愛しい娘たちと挨拶を交わし朝の支度を行うものの、いつもとは違うことがある。
普段は冷静なセリーだが、今日は目を覚ましたときからニコニコしており浮かれているのが見て取れた。
俺と共に過ごす休日をそんなに楽しみにしてくれているのか。
その様子が本当にキュートで、そのまま抱きしめたくなってしまうぞ。
ロクサーヌも微笑ましげに見つめており、目が合うとそっと頷いた。
たぶん今日はセリーのことを第一に考えるようにということなのだろう。
思うところはあるはずなのに、本当に優しい娘だ。
身だしなみを整えたところでリビングへ移動し、今日の予定を確認する。
「昨日、冒険者のジョブを得たことで、盗賊のインテリジェンスカードをハルツ公爵家騎士団へ提出できるようになった。なので、ハルバーの迷宮の入口から入り、盗賊と遭遇したと印象付けることにしようと思う」
それを聞いたロクサーヌが納得したように口を開いた。
「そうですね。きっと騎士団も今日倒したのだと思い込むはずです」
「はい。それに、公爵領内の迷宮に入っているという印象を与えられるでしょう」
だな。セリーの言う通り、ハルツ公へのいいアピールになるだろう。
「迷宮に入ったらそのままベイルの二十六階層へ移動して狩りを行う。そして、パン屋が開く時間になったらハルバーの迷宮へ戻って、入口の探索者に盗賊を倒したと伝えよう」
二人が頷いたのを確認して話を続けた。
「君たちが朝食の支度をしている間にハルツ公の所へ行きたいんだけど、今日はミリアの面会があるから魚料理を作らないといけないしなぁ」
うーん……。どうしたもんか。
悩んでいると、ロクサーヌがドヤ顔で告げる。
「私とセリーで先日ご主人様が作ってくださった、赤身の唐揚げとカツを作りたいと思います。お任せください」
「はい。作り方は覚えていますので問題ありません」
セリーも自信満々に頷きながらそう言った。
昨日の揚げ物も美味かったし、彼女たちに任せておけば問題ないか。
「それじゃあ、お願いね。食事が終わったらミリアの面会に行って、その後は武器屋と防具屋、それから帝都の高級服屋を回ろう」
「あの、ご主人様」
そう言うとロクサーヌが微笑みながら口を開く。
「今日の休みは帝都で過ごそうと思いますので、私は高級服屋で別れようかと。その後は二人でお過ごしください」
こんな美人が一人で歩いて問題はないんだろうか?
ナンパされたり、よからぬことを考える輩に遭遇する可能性もあるよな?
それに、帝都には貴族も多いだろう。権力を盾にロクサーヌを手に入れようとする悪徳貴族がいても不思議ではない。
……よし。俺は虎の威を借ることに何の後ろめたさも覚えない男。
彼女にはハルツ公爵家のエンブレムが入ったワッペンを渡しておこう。
もし何かあった場合、それがロクサーヌを守ってくれるはずだ。ハルツ公に借りを作ってしまうがこの娘の安全には代えられない。
ミチオはしがらみができるのを嫌い、このワッペンを返却したがっていた。
彼のような独立独歩の気風に憧れはあるものの俺には絶対無理だ。返せと言われても理由を付けて手放さないぞ。
長い物には巻かれろ、寄らば大樹の陰。
ハルツの親父、田川は杯を交わす覚悟がありやすので、ケツ持ちを頼んます。
思索を打ち切り、話を続ける。
「分かった。帝都でロクサーヌと別れた後はクーラタルの武器屋と防具屋を回って、最後に商人ギルドでスキル結晶の受け取りを行う。セリー、その後は休日を楽しもうね」
「はい! とても楽しみです!」
大きな声で返事をした彼女の顔にはピッカピカの笑みが浮かんでおり、本当に楽しみにしていることがうかがえた。
めちゃくちゃ可愛いわぁ。
俺と一緒に過ごすことに対して、こんなに喜んでくれるなんて本当に幸せだ。
予定の確認を済ませた後は二人へ給金を渡し、準備を整えて迷宮へ出発する。
ハルバーの迷宮に移動し、見せる必要のないワッペンを見せながら入口の男に尋ねた。
「どこまで進んでいる?」
「現在、騎士団のパーティーが四十三階層の待機部屋を探しています」
ほう。あれから二階層進んだのか。
まあ、四十五階層から先は魔物のランクが上がり強さが増す。攻略のペースはだいぶ落ちるだろう。
「四十階層以降の魔物はどうなっているのだ?」
俺の存在を印象付けるため、意味もなくそんなことを聞いてみた。
「四十階層から順番にウドウッド、コボルトケンプファー、パーンとなります」
原作ではどうだったかなぁ。並びまでは覚えてないや。
「うむ。ありがとう。ロクサーヌ、セリー。それでは、行こう」
彼女たちを促し迷宮の入口に進むと、頭の中にどの階層へ行くかの選択画面が現れる。
へー。こんな感じになってんのか。じゃあ、十二階層っと。
階層を選び入口のゲートへ足を進めた。
ハルバーの十二階層からそのままベイルの二十六階層へ移動する。
アイテムボックスから杖と盾を取り出したら探索開始だ。
「ロクサーヌ、案内を頼む」
「かしこまりました」
ロクサーヌの案内で出会う魔物にひたすら魔法を放ち続ける。
倒すのに時間がかかってしまうため、彼女たちが魔物を引き付ける必要があったり、また攻撃を受ける場面も多い。
しかし、二人は自分が役に立っているという実感があるのだろう。ワンターンキルだったときより生き生きとしていた。
あの状況にストレスがあったのかな?
