彼らと共にやってきた部屋には白い箱が鎮座し、その傍らには男性騎士がたたずんでいた。
「アユム殿。インテリジェンスカードをお願いします」
ゴスラーに促されリュックからカードを取り出すと、男性騎士がそれを受け取り告げる。
「それでは、左手をお願いします」
「まあ、アユム殿なら確認しなくても問題ないだろうが、規則をおざなりにするわけにはいかん」
ですよねぇ。公爵の馴染みでワッペンを託されているからって、ナシにはなりませんよねぇ。
でもまあ、昨日から俺は冒険者。何の問題もない。こちらを見つめている騎士へ左手を差し出す。
「滔々流るる霊の意思、脈々息づく知の調べ、インテリジェンスカード、オープン」
飛び出したそれを確認してみる。
田川歩 男 18歳 冒険者 自由民
所有奴隷 ロクサーヌ セリー(死後解放) ミリア
よっしゃ! 俺は冒険者! 冒険者田川歩だ!
「はい。問題ありません。それでは、これよりインテリジェンスカードの確認を行います」
公爵と騎士団長に見守られているせいなのだろう。彼は緊張した様子で白い箱の上にインテリジェンスカードを一枚置き、何やら箱を操作する。
すると、カードがひとりでに浮き上がり、バックライトでも搭載されているかのように光を放つ。
騎士はそれをじっと見つめ声を発した。
「エルマー、ジョブは盗賊です」
そして、同じように繰り返していく。
「あっ!」
残り枚数が少なくなったところで男性騎士が声を上げた。
「どうした? 早く読み上げよ」
ハルツ公が促すと慌てて口を開く。
「失礼いたしました。ハインツ、ジョブは兇賊です」
それを聞き、ハルツ公とゴスラーから声が上がった。
「やはりハインツ一味であったか。それにしても一パーティーで、セルマー伯爵領を荒らしまわったあの悪名高い者共を討ち取るとは。さすが余の見込んだ男じゃ」
「はい。シモンの強さが突出していますが、ハインツをはじめ手強い者が多いという話。本当にたいしたものです」
「頼りになる仲間もおりますので」
彼らの言葉にそう答えると、公爵が呟きを漏らす。
「ふむ。確か狼人族とドワーフの娘であったな」
あの野郎……。
俺の雰囲気が変わったのを察したのか、ハルツ公はくつくつと笑い声を漏らす。
「つい先日までは聞いてもおらぬのにベラベラと喋っていた者が、突然口が堅くなりおった。随分太い釘を刺したようだのう」
バレテーラ。デ・トマソ・パンテーラ。
でもまあ、気付かれるわな。キャラクター再設定に関わることを知られるわけにはいかないし、適当なことを言って煙に巻こう。
「情報を握られてしまえば、我々に対しよからぬことをたくらむ輩が対策を講じることも可能となりますので」
「うむ。その考え方は大切だ。迷宮討伐を成し遂げた後、その方の身を守るであろう」
そして、ゴスラーが驚きを隠せていない表情で問いかけてくる。
「三人でハインツ一味を……。オリハルコンの剣を軽々と扱うアユム殿はともかく、お仲間もそんなにお強いのですか?」
ん? あっ。これはチャンスか?
