行を行うため庭へ出る。

 明日からしばらくはブラヒム語の学習のためにベイルの商館へ行くことになるが、ミリアにもロクサーヌ師匠の過酷なしごきを体験してもらおう。

 

 ロクサーヌがバーナ語で修行について説明している間にボーナスポイントの振り分けだ。

 とりあえずワープを外してジョブ設定を付け、サードジョブに料理人を設定したところでアイテムボックスの中身をそちらへ移す。

 それが済むと三十パーセント値引きを外し、ファーストジョブを村人に、セカンドジョブを僧侶に変更した。

 すると、体に掛かる重力が増したような感覚に襲われる。

 

 ……毎度のことながら、この自分が弱体化する感覚には慣れないなぁ。

 

 気を取り直して残ったポイントをMP回復速度五倍に振って設定を終えた。

 

 そして、ミリアへの説明を済ませたロクサーヌへ尋ねる。

 

「今日の修行はミリアも含めた俺たち三人でロクサーヌに挑むってことでいい?」

「はい。それがいいと思います」

 

 こやつめー。三対一でも余裕のよっちゃんって感じだぞ。

 俺たちにだって意地がある。何とかして一矢報いたいところだ。

 

 しかし、言葉が通じないためミリアと入念な打ち合わせをすることができない。どうしたもんかなぁ。

 

 頭を悩ませているとセリーが話しかけてきた。

 

「ご主人様。作戦を立ててもそれをミリアへ伝えるにはロクサーヌさんを通さなければいけないため無意味です。彼女には遊撃として自分の判断で動いてもらいましょう」

 

 うーん……。まあ、それしかないか。

 

 ロクサーヌに頼んでその旨を伝えてもらい、少し離れたところでセリーと打ち合わせを行う。

 とはいってもそうそう良いアイデアを思いつくはずもなく、いつものようにタイミングを合わせて同時に攻撃を行うこと。それから、なるべくどちらかが彼女の背後を取るということを確認しただけだ。

 

 

 

 少し先に立っているロクサーヌを見ながら二人に声を掛ける。

 

「セリー。ミリア。それじゃあ、行くよ」

「かしこまりました」

「はい、です」

 

 おそらく言葉自体は理解していないのだろうが、意味を察したのかミリアも答えてくれた。

 

 今日一日共に過ごして感じたことだが、この娘は無邪気な振る舞いをしているようでいて、割と空気を読んだ行動をしているよな。

 外見的な魅力だけではなく、パーティーメンバーとしてみても実に得難い人材だ。

 

 ストイックで生真面目、そのうえ戦いたがりのロクサーヌ。

 物事をロジカルに考え最適な行動をとろうとするセリー。

 きっとそんな彼女たちと補い合い、上手くやっていけるだろう。

 

 思索を打ち切り、戦闘を開始する。

 

 いつものようにセリーと左右に分かれて走り出し、タイミングを合わせて攻撃を繰り出した。

 当然のように捌かれてしまうが俺の方がロクサーヌの正面に近かったので、連続で攻撃を加え注意を引くと、その隙にセリーが背後へ回り込む。

 そして、彼女が木槍を突きだすのに合わせて木剣を薙ぎ払った。

 

「ぐっ!」

 

 痛ってー!

 

 一瞬早くロクサーヌは俺の肩を蹴り、行き掛けの駄賃とばかりに頭に一撃を加え、とんぼを切って飛び退る。

 だが、それを狙っていたのか、それとも偶然か、空中のロクサーヌ目掛けミリアが木剣を突き込んだ。

 

 しかし、その攻撃を盾で逸らして着地を決めると、彼女は一気に距離を詰めミリアへ木剣を振るう。

 その瞬間、ミリアの左手がブレ、木剣を打ち払った。

 

 嘘っ! ロクサーヌの攻撃を捌いてる!?

 

 そのままの勢いで独楽のように回転して攻撃を行うが、そこはさすがのロクサーヌ。意趣返しなのか、同じように盾で叩き落とし攻撃を再開した。

 

 

 

 二人は丁々発止のやり取りを交わしているが、全ての攻撃を回避しているロクサーヌに対し、ミリアは激しく繰り出される攻撃のうち回避できているのはごくわずかで、ほとんど食らってしまっている。

 いや。それすらできない俺たちに比べれば段違いの回避能力なのだが。

 

手当て

 

 彼女が少しでも長くロクサーヌと戦えるよう、回復を入れてサポートを行う。

 すると、セリーも援護をしようと思ったのだろう。二人に駆け寄りロクサーヌめがけて木槍を突き入れた。

 

