食事を続けながらお互いの近況を伝え合う。
「今はどのあたりを探索しているんだ?」
レベルが上がりまくっていたのが気になっていたのでゴンザレスに問いかけると、にこやかな笑みを浮かべ答えた。
「アユムさんからご忠告をいただきましたので、安全に留意して二十六階層で戦っています」
おいおい。もうそんな階層まで進んでいるのか?
ベイルの迷宮が入口を開いてからまだ五十日くらいしか経ってないよな?
ハルツ公爵領の迷宮に比べて随分進むのが早い気がするんだが……。
それとも、低階層のうちはサクサク上がっていくのかね?
彼の言葉を聞いて考えこんでいたところ、ケヴィンが得意気に語る。
「ベイルの迷宮は二十三階層のケープカープを皮切りに、ブラックフロッグ、グミスライム、ハーフハーブと火属性を弱点とする魔物が連続しているんだ」
その言葉にマルコが続く。
「だから魔法使いや魔道士がいるパーティーにとっては絶好の狩場となるだろ? 今はまだ人が少ないが、この情報が知れ渡ると二十六階層は混雑するかもしれないし、討伐されてしまってはその恩恵もなくなってしまう。なので、多少無理をしても今のうちに籠ることにしているんだ」
あ、こら! 何という情報を! そんなことを耳にしたらうちのお嬢様たちが我慢できなくなるじゃないか!
チラリとロクサーヌの顔をうかがったところ、口角が上がり攻撃的な笑みを浮かべている。
そして、セリーも意味深な笑みを浮かべこちらを見つめていた。
あー。これは帰ったら強請られるんだろうなぁ……。
それにしても、原作ではハルツ公領の迷宮に入るようになってから、ベイルの迷宮へは足が遠のいていた。
そのため、第二ランク以降の魔物についてはほとんど情報がなかったはず。
実際のところ、魔物の出現パターンはどうだったのだろう?
先ほど聞いた配置と同じだったのか? それとも異なっていたのだろうか?
……まあ、この世界に来た今となっては確かめようもない。
思索を打ち切り、新しく浮かんだ疑問について尋ねてみる。
「二十六階層で戦っているとなると、ゴンザレスのMPが気になるところだ。魔道士になったばかりで魔法の威力が落ち、MPの量も少なくなっているだろう? 大丈夫なのか?」
すると、ウォルターがチョイ悪フェイスにニヤリと笑みを浮かべ答えた。
「ああ。俺の武器は吸精のダマスカス鋼ステッキでな。ゴンザレスのMPが少なくなると得物を交換するんだ。だから何も問題ない」
そういえば午前中に確認したときにそんなのを持っていた気がする。
なるほど。それなら、そうそうMP枯渇に陥ることはないか。
しかし、全然関係ないがニヤリ笑いがめちゃくちゃ様になってるぞ。こいつ絶対モテるだろ。少しイラっとしてしまうわ。
食事を終えベイル亭を出ると彼らは外まで見送りに来てくれた。
「アユムさん、明日はよろしく頼む」
ガストンの言葉に頷きを返し答える。
「ああ。こちらこそよろしく頼む」
それぞれ挨拶を交わしたところで冒険者ギルドへ向かい歩きだす。
ワープゲートから出ると家の中は真っ暗だった。
靴箱の上に置いている燭台を手探りで取り、玄関を開けて表にでる。
そして、空中にファイヤーウォールを出し、蝋燭へ火を着けた。
家の中に戻ると二人はすぐにでも話し合いをしたそうな雰囲気だ。
何が言いたいのか予想は付くが少し待ってもろて。
キッチンへ移動し、手洗いうがいを済ませ歯を磨く。
そして、部屋に戻り着替えを持ってバスルームへ移動した。
蠟燭の明かりで家事をさせるわけにはいかないため、今日は彼女たちに見守られながらの風呂焚きだ。
複数ジョブによるパーティー効果とダブルスペル。それに、装備品のゴリ押しであっという間にお湯を沸かし終える。
素晴らしい。俺もすっかり湯名人だな。
体と髪を洗い終え、カメリアオイルによるヘアケアを行うが、その最中も二人はずっとウズウズしている様子だった。
これは説得できないかもしれないなぁ……。
湯船に浸かりホッと一息つくと、彼女たちも俺の隣に腰を下ろす。
今日は正面からの抱き着きはナシらしい。何としても二十六階層に進みたいのだろう。