ミチオはイケメンの公爵にパーティーメンバーを取られるのではないかと警戒し、彼女たちのことについては伝えないようにしていた。
しかし、食事に招かれたり、模擬戦をしたり、セルマー伯爵家への襲撃に参加したりして、結局は彼女たちも公爵と顔を合わせることになる。
それに、原作において帝国解放会へ推薦された要素の一つが、ロクサーヌの回避能力だ。
迷宮最上階のボスの攻撃を装備品で受けると破壊されてしまうため、前衛の回避能力が重要となる。
そのため、バラダム家との決闘で彼女の戦闘を見たゴスラーがそれをハルツ公に伝え、興味を持った彼が公爵家騎士団の中で最も腕の立つ聖騎士との模擬戦を仕組み、彼女がその試合に完勝したことで帝国解放会へと推薦されたという流れだ。
それなら、ここでロクサーヌの能力をアピールしていた方がいいだろう。
「狼人族の女性はロクサーヌというのですが、私は彼女が魔法以外の攻撃を食らったところをほとんど見たことがありません。回避能力については世界一だと自信を持って断言できます」
まあ、ロクサーヌは回避能力だけじゃなく、美人で可愛くスタイル抜群でそのうえ性格まで良い、世界一の女性なわけだが。
「ほう? 世界一とな?」
「なんと……」
俺の言葉を聞き、ハルツ公は面白そうな笑みを浮かべ、ゴスラーは絶句していた。
おそらくこれを聞いても彼がロクサーヌのことをよこせと言い出すことはないだろう。
原作でもミチオに対して理不尽な行いをしていなかったし、何より自分自身で確かめたこの男の人となりをすっかり気に入ってしまっている。
もしそれが裏切られ、ロクサーヌを奪おうとした場合には、報復をした上で帝国を捨てて別の国へ行けばいい。
内心でそんなことを考えていると彼らは目配せをして頷き合っていた。
今、フラグが立ちましたな?
きっとゲームなら効果音が鳴っている場面だろう。
インテリジェンスカードの確認が終わるも、シモンの名前が挙がることはない。
その結果にハルツ公とゴスラーの顔が曇る。
いや、あの、すんません。シモンは始末してるんで、今後奴による被害はないっす。ご安心を。
いずれ報告するんで、今は勘弁してつかあさい。
男性騎士がボックスの操作を行なったところ、音を立てて硬貨が出てくる。
そして、彼はそれを巾着袋に詰め、ハルツ公へ手渡した。
「こちらが懸賞金です。ハインツの額だけが突出しているようですが、少額ながら全員に懸賞金がかかっておりました」
公爵はそれを受け取ると重さを確かめている。
「ふむ。白金貨はないのであろう?」
「はい」
「セルマー伯の領地を荒らしまわったにしては、随分少ないのう」
彼の呟きにゴスラーが答えた。
「先頭に立って戦っていたのがシモンで、伯爵家騎士団もほとんどがシモン一人にやられています。懸賞金は奴に集中しているのではないでしょうか?」
「……であるか」
ハルツ公はしばらく考えてから口を開く。
「一人で出来ることなどたかが知れておろう。しかし、対応を取らぬわけにもいくまい。ゴスラー」
「はっ」
「ハルバーの迷宮の入口に騎士を配置せよ。そうだな……。十日ほどでよかろう。それから、手配書を作成せよ」
「かしこまりました。指示を出してまいります」
「うむ。余らは執務室に戻る」
命令を受けたゴスラーが部屋から出て行くと、巾着袋をこちらへよこした。
今すぐ金額を確かめたくなるが、彼らの目の前でそんなことをするわけにもいかず、リュックへしまい込む。
そして、公爵に促され俺たちも部屋を後にする。
執務室に戻ったところでハルツ公が問いかけてきた。
「アユム殿、討伐した者の中に装備品の指輪を身に着けておる者はいなかったか?」
きた! ルティナへ至る最重要フラグ!
「言われてみれば頭目の男、おそらくハインツだったのでしょうが、奴が指輪を装備していました。少々お待ちください」
思い出した振りをしながらアイテムボックスを開き、決意の指輪を取り出す。
「こちらでしょうか」
受け取ったそれを一頻り眺めると、破顔し声を上げた。
「おお! 間違いない。決意の指輪じゃ」
原作とは異なり、俺はキャラクター再設定で出し直しをしていない。そのため、傷の状態もそのままだ。
それで、同一のものだと判断したのだろう。
彼はソファーから立ち上がり、デスクに置いてあるハンドベルを鳴らすと、再びソファーへ腰を下ろす。
そして、すぐに以前も目にした男が入ってくると、公爵はカシアと他にも誰かを呼ぶように告げた。
カシアはともかくもう一人は誰なんだろう? 原作でも出てこなかった名前だったぞ?
