クーラタルの迷宮へ移動し、ボーナスポイントの振り分けを済ませたところでセリーに尋ねる。
「この階層から出現するクラムシェルについて教えてくれ」
「かしこまりました。クラムシェルは大きな貝の魔物で、攻撃方法は体当たりと貝殻による挟み込みです。それを食らってしまうと麻痺する可能性があるので注意してください。また、水を吐いて攻撃してくることがありますが、これは魔法ではなく物理攻撃となるため魔法ダメージ削減や水防御のスキルでは軽減されません」
魔法ではない放水による攻撃……。威力はどんなもんなんだろう?
高圧洗浄機でやられる感じか? でも、それだと距離によってかなり減衰されるよな?
頭を悩ませているとセリーが解説を続ける。
「スキル攻撃として水魔法を使うことがありますので、これは確実に潰しましょう。そして、残すアイテムはシェルパウダーと、昨日話題に出たレアドロップの蛤です」
麻痺と遠距離攻撃を持っているのは厄介だ。
ワンターンキルができなかった時には撤退も視野に入れておこう。
「セリー、ありがとう。ロクサーヌ、今日からしばらくはここでレベル上げを行うので一番近い魔物の場所へ案内してくれ」
「はい。お任せください。それでは、地図を確認させていただけますか?」
彼女は返事をすると、笑顔でこちらを見つめている。
……今日のラストは絶対にボスへ挑むことになるんだろうなぁ。
リュックから取り出した地図を差し出すと、彼女はサッと目を通しこちらへ戻す。
「それでは、ご案内いたします」
俺が地図をしまったのを確認し、ウキウキとした様子で歩き出した。
……本当に困った娘さんだなぁ。
「ご主人様、魔物です!」
通路を歩いているとすぐに警告の声が響く。
通路の奥に目を遣ると、縦に直立した一メートルほど巨大な蛤が二匹にケトルマーメイドが一匹。
でっか! 蛤の形状であの大きさはとんでもないぞ!
それに、あんな風に立っていたら中の汁がこぼれるんじゃないのか?
おっと。いかんいかん。
余計なことが頭をよぎるがそれを振り払い戦闘を開始する。
サンドストーム
サンドストーム
念じた瞬間、大量に発生した砂が体に纏わりつき魔物の動きを制限すると、ロクサーヌとセリーが攻撃を入れ始めた。
スタッフを向けながらその様子をうかがい続ける。
程なくして纏わりついた砂と共に魔物の体も風に流されるように消えていった。
「ふぅ」
よし。二十二階層の魔物も弱点を突けば問題ないな。
ドロップアイテムはシェルパウダーが二つに人魚の泡が一つ。
まあ、いきなりレアが残るわけがない。
よーし。次、いってみよう!
続いてエンカウントしたのはクラムシェル二匹にケトルマーメイド二匹、それからラブシュラブ一匹の混成部隊。
開幕サンドストームのダブルスペルを叩き込むも、ラブシュラブを討ち漏らしてしまう。
くそっ。弱点を突かなければワンターンキルは無理か。
ロクサーヌにあしらわれている低木を見つめつつ、リキャストタイムが明けたところでファイヤーボールを撃ち込み始末した。
ワンターンキルはできなくてもボール系の魔法を一発足すだけで沈んだな。
この階層ではクラムシェルとケトルマーメイド以外が出る確率は低いため、討ち漏らす数も少ないだろう。
討ち漏らしても数が少なければロクサーヌが確実に抑えてくれる。
二十二階層でも特に問題なさそうだ。
ロクサーヌの鼻によりサーチアンドデストロイで魔物を蹴散らしていると、ついにそれが目に入る。
クラムシェルが消えた場所にシェルパウダーとは明らかに違う、剥き身の貝が落ちていた。
ボーナスポイントの都合で鑑定を付けていないが確実に蛤だろう。
それにしても、剥き身の貝を床に直置きは駄目でしょうが……。
拾い上げて確認してみると日本で見知っていた蛤の大きさと大差ない。
こんな小っちゃい物が三百二十ナールもするのかよ……。
あまりの高級食材っぷりに驚きつつアイテムボックスへしまい、探索を再開する。
「ご主人様、そろそろお昼になります」
ひたすら魔物を倒し続けているとロクサーヌからいつもの言葉が発せられた。
何かいつもよりエンカウントにかかる時間が微妙に長い気がするなぁ。魔物の数が少ないのだろうか?