 しかし、それを察知したロクサーヌはミリアと位置を入れ替え、木剣を叩きつける。

 手当てをかけたものの二人の攻撃をまともに食らってしまったため、回復が間に合わずミリアはとうとう倒れ込んでしまった。

 

 そして、ミリアに攻撃を当てたことに動揺しているセリーを地面へ転がすと、ロクサーヌはこちらへ顔を向ける。

 

「さあ、次はご主人様の番です」

 

 その顔には口角の上がった美しくも恐ろしい攻撃的な笑みが浮かんでいた。

 

 こっわ! ホラー映画の登場人物か、君は!

 

 

 

 気力を奮い立たせて挑むも、あっさりと叩きのめされ地面を転がることになる。

 回復した後に戦闘を再開するが、ロクサーヌに一太刀入れることすら叶わない。

 ミリアはそれなりに形として成立するものの、それでも簡単にあしらわれていた。

 

 地面に膝をついたまま俺とセリーがその様子を見守っていると、強烈な一撃を食らいミリアが倒れこみそうになる。

 しかし、地面を転がり距離を取って仕切り直し、鬨の声を上げながら再びロクサーヌへ向かっていく。

 

 やっべー。ミリアってこんなにすごかったの?

 原作では仲間同士で模擬戦をする描写がなかったため、迷宮で前衛を張るロクサーヌとベスタ以外の強さがいまいち分かり難かった。

 だが、対人戦をしているところを見てはっきりと気づかされる。

 体幹やバランス感覚のような身体能力もさることながら、闘争心やガッツといったメンタルもハンパない。

 これは獣人系の人の特徴なんだろうか?

 

 彼女たちの様子を眺めながら隣で膝をついているセリーに問いかけてみる。

 

「確かに獣人系の人は優れた身体能力や闘争本能を持った人が多いですが、あれほどまでの能力を持った人は少ないはずです。ロクサーヌさんとミリアが特別なのでしょう」

 

 やっぱりそうなのか……。本当にたいしたものだなぁ……。

 

 

 

 しばらく打ち合っていたが、ロクサーヌは容赦なくミリアを地面に転がし、倒れている彼女に近づいて何やら声を掛ける。

 そして、それが済むと俺たちの方を見て告げた。

 

「ふふ。ミリアはまだまだ続ける気だったようです。でも、そろそろ時間なので今日はここまでにして、次の修行に移ると伝えておきました」

 

 マジ? まだ続ける気だったの? すごすぎん?

 でもまあ、今後のことを考えると頼もしい限りだ。

 

 

 

 ジョブの振り分けを行い、MPの回復を済ませて庭へ戻ってきたところでロクサーヌのテンションが落ちるようなことを伝えなくてはならない。

 

「ミリアの胴装備を出しているから、いつものように魔法ダメージを減らす装備品を用意することができない。今日は魔法攻撃をなしにしよう」

 

 すると、ロクサーヌの頬が膨らみ、自分の分は必要ないと言い出した。

 だが、これに関しては絶対譲るわけにいかない。

 いかに彼女のことを大切に思っているかと、もし万が一があれば生きていけないことを伝えると、その言葉に頬を朱に染めて頷いてくれた。

 

 

 

 得物を構える三人と向き合いファイティングポーズをとる。

 

 ミリアは初見だし、セリーはまだオーバーホエルミングに対応できていない。

 さすがのロクサーヌも二人を同時に守ることはできないはず。この二人を狙いながら隙をうかがおう。

 

オーバーホエルミング

 

 スキル名を念じ、時間を置き去りにして一足飛びに距離を詰め、ミリアの顔前で地面を蹴って空中へ飛び背後へ移動した。

 そして、空中を蹴り、目の前に迫った背中目掛けて拳を振るう。

 

「バーンナッコォ!」

 

 だが、それは見透かされていたようで、ロクサーヌの盾が差し込まれ防がれてしまった。

 

 セリーとの距離が開いた! この状態で守ることはできないはず!

 

 早速訪れたチャンスに、スローモーションで体の向きを変えようとしているセリーへ近づき、木槍を握っている腕を取って地面に叩きつけた。

 追撃の蹴りを入れようとしたものの、ロクサーヌとミリアが俺を取り囲もうと左右からゆっくり迫ってくるのが見える。

 

 よっしゃ! 今度はミリアとの距離が離れた! すぐにはフォローできないだろう!

