異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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018 朝の習慣

 

 

 

 

 

ベイル亭五階

ダブルルーム五一七号室

 

 

 

 

 

 目が覚めるとロクサーヌを抱きしめていた。

 よかった。ちゃんとロクサーヌがいる。

 

「おはようございます。ご主人様」

 

 俺が起きたのに気が付いたのだろう。彼女が挨拶をしてきた。

 

「おはよう、ロクサーヌ。昨日は夜遅くまで動き回ったが疲れは残っていないか?」

「はい。問題ありません。お気遣いありがとうございます」

「よし。じゃあ朝の準備を行おう。今日も忙しない一日になるがよろしく頼むな」

「私の方こそよろしくお願いします」

 

 

 

 各々トイレや歯磨きを済ませ部屋に戻ったところで問いかける。

 

「これからは朝起きて口を磨いた後にキスをしてもいいだろうか。一日の始まりはロクサーヌとのキスで迎えたいのだ」

「はい。お願いしますご主人様」

 

 ロクサーヌを抱きしめ顔を近づけ口づけを交わす。

 少し唇を離して舌で彼女の唇を舐めると対抗するように舌を絡めてきた。

 絡めてきた舌を口の中に迎え入れ思いっきり吸ってみる。

 しばらくお互いの口の中で舌を絡め合った後、どちらからともなく口を離した。

 

「ロクサーヌ、ありがとう。とても気持ち良かった」

「ご主人様、私もとても気持ち良かったです。ありがとうございます」

 

 

 

 他にも朝の準備で重要なものがある。

 これは絶対にお願いしなければ。

 

「ロクサーヌ、すまんが髭剃りを頼めるか? この形状の剃刀を使ったことがなくてな。自分で剃るのが不安なのだ」

「あの、無防備なご主人様の顔に剃刀を当てるなんていいのでしょうか?」

「大丈夫だ。君が俺の命を狙うことは絶対にないとわかっているからな。それにちょっとくらいの傷なら手当てで治るから心配せずにやってくれ」

「私の事を信頼していただきありがとうございます。ご主人様の信頼にお応えできるように頑張りますね」

 

 ベッドへ横になると、彼女はたらいに手を浸けて湿らせ俺のこめかみから頬、顎、口回りをなぞり始めた。

 

「ふふ。ご主人様。ザラザラしていて気持ちいい手触りです」

「すぐにそうなってしまうのだ。俺は髭が濃いことに劣等感があってな。申し訳ないが毎朝の髭剃りをロクサーヌにまかせてもいいか?」

「はい。おまかせください。それにおヒゲが濃いのも男性らしくて私は好きですよ」

 

 そう言うとロクサーヌは笑みを浮かべる。

 もー! どんだけ俺の心を奪うつもりなの!

 これ以上俺の心を盗まんといてー!

 

 

 

 彼女は剃刀をこめかみに当てるとジョリジョリと剃りだした。

 うーん。やはり剃刀の切れ味が悪いのか、それともシェービングフォームを使用していないせいなのか結構痛みがある。

 やはりこの後は手当ての出番だな。

 

 左右のこめかみを剃り終わると一旦手を止めて問いかけてきた。

 

「ご主人様、痛くないですか?」

「ああ。大丈夫だ。多少の痛みはあるが問題ない。俺は女性に髭を剃ってもらうのに憧れがあってな。それが叶い、その上ロクサーヌにしてもらえるなんて本当に感動している」

「嬉しいです。これからは私が毎日おヒゲを剃らせていただきますね」

「本当にありがとう。これからよろしくな」

 

 彼女は俺の言葉に微笑むと髭剃りを再開する。

 頬から顎、そして口周りを剃り終えると再び声をかけてくる。

 

「ご主人様、少しだけ眉毛を整えてもよろしいでしょうか?」

 

 あー……。みっともない眉だったんだろうか?

 今まで安い床屋にしか行ったことがないし眉を整えたことなんてなかった。

 すまない。外見に気を使わない男で本当にすまない。

 

「あ、ああ。ロクサーヌにまかせる」

「はい。おまかせください」

 

 そう言うとロクサーヌは楽しそうに眉を整え始める。

 

 

 

「はい。眉毛も整いました。ご主人様、より一層素敵になりましたよ」

 

 いや、眉毛を整えたところで不細工は不細工だろうに。

 ベッドから起き上がり顎を撫でてみる。

 うん。問題なさそうだな。

 そして、鍵のかかっているクローゼットから鏡を取り出して顔を確認した。

 

 おお。クリクリ天パの陰キャ顔に変わりはないが夏休み明けに自分なりに頑張ってみた高校生って感じだ。

 もし、当時こういう努力をしていれば今とは違った人生だったんだろうか?

