朝の挨拶を交わし、身だしなみを整えたところでロクサーヌへリビングに竜革のジャケットを持ってくるように告げた。
そして、俺の方も自室からコボルトと貝のスキル結晶を取って移動する。
リビングへ入ると既に二人とも待っていたので、ソファーに腰を下ろし、彼女たちにも座るように促す。
ローテーブルの上に二つのスキル結晶を置くと、ロクサーヌも竜革のジャケットを隣に並べた。
「それじゃあ、まずはスキル結晶の融合を行おう。セリー、よろしくね」
「はい。お任せください」
彼女は一つ頷き呪文を唱え、サクッと融合を終わらせてしまう。
オラクル竜革ジャケット 胴装備
スキル 魔法ダメージ削減
「うん。問題ない。オラクル竜革ジャケットだ」
俺の言葉を聞いてロクサーヌが感激したような声を発した。
「このような素晴らしい装備品を身に着けることができるなんて、以前は想像もしていませんでした。ご主人様、セリー。本当にありがとうございます」
今は装備できないミセリコルデと竜燐の靴を除けば、彼女の装備品の中では圧倒的な値段になるだろうからなぁ。
「ロクサーヌの身が少しでも安全になるのなら安いもんだよ」
「はい。私もお役に立てて嬉しいです」
俺たちの言葉にロクサーヌはもう一度、笑顔で感謝の言葉を述べる。
なあに。気にするねい。
スキル結晶の融合を終えたところで、今日の予定を確認だ。
「今日からベイルの迷宮二十六階層へ挑むことになる。あらかじめ魔物の情報を確認しておきたいから、グミスライムと、えーっと、なんだっけ?」
やっべ。グミスライムがいたことは確かだけど他が思い出せない。
「二十三階層がケープカープ、二十四階層がブラックフロッグ、二十五階層がグミスライム、そして二十六階層がハーフハーブですね」
記憶を漁っていたところ、ロクサーヌがスラスラと諳んじる。
それに対しセリーも一切驚いた様子がなかった。
この娘たち本当にすごいよなぁ。
それともただ単に俺の物覚えが悪いだけなんだろうか……。
気を取り直して話を続ける。
「セリー、それらの魔物について教えてもらえる?」
「かしこまりました」
彼女は一つ頷くと説明を始めた。
「まず、二十三階層のケープカープの攻撃方法ですが、四属性全ての全体魔法を放ってきます。ただ、水属性の魔法を得意とする反面、火属性の魔法は苦手なようです」
なるほど……。
「それじゃあ、水魔法は食らわないようにしないといけないね」
「あ、いえ。はっきりしたことは分からないですが、威力はどの魔法も変わらないという話で、水魔法の使用頻度が高いため得意だと言われているようですね」
なんじゃそりゃ。
そんなもん得意な魔法ではなく、お気に入りの魔法じゃねーか。
猪熊滋悟郎ならそう言うぞ。
うーん……。原作ではどうだったかなぁ……。
「ごく稀に体当たりを行うことがあるようですが、ほとんど気にする必要がないくらい頻度が低いみたいです。他にもスキル攻撃として大幅に威力の増した全体水魔法を放つこともありますが、基本的に詠唱中断の付いた武器で攻撃し続けていると完封できるので、距離を取られないことが肝心かと」
距離を取って魔法をブッパか……。シンパシーを感じる……。
それにしても、二十三階層以降では雑魚敵ですら全体攻撃魔法を持っているのは厄介だよなぁ。
その後、耐性と弱点の属性。そして、ドロップアイテムの肝と寄生ワームについても伝えられるが、火魔法が弱点なことは分かっているし、ドロップアイテムも魅力的な物がないのでスルーだ。
その後もセリーの講義を受ける。
二十四階層から出現するブラックフロッグは長い舌を鞭のように振るう物理攻撃に加え、水魔法攻撃を多用し、火魔法が弱点で水魔法に耐性を持つ。
そして、体の表面がヌルヌルしているため物理攻撃の通りが悪いらしい。
ドロップアイテムは黒蛙の粘液。以前教えてもらった黒の染料になるやつだ。
二十五層のグミスライムも物理攻撃の通りが悪く、下手に攻撃すると取りつかれた上に溶かされてしまう。
スキル攻撃として土属性の全体魔法を使用してくるので要注意っと。
弱点は火、水、風の三属性で、コボルトよりはマシだがこいつも耐性はガバガバだ。
ドロップアイテムは我が家でもお馴染みの、唐揚げに用いるスライムスターチ。
あっ。原作ではこれで甘酢あんかけを作っていたな。俺もそのうち作ってみよう。
二十六階層のハーフハーブは逆に水、風、土の三属性に耐性を持っているが、火属性が弱点のため、弱点属性そろい踏みのベイルの迷宮においては致命的な穴となっている。
攻撃方法は葉っぱを振るう物理攻撃に加え、水と土の全体攻撃魔法。
さらに、スキル攻撃として大幅に威力が強化された全体攻撃魔法を放つそうだ。
「――そして、ドロップアイテムは万能丸の材料になる麻黄です。ご主人様なら万能丸を作れるかもしれませんね」
「間違いありません。ご主人様なら絶対に成功することでしょう」
セリーの言葉を聞いて、ロクサーヌも断言している。
期待されていることによるプレッシャーがないわけでもないが、万能丸については問題なく作ることができるだろう。
原作でミチオが万能丸を作った時、薬草採取士のレベルは一桁だったはず。それなのに問題なく成功していた。
おそらく、万能丸の生成を成功させるためには、薬草採取士のレベルではなくMP量が条件となっているのではないだろうか?