まあ、このくらい安定して戦えるのならワンターンキルにこだわる必要もない。
もう少ししたらミリアも合流するし、彼女のレベルが上がったら少し考えてみよう。
あっ! 倒れた!
MPが少なくなってきたので回復を挟もうかと考えながら放った二回目のダブルスペルで魔物が倒れた。
「ご主人様! 今のは!」
セリーから大きな声が上がり、ロクサーヌも驚いた表情でこちらを見つめている。
「うむ。確認するので少し待っていてくれ」
大急ぎで自分に向けて鑑定と念じ、表示された情報の確認を行う。
田川 歩 男 18歳
魔法使いLv49 冒険者Lv14 英雄Lv43 遊び人Lv39 戦士Lv37
装備 ひもろぎのスタッフ ダマスカス鋼の盾 身代わりの硬革帽子 頑強の竜革鎧 倹約の硬革グローブ 竜燐の靴 よりしろのイアリング
上がってる! 魔法使いと遊び人が上がってる!
これにより魔法の威力が引き上げられたのだろう。
きっとどちらかは先に上がっていて、遅れて上がった方が加わったことでダブルスペル二回で片付く威力になったのか。
まあ、そんなことはどうでもいい。
戦士のレベルも上がっているし、冒険者もエグイくらい上がっている。
うん。実に素晴らしい。
それを伝えたところ、二人の表情が輝き、ロクサーヌからはいつものやつを、そしてセリーからも弾んだ声による称賛の言葉を頂戴する。
ははは。可愛い娘さんたちよ。褒めるな、褒めるな。
MP回復を済ませた後は、引き続き魔物の殲滅を行なっていく。
それを繰り返していたところ、ロクサーヌからいつもの言葉が聞こえてきた。
「ご主人様。そろそろパン屋が開く時間です」
よし。休日だし今日の探索はここまでだな。
ポイントの振り分けを行いながらレベルを確認したところ、冒険者のレベルが18になっている。
えっぐ! レベルが上がりにくい中級ジョブなのに、早朝の探索だけでこの成果だ!
こんなこと他人に知られるわけにはいかんぞ。
まあ、探索者以外にレベルはないと思われているので戯言だと思われるんだろうが、注意するに越したことはない。
サクッとMPを回復して再びボーナスポイントの振り分けを行う。
えーっと。この後は装備品の売却や、出物があれば買物だってするから、三割アップや三割引を付けるよな?
うーん……。必要経験値二十分の一は動かすわけにはいかないため、フィフスジョブを料理人にしてそこにアイテムをしまっておく方がいいだろう。
こうしておけば差し引き分のポイントをフリーにするだけで、ファーストジョブを冒険者と探索者で相互に切り替えることが可能となる。
そうだな。冒険者のレベルが上がるまではこの運用でいこう。
よし。こんなもんだな。それじゃあ、ハルバーの迷宮へ戻るか。
二人に声を掛け、ワープゲートを展開する。
十三階層の入口へ移動し、すぐにそのゲートを潜る。
そして、出た先にいる男と目が合った。
念のため、彼に確認しておこう。
「少し尋ねたいのだが、俺たちが入った後にここを出た者はいたか?」
一瞬、不思議そうな表情を浮かべたものの、すぐに答えてくれた。
「はい。クーラタルや人気のある迷宮と比べれば少ないですが、ここはハルツ公爵領にある中で、一番攻略が進んでいる迷宮となっていますので、それなりに人が出入りしています」
セーフ!
