異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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170 営業

 

 

 

 

 

ベイルの迷宮

二十六階層

 

 

 

 

 

 おっ。やっとお出ましだ。

 

 順調に魔物を狩り続けていると、この階層では出現率の低いケープカープとエンカウントする。

 

 構成はハーフハーブ二匹とブラックフロッグ一匹、グミスライムが一匹にケープカープ一匹。

 空中を泳ぐ奴の姿は背中の部分が黒く、口先が尖っていた。

 

 しかし、魚の目ってなんであんなに怖いんだろうな……。

 

 内心怖気づいていたが、一気に駆け出す娘さんにつられ魔法を放つ。

 

ファイヤーストーム

ファイヤーストーム

 

 ロクサーヌは全身を炎に包まれているハーフハーブ二匹にブラックフロッグ一匹を引き付けることに成功するが、残り二匹はその横を通り抜けた。

 こちらへ向かってきたグミスライムをセリーが迎え撃つも、ケープカープは空中を泳いで距離を取り、体の下に魔法陣を展開する。

 

 不味い!

 

 二人は他の魔物の対応をしているため詠唱を潰すことができず、俺のひもろぎのスタッフには詠唱中断のスキルが付いていない。

 

 魔法陣が青く輝くと俺たちの体の周りにしぶきが舞い、それに触れた瞬間、水に濡れた感触と共に全身に痛みが走った。

 

 これが全体攻撃魔法か。

 なるほど。これではさすがのロクサーヌでも避けることができないだろう。

 だが、そのダメージは思ったほどではなく、普段の修行でボコボコにされる方がずっと痛い。

 彼女たちの方へ目を遣ると、二人とも問題なく戦闘を続けている。

 そして、魔物に纏わりついていた炎が消え、リキャストタイムが明けた。

 

 よし! 二ターン目いくぞ!

 

 

 

 無事に魔物を殲滅したところで二人に声を掛ける。

 

「魔法を食らったが体の具合はどうだ? 回復が必要なら躊躇うことなく言ってくれ。君たちの体が何より大事だからな」

 

 それを聞くと笑みを浮かべ答えた。

 

「お気遣いありがとうございます。ですが、ご主人様とセリーに用意していただいたオラクル竜革ジャケットがあるので、何の問題もありません」

「私も身に余る防具を装備しているおかげで、ほとんどダメージを受けていません」

 

 こちらもレベル補正により手当てを使う必要はない。

 うん。二十六階層でもちゃんと戦えるな。

 

「分かった。ただし、無理はしないでくれ。何度も言うが俺はロクサーヌも、セリーも絶対に失いたくない」

 

 もう一度念を押すと、二人は良い子のお返事で答えてくれた。

 

 

 

 床に転がっている麻黄二個と黒蛙の粘液、それからスライムスターチをアイテムボックスに放り込む。

 そして、もう一つ残っているミミズのような何かに鑑定をかけてみた。

 

寄生ワーム

 

 うん。間違いない。

 

 ウェブ版では肝が通常ドロップで寄生ワームがレアドロップとなっていたが、書籍版以降ではケープカープの肝がレア枠になっていた。というか微妙に名前も変わっている。

 この世界ではどっちがレアなんだろう?

 

「セリー、肝と寄生ワームではどちらの方が残り難いんだ?」

「それはもちろんケープカープの肝です。魔物をドライブドラゴンに変化させることのできる貴重なアイテムですからね。百匹倒して一個残るか残らないかくらいの確率だと言われています」

 

 確率えぐっ! ドラウプニルを使っても二パーセントかよ!

 

 これについては効果もナーフされてんだよなぁ。

 ウェブ版ではドライブドラゴンのレアドロップが竜革なため、素材集めにも利用できただろう。

 しかし、書籍版以降では竜革はランドドラゴンのレアドロップに変更されたため、それができなくなっている。

 一応、ドライブドラゴンより強い魔物に使用して弱体化させるという作戦もあるみたいだが、強すぎる魔物に対しては効き目が悪いらしい。

 

 まあ、あまり必要な場面はないだろう。

 

 寄生ワームをアイテムボックスにしまいながら二人に告げた。

 

「これを畑に撒くと肥料になるんだよな? 売却せずにうちの庭に使うことにしよう」

 

 すると、ロクサーヌが嬉しそうな笑みを浮かべる。

 

「ありがとうございます! きっと、良いハーブが出来るでしょう!」

「うちの規模だと一個でも十分すぎますので、この後も手に入るようなら売却に回す方がいいと思います」

 

 まあ、大々的に農業をするつもりはないんだからその方がいいだろう。

 

 ……ん? あ、待てよ?