だが、ハーフハーブのボスであるハートハーブが残す緑豆では話が異なる。
緑豆から万金丹を作ろうと試みていたが失敗していた。
そのとき既に魔道士どころか勇者のジョブすら得ていたのにだ。
原作のセリーによれば、万金丹は二十年以上経験を積んだ薬草採取士がようやく作れるようになるとのことだった。
逆にいえば二十年程度、おそらくレベル50前後くらいだと思われる薬草採取士で成功していることになる。
しかし、魔道士や勇者を設定しているミチオのMPがそれに劣るはずがない。いや、MPどころか全てのパラメーターで勝っているはずだ
つまり、こちらは純粋にレベルが不足していたのだろう。
戦士と剣士のレベル上げが終わったら色魔ではなく、薬草採取士を上げるべきだろうか?
うーん……。まあ、戦士と剣士の上位ジョブを取得してから考えよう。
すると、ロクサーヌが真剣な表情で口を開いた。
「上の階層の魔物が引き起こす状態異常は、毒消し丸等の状態異常回復薬では解除に失敗してしまうことがありますからね。その点、万能丸ならHPとMPも回復するので失敗しても持ちこたえられます」
毒でダメージを受けていても、解除できるまで使えば問題ないってことだな。
逆に毒消し丸の場合は失敗が続けばその間に死んでしまう可能性があると。
そして、セリーも彼女の言葉に続く。
「そうですね。それに、万金丹を使えば失敗の確率は低くなります。他にも万能薬系の薬は病気や怪我も治すことができるので、いざという時のために確保しておきたいですね」
確か最上位のエリクシールは状態異常だけではなく、どんな病気や怪我も一発で回復させるんだよな? いずれ常備することにしよう。
それにしてもどの程度の病気を治すことができるんだろうな?
癌や心疾患、脳血管疾患といった三大疾病にも効果があるのだろうか?
精神疾患や加齢からくるアルツハイマーは?
それに、先天性疾患には対応できるのか?
高度な医療を受けることができない世界だ。エリクシールには期待したい……。
……いや。今考えることじゃないな。気を取り直して予定の確認を続けよう。
「朝食後はペルマスクへ行ってコハクの装飾品の注文を受ける。ロクサーヌ、セリー。お願いね」
「お任せください」
頷きながら答えるロクサーヌに対し、セリーはニヤリと笑みを浮かべた。
「ふふ。今回も大金を手に入れられるよう頑張ります」
ああ。まあ、うん。ありがとう……。
「その後はいつもの通りだね。それじゃあ、今日からベイルの二十六階層だ。安全に気を配りながら、無理をせずに頑張ろう」
「かしこまりました!」
「はい! よろしくお願いします!」
二人ともめちゃくちゃ気合が入ってるぞ……。
撤退となったらちゃんと指示に従ってくれるんだろうか……。
輝くような笑みを見ながら腰を上げ、リビングを後にする。
ベイルの西の森。迷宮入口の近くにある木に展開されたゲートから抜け出し、入口横に佇んでいる探索者の男に声を掛けた。
「探索はどこまで進んでいるんだ?」
「三十階層となりますが、そこがドライブドラゴンだったため、少し時間がかかっているようです」
なるほどなぁ。ドライブドラゴンは低階層の中では最強を誇る魔物だ。思うように探索ができていないのだろう。
ケヴィンたちを信用していないわけではないが、念のために確認してみる。
「二十三階層以降の魔物を教えてもらえるか?」
「はい。二十三階層から順に、ケープカープ、ブラックフロッグ、グミスライム、ハーフハーブ、タルタートル、シザーリザード、ロックバード、ドライブドラゴンとなっています」
「ふむ」
彼らの情報に間違いはなかったようだ。
それにしても、二十九階層がロックバードで三十階層がドライブドラゴンか。
……当面の間は入らんようにしとこ。
そこのお嬢さん。表情を輝かせるんじゃありません。絶対入りませんからね。
んじゃ、行きますかね。
「それでは二十六階層へ頼む」
「かしこまりました。それにしても、やはり二十六階層ですか。この迷宮に入ろうとする者はそれほど多いわけではありませんが、今後はその階層を中心に賑わうかもしれません」
あー。そりゃそうだよなぁ。