 

 ……ん? いやいやいや。

 今とは違う人生だったらここにいないじゃねーか。

 今までの人生で何の問題もない。そうじゃなかったらロクサーヌに会えないところだった。とんだ気の迷いだ。

 

 

 

「ご主人様! とても映りがいい鏡をお持ちなのですね!」

 

 眉の確認をしていると俺の持っていた鏡を見たロクサーヌが興奮している。

 ペルマスクの鏡は高いらしいし映りのいい鏡を使ったことがないのだろう。

 

「これは故郷から持ってきたものだがこれからはロクサーヌも遠慮なく使っていいからな」

「よろしいのですか?」

「ああ。全然問題ない」

「ご主人様、ありがとうございます!」

 

 めっちゃ喜んでいる。もう満面の笑みって感じでニッコニコだ。

 こんなに喜んでくれるのなら、いずれ彼女専用の鏡を用意するか。

 

 

 

 ジョブ設定を開きフォースジョブの魔法使いを僧侶と入れ替え念じる。

 

手当て

 

 うん。剃刀負けの痛みが引いた。

 ……手当て君がまた戦闘とは関係ないところで活躍している。

 でもまあ、うん。戦闘で負傷しないならその方がいいしな。問題ない、問題ない。

 

 

 

 再度フォースジョブを魔法使いに戻したところで声をかける。

 

「この後は朝食を取ったらそのまま騎士団へ行き懸賞金の確認をしよう。その後クーラタルへ移動して家を借りる手続きを行う」

「昨日もおっしゃっていましたがクーラタルで借りるのですか?」

「ああ。常設の商店があり最大規模の迷宮もある。俺たちにとっては住みやすい街のはずだ」

 

 水洗トイレがあって浴室にすることができる部屋がある物件なんて他にはないだろう。

 絶対にあの家を借りてやるぞ!

 

「そうかもしれませんね」

 

 ロクサーヌも納得したように頷いていた。

 

「それから、昨日手に入れた装備品をクーラタルの武器屋と防具屋で売却する。懐も暖かいことだしその際に掘り出し物がないかも確認してみよう」

「迷宮に挑むならより良い装備品を整えるべきですからね。それがよろしいでしょう」

 

 そうだな。金を稼いで良い装備品を手に入れる。そして、それに良いスキルをつける。

 それが迷宮探索に安全をもたらす。絶対に手を抜くわけにはいかない。

 

「その後は商人ギルドへ行き仲買人に会う」

「仲買人ですか?」

「そうだ。仲買人にオークションでスキル結晶の代理購入依頼をする」

「ご主人様は鍛冶師のお知り合いがいるのですか?」

「いや、今現在はいないのだが心当たりはある。これについてはとても長い話になるので家を借りて二人きりになってから説明しよう」

「はい。よろしくお願いします」

 

 家を借りたら何もかも打ち明けよう。

 俺のこと、日本のこと、原作のこと。

 ロクサーヌは俺を受け入れてくれるだろうか……。

 

 ……いかんいかん。今はそんなことを考えている場合じゃない。

 

 

 

 仲買人はルーク一択だ。ハルツ公爵家の覚えもめでたく能力も高そうだった。

 わざわざ妙な冒険をする必要はない。

 そして依頼するのはコボルト、ウサギ、芋虫、ヤギ、はさみ式食虫植物、サンゴ、潅木あたりだな。

 できればどこぞの公女の婚姻で買い漁られる前にコボルトとヤギ、それからはさみ式食虫植物は複数確保しておきたい。

 スキル結晶のドロップ率は狙って獲得できるようなものじゃない。

 話で聞いたソシャゲのSSRの自引きとはわけが違う。

 欲しいスキル結晶は基本オークションとなるはずだ。今のうちから買いを出しておけばどうにかならないだろうか?

 

 

 

「そのあと時間があるようなら、もう一箇所行っておきたいところがある。だがまあ、これは急ぐわけではないのでその時に考えるか。それじゃあ持ち物と装備の確認をしたら朝食をとろう」

「はい。ご主人様」

 

 

 

 洗濯したリュックは生乾きだったがしょうがない。

 これに日本から持ち込んだ絶対に失うわけにはいかない物。それから銀貨、銅貨それぞれが入った巾着袋と赤魔結晶を入れる。

 そして、防具を身につけシミターをベルトに差した。

 ロクサーヌの方を見ると準備万端で俺を見つめている。

 

「それじゃあ朝食にするか」

「はい」

 

 

 

 

 

ベイル

ベイル亭

 

 

 

 

 

「おう。おはようさん。昨日はよく眠れたか?」

「ああ。おはよう。おかげさまでな。いい部屋だったからゆっくり休めた」

「そうか。昨日の晩はスラムで物騒なことがあったようだからな。あの辺に行くつもりなら気を付けた方がいいぞ」

 

 おおぅ。もしかしてあれですか? スラムの通りで六名。あるグループのアジトで五人の盗賊が亡くなっていたという事件ですか?