シモンを取り逃がした設定となっているんだ。それを聞いたらハルツ公は絶対ここに網を張るだろう。
しかし、奴はすでに死亡しているため、その網に引っかかることはない。
万が一、俺たちが出入りした間に出てきた者がいなかった場合、どうやって逃げおおせたのか疑念を持たれてしまうところだった。
まあ、人が多いわけでもなく、かといってまったく来ないわけでもない、ある程度人の出入りがある迷宮。盗賊が狙うその条件を満たしているんだ。そりゃそうだわな。
安堵を覚えながら会話を続ける。
「そうか。その中に怪しい者はいなかっただろうか?」
「怪しいものですか? そういえば、少し前に剣呑な雰囲気の男たちが迷宮に出入りしているという話を交代の者から聞いていました」
なるほど。おそらくハインツ一味はここに詰めている探索者たちに把握されていたのだろう。
原作でもミチオがインテリジェンスカードを提出に行った前日、騎士団は遮蔽セメントが塗られていた場所を発見していた。
その情報を聞いて十二階層の捜索を行なっていたのかもしれない。
俺の質問に疑問を覚えたのか男が問いかけてくる。
「あの、何かあったのですか?」
「うむ。おそらく盗賊だろうが、十二階層で襲われてな。返り討ちにしたのだが一人取り逃がしてしまった。襲われてから時間が経っているため、既にここを出たのかもしれん」
「盗賊ですか!」
それを聞き一瞬にして彼の顔色が変わった。
「ですが、一人で出てきた者はいませんでしたが……」
「いや、他にも仲間がいた可能性も考えられるため、一人で出たとは限らない」
「そうなのですか……」
考え込んでいる彼へさらに続ける。
「しかし、まだ出てきていなかったとしても、何も気が付いていないフリをした方がいいぞ。一人で取り押さえようとしたところで反対にやられてしまうだろうからな」
「は、はい。分かりました」
男は青ざめた顔でコクコク頷く。
脅かしてごめん! でも、絶対にハインツ一味に襲われることはないから!
それに、すぐに公爵家の騎士団が出張ってくるだろうし、そのうちシモンのインテリジェンスカードも提出するから勘弁して!
罪悪感を覚えながらその場を後にした。
買い物を済ませて自宅へ戻り、アイテムボックスから赤身を取り出して彼女たちへ渡す。
「インテリジェンスカードを回収したらボーデの宮城へ行ってくるから、朝食はお願いね」
「かしこまりました。ご主人様、いってらっしゃいませ」
ロクサーヌがそう言うと二人で頭を下げた。
いつ見てもこの仕草にはグッとくるなぁ。
二人に見送られながら二階に上がり自室に入る。
えーっと、今回は十二枚の方だよな。
引き出しからタオルに包まれたインテリジェンスカードを取り出し、それをデスクの上に置き、タオルを外して枚数を確認する。
うん。十二枚。
絶対に取り違えるわけにはいかないため、念のため指差し呼称だ。
左手を腰に当て、右手でインテリジェンスカードを指差し、その手を耳元へ持ってくる。
そして、再度指差しながら声を出した。
「ヨシ!」
確認が済んだところでリュックにしまい込む。
それじゃあ、ボーデへ行こう。
ワープゲートから抜け出すと馴染みの男と目が合った。
「アユム殿ではありませんか。本日はどうなさいましたか?」
「うむ。急いでお知らせしたいことがあるのだが、公爵閣下とゴスラー殿はいらっしゃるだろうか」
俺の言葉を聞き、彼の表情が引き締まる。
「急ぎの用件ですか? 確認してまいりますので少々お待ちください」
彼は他の者に一言告げて廊下を歩いていった。
全然関係ないが、顔パスになったせいでワッペンを見せることがなくなったなぁ。
他の騎士と雑談をしながら待っていると、程なくして男が戻ってくる。
「お会いになるそうです。そのまま閣下の執務室へお進みください」
感謝を告げてその場を後にした。
執務室に入り、勧められてソファーへ腰を下ろすと、彼らも向かいに座る。
そして、挨拶もそこそこにハルツ公が問いかけてきた。
「して、急ぎ知らせなければならないこととは何だ」
さすがせっかちさん。話が早い。
「本日の早朝、私たちのパーティーはハルバーの迷宮十二階層へ入っていました」
それを聞いた公爵の表情が緩む。
「ほう。我が公爵領の迷宮へ入っておるのか。その方に感謝を」
「騎士だけでは到底手が足りません。アユム殿、ありがとうございます」
「微力ながら、お役に立てているのであれば何よりです」
感謝の言葉に謙遜を返し、本題を口にする。
「そして、そこで十人以上の盗賊に襲われたのです」
それを聞いた瞬間、二人の表情が鋭く引き締まった。
「まことか? それでどうなった?」
「返り討ちにしましたが、一人取り逃がしてしまいました」
すると、顔を見合わせあって言葉を交わす。
「どう思う?」
「おそらくその可能性が高いかと」
そして、頷き合いこちらへ顔を向けた。
「実は少し前に、セルマー伯の領地で暴れまわっていた兇賊ハインツを頭目とする一味が、我が領内に入り込んでいるという噂を耳にしていたのです。そして、実際に奴らによるものと思しい被害が出ております」
「兇賊ハインツですか?」
ゴスラーの言葉に相槌を打つ。
「はい。一味の者は全員、善良な民を傷つけることに対して何も思わないような者ばかり。セルマー伯の領地で好き放題に暴れまわっていたのだそうです」
「さらに彼奴等は領民だけではなく、セルマー伯の城までをも襲い、多数の騎士を殺傷した上で貴重な装備品を盗み出したようだ」
決意の指輪のことだな。
「兇賊ハインツもかなりやるようですが、狂犬の異名を持つ狼人族のシモンは恐ろしいほどの腕を持つらしく、セルマー伯の騎士団にいた何人もの手練れが、ほとんどシモン一人にやられたのだとか」
きた! こっから話を上手く持っていかなければ!