男が出て行くとハルツ公はくつくつと笑い声を漏らす。
「これは余がカシアを娶る際に結納の品として先代のセルマー伯へ渡した物でな。どうやら元の持ち主が恋しくなったようだ」
あー。セルマー伯にマウントを取れると思って浮かれてんのね。
公爵閣下。お人が悪うございますぞ。
ですが、ご返却の際にはこの田川も同行させていただきたく。是非に! 是非に!
「アユム殿、これから防具鑑定を行うので、これが決意の指輪であれば買い取らせてはもらえぬか?」
なるほど。もう一人は防具商人だったのか。
「はい。結納の品ともなれば公爵家にとってかけがえのない品となりましょう。もちろんお返しいたします」
「かたじけない。その方の心遣いに感謝を」
俺の返事にハルツ公は謝意を述べた。
雑談をしながら待っていると、部屋にノックの音が響き渡る。
公爵が入室を促すとカシアと侍女が二人。そしてその後ろからゴスラーと知らない男が入ってきた。
カシアは部屋へ来るなり輝くような笑顔をこちらへ向ける。
「アユム様。先日は大変にお世話になりました。楽にとはいきませんが我が公爵家でもペルマスクの鏡を入手できるようになりました。感謝申し上げます」
彼女はそう言うと頭を下げた。
いぇーい! 今日もバッチリ谷間を拝んじまったぞ! ラッキー!
「お役に立てたようで何よりです。今後も何かありましたら、いつでもお声がけください。公爵夫人がお困りの際には、可能な限り協力させていただきます」
「そう言っていただけると本当に心強いです。アユム様、ありがとうございます」
社交辞令だからね? 本気にしないでね?
彼女がソファーに腰を下ろし、侍女たちとゴスラーがその後ろへ控えたところで、ハルツ公は防具商人へ決意の指輪を渡す。
「これの鑑定を頼む」
「かしこまりました」
男はそれを受け取ると詠唱を開始する。
「我は尋ね力を見る、守りの魂立ち出でよ、防具鑑定」
そして、緊張した様子で口を開いた。
「……決意の指輪です」
その言葉にハルツ公が声を漏らす。
「やはりセルマー伯の所から盗み出されたものであったか……」
それを聞き、カシアと侍女の表情が変わる。
しかし、彼女たちを呼びに行ったあの男、今回は話の内容を伝えていないのだろうか?
もしかしたら重要度によって、伝えるか否かの基準があるのかもしれない。
「叔父上の所から? もしや……」
「待つがよい」
彼は防具商人を下がらせてから彼女へ告げる。
「結納の品として余が贈ったものに違いあるまい」
「盗み出されたはずのものがどうしてここに……」
すると、公爵がこちらへ顔を向け、それを見たカシアも同じように目を向けた。
ロクサーヌたちの方が魅力的だという思いはまったく揺らがないが、それにしても本当に美人さんだなぁ。
「今朝のことだ。アユム殿のパーティーがハルバーの迷宮でハインツ一味を討伐しておる。一名逃走した者はおるが全滅と言ってよいだろう」
「まことですか!」
公爵は声を上げたカシアに頷きを返す。
「インテリジェンスカードの確認は済んでおる。間違いない」
それを聞いた彼女は目をつぶり、何やら考え始めた。
そして、しばらくして目を開き、こちらを見つめる。
「セルマー伯爵家はわたくしの実家で、兇賊ハインツの一味には知り合いが何人も殺されているのです。仇をとってくださったこと。感謝の言葉もございません」
あー。セルマー伯の居城は実家だもんなぁ。そこが襲撃されたってんなら、当然知り合いもやられているだろう。
「現伯爵はわたくしの叔父なのですが、盗賊の襲撃により有能な騎士を何人も失い、領内の統治を疎かにするようになってしまいました……」
