食事の挨拶を済ませてブイヤベースを口に運んだところ、トマトの酸味がまろやかになっている上に旨味が増している。一晩寝かせたブイヤベースも絶品だ。
彼女たちもそれぞれ美味しそうにブイヤベースとかまぼこ、それからサラダを頬張っている。
大切な娘たちが嬉しそうにしているのを見ていると、本当に自分が恵まれていることを実感してしまうな。
いつものように食後の休憩を行うためリビングに移動してソファーへ腰を下ろすと、いつもならローテーションでそれぞれの場所に座るのに二人はその場を動かない。
不思議に思い彼女たちの方を見たところ、ロクサーヌがセリーに話しかけた。
「今回はあなたの番ですが、ミリアに譲ってもらえませんか?」
彼女は笑顔で頷き口を開く。
「はい。問題ありません。ミリアはしばらく商館で過ごすことになるのです。ご主人様に抱きしめてもらい安心した上で行く方がブラヒム語の学習にも身が入るでしょう」
ロクサーヌは感謝を伝え、バーナ語で説明を始める。
話を理解したのか、ミリアはコクコク頷き俺の脚の間に腰を下ろした。
そして、はにかんだような笑みを浮かべ、振り向いてこちらを見つめている。
ほんと、可愛い娘さんだこと。
彼女の体に腕を回すとそこに自分の手を添え、顔に浮かぶ笑みが輝くようなものへと変わった。
賞金稼ぎの生死不問について調べようと思っていたのだが、それはミリアをベイルの商館へ送った後にしよう。今はこの娘との時間を大切にしたい。
それにしても、猫人族はべったりくっついたりしないという話だったし、原作のミリアもミチオに対してべたべたしている様子はなかったはずだ。
しかし、うちのミリアはくっついて過ごすことを嫌がっている様子はなく、寝ているときも俺の腕を抱きしめていた。
やはり原作のミリアとはどこか違う。俺の、俺だけのミリアだ。
ぼんやり考え込んでいる間に二人も向かいのソファーに腰を下ろしたので、セリーにペルマスクでの出来事を尋ねてみる。
「今後、私たちが鏡をまとめて購入することはないこと、それから原石の納品も出来なくなった旨を伝えたところ、残念だけど仕方がないと理解を示してくれました」
俺たちの代わりにハルツ公爵家が購入することになるんだから、継続的な取引ができるだろう。
まあ、原石については悪いが諦めてもろて。
「それから奥さんにも箱に入ったコハクの装飾品はハルツ公爵家で取り扱うことになるため、私たちが販売することはできなくなると言ったところ、本当にガッカリしていました」
そう言ってセリーはニヤリと悪い笑みを浮かべる。
「なので、今回が私たちで取り扱える最後の機会になるので、高額な商品もそれなりの値段で販売すること、さらにネックレス以外の装飾品の注文も受け付けると伝えています」
この娘さんめちゃくちゃ営業してきているぞ。ほんと、頼もしい限りだわ。
その言葉を聞きロクサーヌが尋ねた。
「奥さんから注文はあったのですか?」
すると、彼女は悪い笑顔のまま口を開く。
「コハク商で見たネックレス以外の装飾品を伝えると、少し考えたいと言われました。それから、知り合いにも声を掛けてもらえないかお願いしたところ、こちらは快く引き受けてくださいました」
なるほど。大量購入の可能性があるってことか。
「奥さんが購入する物の検討と、知り合いの注文の取りまとめを行うため、三日後の春の五十四日目にペルマスクへうかがうことになったのですが、よろしいでしょうか?」
「もちろん問題ないよ。とても大きな取引になりそうだね。セリー、本当にありがとう」
感謝を告げたところ、彼女の顔に愛らしい天使の笑みが咲き誇る。
このギャップよ……。
「もったいないお言葉ありがとうございます。これも全てご主人様が私を信頼して取引を任せていただけたおかげです」
「ふふ。さすがセリー。ご主人様のお役に立てましたね」
ロクサーヌが状況を理解していないミリアにセリーの働きを伝え、三人ではしゃいでいた。
それを眺めながら思索に耽る。
それにしても、三日で注文を取りまとめるのか。
期間が短いような気がするが、一体どのくらいの数が出るんだろう?