ロクサーヌがもう待ちきれないといったように、勢い込んで話し出す。
「ご主人様! 明日からはベイルの迷宮二十六階層に入るべきではないでしょうか!?」
ド直球できましたかぁ。
「ロクサーヌさんの言う通りです。二十三階層から二十六階層の魔物の弱点が揃っていることなど、なかなかあることではありません。このチャンスを活かすべきでしょう」
セリーも興奮で表情を輝かせながらそう言った。
でも、確かに彼女たちの言う通りなんだよなぁ。
二人にはまだ伝えていないが、ハルバーの迷宮を横取りで討伐しようと考えている以上、一刻も早くレベルを上げる必要がある。
そうなるとベイルの二十六階層は絶好の狩場となるはずだ。
しかし、二十三階層以降は魔物の強さが一段上がるため、絶対にワンターンキルは不可能だ。それどころか二ターン目で撃破できるかも怪しい。
そうなると魔物の攻撃を何度も食らってしまうだろう。
俺に関してはレベル補正が働いてくれるし、頑強の竜革鎧だってある。
だが、彼女たちはレベル補正の恩恵を受けることができない。
ロクサーヌの防具には風魔法に対する耐性しかついておらず、セリーの防具には体力二倍と魔法ダメージ削減が付いているものの、胴装備が硬革のジャケットだ。
正直、これだとかなり厳しい気がする。
しかも、セリーは二十二階層までの魔物の情報しか書き写していないため、魔物の攻撃に対して十分な対策が取れない。
それに、昨日二十二階層に挑んだばっかだぞ? いくら何でも一気に四階層も上げるのはやりすぎだ。
このままクーラタルの二十二階層でレベルを上げて魔道士を獲得し、万全を期してから挑む方がいいのではないだろうか?
二人にそれを告げると呆然とした顔でこちらを見つめている。
まるでドラゴンボールを楽しみにテレビを付けたら、野球中継がやっていたときの子供のような表情だ。
……そんなに楽しみにしてたの?
すると、再起動したセリーが口を開く。
「ご主人様が懸念なさっていることは理解できます。私たちが攻撃を受けたときのことをご心配されているのですよね?」
「まあ、そうだね」
返事をすると彼女は頷き言葉を続ける。
「私については問題ありません。ドワーフは頑丈な種族ですし、オラクルダマスカス鋼グリーヴには魔法ダメージ削減と体力二倍のスキルが付いています」
いや。まあ、うーん……。
「ロクサーヌさんは物理攻撃を受ける心配はいらないですし、貝とコボルトのスキル結晶を融合することで魔法耐性を付けるのはいかがでしょうか?」
なるほど……。
ありかもしれない。竜革のジャケットに融合しておけば長く使えるはずだし、必要なくなった時には高額で売却できるだろう。
装備品について考えているとロクサーヌも勢い込んで口を開いた。
「ご主人様、攻撃については対策ができそうですし、全ての魔物弱点が分かっているのです。そこまで情報にこだわる必要があるとは思えません」
いや。あるでしょうよ。
どんな攻撃を隠し持っているのか分からない相手に挑むのは怖すぎる。
日本から持ち込んだ小説やwikiを参考にしようにも、原作とは違う攻撃を行う魔物も多いため、あてにしすぎるわけにもいかない。
うーん……。どうしたもんかなぁ……。
考えながら二人に目を遣ると、期待に満ちた表情でこちらをうかがっている。
……よし。一度試してみて、駄目そうなら即撤退するか。
経験値効率を考えた場合、この魔物の配列はかなり美味しい上に、現在のレベルと絶妙に嚙み合っている気がする。
それに、グズグズしていては人が増えて混雑する可能性もあるし、何より討伐されてしまえば狩りができなくなってしまう。この期間限定のチャンスを逃すのはなんとも惜しい。
ただし、魔物の情報だけは確認しておく必要があるだろう。
少しの手間を惜しんで準備を怠るわけにはいかないからな。
我がパーティーのモットーは安全第一。作戦はどんな時でもいのちだいじにだ。
「ロクサーヌ、セリー。一度、ベイルの二十六階層に挑んでみようと思う」
すると、彼女たちは大きな声を上げ、俺の腕を抱きしめた。
むにゅってした! 今、むにゅってした!