なるほど……。
原作でルティナもそんなことを言っていたな。
ハルツ公も頷きながら口を開く。
「うむ。あまり上手くいってはいなかったが、以前は能力がないなりに統治に勤しんでいたのだが……」
言うたんなよ。能力がないとか言うたんなよ。
彼らの様子を見つめていると、公爵が一つ息を吐き出した。
「カシア、二日後に予定していたセルマー伯爵領の視察だが、アユム殿も同行してもらおうと思う」
「なるほど。セルマー伯爵領を荒らしまわったハインツ一味を討伐したのです。叔父上からもアユム様に感謝の気持ちを伝えるべきでしょう」
は? 視察って何? 全然聞いてないんですが……。
自分の奥さんの前に、まず俺の許可をとろうよぉ。
すると、彼はこちらに顔を向ける。
「実は二日後にセルマー伯爵領の状況について視察を行う予定でな。よい機会なので、その際にハインツ一味討伐を知らせておこう。その方には迷惑をかけぬゆえ、気楽な気持ちで同行してはもらえぬか?」
いや。これは絶対に必要なことだから行くよ? 行くけどさぁ。
いくら何でも明後日はないでしょうよ。俺に予定があったらどうするつもりだったん?
まあ、明後日はコハクの展示受注会でロクサーヌとセリーが一日中拘束されるため、絨毯や絵画を見に行こうと思っていたくらいだし、全然問題ないけどさ。
しかしそれにしても伯爵領の視察ね……。
もしかしたらハルツ公はその目で領内の状況を確認したことで、セルマー伯の排除を決定したのかもしれない。
明後日が彼やルティナの分水嶺となる……。
……いや、違うか。セルマー伯は統治を放り投げて淫蕩に耽っていたし、ルティナはまったく迷宮へ入っていなかった。
既に死刑執行書にサインをされている状態で、ただ最終確認をされるだけなのだろう……。
伯爵はともかく、親の言うことに従うしかなかった彼女が奴隷に落とされるのだ。やはりその境遇には同情を禁じ得ない。
まあ、それを言い出すと他の娘たちの境遇もだな……。
思索を打ち切り、問いかけに答える。
「分かりました。無作法者ですが、お邪魔でないのでしたらよろしくお願いいたします」
「余が誘っておるのだ。何も問題ない。なに、その方は頭を下げているだけでよい」
ハルツ公に続き、カシアも声を掛けてきた。
「アユム様、セルマー伯爵が感謝の気持ちを伝える機会をいただきありがとうございます」
断言するがセルマー伯は感謝の言葉なんて口にしないぞ。絶対だぞ。
それに、頭を下げているだけで済むなんてこともない。
あと後ろの二人がすげー嫌そうな顔でこちらを見ているんですが……。
「いえ。公爵夫人のご実家となれば、私に否やはございません」
「まあ。重ね重ね、まことにありがとうございます」
そう言ってカシアは再び頭を下げた。
やったー! また見えた!
「それから……」
モノが大きくならないように堪えていると、彼女は頭を上げて口を開く。
「わたくしのことは、どうぞカシアとお呼びください」
彼女がそれを口にした瞬間、背後の侍女たちの表情が一気に変わり、鋭い視線でこちらを睨みつけた。
いやいやいや。いかんでしょ。名前呼びはいかんでしょ。
あなたからは見えないかもしれませんが、私いまとんでもない目で見られていますからね?
ハルツ公の方をうかがうと、にこやかな笑みを浮かべながら頷いた。
「問題あるまい。余のこともブロッケンでよいぞ」
いいわけあるかい。問題しかないわ。
助けを求めるため、今度はゴスラーの方に視線を向ける。
「公の場では困りますが、内輪だけの時にはそれでよいのではないでしょうか。いずれそう呼ぶことになるのでしょうし」
え? いやいや。あんた何言ってんの?