 

 肥料になるってことは農家にとっては重要なアイテムなんじゃないか?

 それなら、ソマーラ村の人たちに渡すのもありだな。

 

 相談してみるとロクサーヌは微笑みを浮かべながら答える。

 

「さすがご主人様。素晴らしいお考えです」

 

 しかし、セリーは渋い顔で口を開いた。

 

「施しをした場合、それが当然だと思われ今後も同じことを期待されてしまうでしょう。相場より少し安く売却するくらいでいいと思います」

「確かにセリーの言う通りですね。それは避けた方がいいでしょう」

 

 彼女の言葉を聞いてロクサーヌも頷いている。

 

 あー。確かにそうかも。善意でやったことをずっと期待されるのは正直きつい。

 彼女の言う通り相場より安くで売却するってことで。

 

 

 

 再び狩りを続け、ロクサーヌのいつもの言葉で早朝の探索を終了する。

 

 うーん……。レベルアップはなかったか。

 

 ダブルスペル二回に加えファイヤーストーム一回が必要なため、今までに比べ戦闘時間が長くなり、攻撃を食らうことも度々だ。

 エンカウントする魔物は雑魚でありながら全て全体攻撃魔法持ち。

 何度も食らってしまえばジョブを僧侶に変えて回復を行う必要があるし、単純に必要な魔法の回数も増えているので、それに比例してMP回復のために時間を取られている。

 

 経験値効率的にはどうなんだろう? まさか、クーラタルの二十二階層の方が時間効率がいいなんてことはないだろうな?

 

 まあ、確かめようもないし、クーラタルの二十二階層へ戻ると言ったところで、ロクサーヌとセリーが納得しない。

 しばらくはここでレベル上げを続けよう。

 

 

 

 

 

ペルマスク

冒険者ギルド

 

 

 

 

 

 朝食を取った後はのんびりと過ごし、それが終わるとペルマスクへ飛ぶ。

 

「ご主人様。それでは、いってまいります」

「ああ。頼む」

 

 彼女たちを見送り、飲み物を注文して席に着いた。

 

 今日、注文を受けたら数日後に納品となるだろう。

 探索者のレベルが48なので、そのころには冒険者になっていてもおかしくない。

 となると、ペルマスクへ入るのに何の支障もなくなるということだ。

 最後ということで俺も顔を出した方がいいのだろうか?

 

 うーん……。いや。ロクサーヌとセリーで上手くやっているんだ。最後だからといって今更顔を出すと変に勘繰られるかもしれない。

 もし、今後何かの取引を行うようなことがあれば、そのときは最初から関わることにして、今回はやめておこう。

 

 

 

 それにしても、探索者のレベルがあと2上がれば冒険者かぁ。

 原作知識のおかげで相当なハイペースとなっている。

 もう少しでインテリジェンスカードのチェックを恐れる必要もなくなるため、なるべく早くハルツ公爵家へ賊のインテリジェンスカードと戦利品の決意の指輪を持ち込もう。

 きっと、さらに歓心を買うことができるはず。

 

 そして、これの返却とハインツ一味討伐を知らせるハルツ公に誘われ、セルマー伯の居城へ訪れることになる。

 原作ではそれがあったことで案内役として伯爵討伐に加わったという流れだ。

 つまり、ルティナ加入のキーアイテムと言っても過言ではない。

 アイテムボックスの中に入っている決意の指輪に向けて語り掛ける。

 

 マジで頼むぞ? ルティナへの道を切り開いてくれよ?

 

 

 

「ご主人様、お待たせいたしました」

「ただいま戻りました」

 

 今後の予定について考えを巡らせていたところ、鈴を転がすような美しい声と特徴的な愛らしい声が耳をくすぐった。

 本当に彼女たちの声は俺の心を鷲掴みにするなぁ。

 

「うむ。では、戻ろう」

 

 二人と共に壁へ展開したワープゲートを潜る。

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 自宅に戻ったところで、リビングに移動して話を聞く。

 

「コハクの装飾品は受注できた?」

 

 質問すると彼女たちは顔を見合わせ頷き、セリーが口を開いた。

 

「それが、ネックレスはともかく他の装飾品については見本がないので、注文するのは難しいと言われてしまいました」

 

 あー。そりゃそうだわな。サンプルもカタログもないのに口頭での説明だけで購入するはずがない。言われてみれば当然だ。

 

 どうしたもんかと思っていると、彼女は話を続ける。

 

「それで、あの、見本を用意できるなら、奥さんが五日後に知り合いを招き、それを見てもらって注文を受けられるようにしてくれるそうなのですが、いかがでしょうか?」

 

 展示会ですやん。展示受注会ですやん。

 何か予想以上に大掛かりになっててちょっと引くんだが……。

 