今すぐ寝室に直行したくなる幸せな感触だ!
「ご主人様なら二十六階層でも問題ありません! 明日が楽しみですね!」
弾むような声色で発せられたロクサーヌの言葉に、愛らしい表情を浮かべたセリーも続く。
「間違いなく大きな成果を生み出すことでしょう。本当に楽しみです」
おおぅ。この娘たち、すぐに行くつもりになっているぞ。誤解を解かなければ。
「ちょっと待って。ベイルの二十六階層には行くけど、明日すぐに行くつもりはないよ」
その言葉を聞いた瞬間、彼女たちの顔から表情がスンと抜け落ちた。
ちょ! そんなあからさまに変わらなくてもいいじゃんよ!
「違うから! そういう意味じゃなくて、明日で準備を整えて明後日から挑むことにしようってことだから!」
慌てて付け加えるとロクサーヌの顔に表情が戻り、困惑した様子で問いかけてきた。
「準備……。何をするのですか?」
「うん。明日の早朝はクーラタルの迷宮二十二階層へ入って、朝食を取った後は商人ギルドで激情のオリハルコン剣を売却する」
二人は一つ頷き話の続きを待っている。
「その後は迷宮探索を休みにしよう。セリー、帝都の図書館で魔物の情報を調べてもらえないかな?」
「えっ? 休日に図書館へ行くのですか……」
問いかけたところ、彼女の顔に少し傷ついたような表情が浮かぶ。
あれ? 喜んでもらえると思ったのになんでそんな顔をするんだ?
セリーの様子に戸惑っているとロクサーヌが声を掛けてきた。
「あの……。調べ物なら私がいたしますので、ご主人様はセリーと一緒に休日を過ごしていただけませんか?」
え? あっ。そういうことか。
前回の休日のとき、彼女からセリーとも二人だけの時間を作るように言われている。
それに、ロクサーヌと共に図書館へ迎えに行った際、嫉妬をしている様子だったし、二人の時間を作ると言ったらとても喜んでくれていた。
不味い。間違いなくセリーを傷つけてしまっただろう。
二人に抱きしめられていた両腕を離してもらい、彼女の体を掴んで持ち上げる。
「きゃっ」
すると、可愛らしい声が口から漏れた。
ただでさえ華奢なセリーの体は、お湯の浮力によりほとんど重さを感じられない。
あまりにも頼りないその感触も相まって罪悪感を刺激されてしまう。
俺の膝の上へ横向けに座らせギュッと抱きしめた。
「セリー、そんなつもりはなかったけど君のことを傷つけてしまったね。本当にごめん」
戸惑ったようにこちらを見つめていたが、その言葉を聞いて笑みを浮かべかぶりを振る。
「ご主人様の言葉を聞いて勝手に私が落ち込んだだけです。ご主人様は何も悪くありません。こちらの方こそ申し訳ありませんでした」
いじらしい言葉に心が締め付けられてしまう。
今回は突発的なことだったのでこんなことになってしまったが、元々セリーと二人で過ごす時間をとるつもりだったんだ。
そうだな。ミリアが合流するまでの間にもう一度休日を設けよう。
「ロクサーヌ、セリー。今回は調べ物をしてもらうけど、次にベイルの市が立つ春の五十七日目も休日にしよう。ミリアの面会を終えた後はセリーと一緒に過ごそうと思うんだけどいいかな?」
