異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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171 不発

 

 

 

 

 

 

ベイルの迷宮

二十六階層

 

 

 

 

 

 昼食と食休みをとってベイルの迷宮二十六階層へ移動すると、ロクサーヌが鼻をスンスン鳴らして匂いの確認を始める。

 

 これ、ほんと可愛くて好きだわぁ。

 

「ご主人様、どうやらケヴィンさんたちのパーティーもこの階層にいるようです」

 

 あいつらから情報を得てこの階層に来たんだから、そりゃいるわな。

 まあ、だとしてもやることは変わらない。

 

「ロクサーヌ、いつもと同じように近くに人がいない魔物の所へ案内してくれ」

「かしこまりました」

 

 自信満々の表情で歩き出した彼女の後に続き、早朝と同じく素早く魔物を捕捉し、次から次に始末していく。

 

 

 

 

 

 ひたすら狩りを続けているとロクサーヌがいつもの言葉を口にした。

 

「ご主人様、そろそろ夕方になります。この先が待機部屋なので最後にボスへ挑んで終わりにしましょう」

 

 早朝と午後の探索だけで地図もなしに待機部屋へ案内したのか……。

 しかも、今回はエンカウントの頻度が下がるということもなかったし、いったいどうなってんだ?

 

 俺と同じ疑問を抱いたのだろう。セリーが問いかけている。

 

「ロクサーヌさん。よく夕方までに待機部屋へたどり着けましたね」

 

 すると、彼女は何でもないような顔で答えた。

 

「この階層はそれなりに人がいて、待機部屋には常に誰かが並んでいるようです。なので、探し当てるのはそう難しいことではありませんでした」

 

 それを聞いたセリーは唖然としたように口をぽかんと開けている。

 

 この娘のバグキャラっぷりよ。まったく、本当に頼りになるわ。

 

 

 

 ボス戦への準備をする前にレベルを確認すると、セリーの鍛冶師が上がっている。

 

 うーん……。俺の方は上がらなかったか……。

 

 魔物を片付けるまでにダブルスペルを二回にファイヤーストームを一発が必要で、さらに出現するほぼ全ての魔物が全体魔法持ちとなっているので、どうしても被弾が増えてしまっている。

 魔法の使用回数増加と手当ての使用によりMP回復の頻度が高くなっているため、かえって経験値効率が落ちている気がするんだよなぁ。

 それとも、昨日の盗賊戦のために必要経験値二十分の一を外したせいで、それまで獲得していた経験値が減ってたりするのかね?

 

 うーん……。まあ、獲得経験値やレベルアップまでの必要経験値が分からないんだ。考えてもしょうがない。

 

 

 思索を打ち切り、セリーのレベルアップを告げて喜びを分かち合ったところで、ロクサーヌが口を開く。

 

「先ほど申し上げた通り待機部屋に人がいます。十人くらいなのでおそらく二パーティーでしょう」

 

 久しぶりの順番待ちかぁ……。

 

 内心うんざりしていたところセリーの声が聞こえてきた。

 

「現在戦っているパーティーが入ったばかりだった場合、三組分待つことになりますね。結構時間がかかるかもしれません」

 

 この階層は人が多いということなので、今後もこういうことがあるだろう。

 迷宮を出た後もやらなければならないことがたくさんあるし、ずっとこの調子だと困ったことになるぞ。

 

 うーん……。当面の間、一日の最後をボス戦で締めくくるのはやめた方がいいかもしれない。

 

 その旨をロクサーヌに伝えたところ、彼女は頷きながら答えた。

 

「そうですね。今日だけは時間が掛かってしまいますが、次回からは待機部屋で時間を浪費しないよう、タイミングを見計らってご案内いたします」

 

 え? あ、はい。ボスに挑まないって選択肢はないのね……。

 

 

 

 気を取り直してポイントの振り分けを行うことにする。

 

 ひもろぎのスタッフとダマスカス鋼の盾をアイテムボックスへしまい、まずはサードジョブを剣士に変更しておいた。

 

 さて、今回からは二十六階層のボスとなる。

 第三ランクのボスな上、一足飛びに階層も上がっているため、これまでに比べてだいぶ強力になっていることだろう。

 なら、ここはデュランダルで挑みたい。

 

 聖剣デュランダルは、アユム・タガワで行きます!