 え? 昨日の晩は何をしていたかですか? 私は部屋でこの娘と一緒に過ごしていました。

 遮蔽セメントが使われた部屋の中から私たちが出て行くところを見た人はいないはずです。ちゃんとアリバイがあるのです。

 

「なにかあったのか?」

「ああ。少し前にこの町のスラムに巣食う盗賊のグループに代替わりがあってな。それで跡目争いが起こっていたんだが有力だった派閥を複数の派閥が協力して追い出し、そいつらがグループを掌握してすべての派閥の娼館をそのまま傘下に収めた」

「ほう」

 

 その追い出されたというのがソマーラの村で殺った奴らだな。

 そして、昨日手に入れた金は娼館からのアガリだったわけか。

 

「だが、敵対している他のグループがその跡目を継いだ奴らを潰そうと狙っていたんだ。そして、昨日ついに実力行使に出た」

「そうなのか?」

「ああ。スラムの通りで襲い掛かったようなんだが数人倒したところであえなく返り討ちにあっちまった。だが、やられっぱなしじゃメンツにかかわるからな。今度はアジトを襲撃して幹部とその情婦を討ち取ったらしい」

「そんなことが起きていたのか」

「まあ、この宿には影響はないから心配はいらない。でも、しばらくはスラムに近づかない方がいいだろうな」

「分かった。忠告ありがとうな」

 

 うん。まあ、当然だけど全然疑われてない。そりゃそうだわ。

 しかし、ここまで話が広がっていると懸賞金の受け取りにリスクが発生するか?

 昨日殺られた盗賊のインテリジェンスカードを騎士団に持ち込む奴がいないか監視している可能性があるだろう。

 

 持ち込む前に騎士団周辺にいる人を鑑定して盗賊がいないか確認する必要があるな。

 盗賊がいるようなら持ち込みは別の日に行おう。

 

「朝食を食べたらそのまま出るから鍵を渡しておくな」

「おう。預かっておくよ」

 

 旅亭の男と話し終えるとロクサーヌに声をかける。

 

「それじゃあ食事に行こう」

「はい。ご主人様」

 

 

 

 朝食メニューは二つだけでパンとハム、それからチーズとサラダ。もう一つはパンがオートミールに替わるだけだ。

 パンとオートミールならパンだな。

 

「俺はこのパンの方にするがロクサーヌはどうする?」

「私もご主人様と同じものでお願いします」

 

 給仕をしている女性に注文して席に座るとやはり昨日の夕食と同じようにすぐに持ってきた。

 一日二食のせいもあってか運ばれてきた物は朝食にしては結構なボリュームだ。

 この食習慣はどうにも体に馴染まない。家を借りたら三食に戻すか。

 ロクサーヌたちには悪いがそっちの方に慣れてもらおう。

 

 食べ終えるとそのまま宿を出て騎士団へ向かう。

 

 

 

 

 

ベイル

騎士団詰め所

 

 

 

 

 

 騎士団の詰め所の近くまでくるとあたりの人に片っ端から鑑定をかけていく。

 しばらく続けるが鑑定に盗賊が引っかかることはなく見張りはないものと思われる。

 ミチオが懸賞金を受け取ったときも散々心配したが結局取り越し苦労だったのだ、俺の場合だってそうなのかもしれない。

 だが、ミチオとは決定的に違うところがある。

 俺は敵対グループのやつも殺ってしまっているのだ。そちらから狙われる可能性が捨てきれない。

 

 先ほど旅亭の男に聞いた話だが、そいつらは自分たちが敵対グループの幹部を始末していないことはわかっているのだ。別口がいることを確信しているだろう。

 その別口が自分たちの仲間を殺ったことにも気が付いているはず。

 あとはそのグループの中で俺が始末した奴らの立ち位置がどんなものかによるか。

 主流派だったのか非主流派だったのか。上役だったのか下っ端だったのか。慕われていたのか疎まれていたのか。

 

 ……まあ、いろいろ考えられるがだからといってインテリジェンスカードを提出しないという選択はありえない。

 俺たちを探る盗賊が現れたらそいつを片付けるか。

 いや、なんならアジトを突き止めておかわりをいただくのもありだ。

 金を稼ぐのもありだし、取り越し苦労なら万々歳だ。

 両方メリットがあると思ってポジティブにいこう。

 

 悩んでいてもしかたがないからな。さっさと済ますか。

 

「ロクサーヌ、今からインテリジェンスカードの懸賞金を確認に行くが、俺たちの様子をうかがっていたり不審な動きをするものがいないか確認していてくれないか?」

「はい。おまかせくださいご主人様」

 

 俺たちは詰め所の入口へ向かい歩き出した。

 

 

 

 お。昨日対応した騎士の男だ! ついてる!