 

「残影拳!」

 

 すかさずミリアに駆け寄り肘打ちを放つもギリギリのところで避けられた。

 

 嘘だろ!? この娘もオーバーホエルミング中の攻撃をかわすのか!?

 

 一瞬、動揺するが地面を蹴って空中に上がり、そこから背後を取って腰に組み付くことに成功する。

 

 やはりな。とんでもない目の良さと身体能力を有しているが、それでもロクサーヌには及ばない。

 

 体を持ち上げ投げ飛ばしたところでロクサーヌが迫ってきたため、そのまま離脱するとオーバーホエルミングの効果が切れる。

 

 

 

 時の流れが元に戻り、地面に倒れているセリーとミリアを見ながら尋ねた。

 

「回復しようか?」

 

 すると、ロクサーヌが首を振って返事をする。

 

「いいえ。痛みに堪えながら動くのも修行のうちなので、今は必要ありません」

 

 いや……。君に言ってるんじゃないんですが……。

 それに、めったにダメージを負わない人が何を言うか。

 

 彼女は続けて疑問を口にする。

 

「それにしても、攻撃の際に早口で何か言っていましたが、あれはなんだったのですか?」

 

 え? あ、いや……。

 

「えっと、気合を入れるために声を発しただけで……」

「なるほど。模擬戦であっても本気で戦っているのですね。さすがご主人さまです」

 

 確かに本気で戦っているが、技名を叫んだことに対してそこはかとない罪悪感が……。

 

 いやでも、ふざけたわけではない。

 戦いがすぐそばにあるこの世界の人と違い、俺には戦闘においての引き出しが不足している。

 それに、超人的な動きが可能となった今では、アニメや漫画、ゲームで見聞きした動きが参考になるはず。

 

 イメージするものは常に最強の自分だ。

 

 アーチャーだってそう言っている。

 俺の思い描く戦闘ってのはあんな感じだし、自分なりに本気で考えた結果だ。何の問題もない。

 

 理論武装完了。

 

 

 

 自分を納得させていると、セリーとミリアが悔しそうな表情を浮かべながらよろよろ立ち上がり得物を構えた。

 

 おいおい。継続する気満々だぞ。本当に根性がある娘たちだよなぁ。

 

 それじゃあ、その気持ちに応えるとしよう。

 

オーバーホエルミング

 

 周囲の景色が緩やかになる中、再び攻撃を開始する。

 

 

 

 地面に倒れ込んでいるセリーとミリアに近づき、手当てを使用しながら声を掛けた。

 

「それじゃあ、オーバーホエルミングを使った修行はここまでにしておこうか」

「そうですね。ちょうどいい頃合いでしょう」

 

 結局、この娘は今日も一切ダメージを負っていないんだよなぁ。

 

 手当てが終わるとミリアはロクサーヌに何かを言って、体を動かし始めた。

 それを見た彼女もお手本を見せながら言葉を掛けている。

 

 回復直後に回避訓練を始めた二人を見て呆気に取られてしまう。

 

 ……ロクサーヌと俺に何度もぶちのめされるという、ハードな修行だったというのに全くお構いなしだ。

 

 この娘もすげーな。完全に戦闘民族だわ。

 

 セリーに目を遣ると驚愕の表情を浮かべ、彼女たちの様子を見つめていた。

 

 あんなハードな修行をしたというのにこれっぽっちも堪えた様子がない。そりゃそんな顔になるわ。

 本当に俺たち凡人とはモノが違う。

 

 

 ……ん? あれ? ちょっと待てよ? 俺はともかくセリーは違うんじゃないか?

 

 回避の鬼であり、戦闘のスペシャリストであるロクサーヌ。

 フィジカルモンスターの竜人族で、鉄壁の防御力を誇る竜騎士になる予定のベスタ。

 ロクサーヌには及ばなくても動体視力とバランス感覚、それに強メンタルを持つミリア。

 そして、竜人族には劣るが力と耐久性に優れるドワーフであり、それがさらに伸びるジョブである鍛冶師に就いているセリー。

 

 近接戦闘だと凡人は俺とルティナだけ……。

 

 ……いやいやいや。俺たちはスペルキャスター。戦闘において求められる役割が全然異なる。

 魔物に対する与ダメのほとんどは俺たちが担うことになるんだから、物理戦闘能力に劣ろうとも何の問題もない。何の問題もない!