その言葉を聞いて呆気に取られていると、ハルツ公も言葉を続けた。
「気にするでない。ほれ、名前で呼んでみよ」
その隣でカシアも期待したようにこちらを見つめていた。
……まったく、困った夫婦だなぁ。
極力、侍女たちを視線に入れないようにしながら告げる。
「では、カシア様とお呼びいたします。ですが、公爵閣下についてはご容赦ください。いくらなんでも畏れ多いです」
俺の言葉に嬉しそうに笑う公爵夫人と残念そうにしている公爵閣下。
あんたら俺のこと大好きかよ。
ほんと、なんでこんなに好意的なんだ?
ルティナ加入のために色々なことをしたが、こんな対応をされるほどなのか?
全然自覚がないせいで戸惑うんですが……。
その一連のやり取りが終わると、彼は気を取り直して口を開く。
「では、アユム殿に決意の指輪の支払いをせんとな」
そう言ってゴスラーと金額について話し出した。
彼らの話を聞いた感じ、原作通り金貨二十枚になりそうだぞ。
攻撃力上昇のスキルだけだと思っているのなら高すぎるし、攻撃力上昇と対人強化のスキルを把握していたのなら買い叩きすぎだ。
きっと攻撃力上昇のスキルだけを把握していて、感謝の気持ちを上乗せしているのだろうが、うーん……。
二十万ナールで渡すのはやっぱりもったいない気がする。
……よし。駄目で元々だ。いっちょやってみるか。
「そういえばその指輪を装備していたハインツが妙なことを口にしていました」
「妙なことだと?」
俺の言葉に反応し、彼らは一斉にこちらへ顔を向けた。
「はい。アイテムボックスの中身を置いていけば命だけは見逃すと脅されたのですが、そのときその指輪を装備していると、人に対するダメージが増すと言っておりました。なんでも、盗賊稼業をしているうちに気が付いたのだとか」
それを聞いたハルツ公の顔が驚きで染まる。
「これには対人強化のスキルが付いていると申すのか?」
へー。そのスキル自体は知られているわけね。
まあ、俺は知らないってことにしといた方がいいだろう。
「対人強化ですか?」
問いかけてみると、ゴスラーが答えた。
「固定で武器かアクセサリーを賜った際に極めて稀に見られるスキルです。装備すると人に対するダメージが増すのだとか」
その言葉に納得したように振舞う。
「なるほど。そういうスキルがあるのですか……。兇賊であるハインツの言葉を鵜吞みにするわけにはいきませんが、もし付いているとなるとどれほどの価値があるのでしょう……」
言いたいことは分かってるよな? そいつは金貨二十枚で手に入れていい品じゃないぞ? いいな?
「アクセサリーに二つのスキルだと? いや、固定で賜るものならあり得るか……」
公爵が小さく呟き、他の四人はこちらをじっと見つめていた。
そういえば、この世界ではアクセサリーに二つ以上のスキルを付けることができないと思われている。
しかし、今の話を聞くに、固定でなら出る可能性があると知られているようだ。
というかミサンガじゃなく、別のアクセサリーで試せば二つ以上のスキルを付けられる可能性があるんですがねぇ。
まあ、それを言うわけにはいかないんだけどさ。
しばらく考え込んでいたが、彼は大きく息を吐き出した。
「スキルが二つ付いたアクセサリーを金貨二十枚で買い取ったとなれば、余は物笑いの種となろう。とはいえ、二日後にセルマー伯へ返却するため確認する時間も取れぬ。どうしたものか……」
いや。セルマー伯が盗まれたことを知られまいと白を切るせいで、その場で返却することはないんですけどね。
あっ、いや。後ろの侍女たちが二つのスキルが付いていることを知らせた場合、惜しくなって意地を張らず、盗まれたと白状する可能性があるか。
うーん……。まあ、決意の指輪がどちらの手にあったとしても俺には関係ない。
ぶっちゃけどうでもいいしな。
悩んでいる彼の様子を見守っているとカシアが口を開く。
「公爵、確認する方法がないのです。万が一スキルが二つ付いており、それを安く買い叩いたとなれば我が公爵家は信用を失ってしまうでしょう。事ここに至ってはアユム様に報酬をお渡しするほかありません」
「……であるか」
ハルツ公はそう言って、一瞬背後を気にするそぶりを見せる。
当然、彼もその女性たちがセルマー伯に情報を流す可能性を考えていたのだろう。
「アユム殿、何度も同じ報酬で申し訳ないが、武器庫から好きな装備を二つ選ぶということで納得してはもらえぬか?」
マジ!? いいの!? モチのロンでございます!