普段のレベル上げ時に比べて遅く感じたが、とはいってもすごい早さで魔物を倒していることは確かだ。あまり気にすることもないか。
「では、次の小部屋に入ったら午前中の探索を終わりにしよう」
すぐに小部屋へたどり着き、キャラクター再設定を開く。
おっ! 1ポイント余ってる!
そのポイントで鑑定を付けて確認してみると探索者だけでなく、遊び人と賞金稼ぎのレベルも上がっていた。
あと2つ上がるといよいよ冒険者の解禁だ。インテリジェンスカードのチェックを恐れる必要はなくなるぞ。
それに、遊び人のレベルが上がったことで、また少し魔法攻撃力が増しているはず。
あと、賞金稼ぎについてはひとまずこれで終了だ。今後、フィフスジョブには戦士を付けることにしよう。
そして、彼女たちを確認するとセリーに変化はなかったが、ロクサーヌの戦士が上がっていた。
それを伝えて喜びを分かち合い、迷宮を後にする。
昼食と食休みをとり、再び迷宮へ戻ったところでロクサーヌが話しかけてきた。
「ご主人様、終了の時間よりだいぶ早めに待機部屋へ着きそうなのですが、その時はオイスターシェルに何度も挑むというのはどうでしょう?」
……なるほど。そういうことか。
こやつめ。一番近くの魔物ではなく、ボス部屋へのルート上にいる魔物を優先しておったな?
いつもに比べてエンカウントにかかる時間が微妙に長いと感じたのは気のせいじゃなかった。
彼女の顔を見つめると、ニッコリ笑みを浮かべこちらを見つめ返す。
世界で一番大好きだが、俺がいつもいつも君の希望を優先すると思うんじゃないぞ。
たまにはビシッと言わなければドンドン危ないことを考えるだろう。
今回は毅然と却下してやる。
「ありがとうございます! ボスに何度も挑むなんてご主人様でなければ絶対に不可能でしょう。本当に私のご主人様はすごいお方です!」
あの笑顔には勝てなかったよ……。
「はぁ」
ため息が聞こえてきたので視線を遣ると、呆れたような表情でセリーがこちらを見つめていた。
そんな顔をしないでおくれよ……。
生き死にが係わるようなことじゃない限り、俺がロクサーヌの意見を却下できるはずないじゃないですか……。
……気を取り直してポイントの振り分けだ。
といってもワープに振っていた分を結晶化促進二倍に振るだけなんだけどさ。
冷たい視線を向けてくるセリーと共に、尻尾をブンブン振りながら案内するロクサーヌの後を歩く。
彼女は待機部屋を目指しているのだろうが、それでも魔物自体を回避しているわけではないため、出遭う端から魔法を放って薙ぎ払い、MPが尽きればデュランダルによる回復を挟む。
それを繰り返していると、アイテムボックスに蛤がガンガン貯まっていった。
十匹倒して二個くらいか……。
素の状態でもそれなりにドロップするな。料理人とドラウプニルを使えばすぐにアイテムボックスの一枠を埋めることができそうだ。
待機部屋へたどり着くとロクサーヌは嬉しそうに話し出す。
「夕方まで、まだだいぶ時間があるので何度もボスに挑むことができますよ。ご主人様、楽しみですね!」
いや、あの、うん……。
「あ、ああ。夕方までオイスターシェルとの戦いを繰り返そう」
「はい!」
まったく。可愛い笑みを浮かべおってからに。
気を取り直してセリーに尋ねる。
「オイスターシェルについて教えてくれ」
「かしこまりました。オイスターシェルはクラムシェルに比べ一回り大きく、また殻もごつごつしているので、攻撃を食らった際に受けるダメージも増しています」
殻がつるりとしている蛤に対し、こっちは牡蠣だもんなぁ。まあ、サザエじゃないだけましだ。
「攻撃方法はクラムシェルと同じく体当たりと貝殻による挟み込み。この攻撃を食らってしまうと毒を受けることがあります」
「毒持ちなのか……」
厄介だな。
「はい。オイスターシェルの毒を受けた状態は『あたる』と言われ、吐き気を催したり、お腹を下してしまうこともあるため、迷宮探索を行う者の間ではとても恐れられています。もし食らった場合は速やかに毒消し丸を使用してください」
こっわ! ノロかよ! ノロウイルスかよ!