 

 

 

 自分に強く言い聞かせながらジョブとポイントをいじり、準備が整ったところで靴を履き替えた。

 

「俺は素振りをするから歩雲履を渡しておくね」

 

 ロクサーヌは嬉しそうにそれを受け取ってミリアへ説明を行うと、三人は華やかな声を上げ、はしゃいだ様子で離れていく。

 

 まるで児童館の遊具で遊ぶ子供みたいだ。『仲よく遊ぶんだよ』とか言いたくなってしまうな。

 

 ロクサーヌとセリーはおもちゃを最初に使う権利を下級生に譲ったようで、ミリアは嬉しそうに靴の履き替えを行う。

 そして、ウォーミングアップを済ませると、ものすごい速度でアクロバティックな動きを開始した。

 

 自宅の壁と空中跳躍の三角飛びで一気に上空へ上がった後は、体の位置を入れ替えて頭を地面に向けるとそのまま空中を蹴る。

 とんでもない速度で地面に迫るが、激突する直前に体勢を整えて足からの着地を決めてしまった。

 

 こらー! なんて危ないことをするんだ! 事故が起きたと思ったぞ!

 

 こちらは肝を冷やしたというのに本人はケラケラ笑っており、ロクサーヌも笑顔で彼女へ近づき楽しそうにやり取りを交わしている。

 

 しかし、セリーは俺と同じくその行動にドン引きしていた。

 

 いくらなんでも身体能力に差がありすぎやしませんかねぇ……。

 

 

 

 俺の素振りと三人のレクリエーションを済ませ、リビングで装備品の手入れを行っていると、早々に終えたセリーが口を開く。

 

「製造を行ってきますので、ボーナス装備品をお借りしてもよろしいでしょうか?」

「今回はどっちにする?」

 

 尋ねたところ、彼女は少し考えてから告げた。

 

「指輪の製造に挑戦したいと思いますのでヤールングレイプルをお願いします」

 

 指輪にスロットが二つ付いていたところで使うことはないだろうに、定期的に挑戦するよなぁ。

 全然気にする必要はないのに、鍛冶師としての意地があるのだろうか?

 でもまあ、やるというのなら頑張ってもらおう。

 

 ポイントの振り分けを行い、出現したヤールングレイプルを手渡すと彼女はリビングを出て行った。

 

 さて、作業に戻ろう。

 

 

 

 装備品の手入れを済ませてキッチンへ移動し、ロクサーヌとミリアに尋ねる。

 

「尾頭付きはいくつ必要?」

 

 ロクサーヌがそれを伝えるとミリアは満面の笑みを浮かべ、四本の指を立てた右手をこちらに示した。

 その様子を見たロクサーヌに何かを言われて彼女はコクコク頷く。

 そして、先ほどと同じようにこちらへ四本の指を向け笑顔で声を発する。

 

「よんび、です」

 

 本当に天真爛漫で可愛い娘だなぁ。

 

「分かった。四尾だね」

 

 アイテムボックスから尾頭付きを取り出しバットの上に載せていくと、ミリアから大きな声が上がった。

 

「おおー!」

 

 喜んでいる彼女の様子に癒されながらキッチンを後にする。

 

 

 

 さあ、楽しい楽しいバスタイムのために頑張りますかね。

 

 レベルアップとダブルスペル。そして、ひもろぎのスタッフとよりしろイアリング、さらに倹約の硬革グローブがあれば、毘盧帽がなくてもMPを回復する必要はなくなっている。

 この世界にきて五十日目。俺もだいぶ成長したもんだ。

 

 風呂焚きをサクッと終えてキッチンへ戻ると、三人の華やかな声が廊下まで響いていた。

 ロクサーヌの正統派ヒロインのような可憐な声や、セリーの特徴的な癖のあるキュートな声。それに、ミリアのたどたどしく愛らしい声。どの声も心地良く耳を刺激する。

 

 中に入ると一斉にこちらへ振り返り、口々に声を掛けてくれた。

 彼女たちの顔に浮かんでいる嬉しそうな表情を見て、心が多幸感で満たされる。

 

 俺を見て喜んでくれる人がいるなんて……。幸せだなぁ……。

 

 

 

 いつまでも幸せに浸っているわけにもいかないので、夕食の準備に取り掛かろう。

 

 どうやらブイヤベースはロクサーヌとミリアで作っているらしく、二人は調理に戻る。

 すると、アイテムボックスからヤールングレイプルと三つの指輪を取り出しセリーが口を開いた。

 

「ご主人様、確認をお願いします」

「分かった。見てみるね」

 

 ヤールングレイプルをポイントに戻してMP回復速度二十倍を付け、指輪に鑑定を掛けていく。

 