「アユム様が盗賊を倒して手に入れた貴重な装備品を、無理やり差し出させるような形になってしまい大変心苦しいのですが、どうかご納得いただけないでしょうか?」
公爵に続きカシアもそう言って上目遣いでこちらを見つめる。
あざとい! この人めっちゃあざとい!
でも、すげーグッとくる仕草だぞ。
ロクサーヌやセリーがいなければイチコロだっただろう。
まあ、それはともかく、俺的には願ったり叶ったりだ。
それに、スキルが二つ付いているか不明ということになっているが、確実に付いているわけだし、あちらにしたって損をするわけではない。
両方が得をする素晴らしい取引なんだから拒否する理由がないわな。
しかし、一応社会人として遠慮する姿勢を示しておかなければ。
「いくらそのスキルが付いていた場合でも、武器庫の装備品二つ分ということはないでしょう。それではもらいすぎになってしまいます」
言葉通り受け取らないでね? 提案を引っ込めちゃ、やーよ?
「いや。これには余の領地を救った分も含まれておる。遠慮なく受け取るがよい」
「ありがとうございます。公爵閣下のお気遣いに感謝申し上げます」
そう言うと、公爵夫妻とゴスラーの口から安堵の息が漏れる。
一方、侍女二人は舌打ちをしそうなほど、憎々しげにこちらを睨んでいた。
これは間違いなく、ハルツ公の弱みを握り損ねたと思っているのだろう。
内心で考えていたところ公爵が口を開く。
「かたじけない。その方にはまこと世話になっておるな。ゴスラー」
「はっ」
「アユム殿を武器庫へ案内するのだ」
「かしこまりました」
明後日もこれまでと同じ時間に来るように告げ、公爵夫妻はもう一度感謝を伝えてくれた。
ほんと、この国で上位数人の権力者だとは思えないほど良い人たちだなぁ。
ゴスラーの後に続き廊下を歩きながら考える。
それにしても明後日か。原作よりだいぶ早いぞ。
まあ、重要なのはセルマー伯の居城にある、ハルツ公爵家のエンブレムが入った垂れ幕を目にすることだ。
これを見ておくことでセルマー伯爵討伐の際に声が掛かるはず。日にちのズレは問題ないだろう。
あっ。そういうことか。
思索に耽りながら廊下を歩いていると、あることに気が付いた。
ゴスラーが言っていた、いずれ公爵をブロッケンと呼ぶことになるという言葉。
あれは帝国解放会に所属することになるという意味だったのではないだろうか?
あの会では世俗の身分を問わず、ファーストネームで呼び合っている。
もしかしたら今回の件で推薦にリーチがかかったのかもしれない。
後はロクサーヌの回避能力を見せつければアガリってことだ。
よし。これからも気を抜かないように立ち回ろう。
田川 歩 男 18歳
冒険者Lv18 英雄Lv43 遊び人Lv39 魔法使いLv49 料理人Lv9
装備 竜燐の靴 身代わりのミサンガ
BP振分 残BP:0
キャラクター再設定:1
フィフスジョブ:15
詠唱省略:3
必要経験値二十分の一:63
鑑定:1
ワープ:1
ジョブ設定:1
MP回復速度十倍:31
所持金:4,368,070ナール
春の57日目