「それは人に感染したりするのか?」
問いかけてみると彼女は戸惑いの表情を浮かべ答える。
「オイスターシェルの毒がですか? そんな話は聞いたことがありませんが……」
ということはウイルス由来の症状ではないわけか。まあ、潜伏期間もないみたいだしな。
……でも、ドロップアイテムの生食はやめとこう。なんとなく怖い。
セリーは再び説明を続ける。
「他にも水を飛ばす遠距離攻撃。そして、スキル攻撃は全体に対する水魔法です。いつも通りスキルは確実に潰しましょう」
オッケー。それじゃあ、そろそろ準備に取り掛かるとしますかね。
スタッフとダマスカス鋼の盾、それからよりしろのイアリングをアイテムボックスへしまい、キャラクター再設定を開く。
結晶化促進二倍を外してジョブ設定にチェックを入れ、ジョブの変更を行おうとしたところでそれに気が付いた。
おっ! 魔法使いと戦士のレベルが上がってる!
よしよし。あと三つ上がれば魔道士の解禁だ。魔法攻撃の与ダメが跳ね上がるだけではなく、氷冷蔵庫を稼働することができるぞ!
気分の高揚を抑え込み、ジョブ設定の続きを行う。
サードジョブに料理人、フォースジョブに剣士を設定しておいた。
それが済むとジョブ設定を外して鑑定を付け、彼女たちのレベルを確認だ。
しかし、二人のレベルに変化はみられない。
うーん……。まあ、しょうがない。振り分けの続きに戻ろう。
鑑定をワープ、獲得経験値二十倍をアクセサリー六に入れ替える。
そして、出現したドラウプニルを身に着けて、アイテムボックスから貫通のオリハルコン剣を取り出した。
さあて。楽しい楽しいボスマラソンの開幕だ。
ボス部屋に入るといつものように散開して駆け出した。
走っている間にフロア中央に煙が集まり、それが晴れるとバカデカい二体の貝が姿を現す。
エグイ、エグイ! 完全に岩じゃん! あんなもんに体当たりをされたり、挟まれたりしたらえらいことになるわ! 殺意が高すぎる!
ロクサーヌとセリーが接敵したことを確認しつつ背後へ回り込む。
うわぁ……。隣のクラムシェルに比べてかなりデカい。ヤバすぎだ。
内心の動揺を抑え込んでスキル名を念じる。
オーバーホエルミング
引き延ばされた時間の中、クラムシェルへ一気に駆け寄り二枚の貝殻が繋がっている部分へ得物を振るう。
ラッシュ
スラッシュ
しかし、ダブルアタックを受けたというのに魔物はピンピンしており、スローモーションで方向転換をしようとしていた。
一撃で倒れないなんざ想定済みなんだよ!
ラッシュ
スラッシュ
そのまま二撃目を叩き込むも、依然として奴の体は実体を保ったままだ。
噓だろ!? オリハルコンの剣だと二発でも駄目なのかよ!
思わず舌打ちが出てしまうが、もう一度攻撃を行う。
ラッシュ
スラッシュ
横に薙いだ剣身が通り抜けるとクラムシェルの体が密度を失っていった。
次!
それを確認したところで、今度はロクサーヌに攻撃を仕掛けているオイスターシェルの背後へ回り、バックスタブを叩き込んでいく。
ロクサーヌがヘイトを取ってくれるため、安全に背後からのダブルアタックを入れ続けることができる。
だが、二十二階層ともなると魔物も相当タフになっているようで、奴の体が霧状になるのにかかったオーバーホエルミングの回数は六回。
そのためMPもかなりの量を消費しており、ボス戦前に回復をしていなかったせいもあるが、このまま次というわけにはいかない。
おそらく、満タン状態でも連続三回が限度だろう。
贅沢な悩みだと分かってはいるがもう少し余裕がほしいもんだ。
「やはり問題ありませんでしたね。さすがご主人様です」
「はい。たった三人だというのに、ここまで安定して二十二階層のボスを倒せるパーティーなど、そう多くないでしょう」
考え込んでいるとロクサーヌとセリーの声が聞こえてきた。
うーん……。まあ、そうか。事故の可能性は低いし安定して戦うことができている。
MP回復に時間を取られてしまうが問題ないといえば問題ない。
「そうだな。MPを回復したらボス戦を続けよう」
俺の言葉を聞きロクサーヌは表情を輝かせて答える。
「はい! 望むところです!」
「足を引っ張らないように頑張ります!」
強い強い。君たち圧が強いって。
彼女たちのやる気に戸惑いながらドロップアイテムの回収を行う。
おっ。蛤だ。幸先がいいじゃん。
蛤をアイテムボックスにしまい、オイスターシェルのドロップアイテムを探すと牡蠣の殻が床に転がっていた。
あー。ボレーかぁ……。残念。ハズレだ。
原作によると竜人族、特に女性は定期的にボレーを食べなければ体が弱くなっていくんだったよな?