前回の儲けを考えると、どうしても期待してしまうぞ。
セリーは以前にもとんでもない額の利益をもたらしてくれた。
それに、ロクサーヌは迷宮での鼻を使った索敵と案内、それに回避タンクとしてたった一人で前線を支えてくれている。
彼女たちには本当に感謝しかない。
話が終わって、のんびりゆったり過ごしていたところ、ロクサーヌがミリアに話しかけている。
すると、彼女は体勢を変え俺の体をソファーへ横たえようとし始めた。
顔にはウキウキしたような表情が浮かんでいたため、あまりの可愛らしさに求められるがまま姿勢を変える。
それに満足したのかミリアは一つ頷くとそのまま抱きつき、俺の胸に顔をスリスリと擦りつけた。
めちゃくちゃ可愛いな、おい!
彼女の行動にハートを撃ち抜かれていると、こちらの手を取り自分の耳へと導く。
そして、期待に輝く瞳で俺を見つめる。
どうやら朝にやった耳への刺激を気に入ってくれたらしい。
よっしゃ。期待に応えるとしますかね。
ミリアの愛らしいネコミミを優しく撫で、痛みがないように気を付けながら揉んでいく。
こちらの体をぎゅっと抱きしめ寝息を立てているミリアを見ながら髪の毛と耳を撫でていると、ロクサーヌがクスクスと笑い声を漏らした。
「ふふ。ミリアは随分リラックスしているみたいですね」
「そうですね。ご主人様を身近に感じて安心したのでしょう」
二人は優しい微笑みを浮かべてこちらを見つめている。
「今日から十五日間は離れて暮らすことになるんだ。少しでも心安らかな気持ちで過ごしてくれるといいんだけど……」
「大丈夫です。ご主人様、この子の顔を見てください」
ロクサーヌの言葉でミリアの顔を確認してみると、幸せそうに緩んだ笑みが浮かんでいる。
こんなに信頼してもらえているのか……。
その表情を見て感動がこみ上げてくる。
思わず頭から手を離し彼女の体を抱きしめると、ゆっくり目を開いて顔を上げた。
そして、目が合ったところでふにゃっとした笑みが浮かべ口を開く。
「ごしゅじんさま」
そう呟いて再び俺の体を抱きしめ顔を埋めた。
この娘、割と甘えん坊だな。それが実に愛らしく、どこまでも甘やかしてしまいたくなってしまう。
再び髪を撫でようとすると、困ったようにセリーが告げた。
「ご主人様、そろそろ時間だと思うのですが……」
すると、ロクサーヌも続ける。
「セリーの言う通りです。いつもの時間をだいぶ過ぎています」
そんな時間だったのか……。
名残惜しいがしょうがない。それじゃあ、行動を開始するとしますかね。
ミリアに声を掛けソファーから立ち上がると、ロクサーヌがバーナ語で話しかけている。
それを聞いた彼女の顔に残念そうな表情が浮かんだ。
「ミリアが合流する日を楽しみにしているよ。それに、ベイルで市が立つ日には魚料理を持って面会に行くからね」
俺の言葉を伝えられ、彼女は笑顔で口を開く。
「ごしゅじんさま。ありがとう、です」
玄関へ移動し靴を履き替えたところで、アイテムボックスから銀貨を数枚取り出しセリーへ差し出す。
「配達の者が来たら家の中に入れず玄関先へ置くこと。それが済んだら一人一枚ずつ銀貨を渡しておいて」
「かしこまりました」
セリー一人だし家の中には入れない方がいいよな。
「それじゃあ、行ってくるから留守番をお願いね」
「はい。お任せください」
笑顔で返事をする彼女に頷き返し、ワープゲートを展開した。
商館へ行くといつもの商人がいつもの部屋へ案内し、ソファーに腰を下ろすよう促して部屋を出て行った。
ソファーに座ろうと声を掛けたところ、ロクサーヌが自分たちは後ろで控えていた方がいいだろうと言われてしまう。
何かあるのだろうかと不思議に思いながらソファーに腰を下ろし、ボーナスポイントの振り分けを行うことにした。
すると、背後から微かに声が聞こえたため振り向くと、真剣な表情のロクサーヌがミリアの耳元で何か言っている。
そして、ミリアも表情を引き締め、それに耳を傾けていた。
内密にするべきことについて念押ししているのだろうか?