 

 武器六にポイントを振り、アイテムボックスへしまっておく。

 

 他は変えなくていいかな。

 キャラクター再設定で1、フィフスジョブで15、詠唱省略で3、必要経験値二十分の一で63、鑑定で1。そして、武器六で63ポイント。

 合計146ポイント。オッケー、ぴったしカンカン。

 

「では、行こう」

「かしこまりました」

「はい」

 

 

 

 

 

ベイルの迷宮二十六階層

ボス待機部屋

 

 

 

 

 

 待機部屋に入ると、ボス部屋へ続く扉の前で話し合いをしていた男たちが、一斉にこちらへ顔を向けた。

 驚いたような表情で一頻り俺たちを眺め、再び話し合いを再開する。

 

 たぶん三人で二十六階層のボスに挑むことに驚いたんだろうなぁ。

 あと、ロクサーヌとセリーの美しさについてもか。

 

 そいつらの後ろに並び、ボスの情報を確認する。

 

「セリー、ハートハーブについて教えてくれ」

「かしこまりました」

 

 彼女は一つ頷くと説明を始めた。

 

「ハートハーブの攻撃方法はハーフハーブとほぼ同じで、葉っぱによる物理攻撃。それから、水魔法と土魔法の全体攻撃。スキル攻撃として、威力の強化された全体水魔法を放ってきます。対処方法はいつもと同じですね」

 

 なるほど。全員が詠唱中断の付いた武器を持っていることを悟られないように、言葉を濁したのだろう。

 でもまあ、ボス戦では基本的にやることは変わらないか。

 

「そして、今回よりお供が二匹になりますのでボスをロクサーヌさんが、そして雑魚のうち一匹を私が引き付けますので、ご主人様は殲滅をお願いします」

「ああ。任せておけ」

 

 今回はデュランダルがあるのだ。雑魚はさっさと片付けてやるさ。

 

「残すアイテムは緑豆で、これを用いて万金丹が作られています」

 

 こちらを見つめる二人の顔には期待の色が浮かんでいる。

 きっと俺が万金丹を作れると思ってるんだろうなぁ。

 

 打ち合わせを終えたところで、スイッチをオフにして彼女たちと楽しくおしゃべりをしながら待つことにした。

 

 

 

 二十分以上待ったところでようやく扉が開き、先頭のパーティーがボス部屋に入っていく。

 

 おいおい。めちゃくちゃ時間が掛かったぞ。

 中にいたパーティーには魔法使いがいなかったのだろう。

 というか、今入っていった奴らや残っている奴らもそうだし、まだまだ待つことになりそうだ。

 

 

 

 再び彼女たちとおしゃべりに興じていると、ロクサーヌがスンスンと匂いを確認し始める。

 

 ん? どうしたんだ?

 

「ご主人様、ケヴィンさんたちがダンジョンウォークで待機部屋近くの小部屋に移動してきたようです。おそらくここへ来るでしょう」

 

 マジか……。

 うーん……。今回は撤退した方がいいかもしれない。

 

 不安になって彼女たちの顔をうかがってみるも、全然気にした様子がなかった。

 

 あ、そうか。戦うところを見られるわけじゃないんだから、別に気にする必要はないわけか。

 前のパーティーだって魔法使いはいないし、特に問題はないだろう。

 奴らが来たら、話を聞いて挑んでみたくなったとか適当に言っとけばいい。

 

 

 

 そのままおしゃべりを続けながら待っていると、背後から壁が下がる音が聞こえてきたので顔をそちらへ向けた。

 そこにはお馴染みの顔が並んでおり、あちらも気が付いたようで声を上げて近づいてくる。

 

「あれ? アユムさん? そっちもこの階層に入っていたのか?」

 

 ケヴィンの言葉に頷きを返す。

 

「ああ。あんたたちからここの話を聞いて試してみたくなってな」

 

 答えながらもゴンザレスの装備に目が留まった。

 

 そういえば彼の装備を見たのは初めてだったか。

 なんか、大学の卒業式でかぶってそうな帽子を身に着けているぞ?