おそらくカルシウムやミネラルを摂取しているのだろうが、なぜ竜人族の女性はこれを必要とするのだろう?
ベスタの描写を見るに総排出腔じゃなさそうだし、卵を産むってことはないはずだ。
それに、ボレーではなく他の物から必要な栄養分を得ることはできないのだろうか?
うーん……。実に不思議だ。
まあ、考えても答えなんか出ない。こいつはベスタのために取っておくとしてボスマラソンに戻ろう。
アイテムボックスにボレーを放り込み、次の階層へ移動する。
その後もオイスターシェルとの戦闘を繰り返していった。
十四回戦って牡蠣が残った数は五個。かなりの確率だ。間違いなく料理人のレア食材ドロップ率アップとドラウプニルのレアドロップ率二倍の効果は重複している。
そして、牡蠣と人魚を倒し十五回目を終えたところでフロアに悲鳴のような声が響いた。
何事かとロクサーヌと共にそちらを向くと、セリーが指を差しながら再び声を上げる。
「ご主人様! あれ! あれです!」
ん? 何だ?
「あー! スキル結晶です!」
彼女の指さす方を見ようとしたところで、ロクサーヌからも声が上がった。
マジ!? スキル結晶!?
急いでそちらを見ると確かにスキル結晶が転がっている。
ほんとだ! スキル結晶だ! これはどっちなんだ!? 人魚は嫌だぞ!
キョロキョロとあたり見回したところ、人魚の泡が転がっていた。
よかったー。人魚じゃない。貝のスキル結晶だ。
念のためキャラクター再設定を開き、ワープを鑑定に付け替え確認を行う。
スキル結晶 貝
おっしゃ! 貝のスキル結晶ゲットだぜ!
「鑑定で確認した。間違いなく貝のスキル結晶だ」
それを伝えると見る見るうちに二人の顔に笑みが浮かび歓声を上げた。
その後もタイムアップまでボスマラソンを続けたところ、最終的にオイスターシェルを十九匹倒して牡蠣が残った数は七個。しかも、スキル結晶までドロップしている。
セリー曰く、驚異的な確率とのことだ。
神様、仏様、ドラウプニル様。ありがたやー。ありがたやー。
ドロップアイテムの売却と食材を購入して自宅へ戻るとパピルスが残されていた。
もちろんロクサーヌは俺が触れるのを許さず、それを手に取り目を通している。
「ルーク氏からスキル結晶落札の知らせです」
ええ。それ以外ないんじゃないでしょうか。
「では、読み上げますね。コボルトのスキル結晶五千四百ナール、コボルトのスキル結晶五千五百ナール、油脂植物のスキル結晶三千七百ナール。あっ……」
何だ? どうしたんだ?
彼女は何ともいえないような表情を浮かべながら読み上げる。
「貝のスキル結晶七千八百ナール……」
うそー!? マジで!? ついさっき自引きしたばっかりだぞ! 物欲センサーさん仕事しすぎです!
物欲センサーさんの精度に驚愕したものの、考えてみればこれはありがたい。
魔法ダメージに対する耐性を得られる貝のスキル結晶はめちゃくちゃ有用で、いずれは全員の装備品に付けたいところだ。
こんなんなんぼあってもいいですからね。
ナイスだルーク! いや、クールだルーク!
内心で奴を称えているとロクサーヌが続きを口にする。
「そして、風琴アルガンのスキル結晶七万六千五百ナール。以上です」
七万六千五百? 高くね?
……ん? あれっ!?
「風琴アルガンって何!?」
思わず大きな声が出てしまう。
いやでも、マジで何のスキル結晶なんだ?
ロクサーヌを見つめていると彼女は首を横に振る。
次にセリーに視線を移したところ、何やら考え込んでいた。
そして、俺たちの視線に気づき、自信なさげに口を開く。
「調べたわけではないので確実だとは言えないのですが、油脂植物系の最上位種であるオルガンアルガンのスキル結晶だと思います……。おそらく、融合すると消費MP半減が付くのではないでしょうか……」
オルガンアルガン? オルガンって風琴っていうのか? それにアルガンってのは何だ? 油脂植物なんだろうけど全然知らないわ。
いやいや。そんなことはどうでもいい!
すごいもんを手に入れた! これを融合できたら毘盧帽の出番が終わるぞ!
セリーが隻眼になったらすぐに融合してもらわないと!