魔法使いがいればめちゃくちゃ美味しい狩場だ。もしかしたら今後は混雑することもあるかもしれない。
なら、そうなる前にレベルを上げまくって狩場を移そう。
彼が銀貨をしまったところでパーティー申請を飛ばす。
「それではまいりましょう」
男が歩き出すと、こちらを見つめているロクサーヌとセリーに頷き、入口のゲートを潜った。
案内してくれた探索者の男がこちらへ振り返り尋ねる。
「ここが二十六階層です。このまま探索なさるのですか?」
「ああ」
返事をすると彼はパーティーを抜けて、そのまま二十六階層の初期位置に設置されているゲートから戻っていった。
三人になったところでロクサーヌへ確認を行う。
「人の数はどうだ?」
「少々お待ちください」
問いかけたところ、彼女はスンスンと鼻を鳴らして確認を始め、程なくしてこちらに顔を向けて答える。
「極端に多いということはないので、人に見られる心配のない魔物へ案内できそうです。魔法を使っても問題ないでしょう」
オッケー。大丈夫そうだな。
ジョブとポイントの振り分けは自宅で済ませている。
仕上げにワープと鑑定、それからMP回復速度二十倍と獲得経験値二十倍を入れ替えたら準備完了。
最後にアイテムボックスから杖と盾を取り出す。
「ロクサーヌ、セリー。一気に階層が上がったことで魔物も手強くなっているだろう。無理だと思った時はすぐに撤退するので、君たちも絶対に無謀なことはしないでくれ。いいな?」
俺の言葉を聞くと彼女たちはお互いに顔を見合わせた。
そして、不敵な笑みを浮かべてこちらへ顔を向ける。
「ご主人様と私たちなら何も問題ありません。魔物を蹴散らすのみです」
「そうです。ご主人様の強力な魔法で弱点を突くことができるのです。何も恐れることはありません」
だから、それがいかんと言っているのですが……。
……まあいい。不味いと思ったら彼女たちが何と言おうと、強権発動で有無を言わさず逃げ帰る。これでいこう。
「分かった。では、案内を頼む」
「はい! お任せください!」
テンションたっか!
ロクサーヌの後をついて歩いていると、すぐに通路へ声が響いた。
「敵です!」
腰のベルトに差してあるスタッフを引き抜き前方へ構え、ゆっくりと先へ進む。
すると、魔物はすぐに姿を現す。
一メートルくらいの草が三匹に青いゲル状の物体が一匹、そして人が乗れそうなサイズの黒いカエルが一匹。
それが見えた瞬間、ロクサーヌが一気に駆け出し、俺も即座に念じた。
ファイヤーストーム
ファイヤーストーム
魔物の体を激しい炎が覆うとロクサーヌはそれぞれに攻撃を開始する。
しかし、取り囲んでいたうちの一体、ブラックフロッグのヘイトが剥がれ、こちらへ向かってピョンピョン跳ねてきた。
護衛として俺の前に陣取っていたセリーは、火だるまのカエル目掛けて槍を突き込むと、注意を引くために何度も同じことを繰り返す。
二人が抑えている間にファイヤーストームの効果時間が終わり、炎のエフェクトが掻き消えた。
しかし、魔物は五匹とも健在で煩わしい炎が消えたためか、攻撃が激しさを増す。
ファイヤーストーム
ファイヤーストーム
リキャストタイムが終わり、ダブルスペルをお見舞いすると再び炎が奴らの体を舐め始めた。
彼女たちが魔物と戦っているところを確認しつつも、見ていることしかできないことに歯がゆさを覚える。
だからといって攻撃を加えようものならヘイトを取ってしまい、かえって迷惑をかけてしまうだろう。
俺にできることといえば抜け出してきた魔物に対する備えをすることだけだ。
焦燥感を抑えつけて見守っていると、やがて炎のエフェクトが終わる。
だが、それでも魔物はピンピンしているため、リキャストタイム明けに再び魔法を放った。
三度目に放ったダブルスペルでようやく魔物の体も消えていく。
「ふぅ」
安堵感から思わず大きな息が漏れてしまった。
それにしてもダブルスペル三回分か。
つまり、二十六階層の魔物が魔法六発分で片付いたということだ。
俺の魔法はかなりのダメージ量となっているのだろう。
でもまあ、考えてみれば当然か。
英雄や遊び人のパーティー効果に加え、知力二倍と魔法攻撃力二倍のスキルがある。
先ほどの戦闘で放った六発の魔法は、普通の魔法使いが放つ二十発分以上の威力があったに違いない。