 見た感じ知力が上がりそうな気がする。

 

 まあ、とりあえず鑑定っと。

 

ゴンザレス 男 28歳

魔道士 Lv9

装備 ひもろぎのスタッフ オラクル角帽 頑強のミスリルメッシュウェア 竜革のグローブ ビットローファー 身代わりのミサンガ

 

 へー。オラクル角帽ねぇ。魔法ダメージ削減が付いてんのか。

 それに物理ダメージ削減の付いた頑強のミスリルウェアなんてのも身に着けているし、こいつの装備もかなりのもんだぞ。

 

 でも、杖はひもろぎのスタッフなんだな……。

 カシアやゴスラーもそうだが、どうしてもっと良い杖を装備しないんだろう?

 

 それにスキルスロットが付いたものもない。

 他の奴らの装備もガストンが激情のオリハルコン剣と鋼鉄の兜を身に着けている以外、特に変わったところはなかった。

 やはり次に取引をするとしても、装備品の下取りはナシだな。

 

 

 

 ケヴィンたちと話している間にボス部屋への扉が開き、前のパーティーが中に入っていく。

 そして、待機部屋に俺たちしかいなくなったところで、ガストンが背後の剣をポンと叩いて口を開いた。

 

「こいつを装備してからは魔物に与えるダメージが目に見えて上がったぞ。本当にすごい武器だ。セリー、ありがとう……」

 

 そう言うとセリーへ切ない視線を向けている。

 どうやら彼女から受けたダメージは癒えていないらしい。

 

 まあ、無理やりじゃなかったし、しつこく言い寄るわけでもないので、あのナギィとかいう狼人族よりだいぶマシだ。

 武士の情けとして、これについてはスルーしてやろう。

 

 

 

 他の奴らも口々に激情のオリハルコン剣の性能を褒め称え、何度も感謝の言葉を口にした。

 やはりこの世界の人たちからすればとんでもない武器なのだろう。

 現在所有している三本は俺とベスタ用に取っておくが、次に入手したらオークションへ出すのもいいかもしれん。

 とんでもない大金が転がり込んでくるかもしれないぞ。

 

 

 

 彼らの話によると、一日の終わりにはボスへ挑み、万金丹の材料となる緑豆を手に入れているらしい。

 

「冒険者ギルドや探索者ギルドに加入している者がこれをギルドで売却すると、万金丹が三割引で買えるんだ。せっかくボスがハートハーブの階層に留まっているんだし、この機会に集めておこうと思ってな。アユムたちもいざという時のために買っておいた方がいいぞ」

 

 アンドレアが耳より情報って感じで教えてくれるが、俺はギルド加入者じゃないんだよねぇ。フリーの探索者をやらせてもらってるんですわ。

 

 それに、近いうちに薬草採取士のレベルを上げるつもりだし、そうなれば万金丹も手に入るだろ。

 

「万金丹はいくらくらいするものなんだ?」

 

 気になったので尋ねてみると、探索者ギルドで売買をしているであろうマルコが答える。

 

「通常は六千ナールだが、緑豆を売却すると四千八百ナールだな」

 

 えっぐ! 六千ナールって! 滋養錠や強壮錠とかわらないじゃないか!

 

「ちなみに緑豆の売却額はいくらになるんだ?」

 

 さらに問いかけたところ、今度はケヴィンが答えた。

 

「ギルドの買取価格は四百ナールだな」

 

 十五倍!? 十五倍になるの!?

 

 あ、いや、待てよ?

 

 買い取ったものを薬草採取士ギルドへ販売し、それをさらに所属している薬草採取士たちへ販売したとする。

 おそらく、高レベルの薬草採取士はそう多くはないだろうし、MP消費が激しくて一日に何個も作れるようなものじゃないだろう。

 そのせいで、完成品にはかなりの加工費が乗せられているはずだ。

 そして、それを冒険者ギルドや探索者ギルドが買い取った場合、最終的な店頭価格は六千ナールになってしまうと。

 

 もぐりの薬草採取士として万金丹の密造に手を染めてしまいたくなるが、どんな災いを呼び寄せるか分かったものじゃない。ここは自重しておこう。

 

 

 

 順番を待ちながら彼らと話をしていると、二十分以上経ってようやく扉が開く。

 

 よし。そんじゃ、いきますかね。

 

「では、お先に」

「ああ。気を付けてな」

 

 一声掛けるとケヴィンが頷きながら答えた。

 