考え込む仕草をしながら呟きを漏らす。
「狼人族ですか……」
頼む! 食いついてくれ!
すると、公爵が問いかけてきた。
「アユム殿、何か心当たりがあるのか?」
フィーッシュ!
「先ほど申し上げた取り逃した者なのですが、仲間を盾にすることで私たちに一瞬の隙を作り出し逃走していきました。そして、その男は狼人族だったのです」
「それはまことか!」
すんません。まことじゃないっす。
でも、もう始末してあるから領内に被害は出ないってことで勘弁してつかーさい。
それに、バラダム家との決闘が終わったら、ちゃんとインテリジェンスカードの提出をしますから。絶対ですから。
「閣下、まだハインツ一味と決まったわけではありません。先に確認を行いましょう」
公爵は彼の言葉に声を漏らした。
「であるか……」
すんません。決まってるっす。確実っす。
そして、ゴスラーはこちらへ顔を向けて尋ねた。
「アユム殿、盗賊共のインテリジェンスカードはお持ちですか?」
「はい。もちろん持ってきております」
俺の言葉に彼らは頷き合っている。
「では、確認を行いますのでギルド神殿へ移動しましょう」
「分かりました」
返事をして二人と共にソファーから立ち上がり、部屋を後にした。
廊下を歩きながら、ふと気が付く。
そういや、断りを入れておかないといけないことがあったな。
「公爵閣下、他にもお伝えしておかなければならないことがございました」
彼はこちらに顔を向け問いかける。
「ふむ。申してみよ」
「はい。以前ゴスラー殿にご助言いただきました通り、ペルマスクでコハクの装飾品を販売しておりました。しかし、鏡の購入がなくなるため、今後は難しくなる旨を伝えたところ、取引を行なっていた人物から、知人に声を掛けるので最後の機会を設けてもらえないかと依頼されてしまったのです。公爵家の新規事業と競合してしまいますが、これを引き受けてもよろしいでしょうか?」
閣下、ここはひとつ広い心で、何卒、何卒!
ハルツ公は顎に手を当て、少し考えてから口を開いた。
「コハクの商いはこれで終いなのであろう?」
「はい。ペルマスクへ行く機会もなくなりますので当然そのつもりです」
俺の言葉を聞いて公爵がゴスラーの方を見ると、彼は笑みを浮かべながら頷く。
「ならば問題あるまい。最後の機会なのだ、大いに励むがよい」
イェアー! さすが公爵! 話が分かるー!
よっ! 大将! 男前!
「ありがとうございます。閣下のご慈悲に感謝申し上げます」
すると、彼は笑みを浮かべながら鷹揚に頷いていた。
よしよし。コハクの販売や懸賞金、そして何よりルティナについても順調に進んでいる。
オッケー、オッケー。
田川 歩 男 18歳
冒険者Lv18 英雄Lv43 遊び人Lv39 魔法使いLv49 料理人Lv9
装備 竜燐の靴 身代わりのミサンガ
BP振分 残BP:0
キャラクター再設定:1
フィフスジョブ:15
詠唱省略:3
必要経験値二十分の一:63
鑑定:1
ワープ:1
ジョブ設定:1
MP回復速度十倍:31
所持金:3,972,170ナール
春の57日目