そしてさらに、弱点を突くことも出来ている。
ワンターンキルではないので危険はあるが、この程度なら問題ない。このまま二十六階層で狩りを続けよう。
それに、もしかしたらダブルスペルを二回とファイヤーストーム一発で片付いた可能性だってあるしな。
次はそれを試してみよう。
「二十六階層の魔物をこんなにあっさりと! さすがご主人様! すごいです!」
「そうです! 二十六階層の魔物相手に楽勝だなんて信じられません!」
狩りの方針を考えていると、ロクサーヌとセリーが興奮しながら駆け寄ってきた。
「うむ。問題はなさそうだな。この階層で狩りを継続しよう」
「もちろんです!」
「当然です!」
俺の言葉を聞いて二人は輝くような笑顔で答える。
それじゃあ、ドロップアイテムの回収だ。
詠唱省略を詠唱短縮に落とし、ジョブ設定を付ける。
そして、フィフスジョブの戦士を薬草採取士と入れ替えた。
「鑑定」
黒蛙の粘液
麻黄
麻黄
スライムスターチ
麻黄
お馴染みのスライムスターチに薄皮に入った黒蛙の粘液、そして麻黄は乾燥した細長い茎だった。
スライムスターチと黒蛙の粘液はそのままアイテムボックスにしまい、麻黄二つをロクサーヌに預けて残った一つを手のひらに載せる。
彼女たちの様子をチラリとうかがうと、その美しい顔にはまるで演劇でも始まるかのような期待の表情が浮かんでいる。
まあ、楽しんでちょうだいな。
「生薬生成」
スキル名を呟いたところ、手のひらに煙が発生して麻黄を覆い隠し、ポンッと音を立てて煙が晴れる。
すると、そこには丸薬が二つ残っていた。
万能丸
万能丸
鑑定したところ間違いなく万能丸だ。
よし。これで軽い病気なら何とかなるはず。
「万能丸まで作ってしまうなんて、さすがご主人様です」
すると、ロクサーヌから大きな声が上がり、セリーもそれに続く。
「ご主人様は本当に何でもおできになるのですね」
何でもはできないわよ。できることだけ。
生薬生成をもう二回繰り返し、万能丸をそれぞれ二個ずつ持っておく。
「見ての通りいくらでも作ることが可能なので、危ないと思ったら使用を躊躇わないでくれ。いいな?」
「かしこまりました」
「はい」
真剣な表情をしている二人に頷き、ポイントの振り分けとジョブの変更を行う。
「では、探索に戻ろう」
次に出会った魔物で、ダブルスペル二回とファイヤーストーム一発の組み合わせを試してみたら、予想通りそれで片付いた。
これで魔法一発分のMPが節約できるぞ。よきかな、よきかな。
そして、その後も狩りを続け、ドロップした麻黄はその場で万能丸に加工し三人で振り分ける。
それぞれに十個が行き渡った時点で生薬生成をやめ、麻黄の状態でアイテムボックスにしまっておくことにした。
余計なMPを使うわけにはいかない。十分な数は確保したし、続きは家でやればいいだろう。
……大量の万能丸をギルドへ売却をするのは不味いかな?
やっぱ不味いよなぁ……。
そんなことをしたら絶対に疑われるだろう。
ただでさえ隠さないといけないことが山ほどあるのに、さらに疑われるようなことは控えるべきだ。
いや。一回ぐらいならいけないか?
……いかん、いかん。その考えが破滅を招く。
一度そんな美味しい思いをしたら絶対に歯止めがかからなくなり、あと一回、あと一回とズルズルいってしまうだろう。間違いなく俺はそういう奴だ。
君子、危うきに近寄らず、だな。
デュランダルによるMP回復を挟みながらサクサクと魔物を蹴散らしていく。
しかし、やはり二十六階層。デュランダルと腕力二倍の組み合わせをもってしても、何度も攻撃を当てる必要があった。
でもまあ、すぐに片付くんだから問題はない。
このままここでの狩りを続行だ。
田川 歩 男 18歳
探索者Lv48 英雄Lv41 遊び人Lv36 魔法使いLv47 戦士Lv31
装備 聖剣デュランダル 身代わりの硬革帽子 頑強の竜革鎧 倹約の硬革グローブ 竜燐の靴 よりしろのイアリング
BP振分 残BP:0
キャラクター再設定:1
フィフスジョブ:15
詠唱省略:3
必要経験値二十分の一:63
鑑定:1
武器六:63
所持金:4,054,578ナール
春の54日目