まあ、それはロクサーヌに任せるとして、俺はポイントの振り分けだ。
振り分けを済ませ考え事をしながら待っていると、程なくしてアランと教育を担当する女性がやってきたためソファーから立ち上がる。
「ようこそいらっしゃいました、アユム様。ジョブ変更はお済になりましたか?」
「ああ。おかげさまで滞りなく変更することができた。アラン殿、感謝する」
「それはようございました」
再びソファーに腰を下ろすとロクサーヌとミリア、それから年配の女性はそれぞれの後ろに控えた。
アランと雑談をしていたところ、ハーブティーが運ばれてきたので口を付ける。
彼はそれを確認し話を切り出した。
「それでは条件の確認を行います。本日を起算日に春の六十五日目までの十五日間、そちらの女性、ミリアを当家でお預かりしてブラヒム語の教育を施します。また、その間の食事等については当家が負担いたします」
その言葉に頷くと彼は説明を続ける。
「そして、引き渡しは春の六十六日目の午前中となりますので、こちらへお越しください。ここまででご質問はございますか?」
五日短くなってはいるものの、セリーのときと条件に変わりはないので問題ないっちゃない。
でもなぁ……。
「少しだけ付け加えさせてくれ。セリーのときと同じようにベイルの市が立つ日に面会を行いたい。その際、差し入れを持ってくるのでその日の朝食は食べさせないでくれ。もちろん出さなかった食費を差し引く必要はない」
俺の言葉にアランと女性の表情が変わる。
「……問題ございません。アユム様は本当に奴隷を大切に扱っているご様子。ロクサーヌとセリーをそのようなお方にご購入いただき、奴隷商人として感謝に堪えません」
たぶん、ここまで奴隷に入れ込む人は少ないのかもしれない。
しかし、俺はロクサーヌに会うためにこの世界に来たのだし、大切な存在は彼女たち五人だけだ。
誰にどう思われようとこのまま突っ走るさ。
「それから、あわせて侍女服をご用意いたします。以上で間違いありませんか?」
「うむ。それで頼む」
頷いて答えるとアランは言葉を続ける。
「昨日確認させていただいておりますが、念のためアユム様と彼女のインテリジェンスカードを再度ご提示いただけますでしょうか」
まあ、そうだわな。昨日は契約に至っていないのだ。
あの後、盗賊に落ちている可能性がある以上、契約前に確認する必要があるのだろう。
ミリアと共に彼の前に左腕を差し出すと、詠唱を行い飛び出したインテリジェンスカードを検め出した。
俺の確認が済み、ミリアのそれに目を遣ったところで無表情が常の彼らしくなく、再び驚きの表情が浮かぶ。
「はい。問題ございません。それにしても本当に契約解除を行ったのですか……」
三十万ナールだもんなぁ。こんな顔にもなるわ。
「アラン殿のおかげで時間を無駄にせずに済んだ。感謝する」
「それはようございました」
彼は再びポーカーフェイスに戻り、商談の続きを行う。
「では、金額の確認を行います。教育を行う報酬が十五日間で七千五百ナール。それから、侍女服が四千ナール。合計一万一千五百ナールとなりますが、時は金なりという素晴らしい言葉を実践しているアユム様に敬意を表し、今回は八千五十ナールといたします」
値引スキル先生がまた無理やりな理由を言わせている……。
支払いを済ませると年配の女性がバーナ語でミリアに声を掛けた。
その言葉を聞いた彼女は俺の後ろから離れ、アランたちの方へ移動する。
さて、それじゃあボチボチ戻るとするか。
「アラン殿、ミリアのことをよろしく頼む。では、俺たちはこれで失礼する」
挨拶を交わしてソファーから立ち上がり、ミリアへ視線を向けると少しだけ不安そうな表情が浮かんでいる。
「ロクサーヌ、通訳を頼む」