 あの男だと話が早いだろう。そのまま確認してもらおう。

 

「よう。昨日は世話になったな」

「え? ああ。昨日の方ですね。おはようございます」

「おはようさん」

 

 こいつ、俺の顔よりロクサーヌの方をチラチラ見てるじゃねーか。

 もしかしたら俺の印象なんて吹っ飛んでいるかもしれないな。

 しかし、女性の胸をそんな風に見るなんて騎士の風上にも置けないやつだ。

 

 よし。この状況を利用して相手に考える隙を与えず一気に押し切ってやる。

 

「昨夜、彼女を連れて歩いていたせいか風体の悪い輩に絡まれてな。脅し文句を聞くにどうも盗賊のようだったのだ」

「なるほど」

「襲い掛かられたのでその場で始末したんだがインテリジェンスカードの確認をしてもらえるか?」

 

 男の前に十一枚のインテリジェンスカードを差し出す。

 どうだ? いけるか? 頼むぞ?

 

「はい。一応規則ですのであなたのインテリジェンスカードを確認させていただけますか?」

 

 おっしゃ! 通った!

 

「うむ。頼む」

 

 騎士の前に左手を向けるとインテリジェンスカードを出して確認する。それが済むとそのまま詰め所の中へ入っていった。

 

 

 

 念のためあたりを見回し鑑定をするがやはり盗賊はヒットしない。

 

「ロクサーヌ、どうだ? 不審なやつはいるか?」

「いえ。今のところ同じ場所に留まっているような人はいないので問題ないと思います」

 

 彼女の鼻にも引っかからないとなると取り越し苦労ってことでいいか。

 

「ふぅ」

 

 思わず息を漏らしてしまった。

 どんなにポジティブでいようとしても根が小心者。

 人に命を狙われている可能性があったんだ、そりゃビビりもする。

 

 

 

 そうこうしているうちに巾着袋を持って男が戻ってくる。

 

「確認いたしました。全て盗賊で間違いありません。そのうち四人に懸賞金がかかっておりました」

 

 そう言ってそれを差しだしてくる。

 うっしゃ! 漁夫の利を狙って正解だった!

 巾着袋を受け取り逸る心を抑えながら平静を装いその場から立ち去る。

 

 

 

 歩きながらロクサーヌに顔を寄せて囁く。

 

「一旦宿に戻ろう。懸賞金の確認とジョブの変更を行う」

「はい」

 

 

 

 

 

ベイル亭五階

ダブルルーム五一七号室

 

 

 

 

 部屋に戻りさっそく金額を確認する。

 

 

 

 やっば! 金貨が十三枚に銀貨が三十一枚!

 十三万三千百ナール!

 リスクを取って盗賊狩りをした甲斐があった!

 

 よし。これで資金にはかなり余裕ができた。

 セリーの購入費用で多めに見積もって二十万ナールを確保しておく。それに、家賃と家具類、それから日用品とある程度の生活費を引いても、かなりの額を装備品とスキル結晶につぎ込める。

 

 

 

 よし。とにかく落ち着いてジョブの変更をしよう。

 アイテムボックスの中身を全て取り出し探索者をファーストジョブに、続けて魔法使いをサード、戦士をフォースへと変更する。

 キャラクター再設定を開きフィフスジョブをチェックしてそこに僧侶を設定する。

 ボーナスポイントの残りは63。今日はワープを多用するだろう。MP回復速度二十倍に振っておこう。

 取り出したものをアイテムボックスへ戻し準備完了。

 

 それじゃあクーラタルに出発だ!

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

探索者Lv18 英雄Lv16 魔法使いLv19 戦士Lv13 僧侶Lv6

装備 シミター 皮の帽子 皮の鎧 皮のグローブ 皮の靴

 

BP振分 残BP:0

キャラクター再設定:1

フィフスジョブ:15

鑑定:1

必要経験値十分の一:31

詠唱省略:3

ワープ:1

ジョブ設定:1

MP回復速度二十倍:63

 

所持金:475,156ナール

 

春の3日目

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