その言葉を聞いた途端、セリーの瞳に輝きが灯る。
「よろしいのですか?」
「もちろん。それで、どうかな?」
「はい! 私もご主人様と二人きりで過ごしてみたいです!」
大輪の花が咲き乱れるような笑みを至近距離で食らい、心臓がドクンと跳ねた。
「受け入れてくれてありがとう。それじゃあ、その日は一緒に休日を楽しもうね」
「はい! ありがとうございます!」
こんなに嬉しそうにしてくれるなんて……。本当に俺は幸せ者だ。
喜んでいる彼女の体を抱きしめたままロクサーヌの方に目を遣ると、微笑みを浮かべながらこちらを見つめている。
「ロクサーヌ、明日は一緒に過ごしてくれる?」
「ふふ。もちろんです。ご主人様との時間を楽しみにしていますね」
そう言うと再び俺の腕を抱きしめた。
大きく張り出し弾力に富んだロクサーヌの感触と、華奢でありながら女性らしい柔らかさを併せ持つセリーの感触。もう我慢できない。
「そろそろ出ようか」
二人に声を掛けたところロクサーヌが妖艶な笑みを浮かべ耳元に顔を寄せる。
「今夜もたくさん可愛がってくださいね」
我慢の限界を迎えているというのに、何ということを言うのだ。まったく。この悪戯っ子め。
すると、セリーも同じように逆の耳へ顔を寄せて囁いた。
「ご主人様の硬いものがあたっています。この逞しいもので私のこともたくさん可愛がってくださいね」
それはいかんですよ! セリーさん、その言葉はいかんですよ!
完全に理性が焼き切れたじゃないか!
彼女の体勢を変え正面から抱きしめ合う形で立ち上がると、驚いたような声を漏らし落ちないように俺の腰に足を回す。
入ってはいないものの、いわゆる駅弁の体勢だ。
アレにプニプニとした柔らかさを感じ、ますます興奮が高まってしまう。
「じゃあ、行こうか」
「もう。強引なご主人様です」
セリーは呆れたような視線でそう呟いたものの、口元は嬉しそうに緩んでいた。
「ご主人様」
セリーと見つめ合っていたところ、綺麗で愛らしいのに地獄の底から響いているような声が耳に届く。
聞こえてきた方向に顔を向けると、ニッコリ微笑んでいる最愛の人が……。
やっちまった! やるならロクサーヌを先にするべきだった!
えーっと、えーっと。
「明日はロクサーヌの番だね。その時は寝室までこの姿勢で移動するのはどうかな?」
「はい! とても素晴らしいアイデアだと思います! 是非お願いしますね!」
俺の言葉を聞いた途端、彼女の顔に喜びの表情が浮かぶ。
よかったぁ。フォローは上手くいったようだ。本当によかったぁ。
その後、体を拭いて寝室へ移動する。
田川 歩 男 18歳
探索者Lv48 英雄Lv42 遊び人Lv37 僧侶Lv15
装備 身代わりのミサンガ
ロクサーヌ ♀ 16歳
戦士Lv24
装備 身代わりのミサンガ
セリー ♀ 16歳
鍛冶師Lv21
装備 身代わりのミサンガ
ミリア ♀ 15歳
戦士Lv17
BP振分 残BP:7
キャラクター再設定:1
フォースジョブ:7
必要経験値二十分の一:63
詠唱省略:3
ワープ:1
鑑定:1
MP回復速度二十倍:63
所持金:2,313,645ナール
春の52日目