 でもまあ、セリーなら上手くやってくれるだろう。

 

「大丈夫だよ。それじゃあ、午前中の探索は中止してコハク商の所へ行こう」

「ありがとうございます。ですが、その前に再びペルマスクへ行って、どういったものを用意するのがいいのか奥さんと打ち合わせを行いたいのですが」

 

 彼女はホッとしたような笑みを浮かべ、続けて確認をしてきた。

 

 確かにそうだな。そっちの方がいいだろう。

 

「分かった。それじゃあ、先にペルマスクへ行くことにしよう」

「はい! ありがとうございます!」

 

 すると、セリーは満面の笑みを浮かべて答えた。

 あら、可愛い。

 

「奥さんもだいぶ期待しているようでしたから本当に良かったです」

 

 ロクサーヌも嬉しそうに微笑んでいる。

 

 それにしても、即売会ではなく受注会なのか。

 どうせなら商品を仕入れてその場で売った方が手っ取り早い気がするんだが。

 

 その旨を確認してみるとセリーの眉間にしわが寄る。

 

「それをした場合、相手側は全員で結託して購入を控え、値段を落とそうとするでしょう。私たちも在庫を抱えるわけにはいかないため、そうなれば安くせざるを得ません」

 

 なるほど。不特定多数の人が集まるわけではなく、奥さんが集めるんだからその危険性はあるか。

 大金が動くことになるんだ。実際にやるかどうかは関係なく、危険は排除しておくべきだろう。

 

 さて。それじゃあ、ペルマスクへとんぼ返りだ。

 

 

 

 

 

ボーデ

コハク商の店

 

 

 

 

 

 ペルマスクでの確認を済ませ、今度はボーデへ移動する。

 

 ……それにしても、奥さんとのやり取りが相当盛り上がったのだろう。だいぶ時間がかかったなぁ。

 何でも、その日は部屋を用意した上で、朝から夕方まで人を招いてコハクの装飾品を見せて注文を取るそうだ。

 どうしよう……。想定以上の規模なんですが……。

 

 ……これ本当に大丈夫か? ハルツ公爵家の利益を掠め取ったと思われないだろうな?

 彼の不興を買うわけにはいかない。盗賊のインテリジェンスカードを持ち込む際に一言断っておこう。

 

 

 

「あっ。いらっしゃいませ」

 

 店内に入るとこちらに気が付いたネコミミの女性店員が声を掛けてきた。

 

「先日、公爵家から使者の方がお見えになり、継続して大きな取引を行うことになりました。これも全てお客様のおかげです。本当にありがとうございました」

 

 彼女はそう言って頭を下げる。

 

 この店にはめちゃくちゃ世話になった上に、素の値引きからの三割引というコンボをかましているのだ。

 少しでも借りを返せたのなら心の負担も軽くなる。

 

「なあに。そちらが確かな商売をしていたからこそ、公爵閣下も声を掛けようと思ったのだろう。気にすることはない」

 

 その言葉を聞いて彼女の顔がふにゃっと緩んだ。

 あら、可愛い。

 

「ありがとうございます。それで、本日はどのようなご用件でしょう?」

「うむ。詳しくは彼女たちから聞いてくれ。ロクサーヌ、セリー。頼む」

 

 二人を前に出すとセリーはリュックの中からパピルスを取り出し、必要な装飾品を話し始めた。

 

 

 

 そのやり取りを眺めていたところ、しばらく話を聞いていた店員が口を開く。

 

「それほどの数となるとおじいちゃんを通さないといけないですね。呼んでくるので少々お待ちください」

 

 彼女はそう言うと奥に入っていった。

 

「色々な種類の要望があったのだな」

 

 俺の言葉に頷き、ロクサーヌが笑みを浮かべながら答える。

 

「はい。何でも各工房や参事委員といった名士の奥さんたちに声を掛けて回ったようです」

「こんなチャンスは滅多にないでしょうからね。全力で期待に応える必要があります」

 

 セリーはそう言って悪い笑みを浮かべていた。

 

 君の表情を見ているとご主人様は不安になるよ。

 やっぱハルツ公に一言断っておいた方がいいな。

 

 

 

 程なくして店主が現れ、以前商談を行なった奥の部屋へ通された。

 

 向かい合わせで座ると、彼からも公爵家との取引についての感謝を伝えられる。

 そして、今後の展望などを一頻り聞いたところで本題に入り、ロクサーヌとセリーが用件を告げた。

 

 店側は彼女たちのもとに次々とコハクの装飾品を持ってきて、四人でああでもないこうでもないと楽しそうに話をしている。

 