「かしこまりました」
彼女が頷いたのを確認し告げた。
「明日の朝、差し入れを持って面会に来るからな。それから、ミリアが俺たちの下へ戻ってくるのを楽しみにしている。頑張れよ」
ロクサーヌがそれを告げるとミリアはコクコク頷いて口を開く。
「はい、です。ごしゅじんさま、ありがとう、です」
よし。可愛い笑顔が戻っている。よかった、よかった。
もう一度ミリアに声を掛け、商館を後にする。
通りを歩きながら歩いているとロクサーヌが笑いながら話しかけてきた。
「ふふ。ブラヒム語を完全に覚えてご主人様のお役に立つのだと張り切っていました」
そうなのか……。彼女の気持ちが本当にありがたい。
グッと胸に込み上げてくるものがあるぞ。
「一生懸命でとても良い娘だな」
「そうですね。ミリアとなら絶対に仲良くやっていけます」
「彼女を迎える日が待ち遠しいが、しばしの別れだ。なあに。たったの十五日間だ。すぐに共に過ごせるようになる」
「はい」
顔を見合わせて笑い合い、路地裏に入ってワープゲートへ飛び込んだ。
玄関で靴を履き替えていると俺たちが戻ってきたことに気が付いたのだろう。セリーが急ぎ足で現れる。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
「ただいま、セリー。家具は届いた?」
尋ねたところ彼女は頷いて答えた。
「はい。少し前に運搬人が来ました。二人だったので残りの銀貨はお返ししますね」
玄関内に移動したため気が付かなかったが、既に届いていたのか。
受け取ったそれをアイテムボックスにしまい、二人に声を掛ける。
「それじゃあ、家具を運ぼう」
すると、セリーが笑みを浮かべ答える。
「大丈夫です。チェストは私たちの部屋に、スツールは風呂場に運んであります」
「一人で運んだの!?」
彼女の言葉を聞いて思わず声を上げてしまった。
「はい。あのくらいでしたら一人でも問題ありません」
「そ、そうなんだ……」
いやいやいや。おかしい、おかしい。
明らかに君より大きい木製家具だぞ? そんなものを抱えて二階へ上がったのか?
……ドワーフの腕力、マジパネェ。
種族の違いに戦慄したものの、気を取り直して二人に告げた。
「確認したいことがあるから探索に出るのは少し待ってもらえる?」
「かしこまりました。それでは私たちは掃除をしていますね」
ロクサーヌがそう言うとセリーも頷いている。
本当に働き者の良い娘たちだわ。
自室に戻り鍵のかかるチェストから書籍版を取り出す。
えーっと、確かミリア加入後しばらく経ってからだったよな?
七巻を手に取りパラパラ捲っていく。
ん? あっ! レベル差か!
ミチオはセリーのアドバイスにより、対象とのレベル差により成功率が変わるのではないだろうかとあたりを付けて、一階層の魔物を相手に生死不問を試している。
うわぁ……。やっちまったぁ……。賞金稼ぎのレベルを上げる必要はなかったかもしれない……。
他のジョブを取得するための貴重な時間的リソースを無駄にしちまった……。
……まあ、やってしまったことはしょうがない。
とりあえず、次の探索のときに適当な迷宮の一階層で生死不問を試すことにしよう。
念のため博徒を取得したときの状況も確認しておくか。
七巻、八巻を確認していくがそれらしいことは起こらない。
同じように九巻を手にしてページを捲っていく。
あれ? また生死不問を試してるぞ? しかもその際に賞金稼ぎのレベルは32にまで上がっている。
そして、もう一度成功してから盗賊のレベルが30になったところで博徒を取得っと。
この描写を見るに賞金稼ぎのレベルが30以上なことも条件に入ってるっぽいな。
無駄じゃなかった! 賞金稼ぎを育てた俺の行動は無駄じゃなかった!