「ロクサーヌ、セリー。行こう」

「かしこまりました」

「はい」

 

 二人と共に扉を潜る。

 

 

 

 

 

ベイルの迷宮二十六階層

ボス部屋

 

 

 

 

 

 ボス部屋に入ると即座にアイテムボックスを開き、デュランダルを手に取った。

 走り出している二人に一拍遅れて俺も駆け出す。

 

 いつもの通り背後を取るためにフロアを大回りで移動していると、中央の煙が晴れて魔物の姿があらわになる。

 

ハートハーブLv26

ハーフハーブLv26

ブラックフロッグLv26

 

 ハートハーブはその名の通り茎の形がハート型をしていた。

 俺の胸ほどの高さがありハーフハーブより一回り大きく、結構な迫力だ。

 奴は葉っぱを振り回してロクサーヌに迫るが、あっさりいなされている。

 

オーバーホエルミング

 

 セリーがハーフハーブに槍を入れたところでボーナスタイムを作り出し、フリーになっているブラックフロッグへ向けて駆け出す。

 

ラッシュ

スラッシュ

 

 ダブルアタックを叩き込むと、その一発で黒い蛙が実体を失った。

 

 さすがデュランダル! 頼りになるー!

 

 高揚感を覚えながら返す刀でセリーに攻撃を加えようとしているハーフハーブを切り捨てた。

 

 おっしゃ! このままの勢いでボスへ攻撃だ!

 

 ロクサーヌにあしらわれているハートハーブの背後に回り込み攻撃を開始する。

 

 

 

 体の力を抜いて息を吐き出す。

 

 あの後は完全に消化試合だった。

 奴の魔法攻撃は俺たち三人が持つ詠唱中断の付いた武器により完全に封じられていたし、ロクサーヌがヘイトを取っていたため物理攻撃を食らうこともない。

 被弾なしの完封勝利だ。いや。完全勝利だな。

 

 

 

 あれ? さすごしゅがない?

 

 いつまでたってもいつものやつが聞こえてこないため彼女たちの方をうかがうと、ワクワクしたような表情でこちらを見つめている。

 

 あー。万金丹を作るところが見られると期待しているのか。

 

 まあ、駄目元でやってみよう。

 

 遊び人のスキル設定を開き、薬草採取士の生薬生成をセットして二人に告げる。

 

「万金丹の生成には薬草採取士のレベルをかなり上げる必要があるはずだ。一応、試してみるがおそらく失敗するだろう」

 

 何かちょっと言い訳っぽくなってしまった。

 いやでも、ミチオも失敗していたし無理だと思うんだよなぁ。

 

 少しテンションの落ちた彼女たちに見守られながら、手のひらの緑豆に向けて念じる。

 

生薬生成

 

 しかし、スキルは発動せず緑豆には何の変化も起こらない。

 

 ですよねー。

 

「やはり無理だったようだ。戦士と剣士のレベルを50にしたら次は薬草採取士を上げてみよう」

 

 すると、セリーが呆れた顔で呟いた。

 

「普通の人は数十年かけて上のジョブへ至るというのに、それを短期間のうちに複数で達成する予定だなんて……。とんでもない話です……」

 

 チート野郎でごめんやで。

 

「このくらいご主人様なら何でもありません。すぐにエリクシールも手に入ることでしょう」

 

 ちょっと前まではロクサーヌも驚いていたというのに、すっかり慣れてしまったなぁ。

 

 まあいいや。さっさとクーラタルに戻ろう。

 かなり時間を使ってしまったし、もう家の外も暗くなっているはず。今日の修行は無理そうだな。

 

 ボーナスポイントとジョブをいじり、二人に声を掛けて次の階層へと続くゲートに身を埋める。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

探索者 Lv48 英雄 Lv41 遊び人 Lv36 魔法使い Lv47 戦士 Lv31

装備 身代わりの硬革帽子 頑強の竜革鎧 倹約の硬革グローブ 竜燐の靴 よりしろのイアリング

 

BP振分 残BP:7/146

キャラクター再設定:1

フォースジョブ:7

詠唱省略:3

必要経験値二十分の一:63

鑑定:1

ワープ:1

三十パーセント値引:63

 

所持金:3,961,446ナール

 

春の54日目

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