 何かスゲー疎外感が……。

 俺が混ざったところでコハクの善し悪しなんて分かんないしなぁ。

 

 まあ、可愛いロクサーヌとセリーを眺めていよう。

 

 かなりの時間をかけてそれぞれの種類ごとに一つずつ装飾品を選び終える。

 そして、セリーの顔が引き締まり、どこからともなくゴングの音が聞こえてきたような気が……。

 

 

 

 彼女は前回同様、丁々発止のやり取りを重ね、かなりの値引きを引き出すことに成功していた。

 

 ほんと、この娘さんの能力はとんでもないなぁ。

 スキル結晶の融合に加え、その営業能力で我がパーティーの稼ぎを一手に担っている。

 もし彼女がいなければドロップアイテムの売却か、盗賊狩りで生計を立てなければならなかったはずだ。

 これほどの能力を持った人はなかなかいないだろうし、スキル結晶の融合にしても、もしセリー以外のドワーフだった場合、信用することができず秘密を打ち明けることがないため、ポンポン融合して売却なんて真似はできなかっただろう。

 現在持っている四百万ナール以上の金はすべて彼女のおかげだ。

 それなのに、全然増長する様子がないのが本当にありがたい。

 

 そのままの君でいてね。

 

 あのクソ会社の営業にいた奴らみたいに、他の部門の人を見下したり、裏書きのない領収書を提出したり、それを確認すると嫌そうな表情をしたり、経費で落とせないような宿泊代や飲食代を撥ねると逆切れしたりするような人にはならないでね。

 

 

 

 交渉を終えた二人が近づいてくる。

 

「ご主人様、お待たせしてしまい申し訳ありません。ですが、おかげで良い物を選ぶことができました」

 

 セリーの言葉に頷きながらロクサーヌも口を開いた。

 

「はい。きっと、奥さんたちにも喜んでもらえるでしょう」

 

 まあ、店員も含め四人で選んでいるしな。

 

 

 

 ネコミミ店主へ近づき声を掛ける。

 

「では、精算を頼む」

「かしこまりました。それでは、ご確認をお願いします。まず、こちらの指輪が四万二千ナールのところ四万ナール。続いて三万八千ナールのブレスレットが三万五千ナール。そして、四万ナールのペンダントは三万八千ナール。最後に二万ナールのブローチが一万九千ナール。合計十三万二千ナールとなりますが、公爵家との取引という大きな御恩を賜っているのです。今回は九万二千四百ナールといたします」

 

 すまん。マジですまん。いずれお大尽になってこの店で豪遊するから許してくれ。

 あとあれだ、ハルツ公からはなんぼでもぼったくってくれていいから。

 

 

 

「では、装飾品を自宅に置いて迷宮へ行こう」

 

 支払いを終えて店の外に出たところでそう告げると、困ったような表情でロクサーヌが口を開く。

 

「ご主人様、もうそろそろお昼になります。あの、私たちが時間をかけすぎたせいで申し訳ありません」

 

 あー。ペルマスクへ二回行って聞き取りをしているし、コハク商でもだいぶ時間を使ったもんなぁ。

 でもまあ、気にするほどのことじゃない。

 

「大丈夫。二人のおかげで良い物が手に入ったんだ。何の問題もない」

 

 それを聞いて彼女たちの顔に笑みが浮かぶ。

 あら、可愛い。

 

「じゃあ、迷宮は午後からにして、食材を買って自宅へ戻ろう」

 

 すると、ロクサーヌが尻尾を揺らしながら声を上げた。

 

「はい! 午後は二十六階層の続きですね! それに、最後のボス戦も楽しみです!」

 

 地図もないのにどうやって待機部屋へ案内するつもりなんですかねぇ。

 それに、ボスに挑むなんて言ってないんだけどなぁ。

 でも、確実に挑むことになるんだろうなぁ。

 

 彼女の言葉をアルカイックスマイルで受け止めて、路地裏へ入りワープゲートを展開する。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

探索者Lv48 英雄Lv41 遊び人Lv36 魔法使いLv47

装備 竜燐の靴 身代わりのミサンガ

 

ロクサーヌ ♀ 16歳

戦士Lv24

装備 強権のエストック 駿馬の竜革靴 身代わりのミサンガ

 

セリー ♀ 16歳

鍛冶師Lv20

装備 皮の靴 身代わりのミサンガ

 

ミリア ♀ 15歳

戦士Lv16

装備 皮の靴

 

BP振分 残BP:7

キャラクター再設定:1

フォースジョブ:7

詠唱省略:3

必要経験値二十分の一:63

鑑定:1

ワープ:1

三十パーセント値引:63

 

所持金:3,961,612ナール

 

春の54日目

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