よし。この後の探索でもレベル上げを継続しよう。賞金稼ぎは30にしておく必要がある!
29のまま盗賊のレベルを30にしても博徒は取得できないからな!
なので、29のまま放置するわけにはいかない! 絶対にだ! 絶対にだ!
自分に言い聞かせながら一階に下りて掃除をしている二人に声を掛け、ポイントの振り分けと装備を整えて迷宮へ移動した。
ワープゲートを潜り抜けるとロクサーヌはスンスン匂いを確認し、戸惑いの表情を浮かべている。
「あの、ご主人様。ニードルウッドの匂いしかしないのですが、ここはベイルの迷宮の一階層ですか?」
おお。さすがロクサーヌ。すぐに気付いたな。
「うむ。二人も知っての通り、賞金稼ぎのレベルを上げながら生死不問を試してきた」
「はい。攻撃魔法を使う前に試しておられましたよね」
セリーの言葉に頷き話を続ける。
「だが、一向に成功する様子がないので先ほど物語を確認しなおしてみたところ、どうやら成功率は対象とのレベル差が影響しているようなのだ」
それを聞き、ロクサーヌは納得したような表情で口を開いた。
「なるほど。だから一階層に来たというわけですね」
「上の階層に出る魔物は毒や麻痺になる確率が低いそうですし、生死不問もそうだと聞いたことがあります」
「そうなのか?」
セリーの言葉に引っかかりを覚えたため質問してみる。
「はい。昔、偉い学者さんが同じ魔物で出現階層ごとの状態異常耐性を確認したところ、状態異常攻撃を受けてその状態になるまでの回数に、有意な差が認められたそうです」
へー。そうだったのか。
でも、言われてみれば納得だ。
状態異常に対する耐性は精神のパラメーターが関係している。レベルが上がればそれだけパラメーターも増しているはずだし、そうなれば耐性が高くなるのも当然だろう。
だとすると、即死耐性というものが存在していてもおかしくはない。
ただ、原作でミチオが試していたが、博徒の状態異常耐性ダウンを掛けた状態で生死不問を使っても成功確率が上がることはなかった。
たとえ即死耐性というのが存在していたとしても、通常の状態異常攻撃とは別の計算が行われているのだろう。
それじゃあ、試してみるとしよう。
「ロクサーヌ、案内を頼む」
「はい。お任せください」
彼女の案内で通路を進むと、すぐに反対側からニードルウッドが姿を現す。
生死不問
即座に念じたものの奴が倒れる様子はない。
しゃあない。
ファイヤーボール
撃ち出された火球が着弾し激しく燃え上がる。
そして、程なくして炎と共に魔物の体も消えていった。
ロクサーヌから受け取ったブランチをアイテムボックスにしまいながら考える。
一回目で成功するほど甘い成功率じゃないか。
「では、次の魔物へ案内してくれ」
ロクサーヌに声を掛けるとセリーが疑問を口にする。
「どうしてすぐに倒してしまわれたのですか? 同じ魔物に繰り返しスキルを使うわけにはいかないのですか?」
そういえばそうだ……。
ミチオが一匹ずつにしか生死不問を試していなかったため俺もそれに倣っていたが、同じ魔物を相手に延々と生死不問を使い続けてもいい気がするな。
よし。とりあえず次に出会った魔物へ十回くらい試してみよう。
それで倒れないようなら、今まで通りに戻すってことで。
「次の魔物にはセリーの言う通り何度も生死不問を使ってみることにしよう。ロクサーヌ、魔物の注意を引き続けることで負担をかけてしまうだろうが、よろしく頼む」
「一階層の魔物の攻撃など目を瞑っていても避けられます。問題ありません」
へー。ロクサーヌでもこの類のジョークを口にするんだな。
まあ、全然問題ないという比喩表現なのだろう。
「それじゃあ、任せるな」
「はい!」
笑いながら頼むと彼女はキリッと引き締まった真剣な表情で答えた。
え!? めちゃくちゃシリアスな雰囲気を出しているぞ!?