 おっ。一個目にスロットが付いてる。幸先がいいじゃん。

 んー。二個目はスカかぁ……。

 

「あー!」

 

 三つ目の指輪に鑑定を掛けたとき、ついにその表示が現れた。

 

指輪 アクセサリー

スキル 空き 空き

 

「ご主人様! 二つなのですか!?」

 

 俺の様子を見てセリーから大きな声が上がる。

 

「おめでとう、セリー。この指輪にはスキルスロットが二つ付いている。よく頑張ったね」

 

 それを聞いた彼女の顔に天使の笑みが浮かんだ。

 

「そうなのですね。二つ付いているのですね。ふふ。安心しました」

 

 気にする必要はないと伝えていたが、やはり本人は気にしていたようだ。

 ぶっちゃけ、身代わりスキルを付けるならミサンガで十分だし、その他のスキルを付けて運用するのならスロット二つは少なすぎだ。

 論理的な彼女ならそんなことは百も承知だろうに、それでも複数スロットを付けることができないことに対し挫折感を覚えていたのだろう。

 

 すると、俺たちの様子を見守っていたロクサーヌが微笑みを浮かべてセリーに話しかけた。

 

「セリー、おめでとうございます。あなたなら何も問題ないと思っていました。これで益々ご主人様のお役に立てますね」

「はい。ありがとうございます」

 

 何が起こっているのかは理解できないだろうが、喜ばしいことが起こっていることを感じているのだろう。

 ミリアもニコニコしながら二人の様子を見守っている。

 本当に空気の読める娘さんだ。

 

 さて、俺のアイテムボックスに指輪をしまって、夕食の準備に取り掛かろう。

 

 

 

 おかずとして使用する牛肉をセリーに渡し、棚からフードプロセッサーを取り出す。

 ツナマヨと卵サンドで全て使ってしまったからな。まずはマヨネーズの補充だ。

 いつものようにフープロを使って一気に仕上げ、それをボウルに移して布巾を掛けておく。

 

 フープロを洗うと今度は白身を取り出し皮の部分を切り取る。

 

 魔物が残す食材には鱗や骨がなく、とても使い易い。

 内臓や血合いもないため料理の手間が省ける。

 そのうえ味もいいなんて本当にありがたいわ。

 

 切り分けた白身をフープロにかけた後にすり鉢へ移し、塩とミルで挽いたコボルトスクロースとスライムスターチ、そして卵白を混ぜひたすら練っていく。

 十分な粘りが出たところで今度は成形だ。自宅で食べるだけなんだから木の板を使う必要はないだろう。

 

 それにしても、こっちを見て大騒ぎをしているお嬢さんがいるんですが……。

 

 成形を終えせいろで蒸し始めたところでロクサーヌが話しかけてきた。

 

「あの、ご主人様……。先ほどからミリアが気になってしょうがないようなのです。それはどんな料理なのでしょうか?」

 

 好奇心で瞳をキラキラ輝かせながらこちらを見つめているミリアへ、かまぼこについて伝える。

 ついでに、ちくわやはんぺん、それからつみれにさつま揚げ、そして魚肉ソーセージやフィッシュハンバーグといった他の練り物についても話しておく。

 

 彼女は一つ話すごとにまるで雷に打たれたような表情になり、瞳に浮かぶ尊敬の度合いが増していった。

 

 魚料理のレシピ集としての価値がドンドン上がっているんですけど、俺本人を好きになってもらえるんですかねぇ……。

 

 

 

「——とまあ、こんなところかな? そのうち全部作るから楽しみにしててね」

 

 それを伝えられたミリアは表情を輝かせ、首が取れんばかりに高速で頷いていた。

 

 ヘドバンか!

 

 それにしても、すっかりミンチに慣れてしまったロクサーヌとセリーはともかく、ミリアも練り物に対して戸惑う様子が見られない。

 魚だとミンチにしても問題ないんだろうか?

 それとも、魚料理に対するあくなき探求心が忌避感を凌駕しているのか?

 

 我が家で暮らすならミンチや練り物は避けて通れない。引かれていないのなら一安心だ。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

探索者Lv47 英雄Lv41 遊び人Lv35 僧侶Lv15

装備 サンダル 身代わりのミサンガ

 

BP振分 残BP:2

キャラクター再設定:1

フォースジョブ:7

必要経験値二十分の一:63

詠唱省略:3

鑑定:1

ワープ:1

ジョブ設定:1

結晶化促進四倍:3

MP回復速度二十倍:63

 

所持金:2,443,552ナール

 

春の50日目

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