「やっぱりルークはたいしたものだ。問題もあるが本当にいい仕事をしてくれる」
その言葉を聞いて彼女たちは苦虫を噛み潰したような顔になっている。
「あのような者でも能力があるのは間違いないでしょう。業腹ですが受け入れるしかありません」
ロクサーヌの言葉に頷きながらセリーも続けた。
「所詮は仲買人。信用に値しませんがご主人様のために働いているうちは仕方がありません」
君たち……。
いや。でも、あいつもあいつで色々やらかしているからなぁ……。
というか今回だってそうだ。
風琴オルガンのスキル結晶が七万六千五百ナール。間違いなく相場の五割増しになっているだろう。
この娘たちがルークを信用できない気持ちも分かる。
キッチンへ移動して二人に声を掛ける。
「それじゃあ、買い物の時に言った通り、今日のスープは俺が作るから」
「かしこまりました。それでは、私はウサギのシェーマ焼きを作りましょう」
「おお! ロクサーヌのシェーマ焼きは本当に美味しいからなぁ。楽しみにしてるよ」
その言葉に彼女は顔をほころばせる。
「ふふ。ありがとうございます。ご主人様に美味しいものを召し上がっていただくために頑張ります」
俺たちのやり取りを見ていたセリーも続けて口を開く。
「私はサラダとロクサーヌさんのお手伝いをしますね」
「うん。セリーもありがとう」
三人で笑い合い、修行のためにキッチンを後にした。
探索者を外すとミリアがパーティーから抜けてしまい再加入が難しいため、今日からは探索者を動かせない。
しばらくは自分を弱体化させる修行はなしだな。
修行と風呂焚きを終え、再びキッチンへ移動する。
さて、今日のスープはクラムチャウダー。ミチオも作っていたメニューだ。
しかし、ハムではなくベーコン。出汁として竜肉を使用する。さらに、チーズたっぷりの濃厚仕立てだ。
アイテムボックスから蛤を取り出していく。
割と小さいんだよなぁ。明日の朝にも味わいたいし、一人四個ずつとして十二個ぐらい使っちまうか。
小鍋にワインと水、それから蛤を入れて加熱する。
ドロップアイテムなので砂抜きをしなくて済むのがありがたい。
蛤を煮ている間に食材を切っていたところ、二人が驚愕の表情でこちらをガン見していた。
どうしたんだろう?
「あの……。ご主人様、蛤をそんなに使うのですか?」
おずおずとロクサーヌが口を開く。
え? ……ああ、そうか。
魚屋での値段が一個三百二十ナールだったから、店で買うとなるとこれだけで三千八百四十ナール……。
一食に使う金額と考えたら、ぶっちゃけ頭がイカれてる。
そりゃ、そんな顔にもなるわ……。
「えっと、贅沢に感じるかもしれないけど、このくらいならいつでも用意することができるから問題ないよ。それに、とても美味しいと思うから遠慮するより楽しみにしてほしいな」
俺の言葉を聞いて二人の顔に笑みが浮かぶ。
「そうですね。ご主人様ならこのくらいなんでもないですね」
「はい。今日だけで信じられないような数を手に入れていました」
嬉しそうに話す二人と共に調理に戻った。
完成した料理をダイニングに運び込み、クラムチャウダーを取り分けて食事を始める。
スプーンで掬って口に入れると濃厚かつ複雑な味わいでパンがよく進む。
やはり迷宮産の食材はすごいもんだ。
「んー! このスープはすごいです! 竜肉と蛤の出汁。それからベーコンや野菜からしみ出した味が混ざり合い、口の中を刺激します!」
「ロクサーヌさん、蛤とベーコンも相当なものですよ! これらの味がチーズによく合います! 蛤とはこんなに美味しいものだったのですね!」
彼女たちはクラムチャウダーを口に運ぶたび、料理漫画バリの盛大なリアクションを取っている。
えっと、うん。喜んでもらえたようで何よりだ。
食事が済んだところでロクサーヌが呟きを漏らす。
「ミリアにも食べさせたかったですね……」
うーん……。よし。
「それじゃあ、彼女がこの家に戻ってきたら歓迎会をしよう。そのときにクラムチャウダーを作るよ」
それを聞いてロクサーヌが笑顔で頷いた。
「はい。それはいい考えだと思います」
そして、セリーも笑みを浮かべながら続ける。
「きっとミリアも喜ぶことでしょう」
そうだな。そうだといいな。
田川 歩 男 18歳
探索者Lv48 英雄Lv41 遊び人Lv36 僧侶Lv15
装備 サンダル 身代わりのミサンガ
BP振分 残BP:6
キャラクター再設定:1
フォースジョブ:7
必要経験値二十分の一:63
詠唱省略:3
ワープ:1
鑑定:1
ジョブ設定:1
MP回復速度二十倍:63
所持金:2,453,890ナール
春の51日目