ガチ!? さっきの言葉はガチなの!?
動揺してセリーへ視線を移したところ、理解できない生物を見るような目でロクサーヌを凝視していた。
この娘さんの回避能力がとんでもないことになっているんですが……。
俺たちが落ち着きを取り戻したところでロクサーヌが案内を再開した。
そして、すぐにニードルウッドが姿を現す。
んじゃ、一発目!
生死不問
念じた瞬間に奴の体が頽れ、そのまま風に流されるように消えていった。
うそー!? 一発!? 何回も試そうと思った途端に一発で成功するのかよっ!
あまりのことに驚いているとロクサーヌの声が通路に響く。
「何もしていないのに魔物が倒れました! さすがご主人様、すごいです!」
運用に難はあれど、彼女の言う通り確かにすごいスキルではある。ではあるんだが……。
ロクサーヌの反応とは対照的に、セリーは顔を強張らせながら口を開いた。
「このスキルと詠唱省略を組み合わせれば、だれにも気付かれることなく人を殺すことができてしまいます。他人に知られてしまえば不味いことになるでしょう」
だよなぁ……。どう考えてもテロを起こすための組み合わせとしか思えない。
これを知られてしまえば確実に権力者から命を狙われてしまうだろう。
「そうだな。これについては俺たち三人だけの秘密にしよう」
ミリアとベスタ、それからルティナに日本のことや原作知識について話すにしても、これを伝える必要はない。
三人で頷き合い、意思確認を行う。彼女たちもその意見に賛成のようだ。
それにしても詠唱省略がなくても、詠唱が聞こえないくらい離れて使えば気づかれることなく対象を始末できそうだよな?
他の賞金稼ぎたちはテロリスト扱いをされていないのだろうか?
……もしかしたら、あれだけ失敗した俺やミチオの成功確率ですら、驚異的な成功率なのか?
あり得るな……。複数ジョブや英雄で増加したなにがしかのパラメーターが成功確率を引き上げたと考えるのが自然だろう。
それに、生死不問は発動しなくても結構なMPを持っていかれてしまう。普通の人が連発するのは不可能だ。
そのため、生死不問を受けるのは隕石が直撃するとか、雷に打たれるのと同じように考えられているのかもしれない。
まあ、考えても答えなんか出ない。いつものように棚上げだ。
新たに湧いた疑問を横に放り投げ、河岸を変えるためワープゲートを展開する。
田川 歩 男 18歳
探索者Lv47 英雄Lv41 遊び人Lv35 魔法使いLv46 賞金稼ぎLv29
装備 ひもろぎのスタッフ ダマスカス鋼の盾 身代わりの硬革帽子 頑強の竜革鎧 倹約の硬革グローブ 竜燐の靴 よりしろのイアリング
ロクサーヌ ♀ 16歳
戦士Lv23
装備 強権のエストック ダマスカス鋼の盾 硬革の帽子 竜革のジャケット 竜革のグローブ 駿馬の竜革靴 身代わりのミサンガ
セリー ♀ 16歳
メイン:鍛冶師Lv20
装備 強権のダマスカス鋼槍 竜革の帽子 硬革のジャケット ダマスカス鋼のガントレット オラクルダマスカス鋼グリーヴ 身代わりのミサンガ
ミリア ♀ 15歳
メイン:戦士Lv15
装備 皮の靴
BP振分 残BP:26
キャラクター再設定:1
フィフスジョブ:15
必要経験値二十分の一:63
詠唱省略:3
鑑定:1
ワープ:1
ジョブ設定:1
結晶化促進四倍:3
MP回復速度十倍:31
所持金:2,450,186ナール
春の51日目
本日、原作のコミック版11巻が発売されましたね。
10巻までと同様、とても綺麗な絵に加え物語も少しずつ動き出していますし、次巻でミリアが登場する可能性も高そうで発売が待ち遠しいです。